DUGA

ミラクルナイト☆第222話

商店街・グフグフハンバーガー

放課後の水都商店街。にぎやかな店内の片隅で、三人は大きなポテトを分け合っていた。
水色のセーラー服——水都女学院の制服を着た奈理子は、紙コップのソーダをストローでくるくる回しながら、少し困ったような笑みを浮かべていた。

「凜さん、本当にごめんなさい……!」

奈理子は椅子から身を乗り出して、思わず頭を下げる。

「私、凜さんのことオバサンだなんて、思ったこと一度もないのに……!」

「もう、いいってば〜」

仕事を終えてスウェット姿の凜は、笑いながら奈理子の頭を軽く小突いた。

「あれは偽物の行為よ。あなたが直接人を傷つけたわけじゃない。 ほら、奈理子。泣き顔は可愛いけど、ファンに見られたら台無しだよ?」

「凜さん……ありがとう。私、信じてくれる人がいるって本当に救われます。凜さんは、いつでも余裕があるんだからぁ……」

奈理子は唇を尖らせて頬をふくらませる。その姿に凜が吹き出した。

「はぁ〜、青春だねぇ。16歳って可愛いなぁ」

「凜さんだってまだ23歳でしょ! 社会人1年生、若いじゃないですか!」

「おだててもハンバーガーはおごらないよ?」

二人のやりとりを、向かいの席で見ていた寧々はストローを咥えたまま、静かにため息をついた。寧々は紺色のセーラー服——水都中学校の制服姿だ。

「……二人とも、本当に仲がいいですね」

「え? 寧々ちゃんも混ざりなよ〜!」

奈理子が笑顔で手を伸ばす。

「混ざるというか、私は……」

寧々は真面目な表情でメモ帳を取り出した。

「次の戦いの反省点、まとめておかないと忘れちゃいますから」

「もう〜! 戦いのことはその時考えようよ〜」

凜が笑う。

「凜さんは現場でいつも考えすぎるから、結局動きが遅くなるんですよ」

「ぐっ……! 寧々の正論が痛い!」

「奈理子さん、偽物の件はこれで終わりじゃありませんよ。次は操られないように気をつけてくださいね」

「はい……」

奈理子は答えながら、ふっと目を細めた。

「でも、こうして三人で笑っていられるの、なんだか久しぶりね」

「うん……」

凜が頷く。

「凜さんと寧々ちゃんがいると、怖いものなんて無い気がするの」

寧々はわずかに頬を赤らめたが、あえてそっけなく言った。

「そんなこと言ってると、またライム先輩にヤキモチ焼かれますよ」

「え!? ライムそんなこと言ってた!? それより、寧々ちゃん、ライムを“ライム先輩”って呼んでるの?」

奈理子がからかうように笑うと、凜もつられて笑い出した。

「同じ中学の先輩ですから!それだけです!」

頬を膨らませる寧々。

「ふふ、いいチームじゃない。可愛いヒロインと真面目な参謀と頼れるお姉さん」

「頼れるっていうか、ちょっとお節介ですけどね」

寧々が小声で呟く。

「ん? 今何か言った〜?」

「いえ、なんでもありませんっ!」

笑い声が弾けるグフグフハンバーガーのテーブル。
三人の距離は、歳の差を超えてどこまでも近く――
そして、次の戦いに向けた絆は確かに強くなっていた。


翌日の放課後・帰宅途中の奈理子

オレンジ色の夕陽が奈理子の頬を淡く染めていた。
制服のまま歩く奈理子の背中に、ひそひそと声が飛ぶ。

この間のミラクルナイト、またスカートめくられてたよね」
「あれは、ブラックナイトだったでしょ?」
「もう、どれが本物か分からないよね」
「動画、見た? あの笑い方、ちょっと怖かった……」

奈理子は何も言い返せなかった。

「……違うのに。」

誰にも届かない小さな声が、風に紛れて消える。

先日の出来事――偽物のミラクルナイトが市民を混乱させ、セイクリッドウインドとも争った。
その映像はSNSで拡散され、“ミラクルナイト=奈理子”の評判は地に落ちていた。

学校を出てからも、街の空気は冷たい。
制服姿のまま通りを歩く奈理子に、商店街の人々が複雑な表情を向ける。

「……奈理子ちゃん、昨日は大変だったね」

笑顔を作ろうとする八百屋の奥さんの声も、どこか探るようだった。
奈理子は無理に笑って

「ありがとうございます」

と頭を下げる。

(私は何もしてないのに……でも、私のせいで……みんなが困ってる……)

足は自然と、水都公園の方へ向かっていた。
そこは“もう一人の自分”が最初に目撃された場所。
噴水の水面が夕陽を反射して黄金色に光る中、奈理子はスカートの裾を押さえ、立ち止まった。

「ねえ……どこにいるの、もう一人の私……?」

声は震えていた。
その時、遠くのビルの屋上に、微かな水色の光が揺れた。
奈理子ははっと息を呑む。

「……いた。」

ショッピング通りを抜け、奈理子は全力で駆け出した。
街のざわめきが背後に遠ざかっていく。

「私のせいで、凜さんや寧々ちゃんが傷つくなら……もう、逃げない。」

胸に手を当てた。
手にはアイマスク――“水都の奇跡”が輝いている。

「お願い……今度こそ、真実を取り戻させて。」

淡い光が奈理子を包み、制服姿の少女は水色の輝きとともに“ミラクルナイト”へと変わった。
放課後の街角に、白と水色の戦士が舞い降りる。

夕陽を背に、ミラクルナイトは拳を握った。
遠くの屋上に見えるのは、自分と同じ姿。
それが偽物か、影か、確かめるまでは引き返さない。

「……待ってて。私が、あなたの正体を見つけるから。」


ビルの屋上 もう一人のミラクルナイト

街の灯がともり始めたころ、奈理子=ミラクルナイトは、
水都駅前のショッピングモール屋上にたどり着いた。

風がビルの縁をかすめる。
その向こう――フェンスの上に、もう一人の“ミラクルナイト”が立っていた。

白いスカートを夕陽に揺らし、静かに笑っている。
奈理子と瓜二つの顔。
だが、瞳の奥には冷たい光が宿っていた。

「……あなたが、私の偽物ね?」

ミラクルナイトの声は震えていたが、視線は逸らさなかった。

「偽物? それはあなたの方じゃない?」

もう一人のミラクルナイト――ニセミラクルナイトは、
同じ声、同じ仕草でミラクルナイトに語りかけた。

「市民は皆、私を信じてるわ。
 あなたが“凜さんを裏切った悪いミラクルナイト”だって噂も、もう広まってる。」

「そんな……私は、そんなこと……」

ミラクルナイトが言いかけた瞬間、ニセミラクルナイトが軽く指を弾いた。

風が流れ、奈理子の髪が揺れる。
その仕草さえも、まるで鏡を見ているように同じだった。

「似てるでしょう? 声も、笑い方も、戦い方も、全部あなたのコピー。」

「……じゃあ、どうしてそんなことをするの?」

「簡単なことよ。あなたよりも、私の方が“完璧なミラクルナイト”だから。」

冷たい声。
そして、フェンスの上から軽やかに跳び降りると、
ニセミラクルナイトは地面に音もなく着地した。

「この街に必要なのは、迷って泣く守護神じゃない。
 強くて、美しくて、誰からも愛される“新しいミラクルナイト”よ。」

奈理子の胸が痛んだ。

(迷って泣く守護神……それって、私のこと。)

「あなたが消えれば、もう誰も疑わない。
 私が本物の“奇跡”になる。」

ニセミラクルナイトの掌が淡く光り、水色のオーラが集まり始めた。
ミラクルシャインブラストの構え。
それは、奈理子が幾度となく使ってきた“自分の技”だった。

「そんな勝手なこと、させない!」

ミラクルナイトも構える。
ビルの屋上、二人のミラクルナイトが向かい合い、風が吹き抜ける。
夕暮れの光が水都を赤く染め、街のざわめきが遠くに聞こえた。

光が弾けた。
「ミラクル・シャインブラスト!!」
二つの同じ技がぶつかり合い、ビルの屋上に白い閃光が爆ぜる。

金属フェンスがきしみ、アスファルトが割れ、
ビルの上を覆う光の奔流の中、二人の姿が交錯した。

「本物なら……証明してみせて!」

「あなたが偽物なら……止めてみせる!」

夜が迫る水都。
二人の“ミラクルナイト”の戦いが、いま始まった。


双子の奇跡 ― 噴水広場の空

轟音とともに、光の帯が夜の空を切り裂いた。
屋上から噴水広場へ落下する二人のミラクルナイト。
着地と同時に、足元のタイルが砕け、水しぶきが弾け飛ぶ。

その様子を見上げた市民が叫んだ。

「見ろよ、ミラクルナイトが二人いるぞ!」
「どっちも可愛い! いや、どっちも本物でいいじゃないか!」

スマホを構える人々。
歓声とシャッター音が、まるで花火大会のように噴水広場を包み込んだ。

「えい!」
「えい!」

二人の声が重なり、同じ軌道でお得意のハイキックがぶつかり合う。
その衝撃でスカートがふわりと舞い、純白のショーツが夜風に閃いた。

「きゃーっ! ミラクルナイトの太ももが尊い!」
「偽物でもいい! 可愛ければ正義だー!」
パンチラでも世界を救える!」

市民は戦いの深刻さなど理解していなかった。
ただ“美少女ヒロインが戦っている”という事実に酔いしれていた。

だが、奈理子の胸の中は静かに凍りついていた。

(私と同じ姿……同じ声……同じ技……これが……私の偽物……?)

拳を交えるたびに、自分の癖が返ってくる。
一撃、一歩、すべてが“自分自身の戦い方”。
ニセミラクルナイトは迷いがなく、鋭く、速い。

「どうしたの? 避けてばかりじゃ守護神は務まらないわよ」

ニセミラクルナイトの笑みは冷たい。
まるで、鏡の中のもう一人の奈理子が、弱さを嘲笑うようだった。

奈理子は必死に応じる。
だが、心が追いつかない。

(これは誰なの? 私? それとも……)

「おい! 偽でも本物でもいいから頑張れミラクルナイトー!」
「こっちの奈理子ちゃんの方が笑顔が眩しい!」
「いや、あっちの奈理子ちゃんのキックがエグい!」

市民の歓声が交錯する中、二人のミラクルナイトは互いの腕を掴み合い、
膝で牽制し、回転しながら再び距離を取る。

「……あなたは人の前に出るべきじゃない。
 守るべきものを笑うような“強さ”なんて、本物じゃない!」

「それでも、人々が求めているのは“私”よ!」

言葉とともに、ニセミラクルナイトの拳がミラクルナイトの腹部に突き刺さる。
ミラクルナイトの身体が弾かれ、噴水の縁に叩きつけられた。

「うっ……!」

痛みが走る。だが、それ以上に胸を締め付けたのは――
“市民の歓声が、偽物に向けられている”という現実だった。

「……みんな……私を……信じて……」

濡れた頬に噴水の飛沫がかかる。
ニセミラクルナイトが一歩、また一歩と近づく。
その笑みは、勝者のものだった。

「可愛いだけのヒロインは、もう要らないの。」

ミラクルナイトの拳が震える。

(私は――本物を証明しなきゃいけない。)

だが、その目に映るのはもう一人の“完璧な自分”。
どちらが本物か、見分けられないほどに。

噴水広場の上空、白と水色の光が再び交差した。
歓声と悲鳴が同時に響く中、奈理子の心の奥で、何かが静かに崩れ落ちていく――。


夕暮れの噴水広場 沈む光、沈む心

夕陽が噴水の水面に反射し、オレンジと水色の光が入り混じる。
放課後の街はまだ人の流れが絶えず、カフェテラスの客や学生たちが次々とスマホを掲げていた。

「うわっ、やば! どっちも本物のミラクルナイトに見える!」
「やっぱこっちの奈理子ちゃんだろ、目ヂカラが違うって!」
「違う違う、こっちの奈理子ちゃんの太腿の角度が神!」

ざわめき、歓声、そして笑い声。
市民にとっては、正義と悪の戦いですらエンタメでしかなかった。

だが――奈理子の胸の中は、まるで冷たい水の底に沈んだように静まり返っていた。

(私は……誰を守っているの? 私を信じてくれたみんなが、もう私を見ていない……)

「集中しなさい、奈理子。戦いはまだ終わってない。」

ニセミラクルナイトが微笑む。
その声は優しく、けれど氷のように冷たい。

ミラクルナイトは唇を噛み、ミラクルウイングを広げた。

「……あなたは誰? どうして私の姿をしているの?」

「どうして? そんなの簡単よ。」

ニセミラクルナイトは指先を掲げ、白い羽を模した光を放つ。

「“人々が信じる方”が本物。あなたが疑われた瞬間から、
 本物のミラクルナイトは“私”になったの。」

その言葉が胸を突き刺す。
ミラクルナイトは拳を強く握る――しかし、踏み込んだ一歩を、迷いが止めた。

(この子を傷つけたくない……だって、私にそっくりなんだもん……)

その一瞬の躊躇を、ニセミラクルナイトは見逃さなかった。

「甘いわね。」

ニセミラクルナイトは、ミラクルナイトのスカートを素早く剥ぎ取り……
ドンッ――胸元に強烈な蹴りが入り、ミラクルナイトの身体が宙を舞う。

「きゃあっ!」

噴水の縁に叩きつけられ、ミラクルナイトの意識が一瞬飛ぶ。
光の粒が散り、ミラクルナイトの体がカラカラと地面を転がった。

「奈理子ちゃーん!!」
「また脱がされたー!!」
「がんばれー!!」

どちらへの声援なのか分からない。

「あっちの方が本物っぽいぞ!!」
「弱い方が本物だろ!!」
「違う!本物が偽物をやっつけたんだ!!」

人々の言葉が渦のように響き、ミラクルナイトの耳に突き刺さる。

「立ちなさいよ、ミラクルナイト。」

ニセミラクルナイトが見下ろす。
その瞳には、わずかな“哀れみ”すら宿っていた。

「あなたは優しすぎる。
 優しさはこの街では弱さ。
 だから、あなたはもう“水都の守護神”じゃない。」

夕陽の光が沈み、街灯が一つ、また一つと灯る。
薄暗くなった空の下で、奈理子はゆっくりと膝をつく。

「……優しさが……弱さ……?」

震える声でつぶやくミラクルナイト。
視界の端に、自分を笑うかのように立つ“もう一人のミラクルナイト”が映る。
スカートを脱がされた惨めな姿の自分とは違い、噴水の光が反射したその姿は、まるで幻のように美しかった。

「この街の人は、もうあなたを信じない。
 次に会う時は――私が“本物”になっているわ。」

そう言い残し、ニセミラクルナイトは静かに背を向けた。
足元に魔法陣が展開し、光が彼女の身体を包み込む。

ミラクルナイトはその背中を、ただ見つめるしかなかった。

「待って……! 私は……まだ……」

手を伸ばすミラクルナイトの指先が、光の中で空を切る。
魔法陣が消え、偽りの守護神は夕暮れの街から姿を消した。

残されたのは、傷だらけで膝をついたミラクルナイトと、
その姿を“別の奈理子”と信じ込む市民たちのざわめきだけだった。

「……私は……本物なのに……」

沈む夕陽が最後の光を落とし、奈理子の涙を照らしていた。


黄昏の裏通り 傷ついた羽

人々の歓声が遠ざかり、街のざわめきが夜の闇に吸い込まれていく。
ミラクルナイトは、ふらつく足取りでビルの影に身を寄せた。
変身が解け、光が散り――水色のセーラー服の少女、野宮奈理子の姿に戻る。

肩で息をして、壁に背中を預ける。
夕陽はすでに沈み、ネオンの光が彼女の頬を照らしていた。

(痛い……体も、心も……あの子は……私そっくりだった……)

自分の声で、自分を否定された気がした。
泣きたいのに、涙が出ない。
ただ、街の喧噪がやけに遠く感じられた。

「奈理子!」

風の音を切り裂く声。
振り返ると、巫女装束の上からジャケットを羽織った凜が駆け寄ってきた。
そのすぐ後ろには、寧々。

「無事、奈理子!?」

「奈理子さん!」

「……凜さん、寧々ちゃん……」

奈理子の声は震えていた。
二人の姿を見た途端、張り詰めていた糸が切れたように、身体から力が抜ける。

「もう大丈夫よ」

凜が抱きとめる。温かい。けれど、奈理子はその胸に顔をうずめられなかった。

「……偽物の私が、街で……あんなにたくさんの人の前で……」

「見たわ」

凜は頷いた。

「でも、あれは奈理子じゃない。あなたは何も悪くない」

「そうです。偽物は私たちが倒します。奈理子さんは休んでください」

寧々の言葉は冷静だったが、その瞳には確かな優しさが宿っていた。

「……でも、あの子……私と同じ力を使ったの。
 私の“ミラクル・シャインブラスト”を……」

「力なんか関係ないわよ。シャインブラストはブラックナイトも使える」

凜は静かに奈理子の肩を抱く。

「大事なのは“心”。あの子の中に、奈理子の心はなかった。」

奈理子は小さく息を呑んだ。

(心……)

寧々がそっと手を差し出す。

「奈理子さん、行きましょう。街はもう騒ぎが収まりました。
 私たちの場所に戻って、また作戦を立てましょう」

「……うん」

奈理子は頷き、二人と並んで歩き出した。
背後では、夕暮れの空を映す噴水が静かに光っている。
そこに、さっきまでいた“もう一人の自分”の幻が重なる。

(偽物でも……あの子も“誰か”に作られたんだ。
 だったら、またきっと現れる。
 私が逃げていたら、水都を守れない――)

「ねぇ、凜さん。寧々ちゃん。ありがとう。
 私、もう一度ちゃんと立ち向かってみる。」

「その言葉を待ってたわ」

「奈理子さんなら、絶対に勝てます」

三人が並んで歩く。
遠くでカフェの明かりが灯り、夜風が三人の髪を揺らした。
水都の夜は、まるで何事もなかったかのように穏やかだった――。


ニュース速報 “ミラクルナイト二重出現”騒動

――その夜、水都のニュースは一色に染まった。

『水都中心街で、二人のミラクルナイトが激突――!』
『映像をご覧ください。こちらは噴水広場で撮影された市民提供の映像です』

モニターには、白い光と水しぶきの中でぶつかり合う二人の少女の姿。
スロー再生されるたびに、レポーターの声が興奮気味に震える。

「ご覧のように、二人とも同じ姿、同じ技……
SNS上では“ミラクルナイト分裂説”や“影武者説”が飛び交っています!」

SNSのトレンド

#二人のミラクルナイト
#パンチラ無双
#どっちが本物
#奈理子ちゃん頑張れ
#奈理子のクローン説

「本物も偽物も可愛いから問題なし!」
「市民の味方が二人になって倍安心♡」
「スカート脱がしはお約束」
「けどこれ、偽物の方が強くね?」
「スカート脱がされた方が偽物?」
「オバサン呼ばわり事件から急展開すぎて草」
「水都政府、公式コメントはよ!」

コメント欄は賛否入り乱れ、ミラクルナイトの公式ファンクラブ《MNSFC》の掲示板も大炎上していた。

『我らが奈理子さんは世界一純白だ!』
『いや、今日の奈理子は妙にSっ気があったぞ』
『そもそもスカートの丈が違う! 偽物確定!』
『どっちも応援すればよくね?』

商店街のカフェ

夕方のニュースを見ていた老夫婦が顔を見合わせる。

「守護神が二人おるってのは、ありがたいような、怖いような話じゃな」
「前の守護神も優しかったけど、今日のはなんだか目つきが鋭かったねぇ」

その隣では高校生のカップルがスマホを見ながら盛り上がっていた。

「俺、今日の戦闘生で見たけど、マジでどっちも可愛いんだって!」
「パンツ見えた方が偽物なんでしょ?」
「いや、パンツが綺麗だった方が本物らしい」
「意味わかんない」

一方、テレビ討論番組

コメンテーターA:「人格をコピーできる技術があるとすれば、倫理的にも問題です。彼女は本当に“人間”なんでしょうか?」
コメンテーターB:「いやいや、そもそもヒロインなんだから多少分裂してもエンタメ的にOKでしょ!」
コメンテーターC:「市民はヒロインの“パンチラ”よりも“真実”を求めています!」
司会者:「……議論がかみ合っておりませんね」

スタジオの空気が微妙にざわつく。
だが、番組の視聴率は急上昇していた。

街の声

「本物でも偽物でもいい、また会いたい」
「守護神が争うなんて、これが終末の兆しかもしれん」
「どうせなら次は三人目が出てきてほしい!」
「最近、子供たちが“ミラクルごっこ”で喧嘩して困るわ」

どこへ行っても、その話題で持ちきりだった。
そして――

『水都市役所広報局は、今回の騒動について「市民に危険はない」とし、詳細なコメントは控えると発表しました。』

という冷静なテロップだけが、夜のニュースを締めくくった。

だが、誰もが知っていた。
“二人のミラクルナイト”の戦いは、まだ終わっていない。
むしろ、これからが本当の始まりなのだと――。

第223話へつづく)