DUGA

ミラクルナイト☆第88話

土曜の昼下がり、商店街の人々が何気なく行き交う中、グフグフハンバーガーの店内は静かだった。窓際の席に座っているのは、大学生の凜と、彼女の向かいにちょこんと座る小学生の寧々。外の光が2人のテーブルに差し込み、黄金色のフライドポテトがキラキラと輝いている。

寧々の目には、昨日の出来事を思い出しての涙が溜まっていた。ドリームキャンディがクリオネ女に丸裸にされたことを知ったあの瞬間、彼女の心は粉々になってしまったようだった。

「もうお嫁に行けない…」

と彼女はつぶやき、涙をこぼす。

凜は手を伸ばし、寧々の頭を撫でた。

「大丈夫だよ。こんなことでお嫁にいけないのなら、もっと酷い目にあわされてきた奈理子はお嫁に行けないどころじゃなくなるしね」

しかし、その中で彼女も昨日の戦いを思い返していた。ドリームキャンディとセイクリッドウインドを圧倒したクリオネ女を倒したのは、いつも少し間の抜けたミラクルナイトだった。凜は不意に思った。もしかして、ミラクルナイトは彼女たちよりも強いのかもしれない。

「寧々、泣いてばかりいないで、私たちももっと強くならなくちゃ。今頃、奈理子は特訓でもしてるかもしれないよ」

凜の声で寧々の嘆きが途切れた。

「今頃、奈理子さんは彼氏と遊園地でデートですよ。隆が言ってました」

凜は驚きの表情をして、寧々に問いかける。

「彼氏って、スライム男のこと?」

寧々はうなづき、

「でも、なんでいろいろと酷いことをされたのに、スライム男のことが好きなんでしょうね。不思議です。」

凜はにっこりと笑い、ちょっとからかうように言った。

「奈理子はMっ気あるからね~。寧々も奈理子の弟といい感じなんでしょ」

「隆とはそんな関係じゃありません!」

寧々は怒った顔をしながらも笑っていた。2人の会話は、まるで平和な日常を象徴しているかのようだった。しかし、その裏には新たな事件が待ち受けているかもしれなかった…。


水都警察署の重厚な扉が開き、青ざめた顔の栗生が外に姿を現した。その背中にはクレイオ広告社襲撃事件の重みが乗っているように見えた。青い空と、澄み渡る空気が、被害者である彼の胸の重さをいっそう感じさせた。これからどうやって会社を再建していけばいいのか…。

足元に映る影を見て、栗生は深く溜息をついた。彼の前に突如として出現したのは、一筋縄ではいかない男、渦巻だった。

「とんだ災難でしたね」

と彼は冷ややかに微笑む。

栗生は急に視線を渦巻に向けた。

「羽純が、クリオネの薬を持っていたとはおドロしたよ。しかも、あんなことを…」

彼の声は、どこか震えていた。怒り、驚き、そして何よりも失望。羽純は勅使河原とは別のルートから薬を手に入れたようだ。カオリという女から入手したのだろう。

「再建のための資金の援助はさせていただきますよ」

と渦巻が声を落として言った。だが、栗生はふっと笑った。

「金だけが問題じゃないんだよ。羽純は優れたデザイナーだったんだ。優秀なデザイナーを集めなきゃな」

渦巻の目がキラリと光った。

「気晴らしに、少し暴れてみたらどうですか?」

栗生の眉が上がった。

「何を言ってるんだ、あんたは…」

渦巻の提案はさらに進んだ。

「カキノキ男に暴れさせます。栗尾さんも少し遊びませんか?」

瞬間、栗生の目には炎が灯った。

「栗と柿か。面白い組み合わせだな。」

クリオネ女からは逃げ回っていたが、逃げるのは性に合わない。彼はミラクルナイトの姿を思い浮かべながら、今後の戦略を練り始めた。


水都の商店街、活気に満ちたグフグフハンバーガーで、凜と寧々は週末の昼下がりを楽しんでいた。ジューシーなハンバーガーと冷たいドリンク、彼女たちの会話が飛び交う中で、突如町内放送が耳障りな音を立てて鳴り響いた。

「カキノキ男、水都公園に現れる!」

凜は目を丸くして言った。

「カキノキ男って、カキ男じゃないの?」

疑問を呈しながらも、寧々は鋭く指摘した。

「カキ男だと、貝の牡蠣を想像しちゃうからじゃないですか。」

凜は、そんな寧々の冷静さに驚きながらも、彼女の頼もしさにほっとした。

「寧々って小学生だけど賢いよね。奈理子よりも大人っぽいし…」

だが、寧々は凜の言葉に耳を傾ける暇もなく、彼女を急かした。

「今はそれどころじゃないですよ。行きましょう!」

「奈理子は今頃遊園地かぁ。いいなぁ~」

と凜はぼやきながら寧々に付いてグフグフハンバーガーを後にした。

水都公園の芝生広場では、市民の悲鳴が飛び交い、カキノキ男が凄惨な光景を繰り広げていた。その横暴さに、二人は怒りを感じた。

突然、空から緑色と黄色の光が降り注ぎ、その光の中からセイクリッドウインドとドリームキャンディが現れた。セイクリッドウインドは勇ましく

「ここまでよ!カキノキ男!」

と叫び、カキノキ男に向かって行った。ドリームキャンディも負けず劣らず、

「市民の憩いの場を襲うバケモノは私たちが許しません!」

と怒りを露わにした。

カキノキ男は彼女たちを見て、一瞬の後、

「ミラクルナイトは来ないのか?」

と問いただした。

セイクリッドウインドは、少し複雑な表情を浮かべながら、

「今日は奈理子は来ないよ」

と答えた。

ドリームキャンディは火を吹くような目で、カキノキ男に迫った。

「私たちだけで、お前を倒すわ!」

カキノキ男は微笑みながら、

「遊びたかったのはミラクルナイトだが、お前たちで我慢するか」

と、彼女たちに挑戦を投げかけた。

普段は家族で過ごす平和な広場が、今、勇者たちと怪物の激闘の舞台となった。


広々とした水都公園の芝生広場。空から聞こえるのは風の音と、カキノキ男と二人のヒロインたちの息遣いだけだった。

カキノキ男は地面から立ち上るようにして現れ、自分の周りにぐるぐると柿の葉を渦巻かせた。

「お前たちには私のカキノキの力に敵わない。」

と冷笑する。

セイクリッドウインドはその挑戦を受け止め、ガストファングを構えた。

「風を操る力で、お前の葉っぱなんか吹き飛ばしてみせる!」

彼女は一気にガストファングを振り下ろし、猛烈な風をカキノキ男に向かって放った。風がカキノキ男の柿の葉を散らばらせ、一瞬、彼の姿が見えなくなった。

しかし、その隙をついてドリームキャンディが前に踏み出た。

「これで終わりだと思ったら大間違いよ!」

彼女はキャンディチェーンを振り回し、短く鋭くカキノキ男に繰り出す。キャンディチェーンの鞭が空気を裂き、風の音と共にカキノキ男に向かって飛び込んで行った。

だが、カキノキ男は臆することなく、柿の実を何十個も飛ばしてきた。

「これでも喰らえ!」

と彼は叫んだ。

ドリームキャンディはキャンディチェーンで柿の実を次々と打ち払っていたが、その数に圧倒されてしまった。そして、一つの大きな柿の実が彼女の体を直撃。ドリームキャンディはその衝撃に耐えきれず、後ろに倒れこんだ。

「キャンディ!」

セイクリッドウインドが声を上げるも、カキノキ男は満足そうに笑い、ドリームキャンディの無防備な姿を見下ろしていた。


芝生広場の中心、強烈な柿弾の衝撃で動きが止まったドリームキャンディ。柿弾の破裂による黄色い粘液が彼女のドレスを絡め取り、動きを封じていた。そんな彼女の姿にカキノキ男の目が留まり、ドレスの裾が捲れて露わになったスパッツを一瞥した。

だが、その光景に興味を示すこともなく、カキノキ男はすぐに目の焦点を移動させた。

「やはり、ミラクルナイトの方が楽しみだな。」

彼は続け、セイクリッドウインドの方に意味ありげな視線を送った。

セイクリッドウインドはその視線に応えるように冷めた瞳でカキノキ男を睨んだ。

「何を見ているの?」

一瞬の間を置いて、カキノキ男は再び柿弾を放ってきた。セイクリッドウインドはその柿弾を身軽に避けながら、距離を詰め、ガストファングを振り下ろした。しかし、その一撃はカキノキ男の固い体に跳ね返された。

カキノキ男はにっこりと笑った。

「硬い柿の木には、ハリセンなんか効かないよ。」

と彼は言い放ち、素早くセイクリッドウインドのスカートを捲り上げた。

しかし、セイクリッドウインドは驚かず、冷静に彼を見据え、

「残念だったわね。」

と言った。セイクリッドウインドのコスチュームの下は紺色のレオタード。

「クッ…」

カキノキ男の口元がほころび、小さな不満を漏らす。

「やはりミラクルナイトでなければ…」

その時、セイクリッドウインドは全力でガストファングを振るった。瞬時に広場全体が竜巻に飲み込まれ、中心にいたカキノキ男はその竜巻に取り込まれ、地面に激しく叩きつけられた。

大きな音とともに立ち上がるカキノキ男。

「おのれ…絶対に許さんぞ!」彼の声が水都公園全体に響き渡った。


水都公園の木の影で、一人の男が緊張した瞳で戦闘の様子を見守っていた。その男の名は栗生。彼はセイクリッドウインドとカキノキ男の間の一進一退の攻防を目の当たりにし、心の中で

「柿の木は硬いが、一度折れれば終わりだ」

とつぶやいた。

風の圧力と繁緻な攻撃で、セイクリッドウインドが徐々に優勢になる様子を目の当たりにし、栗生は独り言を呟いた。

「奈理子がいないのは惜しいが、カキノキ男の加勢でもしてやるか」

と。

そして、その瞬間、彼の姿は変わった。刺々しい外見のクリ男に。

「これで終わりよ!」

というセイクリッドウインドの宣言の瞬間、空から巨大な棘々ボールが飛び出してきた。セイクリッドウインドの背中にそれが激突し、彼女はその衝撃で地面に打ち付けられた。

ウニ男…?」

セイクリッドウインドの意識が遠のく中、彼女はその名前を呟いたが、棘々ボールから姿を現したのはウニ男ではなく、クリ男だった。

「ウニではない、栗だ!」

と彼は宣言した。しかし、セイクリッドリッドウインドウは、その姿を見ることも声を聞くこともなく、無く気を失ってしまった。

カキノキ男は感謝の言葉を述べた。

「お前が来てくれなかったら、どうなっていたことか…」

クリ男は笑顔で応え、その後セイクリッドウインドの姿を詳しく観察した。

「太腿だけじゃなく顔も拝ませてもらうか」

美しい彼女の顔を隠すゴーグルに、彼の手がゆっくりと伸びていった。


水都公園の芝生広場、壮絶な戦闘の余韻が漂うその場に、静寂が広がった。クリ男がゆっくりとセイクリッドウインドのゴーグルを取り払うと、その下から現れたのは、彼が知るある女性の顔だった。

「お前は…!」

彼の目には驚きとともに、一抹の嘲笑が浮かんでいた。セイクリッドウインド、いや、凜。彼女の正体が勅使河原の愛人であったことに、クリ男は大きな笑い声をあげた。捨てられ、裏切られた痛みが、彼女をこんな道に引きずり込んだのか、とクリ男は思う。

その笑い声が響き渡る中、ドリームキャンディの目には緊張と希望が宿った。凜の素顔が暴かれたことに心が痛むが、幸運なことに彼女の豊かな髪が顔の大部分を覆っていた。しかし、クリ男だけはその全てを見てしまった。

ドリームキャンディの身体は突如、明るい黄色に輝き始める。その輝きとともに、彼女の身体を縛っていた柿の粘液が消え去った。彼女はキャンディチェーンを構え、クリ男の手元へと一瞬でそれを飛ばした。見事にクリ男の手を打ち、ゴーグルが地面に転がった。その隙に、ドリームキャンディは素早く駆け寄り、気絶している凜の素顔に再びゴーグルを装着させた。

「まさか、あいつがセイクリッドウインドだったとはな」

とクリ男は再び嘲笑う。しかし、ドリームキャンディの目には怒りと決意が輝いていた。

「クリ男、あなたはここで私が倒す!」

彼女の手には再びキャンディチェーンが輝く。戦闘の火花が再び、二人の間で燃え上がる。


公園の草木の間から差し込む日差しの下、ドリームキャンディとクリ男の緊張感ある立ち合いが続いていた。ドリームキャンディがキャンディーチェーンを放つ。その刹那、クリ男は後ろに飛び退きながら、ドリームキャンディの怒りを激しく燃え上がらせる言葉を放った。

「クリオネ女に丸裸にされたお前が、俺を倒すだと?」

その嘲笑に、ドリームキャンディの心は火花を散らす。

「うるさい!」

彼女はキャンディチェーンを激しく振り下ろした。

だが、クリ男は更なる冷たい言葉とともにその場を去った。

「セイクリッドウインドの素顔を拝めたし、帰るとするか。カキノキ男、お前も引け。」

ドリームキャンディの目に焦燥が浮かび、クリ男を追うか迷う瞬間、セイクリッドウインドの気絶した姿を思い出す。彼女を守らなければ、と迷いが生まれる中、突如として空気が重くなり、巨大な柿弾が彼女の方向へ飛んできた。

「俺は、お前の素顔を見てから帰ることにするぜ」

カキノキ男の野望を前に、ドリームキャンディはキャンディチェーンを構え、彼との戦いが始まった。

草木が揺れ、土煙が舞い上がる中、二人は互いの力をぶつけ合った。しかし、ドリームキャンディの中には、セイクリッドウインドへの思いが渦巻いていた。

最後の決断として、彼女の手から虹色の光線が放たれる。

「キャンディシャワー!」

その光線はカキノキ男に直撃し、彼を圧倒的な光の中へと吸い込んだ。公園は再び静寂に包まれ、ドリームキャンディは勝利を手に入れながらも、戦いの疲れと仲間への心配を胸に、セイクリッドウインドのもとへと駆け寄った。


水都神社の杜、古木と石灯籠に囲まれた神聖な空間へセイクリッドウインドウを運んできたドリームキャンディは、気を失っているセイクリッドウインドの安否を案じていた。2人の変身は解け、寧々と凜の姿だった。

「凜さん!」

寧々の涙ぐましい声が杜を満たしたとき、凜の瞼がゆっくりと持ち上がった。

「敵は…?何で泣いてんの?」

声には驚きと混乱が滲んでいる。

寧々は涙を拭きながら答えた。

「カキノキ男は倒しました。でも、クリ男は…」

凜の顔に笑みが浮かんだ。

「クリ男ね。一瞬、ウニ男が蘇ったのかと思ったよ。」

寧々の表情が再び曇る。凜は気を失っていたのでゴーグルを剥がされたことを知らない。

「凜さん、クリ男に正体を知られました。私がその場でクリ男を倒せたら良かったのに…」

寧々は、凜の変身の秘密が知られてしまったことへの罪悪感で一杯だった。

「クリ男は凜さんのことを知っている様子でした」

と寧々の声は小さくなった。

深い沈黙が二人を取り囲む。凜の瞳には過去の思い出や勅使河原との関係が駆け巡っているようだった。勅使河原の手下は、彼の愛人であった凜のことを知っている。しかし、彼女は勅使河原の手下のことはあまり知らなかった。勅使河原も凜にあまり教えてくれなかった。凜も勅使河原がやることにあまり興味はなかったので聞こうとはしなかった。身体だけの関係だった彼との時間は、彼女にとっては淡々としていた。しかし、現在の危機は彼女に現実を突きつけた。

寧々の罪悪感を感じ取り、凜は優しく言葉を紡いだ。

「早かれ遅かれ私の正体はバレるはずだから仕方ないよ。」

しかし、寧々の瞳にはなおも自己嫌悪が浮かび上がっていた。凜は、勅使河原がセイクリッドウインドの正体を知ったとき、どのように行動するのかを予測していた。彼は、裏切り者に対する容赦のない姿勢を持っていた。

その事実を前に、凜は深く息を吸い込んだ。セイクリッドウインドとしての戦いを選んだときから、彼女はその日を覚悟していた。勅使河原との関係、そして未来に待ち受ける可能性を前に、凜は心の中で固く誓った。彼女は決して後悔せず、自分の選択を信じて戦い続けるのだ。

第89話へつづく)