ミラクルナイト☆第124話
二月のある土曜日、奈理子は弟の隆の部屋のドアを開けた。
「隆、梅花祭に行こう!」
と元気よく声をかける。水都御苑で開催される恒例の梅花祭は、梅の花が満開のこの時期、市民にとって大きな楽しみの一つだ。
ベッドに転がりながら漫画を読んでいた隆は面倒くさそうに顔を上げ、
「何で俺が姉ちゃんと行かなきゃいけないんだ? 彼氏にでも連れて行ってもらえよ」
と返す。
「隆、もうすぐ中学生でしょ。生意気な中学生になる前の、まだ可愛い小学生の隆は今しかいないのよ」
と奈理子は愛おしそうに弟を見つめながら言う。
隆はニヤリと笑って、
「ライムってやつに振られたんだな」
とからかう。図星を突かれ、奈理子は少し顔を赤らめる。彼女はライムを誘ったものの、彼からは用事があると断られていた。綾香ら同級生たちは高校受験に忙しく、既に志望校に合格して暇を持て余している奈理子は、友達にも気兼ねなく誘える相手がいなかったのだ。
「いいから、お姉ちゃんとデートしよ」
と奈理子が隆を急かす。
「仕方ないな」
と隆が渋々ベッドから起き上がり、服を着替え始める。奈理子は
「たこ焼き買ってあげる!」
と嬉しそうに答え、二人は水都御苑に向かう準備を始めた。そうして、楽しみにしていた梅花祭へと姉弟で出かけることになった。
水都御苑、かつては貴族たちが住んだ一帯を公園に転換したその地は、都会の喧騒を忘れさせる静かな場所となっている。庭園やテニスコートなどが配され、普段から多くの市民に愛されているこの公園は、特にこの時期、梅花祭でさらに賑わう。その一角にある梅林では、香り高い梅が咲き誇り、訪れた人々はその香りに心癒されながら、春の訪れを感じていた。
水都御苑の梅花祭で、梅の花の香りに包まれながら奈理子と隆は歩いていた。
「いい匂い。でも、人が多いね〜」
奈理子がにこやかに言いながらも、周囲の視線を何の気兼ねもなく浴びる。この街で、ミラクルナイトとして待の平和を守り続ける奈理子を知らない者はいない。奈理子が一歩一歩踏み出す度に、ミニスカートとニーハイソックスの間から覗く彼女の白い太股が、擦れ違う人々の視線を釘付けにする。
「姉ちゃん、目立ちすぎだぜ。変装くらいすりゃいいのに…」
隆が少し苛立ちを含んで口にすると、奈理子は首を横に振った。
「どうして変装しなきゃいけないの?私は逃げも隠れもしないわよ。」
そして、
「そんなことより、隆が迷子にならないように、お姉ちゃんと手を繋ごう」
と言って、奈理子は隆の手を握る。
「俺は小六だぞ。迷子なんかになるか!」
と隆は即座に奈理子の手を振り払う。奈理子は笑みを浮かべながら、
「もう、素直じゃないんだから」
と返す。その姉弟のほのぼのとしたやり取りに、周囲の市民も微笑を浮かべる。
隆が忌々しそうに周囲を見回していると、一人の女性が奈理子に熱い視線を送っているのが目に入る。
「姉ちゃん、あの人誰?」
と奈理子に視線を戻して尋ねるが、奈理子が振り向いたときにはその女性は既に姿を消していた。
「え?どの人?」
奈理子が問い返す。
「さっき、女の人が姉ちゃんをじっと見てたんだ」
隆が指を指す方向を示そうとするが、その女性はもういない。
「どんな人?」
「大人の人。大学生くらいかな?スーツを着ていたからもっと上かも…」
隆が答える。小学生の彼には二十歳から三十歳くらいの女性の見分けがつかない。
「私のファンじゃないの?」
奈理子が軽く答えるが、隆は何となく不穏な気持ちを抱えていた。
「ファンのような感じじゃなかったけど」
と、奈理子の安全を心配するような声でつぶやく。
休日、真衣香は牛島から急な呼び出しを受けた。話の内容は、ミラクルナイトに再度敗北し落ち込んでいるシオマネキ女、塩田渚の心のケアについてだった。しかし、真衣香はその相談を適当にあしらってすぐに牛島と別れた。自ら選んだ道で何度もミラクルナイトを苦しめてきたシオマネキ女が落ち込んだとしても、それは彼女自身の問題だと思っていた。せっかくの休日を無駄にはしたくない。そう考えた真衣香は、気分転換にタワー前広場に足を運んだ。
買い物でもして家に帰ろうかと思案しているとき、ある女性に声をかけられる。
「姫野真衣香さんですね」
と。警戒心を抱きながら振り向いた真衣香の目の前には、彼女と同じくらいの年頃の女性が立っていた。無言で警察手帳を見せるその女性に、真衣香は一瞬硬直した。もしや自分の正体がバレたのかと心配になったが、口元を緩めることなく、用心深く
「私に何か?」
と問い返した。その際、必要があればすぐにイチゴ女に変身する準備を整えていた。
「警戒しなくてもいいわ。私も怪人になる薬の使用者だから」
と女性は落ち着いた声で言い、真衣香は少し安堵した。しかし、完全に警戒を解くことはなかった。
「何の薬?」
と真衣香が質問する。
「龍舌蘭」
と女性が答える。
「リュウゼツラン?」
真衣香は龍舌蘭という植物を知らなかったが、初めて聞くその名前に何故か恐怖を感じた。
「麻薬の密売グループを追っているの。少しいい?」
と女性が真衣香の緊張をほぐすように優しく話し掛けた。
「麻薬なんて…」
真衣香は麻薬の密売などの恐ろしいことには全くの無知だった。
「まあ、いいわ。何か気になることがあったら連絡して」
と女性は名刺を差し出し、その場を去ろうとした。
「水都市警…柏原…蒼菜…。柏原…」
名刺を眺める真衣香。柏原という名前は、彼女の元上司であったイソギンチャク男の姓だった。
「待って!貴方、柏原さんの…」
真衣香が問いかける。
「柏原海彦は私の兄。ミラクルナイトに入れ込んで死んじゃった馬鹿な奴だけどね」
と蒼菜は振り返ることなく去っていくのだった。
水都御苑のベンチに座り、
「ハフハフ」
と熱々のたこ焼きを頬張る隆。
「隆は猫舌なんだから、ちゃんとフーフーして食べなきゃ」
と、奈理子は呆れながらも隆の世話を焼いた。たこ焼きを一口飲み込んだ隆は、ちょっと変わった出店に目を留めた。
「姉ちゃん、あれ何?」
と隆が指差す先には「いなごの佃煮」と書かれた幟の出店があった。
「最近、昆虫食が流行ってるからね」
と奈理子が答えるが、内心ではイナゴなど少しも食べたくないと感じていた。その出店では、ゴスロリ風のファッションをした若い女性と一人の大男が不思議な組み合わせで客を迎えていた。意外にも、店は繁盛しているようだった。
店の中では、その大男が舌打ちをしながら
「チッ、奈理子がこっちを見てやがる。何か感づいたか?」
とぼやいた。彼の正体は、怪人ザリガニ男の赤岩だった。
「赤岩さん、私たちはどう見てもただのイナゴ屋です。警察ですら見抜けないんですから、中学生の奈理子に見抜かれるわけがありません」
と、ゴスロリ風の女性、和莉が冷静に答えた。
「だが、なぜイナゴ屋なんだ? イカ焼きや串焼きの普通の屋台でよかったじゃないか」
と赤岩が不満げに言った。
「普通のイカ焼きや串焼きを買いに来られたら、赤岩さんが困るでしょう?」
和莉がそっけなく答えると、客に袋を渡した。中身は大麻で、祭りの屋台は密売には絶好のカモフラージュだった。
「それでも、奈理子に見られるのは気持ち悪い。彼女をここから追い払おう」
と赤岩は決意する。
「赤岩さん、店番をお願いします」
と和莉が言うと、赤岩は
「いや、わざわざ和莉が行くまでもない」
と彼女を制した。すると、どこからともなく現れた若い男に赤岩は
「水都公園辺りで少し暴れてこい。奈理子を御苑から引き離せ」
と指示した。若い男は屋台の裏から姿を消した。
その一方で、仲良くたこ焼きを楽しむ奈理子と隆。彼らの平和な休日は、知らぬ間に嵐の前の静けさとなっていた。
梅花祭で賑わう水都御苑に、突如として「水都公園にヘビトンボ男出現!」という放送が鳴り響いた。
「ヘビトンボ?新型の合成怪人かな?」
と隆が呟く。
「トンボのように空を飛ぶ蛇って…強そう」
と、過去にトンボ男と戦った際のことを思い出し、奈理子は不安になった。トンボ男との戦いでは運良く勝てたものの、同じ相手と再び戦い勝てる自信は奈理子にはなかった。
「蛇じゃなくて、ヘビトンボという昆虫よ。トンボほど速くは飛べないわ」
と、イナゴ屋の出店で働くゴスロリ服の女性、和莉が奈理子の前に来て日傘を差しながら説明した。彼女は二十歳前後か。美少女だが長い黒髪に青い口紅、黒を基調としたゴスロリの衣装が一層不思議な雰囲気を醸し出していた。
和莉の説明にホッとした奈理子は、
「ありがとうございます!」
と感謝の言葉を述べ、アイマスクを取り出した。
「危ないから隆は先に家に帰ってて」
と隆に告げる。
「ドリームキャンディを呼ぶから、無理はするなよ」
と隆が応じる。奈理子は頷き、アイマスクを装着し水都の守護神ミラクルナイトに変身した。ミラクルウイングを広げて舞い上がるミラクルナイト。市民からの
「奈理子ちゃん、頼んだぞ!」
「頑張ってー!」
という声援を受けながら、水都公園へと向かうミラクルナイトを見上げる和莉は、
「トンボほど早く飛べないけど、ヘビトンボはトンボに劣らず凶暴な肉食の昆虫だけどね」
と残忍な笑みを浮かべていた。
水都公園の噴水広場に人々のざわめきと緊張が交錯していた。その日、公園には異様な緊張感が漂っており、その中心にはヘビトンボ男が立っていた。彼の姿は異形で、長く鋭い牙と大きな翅を持ち、威圧的に四周を見渡している。
真衣香は急ぎ足で噴水広場に到着した。先程まで会話を交わしていた蒼菜が、警戒線を張っている警官に指示を出しているところだった。
「大丈夫ですか?」
真衣香が蒼菜に声をかけるが、蒼菜は任務に集中しており、淡々とした返答しか返ってこなかった。
真衣香はヘビトンボ男たちとは仲間のはずだが、彼らが水都の街で暴れる理由を知らない。ヘビトンボ男は鋭く長い牙と大きな四枚の翅を持つ異様な姿をしていた。この怪人に、ミラクルナイトは勝てるだろうか?真衣香は思った。
そんな中、空から
「ヘビトンボ男、水都の平和を乱す者はミラクルナイトが許しません!」
という力強い宣言が響き渡る。真衣香が上を見上げると、ミラクルナイトが美しくも勇ましく空を舞っている姿が目に入る。彼女の装着したアイマスクから輝く光が闘志を物語っていた。
「奈理子の今日のパンツはピンクか。下から丸見えだぞ」
という下品な言葉を吐くヘビトンボ男がその挑戦を受け、翅を大きく広げ、天高く舞い上がる。彼の動作一つ一つが重く、しかし確実に空を制する能力を見せつけていた。場の空気が一層冷ややかになる。
空中戦は始まっていた。空中での戦いには、ミラクルナイトの仲間であるドリームキャンディとセイクリッドウインドに参加できる余地はない。すべてはミラクルナイトの肩にかかっている。真衣香は彼女の戦いを見守りながら、心の中で応援の言葉を送る。
「頑張って、ミラクルナイト。負けないで。」
この戦いの行方が、水都の安全と平和を左右することになるだろう。真衣香の心は、奈理子の勝利を切に願っていた。
空中で繰り広げられる激しい戦い、飛び上がるヘビトンボ男に対して、ミラクルナイトは水色の光弾を連射した。しかし、光弾を軽々とかわすヘビトンボ男の大顎が、迫力ある飛翔とともにミラクルナイトにせまる。その異様な姿は、トンボのように飛ぶ蛇よりも、むしろトンボのように飛ぶクワガタのような大顎が特徴的だった。
一瞬の隙を突かれたミラクルナイトは、大顎に腕を挟み込まれてしまう。
「痛い!離して!!」
と叫ぶミラクルナイトの声が空に響く。しかし、ヘビトンボ男の力は強大で、彼女のもがきは大顎の圧力を増すだけだった。
「噂通りの弱さだな。このまま真っ二つにしてやろうか?」
と、ヘビトンボ男は冷酷に笑った。
恐怖のあまり、ミラクルナイトの身体は限界を迎え、彼女が粗相したものが広場に降り注いだ。しかし、その場にいる市民たちは彼女を見捨てることなく、
「奈理子、頑張れ!」
「奈理子、負けるな!」
と力強い声援を送った。その声援が、ミラクルナイトに新たな力を与えた。彼女の身体が水色に輝き始め、
「負ける訳にはいかない。ミラクルパワー!」
と叫びながら、ヘビトンボ男の大顎を必死にこじ開けて脱出する。
市民からの大歓声が噴水広場に響き渡る中、ミラクルナイトは勝負がまだ終わっていないことを宣言する。
「勝負はこれからよ!」
と力強く言い放つ。しかし、ヘビトンボ男は彼女の濡れた脚を見て、
「お漏らししたくせに何言ってんだ」
と嘲笑う。市民の期待を一身に受けたミラクルナイトがこの困難を乗り越え、ヘビトンボ男を倒すことができるのか、その結末に注目が集まる。
空の戦場では、ミラクルナイトとヘビトンボ男の激しい闘いが続いていた。突如、黄色い光が噴水広場にさすと、小学生戦士ドリームキャンディが降臨する。その場にいた市民たちは助っ人の登場に盛り上がりを見せるが、空を飛べないドリームキャンディには、ただ見上げるしかなかった。
空中ではミラクルナイトが次第に劣勢に立たされていた。ヘビトンボ男の容赦ない攻撃によって、彼女のコスチュームが次第に破れ、ピンクのブラが露わになる。
「奈理子さん、地上に降りてください!一緒に戦いましょう!」
と、ドリームキャンディが必死で呼びかける。しかしヘビトンボ男は、その要求を冷たく断り、
「地上には降りさせないぜ」
と言いながら、更にミラクルナイトを上空へと投げ飛ばす。ミラクルナイトの悲鳴が広場に響く。
この危機的状況の中で、真衣香は、蒼菜が急にどこかへ走っていくのを目撃する。戦いに集中している市民も、秩序を守ろうとする警官も、蒼菜が去ったことには気がついていない。真衣香は周囲を見渡し、ふと疑問に思う。
「あの人、もしかしてヘビトンボ男と戦うつもりなの?」
その考えに心を動かされながら、真衣香は蒼菜の行方を探した。
緑色の光が噴水広場を照らす中、セイクリッドウインドが登場した。
「空で戦っているから、何もできません」
とドリームキャンディがセイクリッドウインドに言った。その時、ミラクルナイトの悲鳴が空から降り注ぐ。空中戦ではヘビトンボ男が明らかに優位に立っており、ミラクルナイトはブラウスを剥ぎ取られてしまっていた。敗北が迫る中、
「竜巻で奈理子を援護してやるわ」
とセイクリッドウインドが宣言し、ガストファングを扇ぎ始めた。
セイクリッドウインドが作り出した三つの竜巻がヘビトンボ男を取り囲む。
「わっ!何だこれは?」
と驚くヘビトンボ男は、巧みに竜巻を避けつつ飛び続けた。
「奈理子さん、今のうちに地上に降りてください!」
ドリームキャンディが叫ぶと、ミラクルナイトはよろめきながらも地上に降り立った。すぐさまドリームキャンディが彼女を支える。
「奈理子さん、またお漏らししちゃったんですね…」
ミラクルナイトの下半身が濡れていることに気付いたドリームキャンディが憐みの眼差しをミラクルナイトに向ける。
「………」
ミラクルナイトは悔しさを滲ませた顔を背けた。
「二人とも何やってるの!」
セイクリッドウインドウが、固まっているミラクルナイトとドリームキャンディを叱咤する。
「助けてくれてありがとう、ナメコ姫」
とセイクリッドウインドに感謝の言葉を述べるミラクルナイト。
「三人で力を合わせてヘビトンボ男と戦おう」
とセイクリッドウインドが提案すると、ミラクルナイトとドリームキャンディは頷いた。
「地上に降りても同じことだ。三人まとめて始末してやる」
とヘビトンボ男が低空でホバリングしながら宣言する。
ドリームキャンディはキャンディチェーンを手に取り、セイクリッドウインドはガストファングを構え、ミラクルナイトは片手でピンクのブラを隠しながら戦闘態勢を整える。噴水広場は、この三人のヒロインとヘビトンボ男との激しい戦いが始まろうとしていた。
頭上で飛び回るヘビトンボ男に対し、三人のヒロインは急降下攻撃に対抗する手段がなかった。ドリームキャンディはキャンディチェーンを振るい、セイクリッドウインドはガストファングを叩きつけようとしたが、ヘビトンボ男はその攻撃が届く前にすばやく避け、高く舞い上がった。ヘビトンボ男の動きに対応できず疲弊する三人。
降下してセイクリッドウインドを狙ったヘビトンボ男に向けてドリームキャンディがキャンディチェーンを放つものの、その直撃を受けてしまったのはセイクリッドウインド自身だ。
「ぐわっ!」
と彼女は悲鳴を上げ吹き飛ばされた。ヘビトンボ男は軽々とその攻撃を避けていた。
「あっ!ごめんなさい!」
とドリームキャンディが謝罪する。
「ナメコ姫、大丈夫?」
とミラクルナイトが倒れたセイクリッドウインドを抱き起こす。
「空飛ぶ相手じゃ、太刀打ちできないわね」
とセイクリッドウインドが苦しげに呟く。
「やっぱり、私が空からヘビトンボを攻めるわ」
とミラクルナイトが宣言し、再びミラクルウイングを広げた。
「奈理子、無理しないで」
とセイクリッドウインドが心配を表すが、他に手はなかった。
飛び上がろうとしたミラクルナイトの前にヘビトンボ男が現れ、奈理子のブラを掴む。
「あぁッ!」
とミラクルナイトが叫ぶ。その瞬間、彼女のピンクのブラが剥ぎ取られた。プルンッ!とは揺れない奈理子の小さな胸が市民の前に公開されてしまう。
「おおー!」
と噴水広場がどよめきに包まれる。
「奈理子さんのブラジャーを返しなさいッ!」
とドリームキャンディがキャンディチェーンを振るうが、ヘビトンボ男は既に射程外に飛び上がっていた。
「許さないわ…」
とミラクルナイトが両腕で胸を隠しながら怒りに震える。その周囲には水のオーラが輝き始めていた。
「ミラクルアクアティックラプチャー!」
と叫ぶミラクルナイト。彼女から放たれる水色のオーラが無数の水流となり、ヘビトンボ男を捉えた。ヘビトンボ男は軽く避けようとしたが、水のオーラはすでに彼を完全に包み込んでおり、彼は抗えずに空中から墜落する。
「凄いぞ奈理子!」
と歓声が上がる一方で、
「こんな技あるなら最初から出せよ!」
「でも、奈理子のおっぱい見れたから嬉しいぞ!」
といった複雑な声も飛び交う。
「水なんかでは俺は倒せんぞ」
と立ち上がるヘビトンボ男。彼は翅を広げ再び飛び上がろうとするが、水に濡れた翅では飛ぶことができない。
「そんなバカな!」
と悔しがるヘビトンボ男。しかし、ミラクルナイトは機敏に彼の股下を滑り抜け、背後を取る。
「鉄山さんが教えてくれた技の一つ…」
とミラクルナイトがつぶやくと、ヘビトンボ男の背中に飛びついた。
「ウォーズマン式パロ・スペシャル!!」
ミラクルナイトはヘビトンボ男の背後から両足を内側から引っ掛け、両手でチキンウイングの形で絞り上げる関節技をかける。
「いいぞ奈理子!」
「ヘビトンボ男の腕を締め上げろー!」
と市民からの大声援が飛び交う中、華奢な身体のミラクルナイトが強靭な肉体を持つヘビトンボ男を抑え込んでいた。
「こんな技、簡単に脱出してやる!」
ヘビトンボ男が体を揺らしてミラクルナイトのホールドから逃れようとする。非力なミラクルナイトでは彼を抑えきることができないだろうと、見守る人々は思った。しかし、
「無駄よ!」
とミラクルナイトは力を込めてヘビトンボ男の腕を更に締め上げる。
「パロスペシャルは外そうとする力を吸収する。もがけばもがくほど極まる、脱出不可能の蟻地獄ホールドよ!」
と、ミラクルナイトはその関節技の恐ろしさを解説する。
「ウギャー!」
と苦悶の声を上げるヘビトンボ男。「パロ・スペシャル、ジ・エンド」
とミラクルナイトがつぶやくと同時に、ヘビトンボ男の腕が不自然な角度で折れた。ミラクルナイトは華麗に飛び退いて、ヘビトンボ男から離れる。
「次は私。エアリアルダンスブレード!」
と宣言するセイクリッドウインド。彼女がガストファングを振るうと、無数の風の刃がヘビトンボ男を切り裂く。
「トドメは私から。ロリポップハンマー!」
ドリームキャンディが宣言すると、彼女の手に持つキャンディチェーンがロリポップハンマーに変形し、
「キャンディスターバースト!」
と叫びながら色とりどりの星星をヘビトンボ男に放つ。星星の光に包まれながら、ヘビトンボ男は
「奈理子の胸は成長せず…未だ貧乳…」
と最後の一言を呟き消滅する。
「最後にそんなこと言わなくても…」
とミラクルナイトは、恥ずかし気に自分の胸をギュッと両腕で隠す。彼女たちの勝利に、噴水広場の市民は歓声を上げていた。
「奈理子さんの背中、綺麗ですね〜」
ドリームキャンディが奈理子の滑らかな背中を優しく撫でながら言った。
「さすが中学生、お肌がスベスベだね!」
セイクリッドウインドも奈理子の肌を称賛する。しかし、市民の前でお漏らしをしてしまったミラクルナイトは、その褒め言葉を素直に受け入れられなかった。
少し離れた木の陰から、蒼菜は祝福を受ける三人のヒロインを静かに眺めていた。
「奈理子を助けるつもりだったの?」
と真衣香が近づきながら問う。真衣香は蒼菜の行動が気になり、ひそかに彼女の後を追っていた。
「そのつもりだったけど、怪人退治はあの子たちに任せて大丈夫みたいね」
と蒼奈は軽く答えた。
「あの怪人たちに逆らって怖くないの?」
と真衣香がさらに問い詰める。
「怖い?」
と蒼奈は首を傾げ、
「私の仕事は街の治安を守ること。それが私の使命だから」
と何事もなかったように答えた。しかし、真衣香にはその返答が納得できなかった。ただの使命感だけで、恐ろしい怪人に立ち向かうことができるのだろうか?
「兄が怪人になる薬をバラ撒いたせいで、この街の治安は悪くなった。妹として、兄が犯した罪を少しでも償いたいと思って、この街に異動を申し出たの」
と蒼菜が淡々と語る。その言葉に、真衣香は蒼菜の眩しさを感じた。
「どうして、あなたは私に正体を明かしたの? 私も、あの怪人たちと同類なのに…」
と真衣香が問う。
「兄の日記に出てくる姫野真衣香は、悪人にはなれない女の子だと思ったから」
と蒼菜は答える。
その時、上半身裸のまま腕で胸を隠して市民の声援に応えるミラクルナイトが蒼菜の視界に入る。
「ミラクルナイトは、変身を解除すると変身前の服装に戻るはず。どうして、あの子は変身解除しないのかしら?」
と蒼菜が疑問を口にする。
「あの子は、自分が何を求められているかをちゃんと知っているから。市民が喜ぶなら、全てをさらけ出す。それが、水都の絶対ヒロイン、野宮奈理子なのよ」
と真衣香が誇らしげに答える。蒼菜は、兄を狂わせた奈理子が水都市民に愛される理由が少し理解できたような気がした。
(第125話へつづく)
(あとがき)












ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません