DUGA

ミラクルナイト☆第210話

水都神社、風間凛の一日(霜月上旬)

朝の冷え込みが少しずつ肌にしみるようになった十一月。
まだ陽も登りきらない頃、水都神社の森の木々からは、ひんやりとした朝靄が薄く流れていた。

「……今日も、良い一日にできますように」

巫女装束に身を包んだ風間凛は、白衣の袖を整え、髪をねじり鉢巻きで結い上げる。
清めの塩を手に取り、手水舎で手と口を漱いだのち、神気の満ちる本殿へと向かった。

まずは拝礼。
本殿、末社へと一社一社、丁寧に頭を垂れる。
この町に生まれ育ち、縁あって今はこの社に仕える身――。
凛は神前で、私事を語ることはない。ただ静かに、感謝と祈りを捧げるのみ。

境内の落ち葉を竹箒で掃く音が、朝の空気を切り裂くように響く。
社務所の硝子戸を開けて風を通し、御札やお守りの棚を拭く。小さな蜘蛛の巣も見逃さない。
朝の掃除は、巫女の最初の務めだ。掃除を終えてようやく、神職・他の巫女たちと共に本殿に集まり、朝拝へ。

「高天原に 神留ります……」

声を合わせて大祓詞を唱える。
その一字一句が、霜を溶かすように空へ昇っていく。
小学生の頃、初めてお正月に巫女の舞を見たときの感動を、凛は今も思い出せる。

(あのときの“きれいな巫女さん”が、今の自分かもしれないなんて……)

朝拝を終えると、神職と巫女たちで今日の業務内容を確認。週末の結婚式の配置、御守の在庫、祭礼の広報……。

持ち場の社務所に戻ると、凛は御朱印の準備に取りかかった。
筆を手に取り、墨を磨る。その香りと温かさが、心を落ち着かせてくれる。

「ようこそ、お参りくださいました」

訪れる参拝者に、笑顔で一礼。
名前を訊かれることも多くなった。今では“水都神社の看板巫女さん”として、SNSで密かに人気が出ているらしい。
しかし本人は、それよりも、御朱印の字が少しでも美しくなるようにと、日々の修練に集中していた。

筆はまだ不安定だ。それでも、一筆一筆に想いをこめて書く。

(この人の旅の記念になるのだから、丁寧に……)

昼を過ぎると、午後の稽古に移る。
結婚式で奉納する「浦安の舞」の練習は欠かせない。
襷をかけ、鈴を手に、社殿の中で静かに舞う。
かつてアイドルとして小さなステージに立ったときの経験が、いまはここで活きているのかもしれない。

「次のバイト面接、15時から三人ねー」

年末年始の助勤アルバイトの応募が殺到している。
その対応も凛の役目だ。履歴書を見ながら、応募者に丁寧に話を聞いていく。

「ここは、“神様のおうち”です。清らかな気持ちでいられる人を、私は歓迎します」

凛の言葉には、どこか芯の強さが宿っている。

大学を卒業して就職も決まらず、地下アイドル活動もままならなかった頃――
気づけば社会の隅で縮こまっていた自分を、大谷が拾ってくれた。

「神社の巫女バイト、空いてるけど……やってみない?」

軽い誘いに、何となく応じただけだった。

だが、春。
卒業式の翌日、彼女は“そのまま”水都神社に就職した。

毎日が神聖で、忙しくて、地味で、時に面倒で、でも確かに――満ち足りていた。

高校生の奈理子、中学生の寧々。あの子たちはまだ、夢の中で戦っている。
自分にはもう、そんな時間はないけれど――
「誰かを支える」ことを自分の人生にできた今、凛は満足していた。

夕方、社務所の引き戸を閉めながら凛は空を見上げる。
澄んだ青空に、ほんのり茜色が差し始めていた。

「……明日も、良い日になりますように」

静かに、手を合わせた。


「灯りと風間」〜風間凛と大谷の静かな時間〜

夕刻。
御朱印帳を納め、社務所の戸を閉めた風間凛は、静かな足音で石段を下りていく。
社殿のすぐ裏手にある、朱塗りの回廊を抜けた先――そこに佇むのが、大谷家の母屋だった。

白木の玄関。和風の瓦屋根。
その昔、宮司の家族と巫女たちが寝泊まりしていたという古い建物を、今は大谷家が受け継ぎ、凛もそこに下宿していた。

「……ただいま」

玄関を開けると、ふわりと出汁の香りが鼻をくすぐった。

「おかえり。風呂、もう沸いてるよ。あとで入って」

台所で味噌汁をかき回していたのは、大谷悠真。
水都神社の宮司の一人息子で、凛とは同い年。穏やかで、実直で、あまり多くを語らない青年だった。

凛はその背中を見ながら、そっとエプロンを受け取り手伝い始める。

「……大谷ってさ、本当、家事得意だよね」

「いや、慣れてるだけさ。昔から神社の行事でバタバタするから、誰かがやらないといけなかっただけで」

彼の声は相変わらず控えめで、けれど優しい。
凛が初めて神社に迎えられた日のことを、ふと思い出す。

――あのとき、自分の居場所を失くし、すっかり心が折れていた自分に、
「君は、巫女に向いてると思う」と、大谷は微笑んで言ったのだった。

あれからもう、二年。

一緒に夏祭りにも行った。
鄙比田温泉に小旅行もした。
二人で射的をやって、笑い合って。浴衣で、縁側で、金魚すくいの思い出。

(あのとき、何となく手を繋げた気がしたのに、繋がなかった――)

今でも、その距離感のままだ。

夕飯を済ませたあと、大谷は台所に立ち、湯呑みにほうじ茶を淹れてくれた。
凛はそれを手にして、ふたり並んで縁側に座る。

「今日、ミラクルナイトの話してる子ども、いたよ。"私も凜ちゃんのような守護戦士になって奈理子ちゃんを守ってあげたい"って」

「……ふふ、ありがたい話ね。でも、私みたいに23にもなって怪人に服を脱がされてるようじゃ、憧れられるのも複雑よ」

苦笑する凛に、大谷は少し目を細めて言った。

「でも凛は、ちゃんと戦ってる。恥ずかしい目にあっても、逃げずに」

「それは……奈理子がいるからよ。あの子が頑張ってるから、私も……」

「……じゃあ、俺は、そんな凛を支えたいな」

その言葉に、凛は小さく目を見開いた。
そして――ゆっくりと頷く。

「……ありがとう」

虫の声が、どこか遠くで鳴いていた。
ふたりの間には、それ以上の言葉は必要なかった。

この神社で、神に仕え、人を支え、誰かの背中に手を添えるような日々。
それは決して派手じゃないけれど――とても、あたたかい。

凛はそう思いながら、隣にいる大谷と、ほうじ茶の湯気の向こうの夜空を見つめていた。


穢川研究所・第七開発室 深夜

青白く光るモニターが、静寂の研究室を不気味に照らしていた。
その映像には、スカートを溶かされ、白パン姿で立ち尽くすミラクルナイト=奈理子。
吹き上がる爆発泡、逃げ惑う観衆。そして――衣装を溶かされながらも立ち上がる、セイクリッドウインド=風間凛。

「……いいねぇ……。この映像、たまらんよ」

九頭は黒革の椅子にもたれ、指で画面をなぞるように眺めながら悦に入っていた。

「また奈理子ですか、所長?」

背後から無機質な声。助手の絹絵は、資料ファイルを抱えたまま顔色ひとつ変えず呟いた。

「苦しみ喘ぐ奈理子は相変わらず可愛いが……」

九頭はモニターの右下に視線を滑らせた。そこに映っていたのは、衣装の大半を失い、顔を赤らめ這いずるセイクリッドウインドの姿。

「いやあ、風間凛も捨てがたい。あの歳であのコスチューム、健気だよ。しかもよく見ると、見せてるようで見せてない。あれは技巧だ。大人の技巧ってやつだよ。さすが、社長の"元愛人"だけある」

「……そこまで評価しますか?」

「君はよく知らないだろう? 勅使河原さんがまだこの会社を興す前、凛は高級マンションに住まわせてもらっていたんだ。大学もまともに行かず、地下アイドルとしてブイブイ言わせてた。ブランドバッグにハイヒール。勅使河原さんに寄り添う姿を”ローション要らずのナメコ姫”と陰で呼ばれていたそうだ」

「ええ、知ってます。その話、当時の社内でも結構有名でしたよ。正直……印象は良くないですけどね」

「だが、それが今や水都神社の看板巫女。しかも変身すればセイクリッドウインドと来た。これは因果というべきか、執着というべきか……。とにかく、興味深い」

「次の標的は、風間凛に?」

「そうなるな。ミラクルナイトはファンクラブが騒ぎすぎて、正直やりづらい。だが凛は違う。あれだけの過去を持ちながら、神職としての顔を被って、静かに暮らしている。叩けば、いろいろと埃が出る」

九頭はニタリと笑った。
指先で凛の映像を拡大する。肌を露わに横たわる姿。だが、その表情には諦めの色はなかった。

「それに……彼女、まだ"ナメコの能力"を使えるんだよな?」

「ええ。変身した今も、粘液の生成能力は完全に残っているようです。本人は“風”をメインにしてますが、本質的にはナメコ寄り。厄介ですよ」

「裏切者のナメコ姫が、今や正義の象徴――。そんな話、面白くないと思ってる奴も多い。柚月くんは休養中、指揮系統も弱まってる。今なら、少々無理が利く」

「では、誰を当てますか?」

「うーん……あいつはどうかな。あの、ヌルヌル専門の新型。コードネーム:スライミィ・オルタ。人型に擬態できて、触れたものを液状化して溶かす能力。あれで凛を、“過去”ごと崩してやるんだよ。神職面した仮面をね」

「ヌタヤナギ女…いや、今はネバヤナギ女さんですね。了解しました。手配しておきます」

絹絵は淡々と返すと、無表情のまま立ち去っていく。

モニターの中、泡に塗れながらも必死に立ち上がるセイクリッドウインド。
九頭は指でその映像の輪郭をなぞり、陶酔するように呟いた。

「ヌタヤナギ女にシダレヤナギとアオミドロの暴力を加えた初の三種合成怪人・ネバヤナギ女。ふふ……風間凜。君の"清廉"がどこまで持つか、見せてもらおうか」


ホテル水都インターナショナル最上階のレストラン

窓の外に広がる夜の水都の街並みが、ガラス越しにきらめいていた。無数の灯りが水面に映り、まるで星空が地上に降りてきたようだった。

テーブル越しに座る風間凛は、その美しい夜景に微笑みつつも、時折ちらりと向かいの青年──大谷悠真の表情を窺っていた。

「……ねぇ、悠真。今日は、その……特別な日って、思ってもいいよね?」

グラスを揺らしながら囁くように言った凛の声には、少しだけ甘えた響きが混じっていた。軽く染まった頬と、伏せた視線。彼女はドレスではなく、シックな私服に薄手のショールを羽織っていたが、それでも十分に目を引くほど美しかった。

大谷はフォークを置き、やや驚いたように凛を見た。

「特別って……ああ、久しぶりに二人きりで外でご飯って意味なら、そうかもな」

「……うん、そういう意味、でもあるけど」

凛はふっと目を逸らし、グラスの縁に唇を寄せた。けれど、微かに揺れる彼女のまつ毛には、ほんの少しだけ期待の色が滲んでいた。

(最上階のレストラン。夜景。ディナーコース。……これって、普通、食事のあとに……)

彼女の頭の中では、「部屋」が自然に浮かんでいた。今日くらい、彼のほうから──そんな願いを胸の奥で密かに抱いていたのだ。

だが、大谷は料理の皿が下げられるのを見届けると、あっさりと口にした。

「そろそろ出ようか。明日、朝から凛はお勤めだろ?」

「……え、あ……うん、そう、なんだけど」

一瞬だけ止まった凛の動作。咄嗟に笑顔を取り繕ったものの、胸の内ではぽつんと何かが落ちた音がした。

(……やっぱり、そうだよね。悠真って、そういうところ……鈍いんだから)

軽く肩をすくめ、立ち上がるときにふらりとよろけた。グラスの赤ワインを思ったより飲んでいたらしい。

「おっと、凛、大丈夫か?」

大谷が慌てて手を伸ばす。凛は思わずその胸に凭れかかった。

「ごめん、ちょっとだけ……歩くの、ふわふわする」

「しょうがないな。ほら、肩貸すよ。ちゃんと掴まって」

「うん……ありがと、悠真……」

そんな風にして、ふたりは肩を寄せ合うようにしてホテルのエントランスホールへと降りていった。

──だが、その背後。レストランの影の奥、ガラス窓の外側、張り付くように這う黒い影があった。

緑がかった粘液が、音もなくガラスに垂れ落ちる。

「ナメコ姫……いえ、今は“セイクリッドウインド”って名乗ってるのよね……。ふふ、やっと、見つけた……」

濡れた髪のように枝垂れた藻と柳が風に揺れる。ネバヤナギ女──スライミィ・オルタが、ビルの壁面に貼りついたまま、じっと凛を見下ろしていた。

「今宵、あなたを“元の姿”に戻してあげる……ナメコ姫ぇ……♥」

夜風が不気味に囁き、ふたりの背後にじわじわと“粘液の気配”が迫っていた。


夜の街は、ホテルの灯りを背にしてもなお静かで、肌にまとわりつくような湿気が空気を重くしていた。

「歩けるか? 凛」

「……ん。大丈夫、ちゃんと歩いてる……でしょ?」

凛は小さく笑いながら、寄り添うように大谷の腕に自分の手を回した。頬はまだ薄紅を差していて、酔いの名残もあったが、それ以上に胸に広がるのはほんのりした切なさと安心だった。

「ふふっ……悠真、変わってないね。昔から、そうやって普通に優しくしてくれるの」

「……それ、悪い意味か?」

「ううん。……むしろ、ちょっとズルいかも」

「なんだよ、それ」

そう言いながらも、大谷は凛の手を握り返すことはしなかった。ただ、歩幅を自然に凛に合わせてくれるその歩き方が、凛にとっては優しさの証だった。

(あたし、いつからこんなに……“普通の女の子”みたいに、こんな時間を大事に思うようになったんだろう)

数年前の自分──“ナメコ姫”だった頃の記憶がふと胸をよぎる。あの頃は、力のある男を持つことでしか居場所を得られなかった。粘液まみれの孤独な日々。誰かと手をつなぐ未来なんて、想像すらしていなかった。

そんな自分が、今は人前で肩を貸してもらって歩いてる。

(これが……あたしの“今”なんだ)

ふと、凛が顔を上げると、大谷が視線を向けてきた。信号待ちのわずかな間、二人は自然に足を止め、街灯の下で顔を見合わせる。

「凛、顔……赤いぞ」

「酔ってるだけ……だと思うけど」

そう言いながら、凛はそっと大谷の肩に額を預けた。照れ隠しなのか、甘えなのか、自分でもよくわからなかった。

「……今日はありがと。久しぶりに、ちゃんと“私”でいられた気がする」

「“私”って……?」

「セイクリッドウインドじゃなくて、ナメコ姫でもなくて。ただの、風間凛……で」

大谷は、そんな凛の言葉にどう返せばいいか迷っているようだった。だが、次の瞬間──

「ふふ……甘い夜風に包まれて、油断しきってますねぇ……凛さぁん♥」

ゾワリとするような声が耳元に吹き込んだ。

──否、それは風ではなかった。
視界の端、街灯の光がぼやけるように滲んでいる。夜霧とも違う、湿った靄──

「っ……この感覚……!」

凛が顔を上げた瞬間、彼女の足元に黒く光る液体が忍び寄っていた。足首に、冷たい粘液がぬちゅりとまとわりつく。

「な……悠真、離れて!」

「凛? 何が──っ!」

次の瞬間、路地裏の闇の中から無数のヤナギの枝のような触手が広がり、ぬるりとした音を立てて二人を包囲した。

「会いたかったですよぉ、ナメコ姫ぇ……じゃなかった、セイクリッドウインドさん……♥」

建物の壁面から、ずるりと這い降りてくる人影──全身を粘膜に覆われた妖艶な姿。艶やかな片目だけを覗かせたその女の名は……

ネバヤナギ女。

「今宵こそ……その“新しい皮”を、私の粘液で蕩けさせてあげますわぁ……♥」

湿度が、急激に上がる。
凛は、大谷を背にかばうように立ち塞がり──胸の奥の“戦士”の鼓動に、再び火を点けた。


夜の街──ホテル水都インターナショナルのエントランス前

ボルドーのワンピースが街灯の下で艶やかに揺れ、黒のショートブーツがカツンと石畳を叩くたび、酔いのせいか少しふらつく凛の仕草が妙に色っぽい。

その背後、路地の闇を裂くように──ぬるり、と光る影が降り立った。
枝垂れ柳の枝と藻をまとった、粘膜に輝く女怪人。

「ふふ……清楚系ビッチっぷりは相変わらずねぇ、ナメコ姫ぇ……♥」

ネバヤナギ女の片目が妖しく光る。

凛は一瞬目を見開き、すぐに眉を吊り上げた。

「……誰よアンタ?! アンタみたいな下っ端怪人、知らないわ! それに私は清楚系だけど、ビッチじゃない!」

「“ローション要らず”のナメコ姫が清楚系なんて、笑わせるわぁ……♥」

粘液に濡れた指先がくいっと動く。

「さあ……“スライム・ドレープ”で、その化けの皮を剥いでやるぅぅ!」

ズルンッ!
凛の足元に、黒緑の粘液が生き物のように伸び、ブーツの縁から侵入してきた。ぬちゅっ……ぬるっ……と、足首からふくらはぎへと這い上がってくる。

「……っ! 悠真、逃げて!」

凛はとっさに大谷を押し飛ばす。だがその隙に、粘液が一気に太腿まで──

ビリビリッ!!

「きゃああああっ!!!」

ボルドーのワンピースの裾が粘液の熱でふやけ、スカートの脇が破れた。するりと覗く太腿の滑らかな曲線、その奥には黒のレースストッキングが――と思いきや、粘液がストッキングごとじゅわっと溶かしていく

「おぉぉおおお!?」
「お姉さんサービスですか!?」
「仕事終わりにこんなご褒美が……!」

通りすがりのサラリーマン数人が、コンビニ袋を下げたまま口をぽかんと開けて見入っている。

「み、見ないでぇぇぇっ!!」

凛は必死に裾を押さえるが、粘液は腰回りへと到達し、ワンピースの胴部分までじゅるじゅると這い上がってくる。

ブチッ! ビリッ!

「ひゃあああっ!? な、なにこれっ……っ、やめっ、やめなさいってばぁぁぁ!」

胸元の布地が、スライムの糸を引きながら左右に裂け、レースの下着が街灯に照らされる。
さらに粘液が光沢のあるカップをぬるりと覆い、強調するように形を浮き上がらせる──

「ふふっ……人間の視線に晒されて、興奮してませんかぁ……?」

ネバヤナギ女の声は耳をくすぐるように湿っている。

「してないってばぁぁぁっ!!」

凛の顔は真っ赤。必死に腕で胸元を押さえるも、粘液が背中側から這い上がって肩ひもをぷつんと切った。

「ひょええええっ!?!? ちょっ……ホントにやめてーー!!!」

サラリーマンの一人が鼻血を噴き、仲間に肩を揺さぶられる。

……凛はあられもない姿でスライム・ドレープに捕らえられていた。


「ふふふ……もぉ少し、あなたの“清楚な化けの皮”を剥がしてあげましょうねぇぇ……♥」

ネバヤナギ女が両腕を広げると、足元のスライム・ドレープが一斉に脈打った。

ぬちゅ……ぬるぅぅ……

腰回りにまとわりついた粘液が、くすぐるように脇腹を這い上がり、背中へと回り込む。

「ひゃっ……! ちょっ……それ、やだっ……変なとこ触んないでぇ!」

凛は必死に腕を振り回すが、逆に動くたび粘液が肌に吸い付き、ぴちゃっ、ぴちゃっといやらしい音を立てる。

「うわぁ……!」

数歩離れた大谷が、思わず視線を逸らしかけて──だが、すぐに赤面しながらも視線を戻してしまった。

「凛、その……お前……その格好、すごい……いや、違う、助けなきゃ……!」

「見ないでって言ってるでしょっ!!!」

凛の抗議が逆に声を裏返らせ、街灯の下で頬がさらに真っ赤になる。

ネバヤナギ女は面白そうに笑い、柳の枝状の触手を伸ばした。

「おやぁ……あなたの恋人くん、いい顔して見てますわねぇぇ? じゃあ、もっと見せてあげましょうかぁ……♥」

ズルン!

枝のような触手が、凛の背中から胸元へと回り込み、残っていたワンピースの布地を横に引き裂いた。

ビリビリィィッ!!

「きゃあああああああああああっっ!!!」

ワンピースの前面が大きく裂け黒のブラが半ば粘液に覆われながらくっきり浮かび上がる。下着の上からでも、粘液の冷たさとぬるみが輪郭を強調し、いやでも視線を奪う。

「凛っ……!」

大谷が駆け寄ろうと一歩踏み出すが、足元をスライムが滑らせる。

「うわっ……!」

と派手に転び、間近で凛の粘液まみれの姿を見上げてしまう。

「ち、違うの! これはその……戦闘中だからっ……!!」

凛が必死に弁解するが、そのポーズがまたもや胸元を強調する形になり、通りのサラリーマンたちの視線が一点に集中。

「凛さん……これ、もしかして新しいショーですか!?」
「そうそう! ヒーローショー的なやつだよな! ほら、もっと見せて!」

「見せないわよバカぁぁぁっっ!!!」

だがネバヤナギ女はさらに粘液を増やし、今度は背後からふとももへ、そしてヒップラインへと流し込む。
ぬちゅぬちゅ……と下着のラインに沿って這う感触に、凛はビクッと跳ね上がった。

「ひゃあっ!? あ、ああぁあああああんっ……! やっ……そこは……やめ……!」

涙目で振り返る凛に、ネバヤナギ女は舌なめずりをしながら囁く。

「恥ずかしいなら、早く“昔のあなた”に戻って……♥ そうすれば、この羞恥も快感に変わりますよぉ……?」

「だ、誰が戻るもんですかぁぁぁぁっっ!!!」

真っ赤になった凛の叫びが、夜の街に響いた。


「――はいそこまで! 警察だ!」

サイレンの音が響き、数台のパトカーが通りを塞いだ。警官たちがバリケードを展開し、黄色い警戒線がピンと張られる。

「な、なんでこんな大事にっ……!」

凛は腰まで粘液に絡め取られたまま、目を白黒させる。

「おい! あれ……凜さんが怪人に絡まれてるぞ!」
「服……溶けてる……のか? お、おい映すなよ!」
「でもほら、もう中継車来てるぞ!」

ヒュン……ヒュン……と、空に小型ドローンの影が舞う。
テレビ局のロゴ入りドローンが数台、凛とネバヤナギ女の周囲を円を描くように飛び回り、そのレンズがサーチライトの光を受けてぎらりと光った。

パァァァッ――

一際強いサーチライトが夜道を照らす。
粘液に塗れた凛のボルドーのワンピースはあちこちが破れ、下着や濡れたシルエットがはっきりと浮かび上がる。

「ちょっ……や、やめて! そんな明るく照らさないでぇっ!!」

凛が腕で胸元を押さえるが、ネバヤナギ女が後ろからぬちゅっと抱きすくめ、耳元に囁く。

「ふふふ……全国放送ですよぉ……♥ あなたの“清楚系”な素肌が、いま全国のお茶の間に……」

「い、いやぁぁぁあああっ!!!」

凛がバタバタと暴れるたび、粘液が腿から尻、背中までびしゃびしゃと跳ね、余計に艶かしい反射を生む。

「おっと、いいねぇ! カメラさん、もっと寄って寄って!」

ドローンの操縦室からディレクターの興奮した声が響き、画面は粘液に覆われた凛の腰元アップ。

「やめろってばっ!! これニュース映像じゃなくて完全に放送事故ぉぉ!!」

ネバヤナギ女はわざと粘液の動きを緩め、ゆっくりと凛の腹から胸元へと這い上がらせる。

「恥ずかしいなら、もっと必死に隠しなさぁい……ほら、そうやって腕で隠すと……形がくっきり見えちゃうでしょぉ?」

「やめろぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

真っ赤になった凛が身をよじるたび、警官や野次馬たちの間からどよめきが起きる。

「こ、こら君たち下がりなさい! 警戒線の外へ!」
「無理だって! こんな美人さんがあんな……!」
「テレビ映ってるし、帰ったら録画見ようぜ!」

「悠真ぁぁ!! 助けてってばぁぁぁぁっ!!!」

凛の叫びに、大谷は顔を真っ赤にして突き進もうとするが、別の警官に止められる。

「俺、彼氏なんだ! 行かせてくれ!」

「彼氏ぃ? なら……あの姿、しっかり目に焼き付けとけよ……」

と隣の警官が妙に真顔で呟く。

「くぅぅぅぅ~~~~っ!! 絶対あとで殴る!!」

凛の声が夜の街にこだまし、サーチライトの光の中で粘液が妖しく輝き続けていた。


水都の夜、奈理子の自宅リビング

奈理子はソファでクッションを抱え、録画していたおしゃれバラエティを見ながらまったりモード。
隣のテーブルでは、隆がポテチを食べつつスマホゲームに夢中になっていた。

そんな空気を切り裂くように、テレビの画面がプツンと切り替わる。

『臨時ニュースをお伝えします――』

次の瞬間、画面に映し出されたのは――
街灯の下、粘液まみれで下着姿になった凛だった。

「……へっ!?」

奈理子が二度見する横で、隆がポテチを落としかける。

「り、凛ちゃんが……姉ちゃんみたいに下着姿にされてる!」

瞬間、隆はソファから飛び出し、テレビの目前へダッシュ。顔をぐっと近づけて食い入るように見つめる。

「隆! 見ちゃダメ!」

奈理子は慌てて立ち上がり、テレビの前に立ちはだかる。

「見せろよ! いつも敵に脱がされる姉ちゃんと違って、凛ちゃんの大人パンツはなかなか見れないんだぞ!」

「私はいつも脱がされてないわ!」

「嘘つけ! 街中バトルの時なんていつも全国放送で――」

「やめなさいその話はぁぁぁ!!」

もみ合いながら、奈理子は必死にリモコンを奪い取ろうとするが、隆は左右に身をかわしながら死守。

「そんなことより、早く凛ちゃんを助けに行けよ!」

「言われなくても行くわよ! でもまずは服を着替えて――」

「パンツのまま行けば目立ってすぐ見つけてもらえるんじゃね?」

「誰が行くのよそんな格好でぇぇぇ!!」

姉弟の押し問答の後ろで、テレビは無情にも中継を続ける。
ネバヤナギ女が粘液まみれの凛に耳打ちする姿がアップになり、奈理子は顔を真っ赤にしてリモコンを連打した。


再び、ホテル水都インターナショナルのエントランス前

「……やっ……もう……やめてぇぇぇ……っ!」

粘液が腰回りから胸元までを覆い、ついにブラのホックまでもじゅわりと溶かし始める。凛は必死に腕で押さえるが、動くたびにぴちゃっ、ぬちゅっと粘液がいやらしい音を立てる。

「ふふ……せっかくの勝負下着だったのに……全部、溶けちゃいましたねぇ……♥」

ネバヤナギ女が片目を細め、背中越しに凛の耳へねっとりと囁く。

「~~~~~~っ!!」

真っ赤になった凛は言葉にならず、足をばたつかせるだけ。

観衆の輪の中、ひときわ異彩を放つ二つの人影があった。

「ほぉ……これぞ我が穢川研究所が誇る、初の三種生物合成怪人の実力……!」

九頭博士は上機嫌で双眼鏡を構え、凛の粘液まみれ姿をまじまじと観察している。

「衣服溶解、拘束、羞恥心を極限まで引き上げる……完璧だ!」

「……博士、そんな直視できません……」

隣の絹絵は眉をひそめ、半ば顔を背けている。それでも視界の端で状況を把握してしまい、唇を固く結んだ。

その時だった。
夜空を裂くような風切り音――バサァッ!
まばゆい白光が降り注ぎ、白い翼“ミラクルウイング”を広げたミラクルナイトが、ネバヤナギ女と凛の間に舞い降りた。

「凛さんをこんなに恥ずかしい格好にして! ライトで照らして! 観客まで集めて! しかも全国に中継まで流すなんて――許せない!」

翼を翻し、厳しい眼差しを向けるミラクルナイト。

「それは市警や市民やテレビ局がやってることじゃないのぉ?」

ネバヤナギ女はわざと肩をすくめ、涼しい顔で返す。

「どうでもいいから……奈理子……早く助けてよ……」

粘液まみれの凛が半泣きで訴える。ミラクルナイトは一瞬ぎくりとしたが、拳を握り、ネバヤナギ女に向かって一歩踏み出した。

「……絶対に、あなたを止めます!」


ミラクルナイトは翼をたたみ、手を広げて力を集中させた。

「――ミラクル・アクアティック・ラプチャー!」

水色の光の渦がほとばしり、凛を絡め取っていた粘液を一気に洗い流す。
ぬちゅるるっ、と嫌な音を立てながらスライムが弾け飛び、凛の体は解放された。

「凛さん、大丈夫ですか!」

「だ、大丈夫……でも早く、あいつを……!」

ネバヤナギ女は笑みを崩さず、ミラクルナイトに枝垂れた触手を向ける。

「今度はあなたが、風間凜の代わりに……♥」

「そんなこと、させない!」

ミラクルナイトが駆け出す――が、足元からぬるりと這い上がる粘液に、思わず足を取られた。

「ひゃっ……な、何これっ!? 冷た……きゃあああっ!」

瞬く間に脚から腰、そして胸元へと粘液が広がり、衣装の布地がじゅわりと溶けていく。
スカートが腰の途中でぱっくり裂け、太腿があらわに。上半身では白と水色の生地が透け、肌のシルエットが浮き上がる。

「おおおっ!?」
「ミラクルナイト様のサービスシーンきたー!!」
「写真! 写真!」
「バカ、生放送だぞ!」

野次馬たちは大騒ぎ。スマホを構える者、口笛を吹く者まで出る始末。

「や、やめっ……見ないでぇぇぇっ!」

ミラクルナイトは必死に胸元を押さえるが、その動きで余計に視線が集まり、顔が真っ赤に。

「あなたも、粘液まみれが似合いますねぇ……♥」

ネバヤナギ女の声に、ミラクルナイトは羞恥で息が詰まる。
粘液は全身に絡みつき、動きも封じられ――

「……くっ……もう……だめ……」

ついに膝をつき、戦闘不能に。

「奈理子! しっかりして!」

粘液から解放された凛が駆け寄る。その目には、ためらいを振り払うような決意が宿っていた。

「今度は私の番……変身!」

強い風が巻き起こり、白と薄茶のへそ出しルックが夜に輝く。
セイクリッドウインド――風間凛が、ミラクルナイトの前に立ちふさがった。

「へぇ……元ナメコ姫が、また私の相手をしてくれるのねぇ」

ネバヤナギ女は嬉しそうに枝を揺らす。

「今の私はナメコ姫じゃない! セイクリッドウインドよ!」

風をまとった凛の声に、野次馬が再びどよめく。

「おっ、凛ちゃんも変身!」
「今日の夜、やばすぎる!」

湿気と粘液の中、二人の視線が火花を散らす。
水都の夜に、新たな戦いの幕が上がった――。


「さあ……セイクリッドウインドさん……♥ そのコスチュームもさっきみたいに、溶かしてしてあげますわぁ……」

ネバヤナギ女が枝垂れたツタをゆらし、全身の粘液を波立たせる。湿った夜気がさらに濃くなった。

「やれるもんならやってみなさい!」

凛――セイクリッドウインドは緑と銀のコスチュームを翻し、両手に銀の鉄扇・ガストファングを構える。
翼のように広がる鉄扇が街灯を反射し、涼やかな音を立てて閉じられると、彼女の全身から一陣の風が巻き起こった。

「ガストファング・カッター!」

ガストファングを振り下ろすと、鋭い真空の刃が飛び、迫る粘液の一部を切り裂く。飛沫が宙に舞い、野次馬の頭上へ――

「うわっ冷たっ!?」
「頭からぬるぬる落ちてきた!」
「あああ! スーツが台無しだ!」

しかし切り裂かれた粘液はすぐに再生し、逆に無数の細い糸となって地面を這い回り、セイクリッドウインドの足元から絡みつこうとする。

「ぬちゅ……ぬるぅぅ……♥」

「しまっ……!」

足首に巻きついた瞬間、コスチュームの布がみるみる色を変え、銀の生地が湿って肌に張り付く。

「やだっ……これじゃ……!」

ガストファングで払い除けるも、粘液は二手三手に分かれ、ふとももや腰へ回り込んでくる。

「ふふ……そのコスチューム、溶かしたらどんな姿になるのかしらぁ……♥」

「そうはいくかぁっ!」

セイクリッドウインドはガストファングを交差させ、竜巻のような風を巻き起こす。粘液は吹き飛ぶが、湿度の高い空気は重く、すぐに新たな波が迫る。

「おおー! 凛ちゃん、カッコいい!」
「でも服が……透けてきてないか?」
「しっ……静かに見ろ!」

後方ではミラクルナイトがまだ粘液まみれのまま座り込み、必死に布地を押さえていた。

「凛さん……頑張って……! でもあんまり破けないで……!」

ネバヤナギ女は一瞬、ミラクルナイトの方を見やって笑みを深める。

「ふふ……あなたのお友達も、もう少し楽しませてもいいかもねぇ……♥」

「相手は私よ!」

セイクリッドウインドが地を蹴り、ガストファングを広げて渾身の一撃を叩き込もうと跳び上がった――

その瞬間、頭上から降り注ぐようにネバヤナギ女の粘液がシャワーとなって襲いかかる!

「うわぁぁっ!?」

全身が一瞬でぬるりと包まれ、緑と銀のコスチュームがぴたりと肌に張り付き、輪郭がくっきりと浮かび上がる。

「……っく……まだ……負けない!」

その瞳にはまだ光が宿っていた。


戦いの喧騒の中、ミラクルナイトは後方で必死に粘液と格闘していた。

「や、やめっ……そこは……っ! ああぁぁっ!」

白と水色のコスチュームはほとんど溶け、スポンサーである大手下着メーカー・ミコールが誇るコットン100%純白の**“奈理子のブラ&ショーツ”**があらわに。
だが、その清楚な下着も、粘液がじゅわりと染み込み――繊維が解け始めていた。

「お、おおおおお!?」
「あれって新作の“奈理子のブラ”だよな!?」
「限定モデルが……!」

観衆は興奮と悲鳴の入り混じった声を上げ、スマホを掲げて連写する者も続出。

「や、やだっ……見ないでぇぇぇっ!」

奈理子は必死に手で隠すが、その仕草がまた観衆をヒートアップさせる。

一方、戦場の中心。
セイクリッドウインドは緑と銀のコスチュームを溶かされながらも、鉄扇・ガストファングを振るい、粘液を必死に払いのけていた。
だがネバヤナギ女はにやりと笑い、柳の枝状触手を四方から繰り出す。

「さぁ……あなたのその紺色のインナー……レオタード風で素敵ねぇ……♥ それも、溶かしてあげましょうかぁ?」

「そんなことさせない! ――ヌルヌル発射っ!!」

セイクリッドウインドの掌から、ナメコ由来の自前粘液が放たれ、敵の枝を滑らせて弾く。
だがネバヤナギ女はその粘液を逆利用し、自らの粘液と絡ませて強度を増し、逆に凛の手首を巻き取った。

「なっ……うそっ……!」

ぐいっと引き寄せられ、粘液の渦の中へ引きずり込まれるセイクリッドウインド。
粘液でまみれた凜の体ががぬるぬると光り、背中や腰のラインがくっきり浮き出す。

「セイクリッドウインドまで……!」
「今日の水都、どうなってんだ!」
「奈理子ちゃんも凛ちゃんも……神回確定!」

野次馬は熱狂し、テレビ中継のコメント欄も炎上寸前。

ネバヤナギ女は両者を見比べ、さらに笑みを深めた。

「ふふふ……どちらから先に、全部剥がして差し上げましょうかぁ……♥」


サーチライトが二人を照らし出す。
前衛で粘液と格闘するセイクリッドウインド、後方ではミラクルナイトが必死に自分の身を守っていた。
だが――

「いやあああぁぁぁっ!!」

ついに“純白の天使”の象徴、ミコール製奈理子のショーツが、粘液の侵食に耐え切れずふわりと繊維を解き、光の粒となって消え去った。
残ったのは滑らかな脚線美と、慌てて両手で覆う奈理子の羞恥に染まった顔だけ。

「おおおおおっっ!?」
「やべえ! 生ミラクルナイトだ!」
「水都史上最大のスクープだぞ!」

野次馬が叫び、マスコミ各社のカメラが一斉にシャッター音を響かせる。
中継車からは

「ズームもっと! 表情を抜け!」

と怒号が飛び、ドローンが真上から奈理子を追い続ける。

その隣、セイクリッドウインドも粘液に絡め取られ、緑と銀のコスチュームが限界まで張り付き、紺色のレオタード型インナーさえもじわりと溶かされていく。

「くっ……やだ……これ以上は……!」

腰から太腿にかけて粘液がまとわりつき、観衆の視線を集める。

「凛さんまで……!」
「今日はなんて日だ!」
「ミラクルナイトと水都神社の看板巫女が同時に……!」

熱狂する市民、興奮する記者、SNSはすでに映像で大炎上。

ネバヤナギ女は勝ち誇った笑みを浮かべ、二人を見下ろす。

「ふふふ……これで“水都の守護神”も形無し……全国の人間に、あなたたちの“恥ずかしい姿”を見せつけてやったわぁ……♥ 負けを認めて、二度と人前に出られない体にしてあげるぅ……」

奈理子は顔を真っ赤にし、声にならない声を上げる。

「……く……くやしい……でも……動けない……」

凛もまた、ガストファングを握りしめたまま粘液の中で膝をつき、悔しさに歯を食いしばった。

その時――

「遅れてごめんなさいっ!!」

闇夜を裂くように、オレンジ色の影が電柱の上から飛び降りた。
フリルのついたドレスに黄色のブルマ、手には長いキャンディチェーン。
ドリームキャンディが、額に汗を浮かべながら着地する。

「親の目を盗んで家を抜け出すのに手間取っちゃった! でももう大丈夫! 二人とも、今助けるから!」

その声に、奈理子と凛の瞳がわずかに光を取り戻す。
だが、粘液にまみれたままの彼女たちの姿を見て、観衆はさらに大きなどよめきを上げた。

夜の水都、最高潮の熱狂と羞恥の中――三人の戦士の運命は次の瞬間へと動き出そうとしていた。


「奈理子さん! 凛さん! 今助け――」

駆けつけたドリームキャンディの足が、そこで止まった。
サーチライトの下、粘液にまみれたミラクルナイトとセイクリッドウインド。
奈理子はスポンサー提供の純白ショーツを失い、必死に手で隠す“ノーパンの天使”そのもの。
凛は紺色のレオタード型インナーまでほとんど溶かされ、ガストファングを握ったまま膝をつく。

「……目が……目が……点になっちゃう……」

ぽかんと口を開けたドリームキャンディ――寧々は、学級委員長らしい真面目な優等生。色事耐性ゼロな彼女には、あまりに刺激が強すぎた。

「奈理子さんは……まぁ、いつものことだけど……凛さんまで……」

思わず後ずさるドリームキャンディの耳に、鋭い声が飛ぶ。

「キャンディ、しっかりしなさい!」

セイクリッドウインドが、粘液に絡め取られながらも叱咤する。

「そ、そんな……捕まって素っ裸にされてるくせに……」

反論しかけたが、さすがにそれ以上は言葉にできなかった。
今、この場で状況を打開できるのは自分しかいない――それはドリームキャンディ自身、よくわかっていた。

ネバヤナギ女が、ぬるりと首を傾け、ドリームキャンディに片目を向ける。

「……じゃあ、次はあなたねぇ……♥ まだ汚れてない、真面目そうな中学生戦士さん……」

「……!」

ドリームキャンディは唇をきゅっと結び、視線を落として一度大きく息を吸った。
そして、地面にキャンディチェーンをバシーンと叩きつける。

「私は中学生戦士、ドリームキャンディ!
奈理子さんや凛さんと違って、すっぽんぽんにされるような間抜けなヒロインじゃないわ!」

開き直ったその声に、観衆から

「おおーっ!」

と歓声が上がる。
ネバヤナギ女は口元を歪め、

「それはこれから確かめてあげる……♥」

と低く囁く。

サーチライトが二人を照らし、湿った夜気がさらに重くなる。
今まさに――ドリームキャンディvsネバヤナギ女の戦いが始まろうとしていた。


野次馬の後列、帽子を目深にかぶった九頭博士が双眼鏡を構えていた。
その隣には、腕を組んで戦況を見つめる絹絵の姿。

「ふふ……ついに来たな、3人目。中学生戦士ドリームキャンディ……。三人の中で最も戦闘力が高いとなれば、ネバヤナギ女、どう動く?」

九頭は楽しげに声を潜める。

「でもドリームキャンディは真面目で頭が固くて融通が利かない性格ですから、意外と脆いかもしれませんよ」

絹絵は視線を逸らさず、冷静に答えた。

その言葉を証明するように、戦場で事態が動いた。

「おや……♥」

ネバヤナギ女が微笑み、ぬちゅりと全身から粘液を解き放つ。

「わっ――!」

ドリームキャンディは反射的に固まったまま、まともに浴びてしまった。
ぬるぬると広がる粘液が、鮮やかなオレンジ色のドレスにしみ込み、じわじわと繊維をふやかしていく。

「何で避けないの!」

粘液にまみれたまま膝をつくセイクリッドウインドの叱咤が飛ぶ。

「わあっ! ドレスが……!」

ドリームキャンディは悲鳴を上げ、両手で裾をつかんで押さえた。

「ドレスなんかどうでもいいから、戦いなさい!」

丸裸にされて晒されてるくせに、うるさいなぁ……奈理子さんのように黙っていてください!!」

ムッとするドリームキャンディの言葉に、セイクリッドウインドは言葉を詰まらせる。

「まぁ……仲間割れ?」

ネバヤナギ女は二人の言い合いを楽しそうに眺める。

そのすぐ傍らでは、ミラクルナイトが粘液責めに耐えられず、息を荒くして震えていた。観戦どころではなく、ただ羞恥と粘液の感触に翻弄されている。

「奈理子、耐えなさい!」

「凜さん…私もう…ダメ……奈理子、逝きます!……あぁーーッ!!!」

絶叫とともに果てるミラクルナイト。

いやぁ……もうイッたから…やめてぇ!」

しかし、粘液責めはまだ終わらない。

「うふふ……奈理子はやっぱり可愛いわね」

ネバヤナギ女は余裕の笑みを浮かべ、中学生相手に完全に舐め切った構え。

(奈理子さんや凛さんのように、恥ずかしい姿を全国に中継されるのは絶対にイヤ! ドレスが溶け切る前に決着をつけて、さっさと退散しなきゃ!)

ドリームキャンディの瞳がきらりと光る。

「さぁ……もっとヌルヌルになりましょうかぁ……♥」

ネバヤナギ女が粘液を、わざと狙いを外しながらもドリームキャンディの周囲に降らせ、じわじわと追い詰める。

だが――

「……今だっ!」

寧々はその一瞬の隙を見逃さなかった。
キャンディチェーンを振りかぶり、地面を蹴って間合いを詰める。

バシュッ!

鋭い音と共に、鉄鎖の先端がネバヤナギ女の肩口を捉えた。

ネバヤナギ女の妖艶な笑みが、わずかに引き締まる。
戦いの空気が、一気に変わった――。


「当たった!」

キャンディチェーンの手応えを確かめ、ドリームキャンディの表情が一気に引き締まる。
その鎖は瞬く間に縮み、先端が巨大な球状に変形していく。

「ロリポップハンマー、起動!」

甘い香りと共に現れたのは、彼女の必殺武器。

「私が……こんな小娘の攻撃を受けるとは……」

肩を押さえ、粘液を垂らしながらドリームキャンディを見据えるネバヤナギ女。
だが――

「なっ!?」

次の瞬間、彼女の視界いっぱいに、巨大なロリポップハンマーの球面が迫っていた。

「ロリポップ――凄い突き!!」

全体重を乗せた鋭い突きが、ネバヤナギ女の身体を貫くように押し出す。

「あああぁぁぁぁ……!」

粘液を散らしながら、ネバヤナギ女は夜空を舞い、やがて月の方向へと点になって消えた。

街中に、大歓声が沸き起こる。

「やった!」
「ドリームキャンディ様ーー!」

観衆が拍手し、テレビ中継のコメント欄はお祭り状態。

ドリームキャンディは一息つき、胸の前で手を合わせた。

「ドレスが消える前に、帰らなきゃ……」

くるりと背を向け、足早に立ち去ろうとする。

「キャンディ、待って! 私たちをこのままにして帰らないで!」

粘液でコスチュームを完全に溶かされたセイクリッドウインドが、必死に呼び止める。

その横で、ミラクルナイトは相変わらず膝を抱えて荒い息を吐き、羞恥に震えていた。

「……急ぐのに……」

呟きつつも、ドリームキャンディは足を止める。

「このヌルヌル、何とかしてよ……こら、撮るな!」

テレビ局の撮影用ドローンが、無遠慮にセイクリッドウインドの胸元腰回りを接写している。
確かに、このまま全国中継される二人を放置するのは、いくらドリームキャンディでも気が引けた。

「ちょっと我慢してくださいよ」

「……あまり強くしないでね」

「キャンディシャワー!」

七色の光が放たれ、ミラクルナイトとセイクリッドウインドを優しく包み込む。光が消えると、粘液は綺麗に洗い流されていた。

「はい、完了。あとは自分で帰ってくださいね」

ドリームキャンディはそっけなくそう言い残すと、振り返りもせず、黄色い光とともに夜の街へ消えていった。

残された二人の全裸戦士は、深夜の騒然とした水都の街に立ち尽くし、互いにため息をつくしかなかった――。


「奈理子、大丈夫?!」

駆け寄ったセイクリッドウインドが、ミラクルナイトの両肩を掴む。

「凛さん……私……カメラの前で何度も……

羞恥と安堵が入り混じった声で呟き、ミラクルナイトはそのままセイクリッドウインドに縋り付いた。

「奈理子が助けに来てくれて嬉しかったよ。寧々はさっさと一人で帰ったけど……」

セイクリッドウインドは優しくミラクルナイトの頭を撫でる。

「奈理子、可愛かったぞ!」
「凛ちゃん、良いものを見せてくれてありがとう!」

サーチライトに照らされ、抱き合う二人の美しい姿に、野次馬たちは大歓声を上げた。

やがて、ミラクルナイトは変身を解除。白いパーカーとショートパンツ姿の野宮奈理子に戻る。

「凛さんは変身解除しないんですか?」

「それは……」

セイクリッドウインドは恥ずかしそうに両手で胸と股の付け根を隠す。服を溶かされた状態で変身したため、解除しても裸のセイクリッドウインドが裸の風間凛に戻ってしまうだけなのだ。

「奈理子、逃げよう」

ここに居れば警察の事情聴取やマスコミの取材に捕まってしまう。
セイクリッドウインドは奈理子を抱きかかえ、緑色の光の玉となって夜空へと舞い上がった。

一方、野次馬に紛れていた九頭と絹絵。

「どこまで飛ばされたんですかね?」

絹絵が月を見上げる。

「あれくらいでネバヤナギ女はくたばらないよ」

九頭は口角を上げると、低く呟いた。

「三種合成怪人は成功だ。ネバヤナギ女にはこれからも風間凛を狙わせよう。もちろん……奈理子もな」

夜の水都に残る熱気と騒めきの中、二人の影は人波に溶けていった。


翌日の放課後・商店街「グフグフハンバー」

商店街の一角にある「グフグフハンバー」の奥のボックス席に、三人のヒロインが向かい合って座っていた。

水都女学院高校の水色セーラー服姿で、制服の襟を指先でいじりながら下を向く野宮奈理子。
水都中学の紺色セーラー服にきちんとベレー帽をかぶった杉原寧々。
そして、多忙な仕事の合間を縫って駆けつけた小袖と緋袴姿の巫女――風間凛。

テーブルの上にはポテトやドリンクが並んでいるが、場の空気はどこか重かった。

「……昨日は、本当に……ごめんなさい」

奈理子が顔を伏せ、ストローでソーダをかき混ぜる。

「私も……まさか、変身前と変身後…二度も同じ怪人に裸にされて、しかも全国に中継されるなんて……」

凛は苦笑ともため息ともつかない息を漏らし、緋袴の裾をさわって落ち着かない様子だ。

デート帰りにネバヤナギ女に襲われ、ミラクルナイトに救われたものの、その後変身して挑んだ戦いで再び粘液に絡め取られ、服もインナーも溶かされてしまった凛。
助けに入った奈理子も、ネバヤナギ女の粘液に捕らえられ、スポンサー提供の純白下着までも消滅させられる屈辱を味わった。

その二人とは対照的に――寧々は、颯爽と現れ、ネバヤナギ女をロリポップハンマーで撃退し、粘液責めから二人を救い出して速やかに現場を後にしていた。

だが、SNSでは想定外の反応が渦巻いていた。
昨夜の中継映像を切り取った短い動画が拡散し、ハッシュタグ「#水都の天使」「#粘液に負けない二人」がトレンド入り。
コメント欄は、


「奈理子様のイキ顔、可愛すぎて尊い!」
「凛ちゃんのあの表情、永久保存版」
「戦士としても女性としても輝いてた!」

と、二人を称えるメッセージで埋め尽くされていたのだ。

「……なんで私たち、あんな目に遭ったのに褒められてるの?」

奈理子が恐る恐るスマホを見せると、そこには笑顔で抱き合う自分と凛の写真が、サーチライトの光に映えていた。

「市民はね、ああいうのを“絆”とか“勇気”って受け取るのよ」

凛は苦笑しながらも、どこか誇らしげだ。

「……でも私は、次は絶対あんな格好にされませんから!」

寧々は腕を組み、やや鼻を鳴らす。

二人の視線が自然と寧々に向かう。
昨日、自分たちを救った中学生戦士――だが、その瞳は「次こそは負けない」という決意で輝いていた。

ハンバーガーの香りが漂う中、三人の反省会は、次の戦いへの静かな予感を孕んで進んでいった。

第211話へつづく)

あとがき