DUGA

ミラクルナイト☆第171話

水都神社の境内。

夏の名残を感じさせる蝉の声が響く中、ミラクルナイトこと奈理子、ドリームキャンディこと寧々、そして元・敵幹部であり今は神社の巫女である凜が集まっていた。

年齢は違えど、共に戦う仲間。

彼女たちは、先日の水都ファミリーランドでの戦いの記録を動画サイトで確認していた。

うわぁ……これは強いわ。クワガタ男クラスだね。

タブレットを覗き込みながら、凜が感嘆の声を上げた。

クワガタ男。昨年の夏に現れた最強クラスの怪人だ。

う〜ん……クワガタ男は純粋にクワガタのポテンシャルで戦う相手だったけど、タマムシ男は特殊能力も使うから……どっちかっていうとイセエビ男の方が近いかも。

寧々が慎重に分析する。

イセエビ男。今年の元旦に現れた怪人。

どちらも、これまでの戦いで最強クラスの敵だった。

でも、イセエビ男は私たち3人で力を合わせて倒したんだから、今回も何とかなるでしょ? ね、奈理子?

凜がずっと黙っている奈理子に声をかけた。

……うん……

奈理子は俯いたまま、力なく頷いた。

どうしたの? 私たちが奈理子を守るから、大丈夫だよ。

凜の言葉に、奈理子はかすかに微笑む。

ありがとう……でも、私が弱すぎるから、2人に迷惑ばかりかけて……ごめんね。

申し訳なさそうに呟く奈理子。

奈理子は弱くなんかないよ!

凜が即座に否定する。

私と寧々が手も足も出なかったクワガタ男を倒したのは奈理子でしょ? イセエビ男の時だって、私と寧々は諦めかけていたのに、最後まで頑張ってくれたのは奈理子じゃない。ほとんど一人で倒したようなものだよ!

奈理子さん、疲れてるんですよ。少し休んだ方がいいです。

寧々も優しく言葉をかけた。

……うん。そうする……。

奈理子は思い詰めた表情のまま、神社を後にした。

奈理子が去った後——。

……奈理子、かなり参ってるね。

凜が溜め息混じりに呟く。

ここ最近、負けが続いてますからね……。

寧々が頷いた。

特にトケイソウ女に負けたのが相当ショックだったみたいですね。あれは……ちょっと酷い負け方でしたし。

水都ファミリーランドでの戦いの記録は、タマムシ男とエビカイコとの戦いだけでなく、ミラクルナイトとトケイソウ女の戦闘の映像もアップされていた。動画の数は、ミラクルナイトとトケイソウ女の戦いの方が圧倒的に多い。

……これね。

凜が動画を再生する。

画面に映し出されたのは——完全に弄ばれているミラクルナイトの姿だった。

ねえ、奈理子さんの夏期補習が終わってから、昼間によく敵が出現するようになったと思いませんか?

寧々がふと呟く。

言われてみれば……確かに、一学期のころは放課後によく出てたのに、最近は昼間が多いかも。

凜も気づいた様子だった。

そう言えば、最近は私の勤務中に敵が現れることが多いなぁ……。

凜は水都神社に勤める身。昼間は基本的に戦いには参加できない。

敵って……水都の街じゃなくて、奈理子を狙ってるんじゃないですか?

寧々が口にする。

しかし——

それは無いよ。クラゲ男はそんな小さな男じゃない。

即答する凜。

クラゲ男。

敵の首領、勅使河原。

かつて凜——ナメコ姫が仕えていた相手でもある。

彼のことをよく知る彼女だからこそ、断言できる。

ナメコ姫がそう言うのなら、そうかもしれないですけど……

寧々は納得しきれない様子だったが、話題を変えた。

奈理子さん、最近覇気がありませんね……。

クワガタ男にボコボコにやられたときは、カブトムシ男に弟子入りまでして『打倒クワガタ男!』って燃えてたのにね。

凜が1年前を懐かしむように微笑む。

でも今の奈理子さんは、ただ打ちのめされて、ただ傷ついてるだけ……。

寧々の声には、わずかに焦りが滲んでいた。

次の戦いで、今度こそ奈理子さんを立ち直らせないと。

……そうね。私たちの役目は、奈理子を支えることだもの。

凜が静かに言う。

水都の守護神——ミラクルナイト。

彼女の光は、今にも消えかけている。

だが、寧々も凜も、それを見過ごすつもりはなかった。

……必ず、奈理子を取り戻す。

彼女たちの決意が、夕暮れの神社に静かに響いた。


水都公園の運河沿いを、奈理子はぼんやりと歩いていた。

日が落ちかけた空が川面に映り込み、ゆらゆらと揺れている。

帰りたくなかった。

一人きりの部屋にいると、どうしても沈んでしまう。

歩いているほうが、まだ気が紛れる——そう思った。

——ここのところ、ミラクルナイトは敗北続きだ。

奈理子は、自分がドリームキャンディやセイクリッドウインドよりも弱いことを認めている。

寧々のドリームキャンディや、凜のセイクリッドウインドは、変身することで飛躍的に身体能力が向上する。

だが、ミラクルナイトは違う。

変身しても、奈理子自身の腕力や体力が劇的に上がるわけではない。

確かに、ミラクルな力を使えば一時的に強大なエネルギーを発揮したり、空を飛んだり、多彩な技を繰り出したりすることはできる。

——しかし、結局、根本的な強さは変わらない。

力比べに持ち込まれるたび、奈理子は己の無力さを痛感するばかりだった。

それでも、奈理子の人気は絶大だった。

弱くても街を守るために戦うミラクルナイトの姿に、市民は熱狂する。

動画投稿サイトには、ドリームキャンディの戦いの映像よりも、ミラクルナイトの戦いの映像が圧倒的に多くアップされていた。

負ければ負けるほど、奈理子の人気は高まる。

それが、果たして「水都の守護神ミラクルナイト」として正しい在り方なのか——奈理子には分からなかった。

そして、もう一つ。

白パンツブラックナイトJK。

奈理子のコピーであるブラックナイトは、ミラクルナイトと同じ力を持つはずだ。

それなのに、ブラックナイトはタマムシ男とエビカイコを相手に善戦していた。

どちらも、ミラクルナイトが瞬殺された相手であるにもかかわらず——。

私には、何が足りないんだろう……。

奈理子は弱いことを自覚していた。

だからこそ、日々の鍛錬を怠らなかった。

寧々や凜に遅れを取らないように、精一杯努力してきた。

それなのに——それなのに、結果は変わらない。

もう、どうしたらいいか分からない……。

奈理子が深いため息をついた、そのとき——

——騒然とした声が、公園の向こうから聞こえてきた。

噴水広場のほうから、次々と市民が逃げてくる。

奈理子さん! タマムシ男です!!

逃げ惑う人々の中の一人が、奈理子の姿を見つけて叫んだ。

タマムシ男……。

奈理子の脚が震える。

——先日の戦いが脳裏をよぎる。

タマムシ男のたった一発の腹パンチで、ミラクルナイトは失神し、失禁するという屈辱的な敗北を喫した。

思い出すだけで、全身がこわばる。

まだ噴水広場には、大勢の人がいます!

奈理子さん、助けてください!!

逃げてきた市民が、奈理子を取り囲む。

「……」

奈理子の心臓が、ドクン、ドクンと大きく鳴る。

怖い。

また、あの恐怖を味わうのか。

——でも、逃げるわけにはいかない。

奈理子は、水都の守護神ミラクルナイトなのだから。

お願いします! 奈理子さん!!

市民が縋るように叫ぶ。

(怖いなんて言ってる場合じゃない……!)

奈理子は、震える指でアイマスクを取り出した。

——もう一度、立ち向かうしかない。


ミラクルナイトは噴水広場へと駆け込んだ。

広場の中央には、太陽の光を受けてまばゆく輝くタマムシ男が立っていた。

荒れ狂っているわけではない。

ただそこに立っているだけだった。

にもかかわらず、市民たちは驚き、恐れ、次々と広場から逃げ出していた。

——この異様な存在感。

ミラクルナイトは、無意識に身を震わせた。

(あのときも……こうして、淡々と私のスカートを脱がした……)

先日の戦いを思い出す。

タマムシ男は、いやらしさを感じさせることなく、まるで「当然のこと」のように、迷いなくミラクルナイトのスカートを剥ぎ取った。

ただの悪戯ではない。

彼にとって、それは「戦いの流れ」の一部だった。

「奈理子か」

タマムシ男が視線を向ける。

しかし、興味なさげに一瞥しただけだった。

「お前には用はない」

「うぅ……」

ミラクルナイトは怯んだ。

奈理子ちゃん、今日も可愛い!

奈理子、頑張れー!

市民たちの声援が飛ぶ。

ミラクルナイトは、拳を握りしめた。

(怯んじゃダメ……!)

——私は水都の守護神、ミラクルナイト。

水都の平和を乱す者は、ミラクルナイトが許しません!

ミラクルナイトが宣言する。

「最弱ヒロインが何を言う」

タマムシ男が鼻で笑った。

(くっ……!)

ミラクルナイトは覚悟を決め、地面を蹴った。

「えいっ!」

お得意の右ハイキック——

しかし——

「遅い」

タマムシ男は軽々と、その蹴り足を掴んだ。

「えっ……?!」

「ほれ」

ミラクルナイトのバランスを奪うように、残った左足を払う。

「いやっ……!」

宙に舞うミラクルナイトの身体。

タマムシ男の動きは、無駄がなかった。

「お約束だからな」

スカートを剥ぎ取る。

今日も奈理子ちゃんのパンツはだ!!

市民の歓声が響いた。

ミラクルナイトは、バランスを崩したまま地面に倒れ込む

その瞬間——

「——ふん」

タマムシ男の両腕が、ミラクルナイトの身体を掴んだ。

「いや、やめてっ……!!」

首と腰をがっちりと掴まれたミラクルナイトは、バーベルのように高々と持ち上げられた

奈理子ちゃんのリフトアップだ!!

興奮する市民の声。

「降ろして!!お願い、降ろして!!」

ミラクルナイトはもがくが、タマムシ男の力には抗えない。

「弱いくせに、しゃしゃり出てくるな」

無造作に投げ捨てられた

「きゃぁっ……!!」

ドサッ、と地面に叩きつけられる。

「まだ……終わらない……!」

ミラクルナイトは震える脚で、よろよろと立ち上がった。

だが、明らかに限界だった。

美しい脚はガクガクと震え、両手も構えにならないほどに力が抜けていた。

「その心意気だけは褒めてやろう」

タマムシ男が一歩踏み出す。

「ひっ……!」

ミラクルナイトの足が、思わず後退る。

タマムシ男がさらに一歩。

ミラクルナイトはまた後退る。

あとずさるたびに、タマムシ男の気迫が重くのしかかる。

逃げられない。

それでも、どうしても一歩を踏み出せない。

——そのとき。

背中に、何かが当たった。

「ひぃっ……!」

驚き、ビクッと声を上げる。

振り向くと——

「奈理子さん、下がっていてください」

そこにいたのは、ドリームキャンディだった。

ドリームキャンディは、静かにミラクルナイトの肩を掴み、前へと押し出した。

「……ドリームキャンディ……」

ミラクルナイトは、彼女の背中を見つめた。

「ここからは、私がやります」

ドリームキャンディが、ロリポップハンマーを構えた。

ミラクルナイトは——悔しかった。

(また……助けられるんだ)

握りしめた拳が、震えた。


噴水広場に響く市民の歓声——

だが、その中心にいるミラクルナイトは、声を震わせながらドリームキャンディを見つめていた。

キャンディ、私も一緒に戦う!

水都の守護神として、このまま引き下がるわけにはいかない。

タマムシ男が相手だとしても——戦わなければならない。

しかし、ドリームキャンディの返答は冷たかった。

ミラクルナイトの守護が、ドリームキャンディの使命です。

ドリームキャンディは、スカートを剥がされ無防備なミラクルナイトを見た。

そして、そのミラクルナイトに害をなす者を打ち滅ぼすこと。

彼女の瞳には、一片の迷いもない。

正直、奈理子さんを守りきる自信がありません。一緒に戦われると邪魔です

その言葉が、奈理子の心を深くえぐった。

「……そんな……」

非情な戦力外通告に、奈理子の瞳が潤む。

ドリームキャンディの視線が、一瞬ミラクルナイトの下半身に落ちた。

(……あれ?)

——今日の奈理子さんのパンツ、初めて見るものだ。

白地に水色のリボンと繊細なレースの装飾。

まるで、ミラクルナイトのイメージカラーに合わせたかのようなデザインだった。

(清楚で……可憐……)

奈理子が所有するショーツの大半を把握しているドリームキャンディにとって、それは新鮮だった。

その美しいショーツに気づいたのは、ドリームキャンディだけではない。

市民たちも、スマホを構え、カメラを向ける。

新しいパンツも可愛いぞ!

奈理子ちゃん、頑張ったよ!

タマムシ男の相手はキャンディに任せていいよ!

ミラクルナイトへの称賛と、興奮の声が飛び交う。

ドリームキャンディは、ミラクルナイトの前に立ち、そっと手を伸ばした。

奈理子さんは、水都の絶対アイドルです。

ドリームキャンディの指が、ミラクルナイトのアイマスクに触れる。

「え……?」

「新しいパンツと一緒に、可愛い奈理子さんの素顔も、ちゃんと撮ってもらわないと、ファンに申し訳ないですよ。

スルリ——

ミラクルナイトのアイマスクが、剥がされた。

キャンディ……酷い……

涙が奈理子の頬を伝う。

今の奈理子さんに戦いは無理です。しばらく休んで、敵と戦う強い気持ちを取り戻してください。

ドリームキャンディの声は、優しく、それでいて強かった。

奈理子は唇を噛んだ。

私は、守護神なのに……戦えないの……?

私は……こんなことでしか、市民の皆様のお役に立てないんです……

ミラクルナイトは涙を拭い、スマホを構える市民たちに向き直った。

可愛く撮ってください……

——その可憐な姿に、歓声が沸き起こる。

「奈理子の撮影会なら、俺たちが手伝ってやるぜ」

突然、ミラクルナイトの左右からウズムシ男が現れた。

「お顔もパンツも可愛く取ってもらおうな」

2体のウズムシ男がミラクルナイトの腕をとる。

…よろしくお願いします……

失意のミラクルナイトはウズムシ男に従うしかなかった——。

終わったか?

低い声が、広場に響いた。

タマムシ男が、ドリームキャンディに目を向ける。

今日は負けない。白パンツブラックナイトJKの仇を討つ!

ドリームキャンディは、ロリポップハンマーを握り締めた。

戦いは、ここからが本番だった——。


ロリポップハンマーを握り締め、ドリームキャンディはタマムシ男を睨みつけた。

今日は負けない……!白パンツブラックナイトJKの仇を討つ!

対するタマムシ男は、悠然と構えたまま動かない。その光り輝く外殻は、まるで戦士としての威厳そのものを纏っているかのようだった。

ふん……お前が私の相手をするというのか?

タマムシ男の声には、微かな嘲笑が含まれていた。

言っておくが、私はミラクルナイトには用はない。お前にもな。

なら、ここで帰るの?逃げるの?

ドリームキャンディが挑発的に言う。

私の前から逃げるのなら、それはそれで助かるけど。

逃げる……?ふっ、面白いことを言う。ならば、お前の実力を見せてみろ。

タマムシ男がゆっくりと腕を広げる。その瞬間、彼の背中の翅が淡く光った。

——高速移動の予兆。

(速い……!)

ドリームキャンディは反射的に飛び退いた。

キャンディシャワー!

七色の光線がタマムシ男を目掛けて降り注ぐ。しかし——

甘い。

タマムシ男の身体が虹色に輝くと、キャンディシャワーは全て弾かれてしまった。

……っ!?

驚愕するドリームキャンディ。

その程度の攻撃では、私の外殻は傷つかん。

タマムシ男は、微動だにしていない。

なら……!

ドリームキャンディは素早くロリポップハンマーを振りかぶる。

ロリポップ凄い突き!

巨大なハンマーを突き出し、タマムシ男の胸を狙った。

……遅い。

タマムシ男は、まるで風が流れるように身を逸らした。ハンマーは空を切り、その反動でドリームキャンディの体勢が僅かに崩れる。

(しまった——!)

次の瞬間。

玉虹閃光!

タマムシ男の掌が光り、目も眩むような虹色の閃光が放たれた。

きゃああっ!

眩しさに目を瞑った瞬間——タマムシ男が忽然と姿を消した。

「どこ!?——」

ドリームキャンディが目を凝らした瞬間、

ここだ。

背後から冷たい声がした。

「……っ!!」

振り向いたときには遅かった。

お前の攻撃は遅すぎる。

タマムシ男の鋭い掌底が、ドリームキャンディの腹部に突き込まれる。

ぐっ……!!

強烈な衝撃が全身を駆け巡る。内臓が揺さぶられたような感覚に、ドリームキャンディの視界が一瞬霞んだ。

(……これが……タマムシ男の……力……)

身体が宙を舞う——

次の瞬間、ドリームキャンディの細い身体は、勢いよく地面へと叩きつけられた。

「……うぅ……!」

失望したぞ、ドリームキャンディ。

タマムシ男が冷たい視線を落とす。

お前も、所詮は最弱のヒロインの相棒に過ぎんということか?

地面に蹲るドリームキャンディ。しかし、手をつきながらも、再び立ち上がろうとする。

まだ……終わらない……!

ほう?では、もう一度試してみるか?

タマムシ男の手が再び光を帯びる。

玉虹光線——

ドリームキャンディの目が見開かれる。次の攻撃を受ければ、今度こそ……——

(負ける……!)

——戦場に、再び閃光が走った。


キャンディ!

閃光の瞬きに、ミラクルナイトはハッとして振り返ろうとした。しかし——

余所見しちゃダメだよ、奈理子ちゃん。

ちゃんとファンの皆様に笑顔とおニューのパンツを見せなきゃ。

左右からガシッと肩を掴まれた。

「新しいパンツをぐっちょり濡らしちゃって…。奈理子ちゃんは本当に撮られるのが好きなんだね」

くっ……!

ミラクルナイトを捕らえているのは、2体のウズムシ男。彼らはガッチリとミラクルナイトの腕を押さえつけ、逃げられないようにしていた。

やめて……!今はそれどころじゃない!

藻掻くも、非力なミラクルナイトでは、ウズムシ男の力には到底敵わない。

その時——

キャンディがやられたぞ!

これってヤバくないか?!

周囲の奈理子ファンたちが、ざわめき出した。これまで、安心してミラクルナイトを撮影していたのは、全てドリームキャンディがいたからだった。しかし、そのドリームキャンディが倒れた今、事態は一変した。

もう、撮影は終わり!!離してよ!

ミラクルナイトは必死に叫ぶが——

ダメだってば!

ウズムシ男たちは意に介さず、ミラクルナイトを抱え上げる

離してってば!……ミラクルパワー!

——パァァァッ!!

水色の光が弾けると、ウズムシ男たちは吹き飛ばされた。

キャンディ!!

ミラクルナイトはすぐさま駆け寄った。地面に横たわるドリームキャンディの身体を揺さぶる。

しっかりして!

しかし、返事はない。

(タマムシ男の玉虹光線をまともに受けて……!)

ミラクルナイトは歯を食いしばった。

まだ中学生のキャンディをこんな目にあわせて……許さない!

立ち上がると、強い決意を込めた眼差しでタマムシ男を睨みつける。

ほう……ビビリの最弱ヒロインのくせに、俺とやるつもりか?

タマムシ男が余裕の表情で見下ろす。

うっ……!

一瞬、ミラクルナイトの身体が竦んだ。

(怖い……でも、ここで逃げるわけにはいかない!)

私の大切な仲間を傷つけられて、逃げることなんかできないわ!

ミラクルナイトは拳を握りしめ、キッとタマムシ男を睨みつけた。

その時——

奈理子ちゃん、まだ撮影会の途中だよ!

新しいパンツ、もっと見せてくれよ!

2体のウズムシ男が再びミラクルナイトを捕らえようと襲いかかる。

いい加減にして!ミラクルアクアティックラプチャー!!

ミラクルナイトが叫ぶと、彼女の周囲に美しい水のオーラが渦巻いた。

——ザァァァァァッ!!

無数の水流が、ウズムシ男たちを包み込む。

奈理子ちゃんの新しいパンツを……!

もっと汚したかったー!!

叫びながら、2体のウズムシ男はそのまま水流に呑まれ、消滅した。

ミラクルナイトは、再びタマムシ男へと視線を向ける。

ふん……。やっと戦う覚悟ができたか?

タマムシ男が冷笑する。

私は……もう逃げない!

そう言い切ると、ミラクルナイトは覚悟を決め、構えを取った。

水都の守護神として——今度こそ、負けられない戦いが始まる。


えいっ!

ミラクルナイトは水色の光弾を放った。先手必勝——だが、

効かん!

タマムシ男は光弾を硬い外殻で弾き、そのまま突進してきた。

きゃぁぁぁっ!

高速移動からの強烈なタックル。ミラクルナイトは回転をかけられたまま上空へと吹き飛ばされる。その衝撃に意識が遠のいた——が、さらなる衝撃で再び意識を取り戻した。

ああッ!

タマムシ男は落下するミラクルナイトに、さらに強力なタックルを叩き込んだのだ。

激しく回転するミラクルナイト。その風圧で、ショーツのウエスト部分がズレかける。変身コスチュームではなく、市販のもの——だからこそ脆い。

(もうダメ……)

心が折れかけた、そのとき——

奈理子、スピンチョップよ!

空からの声がした。

そうだ!回転を利用して……!

ミラクルナイトの脳裏に蘇る特訓の記憶。

風の戦士 セイクリッドウインド の指導のもと習得した技——《ミラクルスピンクロスチョップ》。旋風のような回転を利用し、勢いを乗せたクロスチョップを敵に叩き込む必殺技。

このまま終われるもんですか!

ミラクルナイトは回転を制御し、クロスチョップの構えを取る。

ムダだ!

タマムシ男が再び突進してくる。

その瞬間——

ミラクルナイトの両腕が 水色に輝いた。

ミラクルスピンクロスチョップ!

ガシィィン!!

両者が激突した。

しかし——弾き飛ばされたのは、ミラクルナイトの方だった。

あ〜、やっぱり竜巻じゃないと威力が足りないかぁ。

軽やかな声が響く。

おおっ、凜ちゃんだ!

セイクリッドウインドが助けに来たぞ!

ミラクルナイトファンたちが湧き上がる。

くっ……風間凜か!

タマムシ男が頭を押さえ、セイクリッドウインドを睨みつける。

でも、ダメージはあったみたいね。

セイクリッドウインドは冷静に分析すると、蹲るミラクルナイトを見下ろした。

奈理子、立ちなさい!

凜さん……

ミラクルナイトが顔を上げる。

タマムシ男は奈理子が倒すのよ! クワガタ男やイセエビ男を倒した奈理子ならできる。強敵に打ち勝ってきたミラクルナイトの強さを——あの光り物に見せつけてやりなさい!

セイクリッドウインドの檄が響く。

……はい!

ミラクルナイトは、再び立ち上がった。


ミラクルナイトは、ミラクルスピンクロスチョップでずれたショーツをこっそり直しながら思った。

スカートなしでのミラクルスピンクロスチョップは…ちょっと怖いかも…

竜巻が必要なら、いつでも合図してね。

セイクリッドウインドが、にこやかに微笑みながら 奈理子のショーツを撫でる

「……!」

ミラクルナイトは 頬を赤らめた。

面倒だ。2人まとめて相手をしてやる。

タマムシ男が吼えた。

アンタなんか、奈理子1人で十分よ。

セイクリッドウインドがさらりと言い放つ。

えっ? 凜さんは戦わないんですか?

ミラクルナイトが戸惑いながら尋ねた。

奈理子が自信を取り戻すには、もってこいの相手じゃないの。

でも、キャンディが勝てなかった相手に私が……

そんな敵、何度も奈理子は倒してきたでしょ?

セイクリッドウインドは まだ奈理子の尻を撫でている。

そして——

行ってきなさい!

勢いよく 奈理子の尻を叩いた

きゃっ!?

ミラクルナイトは驚いて飛び跳ねた。

ならば、最弱ヒロインの奈理子から片付ける。風間凜、お前はその次だ!

タマムシ男が、一直線にミラクルナイトへ向かってくる。

強敵に勝ったときの私は……

ミラクルナイトは これまでの戦いを思い出す。

背中に——白い翼、ミラクルウイング が現れる。

私は、トンボ男に勝った。空中戦なら自信を持っていいって、菜々美さんも言ってくれた!

ミラクルナイトはクラスメイト・菜々美の言葉を思い出し、力強く飛び上がった。

空に逃げてもムダだ!

タマムシ男も 緑色に輝く羽根を広げ、石畳を力強く蹴った——!


逃さんぞ!

タマムシ男が吠え、勢いよく空へと舞い上がる。

それを見下ろすように飛ぶミラクルナイトは、冷静に彼の動きを観察した。

やっぱり、甲虫だから飛ぶのは得意じゃない。直線的な動きが多いし、急旋回ができない! いける!

確信を持ったミラクルナイトは、両掌を突き出し 水色の光弾を連射しようとした——その時だった。

あッ!

タマムシ男の背中の羽根が 閃光を放つ

きゃあぁぁっ!!

突如として視界を奪われたミラクルナイトは、空中でバランスを崩した。

目が…見えない…!?

慌てて体勢を立て直そうとするが、次の瞬間——

遅い!

タマムシ男が 猛スピードで突進してきた!

ドンッ!!!

ミラクルナイトの 腹部に強烈なタックルが炸裂

ぐふっ!!

風を切る音と共に ミラクルナイトの身体が大きく吹き飛ばされる。

うぁあああっ!!

彼女は宙を舞い、空高く弧を描いた。

しかし、ミラクルナイトは すんでのところでバランスを取り、体勢を立て直した

まだ…やれる…!

ミラクルナイトは深く息を吸い込み、視界が回復するのを待った。

ほう、まだ飛べるか?

タマムシ男が 嘲笑を浮かべながら、再び襲いかかる。

くっ…! まだよ!

ミラクルナイトは急降下し、タマムシ男の攻撃を紙一重で回避。

えい!!

空中で回転しながら、強烈な水色の光弾を放った。

甘い!

タマムシ男は 軽く身を翻し、光弾を回避

これならどう!?

ミラクルナイトは 連続で光弾を放ち、タマムシ男を追い詰めようとする。

効かぬわ!!

タマムシ男の 全身が虹色に輝いた。

光弾が次々と タマムシ男の外殻に弾かれる。

うそ…!? こんなに硬いなんて…!

驚くミラクルナイトの隙を見逃さず、タマムシ男は 強烈な蹴りを繰り出した!

ドガァァァン!!

ミラクルナイトは もろに蹴りを受け、再び吹き飛ばされる。

きゃあぁぁっ!!

彼女の スカートが大きく翻り、純白のショーツが露わになる。

飛び回るだけの小娘が、俺に勝てると思ったか?

タマムシ男が 冷たく言い放つ。

まずい…このままじゃ…!!

空中戦は得意なはずだった。だが、タマムシ男の圧倒的な迫力と光の能力の前に、追い詰められていくミラクルナイト。

まだ戦いは終わらない——だが、形勢は圧倒的に不利だった。


キャンディ、起きなさい!

セイクリッドウインドが力強く揺さぶると、ドリームキャンディの意識がゆっくりと戻った。

「んっ…痛い…揺らさないで……」

全身を襲う痛みに顔をしかめながら、彼女はゆっくりと身を起こした。
タマムシ男の玉虹光線の直撃を受けたドリームキャンディの衣装は、所々焦げ、破れ、まるで戦いの激しさを物語っているようだった。
だが、ドリームキャンディのドレスは彼女を守る盾でもあった。
致命傷こそ避けられたものの、体中が軋むように痛む。

タマムシ男は…?

彼女の意識が向かうのは、まだ続く戦い。

奈理子が戦っているよ。

セイクリッドウインドが顎で示した先、ドリームキャンディは空を見上げた。

——上空では、ミラクルナイトがタマムシ男と戦っていた。

だが、一目見てわかる。圧倒的な劣勢だ。

奈理子さんでは無理です! 地上で力を合わせて戦わないと、タマムシ男には勝てません!

ドリームキャンディの声が焦りに滲む。

ミラクルナイトは飛べる。だが、ドリームキャンディもセイクリッドウインドも空を飛べない。
このままでは、ミラクルナイトが孤立してしまう。援護する手段もないのだ。

奈理子なら大丈夫だよ。

しかし、セイクリッドウインドはどこまでも冷静だった。

翻弄されているじゃないですか!

ドリームキャンディが声を荒げる。

今の奈理子は、強いときの奈理子だよ。冷静にタマムシ男の動きを見てる。

怖くて脚が震えていた奈理子さんが!?

ドリームキャンディは信じられなかった。

さっきまで、奈理子はまるで戦意を喪失したように泣いていたのだ。
それが突然、戦える状態になったなんて…

奈理子はビビリだけど、煽てて宥めておだてれば、ちゃんとミラクルナイトの力を発揮するのよ。

セイクリッドウインドはどこか楽しげに言う。

キャンディは私よりも奈理子との付き合いが長いのに、そんなことも知らないの?

ドリームキャンディは言葉を失った。

奈理子さんは、ついさっきまで自信喪失して泣いていたんですよ!?

それがどうして、たった少しの言葉で変わるのか?

奈理子は実戦経験だけは誰よりもある。ちょっと煽てれば、すぐに自信を取り戻すわよ。

セイクリッドウインドは、どこか余裕すら感じさせる表情で言い放った。

さすが凜さん…無駄に歳は取ってない……

ドリームキャンディは、その一言にゾッとしながらも感心してしまった。

——ミラクルナイトは、本当に冷静になっていた。

彼女の視線はタマムシ男を捉え、しっかりと分析をしている。

トンボ男ほどの機動性は無いし、アゲハ女のように幻惑させる動きもない…。

空戦能力だけなら、明らかにミラクルナイトの方が優れている。

だが、厄介なのは目眩ましの閃光。

どうすれば…?

ミラクルナイトは、自分の勝機を探し続けていた——。


ミラクルナイトは上空でタマムシ男と対峙しながら、何度も光を浴びせられ、視界を奪われることに苦しんでいた。
タマムシ男の攻撃自体はそこまで速くはない。だが、強烈な閃光で視界を奪い、その隙に一撃を加える。
これがタマムシ男の戦法だった。

目を閉じていてもダメ… 光の反射で感覚が狂わされる…!

視界が戻るたび、ミラクルナイトは回避に徹していたが、これでは攻撃のチャンスが生まれない。

「逃げ回るだけか、最弱ヒロイン!」

タマムシ男が嗤いながら突進してくる。

「くっ…!」

ミラクルナイトはとっさに後方へ宙返りし、タマムシ男の直進的な攻撃をかわす。しかし、タマムシ男は飛行の反動を利用して空中でくるりと旋回し、再びミラクルナイトを狙って突進してきた。

視界を奪われる前に、一撃を…!

ミラクルナイトは両手を広げ、水のオーラを溜める。

ミラクルアクアティックラプチャー!

彼女の周囲から水のオーラが発生し、無数の水流がタマムシ男を包み込もうとする。

しかし——

「そんなもの…通じるか!」

タマムシ男の羽根が光を放つ!

ああッ!

またも強烈な閃光!ミラクルナイトは反射的に目を瞑る。しかし、次の瞬間には背中に強烈な衝撃が走った!

「ぐはぁっ!!」

タマムシ男のタックルがミラクルナイトの腹部を直撃し、そのまま水都公園の噴水へと叩き落とされた!

——ドォォォン!!

水しぶきが大きく舞い上がる。

「奈理子!!」

下から見守っていたセイクリッドウインドとドリームキャンディが思わず叫ぶ。

ミラクルナイトは、水を弾くように浮かび上がった。

またやられた……また負けるの…!?

震える体を押さえながら、ミラクルナイトはギリギリの状態で立ち上がる。

どうした、最弱ヒロイン?もう終わりか?

上空から降りてきたタマムシ男が、冷たくミラクルナイトを見下ろしていた。

ダメ… こんなところで…終われない…!

——その時。

奈理子、目を閉じて!

突如、セイクリッドウインドの声が響いた。

「え?」

次に光ったら、目を閉じて、感じるのよ!

「感じる…?」

ミラクルナイトが戸惑う間にも、タマムシ男は羽を広げ、閃光を放とうとしていた。

そうだ… 私は今まで、視界を奪われることばかり気にしていた…!

——でも、視界が奪われても、敵の動きを感じることはできる!

ミラクルフォース…リンク!!

ミラクルナイトは目を閉じたまま、両手を胸の前で組む。そして、タマムシ男の気配を研ぎ澄ます。

「今度は逃がさん!」

タマムシ男が羽根を輝かせ、強烈な光を放つ。

しかし——

「遅い!!」

ミラクルナイトは目を閉じたまま、タマムシ男の攻撃をかわした!

「なに!?」

ミラクルナイトが、タマムシ男の閃光を克服した…!?

驚くセイクリッドウインドとドリームキャンディ。

ミラクルチョップ!!

ミラクルナイトは一瞬の隙を突き、光をまとった手刀をタマムシ男の腹部に叩きつけた!

「ぐはっ!!」

タマムシ男の身体が空中で大きく弾かれる!

「やった!」

市民たちが歓声を上げる。

しかし、タマムシ男はまだ倒れてはいなかった——。

やるな…だが、まだ終わりじゃない!!

タマムシ男は再びミラクルナイトへ向かって飛び立つ!

——戦いは、まだ続く。


上空のミラクルナイトに向かって行くタマムシ男。ミラクルナイトは回避行動をとろうとミラクルウイングをはためかす。

「喰らえ!」

タマムシ男の全身が虹色に輝く。目眩ましではなかった。タマムシ男は一直線に高速で回転しながらミラクルナイトに迫る。

「早い!」

焦るミラクルナイト。
煌玉輪舞!!

タマムシ男が接触するものを全て斬り裂く光輪の刃を纏いながら突進する。

「直撃撃だけは…避けなきゃ!」

ミラクルナイトがミラクルウイングをはためかす。

きゃぁぁ〜!

空中で擦れ違うと同時に悲鳴を上げたのはミラクルナイトだった。直撃は避けたものの、グローブとブーツを残しミラクルナイトのブラウスが切り裂かれ、白いブラが見える。ブラもショーツとお揃いの新しい下着だった。
しかし、恥ずかしがっている場合ではない。

「どこ?!」

ミラクルナイトがタマムシ男を探す。

これで終わりだ!

頭上から声。見上げるミラクルナイト。タマムシ男の体は虹色の輝きを増している。

玉虹光線!!

タマムシ男の体から虹色のエネルギー光線が発射された。先ほどドリームキャンディに放ったものとは桁違いの輝きだ。
ミラクルナイトには、既に身を守ってくれるブラウスもスカートも無い。玉虹光線を避ける余裕は無い。

(受けきってみせる!)

ミラクルナイトの両手が水色に輝く。ミラクルナイトの背後で水色の光が渦巻き、噴水広場の市民たちが息を呑む。
彼女は全身を貫く衝撃に耐えながら、フェアリーシールドを展開し、タマムシ男の玉虹光線を完全に防ぎきった。

「バ…バカな……!!」

上空で動揺するタマムシ男。
先ほどまで劣勢だったミラクルナイトが、一転して攻勢に転じている。

「はぁ…はぁ… まだ…終わらない…!」

ミラクルナイトの胸元は、タマムシ男の煌玉輪舞によってブラウスが完全に消え去り、水色のレースが施されたブラとショーツだけの姿になっていた。
しかし、ミラクルナイトは恥じることなく、その瞳に闘志を宿していた。

(もう…負けない!)

彼女の背後でミラクルウイングが大きく羽ばたく。

「私の番よ、タマムシ男!!」

ミラクルナイトの股間が水色の光を帯び、そのエネルギーが全身に広がる。
ミラクルなパワーが臨界点に達する——!

「なにっ…!?」

タマムシ男は一瞬、ひるんだ。
その隙を逃さず、ミラクルナイトは空中を高速で滑るように突進する!

ミラクルヒップストライク!!

華奢ながらもしなやかな美しい脚が空を切り裂き、彼女の柔らかなヒップが、ミラクルなエネルギーを帯びてタマムシ男の顔面に突き刺さる!

「ぐはぁぁっ!!」

タマムシ男の顔面がめり込み、衝撃でその身体が弾かれるように宙へ吹き飛ぶ。

「おおぉぉぉー!!」

広場の市民たちが一斉に歓声を上げた。

「ミラクルナイトが…タマムシ男を吹っ飛ばした!!」
「奈理子ちゃん、最高!!」

タマムシ男の光り輝く身体が、噴水広場の地面に激突する。
水しぶきが舞い上がり、広場は静寂に包まれた。

ミラクルナイトは息を切らしながら、ふわりと地上に降り立つ。

「はぁ…はぁ… やった…?」

彼女は慎重にタマムシ男の姿を探した。

——しかし、まだ勝負は決まっていない。

「グ…ハハ…」

水煙の向こうから、不敵な笑い声が響く。

「まさか…ミラクルヒップストライクが効かない!?

驚愕するミラクルナイト。

「俺を…侮るなよ、最弱ヒロイン…!」

タマムシ男がゆっくりと立ち上がる。
顔面にはヒップストライクの衝撃がはっきりと刻まれていたが、彼の目にはまだ闘志が燃えていた。

「ぐぬぬ…! これほどの女の匂いをまとった技を喰らえば、普通の男なら戦意喪失していただろう…」

タマムシ男は拳を握りしめ、歯を食いしばる。

「だが…俺は…負けるわけにはいかんのだ!!」

再び、虹色の輝きを放つタマムシ男。

「やっぱり…倒しきれてないのね…」

ミラクルナイトは両拳を握りしめた。

タマムシ男が、再び光り輝く羽を広げる。
ミラクルナイトもまた、戦闘態勢を整えた。

——水都の運命を懸けた戦いは、まだ終わらない!!


ミラクルナイトはドリームキャンディ、セイクリッドウインドや怪人に対して圧倒的にパワーが足りない。奈理子の女の子の魅力で敵を消滅させるミラクルヒップストライクは、奈理子にとって心の拠り所となる技だった。
そのミラクルヒップストライクで倒せないことは、奈理子の自信を喪失させた。

(タマムシ男は私のスカートを脱がしても悪戯しなかった…。タマムシ男は私に女子の魅力を感じない…。私には、タマムシ男は倒せない……)

しかも、タマムシ男を地上に落としてしまった。空中ならば勝機はあったが、地上では非力なミラクルナイトではタマムシ男のパワーに対抗することができない。

「奈理子さんはもうダメです。私と凜さんで…」

ドリームキャンディが痛みを堪えて立ち上がろうとする。
しかし、セイクリッドウインドはドリームキャンディの腕を掴んで止めた。

「凜さん…」

ドリームキャンディがセイクリッドウインドを見る。

「奈理子の女の子の魅力に耐えられる男はいない!ヒップストライクは効いている!」

セイクリッドウインドはドリームキャンディを見ずに上空のミラクルナイトに向かって叫ぶ。そして、

「そもそも、ヒップストライクは足場の無い空中では威力が落ちるでしょ。地上なら、奈理子の女の子の魅力を十分に叩き込める!」

とミラクルナイトに激を飛ばす。

(そうだ、タマムシ男を消滅させることはできなかったけど、大きなダメージは与えてる!)

ミラクルナイトの闘志が再び蘇る。

(私の魅力に靡かない男はいない!)

「行くぞ!」

タマムシ男がミラクルナイトに向かって上昇する。タマムシ男は再び空中戦を選択したのだ。

「いける!ミラクルアクアティックラプチャー!

「この技は効かぬ!」

タマムシ男が光を放ち水のオーラを弾き飛ばす。

ミラクルアクアティックラプチャーは牽制だ。その隙にミラクルナイトは素早くタマムシ男の懐に入った。

ミラクルハピネスシザース!

ミラクルナイトがタマムシ男の頭部を太股で挟み込む。

「幸せ締めだ!」
「俺も奈理子の太股に挟まれたい!」

市民が歓声あげる。
奈理子の女の子の香りが再びタマムシ男を包み込んだ。

「ぬごっ!」

顔面に水色に輝く股間を押し付けられたタマムシ男が呻く。
ミラクルナイトはタマムシ男の頭部を太股で挟み込んだまま上体を起こし、両手を伸ばし、タマムシ男の光り輝く羽根を閉じた。ミラクルナイトもミラクルウイングを消す。

タマムシ男はミラクルナイトの太腿に頭部を挟まれたまま落下を始めた。

「私の魅力で貴方を倒す!ミラクルハピネスホイップ!!

ミラクルナイトは、タマムシ男の頭部を自身の両太腿ではさんだままバック宙をする要領で回転しタマムシ男の体を反転させる。

「幸せ締めからの幸せ投げだ!」

市民の歓声が更に大きくなる。

ガシーン!

ミラクルナイトは噴水広場の石畳にタマムシ男の頭部を叩き付けた。


タマムシ男の顔面が石畳に叩きつけられた瞬間、噴水広場に衝撃が走った。

「やったぁぁぁ!!」

市民の歓声が一斉に上がる。

ミラクルナイトは大きく息をつきながら、慎重にタマムシ男の様子を伺う。
ミラクルハピネスホイップ——水都市民の誰もが知る、ミラクルナイトの必殺コンボ。
この技で倒せなかった敵は、今までいなかった。

しかし…。

「…まだ終わってない…」

タマムシ男が、ぐらりと身体を起こす。
その装甲にはヒビが入り、光り輝いていた羽根もくすんでいる。

「嘘でしょ…」

ミラクルナイトの表情がこわばる。

「…たしかに、お前の技は効いた。強烈だったぜ…!」

タマムシ男は歯を食いしばりながら、ゆっくりと立ち上がる。

「だが…!俺は負けん!!」

傷つきながらも闘志を燃やすタマムシ男。その姿に、ミラクルナイトは思わず身震いする。

(どうして…?私の女の子の魅力が通じないの!?)

その時——

「奈理子!!」

セイクリッドウインドの力強い声が響いた。

「大丈夫!奈理子の魅力に耐えられる男なんかいない! もう少しで落ちる!!」

「そうです! 奈理子さんの女の子の香りが通じないなんてありえません!」

ドリームキャンディも叫ぶ。

「…っ!」

ミラクルナイトは、再び闘志を取り戻した。
そうだ、タマムシ男は確かに効いている。完全に無効化されたわけじゃない。

(私は、水都の守護神ミラクルナイト…絶対にこの技で倒す!)

「タマムシ男…これで決めるわ!!」

ミラクルナイトの股間が水色の光を帯びる。

「まさか…もう一度やる気か!? 俺はもう、その技に負けるわけには…!!」

焦るタマムシ男。

しかし、ミラクルナイトは空を蹴り、一瞬で間合いを詰める。

「ミラクルヒップストライク!!!」

タマムシ男の身体を奈理子の女の子の香りが優しく包み込み、彼の意識が揺らぐ。

「やめろぉぉぉ!」

最後の一撃とともに、タマムシ男の身体が大きく弾かれ——

ドガァァン!!

地面に沈むタマムシ男。

そして、完全に動きを止めた。

「終わった…?」

息を切らしながら、ミラクルナイトは静かに構えを解いた。

「勝ったぁぁぁ!!!」

市民の歓声が爆発する。

「奈理子の勝ちだ!!」
「やっぱり、奈理子ちゃんの魅力に敵う奴なんていないんだ!!」
「最高の戦いだった!!」

ミラクルナイトは安堵の表情を浮かべながら、静かに両手を握る。
彼女の力を信じてくれた仲間たち、応援してくれた市民、そして——

(やっぱり、私は…ミラクルナイトなんだ。)

水都の守護神——ミラクルナイトは今日も、街を守り抜いた。


「やっと…倒した…」

力を使い果たし、その場に崩れ落ちそうになったミラクルナイトを、そっと支えたのはドリームキャンディだった。

「キャンディ…」

「奈理子さん、酷いことを言ってごめんなさい…」

申し訳なさそうな顔でミラクルナイトを見つめるドリームキャンディ。その瞳には後悔が滲んでいた。

「私が不甲斐ないのが悪いんだから、気にしないで。私なんかと一緒に戦いたくないよね…」

ミラクルナイトは目を伏せ、苦笑いを浮かべる。

「そんなことありません。さっきの奈理子さんは——強くて、そして可愛かったです」

ドリームキャンディははっきりと言い切った。

「ありがとう…」

ミラクルナイトは疲れた顔のまま、しかし、どこか安心したように微笑んだ。

「新しいブラとパンツなのに、ボロボロになっちゃいましたね」

ドリームキャンディが、戦いの激しさを物語る奈理子の姿を見て呟く。
ミラクルナイトのコスチュームは戦いの中で剥がされ、今の彼女は下着姿のまま。それも、たった一度しか着ていない新品の白いブラとショーツはクタクタになり、水色のリボンレースも見る影もないほど傷んでいた。

「せっかくの新しいのだったのに…一回しか着れなかった…」

ミラクルナイトは肩を落とし、しょんぼりとつぶやいた。

「キャンディも、今日はボロボロだね」

そう言いながら、ミラクルナイトはドリームキャンディの姿に目を向ける。
ドリームキャンディのコスチュームも、タマムシ男の玉虹光線をまともに受けたことでズタズタになり、寧々の素肌が露わになっていた。

「…まあ、私もですけどね。でも、あそこに何もしてない人がいますけど?」

ドリームキャンディは冷静な視線でセイクリッドウインドを見た。

「おかしいですよね?ここまでの激戦だったのに、どうして凜さんだけコスチュームが綺麗なままなんですか?」

「私は最後まで奈理子が勝つと信じてたからね」

セイクリッドウインドは肩をすくめると、ミラクルナイトの頭をぽんぽんと撫でた。

「今日の奈理子は——強い奈理子だった」

その言葉に、ミラクルナイトの瞳がわずかに潤む。

「……本当に?」

「もちろん」

セイクリッドウインドは優しく微笑んだ。

ミラクルナイトは一瞬だけ視線を落とし、それから、少しだけ強く頷いた。

「…うん。ありがとう」

彼女の頬には、さっきまでの不安とは違う、少しだけ自信を取り戻した少女の輝きがあった。

——水都の街は、今日も平和を取り戻した。
たとえどんなに傷つこうとも、何度でも立ち上がる。
それが、街を愛し、街に愛される水都の守護神、ミラクルナイトなのだから。

そして彼女は、今日もまた——
市民の声援を背に、誇りを胸に、次の戦いへと歩み出していく。

第172話へつづく)