ミラクルナイト☆第198話
場所は、穢川研究所の最奥。薄暗いガラス張りの観察室の中で、かつてのぷるぷるとした弾力を完全に失い、スカスカに乾ききったスポンジのような姿で横たわるコンニャク男が、保管カプセルの中で静かに眠っていた。
「……プルプル感を失ったコンニャク男は、もうムリですね」
白いリボンで結った髪を軽く揺らしながら、絹絵が呟く。その瞳には、もはや戦力価値を認めていない冷ややかな光。
しかし、隣に立つ柚月――妖艶な薄紅色の蔦を纏うツタバナ女は、柔らかく微笑んでその言葉を否定した。
「絹絵さん、それは違うわ。コンニャク男は……まだ燃えているの。ミラクルナイトとの再戦をね」
「燃えてる……ですか。あのスポンジ状の体で?」
「ふふ。あの子、意外と根性あるのよ?」
そこで、部屋の奥からコツ、コツと響く足音。
背広の裾をひるがえし、書類を片手に現れたのは九頭だった。
「絹絵くん。コンニャク男は、“プルプルした食感である『蒟蒻』の怪人”ではない。『蒟蒻芋』の怪人なのだよ」
「……はあ。でも彼の能力は、食品として加工された蒟蒻に基づいたものですよね。伸縮性、弾力、水分保持……全部、加工後の特性です」
「絹絵くんは、まだ本当のコンニャク男の力を知らない。……“凍み蒟蒻”という食べ物をご存じかね?」
「えっ、あの……雪国の乾物の……?」
「そう。凍らせて乾燥させることで、水分を飛ばし、長期保存が可能になる伝統食材。見た目は地味だが、煮物や炒め物にすれば、普通の蒟蒻にはない吸収性と旨味がある。つまり――!」
と、九頭の声が次第に熱を帯びていく。
「凍結によってあの体は“終わった”のではなく、“進化した”のだ。スポンジ状の細胞が、より外的エネルギーを吸収しやすくなり、我々が次に与える“エキス”に対して超高感度の応答性を示すはずだよ」
「……結局、加工食品じゃないですか……」
呟く絹絵の内心は、九頭の熱弁にやや引き気味だった。
しかし九頭は構わず、ふと視線を柚月に向けると、にこやかに言った。
「柚月くん。私は、新しい体を手に入れたコンニャク男に……大いに期待しているよ」
「……ありがとうございます。あの子、必ずミラクルナイトを追い詰めてみせますわ」
上品に一礼すると、柚月は長い蔓をすっと引き、踵を返した。
「それでは、わたくしは街へ戻ります。次は……もっと、“しっかり味の染みた作戦”を展開いたしますわ」
蔦の裾を引きずるように、ツタバナ女はその場を去っていった。
残された絹絵は、再びガラス越しにスカスカのコンニャク男を見やり、ため息をついた。
「……しっかり味が染みるほど、柔らかいままでいられれば、ね……」
昼下がりの水都市役所前。まばゆい陽光の中、一台の真っ白なワゴン車が音もなく滑り込む。助手席の扉が開き、純白のワンピースに身を包んだ女性がゆるやかに降り立った。
「まあ……水の都って、ほんとうに素敵なところね……」
白園麗華。東京から移住してきたという新興ブライダルブランド「フローラル・デザイア」の代表。年齢は二十代後半。目元をやわらかく彩る化粧と、淡いピンクの唇、そして何よりも薄紅色の蔦を思わせるショールが印象的な、美しき“理想の花嫁像”である。
彼女は今日、**水都主催のチャリティーイベント『水辺のブライダル・フェスタ』**の企画提案者として市役所を訪れていた。
「ご紹介にあずかりました、白園麗華と申します。これからこの街で、愛と絆を育むお手伝いができたらと思いますわ」
その物腰の柔らかさ、透き通るような声、美しい立ち振る舞いに、市の広報担当や若手職員たちはすっかり魅了されてしまう。SNSではさっそく、
「水都に天使が舞い降りた!」「白園麗華さん美しすぎ…」「まじでお嫁さんになってほしい」
とトレンド入り目前。
そして、麗華は市役所の前でさりげなく小冊子を配る。
──それは「理想の花嫁診断テスト」と銘打たれた小洒落たパンフレット。
中を開くと、“愛され花嫁度チェック”や“男ウケする女子の立ち居振る舞い講座”といったコラムが並ぶ。が、よく読めば、ところどころに「白く華やかであること」「黒髪ロングであること」「清楚で従順であること」など、奈理子とは対照的な要素を称賛する記述が紛れていた。
「うふふ、やっぱり花嫁は、誰よりも『純白』じゃなきゃ……」
小さく微笑んだ麗華の視線の先には、水都の守護神として街頭パネルに描かれたミラクルナイト=奈理子の姿があった。白いコスチュームに、眩しい笑顔――だが、スカート丈は短く、太股を見せつけるような“清楚系ではない可愛さ”がそこにはある。
「ミラクルナイトさんって、とってもキュート。でも……ちょっと“花嫁向き”じゃないかしらね?」
イベントを主導する市の幹部たちは、白園麗華の優雅な振る舞いに完全に魅了され、来月末に水都公園で『公開模擬ブライダルショー』を開催することを即決した。
その舞台の主役にふさわしい“純白の花嫁役”を演じるのは、もちろん──白園麗華。
その“相手役”が、まさか奈理子に選ばれる運命であるとは、誰も知らない。
昼休み、水都女学院高校の学食――。
「ねぇ、奈理子さん」
いつものように水色セーラーの制服でお弁当を広げていた奈理子に、クラスメイトの桜庭すみれが声をかけてきた。すみれの手には、市の広報誌《水都かわら版》の最新号。
「これ、見て。来月の水都ブライダルフェスタ。なんか、一般市民の花嫁役を公募してたの、知ってた?」
「えっ? ああ……なんか、そんなのポスターで見たかも……?」
奈理子はピンと来ないまま、ページを覗き込む。
《◆ブライダルショー花嫁役決定! 水都女学院高校・野宮奈理子さん!》
「えぇぇええええええっ!?」
声が裏返り、箸を落とした奈理子。すみれもびっくりして身体を引いた。
「な、なんで……!?」
「なんかね、推薦式なんですって。街頭インタビューとかで“花嫁にふさわしい女の子”を答えてもらって、最多だったのが奈理子さんだったって」
「ま、待って! 私そんなの聞いてない! えっ、私、花嫁ドレス……着るの……!?」
「着ます。模擬とはいえ本格的なブライダルショーで、市長も来るそうです」
涙目になる奈理子。
そこへ、ゆらりと現れる影がひとつ。
「まあ、奈理子さんにしては、意外な大抜擢ね」
振り返れば、クラスの高慢なお嬢様・春宮菜々美が、優雅にフルーツヨーグルトをスプーンで掬いながら微笑んでいた。
「でも、ふさわしいのかしら? 花嫁って、もっとこう……“淑やか”で“真っ白”で“慎ましく”あるべきじゃない? ミニスカでドタバタ暴れるような、守護神様じゃなくて。どこかの”純白の天使”さんは、確かにパンツは白いけど、すぐ汚しちゃうしね」
「そ、そんなこと……っ!」
奈理子はムッと顔を赤らめた。
だが、すみれは菜々美を睨み返す。
「奈理子さんが選ばれたのは、みんなに愛されてるからよ。“理想の花嫁”って、そういうことだと思う」
「……へぇ」
菜々美は鼻で笑うが、その表情の奥には、微かに揺らぐ嫉妬が見えた。
──奈理子本人の意志とは無関係に、“純白の舞台”は着々と整えられていた。
その頃、市役所の特設会議室では──。
「予定通り、白園麗華さんとの“理想の花嫁コンテスト”形式で進行します」
麗華は穏やかに頷く。
「もちろん。どちらが“ふさわしい花嫁”か……ご来場の皆様に、しっかり見ていただきましょう」
その言葉の裏には、奈理子=ミラクルナイトを“穢れた娘”として貶める冷たい蔦の罠が、すでに巻き付き始めていた――。
水都女学院高校の放課後。
教室に顔を出した職員が、白衣の女性とともに奈理子を呼び出した。
「野宮奈理子さん、こちらの白園麗華さんが“水都ブライダルフェスタ”運営本部から来られてます。花嫁役に選ばれたあなたには、事前に少し“花嫁レッスン”を受けてもらうことになってるの」
「え……は、はい……っ」
(花嫁レッスンって……な、なんかすごく本格的……!)
奈理子の脳裏に、フランス料理の食べ方やバージンロードの歩き方など、雑誌で見た“お嫁さん準備”が走馬灯のように浮かぶ。
白園麗華――すなわちツルバナ女の人間態である柚月は、穏やかな微笑みを浮かべながら奈理子に語りかけた。
「ご安心ください。奈理子さんのように美しく可憐な方なら、すぐに素敵な花嫁になれますわ。ふふ……私が丁寧にご指導いたします」
(な、なんかこの人、お姉さんっぽくて優しいけど、どこか変な迫力が……?)
その日の夕方、奈理子は“花嫁研修センター”と称する洋館へ。
──そこには、ウェディングドレスの所作、ティーサーブの仕方、料理の盛り付け方、さらには「和室での正座の美しさ」といった妙に細やかすぎる講義が待ち受けていた。
「まずはスープを注ぐときの手首の角度から参りましょう」
「はいっ!」
──しかし。
奈理子はそのすべてを、難なくこなしてしまった。
「野宮さん……すごい。完璧ですね」
「えっ、そうですか?」
──ティーカップの持ち方、座ったときの膝の角度、立ち居振る舞い、すべてが“理想の乙女”。
元々、身のこなしが丁寧で女子力の高い奈理子。さらにはお嬢様揃いの水都女学院高校での生活、花嫁修業系の少女漫画に影響された日常が、ここにきて実を結んでいた。
麗華(=柚月)の瞳に、静かな苛立ちが灯る。
(この子……想像以上に、整ってる)
柚月は、奈理子が“花嫁としての素質”を持ちすぎていることに焦りを感じていた。
(だが……それゆえに、この舞台で貶める価値がある)
「とてもよくできましたわ、奈理子さん。これで、本番の舞台でもきっと市民の皆様を魅了できますわね」
「ふ、ふえぇ……なんだか私、本当にお嫁に行くみたい……!」
そう言って赤くなる奈理子に、柚月はにっこりと微笑みながら、胸の奥に黒い蔦のような陰謀の芽を抱えていた。
水都中央広場に設置された特設チャペル。
青空の下、真っ白なアーチとピンク色の花々で彩られた“模擬結婚式”のステージが、市民の祝福とマスコミの注目を集めていた。
「それではまもなく、本日の“未来の花嫁”による模擬挙式イベントを開始いたします──!」
司会のアナウンスが流れ、広場の観客から歓声が上がる。
控え室では、奈理子が純白のウエディングドレス姿で鏡の前に立っていた。
「……こんな格好、本当に私でいいのかな……」
肩のレースから伸びる細い腕、ふわりと広がるドレスのスカート。透き通るような白が、奈理子の黒髪と桃色の頬をより際立たせていた。
ドレスに包まれながら、彼女の胸は高鳴っていた。
(ミラクルナイトとして街を守る私が……こんな格好で……)
そのとき、控え室の扉が静かに開く。
入ってきたのは、白いパンツスーツに身を包んだコーディネーター――白園麗華、すなわちツルバナ女の人間態・柚月。
「奈理子さん……お綺麗ですわ」
「え、あ……ありがとうございます……!」
「これから行われる模擬挙式は、あなたにとって人生のリハーサルではありません。これは、水都の市民に夢を与える、大切な舞台……」
柚月は静かに奈理子の背後に回り、その黒髪にそっと手を添えた。
「あなたのように美しい少女こそ、全ての人の理想でなければならない……」
「えっ……?」
奈理子が振り返ろうとした瞬間、ドレスの腰元から伸びた一本の蔓が音もなく彼女の足元を這い――
「きゃっ……! いま、何か……!」
「気のせいですわ。花嫁が疑心暗鬼になるなど、許されませんもの」
柚月は優しく微笑んだまま、蔓を引っ込める。
(あと少し……この舞台で、あなたを“完璧な花嫁”から“滑稽な人形”へと堕とす)
チャペルの舞台袖。
市民たちが見守るなか、ウエディングドレス姿の奈理子が登壇する。
その姿はまさに“清らかさの象徴”──だが、足元に見えぬ罠が忍び寄っていることを、まだ誰も知らない。
白無垢のドレスが風にそよぎ、鏡の前に立つ奈理子の頬に、薄く紅が差していた。
「綺麗よ、奈理子さん。本当に、お人形みたい」
微笑むのは白園麗華――そう、ツルバナ女である。普段は穏やかで優雅な花嫁インストラクターとして振る舞い、奈理子の花嫁修業を懇切丁寧に指導してきた。
「ありがとうございます……麗華さんが教えてくれたおかげです」
奈理子は少し恥ずかしげに笑い、鏡に映る自分を見つめた。純白のドレス。高い位置でまとめた髪。指先にまで施された繊細なネイルアート。
女子力が高いとはいえ、ここまで本格的な「花嫁」姿になるのは、彼女にとって初めてのことだった。
「でも、なんだか不思議です。模擬結婚式なのに、本当に結婚するみたいな気分になってしまって……」
奈理子が呟くと、麗華は微笑んだまま、優しく背後から肩に手を添えた。
「それでいいの。模擬でも、花嫁に選ばれるというのは、特別な縁がある証。水都の守護神であるあなたにふさわしい祝福の場になるはずよ」
奈理子は、どこか言い知れぬ不安を抱きながらもうなずいた。
(麗華さんの言うとおり。私が水都の象徴になるんだもの、ちゃんと頑張らなきゃ)
やがて夜になり、模擬結婚式のリハーサルが行われた。会場には市議会の関係者やスポンサー企業の招待客たちが集まり、控え室の外はざわつき始めていた。
白いベールを下ろされた奈理子は、まるで本物の花嫁のように厳かな空気に包まれていた。しかし、その美しさを見つめながら、白園麗華=ツルバナ女の目は冷たく光っていた。
(お披露目の舞台は整ったわ。あとは、"夫"を登場させるだけ……)
奈理子には知らされていない「新郎役」が、舞台裏で着々とスタンバイを整えていた。
それは、奈理子の花嫁衣装に込められたツタの呪印が、彼女の意識を混濁させるまでの時間を測っているかのようでもあった。
模擬結婚式当日。水都市の中心にある屋外イベントステージは、白い花とリボンで美しく装飾され、市民や招待客、マスコミでごった返していた。
「本日の特別ゲスト花嫁は……純白の天使、ミラクルナイトこと野宮奈理子さんです!」
司会者の声とともに、純白のドレス姿でゆっくりとバージンロードを進む奈理子。
青空の下、フラワーシャワーが舞う。会場の人々は拍手し、ドローンは空中からその神々しい姿を映し出す。
会場には凜と寧々、そして隆の姿があった。
「奈理子、綺麗よ~っ!」
「奈理子さん、可愛いい~っ!」
「お姉ちゃん、なんか…顔が固いな」
思い思いに歓声を上げる凜たち。しかし、奈理子がイベントで敵に襲われるのはお約束だ。警戒は怠らない。
一方、菜々美とすみれは観客席の前列でその様子を見守っていた。
「奈理子さん、もしかして緊張しすぎてるんじゃなくて……」
「……まさか、また何か仕込まれてるんじゃないでしょうね」
菜々美の瞳が鋭く細まる。
壇上では、奈理子が祭壇の前に到着した。そして、司会者が口を開く。
「さあ、そしてお相手の登場です! 花嫁を迎える幸運な“花婿”は――!」
奈理子の瞳が大きく見開かれた。
会場後方の白い扉が開き、現れたのは――
フリル付きの燕尾服を着たコンニャク男であった。
「やあやあ、奈理子ちゃん♡ おまたせェ~♡♡」
コンニャクのスーツから揺れるカスカスの触手が、祝福の花びらの中でキラリと光る。
「な、なにィィーーーっ!?!?」
奈理子は、めまいと共に崩れ落ちそうになった。だがドレスの裾に絡みついたツルバナ女の呪印が、彼女の足をふらつかせたままその場に立たせる。
「麗華さん、これは……!!」
奈理子が声を上げると、背後からぬるりと肩に手が添えられる。
「ふふ……安心して、奈理子さん。あなたの“運命の相手”よ。あなたの清らかな心で、彼を救ってあげてね?」
その声音はいつもの優しいものだったが、何故か背筋に冷たい蔦が這い上がるような感覚を覚える奈理子。
壇上をとんとんと上ってくるコンニャク男。
凍結されてから解凍された彼の身体は、かつてのぷるぷるとした弾力は失われ、逆にカサカサとした“乾いた粘り”のような妙な存在感を纏っていた。
「奈理子ちゃんのドレス姿……たまらんぜ……今日こそ、結ばれようぜぇ……」
「い、嫌ああああああああああああああああっ!!!」
奈理子の絶叫が響き渡った瞬間――
空に向けて閃光が走り、セイクリッドウインドとドリームキャンディが観客席のどこかから飛び込んでくる。
「もう無理して式続けなくていいわよ、奈理子!」
「奈理子さん、助けに来ましたっ!!」
ツルバナ女の目が細められる。
「……おや?もう少しで“誓いのキス”だったのに、残念だわ」
祭壇の上で混乱する式場。花嫁ドレスの裾をたくしあげ、奈理子は走り出した。
「はなしてっ……!変身、しないと……っ!」
純白のドレスの裾を乱しながら逃げる奈理子。
だが、祭壇の左右から伸びた薄紅色の蔓が、ひゅるりと音を立てて襲いかかり、彼女の手首と足首、腰を絡めていく。
「いやっ……っくぅ……な、なんで動けないの……!」
セイクリッドウインドとドリームキャンディは、観客を守るためにツルバナ女配下のウズムシ男と戦闘に入っており、奈理子にすぐには近づけない。
「あなたは“特別”なのよ、奈理子さん」
壇上から優美に歩み寄る白園麗華=ツルバナ女。
「この蔦は、私があなたのために丁寧に仕込んだもの。
“花嫁の役目”を途中で放棄しないようにね?」
「なにそれ……こんなの、冗談じゃない……っ!」
奈理子は抵抗するが、ドレスのコルセット部分にまで巻きついた蔓が、彼女の体温を吸い取りながらゆっくりと締め付けていく。
「ミラクル……チェン……」
奈理子はアイマスクを装着しようとするが、
「……っあ、だめ、腕が……!」
蔦が腕にまで這い寄っていた。アイマスクを持つ右腕を押さえられ、変身の言葉が最後まで届かない。
奈理子は必死に叫ぼうとするが、息が詰まり、地面に膝をついた。
「奈理子ちゃん、諦めないでぇーー!」
観客席から少女の声が上がる。泣きそうな表情で叫ぶ市民たち。
しかし、奈理子の瞳は決して折れていなかった。
(変身できない……けど、逃げるわけにはいかない。
みんなが見てる。私がこのまま諦めたら、誰が守るの……?)
ツルバナ女が優雅に腰を屈め、耳元で囁く。
「さあ、奈理子さん。“誓いのキス”の時間よ。
ほら、あなたの花婿さんが……ずっと待ってるわ」
その瞬間、背後から
「うふふふ……♡」
と柔らかい声がした。
「俺の“凍み蒟蒻ボディ”……今日は特別、あっためてきたんだぜぇ……」
ずるりと、コンニャク男が背後から伸びてくる。
乾ききった身体にわずかに水分を吸収し、表面はしっとりと柔らかい。奈理子に触れようとするその手が、彼女の肩に届く――
だが、奈理子はその瞬間、最後の気力を振り絞って叫んだ。
「やめてぇぇぇぇぇえええっ!!」
奇跡のように、その叫びで蔦の締め付けが一瞬緩む。
ドレスの隙間から光が溢れ、奈理子の胸元が白く輝き始めた。
「……えっ?」
ツルバナ女が、はじめて表情を動かす。
「みんなが……私の名前を呼んでくれたから……私は、負けない!」
その一瞬の隙を突いて、奈理子はようやくアイマスクを装着する――!
「ミラクル・チェンジ!」
奈理子の叫びが空気を裂いた瞬間、彼女の身体を締めつけていた薄紅色の蔓が眩い光に焼かれ、パチパチと音を立てて弾け飛んだ。
ウェディングドレスのレースが風に舞い、消滅していく。いつものコットンショーツとは違うブライダルランジェリーの奈理子に姿に歓声が上がる。しかし、それも一瞬だけだった。舞台の上で白い光に包まれた奈理子の姿が変わっていく。
「ミラクルナイト、参上――っ!」
風をはらんで広がったのは、いつものノースリーブのブラウス。そして、白いプリーツミニスカートがひらりと翻る。
輝く水色のリボンが胸元を飾り、足元のミラクルブーツが地面を軽やかに踏みしめた。
蔓の残骸が地面に落ちると同時に、観客席からは大歓声が湧き上がる。
「うそ……ドレスのままコンニャク男とキスさせたかったのに……」
舞台袖のツルバナ女が悔しげに唇を噛む。
「あなたたちの企みには乗らないわ……!」
ミラクルナイトは指をツルバナ女に突きつける。
「私は水都の守護神。みんなの前で、こんな茶番で終わるわけにはいかないの!」
「チッ……ならばこのまま、力ずくで押し通すまで――」
ツルバナ女が指を鳴らすと、ウズムシ男たちが
「わあああっ!ミラクルナイト!今度はちゃんとミニスカート!」
「サービスだああ!」
と騒ぎながら再突撃。
さらに、コンニャク男が
「よっしゃ再戦だァ!今度は濡らしてからじゃなく、いきなり包み込むぞ〜〜♡」
と糸蒟触手をぶら下げてミラクルナイトへ向かう。
「ふざけないでっ!」
ミラクルナイトは飛び上がると、空中で回転しながらスカートをふわりと翻し――
「ミラクル・アクアティック・ラプチャァァァァッ!!」
水のオーラが彼女の両手から放たれ、ウズムシ男たちをまとめて包みこむ。モゾモゾと動きながら悶絶するウズムシ男たち。
「な、なんて眩しい……!あのミニスカから出てる神々しさか……!?」
「今日の奈理パンは色っぽいけど……目がァァァッ!」
ツルバナ女は舌打ちしながら撤退の合図を出す。
「やっぱり、今日は花嫁にするにはまだ早かったかしら……。でも、また“式”の続きをしましょうね、奈理子さん……ふふふ」
コンニャク男を従え、蔓を地面に這わせて撤退していくツルバナ女とその眷属たち。
舞台に取り残されたミラクルナイト。観客たちは拍手と歓声に包まれ、花びらが舞う演出が再開する。
「……もう、ほんと……何なの、これ……」
照れたように呟いてスカートの裾を押さえるミラクルナイトだった。
「あっ、待て!逃がさないわ!!」
ミラクルナイトが叫ぶと、ツルバナ女が振り返り、ふふっと微笑んだ。
「逃げると思った? 今日はちゃんと決着をつけさせてもらうわ!」
「望むところよ!」
「まぁ……本気なのね。なら、せっかく再構築した彼の“食感”……味わってみて?」
「おうっ!行くぜ奈理子っ!」
ぬるりっ、とコンニャク男がツルバナ女の蔓の間から飛び出す。
以前よりややゴツくなった体は、冷凍・解凍を繰り返した“凍み蒟蒻”を模したような、凹凸とヒビのある筋肉質な質感。しかも、ミラクル・アクアティック・ラプチャーを取り込んで水分補給はバッチリだ。
「今の俺は……冬を越えたコンニャク様だァッ!!」
「……意味がよくわからないけど、来るなら来なさい!」
ミラクルナイトは構えるが、次の瞬間、彼女の足元に“糸蒟弾”がぬちゃっと炸裂した。
「うわっ!? な、なにこれ!? つるっ……!」
ズルッと足を取られたミラクルナイトの身体がよろけた瞬間、コンニャク男の「ねじれ触手」が背後から飛来!
「へっへー!ぬるぬるバリア突破ーっ!!」
「くっ、そんなっ――んきゃっ!」
スカートの裾が絡め取られ、ミラクルナイトはたまらずスライディングする形で地面に膝をつく。
「ナイス構図っ!」
「絶景かな絶景かなっ!」
いつもとは違う大人っぽいショーツのパンチラにウズムシ男たちの声がどこからか響く。
「もう……うるさいっ!」
立ち上がろうとしたミラクルナイトに、今度は「こんにゃく波動弾」が迫る。
ぬちゅっっっ!!
「うぎゃああああ!? き、着てる感覚が……こんにゃくに包まれてるみたいで変な気分になるぅぅっ!」
「どぉだ!これがこんにゃくの真の実力だ!」
――だが、ミラクルナイトの瞳に再び、あの言葉が浮かぶ。
「コンニャクは凍らせて解凍するとスカスカになるのよ」
菜々美の声だ。
「そうよ……あなたは“凍みる”と脆くなる!」
ミラクルナイトはすかさず飛び退き、両手に水のオーラを集中させる。
「アクアティックラプチャー・コールドモードッ!!」
冷気を帯びた水の奔流が、コンニャク男を再び包み込む。今度は表面だけでなく、内部まで凍りつくような冷気が彼を襲った。
「ががっ、がぴぃぃぃぃ!? 俺の……俺のぷるぷる感がぁあああああああ!!!」
「もう……逃がさない……!」
ミラクルナイトは飛び上がり、回転しながら右足を振り上げる!
「ミラクル……キーーーーック!!」
だが、その瞬間——。
「ぐはっ!?」
空中のミラクルナイトが、突如として放たれた謎の衝撃波によって吹き飛ばされる!くるくると空中で回転しながら落下し、地面に膝をつくミラクルナイト。その前に現れたのは、見るも禍々しい甲殻と翅を併せ持つ異形の怪人——
「我こそは、アブサワガニ!」
シャコシャコと歩く沢蟹の脚、背中には黒々とした虻の羽根、泡立つ毒泡を口から吐きながら、不気味な笑みを浮かべる。
「コンニャク男、お前に蟹のエキスと虫の生命力をくれてやる。さあ、飲め……アブサワ・フォーム!」
アブサワガニが吐き出した泡は、ふわふわとコンニャク男を包み込み、霜に包まれていた体表がじゅわりと融ける。蟹の出汁を吸い込み、再びプルンプルンに復活するコンニャク男。
「ぷしゅわぁあああああ……!」
ステージ後方、薔薇のアーチを破って現れたのは——
蟹味完全復活!コンニャク男!!!
全身から白く濁った泡を吹き出しながら登場し、観客席からは悲鳴とともに「またお前か!」の野次が飛ぶ。
「ミラクルナイト!オレ様は蟹味になって帰ってきたぜぇ!今日こそ俺とゴールインしようじゃねぇか!」
「こ、婚約破棄よっ!!」
涙目で叫ぶミラクルナイト。
そこへ風を裂いてセイクリッドウインドとドリームキャンディも参戦!
「奈理子さん、無事でよかったです!」
「ウエディング姿は似合ってたけど、やっぱりそっちのが“奈理子”って感じだね」
三人並んでポーズを決めるが——
「んで、お前ら誰?」
コンニャク男、ミラクナイト以外のヒロインの名前を覚える気がない。
「キャンディチェーン! くらえっ!」
ドリームキャンディが渾身の鞭を振るう。しかし…
「ぷるるんっ!」
チェーンはコンニャク男の腹に吸収され、逆にビヨヨンッと跳ね返される。
「わあああっ!? 鼻に当たりましたぁっ!」
「ふっふっふ……“弾力3倍!蟹エキス入り”の俺様の体に効くと思ったかぁっ!」
次はセイクリッドウインドの番!
「風よ、舞えッ! ガストファング!」
鉄扇が生み出す刃のような突風がコンニャク男を切り裂こうとする——が。
「…あー……気持ちいい……」
泡に包まれた体がクッションのように風を受け流し、涼みながらうっとりするコンニャク男。
「温泉の露天風呂で扇がパタパタしてる感覚だぜ……これは眠くなる……」
「ちょっと!!聞いてるこっちはテンション下がるんだけど!?」
ミラクルナイトは距離を詰めて接近戦を挑む!
「えいッ!!」
お得意のハイキックが放たれ、コンニャクにヒットするが…
「うぉっ!?…わははっ!くすぐったい!やめろやめろ!パンツ見せながら、おなか撫でんな!」
「くぅぅぅ……じゃあこれはどうっ!ミラクルキィィック!」
空中で回転して放たれる華麗な足技——
ぬちゅっ
「あっ」
コンニャク男の白い泡に滑ってミラクルナイト、着地失敗!スカートばさぁ!
「見えた!見えたー!!」
ウズムシ男たち、背後でキャッキャとはしゃぐ。
「ちょっと!!お前ら手伝え!!」
ツルバナ女が怒鳴るも、コンニャク男は叫ぶ。
「フンッ!今度は俺一人でやる!泡と蟹と蒟蒻の力で、今夜は俺が主役だぁあ!!」
三人のヒロインは互いに背中を合わせるように集まる。
「なんか……前より強くなってません?」
「うん、ちょっと蟹臭いけど、勢いだけは一級ね」
「今夜は焼き蟹パーティーになるかも……!」
再び立ち上がるヒロインたち。しかし今のままでは効果的な打撃は通じない——!
ミラクルナイト、セイクリッドウインド、ドリームキャンディは、ステージで跳ねまわるコンニャク男を前に追い詰められていた。
「はっはっはっ!泡まみれのぷるるんアタック、もう一発行っとくかぁ?」
ドシュゥッ!!
泡が地面に飛び散ると、そこには蟹の出汁のような香りと白い蒸気が漂う。
「奈理子さん、あの泡、温かいです!」
「つまり……内部で熱を帯びてるってこと?」
「泡で守りながら、自分で自分を煮込んでるってわけね。おいしそうだけどバカねアイツ」
セイクリッドウインドがニヤリと笑い、地面に転がる泡を指先で弾く。
「つまりさ、加熱された状態の泡を冷やせば……」
「固まる!!」
三人が同時に叫んだ。
「それこそ凍み蒟蒻ってやつよ。さっきまでみたいに凍ったコンニャクはスカスカになるって!」
「でも、前と違って今の奴は“泡”がある。中まで届くほどの冷却がないと……」
そこで、ミラクルナイトがふと顔を上げる。
「ミズクロス噴水の下に誘導すれば……!」
──ミズクロス噴水。結婚式会場の端に設置された、冷却式噴水装置。
泡だらけのコンニャク男がその冷水に入れば、中の“蟹出汁蒟蒻ボディ”が冷えきって、再びスカスカにできるかもしれない。
「よし、行くよ!」
ミラクルナイトは前に出て、両手に水色の光を集める。
「これで注意を引く!《ミラクルシャインブライト!!》」
パシュンッ!
光弾が立て続けにコンニャク男の周囲に炸裂する。
「おおっと、来た来たぁ!奈理子は今日も元気だぜぇ!」
「凜さん!今のうちです!」
「任せときな!」
セイクリッドウインドが《ガストファング》を振るい、突風で泡を後方へ吹き飛ばすと、
そこへドリームキャンディがジャンプし、キャンディチェーンで泡ごとコンニャク男の足をひっかける!
「え、ちょっと!?何すんだオイ!」
「今です、奈理子さんっ!!」
ミラクルナイトが全力で駆け出す——その先にあるのは、ミズクロス噴水の水盤!
「うおおおおおおおお!!?」
泡を巻き散らしながら、コンニャク男が冷却噴水の中にボチャンッ!
「ぎゃああああああ冷たいぃいい!!」
「まだよ!アクアティックラプチャー・コールドモードッ!!」
ブクブク……ぷしゅぅ……
泡が一気に冷やされ、蒟蒻の体がきしむような音を立てて縮んでいく。
ミラクルナイトはスカートを押さえながら勝利を確信し、叫ぶ。
「今よっ!!トドメはこのあと!!」
——その瞬間、背後から何かが忍び寄る気配が……
ミラクルナイトの叫びが、噴水広場にこだました。
「今よっ!!トドメはこのあと!!」
縮みきったコンニャク男は、へたり込んで立ち上がれない。ミラクルナイトは大きく助走を取り、空高く跳躍する。
「行くわよ……これが私の――」
奈理子の股間から、水色に光輝く女の子の香りが溢れ出す。
「ミラクル・ヒップ・ストライク!!」
だがその時!
「ふぎゃっ!?」
「どっこい!」
「今だズラァ!!」
シュババッ!
突如として、影からウズムシ男たちが飛び出した!三体が一斉に、漂わせる宙を舞うミラクルナイトに飛びつく。
「えっ!? なにこれっ!?ちょっ、やだああああっ!」
ヒップアタックの体勢が崩れ、宙でバランスを失うミラクルナイト。
「クンクン……奈理子の女の子の匂いは良い匂い!」
「もう人生に悔いはない!死んでもいい!!」
「奈理子、好きだ―!結婚してくれー!!」
「いやぁ~~!匂い嗅がないで!触らないでぇ~!」
ウズムシ男たちに嬲られ、奈理子の股間の輝きが薄れていく。スカートがめくれ上がり、客席から悲鳴と歓声が交錯する。
「セクシーパンツ丸見え!?」
「カメラカメラ!」
「奈理子様ぁぁあ!!」
ドシュウッ!
突風が吹き抜けた。その瞬間、ウズムシ男たちは弾き飛ばされ、ミラクルナイトも地面に落下する前に風のクッションに包まれて何とか着地を果たす。しかし、スカートは剥ぎ取られ、シルクのブライダルショーツは半分脱がされかけていた。
「──凜さんっ!!」
その声に応えるように、セイクリッドウインドがステージ脇に降り立っていた。右手には、展開したガストファングが鋭く輝いている。
「油断しすぎ、奈理子。敵はコンニャク男だけじゃないって分かってたでしょ?奈理子は休んでて」
「す、すみませんっ……!ありがとう、凜さんっ……!」
ミラクルナイトは膝に手をついて肩で息をしながらも、セイクリッドウインドに一礼した。
「ウズムシ男はまとめて吹っ飛ばした。今度はそっち。」
セイクリッドウインドが目線を向けた先、
そこにはツルバナ女とアブサワガニが並び立っていた。
「お姉さん、今度こそ踏みつぶしちゃおっかしらぁ?」
ツルバナ女は蔦を撫でながらにっこり微笑み、
「泡、補給してやろうか?」
アブサワガニは鋏をギチギチ鳴らしていた。
セイクリッドウインドは構えながら、笑った。
「悪いけどここから先は通さないよ。ツルバナ女、アブサワガニ、それとそこのウズムシたち。」
バサァッ!
突風が彼女の裾を揺らす。
「ドリームキャンディ、任せた。コンニャク男はあんたがやりな!」
「……了解しましたっ!」
小柄なドリームキャンディは顔を上げると、ゼラチンのようにへたりこんだコンニャク男に向き直る。
「これで終わりです、コンニャク男!!」
ステージ上空には再び、水色の光が集まり始めていた――
「これで終わりです……!」
ドリームキャンディの声が、観覧ステージにこだました。
水都の空は雲一つない夕焼け空。
金色に照らされた彼女のキャンディチェーンが、きらんっと光を放った。
「キャンディチェーン……ロリポップハンマー、チェンジッ!!」
ガシャッ!
キャンディチェーンが巻き取り、重厚な金属音を立てて巨大なロリポップ型のハンマーへと変形する。ピンクと黄色のストライプ模様がぐるぐると渦を巻き、先端に七色のオーラが集まり始める。
「うぃぃ〜〜ん……うぃ〜〜ん……」
頭上でゼラチン質のまま呻くコンニャク男が身をよじらせる。
「こ、これ以上やられると……お、俺……またプルプル感がっ……!」
「遅いんですっ!」
ドリームキャンディがロリポップハンマーを構え直し、足元に魔法陣が輝いた。
「これがわたしの――最大の一撃っ!!」
「キャンディスタァアアアアバァァァァストッ!!」
ロリポップハンマーの先端が七色に輝き、虹色の光線が**ドオオオン!**と一直線にコンニャク男を貫いた。
「ぬああああああああ〜〜〜〜〜〜っ!?!?!?!?!?!?」
コンニャク男の身体が、ゼリーのようにぷるぷるっと震え、
そのまま溶けるようにして霧散していった。
「うわっ……」
「ぷるぷる……って……」
「光になった……」
イベント会場に集まった観客たちから、どよめきと歓声が巻き起こる。
「……ふぅ。やりましたっ……!」
ドリームキャンディがハンマーを杖の形に戻し、安堵のため息を吐く。
その時、観覧車の裏手の影からツルバナ女とアブサワガニが姿を現した。
「まぁまぁ、やられちゃったのねぇ、コンニャク男……」
ツルバナ女は微笑みながら蔦を払う。
「ふん。蒟蒻が虹に負けるとはな。泡で包むまでもなかったか」
アブサワガニは蟹鋏をギチギチ鳴らして肩をすくめる。
セイクリッドウインドが扇子を構えたまま、一歩前に出た。
「……まだやるつもり?」
ツルバナ女はしなやかに一礼する。
「ふふ、今日はお引き取りさせていただくわ。あんまり強い女の子がいると、奈理子の出番がなくなっちゃうし……ね?」
「泡の補給は次の機会にしてやるよ」
アブサワガニはふわりと泡を撒いてから、ツルバナ女と共に姿を消した。
「ふぅ……とりあえず、終わったね」
ミラクルナイトが胸に手を当てて息を整える。
「お疲れ様、奈理子。今日も、みんな喜んでたよ」
「奈理子さんのウエディングドレス姿、素敵でした。そのパンツも……」
セイクリッドウインドとドリームキャンディがミラクルナイトを支え、立ち上がらせた。そして、手を取り健闘をたたえ合う。
勝利の虹は、確かにそこにあった──
セイクリッドウインドとドリームキャンでは去っていった。
ミラクルナイトが右手を胸に当てて深呼吸すると、ふわりと光が舞い、
戦士の姿が解けて、白く清楚なウエディングドレス姿の奈理子へと戻っていった。
「……はぁ……おわった……」
肩の力が抜けた瞬間、スカートの裾を見下ろし、ふと奈理子の頬が赤くなった。
「な、なんで……っ!よりによって……っ!」
思い出してしまったのだ。
新郎役がコンニャク男だったという、あまりにも衝撃的な事実を。
「どんな罰ゲームよ……!あんな……あんな、ぷるぷるの怪人が……!」
「“誓いのキス”寸前だったんじゃ……っ!」
顔を真っ赤にしてしゃがみ込む奈理子に、後ろから菜々美の声が飛んできた。
「おつかれさま、お嫁さん♡ うふっ、まさかのカップル成立だったとはね〜」
「ぷるぷるコンビ、意外とお似合いだったよ?」
とすみれも微笑む。
「や、やめてよもうっ!///」
奈理子は頬を押さえて、ふたりの方に顔を背けた。
白いドレスのスカートがふわりと揺れ、まだ残る蔦の痕に手をやりながら、
奈理子はゆっくりと立ち上がった。
──ステージを囲むように集まった観客たちが、拍手を送っていた。
「奈理子ー!!」
「菜々美お嬢様!……誰だか知らないけど、残りの人!水都女学院の女の子、最高ー!」
「結婚おめでとー……って違うか!」
「ウエディングドレス似合ってるぞー!」
「応援ありがとうございます!」
奈理子は照れ笑いを浮かべながら、
軽く一礼して歓声に応えた。
何も言わず、お淑やかに手を振る菜々美。
「私はの残りの人??奈理子さんや菜々美さんみたいに有名じゃないけど……」
複雑な心境のすみれ。
こんな形の模擬結婚式になるなんて、誰が予想しただろう。
けれど、仲間と共に掴んだ勝利が、
観客の声援と夕暮れの空に包まれて、
不思議と温かな記憶として心に残っていく。
そして奈理子は、思った。
「次こそ……ちゃんとした新郎と誓いのキスがしたいなぁ……」
そう小さく呟いた声は、
夕暮れの風に乗って、そっとステージの空に溶けていった――。
(第199話へつづく)
(あとがき)












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