ミラクルナイト☆第215話
夜のファミレス。蛍光灯の白い光に照らされ、ガラス越しに車のテールランプが流れていく。
窓際のボックス席に座るのは、牛島と渚。牛島はラフなパーカー姿、渚は仕事帰りらしく地味なカーディガンに眼鏡。彼女の横には通勤用の折りたたみ自転車が無造作に置かれていた。
「便所コオロギなんかと一緒は嫌です!」
渚はメニューを叩きながら、苛立ちを露わにした。
「いやぁ、そう言われてもな……九頭先生のご指名だから」
牛島は肩をすくめ、ストローでコーラをかき混ぜる。
「カマドウマ男とか、名前からして嫌です。あんな野蛮な奴と組んだら、私まで同類に見られるじゃないですか!」
渚は声を落としながらも、怒りを隠せない。
「でもさ、奈理子ファンの間じゃ“屈指の好カード”って言われてるのは渚とミラクルナイトだろ?そこにカマドウマ男が加われば、盛り上がるに決まってる」
「私はそんな盛り上げ役になりたくありません!だいたい、今までずっと牛島さんと組んできたのに、なぜ便所コオロギと組まなきゃいけないんですか!?」
渚はぷいと横を向いた。
「……でもさ」
牛島が少し笑って彼女を覗き込む。
「渚が“僕が好きでいてくれる”ってのは正直嬉しいけどな」
「はぁ!?」
渚は顔を真っ赤にし、慌てて眼鏡を押し上げた。
「誰が牛島さんを好きだなんて言いましたか!? 牛島は……その……話がしやすいだけです!」
「そっかぁ、話しやすいだけかぁ~。でも、僕にしか愚痴こぼさないよな」
牛島がにやにやすると、渚は
「そんなことありません!」
と顔を背けた。
一瞬の沈黙。テーブルの上には、頼んだまま冷めてしまったハンバーグプレートとアイスティー。
牛島はため息をついた。
「とにかく、九頭先生はもう決めちゃってる。嫌でも受けてもらうしかないんだよ」
渚はしばらく黙っていたが、小さく唇を噛み、
「……やっぱり嫌です」
と呟いた。
牛島は頭を掻きながら、天井を見上げた。
「困ったなぁ……」
ファミレスの窓際席。冷めたハンバーグにフォークを突き刺しながら、渚はまだ不機嫌そうに眼鏡の奥で睨んでいた。
「何度言わせるんですか。便所コオロギなんかと一緒は嫌です!」
渚はもう何度目か分からない拒否の言葉を吐いた。
牛島は肩をすくめてコーラを飲み干し、カランと氷を鳴らす。
「でもなぁ……九頭先生は“シオマネキ女が出なきゃ意味がない”って言ってたぞ」
「私はひとりで十分なんです! シオマネキ女とウミウシ男のコンビでやってきたのに、どうして今さら余所者と……」
渚は言葉を詰まらせた。
「余所者って言っても、相手はミラクルナイトだぜ。渚のライバル。お前の名前が一番映える舞台になる」
牛島は少し身を乗り出し、にやりと笑った。
「……っ」
渚の頬が赤く染まる。
「でも……あの便所コオロギとなんて、絶対に……」
牛島はため息をつき、真面目な声になった。
「じゃあ、俺も一緒に戦う」
「……え?」
渚が眼鏡を押し上げる。
「便所コオロギとお前だけじゃ不安なんだろ? だったら俺も加わる。渚が恥をかかないように、俺がちゃんと横で守るよ」
「……牛島さんが一緒に?」
渚は驚いたように繰り返した。
「そうさ。渚となら、俺は何度だって一緒に戦う。今までもそうだったろ?」
沈黙のあと、渚はアイスティーのストローを噛みしめてから小さく吐き出した。
「……はぁ。牛島さんがそこまで言うなら……仕方ありませんね」
「よし、決まりだな!」
牛島は嬉しそうに笑い、渚の肩を軽く叩く。
「でも勘違いしないでください。私は牛島さんのことが好きで出るわけじゃありませんからね!」
渚は真っ赤な顔で釘を刺した。
「はいはい。“話しやすいだけ”なんだろ?」
牛島がにやけると、渚は
「うるさい!」
と顔を背けた。
こうして――渚は渋々ながらも次の出撃を了承した。
穢川研究所・作戦会議室。
簡素な机の上に広げられた水都公園周辺の地図を囲み、牛島、迫水、そして資料を抱えた絹枝が集まっていた。
「ここだな。噴水広場。人通りが多くてテレビ局のカメラも入りやすい。ミラクルナイトを晒すには絶好の舞台だ」
牛島がペンで丸をつけると、迫水は鼻で笑った。
「フン……どうせまた“奈理子のパンツ撮影会”がお望みなんだろ。だがな、俺は違う。あの女を心底叩き潰すことだけが目的だ」
絹枝がメモを取りながら小さく眉を寄せる。
「……でも、カマドウマ男さん。公衆の面前で奈理子を辱めるのは、研究所としても市民の“期待”に応えるために必要なんです」
「チッ。俺は市民の拍手なんぞどうでもいい。あの女に“説得されて改心した挙げ句、世間に捨てられた”この屈辱を叩き返す……それだけだ」
迫水の拳が机を叩き、地図が揺れた。
「おいおい、落ち着けよ」
牛島は肩をすくめる。
「渚と俺も一緒に出るって決まってんだ。お前ひとりの私怨で作戦を潰されたら困る」
「……フン。便所コオロギの俺と一緒に並べられる“蟹だの貝だの”が足を引っ張るんじゃないだろうな?」
迫水はあからさまに牛島を睨んだ。
「シオマネキ女は市民が認めるミラクルナイトの好敵手だぞ。出るだけで群衆が沸く。お前の地味さを補ってやれるだろ」
牛島も負けじと笑う。
「やめてください!」
絹枝が慌てて両手を広げる。
「敵はミラクルナイトたちです。仲間割れしてどうするんですか!」
2人は不満そうに視線を逸らしたが、険悪な空気は消えない。
絹枝は深いため息をつき、内心で毒づいた。
(やっぱり相性最悪じゃないですか……どうして先生は、よりによってこのメンバーを組ませたんですか……)
口には出さず、絹枝は淡々と作戦メモを読み上げた。
「……とにかく。明日の放課後、水都公園噴水広場に奈理子さんを誘導します。カマドウマ男さんが先鋒、シオマネキ女さんとウミウシ男さんが抑えに回る形で――」
「おい、それじゃ俺が“前座”みたいじゃないか!」
迫水が噛みつく。
「いいじゃねえか。お前が奈理子を仕留めて、俺たちが観客を盛り上げる。それで全員の役割が立つんだよ」
牛島は気楽に言う。
(……本当に、どうしてこの人たちの調整を私が……)
絹枝は心の中で九頭を恨みながらも、笑顔を作ってまとめた。
「とにかく! 三人が足並みを揃えれば、ミラクルナイトたちを確実に追い詰められます。……それでよろしいですね?」
迫水は不満そうに腕を組み、牛島はにやにやしながら頷いた。
絹枝はまたも小さくため息をついた。
水都女学院高校 1年2組・放課後の教室。
窓際に座ったまま、奈理子は頬杖をついていた。
ノートも開いたまま手が止まり、ぼんやりと空を眺める。
(迫水さん……あんなに真面目に服役していたのに……どうして、また敵として現れるの……?
私が、あのとき改心させたはずだったのに……)
心に重い影が差す。自分の「正義」が間違いだったのではないかという疑念が胸を刺していた。
そんな奈理子の机に、菜々美が上履きの音を響かせて近づいてきた。
腕を組み、いつもの高飛車なお嬢様然とした態度で言い放つ。
「……なにを、沈んだ顔をなさっているの? 奈理子さん」
「菜々美さん……」
奈理子は顔を上げ、力なく微笑もうとした。
「迫水さんが……また、怪人として……。私の言葉を信じてくれていたと思ったのに……結局、私は――」
「甘いですわ!」
菜々美の鋭い声が教室に響いた。
周囲の女子たちが驚いて振り返るが、菜々美はお構いなしに言葉を続ける。
「改心するだなんて、夢物語。敵は敵のままですのよ。あなたがどれほど“純白の天使”と讃えられようと、
現実はそんなに優しくはありませんわ」
「でも……私は、信じたくて……」
奈理子の声は震えていた。
菜々美はため息をつき、少しだけ視線を逸らす。
「……あなたはお人好しですわね。そこが市民に愛される所以でもありますけれど……。
その甘さが、またあなたを傷つけるのです。ミラクルナイトとして戦う以上、覚悟を持ちなさい」
厳しい言葉だったが、その瞳の奥には揺れるものがあった。
本当に奈理子が嫌いなら、わざわざ声を掛けたりはしない。
「菜々美さん……」
奈理子は胸の奥で小さな温もりを感じた。
冷たい態度に見えて、その実、菜々美が自分を気に掛けてくれている――それが分かってしまうから、余計に胸が熱くなるのだった。
水都公園・夕暮れの遊歩道。
オレンジ色の夕陽が並木道を照らし、長い影を落としていた。
制服のスカートを揺らしながら歩く奈理子は、重たい心を抱えたまま、いつもの帰宅路を進んでいく。
(菜々美さんには甘いって言われちゃったけど……。
それでも私は、人は変われるって信じたい……。だって、そうでなきゃ――)
枯葉を踏みしめる音がやけに大きく響いた。
奈理子の胸に、昨日からずっと消えないざわめきが広がっている。
(多羅尾さんも……ゲジゲジ男として、あんなに奈理子ファンを名乗っておきながら、刑務所から出た後はまた悪に戻ってしまった……。
“信じる”だけじゃ、救えないの……?)
奈理子は足を止め、ふっと遠く夜に溶けていく水都タワーのシルエットを見上げた。
あの場所で戦った日のことを、思い出さずにはいられない。
「迫水さんも……倒すしか、ないの……?」
小さく自問する声が、静かな遊歩道に消えていった。
頬を撫でる風は冷たく、まるで「答えを出せ」と奈理子に迫ってくるようだった。
カサリ――。
木立の陰から乾いた音が響いた。奈理子はビクリと肩を揺らし、振り向く。
「……だ、誰?」
夕陽に赤く染まった遊歩道。その奥から、異様に発達した後脚を持つ影がゆっくりと現れた。
カマドウマ男――迫水である。
「やっぱり……!」
奈理子の顔から血の気が引いた。
「おう、奈理子。俺を“改心させた気になってた”みたいだが……」
迫水の声は低く、湿った怒りを含んでいた。
「お前の言葉を信じて罪を償った結果、俺は世間から爪弾きにされた。居場所もなく、誰からも必要とされねえ……」
「……そんな……!」
奈理子は一歩後ずさる。
「迫水さん、私は……!私は本気で、貴方なら変われるって思って……!」
「思っただけで満足か? お前の“お花畑みたいな正義感”のせいで、俺は余計に惨めな目にあったんだ!」
迫水の後脚が石畳を強く叩く。ドン、と重い衝撃音が響いた。
市民がざわつきながら遠巻きに集まり始める。
「奈理子、俺はてめぇを許さねえ!今日ここで叩き潰してやる!」
奈理子の瞳が揺れる。
(私が迫水さんを追い込んだ……?私のせいで……?)
胸が締めつけられるように痛んだ。
だが、集まりつつある市民のざわめきが、奈理子の耳に届く。
「奈理子、逃げろー!」
「ミラクルナイトになって戦えー!」
(……そうだ。迷ってばかりじゃ、誰も守れない……!)
奈理子はポケットから水色のアイマスクを取り出した。
「迫水さん……もう迷わない。あなたの怒りは私が受け止める!」
決意に満ちた声で叫び、夕陽の光を背にアイマスクを握りしめる奈理子――。
「奈理子ー!ミラクルナイトになれーっ!」
「可愛い奈理子の変身、待ってるぞー!」
ざわめいていた市民が、やがて期待の大歓声に変わっていく。
スマホを掲げる者、テレビ局の中継ドローンまで舞い降り、奈理子を中心に光が集まるようだった。
「ふん……」
カマドウマ男が大きな後脚をバネのように曲げ、ギシリと音を立てる。
「変身すりゃ可愛い姿で市民を喜ばせる。負ければパンツ一丁にされて晒し者。どっちに転んでも“お前の魅力”で市民は満足なんだ。哀れだなぁ、奈理子!」
観衆がどよめく。
「そういうとこも奈理子らしいよな!」
「負けても可愛いから許す!」
「今日も奈理子のパンツ見れるかな?!」
と、半分は期待で熱狂している。
「……っ!」
奈理子は頬を赤らめながらも、胸を張った。
(たとえ笑われても……恥ずかしくても……それが私の使命なら!)
奈理子は水色のアイマスクをぎゅっと顔に押し当てる。
「――ミラクル・チェンジ!!」
水色の光が迸り、セーラー服が瞬時に霧散。純白のブラとショーツが一瞬だけ夕陽に煌めき、その上からミラクルナイトの白と水色のコスチュームが舞い降りるように重なっていく。
「水都の平和を乱す者は……水都の守護神、ミラクルナイトが許しません!」
高らかに宣言する奈理子=ミラクルナイト。その声に、観衆は大歓声で応えた。
「よっしゃー!」
「奈理子可愛いぞー!」
「今日は負けるなよ!」
「でも負ける奈理子も見たい!」
観衆の期待とカマドウマ男の不敵な嗤いを浴びながら、戦いの幕が切って落とされた――。
水都公園・噴水広場。
「私は、私のやり方で戦うしかない!」
白い翼を広げ、ミラクルナイトが踏み込む。風に舞うのは純白のプリーツミニ。下半身を覆うのは、コットン100%の純白パンティただ一枚。
「えいっ!」
得意の右ハイキック!
「おっと」
カマドウマ男はバネのような脚力で軽く後方に飛び退く。
「まだまだ!」
ミラクルナイトは地を蹴り、追撃の右ストレート!左回し蹴り!
ヒラヒラ舞うスカートから覗く白パンに、観客は大歓声。
「奈理子!パンツ見えてるぞー!」
「そのまま頑張れー!」
華麗なるパンチラアクションは水都名物。ファンは夢中でシャッターを切る。
だが――。
「遊びは終わりだ」
すれ違いざま、カマドウマ男の鋭い膝が奈理子の腹部に突き刺さる。
「……っ!」
か細い声を漏らしたミラクルナイトは、そのまま失神。白い翼もしぼみ、力なく垂れる。
「可愛いだけが取り柄のザコヒロインめ」
カマドウマ男は小脇に抱えた奈理子を、まるでゴミ袋でも投げ捨てるかのように放り投げた。
ドサッ――!
スカートはめくれ上がり、臍まで露わ。ガニ股に崩れ落ちた奈理子の白パン姿が広場の真ん中に晒される。
「ひ、ひと蹴りで負けた……」
「パンツ丸出しで気絶……奈理子ちゃん……!」
観客は唖然としたが、すぐにカメラを構え直す。
「情けない姿も可愛い!」
と大喜び。
スマホの画面に収められるのは、ひっくり返った蛙のように臍も太ももも、無防備に晒された“純白の天使”の姿。
「トドメだ」
カマドウマ男が再び跳躍し、ミラクルナイトに迫ろうとした――そのとき。
「……あとは僕たちに任せてもらおうか」
静かな声と共に、青と白のスーツを纏ったウミウシ男が前に立つ。その後ろに現れるのは、観客待望の宿敵――。
「シオマネキ女ーッ!!」
熱狂と拍手が爆発する。ミラクルナイトが惨敗するほど、シオマネキ女の人気は天井知らずだ。
シオマネキ女は失神し、パンツ丸出しで転がるミラクルナイトを一瞥し、冷たく鼻で笑った。
観客は爆笑しつつも
「奈理子、最高ー!」
と歓声を送る。屈辱的な扱いすら“ファンサービス”に変えてしまうミラクルナイト。だが、この敗北劇はまだ始まりに過ぎなかった。
「奈理子は俺の獲物だ……!」
血走った眼でカマドウマ男が呻く。自分の人生を狂わせ、服役に追いやったミラクルナイトへの怨念は消えない。白パン丸出しでひっくり返っているミラクルナイトを見下ろし、脚刃を煌めかせた。
しかし、その前にウミウシ男が立ちふさがる。
「君の役目は終わりだ。それとも――」
彼の視線が遠い空に向く。緑と黄色の光が一直線に噴水広場へ降りてきていた。
「セイクリッドウインド……そしてドリームキャンディか」
「その体で彼女たちと戦うつもりかい?」
ウミウシ男の声は冷ややかだった。
絹枝の報告では、先日の“ミラクルスピンクロスチョップ”をカマドウマ男は避けたつもりだったが、完全には躱しきれておらず深手を負っていた。
「こんな傷……どうということはない!」
膝を震わせながらも、カマドウマ男は跳躍の構えを取る。
「僕は組織の中枢にいる人間でね。君に万一のことがあれば、この戦場を任された僕の評価が下がるんだ」
ウミウシ男は飄々と笑みを浮かべた。
「そんなこと、俺には関係ない!」
「せっかく娑婆に出てきたんだ。先は長い。焦らずやればいい」
ウミウシ男は相変わらず視線を奈理子に向けず、光を纏って降り立った2人のヒロインを見据えた。
ドンッ――!
石畳に降り立つと同時に、緑と黄色の光が弾ける。
「奈理子……女の子なのに、あんな格好で……」
セイクリッドウインドは仰向けで失神したまま、カエルのように脚を投げ出すミラクルナイトの姿に額へ手を当て、深いため息を吐いた。
「カマドウマ男だけじゃなく……ウミウシ男に、シオマネキ女まで!?」
ドリームキャンディの目が大きく見開かれる。
「フッフッフ……」
セイクリッドウインドが余裕の笑みを浮かべる。
「カマドウマ男の動きはもう見切っているわ!」
「な、なんだと!!」
思わずカマドウマ男が噛みついた。
「挑発に乗るな。ここは俺たちに任せろ」
ウミウシ男が静かに手を上げて制す。その口調は余裕に満ち、まるで獲物をいたぶる前の静かな愉悦を隠そうともしなかった。
観客たちはヒーローと怪人の入り乱れる状況に大熱狂。
「奈理子ちゃんは脱落したけど、次は凜ちゃんだ!」
「キャンディもいるぞ!」
カメラのフラッシュがひときわ激しく焚かれた。
気絶して仰向け、白パンを丸出しにしたまま晒されているミラクルナイト。
そのすぐ横で、シオマネキ女が片手を高らかに上げ、観衆に向かって告げた。
「奈理子は面白い格好をしているから、このままにしておくわ。好きなだけ撮りなさい」
「さすがシオマネキ女!」
「奈理子ファンの気持ちをよく分かっている!」
歓声とフラッシュの嵐。市民たちは遠慮なく気絶したままのミラクルナイトにカメラを向け、ガシャガシャとシャッター音が鳴り響いた。
だが、その視線をスッとセイクリッドウインドへと移すシオマネキ女。
「アンタは昔から大嫌いだったのよ。今日は奈理子の代わりにアンタをイジメてあげる」
「前にも言ったけど、私はお姫様だったから、貴女みたいな下っ端怪人のことは知らなかったの。そっちのウミウシは存在だけは知ってたよ」
セイクリッドウインドは鼻で笑いながら言い放った。
「ボスの愛人だった君とは違い、僕は実力でのし上がってきたからね」
ウミウシ男が肩をすくめる。
「カタツムリ男の下にいた冴えないチャラ男でしょ」
セイクリッドウインドが挑発的に返す。
「凜さん、ウミウシ男とシオマネキ女の強さは知ってるでしょ。あまり怒らせない方が……」
小声でドリームキャンディが忠告するが、せくリッドウインドは聞く耳を持たなかった。
「奈理子をあんなに恥ずかしい姿にした奴ら……成敗してやるわ!」
セイクリッドウインドがガストファングを翻し、2人を睨みつける。
「奈理子をこうしたのは私じゃなくてカマドウマ男。でも、そこまで言うなら――奈理子以上に恥ずかしい姿にして晒してやるわ」
シオマネキ女は口元に妖しい笑みを浮かべる。
「おー!凛ちゃんvsシオマネキ女だ!」
「凛ちゃん、頑張れー!」
「奈理子の仇を討ってくれー!」
「シオマネキ女も頑張れー!」
「今日も凛ちゃんの恥ずかしい姿見たいぞ!」
観衆は両者を煽り、熱気は最高潮に達していた。
そんな熱狂を横目に、ウミウシ男は小さく笑ってカマドウマ男に囁く。
「市民も盛り上がったし、ここは僕らに任せて引くんだ」
「……チッ」
苛立ちを隠しきれないカマドウマ男だったが、この異様な熱気のなか、ウミウシ男の言葉に従うしかなかった。
「はぁッ!」
ガストファングを振るい、風の刃を飛ばすセイクリッドウインド。
「フンッ!」
シオマネキ女の左手に煌く巨大な電磁鋏がその風刃を切り裂く。
バチィィィッ!!
風と電磁の火花が交錯し、噴水広場の空気は熱気を帯びる。
「凜ちゃん、がんばれー!」
「シオマネキ女に負けるなー!」
市民の声援は熱狂的だった。
しかし、実力差は歴然だった。
「ぐぅっ!」
い斬撃を躱しきれず、セイクリッドウインドのコスチュームはビリリと切り裂かれる。露わになった肩口、覗く白いインナー。
「うわぁ!」
「凛ちゃん、脱げたぞ!」
観衆はフラッシュを焚きまくり、大喜び。
「さすが水都で評判の美人巫女。みんな、アンタがスッポンポンにされるのを期待しているみたいね♪」
余裕の笑みを浮かべるシオマネキ女。
「私は陰湿な貴女と違って、みんなの人気者なのよ!」
セイクリッドウインドが言い返す。
「凜さん、落ち着いて!」
ドリームキャンディが叫ぶ。
「キャンディはウミウシの相手をしてなさいッ!」
セイクリッドウインドは聞く耳を持たず、再び突撃する。
シオマネキ女はふとウミウシ男に目で合図を送った。
「了解」
ヤリと笑ったウミウシ男。
ブシュゥゥゥッ!!
シオマネキ女の鋏から吐き出された妖怪泡がセイクリッドウインドを包み込む。
「わぁっ?!な、なにコレ……?! あぁッ……!」
泡は衣服とインナーをジワリと溶かしていく。
「ほら、見てごらん。スッポンポンの巫女さん、出来上がり~♪」
シオマネキ女が嗤う。
「まだ終わらないよ」
すかさず背後から抱きつくウミウシ男。その体から滲み出る毒気が、セイクリッドウインドの意識を奪っていく。
「くっ……離れ、なさい……」
力を振り絞ろうとする凜だったが、全身が痺れ、視界が霞んでいく。
「凜さん!」
ドリームキャンディの悲鳴。
「風間凜は性格に難があるけど、外見だけはやっぱり可愛いな」
満足げに呟くウミウシ男は、すっかり意識を失ったセイクリッドウインドの体を抱き支えた。
観客席は一斉に爆発した。
「凜ちゃん、やられたーー!!」
「やっぱりシオマネキ女とウミウシ男のコンビは最強だ!」
「一糸纏わぬ姿で失神した凜ちゃん、美しいッ!」
スポットライトを浴びるように、凜の全裸の肢体は市民のスマホに収められていく。
「私が、ウミウシ男を抑えていれば……凜さんは裸にされるだけで済んだのに……」
唖然と呟くドリームキャンディ。だが、すぐに考え直した。
「でも……大勢の市民の前で裸にされたんだから、気を失っていた方が幸せかも……」
「さて、残りは中学生一人だけ」
シオマネキ女が冷たく言い放ち、ドリームキャンディに鋭い視線を向ける。
「私はまだ中学生だけど――高校生の奈理子さんや大人の凜さんよりも、ずっと強い! …と思う!」
震える声ながらも、ドリームキャンディの瞳には強烈な闘志が宿っていた。
「いきます!」
ドリームキャンディは、最初から全力を出す覚悟を決めていた。
手にしたキャンディチェーンを一瞬でロリポップハンマーに変形させ、巨大な鉄球のように振りかぶる。
「ハアァァッ!」
振り下ろされたロリポップハンマーが、石畳を砕き、衝撃波が噴水広場を揺らした。
「ほぉ、さすがに威力はあるな」
シオマネキ女が鋏で受け止め、ギィンッと火花が散る。
「ふむ、なら僕も本気を出さないとね」
ウミウシ男は気を失ったセイクリッドウインドをまるで邪魔な荷物のように片手で放り投げた。
無様に転がる凜。その身体は倒れていたミラクルナイトに重なり合う。
仰向けに倒れる奈理子の白いショーツに、全裸の凜の肢体が覆いかぶさる――まるで意図したかのような無様な光景に、野次馬市民はフラッシュを焚きまくった。
「奈理子と凜ちゃん、ダブル敗北ヒロインだー!」
「最高のツーショットだ!」
「凜ちゃんの大切なところが丸見え!カメラ回せ回せー!」
観客たちはお祭り騒ぎ。倒れた二人のヒロインは「敗北の象徴」として撮影の的になっていた。
その横で――ただ一人立ち続けるのが、中学生戦士ドリームキャンディ。
「……二人の分まで、私が戦う!」
健気な声を張り上げ、再びロリポップハンマーを大きく振るう。
ドゴォォォン!
轟音とともにシオマネキ女を弾き飛ばす――が、硬い外殻には大きな傷ひとつ付かない。
「子供のくせに力だけはあるわね。でも、そんなオモチャじゃ私には勝てないわ♪」
余裕たっぷりに笑うシオマネキ女。
「僕に当てるには遅すぎるよ」
ウミウシ男は、ねっとりとした身体をくねらせながらハンマーをスルリと避ける。
「くっ……!」
汗を滲ませながらも、キャンディは必死に食らいつく。
「奈理子さんも、凜さんも……負けてるのに……!
私まで負けたら、水都はどうなるのよ!」
観衆の声援が飛ぶ。
「キャンディ頑張れー!」
「中学生だけど大人の二人より根性あるぞ!」
「チラリとブルマーを見せながら戦うキャンディ、可愛いぞー!」
「うぅ……みんな、私なんかに……!」
揺れる心を必死に抑えながら、それでもロリポップハンマーを握る手に力を込めるドリームキャンディ。
噴水広場の熱気は、気絶して横たわる奈理子と凜の「敗北の残骸」と、孤軍奮闘するキャンディの姿が対比となり、異様な盛り上がりを見せていた。
「キャンディ、まだ立ってるぞー!」
「中学生なのに健気すぎる!」
「ブルチラしながら必死に戦う姿、最高だー!」
観衆は、すでに奈理子や凜の無様な敗北を背景に、孤軍奮闘するキャンディに熱狂していた。
「ふふん、市民にちやほやされて調子に乗ってるみたいね」
シオマネキ女が鋭い視線を向ける。
「中学生が大人の戦いに首を突っ込むとどうなるか、教えてあげようか」
ウミウシ男がねっとりと笑い、ぬらりと身をくねらせる。
「私は……負けない!」
キャンディは両手でロリポップハンマーを握りしめ、正面に構えた。
「よし、やるわ!」
シオマネキ女が左腕の電磁鋏を高らかに掲げる。
同時にウミウシ男が背後から忍び寄り、シオマネキ女と挟み撃ちの布陣を取った。
「キャンディ、気をつけて!」
観衆から声が飛ぶが、すでに遅い。
「行け!」
シオマネキ女の電磁鋏が振り下ろされる。
キャンディは必死にロリポップハンマーで受け止めるが――
ヌチャリ……
「ひゃっ?!な、なにこれ……!」
背後からウミウシ男の柔らかい身体が絡みつき、ドリームキャンディの腕と腰をがっちり捕らえた。
「僕の体液はね……纏いつくと、力を奪っていくんだ」
「やめなさいっ!」
必死に暴れるキャンディだが、動けば動くほど粘つく液体が全身に絡みつく。
「うわぁ!キャンディが絡め取られてる!」
「奈理子よりもきわどい姿勢だ!」
「頑張れキャンディー!」
観客は大盛り上がり。
「観衆が期待しているのは、アンタが奈理子以上に恥ずかしい目に遭うことよ!」
シオマネキ女は嗤うと同時に、鋏の先端でドリームキャンディのコスチュームを切り裂いた。
ビリッ……。
黄色い布が裂け、胸元が大きくはだける。
「きゃああああっ!」
中学生の恥じらいを含んだ悲鳴が、噴水広場を震わせた。黄色いチューブトップが露わになってしまった。
「キャンディ、可愛いぞー!」
「奈理子よりも健気で可憐だ!」
「でも、やられるとこ見たいー!」
市民の声援と期待が入り乱れる。
「奈理子も凜も脱落、残るはアンタだけよ。さぁ、どこまで粘れるかしら?」
シオマネキ女の嗤い声。
ウミウシ男に絡みつかれ、シオマネキ女に鋏を突きつけられ、ドリームキャンディは絶体絶命の窮地に陥っていた。
シオマネキ女の鋏が再び振り上げられる。
「次はブルマーを見せてもらおうかしら?」
観衆の声援が一段と熱を帯びる。
「キャンディのブルマーまだー?!」
「頑張れー!……いや、脱がされろー!」
「やっぱり脱がされるのがお約束だよな!」
「や、やめなさいっ!」
キャンディは必死に体を捩るが、背後から絡みつくウミウシ男のぬめる腕が締め上げる。
「ふふ、まだまだ力が抜けきっていないね……けど、もう長くは持たないはず」
ウミウシ男の声が、耳元でいやらしく響いた。
「ううっ……負けない……! 奈理子さんも凜さんも倒れたんだから……私が立ち続けなきゃ!」
必死に心を奮い立たせるドリームキャンディ。その目に、倒れ伏した奈理子と凜の姿が映った。
(みんな……私に託してるんだ……! 中学生だからって、引いてなんかいられない!)
「ぬちゃ……っと、もう逃げられないね」
ウミウシ男がさらに力を込める。
その瞬間――
「今だっ!」
キャンディはロリポップハンマーを地面に叩きつけた!
ドォンッ!
爆風と衝撃波が走り、石畳が大きく弾け飛ぶ。
「なにっ?!」
思わぬ衝撃に、ウミウシ男のぬめる拘束が一瞬だけ緩んだ。
「はあああああああっ!!ロリホップ凄い突きぃぃぃ!!」
キャンディが全力で身を捩じり、ロリポップハンマーを振り抜く。
ぐしゃぁっ!!
まともに頭を打ち据えられたウミウシ男が、呻き声を上げて吹き飛んだ。
「おおっ!キャンディやったー!」
「中学生が怪人をぶっ飛ばしたぞ!」
「まだ終わってないけど、最高に熱い!」
観衆の歓声が噴き上がる。
「チッ……やるじゃない」
シオマネキ女が鋏を構え直す。
「私はまだ負けていない! 絶対に倒れるもんですか!」
息を荒げながらも、ドリームキャンディの瞳は闘志で燃えていた。
「ふん……中学生のくせに、しぶといじゃない」
鋏をギラリと光らせ、シオマネキ女が歩み寄る。
「私は……まだ負けない!」
胸を上下させながらも、ドリームキャンディはロリポップハンマーを構え直した。
「でもね、アンタ程度の力じゃ――」
シオマネキ女が鋏を振りかざした瞬間、ウミウシ男が呻き声を上げて片膝をついた。
「……うぐ……くそ、今のは痛かった……なぜ、俺の毒が利かない?」
観衆がざわつく。
「えっ、ウミウシ男が効いてる?」
「キャンディが叩き込んだ一撃、効いてたんだ!」
「はぁ……やっぱり……」
キャンディは口の端を上げた。
「ウミウシ男の毒は、飴で中和してたのよ。――私の特製、超ミントキャンディ!」
口に残る清涼な甘さを噛み締め、堂々と叫ぶ。
「なっ……!」
シオマネキ女が目を細める。
「小娘が、そんな小細工を……!」
観衆は熱狂。
「キャンディ天才だー!」
「奈理子と凜ちゃんより賢い!」
「いや、奈理子はドジだからこそ可愛いんだ!」
無責任に盛り上がる声が飛び交う。
「……ちっ。あのウミウシ男がダメージを受けているようじゃ、長引くのはマズいわね」
鋏を振り上げたシオマネキ女は一歩踏み出し――
しかし、観衆に気付いたようにふっと口元を歪めた。
「今日はこれくらいで勘弁してあげるわ。奈理子を無様に転がして、風間凛を裸にしたし成果も十分。中学生の健気な姿も見せられたしね」
「待ちなさい!まだ勝負はついていない!」
ドリームキャンディが叫ぶ。
「その台詞、そっくりそのまま返すわ。……また遊んであげる、中学生戦士さん♪」
シオマネキ女は鋏を振り下ろす代わりに、ウミウシ男を片手で引きずりながら闇へと退いた。
観衆が大きな拍手と口笛を送る。
「キャンディ、よく頑張った!」
「奈理子や凜ちゃんよりも根性ある!」
「でも、奈理子の情けない姿と凜ちゃんのアソコが一番のご褒美だよな!」
その横で、ミラクルナイトとセイクリッドウインドはぐったりと倒れたまま。
「……結局、私一人で頑張っちゃったな……」
ドリームキャンディはため息をつきながらも、少しだけ誇らしげに胸を張った。
「二人とも……お嫁に行けないような格好しちゃって……」
ドリームキャンディは苦笑した。
股をだらしなく広げ、染み付きパンツを丸出しで気絶しているミラクルナイト。
その上に、すっぽんぽんで重なるように大切なところとお尻の穴まで覗かせてうつ伏せに倒れるセイクリッドウインド。
「奈理子さんが無事で、凛さんだけが脱がされるのは珍しいかも?」
そう呟きながら、ドリームキャンディはつい凛の尻を撫でてしまった。
「……柔らかい……」
んの一瞬、年頃の少女らしい照れが頬を赤く染める。
だが、このまま二人を放置するわけにはいかない。
「仕方ないですね……」
気を失った二人をぐっと抱き寄せると――
「よいしょっ!」
奈理子と凜をそれぞれの肩に担ぎ上げた。
「おおおっ!!」
観衆からどよめきが起こる。
「凄え!キャンディが奈理子と凛ちゃんを同時に持ち上げたぞ!」
「中学生なのに怪力すぎる!」
「おー!奈理子ちゃんのパンツと、凛ちゃんの……た、大切なところが丸見えだ!」
野次馬たちはカメラやスマホを一斉に構え、興奮を隠さなかった。
ドリームキャンディは市民の熱狂の中、二人を担いだまま噴水広場の中央に立ち、深々とお辞儀をした。
「みなさん、今日は声援ありがとうございました」
「今日はキャンディが主役だ!」
「キャンディがいてくれるから、俺たちは奈理子や凛ちゃんのピンチを安心して楽しめるんだ!」
「これからも水都の平和を頼むぞ!」
市民から温かい声援が飛び交う。
(……凛さん、最近負けが多いから、すっかり奈理子さんと同じ扱いになってる……)
ドリームキャンディは内心でそう思い、苦笑した。
だが、胸を張って宣言する。
「水都の街も、奈理子さんも、凛さんも――私が守り続けます!」
「頼りにしてるぞ!」
「中学生戦士最高!」
拍手と歓声に包まれる中、ドリームキャンディの身体を黄色い光が包んだ。
二人を肩に担いだまま、光とともに空へと去って行く。
「奈理子も凛ちゃんも、いい仲間を持ったなぁ……」
「……でも次はまた脱がされてほしい!」
欲望と感動が入り混じった声援に見送られながら、
ドリームキャンディは夕暮れの空へと消えていった。
穢川研究所・社長室。
重厚な扉が開き、包帯を巻いた腕をだらんと下げた牛島=ウミウシ男が入ってきた。
「……申し訳ありません、社長。ドリームキャンディの一撃をまともに喰らい、この通りです」
ソファに腰かけた勅使河原が鋭い眼光を向ける。
「フン……牛島、貴様にしては珍しい失態だな」
横で茶を啜る渦巻が口を挟む。
「やっぱり君はチャラいんだよ。女を口説くのは得意でも、戦場じゃ軽すぎる」
「ぐっ……」
牛島は顔を歪め、言い返そうとしたが――
「まあいいじゃないか」
机に両肘をついた九頭が淡々と言った。
「結果的に、カマドウマ男がミラクルナイトを、シオマネキ女がセイクリッドウインドを完膚なきまでに叩き潰したんだ。大収穫だよ」
「そうですね」
秘書の多実が控えめに頷く。
「カマドウマ男=迫水は傷が癒えていませんし、しばらく休養させた方がよろしいでしょう」
「ふむ……」
顎に手を当てる勅使河原。
「ツルバナ女が負傷して以来、実行部隊をまとめる指揮者が不在だな。多実、その点はどう見ている?」
「はい。やはり現場の統率力が欠けております」
多実が資料を差し出す。
「カマドウマ男は力はあるのですが性格に難があり、暴走が心配です」
「そこで」
九頭が立ち上がり、ニヤリと笑った。
「次に提案したいのが……ブナシメジ男だ」
「……ぶ、ブナシメジ?」
渦巻はずっこけそうになりながら牛島を見た。
「地味すぎませんか?シメジなんて鍋物の脇役じゃないですか」
九頭は涼しい顔で言葉を続ける。
「馬鹿にしてはいけない。ブナシメジは歯切れがよく、まろやかで、風味にも味にも癖がない。和食、中華、洋食……どんな料理にも調和する万能性を持っている」
「万能キノコ戦士ってことですか……」
牛島が呟く。
九頭は満足げに頷いた。
「その汎用性こそ無限の可能性だ。突出した癖がないということは、どんな戦術にも適応できる、ということだからね」
「……ふん、シメジに無限の可能性ねぇ……」
渦巻は鼻を鳴らした。
「だが、九頭先生がそう仰るなら……期待してみるか」
勅使河原がゆっくりと立ち上がった。
「よかろう。次の実行部隊は――ブナシメジ男を中心に編成せよ」
重苦しい空気の中、九頭の口元だけが愉快そうに歪んでいた。
(第216話へつづく)












ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません