DUGA

一花と紫☆②告白

小学生になり、私と紫さんは何度か同じクラスになりました。それは、私にとっては何物にも代えがたい喜びでした。放課後はいつも二人で過ごし、彼女の元気な笑顔を見ることが私の日常の小さな幸せでした。しかし、小学五年生になった頃から、私の胸の中に静かでけれど確かな嵐が生まれ始めていました。それは、紫さんへのお友達という枠を超えた感情。

紫さんは相変わらず自由で無邪気でした。「一花のことが大好きだ!」と、大きな声で言って、誰かいる前でもハグしてくれます。その度に、私の心臓は高鳴り顔は熱くなります。でも、その好きは、私のそれとは違う、太陽のような、気持ちの良いもの。それは、私の静かに疼くような満たされない感情とは全く違うのです。彼女の隣にいる時間が長ければ長いほど、この胸の痛みは大きくなっていきました。

「一花、何でそんなに真面目な顔してるの?」

紫さんの問いかけに、私はいつも通りに微笑みを返します。

「いいえ、紫さん。何でもありませんわ」

この気持ちを伝えたら、あの明るい紫さんは私から離れてしまうかもしれない。お友達としての関係さえ壊してしまうかもしれない。その恐怖が、私の心を縛り付けていました。私は紫さんに依存している。このままでいいのか。でも、この関係を壊すなんて絶対にできない。この苦しい迷路から、私に抜け出す術はなかったのです。

渡り廊下を紫さんと二人で歩いていた日のこと。南校舎と北校舎を繋ぐその廊下は、昼下がりの光を浴びてまるで聖域のようでした。すると、向こうから三人組の女子がやって来るのが見えました。真ん中に立つのは春宮菜々美さん。低学年ながら、すでに女王のような風格を漂わせていました。私は礼儀として、紫さんと共に道の端に寄りました。

「一花先輩、こんにちは!」

菜々美さんの友達たちが甲高い声で挨拶します。私は、いつものように優雅微笑みお辞儀を返しました。その時でした。菜々美さんが私のことを見つめたまま、静かに、しかし確かな声で言ったのです。

「一花先輩、いつも紫先輩と一緒にいますね。まるで、恋人同士みたい」

その言葉に、私は息を呑みました。心臓が、ずきり、と痛みます。紫さんは気にもとめない様子で、少し呆れたように首を傾げています。菜々美さんは、そんな私たちを見て口の端を上げました。

「女子校で、実際に、そんな漫画みたいなこと、あるはずありませんよね」

ニヤリ、と。その笑みは、私の心をえぐるようでした。菜々美さんたちは得意げに私たちのそばを通り過ぎていきました。

「アイツら、なんでいつも群れてるんだろうね。行こ、一花」

何事もなかったかのように、紫さんは私の肩を抱きました。その触れた皮膚が熱く、私をビクンとさせました。私は我慢できませんでした。

「紫さん!」

私の声は、自分でも驚くほど震えていました。

「なんだよ、突然。目にゴミ入った?」

「紫さんは…私のこと、お友達として好きでいてくれるのですか?」

「ああ、そうだよ。一番好きだよ」

「じゃあ…私が、紫さんのことを、お友達として…以上に、好きだと言ったら…?」

私は震える唇を押し殺して問いかけてしまいました。

紫さんは初めて見るような驚いた顔をしました。廊下の光が、彼女の表情を揺らめかせます。

「一花…?」

「菜々美さんの言った通り…私、紫さんに、恋してるんです」

私は目を閉じて告白しました。沈黙。廊下に響くのは風の音だけ。恐怖で心臓が張り裂けそうでした。やはり、ダメだったのか。お友達としての関係さえ失ってしまうのか。そう思った瞬間、紫さんは、私を強く抱きしめました。

「知ってたよ、一花の気持ち。あたしのこと、そんな風に見てくれてたの気づいてた」

「えっ…?」

「でも、あたしは…あたしは、一花みたいに静かに好きになるってことが、できないんだ。あたしの愛は、もっとド派手で、もっと、炎みたいなもんだと思ってた。だから、気づかないふりしてた」

紫さんは私の頭をくしゃくしゃに撫でました。


あたしの頭の中は、カオスだった。一花、あたしの一番の親友があたしを好きだって告白した。可愛い一花のこと、嫌いなわけじゃない。いや、大好きだ。でも、それって…恋愛としての好きなのか?わからない。でも、一花が震える声で言ってたの忘れない。なんだか、応えてあげないと申し訳ない。恋人同士って、一体、何すればいいんだ?女子校育ちのあたしに、分かるわけないわな。

その日の夕方、あたしは本屋に走った。ラブコメの棚に行った。でも、そこにあるのは男と女の話ばかり。あたしが欲しいのは、女の子と女の子の話。あたしは迷子になったように店の中をさまよった。すると、奥のほうに「コミック」と書かれた大人の空間があった。そこに立ち入ろうと、本屋のおばちゃんに睨まれた。

「そっちはダメだよ。もっと大きくなてからね」

だめだ。これじゃ、手に入らない。仕方なく、あたしは店の外に出た。

「お兄さん!」

ふと、店の外にいた大学生っぽい男に声をかけた。ビックリしたような顔であたしを見る。

「これ、お願い!」

あたしは、ポケットから取り出した1万円札を、男の目の前に突きつけた。

「これで、買えるだけ、女の子と女の子が…エッチなことをしてる漫画を、買ってきて!」

男は、あたしの水都女学院小学校の制服を見て、目を丸くした。でも、あたしは、引くに引けなかった。

「早く!」

たしが睨むと、男は、おどおどと、奥の棚へ消えていった。そして、しばらくして、紙袋を持って、出てきた。

「お兄さん、ありがとう♡」

あたしは、精一杯、可愛く振る舞った。

「コレ、お礼です」

そう言って、もう1万円を差し出すと、男は、あたしのこと、変な子だとでも思ったんだろう、逃げるように去っていった。

その夜、あたしは二度寝を禁止した。部屋の鍵を閉め、電気を落として、買ってきた漫画を一冊、また一冊と読みあさった。ページをめくる手が震える。こんなこと、知らなかった。女の子同士が…こんなにも…美しいんだ。肌と肌が重なる、その熱。重なる吐息。あたしの胸が、ドキドキする。これは…あたしも、一花のこと、恋してるのかもしれない。

次の日の放課後。あたしは、一花を体育倉庫に呼び出した。暗い倉庫の中。古いボールやマットの匂いがする。一花が、引戸を開いてやってきた。

「紫さん…?」

あたしは、素早くモップの柄をつっかえ棒にして、外から戸が開かないようにした。本当に開かないのかは分からないが、無いよりマシだろう。あたしの行動に、一花は驚いて手で口を塞いでいる。

「一花」

あたしは、一花の前に立った。そして、昨日の夜、あたしが漫画で学んだ恋人がする最初の行為を、一花にやる。すぐにでも一花をカビ臭いマットに押し倒したいけど、逸る気持ちを抑え、あたしは一花の柔らかい唇を奪った。

「んん…」

いきなり口を塞がれた一花が呻く。しかし、拒んではいない。一花の唇、柔らかくて気持ちいい。次は、舌だっけ?あたしは、舌を伸ばした。一花の歯に当たる。だけど、一花は、口を開いてくれない。漫画と違うぞ。そのとき、一花は、キスを拒むように、顔を背けた。

「一花…」

何か間違えたのかな?と思ったあたしは、一花の顔を覗き込んだ。一花の顔が真っ赤だ。目が泳いでいる。一花は、今、何が起こっているのか、理解できていない様子だった。

「あの…」

一花が口を開いた。だけど、それより先に、

「一花のことが好きだから!あたしは、一花と一緒に気持ちよくなりたい!!」

思わず一花に抱きついてカビ臭いマットに押し倒してしまった。

「あ…ッ!」

「あ、ゴメン。痛かった?」

一花が、小さな悲鳴をあげたので謝ってしまった。

「いえ…私も、紫さんのことが好きです」

一花はそう言って、一花の肩を押さえつけるあたしの手を握った。

「だから、紫さんがしたいようにして下さい」
一花はあたしの顔を見つめてそう言うと、恥ずかしくなったのか顔を背けた。

「いいの…?」

「…はい…」

あたしが何をしようとしてるか、わかってるの?昨日の夜、徹夜して勉強したアレだよ。あたしは一花のスカートの中に手を伸ばした。そして、一花の太ももの内側をゆっくりと撫でた。一花の体がビクンッと震える。

「あ…ッ!」

「本当に、いいの?」

一花は答えない。でも、あたしは止まらない。漫画に描かれていたように、あたしは一花と一緒に気持ちよくなるんだ。一花も喜んでくれるはずだ。あたしは自信をつけて、一花のパンツの上から指をそっと押し当てた。

「いやです…!そんなところを…」

一花が息を呑む。その声は苦しそうだった。そうだったのか?もっと優しくしないといけないんだ。あたしは慌てて手を放した。

「ゴメン、ゴメン!痛かった?」

「ち…違います…」

「じゃあ、どうしたの?」

「恥ずかしすぎて…」

一花はそう言って顔を赤くした。

「…もう一回、やってもいい?」

「はい…」

あたしは、もう一度、一花の太ももの内側を優しく撫でた。そして、パンツの上から指を滑らせた。

「ん…あ…」

一花の声が甘く蕩けた。あたしの胸が熱くなる。これだ。これが、一花が求めてたものなんだ。あたしは、もっともっと、一花を気持ちよくするためパンツの中に指を滑らせた。

「ひっ…!」

一花の体が激しく震える。

「一花、気持ちいい?」

「…はい…あの…紫さん、気持ちいい…です…」

一花は、そう言って、あたしに抱きついてきた。いい匂い。さすが天然のお嬢様。蒸し蒸しした倉庫の中にいるのに、汗までフローラルの香り。中小企業の社長の娘のあたしなんかとは全然違う。一花と肌と肌を重ねたい。

「一花、制服脱がせてあげる」

「えぇッ…?」

「ほら、あの…スカートに皺がつくし、マットの臭いが、スカートに付いちゃうじゃん」

「そ、そうですが…ここは…」

「誰も来ないよ。ほら、入口にはつっかえ棒してるし」

あたしは、そう言って一花の吊りスカートの肩紐をずらし、ブラウスのボタンを、一つ、また一つと外した。

「そ、そこ…やめてください、紫さん…」

一花はそう言いながらも、あたしの手を止めようとはしない。逆に、あたしのシャツの裾を掴んでいる。一花も、あたしと同じ気持ちなんだ。そう思ったら、あたしの勇気百倍。あたしは一花のブラウスを肩から滑り落とし、白い肌を曝け出した。

「一花、可愛い…」

「私だけではなく…紫さんも…」

一花は、あたしのブラウスを見て赤い顔で言った。

「一緒に気持ちよくなろうね、一花」

あたしはそう言って一花を固く抱きしめた。

「一花、好きだよ」

「私も、紫さんを…好きです…」

「スカートも脱がしてあげるね」

「はい…」

一花は、あたしに身を任せた。あたしは、一花のスカートとパンツをゆっくりと下ろした。一花の秘められた部分があたしの目の前に、現れた。

「紫さん…あまり見ないでください…」

「大丈夫。可愛いよ」

「でも…変な毛が…生えていますし…」

「あたしも、生えてるよ」

あたしはそう言って、自分のスカートとパンツも脱いだ。そして、一花と肌と肌を重ね合わせた。

「一花、温かいね」

「はい…紫さん、温かいです…」

「あたしと一花、これから、こうしようね。いつも」

「はい…紫さん…」

一花は、そう言ってあたしにキスをした。舌を入れてきた。昨日の夜、あたしが学んだ恋人のキスだ。あたしは一花の舌を吸った。一花の甘い唾液が、あたしの中に広がっていく。

「一花、気持ちよくなろうね」

「はい…」

あたしは、一花の秘めた部分を、ゆっくりと指で撫でた。

「あっ!」

一花が身をよじらせる。

「大丈夫?」

「はい…大丈夫です…だから…もっと…」

一花は、あたしの耳元で甘えるように言った。あたしは、一花が言う通りに指を動かした。

「あっ!あっ!紫さん!すごい…あの…気持ちいい…」

一花の声が倉庫に響く。一花は、あたしの背中を力強く掴む。

「一花もあたしにやってよ」

「はい…どこを…すれば…いいですか…」

「ここ…」

あたしは、一花の手を自分の秘めた部分に導いた。

「わかる…?」

「はい…あたしも、紫さんのことを、気持ちよくします…」

一花はそう言って、あたしの秘めた部分をそっと触った。

「んっ!」

あたしは、息を呑んだ。一花の指が動く。なんだか、お腹の底から熱が込み上げてくる。

「一花…すごい…気持ちいい…」

「紫さんも…気持ちいいですか…?」

「気持ちいい…」

あたしは、一花を抱きしめた。二つの体が寄り添い二つの心が一つになる。あたしと一花は、何度も、何度も、頂を求め求め合った。

「紫さん…」

一花が、あたしの胸に顔をうずめて言った。

「どうしたの?」

「私、紫さんと、こうやっていると…女の子で、よかった…って思います」

「一花…」

あたしは一花を、強く、抱きしめた。

「あたしも、一花が、女の子で、よかった…」

あたしはそう言って、一花の唇を奪った。二つの唇が重なり、二つの舌が絡み合う。体育倉庫の中で、あたしと一花は大人の女として愛を確かめ合った。まだ、小学五年生だけど。

あたしは、周りを見渡した。ここは、薄暗い体育倉庫。臭いし埃っぽい。それに、いつ、誰が入ってくるか分からない。

「ゆっくりと、二人きりになれる場所があったらいいのにね」

「学校の中には、ありませんわね」

あたしは閃いた。

「一花、児童会の会長になりなよ。児童会には専用の部屋があるよ」

もうすぐ、会長選挙があって六年生の役員が引退する。自分から進んで立候補する者はほとんどおらず、内々に決まるので選挙とは名ばかりのものだ。確か、一花にも次期会長の打診があったはずだ。

「児童会には他の委員もいますよ」

「一花の力で、児童会会長室を作ればいいじゃん」

「また、無茶なことを…」

一花は溜息をついた。そして、

「私が会長になったとしたら、紫さんは、書記でもやってくださるんですか?」

と微笑んだ。

「あたしは、書記も委員もやらないよ。一花の個人秘書がいい」

「まぁ…でも、面白そうですわ。二人で、この学校をより素晴らしいものにしていきましょうか」

「うん、児童会を百合色に染め上げよう!」

「百合色?白い百合の花言葉は、純潔…水都女学院に相応しいですわね!」

一花は、百合の意味がわかっていないようだった。

「さあ、そろそろ、帰りましょう。紫さん」

「うん」

二人は乱れた制服を着直し、体育倉庫から出た。あたしは一花の手を握った。一花は赤い顔でそれを受け入れた。学校の廊下を歩いていると、昨日の菜々美が三人の取り巻きと一緒に歩いてきた。

「あら、一花先輩と紫先輩」

菜々美は作ったような笑顔で挨拶してきた。でも、あたしと一花が手を繋いでいることに気づいた。菜々美の笑みが、凍りついた。

「…お二人、ずいぶん仲睦まじいですわね?」

菜々美の視線が、つながった手に注がれた。その視線には、ただならぬ好奇心が感じられた。

「うん。菜々美の仲間に入れてやろうか?」

あたしは、一花の手をさらに強く握りしめた。

「け…結構です!」

菜々美は逃げるようにその場を去った。でも、菜々美の目は、すでに、全てを見抜いてるようだった。


「一花さんも、紫さんも、どうしたんですか?」

奈理子は、目を閉じて思い出に耽っているような一花と紫に言った。

「どうもしないよ」

紫は、ケーキスタンドのマカロンに手を伸ばす。一花は、そんな紫を見て微笑んだ。

「ちょっと、昔のことを思い出していました。私と紫さんが、今のような関係になったのは菜々美さんのおかげかもしれません」

「え?私??」

「なんで菜々美?」

菜々美と紫が顔を見合わせる。

「ええ、菜々美さんが私に勇気をくれたようなものです」

一花はそう言いながら、ティーカップを手に取った。菜々美は、昔と変わらない一花の優雅な所作を眺めながら、ふと、昔のことを思い出した。

「私が小三のとき、水女小(水都女学院小学校)の生徒が、本屋で…嫌らしい本の売り場をウロウロしていたと通報があって、全校集会で注意されたことがありましたよね。アレ、紫さんですよね」

菜々美は言った。

「なんであたし?」

「水女小で、そんなことをしそうなの人は、紫さんしかいなかったじゃないですか」

「そ、それって、紫さんでしたの?!」

一花が、慌てて紫の方を見る。紫は、マカロンを頬張りながら、言った。

「えへへ、そんなこと、あったかなぁ…?でも、そうだとしても、きっと、一花のためにやったんだよ」

「私のために?」

一花が、真っ赤な顔で、言った。

「うん、たぶん、そうだと思う。一花に一花が知らない世界を教えてあげようと思ったんだよ。あたしは、優しいから」

「私のためにそんなことまで…」

胸に手を当てて、感動する一花。

「一花さんと紫さんって、独特の世界観があるね」

奈理子が、菜々美にボソッと訊いた。

「この二人に、深入りすると危険よ」

菜々美は、ため息をついた。

菜々美は、あのときのことを思い出す…

③一花vs紫へつづく