ミラクルナイト☆第234話
冬休み明けの空気は、ひんやりと清冽だった。水都女学院高校の校門をくぐると、白い息がぽっかりと浮かぶ。生徒たちは、冬休みの楽しげな思い出話に花を咲かせながら、教室へと続く廊下を賑やかに歩いていた。
その中に、野宮奈理子の姿もあった。彼女は、水色襟のセーラー服にプリーツスカート、そして膝丈までのソックスという、決して派手ではないが、伝統校らしい清潔感のある制服を着こなしていた。彼女は、冬休みの出来事、特に先日のタワー前広場での出来事を、心の奥の引き出しにしまい込もうと必死だった。
「奈理子さん、おはよー!」
元気な声が、彼女の背後から聞こえた。振り返ると、親友の山本すみれが、手を大きく振って駆け寄ってくる。彼女も、奈理子と同じ制服姿だった。
「おはよう、すみれちゃん。冬休みは楽しんだ?」
「うん!奈理子さんは?」
「うん、まあ……」
奈理子は、苦笑いを浮かべた。
「あのね、奈理子さん。あの時は、ごめんなさい」
すみれは、急に真剣な顔で、奈理子に頭を下げた。
「え?なにが?」
「タワー前広場のこと。私も、あの時は、お屠蘇の香りで酔っちゃって……みんなと一緒に、奈理子さんのことを……」
すみれの言葉は、小さくなっていった。
「大丈夫だよ、すみれちゃん。私も、あの時は、ちょっと、酔っちゃってたし。もう、忘れたよ」
奈理子は、そう言って、すみれの肩を優しく叩いた。
「本当に?よかった……。でも、もしよかったら、あのときの動画は見ないで……」
「うん、見てないよ」
奈理子は、そう言って、笑った。
二人が、1年2組の教室のドアを開けると、そこはすでに冬休み明けの活気に満ちていた。生徒たちは、久しぶりの再会を喜び、あちこちで談笑していた。
その中に、一人、ひときわ目を引く存在があった。黒髪のロングヘアをきちんと結び上げ、凛としたたたずまいで、周りに数人の取り巻きの女子生徒を従えている。新しい生徒会副会長、春宮菜々美だった。
「おはよう、菜々美さん!」
「副会長就任、おめでとうございます!」
「今年は、菜々美さんの手で学園をより良いものにしてくださるわね!」
菜々美は、そんな声援に微笑みながら、颯爽と廊下を歩いていた。彼女は、奈理子たちの前を通り過ぎたとき、ちらりと、奈理子に視線を送った。その目は、冷たく、鋭い。
「……あの、奈理子さん。菜々美さん、なんだか、今日は特に怖いね……」
「私が、また負けたから……」
奈理子は、呟いた。
「でも、三学期も、私がこの水都を守る」
彼女は、自分の拳を、固く握りしめた。
「大丈夫、奈理子さん。私も、応援するよ!」
すみれは、そう言って、奈理子の手を握った。
「ありがとう、すみれちゃん」
奈理子は、そう言って、窓の外を見た。空は、高く、澄み切っていた。
「三学期も、よろしくお願いします」
そう呟くと、彼女は、新学期の決意を心に刻んだ。
水都の冬は、例年よりも冷え込んでいた。しかし、その寒さも、公立No.1の進学校、水都高校の生徒たちの活気には勝てなかった。始業式が終わり、受験シーズン真っ只中の生徒たちは談笑しながら校舎を後にした。
その中に、肩までの髪を一本に縛った女子生徒がいた。彼女は、数人の友人と歩きながら、三学期の抱負を語り合っていた。
「……それでね、私は水大に行って、弁護士になるんだ!」
「すごい、りかちゃん!私なんて、まだ夢も決まらないや……」
彼女たちが、校門から歩いて数分、人通りの少ない坂道を下りてきた時だった。
「……?」
りかちゃんは、ふと、立ち止まった。
「どうしたの、りかちゃん?」
「いや……なんか、変な匂いがする……」
彼女がそう言うと、友人たちも鼻をくんくんさせた。
「確かに、なんか……甘ったるい匂いがするね……」
その時、彼女たちの背後から、影が伸びた。
「あれ?」
りかちゃんは、振り返った。しかし、そこには誰もいなかった。
「気のせいかな?」
彼女は、そう呟き、再び歩き出した。
その瞬間、彼女の背後に現れた影は、彼女の口と鼻を、すっぽりと覆った。
「ひゃっ!」
甘ったるい匂いが、彼女の肺に流れ込む。彼女の意識は、一瞬、遠のいた。
「りかちゃん!」
友人たちの悲鳴が、空気を切り裂いた。しかし、その声も、彼女の耳には届かなかった。彼女の体は、力なくくにゃりと曲がり、影の腕に抱き上げられる。
「……」
何者かは、何も言わず、静かに闇の中に消えていった。
翌朝、水都市内では、女子高生の連続拉致事件が、大きな話題になっていた。テレビでは、アナウンサーが深刻な面持ちで伝えていた。
「昨日、水都高校の女子生徒一名が、帰宅途中、何者かによって拉致されましたが、幸いにも、今朝、市内の公園で無事発見されました。生徒に怪我はなく、拉致されていた間の記憶もないとのことです……しかし、これで先月から発生している女子高生の連続拉致事件は、三件目になります。警察は、犯人像の絞り込みを急いでいますが、いまだに……」
その報道を、穢川研究所のモニターに映し出していたのは、九頭だった。
「……順調だな」
彼は、モニターの電源を切ると、研究室内を歩き回り始めた。
「また何か良からぬことを企んでいるんですか?」
助手の絹枝が首をかしげる。
その時、研究室のドアが、静かに開いた。
「九頭先生」
一人の男が、そこに立っていた。彼は、全身をトゲのようなもので覆われた、異様な姿をしていた。
「お、来たか。ニュースを見たよ。残り二校だね」
「すみません。昨日、水商(市立水都商業高校)の近くを視察しておりまして……」
「水商は顔面偏差値が高いだろ?」
九頭は、ニヤリと笑った。
「はい。私の能力も、順調に進化しております。次は、もっと可愛い子を……」
「そのために、来たんだろ。ただし、失敗は許さないからね」
「はっ!承知いたしました」
男は、そう言うと、深々と頭を下げた。
「次のターゲットは決まっているのかい?」
「はい」
男は、そう言うと、ノートPCを広げた。
「まず、水商。二年の美咲綾乃さん。彼女は、校内でアイドル的な存在でして……」
「うむ、いい目だな。もう一方は?」
「最後は、水女(水都女学院)ですね」
男は、そう言うと、画面を操作した。
「美女率が高いと噂されますので、候補はいくらもいます。三年の白銀一花さん。高貴な雰囲気を漂わせる、完全無欠のお嬢様です。一年の春宮菜々美さん。気の強そうな、生意気なお嬢様です。どちらも、捨てがたいのですが……」
男は、そこで言葉を切り、ニヤリと笑った。
「私が、狙うのは、野宮奈理子さんです」
「……ミラクルナイトだな。普通の女子高生とはちがうぞ」
「はい。水都の絶対アイドルであり、水女ですが庶民派のヒロイン。彼女を手に入れれば、この水都の女子高生は、すべて俺が支配したに等しい」
男の目は、貪欲な光を宿していた。
「……奈理子、か。一花お嬢様も菜々美お嬢様も研究所に連なる者。水女から選ぶとすると妥当な判断だ」
九頭は、ふと、遠い目をしてつぶやいた。
「面白いかもしれん。行ってこい、トゲアリトゲナシトゲトゲ男」
「はっ!」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、そう言うと、研究室のドアから静かに去っていった。彼の姿は、廊下の闇に、すっと吸い込まれていく。
「棘が有るのか無いのか、よく分からない名前ですね……」
絹枝はトゲアリトゲナシトゲトゲ男を見送るとそう呟いた。
そのころ……
水都女学院の三学期の授業は、例年通りに始まった。奈理子は、必死に黒板に向かい、先生の声に耳を澄ませていた。正月の出来事を忘れようと、彼女は全力で学校生活に打ち込もうとしていた。
水都女学院高校の校門は、正統派で重厚な造りだった。創立百年を超える伝統を誇る、この学校の象徴でもある。その前には、広々とした石畳の広場が広がり、帰宅する生徒たちのセーラー服が、春を待つ花々のように彩りを添えていた。
「……くそっ」
校門向かいの路地裏、影に身を潜めているトゲアリトゲナシトゲトゲ男は、苛立ちを隠せずにいた。
「なんで、こんな場所で待たなきゃならんのだ……」
彼は、水都女学院が、穢川研究所にとって重要な支援者たちの娘が通う学校である。ここで騒ぎを起こせば、計画そのものが頓挫してしまう。だからこそ、彼は、奈理子が一人になるのを、ただひたすら待つしかなかった。
「……チッ、見ていてイライラする」
彼の視線の先には、下校してくる生徒たちの姿があった。夏服は爽やかな水色襟の白いセーラー服だが、冬服は名門お嬢様校らしい、水色襟のクラシックな紺色セーラー服。スカート丈は膝上短く、古典的なデザインでありながら、どこか現代的な雰囲気を醸し出していた。
「……」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男の目には、清純可憐な乙女たちの姿が、次々と映り込む。誰もが、あまりにも魅力的だった。彼は、ターゲットを奈理子と決めていたが、その決意は、次第に揺らいでいた。
そのとき、校門前の空気が、一瞬にして変わった。
「ごきげんよう、皆さん」
その声は、まるで鈴を転がすように、清らかで、優雅だった。
生徒たちの間に、さざ波が走った。
「一花先輩だ!」
「やったー、見られた!」
「先輩、今日もお綺麗です……!」
三年の白銀一花が、そこにいた。彼女は、まるで絵の中から抜け出てきた姫のように、ふんわりとしたロングヘアを風になびかせ、下級生たちに微笑みかけていた。その横には、大柄な女生徒が控えていたが、トゲアリトゲナシトゲトゲ男の目には、一花の姿しか入っていなかった。彼は、そのあまりの美しさに、完全に見惚れてしまった。
「……すごい……」
彼が、呻くようにそう呟いた時、一花は、すでに彼の視界の外へと、優雅に歩み去っていた。
「……行ってしまったか。まあ、いいや。俺の目当ては、奈理子だ」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、我に返り、再び校門に視線を向けた。しかし、まだ奈理子の姿はない。
「……まだ、か。いくらなんでも、遅すぎるだろ」
彼の苛立ちは、頂点に達しかけていた。
その時、校門から、賑やかな一団が現れた。中心にいるのは、一年の春宮菜々美だった。
「菜々美さん!」
「今日も素敵です、菜々美さん!」
「菜々美さんは、やっぱり違いますね!」
取り巻きの女子たちは、そんなことを口々に言いながら、菜々美を囲んでいた。菜々美は、その中で、不機嫌そうな顔をしながらも、完璧なお嬢様の笑みを浮かべていた。
「騒がしいわね。でも、お褒めにあずかり光栄よ」
正統派美女である一花とは、全く違うタイプの美しさだった。主人公に意地悪する、というか棘のある美少女。トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、その存在感に、心を躍らせた。
「……こいつも、いいな……」
菜々美の父は次の市長と目されており、穢川研究所も彼を支援している。彼女に手を出すことは、できない。その事実が、トゲアリトゲナシトゲトゲ男の心をえぐるように痛ませた。
「……悔しいが、仕方ない。菜々美お嬢様はマズイ。今は奈理子だ」
菜々美たちは、彼の目の前を通り過ぎていった。
「……奈理子は、菜々美お嬢様と同じクラス。もうすぐ、出てくるはずだ」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男はそう自分に言い聞かせ、再び身を固くした。
そして、ついに。
校門から、一人の少女が出てきた。一花、菜々美とは全く違う。飾り気のないミディアムボブ。控え目な表情。どこにでもいる、普通の女の子。
だが、可愛い。
普通の可愛い。それが、奈理子の持つ、特別な魅力だった。
普通の可愛い女の子が、ミラクルナイトとして謎の敵と戦う姿を市民は何度も目にしてきた。そのギャップが人々を酔わせた。彼女のことは、今や「水都一の美少女」と呼ばれていた。
奈理子は、ショートカットの少女と一緒に歩いていた。
「あの地味な娘は……山本すみれ、だったかな?
こいつとは、近くのバス停で別れる。そういうことになっている」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、そう確認すると、静かに、尾行を開始した。彼の足音は、石畫の上に、吸い込まれるように消えていった。
二人の姿が、路地裏から見える。トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、息を殺した。
「……行ったぞ」
彼は、影から出ると、建物の影や、停まっている車の陰を利用し、二人の姿を視界の端に捉えながら、慎重に距離を縮めていく。彼の足は、完全に音を立てていなかった。
「……ねえ、奈理子さん。今日の数学の宿題、わかった?」
「うん、だいたいね。でも、最後の問題だけ、ちょっと難しかったなあ」
「私も、そこがわからなかった!よかった、一緒だね!」
二人の会話が、風に乗って聞こえてくる。それらは、ありふれた女の子の会話だった。
「……クラスメート、山本すみれ。奈理子の親友と言えば菜々美お嬢様だが、彼女の方が親しそうだな」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、その情報を、頭の中に刻みつけた。
「ねえ、奈理子ちゃん、あのね、冬休みの、タワーのこと、もう平気?」
すみれが、ふと、そんなことを聞いた。
「……!」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、思わず、息をのんだ。
「……うん。もう平気だよ。そんなの、気にしてないから」
「そっか。よかった……。私も、あのときは、酔っちゃってて……」
「もう、大丈夫だって、すみれちゃん。私、忘れたから」
「……うん」
奈理子は、そう言って、すみれに微笑んだ。その笑顔は、少し、寂しそうに見えた。
「……なあ、俺も見たぞ。その動画」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、心の中で呟いた。
「酔い潰れたミラクルナイトが、ショーツを脱がされ、あんな姿を……」
彼は、奈理子の姿を、改めて、見つめた。
走り出すと、柔らかに揺れるボブカット。
話を聞く時の、無邪気な首の傾き方。
すみれの冗談に、頬を赤らめて笑う仕草。
市民が「水都一の美少女」と呼ぶのも、分かる気がした。
だが、トゲアリトゲナシトゲトゲ男の目に映る奈理子は、それとは違うものだった。
「……無防備だ。まるで、何も知らない子鹿のようだ……」
普通であるはずの少女が、彼の目には、無防備で、魅惑的な獲物に映る。
「お前は、ミラクルナイトだろ?なら、なぜ、こんなに脆いんだ?」
彼の欲望は、抑えきれないほどに、高まっていった。
やがて、二人は、バス停に到着した。
「じゃあ、奈理子さん。また明日!」
「うん、すみれちゃんも気をつけてね」
奈理子は、バスに乗り込むすみれに、手を振った。
バスが、大きな音を立てて走り去ると、奈理子は一人になった。
「……だ」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、奈理子の背後に、静かに忍び寄った。彼の肌からは、甘ったるい匂いが、微量だが、漏れ出ていた。
彼は、周りを見回した。人は、いない。
「今だ」
彼は、奈理子に、ゆっくりと手を伸ばした。
奈理子は、まだ、自分の背後に迫る、トゲのような殺気と、甘い匂いに、気づいていなかった。
奈理子との距離は、あと数メートル。
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、そろりそろりと、距離を詰めていった。彼は、すでに獲物を捕らえたと思っていた。彼の手は、奈理子の肩に触れる寸前だった。
「……っ」
その時だった。
彼の視線が、奈理子の紺色のプリーツスカートの裾から伸びる、太股に釘付けになった。
冬休みの明けたばかりの、色白で、艶やかな肌。歩くたびに、微妙に筋肉の動く、健康的な脚。スカートの生地が、お尻の丸みに沿って、ぴったりと張り付いている。
「……うわあ……」
彼の口から、思わず、言葉が漏れた。
「すごいな……」
彼は、奈理子を捕らえるのを、一瞬、忘れてしまった。彼の目は、ただ奈理子のスカート越しのお尻と、素晴らしい生脚を追いかけていた。彼は、この光景を、ゆっくりと、心ゆくまで楽しむことにした。
その時、奈理子の歩みが、ぴたりと止まった。
「……?」
彼は、状況が変化したことに気づいた。
奈理子は、ゆっくりと、振り返ろうとした。
「……まずい!」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、焦った。ここで顔を見られてしまえば、計画は失敗だ。
だが、奈理子は、振り返らなかった。
その代わりに、彼女は、走り出した。
「おい!」
奈理子は、一目散に、住宅街の角へと走っていく。彼女のミディアムボブが、風に舞っている。
「逃がすか!」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、奈理子の後を、必死に追った。彼は、角を曲がった。
その瞬間。
彼の目の前に、光が走った。
「そこまでよ!」
トゲアリトゲナシトゲトゲの前に、ミラクルナイトが、立ち塞がっていた。
「……ミラクルナイト、か」
彼は、愕然とした。
「気づかれたか……」
いち早く、敵の襲撃を察し、変身したことに、ミラクルナイトは、得意そうな顔をしていた。
「水都の平和を乱す者は、ミラクルナイトが許しませんッ!」
ミラクルナイトはキッ!とトゲアリトゲナシトゲトゲ男を睨みつける。
「水女制服の奈理子を生け捕りにするはずだった……
俺は、なぜ、奈理子を、ミラクルナイトに変身させてしまったんだ……」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、後悔の念に駆られた。
しかし、彼の目は、すぐに、ミラクルナイトの姿に釘付けになった。
ノースリーブの白いブラウスに、白いのミニスカート。
そのミニスカートから、すっと伸びる、白く、しなやかな脚。
肩から出ている、華奢な二の腕。その付け根の腋からは、良い香りが漂ってきそうだ。
「……な、なるほど……」
彼は、ニヤリと笑った。
「な……何よ?!」
ミラクルナイトの脳裏に不安がよぎる。
「制服姿の奈理子もいいが、ミラクルナイトの奈理子も、アリだ!」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男の視線は、もはや、戦闘相手のものではなかった。それは、獲物を見つめる、野兽の視線だった。
一歩、引くように、ミラクルナイトは腰を引いた。戦闘前の気概が、嘘のように萎えていく。男の視線が、まるで濡れた舌のように、肌をなぞる感触がする。
「あ…あなた、…誰?」
震える声が、自分の喉から出ているのが不思議だった。彼女は、とにかく目の前の状況を理解しようとした。敵意はある。だが、それは戦闘のためのものではない、という危険な匂いがした。
「オレの名前は、トゲアリトゲナシトゲトゲ男」
男は、誇らしげに胸を張った。その全身を覆う棘のような突起が、夕日にギラギラと光った。
「オレの目的は、この水都市内の各高校で、一番可愛いと言われている子たちを、俺のものにすることだ」
「と、トゲアリが…トゲナシ…?」
ミラクルナイトは、その名前を反芻しようと試みたが、舌がもつれた。棘はあるのに、棘があるのかないのか分からない。一体、どういうことだろう。混乱が頭を巡る。
「水女なら…もっと可愛い子がいるはずよ。三年の一花さんとか…」
「あの姫様みたいなのは、少し違う。お前みたいな、もっと手頃な可愛さがいい」
「菜々美さんとか…」
「生意気そうなお嬢様は、あとで味わう。今は、お前だ」
そう言われると、妙な感情がミラクルナイトの胸をよぎった。一花でも菜々美でもなく、自分が選ばれた。市民に「水都一の美少女」と呼ばれるのも、こんな風に、敵に筆頭に挙げられるのも、やはり、自分には何かがあるのだろうか。そう思うと、ほんの少し、自尊心が満たされるような感覚があった。
「ふ、ふんっ!ま、まあ、私が一番可愛いのは当然ですけど…!」
そう気勢を上げたが、頭が、ふらりとした。
「あれ…?」
どうしたんだろう。急に、体が重くなる。意識が、霧の中にいるみたいに、ぼんやりと遠のいていく。
「どうした、ミラクルナイト?元気がないようだが」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男の声が、遠く聞こえる。
そういえば、甘い香りがする。最初に気づいた、花の蜜のような甘ったるい匂い。ずっと、この香りを吸っていたのだ。
「ま、さか…これは…」
この香りは…睡眠薬!
ミラクルナイトの目が、ゆっくりと、重くなっていく。トゲアリトゲナシトゲトゲ男の顔が、二重に三重に見え始めた。最後の力を振り絞って戦おうとするが、体は力が入らず、がらりと力が抜けていく。
「うぅ…」
ぐったりと膝から崩れ、ミラクルナイトは石畳に跪いた。その姿は、まるで折れた人形のようだった。
「くっくっ…よく眠ったな」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、眠ってしまったミラクルナイトに近づいた。彼女の顔から立ち上る、ほのかな汗と、その能力の残り香を混ぜたような匂いを、鼻の先まで近づけて堪能した。
「うむ、いい匂いだ」
彼は、ゆっくりと、その指をミラクルナイトのスカートの裾へと滑り込ませた。生地を、すっと持ち上げた。
ミニスカートの下には、さざ波のようなレースがあしらわれた、純白のショーツがあった。
「おお…」
『下着は白』という水都女学院の校則通り。その純粋さに、男は満足そうに頷いた。
「しかし、このアイマスクは邪魔だな」
彼の指は、ミラクルナイトの顔に覆い被さったアイマスクに触れた。眠りに落ちた奈理子の素顔を隠す、何の変哲もない布。彼は、それを邪魔だと思った。指先に力を込め、ぐいと剥ぎ取った。
アイマスクの下から現れたのは、眠りについた無防備な少女の顔だった。少し開かれた唇からは、安らかな息が漏れている。
「ふむ…」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、その顔を眺め、満足げに頷いた。
それから、彼は眠ったままのミラクルナイトを、軽々と肩に抱き上げた。その白く細い脚は、空中でしなやかに揺れた。彼は、何食わぬ顔で、人目のない路地へと、歩みを進めていくのだった。
場所は、水都市内に存在する、トゲアリトゲナシトゲトゲ男の私室。それは誰も踏み入れない聖域であり、同時に、彼の欲望をため込む檻でもあった。部屋の中央には、巨大な金属製の作業台が鎮座し、その天板は冷たい光を反射している。その上で、二人の少女が眠っていた。
一人は、キャラメル色のブレザーに、グレーのタータンチェックプリーツスカート。水都商業高校の制服を纏った美咲綾乃。彼女の長い黒髪は、天板の上に墨を流したように広がっている。
もう一人は、水都の守護神、ミラクルナイト。野宮奈理子。その白い戦闘服は、作業台の無機的な光の中で一際まぶしく輝いていた。
「うむ…すばらしい」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は作業台の前に立ち、獲物たちを眺めながら満足げに呟いた。スマホを取り出し、シャッター音を立てることなくこの光景を記録し始めた。綾乃の眠り顔、ミラクルナイトの無防備な姿。一枚、また一枚とデータとして蓄積していく。
「まずは、水商の美咲綾乃からだ」
彼は、アヤノに近づいた。その指が、綾乃のブラウスのボタンに触れる。カチリ、カチリと、音を立てて、一つ、また一つと外していく。やがて、胸元が大きく開き、薄い肌の色が見える。その下には、薄いピンク色のレースがあしらわれたブラが見えていた。
「おお…」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、その上から綾乃の柔らかな胸をぐいと掴んだ。しなやかな弾力が手のひらに伝わる。彼は、その大きさと形に満足げに指を動かし、揉みしだいた。綾乃は眠ったまま、微かに眉をひそめる。
「この乳も、いただこう」
彼は、顔をうつむき、ブラの上からその蕾を口に含んだ。布地越しの温かさと、少女の匂い。彼は、舌先でこね回し、吸い上げた。
次に、彼の手は、綾乃のスカートの裾へと伸びた。グレーチェックの生地をめくると、現れたのは、綾乃の肌色と同じような薄いピンクのショーツだった。彼は、それに躊躇なく手をかけ、ぐいと引き下ろした。綾乃の薄い陰毛と秘部が、眠ったまま、無防備に晒された。
「おっと、奈理子を無視しちゃ可哀想だな」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、今度はミラクルナイトのほうに向き直った。彼女は、だらしなく股を広げて眠っていた。彼は、そのスカートを、ゆっくりと、裾から捲っていった。純白のショーツが、現れる。
「後で、たっぷり可愛がってやるよ」
彼は、そのクロッチに、人差し指をそっと押し当てた。布地の下から伝わる温もりと、柔らかさ。指で、なぞるように、その形状を確かめていく。奈理子は、眠ったまま、微かに体を震わせた。
「さて、どちらからいただこうか…」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、綾乃のほうに戻った。彼はその熱い欲望を露わにした。そして、眠る綾乃の両足を、ぐいと広げた。彼はその間に自分の体を押し込もうとしたが、思った以上に、入りがきつかった。
「…うむ?」
彼は、少し戸惑った。進学校の水都高校の、りかという少女は、すんなりと受け入れてくれた。だが、綾乃は違う。
「…なるほど、処女だったか」
そう気づいたトゲアリトゲナシトゲトゲ男は驚きを隠せなかった。水都商業高校の派手な風貌の少女が、意外にも純潔を守っていた。
「ふふっ…面白い。綾乃の処女は、俺がいただくよ」
彼は、綾乃の唇に自分の唇を重ねた。眠る少女にねだるように深くキスをした。
トゲアリトゲナシトゲトゲ男はスマホを適当な角度に固定し、カメラを起動させた。レンズは、眠る綾乃と彼の姿を獰猛なまでに正確に捉えていた。
彼は再び綾乃の両足を広げ、その中心に自分を押し当てた。抵抗は固い。だが、彼はゆっくりと、しかし、確実に、力を込めていく。
グキリ、という小さな音がした。
綾乃の眉が、痛みにけいれんした。彼女の口から、微かな呻きが漏れた。
「うぐっ…」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、その瞬間を、カメラに収めながら、喜びに震えていた。
「いただきまあす…」
彼は、一気に、奥まで、その身を沈ませたのだった。
トゲアリトゲナシトゲトゲ男の動きは、獣が獲物を貪るような無慈悲なリズムで続いた。綾乃の体は激しい揺れにさらされながらも、眠りの海の底から抜け出せずにいる。ただ、痛みと快感が、彼女の無意識の底で渦巻いているのだろうか。男の腰が無慈悲に、しかし的確に、少女の最も奥深い部分を抉るたびに、綾乃の指がカチンと作業台の表面を叩く。その音が部屋に響く。
「く…くうっ…」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男の喉から呻きが漏れた。綾乃の内壁が、彼の欲望をぎゅうぎゅうに締め付けてくる。処女の熱と、初めての侵入による出血が潤滑油となり、もっと深く、もっと濃密に、彼らを結びつけていた。
「…いいぞ、綾乃…これが、女になるということだ…」
彼は、スマホのレンズを意識しながら、見得を切るように言った。片手で綾乃の顎を持ち上げ、眠る彼女の顔をカメラに向かせる。汗で濡れた髪が頬に張り付き、少し開かれた唇からは、苦しげな息が漏れている。その無防備な姿が、男の征服欲をさらに掻き立てた。
もう片方の手は綾乃の胸に置かれ、ブラの上からふわりと揺れる乳房を執拗に揉んでいる。指で乳首をつまみ、引き伸ばす。眠る綾乃の体が、ピクン、と反応する。
「お前の、この純粋な痛みと感じ…ぜーんぶ、俺がいただく」
彼は腰の動きをさらに激しくした。ガチャン、ガチャン、と金属の作業台が軋む音。綾乃の体が、その振動にまかせて無様に跳ねている。スカートは乱れ、ショーツは足に絡みついている。全身の汗が、キャラメル色のブレザーを濡らし肌に張り付いている。
「…くる…!」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男の背筋に、熱いものが駆け上る。
「うぐああああッ!」
彼は、綾乃の奥深くに自分の全てを解放した。その時、綾乃の体が、ビクン、と痙攣した。まるで、彼女の無意識がその瞬間だけ目覚めたかのように。
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、大きく息を吐きながら綾乃の上に崩れ落ちた。しばらく、二人の体は重く絡み合ったままだった。部屋には、ただ、二人の荒い息遣いだけが響いている。
やがて、トゲアリトゲナシトゲトゲ男はゆっくりと体を起こした。彼の目は、満足感に潤んでいた。
「…ふふっ」
彼は、スマホを手に取り、録画を停止した。そして、再生ボタンを押した。
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、先ほどの動画を繰り返し再生した。綾乃の顔が歪む瞬間、血の染みが拡がる瞬間、自分の体が少女の内に沈み込んでいく瞬間。スマホの小さな画面が、彼の獲得した勝利を何度も何度も証明してくれた。
だが、見れば見るほど、トゲアリトゲナシトゲトゲ男の心にわき上がってきたのは単なる征服欲ではなかった。それは、奇妙な愛おしさだった。眠る少女を無理やり犯しながら、その純潔を奪ったという事実が、今となっては彼女の不可欠な一部となり、彼にとっての唯一無二の宝物に感じられていたのだ。
「……お前も、俺のものになったな、綾乃」
彼は、スマホを置き、再び綾乃のそばに膝をついた。今度は、彼は綾乃の顔に跨るように体を乗り出した。そして、彼は、先ほど自らが開けたばかりの、綾乃の秘部に、顔をうずめた。
「うむ…いい匂いだ…血と、愛液と、お前の匂いが…混ざり合って…」
彼は舌を伸ばし、そのクリトリスをなめるように舐め上げた。綾乃の体が、眠りの中で微かに跳ねる。その反応を楽しみながら、トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、執拗にその敏感な場所を刺激した。舌先でこね回し、吸い、噛み付く。綾乃の口から漏れる呻きは、まだ眠っているものの先ほどよりも、明らかに色濃くなっていた。
「…もう、いいだろう」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は顔を上げ、自らの硬直したものを綾乃の唇に押し付けた。そして、彼は、その柔らかな唇の間に無理やり自分を挿し入れた。眠る少女の口が、彼の欲望を受け入れる。彼は、その温かさと濡れに何度も腰を突き上げた。やがて、彼は、綾乃の喉の奥に二度目の白濁した液を放出したのだった。
「ふぅ……」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、大きく息を吐きながら立ち上がった。綾乃の口端からは、白濁した液が少し垂れていた。
「…さて、次は、奈理子だ」
彼の目は、作業台の上で相変わらず無防備に眠るミラクルナイトに向けられた。
「ミラクルナイト、野宮奈理子…水都の守護神…俺が、最も欲しがった獲物…」
彼はミラクルナイトの前に立つと、その白いブラウスのボタンに手を伸ばした。カチン、と小さな音を立ててボタンが外れていく。やがて、ブラウスが開き、その下には綾乃のときはまた違う、純白の光があった。
「……おお……」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、息をのんだ。
夢にまで見た『純白の天使』。
野宮奈理子の純白のブラジャーと純白のショーツ。
間近で見る生の『奈理子のブラ&ショーツ』は、彼の想像を遥かに超える、完璧な純白だった。その白さは、まるで奈理子の心そのもののように見えた。綾乃で二発も出したはずなのに、男の欲望は、また、強烈に燃え上がった。
「…見ろ、この白さ…」
彼はミラクルナイトの背に手をまわし、そのブラジャーのホックに指をかけた。それを外すと、現れたのは小さなぷくりとした乳房だった。
「Aカップ、か」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、その可憐さに、目眩を起こすほどの強烈な美しさを感じた。ぷるん、と揺れない、その静かさ。微かな膨らみの頂点で、ツン!と健気な自己主張をする淡い色の突起。完璧なまで美しさに、彼は、ただ、圧倒されるばかりだった。
「すごいな…すごい…お前は、本当に、完璧だ…」
彼は、その小さな胸にそっと唇を寄せた。そして、彼の目は、ミラクルナイトの腰へと移った。彼の手が、その純白のショーツに触れる。そして、ゆっくりと、それを下ろしていく。片脚だけ脱がすと、黒い陰毛と奈理子の秘部が露わになった。
その瞬間、濃厚な、しかし、清潔感のある匂いが広がった。それは、綾乃の少し甘ったるい匂いとは全く違う。奈理子の匂いだった。トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、その匂いを深く吸い込んだ。
彼は、その皮を被ったクリトリスに、そっと指を触れた。そして、ゆっくりと、その周りを撫で回した。皮が捲れ剥き出しになるクリトリス。指先に伝わる濡れと温もり。ミラクルナイトは眠ったまま微かに腰を揺らした。
「…いくぞ、奈理子」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、自らの硬いものを奈理子の入口に押し当てた。奈理子は処女ではないはずだ。だが、その入り口は思った以上にきつかった。
「うぐ…」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、ゆっくりと力を込めていく。抵抗は固い。
やがて、彼の先端が奈理子の体内に侵入した。
その瞬間。
「ん…っ」
眠っていたはずのミラクルナイトが、小さく呻いた。そして、その瞼がゆっくりと開き始めた。
ミラクルナイトの眼が、ゆっくりと開いた。その視界は、最初はぼやけていた。だが、やがて、焦点が合った。そこに映っていたのは、天井の無機的な光と、その上に覆いかぶさる、トゲアリトゲナシトゲトゲ男の姿だった。
「……っ」
ミラクルナイトのまだ眠りぼけた意識が、状況を理解しようと躍起になった。ブラが…脱がされている。白いブラウスは開かれ、胸元は冷たい空気に触れている。スカートは捲れ上げられ、ショーツは片足だけに絡みついている。
そして、自分の身体の最も深い場所に、温かく、硬いものが、入りかけている。
「……え……?」
ミラクルナイトの頭に雷が落ちた。ここはどこだ。自分は、何をされている。目の前の男は、誰だ。
「……あ……あああああああッ!」
理解した瞬間、ミラクルナイトの体は本能的に反応した。彼女は、鍛え上げた脚の力で男の腹を蹴り飛ばそうとした。
だが、男はびくともしない。むしろ、ミラクルナイトの体が起きたことで、彼の先端がより強く奈理子の内壁に押し付けられた。すでに、先っちょだけでも挿入されている。抜けない。ミラクルナイトの反撃は、あっけなく、失敗に終わった。
「……ふふっ…起きたか、奈理子」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、ミラクルナイトの抵抗を嬉しそうに見ていた。その目は、狂気と満足感で輝いている。
「俺は、お前をずっと欲しがっていたんだ」
彼は、ミラクルナイトの腰をしっかりと掴む両手に、獲物を逃がすまいと更に力を籠める。
「こ、この変態ッ!離してッ!」
ミラクルナイトは、怒りに、震えた。彼女は、男の腕を掴み、振りほどこうとしたが、その力は、あまりにも強い。彼女の力では、歯が立たない。
「許さない…ッ!」
その一言を聞いた男は、更に、狂喜した。
「ああ、そう言え!その目で、そう言え!お前がミラクルナイトで、俺がお前を犯している!」
彼は、腰を、さらに、深く、沈めようとした。
「いやぁッ!やめてぇッ!」
ミラクルナイトは、必死に抵抗した。彼女の脚は、トゲアリトゲナシトゲトゲ男の腰に巻き付き引き剥がそうとした。彼女の体は左右に激しく揺れ動いた。だが、男はその激しい抵抗を、もはや苦痛とも思っていなかった。
「くうっ…!キツいがいい!ああ、いい!奈理子のこのキツいのがいい!奈理子のマ〇コは最高だぁ!」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、ミラクルナイトの抵抗を、快感と捉え、喜んでいた。キツキツの穴を、無理に、こじ開けるように、何度も、何度も、突く。ミラクルナイトの体が、そのたびに、痙攣する。
「お前のその顔もいい!怒りの顔も、屈辱の顔も、全部、俺に見せろ!」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、奈理子の顔を、凝視している。その表情の、一つ一つの変化を、楽しんでいる。
「殺す…」
ミラクルナイトは、そう言った。だが、その言葉は、いつしか、自分を鼓舞するための呪文のようになっていた。自分は、本当に殺されるかもしれない。その恐怖が、ミラクルナイトの背筋を冷たく走る。
だが、その恐怖は、やがて、屈辱へと変わった。
水都の守護神、ミラクルナイトが、誰にも見られぬ場所で知らない男に犯されている。その事実が、彼女の心を苛んだ。
そして、その屈辱は、なぜか、自分の体が感じる、快感に、変質していく。
「……あ…あッ…」
ミラクルナイトの口から、意識しないうちに声が漏れた。それは、もはや、怒りでも恐怖でもなかった。それは、屈辱と快感が混ざり合った、奇妙な音だった。
屈辱と快感。
その二つがミラクルナイトの意識を、支配していく。彼女は、もう、抵抗するための、力を、失っていた。
ミラクルナイトの意識は漂流している。怒りも恐怖も、遥か彼方に流されていく。残ったのは、ただ、感覚だけだった。自分の体が激しく揺らされる感覚。誰かの熱い息が頬に触れる感覚。そして、自分の奥から湧き上がってくる濃密な甘ったるい感覚。
「……あ……ん……」
彼女の口から漏れる声は、もはや、彼女自身のものではなかった。それは、身体がその快楽を泣き叫ぶ声だった。トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、その変化を、見逃さなかった。
「ああ、そうだ、奈理子。その声だ。もっと、聞かせてくれ」
彼は、腰の動きをさらに激しくした。亀頭が、奈理子の膣壁を執拗にこすり上げる。そのたびに、ミラクルナイトの身体が、電流が走ったように痙攣した。
「いや……あ……だめ……これ以上……ぁ……奈理子……犯されて……イッちゃう……」
ミラクルナイトの意識は、快感という名の濁流に飲まれようとしていた。身体はもはや自分のものではなく、男の欲望に合わせて律動するだけの一個の楽器に成り下がっていた。瞳は潤い、理性は溶け、もう一押しで、ミラクルナイトという存在はその波間に消えてしまうだろう。その寸前だった。
だが、その時、彼女の視界の隅に、一つの奇妙な色彩が飛び込んできた。
それは、キャラメル色だった。
「……?」
ぼやけた意識が、その色に釣られた。隣には、誰かがいる。誰? ミラクルナイトの視線が、ゆっくりと、そちらへ向けられた。
そこに横たわっているのは、確かに人間の少女だった。グレーチェックのプリーツスカートは、めちゃくちゃに乱れ、足元には、薄いピンク色のショーツが絡みついている。キャラメル色のブレザーの胸元は開かれ、その下のピンク色のブラから白い肌がはみ出ている。そして、その少女の太ももの内側には、もう一つの、確かな証拠が乾いていた。
「……あ……」
ミラクルナイトの頭の中で、何かが、カチリ、と音を立てた。
市立水都商業高校。水商。
あの制服は、水商の制服だ。
あの少女は、水商の生徒だ。
あの少女は……自分と同じように、この男に、……そうされたのか。
快感の濁流は、嘘のように引いていった。ミラクルナイトの体に残ったのは、ただ、冷たい憎悪だった。
イク寸前だった熱気は、冷え切り、氷のような怒りに変わった。
自分が、犯されている。それは、許し難い屈辱だった。だが、それ以上に許し難いことがあった。
水都の守護神が犯されている。
市民を守れない。
この男に、水都の平和はおろか、水都の高校生一人守れない。
「……」
ミラクルナイトの目が、開いた。
その瞳には、もはや、涙も淫らな光もなかった。ただ、冷徹な、青い光が宿っているだけだった。
「貴方が、私の怒りを呼んだ」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、その変化に、気づいていない。ただ、自らの快楽のために、腰を突き上げようとした。
その瞬間。
「ミラクルパワー!」
ミラクルナイトの体から、水色の光が爆発的に放たれた。それは、もはや、奈理子という少女の限界を超えた奇跡の力だった。光は衝撃波となり、トゲアリトゲナシトゲトゲ男の体を容赦なく叩きつけた。
「ぐうわああッ!」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、悲鳴を上げながら吹き飛ばされていった。彼の体は部屋の壁に激しく衝突し、崩れ落ちた。
ミラクルナイトは、ゆっくりと作業台の上で起き上がった。彼女は自分の乱れた服に目もくれず、冷たい目で倒れているトゲアリトゲナシトゲトゲ男を見下ろした。
その姿は、もはや、眠っている少女ではなかった。
水都の、守護神。
ミラクルナイトが、完全に、覚醒した。
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、壁から、ゆっくりと、立ち上がった。
「……くうっ……」
彼の体は、先ほどの衝撃でぼろぼろだった。だが、彼の目は、まだ、燃えていた。そして、ミラクルナイトの放った光が、彼の体を歪に変化させていた。
「……お前が……お前が、俺を、こんな風に……」
彼の皮膚の上に、無数の黒いトゲが生え始めた。それは、まるで、彼の怒りと欲望が具現化したもののようだった。やがて、彼の全身は、不規則なトゲ状の装甲に覆われてしまった。鋭角なトゲがあらゆる方向を向き、彼の本来のシルエットを狂わせている。
「……ふふっ……ああ、こうなったか……これこそが、俺の本当の姿だ」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、自分の変化した姿を満足げに眺めた。その姿は、もはや、人間のものではなかった。しかし、そのトゲは、見た目ほどには攻撃的には見えなかった。むしろ、相手を寄せ付けないための一種の防御壁のようだった。
「お前が俺をここまで追い詰めた。だから、お前は、俺が徹底的に味わう価値のある、最高の獲物だ」
ミラクルナイトは、その歪なシルエットを見ても、瞳を動かさなかった。既にブラとショーツを穿き直し、戦闘態勢を整えている。
「その姿で、何がしたいの? 私を、脅す?」
「違う。お前を、犯し、そして、お前の心を、壊す」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男が、低く言った。
ミラクルナイトは、答えずに構えた。そして、彼女は動いた。
彼女の脚が、きらりと光を反射しながら舞い上がった。それは、美しい軌跡を描くハイキック。その瞬間、乱れたスカートが大きく翻り、純白のショーツが露わになる。ミラクルナイトは、それを意に介さない。キックは、男の顔面に向かって真っ直ぐに伸びていく。
だが、トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、びくともしない。ミラクルナイトのブーツ底が、男の顔面のトゲに触れる。その瞬間、ブーツの底が、トゲに、がたっと、引っかかった。動きが一瞬止まる。
「……!」
その一瞬の隙を、トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、逃さなかった。
「疑似鋭刺だ。その可愛い服も、その綺麗な肌も、俺のトゲに触れれば、動きが止まる」
彼の手が、ミラクルナイトの足に伸びる。トゲに覆われた手首が、彼女の足首をぐいと掴んだ。きつい。動けない。
「……くっ!」
ミラクルナイトは、片手でトゲアリトゲナシトゲトゲ男の手を払おうとしたが、トゲアリトゲナシトゲトゲ男の体は、奇妙な距離感で彼女の攻撃をかわしていく。近いようで、遠い。遠いようで、近い。トゲが、彼の本体との距離を誤認させていた。
「距離錯覚だ。俺の姿は、お前の目を欺く」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、もう片方の手を振り上げ、ミラクルナイトの脇腹を殴りつけようとした。
だが、ミラクルナイトは、それよりも、早かった。
「シャインブラスト!」
彼女の掌から放たれた水色の光弾が、男の胸に炸裂した。
「ぐうっ!」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、後ずさった。その隙に、ミラクルナイトは足を引き抜く。彼女は、数歩下がり、再び、トゲアリトゲナシトゲトゲ男と対峙した。
「……くらえ!」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、怒りに任せて突進してきた。だが、その動きは、ぎこちない。トゲが、彼の動きを鈍らせている。それは、戦闘用の装甲ではなかった。それは、ただの防御壁だった。
「こんなもの……」
ミラクルナイトは、低く言った。
彼女は、再び、トゲアリトゲナシトゲトゲ男に近づいていく。だが、今度は慎重に。トゲアリトゲナシトゲトゲ男のトゲが、彼女に心理的な圧迫を与える。触れれば、服が破れ、肌が傷つく。その恐れが、彼女の動きを少しだけ鈍らせていた。接触を無意識に避けていた。
「そうだ、怖いだろう? 俺に触れるのを、恐れるだろう? だから、お前は、動けない」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、その心理を利用した。
ミラクルナイトは息を吸う。
「動かないと、殺られる……」
彼女は、自らの恐怖に打ち克つように言った。
「そんな、トゲトゲなんか、怖くないわ!」
彼女の体が、再び、水色の光に包まれた。
「ミラクルチョップ!」
彼女は、光を帯びた手刀を振り下ろした。トゲは、彼女の腕を受け止めた。だが、今度は、彼女の腕は止まらなかった。チョップはトゲを砕き、男の肩に、食い込んだ。
「ぐわああッ!」
男は、悲鳴を上げた。彼のトゲは、絶対的な防御ではなかった。
「そうよ。あなたのトゲも、私の意志の前には、何の力もない!」
ミラクルナイトは、さらに追撃を仕掛けようとした。
その時、男のトゲが再配置された。向きが変わり、密度が変わった。それは、ミラクルナイトの攻撃を防御するためのものだった。
「……まだ、終わらせて、いないぜ」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、立ち上がり、再び、構えた。
「私の戦いは、これからよ」
ミラクルナイトもまた、構えた。
二人の間に、張り詰めた空気が、流れる。
ミラクルナイトは、静かに息を整えた。トゲアリトゲナシトゲトゲ男のトゲは、絶えず形を変えている。それは、防御のためか、それとも、次の攻撃のためか。読めない。だが、一つだけ確かなことがある。この男は、自分を本気で倒そうとしている。そして、自分は、この男を絶対に許せない。
ミラクルナイトの鋭い眼差しが、トゲに覆われたトゲアリトゲナシトゲトゲ男を捉えていた。
「なぜ…?」
彼女の声は、低く、しかし、部屋全体に響き渡った。
「なぜ、こんなことを? 女の子たちに、なぜ、こんな酷いことを?」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、その質問に一瞬、戸惑ったように見えた。だが、やがて、彼の口が歪に引き伸ばされた。
「酷いだと? 俺は、彼女たちを、愛しているんだ」
「愛…?」
ミラクルナイトの眉が険しくなった。
「そうだ。愛。そして、記録だ。水都には、たくさんの高校がある。そして、それぞれの高校には、『一番可愛い』と噂される、女子がいる」
彼は、一歩踏み出す。トゲが、ぎらりと、光った。
「俺は、その子たちの型を取るんだ。清流のギャル。水高の知的な美女。そこで眠る、水商の元気で可愛い子。そして、お前、水女の野宮奈理子。水都の守護神であり、純白の天使……俺は、その子たちの、最も純粋な箇所を、この手で、型を取る」
「…型を取る?」
「ああ。最高の『オナホ』を作るためにな」
「……オナホ??」
ミラクルナイトの美しい顔が問いかけた。その言葉は、彼女の潔白な辞書にはなかった。
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、その反応に満足げに笑った。
「ああ、知らないか。そうか、お前はミラクルナイトだからな。知らないでいられればいい」
彼は、自分の股間を、指で、示した。
「これを、入れるための人形。男が、自らを慰めるための道具。それが、『オナホ』だ」
彼の言葉は、毒のように、ミラクルナイトの耳に、染み渡った。
「でも、俺が作るのは、ただのオナホじゃない。本物の、女の子の、型を取った、究極のオナホだ」
「……そんな…」
「そして、それを、動画、画像とセットで、偉い人たちに、売るんだ。水都の可愛い子たちが、眠ったままでどんな風に、犯され、泣き、悦ぶのか。その、貴重な記録をな」
「……あ……ああああああッ!」
ミラクルナイトの理性が切れた。
水色の光が、彼女の体から、激しく、噴き出した。
「えい!」
水色の光弾が、何発も、男の体に、当たった。男は、よろめき、後ずさった。
「…よくもそんなことを…!」
ミラクルナイトは、怒りに震えながら男に近づいていく。
「貴方は、人間じゃない! モンスターだ!」
「ああ、そうだ。俺は、お前たちを愛する、モンスターだ」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は立ち向かい、そのトゲでミラクルナイトの攻撃を受け止める。
「水都の女子高生たちは、俺の宝物だ! 俺が、犯し、俺が、記録し、俺が、売る! それが、俺の、愛だ!」
「嘘よ!」
ミラクルナイトはパンチを放った。拳は、トゲに弾かれる。
「本当の愛は、そんなものじゃない!」
「何を知っている! 小娘のお前が、何を!」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男のトゲが、ミラクルナイトの腕に引っかかった。腕が、一瞬、麻痺する。
「くっ…!」
「女の子たちの身体は綺麗にして返してやる。眠っている間に何があったのか分からないように綺麗にしてな。これが俺の優しさだ。愛だ」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、不敵に、笑った。
「冗談じゃないわ!」
ミラクルナイトは、もはや、言葉を選んでいなかった。
「うるさいッ!絶対に許さない!」
彼女は、もう一つの手で、男の顔を、殴った。
「ぐうっ!」
「これで、静かになった?」
「…まだだ! 俺の愛は、まだ、終わっていない!」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、トゲを再び配置し、防御の壁を作った。
「水女の野宮奈理子、そこで眠る水商の美咲綾乃。この二人の『オナホ』で、水都の高校は完全制覇だ!俺の愛は完成する!」
「ならば、私が、その愛、完成させずに終わらせる!」
ミラクルナイトの眼が冷たく燃えた。
二人の戦いは、まだ続く。怒りと愛。憎悪と欲望。水都の平和をかけた戦いは、まだ、始まったばかりだった。
怒りは光となり、ミラクルナイトの腕を駆け巡った。彼女は、もはや防御も回避も考えていなかった。ただ、目の前の、この歪なモンスターを粉々に打ち砕くことだけを考えていた。
「えいッ!」
掌から放たれる光弾が、連続してトゲアリトゲナシトゲトゲ男を襲う。だが、トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、トゲを巧みに再配置する。トゲが、光弾の軌道を逸らし、あるいは受け止めて、砕かれてもまた生える。それは、まるで生きた盾のようだった。
「まだまだ、奈理子!その程度の力では、俺の愛に、傷一つ付けられん!」
「黙れぇッ!」
ミラクルナイトは突進した。彼女の動きは、直線的で単調だった。怒りが、彼女の技の繊細さを奪っていた。彼女の拳が空を切り、キックがトゲアリトゲナシトゲトゲ男の残像を捉えるだけ。
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、その攻撃を軽々とかわし続ける。彼のトゲ状の体は、奇妙なほどしなやかだった。そして、そのしなやかさが、ミラクルナイトの動きをさらに混乱させる。
「ふふっ…お前、本気だな。奈理子の怒りの顔、最高に、可愛いぜ」
「うるさいッ!」
ミラクルナイトは身体を翻し、回し蹴りを繰り出した。だが、その瞬間、彼女のブラウスの裾が、男の肩のトゲに、がちゃり、と引っかかった。
「ひっ…!」
彼女のバランスが崩れる。その隙を、トゲアリトゲナシトゲトゲ男は逃さない。
「捕まえたぜ、天使様」
彼の手が伸び、今度は彼女のスカートの裾が引っかかった。ビリッ、という音がして繊維が裂ける。
「きゃっ…!」
ミラクルナイトは後ずさるが、すでに手遅れだった。ブラウスの胸元は裂け、そこからは、純白のブラが見えている。スカートの裾も裂け、激しい動きの中で、純白のショーツが何度もチラつく。
「ああ、見える…見えるぜ、奈理子!その白い下着!戦闘中なのに見せるとは、なんと挑発的なんだ!」
「違うわ!この変態ッ!」
ミラクルナイトは、頬を赤らめた。それは、怒りか、羞恥か、分からない。
男は、その反応を、楽しんでいた。
「だが、いいぜ。俺の愛は、そんな挑戦も受け入れる!」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、ミラクルナイトに再度近づいてきた。今度は、スレスレの距離ですれ違うように動く。ミラクルナイトのパンチが空を切る。そのすれ違いざまに、トゲアリトゲナシトゲトゲ男の手が伸び、ミラクルナイトの尻を撫で回した。
「ひゃッ!」
「ふふっ…柔らかいな。天使の尻は、格別だ」
「今のは…!」
ミラクルナイトは振り返るが、男は、もう、彼女の背後に回っている。今度は、彼女の耳元で囁いた。
「次は、どこを触ろうかな?」
「…!」
男は、その隙に彼女の身体を抱きしめた。トゲが、彼女の背中と腕に引っかかる。動けない。そして、彼は、強引にミラクルナイトの唇を奪った。
「……!」
ミラクルナイトの瞳が見開かれた。トゲアリトゲナシトゲトゲ男の舌が、彼女の口の中に無理やり侵入してくる。唾液が混ざり合う。屈辱。
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、しばらく、その唇を離さなかった。やがて、彼は、彼女を押し離し、不敵に笑った。
「ああ、いい味だ。奈理子の唇は、俺の愛を受け入れるためにあるんだな」
「……」
ミラクルナイトは言葉を失っていた。ただ、その目が青い炎を燃やしていた。
ミラクルナイトは、ペッ、ペッ、と吐いた。トゲアリトゲナシトゲトゲ男の唾液が、床に染みを作った。その行為は純粋な拒絶だった。だが、その瞬間、彼女の頭に冷たい水が注ぎ込まれたように、熱がひいていく。
先ほどまで沸騰していた怒りが、奇妙な静寂に変わった。それは、冷めた怒りだった。氷のような、怒り。
「…ふふ」
彼女は、小さく、笑った。
トゲトゲの怪人。
ミラクルナイトは、数えきれないほど、トゲを持つ敵と、戦ってきた。トゲを槍のように突き出してくる敵。トゲを弾丸のように撃ってくる敵。トゲで相手を引き裂く敵。だが、彼らは皆、トゲを攻撃のために使っていた。
防御にトゲを使っているのは、この男が初めてかもしれない。
トゲが、彼女の攻撃を受け止め、すり減り、砕け、そして、また生える。それは厄介な能力だ。近づけば、服が破れ、肌が傷つく。攻撃すれば、動きが止まる。
どうすればいい?
彼女は考えた。頭をフル回転させる。どうすれば、この生きた盾を壊せるか。
…あ。
彼女の頭にひらめいた。電球がスイッチオンしたように、光が灯った。
凍らせよう。
そのトゲがどんなに丈夫でも、凍らせれば脆くなる。氷は簡単に砕ける。そうだ、それだ。
「上の口の次は、下の口だ、奈理子!」
男の、汚らしい声が、彼女の思考を、引き戻した。
「天使の蜜の味を、味わうんだ!そして、奈理子の身体そのものを、俺専用の、究極のオナホにしてやる!」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、四つん這いになった。トゲが、床をきしませながら彼女に近づいてくる。彼の目は、ミラクルナイトの下半身に注がれている。裂けたスカートから覗く純白のショーツ。トゲアリトゲナシトゲトゲ男の手が、そのショーツに延びる。
「いやだッ!」
ミラクルナイトは後ずさったが、すでに、トゲアリトゲナシトゲトゲ男の手が、彼女のスカートの裂け目に触れようとしていた。
だが、その時、彼女は微笑んだ。
「遅いわ」
彼女は、片手を、前に突き出した。
「ミラクルアクアティックラプチャー!」
彼女の掌から、水のオーラが放たれた。それは、激しい勢いで渦を巻き、部屋中の撮影機材やオナホ製造の機材をずぶ濡れにした。
「うおおッ!な、何をしやがる!俺の、大事な機械が!」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、機械の故障を気にしていた。その隙に、水のオーラは彼の体を包み込んだ。
「……!」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、動きを、めた。水のオーラが、彼の全身を拘束する。
「終わりよ」
ミラクルナイトは、静かに宣言した。
「ミラクルアクアティックラプチャー・フルパワー!」
彼女の掌から放たれた水のオーラは、今度は、激しい冷気を帯びていた。それが、トゲアリトゲナシトゲトゲ男の体を包み込むと、彼の体を覆っていたトゲは、一瞬で氷柱に変わった。
「ぐ、ぐああああッ!」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、悲鳴を上げる。だが、彼の声は凍りつき、やがて、彼の体全体が氷の彫像になった。不規則なトゲの姿をした、氷の彫像。
ミラクルナイトは、静かに息を吐いた。彼女の手は、まだ、水色の光を放っていた。
戦いは、まだ、終わっていなかった。だが、彼女は勝利への道を見つけた。
氷の中から、男の、歪な声が、響いた。
「まだ…終わら…んぜ…!」
氷の彫像が、振動する。
「俺の愛は…無限だ…!」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男の意志が、氷に宿っている。その声と共に、氷柱のトゲがさらに成長した。それは、まるで、彼の怒りと欲望が、氷の結晶となって増殖しているようだった。トゲは、鋭く、長く、彼女を拒絶するために、空間を埋め尽くそうとしている。
ミラクルナイトは、その氷の嵐を見ても瞳を動かさなかった。
「そんな愛、誰も、望んでないわ」
彼女は静かに言った。そして、彼女は走り出した。
彼女の体が、水色の光の奔流となった。それは、氷の壁に突っ込む小さな光だった。
ガシャンッ!
ミラクルナイトの拳が氷柱を叩き割った。破片が、キラキラと光を反射しながら飛び散る。
ガシャン!ガシャン!
彼女は、氷のトゲを粉砕しながら男の本体に近づいていく。氷の破片が、彼女の頬を切り、彼女の裂けたコスチュームに当たる。だが、彼女は気にしない。ただ、目の前の憎き敵にたどり着くことだけを考えていた。
やがて、彼女は氷の壁を突破した。その先にいたのは、氷に半分埋もれたトゲアリトゲナシトゲトゲ男の頭だった。
「…!」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、驚いた。ミラクルナイトが、これほど早くここまで来るとは思っていなかった。
だが、彼女の動きはまだ続いていた。彼女はジャンプし、空中で股を開く。その股間は、水色の光を纏っていた。トゲアリトゲナシトゲトゲ男の目の前に、白いショーツに包まれた奈理子の尻が迫る。その瞬間、彼女の太腿が、男の首を挟み込んだ。それは、まるで美しい光のサンドイッチだった。
濃厚に漂う奈理子の女の子の香り。
ショーツのクロッチ越しに感じる、奈理子の女の子の温もり。
トゲアリトゲナシトゲトゲ男の顔は、まさに、奈理子の股間に押し付けられていた。水色に輝く彼女の股間に、彼の顔が埋め尽くされる。
「…あ…あああッ!」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、このご褒美に歓喜した。彼の欲望が頂点に達した。これこそが、彼が求めていた至福の瞬間だった。
だが、それは、彼の最後の喜びだった。
「ミラクルハピネスホイップ!」
ミラクルナイトの清らかな声が響いた。
奈理子の女の子の魅力で相手を昇天させる幸せ投げ。
彼女の両太腿で男の首を固く挟み込んだまま、彼女は身体を後方に反り返らせた。その勢いで、トゲアリトゲナシトゲトゲ男の体は宙に放り投げられ、そして、床に頭から激突した。
ドガガガガガガガガガ…!
床が、大きく、揺れた。
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は昇天していた。奈理子の、香りと、温もりと、そして、彼女の最後の技に、彼の魂は天に召された。
「ああ…奈理子…最高だ…俺の…究極の…オナホ…」
トゲアリトゲナシトゲトゲ男は、光の粒子となり消えていった。彼の最後の言葉は、彼の歪な愛を証明するものだった。
ミラクルナイトは静かに立ち上がった。彼女の身体は傷だらけだった。ブラウスはボロボロになり、スカートはほとんど破れていた。純白の下着がむき出しになっている。だが、彼女の瞳は青い炎を燃やしていた。
戦いは、終わった。
水都の守護神が、再び、平和を取り戻した。
氷の破片が、キラキラと光を反射しながら、静かに床に舞い落ちた。トゲアリトゲナシトゲトゲ男の歪な欲望の残滓だった。ミラクルナイトは、荒い息をつきながらその静寂に包まれた。
彼女の視線が、部屋の隅にある作業台に向けられた。
そこに、眠っていた少女がいた。
水都商業高校の生徒、美咲綾乃。
彼女の服は乱れ、その顔には不安そうな表情が浮かんでいた。彼女は、この部屋で何が起こったのか、知る由もなかった。
ミラクルナイトは、彼女のそばに近づいた。彼女の白い手が、綾乃の頬に触れた。冷たい。
「…ごめんなさい」
ミラクルナイトは、か細い声で、言った。
「私が、もっと、早く、目を覚ませば…」
彼女は守れなかった。この子を、この男の穢れた手から守れなかった。その悔しさが、彼女の胸を締め付けた。
彼女は、綾乃を、そっと、抱き締めた。その身体は、軽く、か細かった。彼女が守るべき、水都の大切な宝物だった。
「大丈夫。もう、何も怖くない」
彼女は、そう言って、自分の体から水色の光を放った。光は、優しく綾乃の身体を包み込んだ。それは、ミラクルナイトの癒しの力だった。
光は、綾乃の身体を浄化した。トゲアリトゲナシトゲトゲ男の穢れた触感の痕跡を消し去った。そして、彼女の処女膜を再生させた。彼女が、この男に会う前の純粋な状態に戻した。
「…ありがとう、ミラクルナイト」
綾乃は眠ったまま、そう、囁いた。彼女の顔には、安らぎの表情が戻っていた。
ミラクルナイトは、優しく微笑んだ。
彼女は、綾乃を作業台に寝かせると立ち上がった。そして、この部屋を見渡した。
よく見ると、部屋の壁にはたくさんの写真が貼られていた。それは、水都の各高校の女子高生たちの顔写真と秘部のアップの写真。少女たちの名前、学校、学年が書かれている。そして、その写真の、前には、それぞれの少女の型を取ったオナホールが置かれていた。
「…酷い」
ミラクルナイトの、声が、震えた。
彼女たちは、この男に狙われていた。この男は、彼女たちの尊厳を奪い、それを金に変えていた。
「彼女たちの、名誉のため…」
ミラクルナイトは、決意を、固めた。
彼女は、再び水色の光を放った。今度は、より強力な光だった。光は、この部屋のすべてを包み込んだ。写真は燃え、オナホは溶け、機材は壊れた。そして、この部屋の痕跡はすべて消された。この男が、ここにいた事実さえも。
力を、使い果たした。
ミラクルナイトの身体は、ぐらりと揺れた。彼女は、必死に立っていたが限界だった。だが、まだ、やるべきことが残っている。
彼女は、綾乃をそっと抱き上げた。そして、彼女は、この穢された場所を後にした。
夜の、公園。
ミラクルナイトは、ベンチの上に綾乃を寝かせた。彼女の姿は、もう、夜風に揺れる、ただの少女だった。
「……さようなら、水商の美咲綾乃さん。もうすぐ、警察が来るはず……それまで、風邪ひかないでね」
彼女は、そう言って変身を解除した。
水色の光が消え、そこにいるのは、水都女学院高校の制服を着た野宮奈理子だった。彼女の傷も消えていた。だが、彼女の心には、この戦いの記憶が深く刻み込まれていた。
彼女は、夜空を見上げた。星が、きらきらと、光っていた。
(第235話へつづく)
(あとがき)












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