ミラクルナイト☆第87話
昼休みの静けさが、校舎の屋上にひろがっていた。そこには、2人の姿がそっと描かれている。ライムはゆったりと奈理子を後ろから抱きしめていた。奈理子の心は、次の土曜日へと飛んでいた。水都ファミリーランド、水都市民であれば子供頃に必ず行ったことがあるはずの遊園地へのデートに胸をときめかせているのだ。
ファミリーランドの名前の通り、アトラクションはファミリー向けである。今どきの絶叫マシンは絶対無理の奈理子だった、水都ファミリーランドのジェットコースター「ビッグワン」は奈理子でも乗れる。
「ライム、2人で手をつないで乗るんだよ?」
奈理子は頬を紅く染めながらライムの胸に顔をうずめた。
ライムは温かい声で答えた。
「もちろん、奈理子が失禁しないようにしっかり握ってやるさ。」
奈理子はライムの顎の下で
「ばかぁ」
と微笑み、キスを求めた。2人の距離はゆっくりと縮まっていき…
だが、その甘い時間は長く続かなかった。急に、ビジネス街からの緊急放送が屋上に鳴り響いた。
「正体不明の怪人がビジネス街に出現!付近の皆様は安全な場所に避難してください。」
奈理子の瞳は瞬く間に真剣なものに変わった。彼女はライムから離れ、突然の事態に彼の顔を見つめた。
「私、行かなきゃ。」
「もうすぐ昼休みは終わるぞ。」
ライムはの手は奈理子のスカートの中にある。名残惜しそうに奈理子の敏感なところを撫でていたライムだが、彼は理解していた彼女の役目を。
奈理子は短い言葉とともに、ミラクルナイトとしての姿に変わり、ビジネス街へと急いだ。
水の内町の賑やかな通り。どこからともなく歓声が上がる。ミラクルナイトが空から姿を現したのだ。彼女の登場を待ちわびていたかのような、期待に満ちた歓声。しかし、彼女が来た目的の怪人は、もはや姿を消していた。
「くっ、遅かったか…」
広告代理店「クレイオ広告社」が入るビルの前には非常線が張られ、誰も立ち入ることができない。そのすぐ近くに立つ、颯爽としたセイクリッドウインド。彼女がミラクルナイトに手を振りながら近づいてきた。
「私が到着した時、もう奴はいなかったわ。」
と言ってスマホを差し出す。
スマホの画面に映し出されるのは、目撃者が撮った透明なゼリーのような姿の怪人。奇妙な形をしたその身体の中に、何か赤いものが微かに透けて見える。
「透明な怪人…。ちょっと、可愛くない?」
ミラクルナイトが軽く笑う。
セイクリッドウインドは眉をひそめて、
「一体、何なのかしらね?」
とつぶやく。
「クリオネ女だ」
独特の存在感を持つ男が二人の間に割って入ってくる。糸井――クモ男。彼の登場に、ミラクルナイトの目が細まる。過去、彼の強さに何度も悔しい思いをした。だが、奈理子としての彼女は、彼をライムの仲間として知っている。
糸井は何事もなかったかのようにミラクルナイトに声をかけてくる。
「よう、奈理子。」
セイクリッドウインドの視線が疑問に満ちてミラクルナイトに向けられる。
「知り合い?」
「ええ、まあ…」
返答に困りながらも、ミラクルナイトは何とか彼との関係を保とうとする。糸井に対してどのような態度をとったらいい迷いながら出た言葉は、
「糸井さん、鈴さんが最近見かけないって心配してましたよ。」
だった。
糸井は短く笑い、
「仕方ないな。今度、顔出すって伝えておいてくれ。」
そう言って彼は去っていった。
セイクリッドウインドは驚きの表情でミラクルナイトを見る。
「奈理子、なんで彼にクリオネ女のことを尋ねなかったの?」
彼女は苦笑いを浮かべる。
「あ、その…うっかりしてた。」
二人は次の出現を待つしかないという結論に達した。ミラクルナイトは街の空を舞いながら、学校へと戻っていった。
放課後の図書館の静けさが舞い散る。奈理子は何かを追い求めるように、急ぎ足で商店街の路地裏へと足を運んでいた。その目的地は、鈴という名の占い師の元。
「鈴さん、クリオネ女のこと、何か知りませんか?」
鈴は奈理子の顔をじっと見つめていたが、しばらくして
「彼女の正体は言えないわ。でも、ただの悪人じゃないのは確か。」
とだけ伝えた。
その時、不意に糸井が登場し、鈴の表情に驚きが浮かぶ。
「あんた、どうしてここに…」
「奈理子が言うんだ。鈴が寂しいって。だから、俺は顔を出しに来てやったぜ。」
糸井の調子には自信がにじんでいた。
鈴は奈理子を睨む。
「そんなこと、言ったの?」
途端に顔を赤らめた奈理子は、
「ごめんなさい…」
と小さくつぶやいた。
糸井は口元を歪めながら奈理子に話しかけた。
「ライムと遊園地に行くのか?」
奈理子は内心で思う。「ライムは、糸井に何を話したのだろう?」と。しかし、彼女は小さく
「はい」
とだけ答えた。
鈴は奈理子をからかうように言った。
「へ〜、ライムとの仲、上手くいってるみたいね。」
奈理子の頬はさらに紅潮した。
続けざまに、奈理子は糸井に質問をぶつける。
「糸井さん、クリオネ女について何か知っていますか?」
糸井は深く考え込んだ後、奈理子に向かって言った。
「見た目はかわいいが、実は残忍な奴だ。バッカルコーンって知ってるか?」
糸井の説明に奈理子は身を震わせる。それは彼女のトラウマとなっている触手だった。
「奈理子を怖がらせちゃダメでしょ!」
鈴が糸井を怒る。
「クリオネ女のことを知りたいなら、襲われた会社を調べてみたらいい。何か手がかりがあるかもしれないな。」
と糸井は奈理子にアドバイスした。
鈴と糸井の間に立つ奈理子は、次なる行動を模索する。
クリオネ女が出現した日の夜、奈理子は糸井のアドバイスを受けて、クリオネ女に襲われた会社をネットで調べてみた。しかし、その会社は普通の広告代理店であり、特に不審な点はなさそうだった。
翌日、放課後の陽が沈む前の空は、美しい紫色に染まっていた。金曜日のこの時刻は、奈理子にとって最も特別な時間。明日はライムとの約束で、遊園地へ行く予定だった。その楽しみに胸が躍る中、奈理子は親友の綾香とともに学校を出て歩き始めた。
しかし、その歩みを突如、前に立ち塞がる男の姿が止める。
「ミラクルナイト、助けてくれ。怪人に狙われている。」
彼の声は震え、目は絶望に満ちていた。
奈理子は足を止め、その男を見つめた。
「あ、あなたは…?」
一瞬、不審者と疑ってしまうが、彼の目の真剣さに、その考えは消えた。
彼は名を告げる。
「私は栗生。私のボディガードになってくれないか。」
あの名前、奈理子はすぐにピンと来た。
「クリオネ女に襲われた会社の社長さん…?」
確かめるように言葉にすると、彼は肯定する。
「そう、クレイオ広告社の栗生だ。」
しかし、ボディガードという申し出に、奈理子は一瞬困惑した。ずっと栗生と一緒にいる訳にはいかない。それに、クリオネ女は奈理子が苦手な触手を使う。奈理子は触手を操る相手に勝てる自信はなかった。
だが、彼女の心の中には一つの策が浮かんできた。クリオネ女は女だから、エッチなことしてこないかもしれない。もし、ミラクルナイトが戦いに負けても、セイクリッドウインドとドリームキャンディが助けに来てくれるはずだ。小学生のドリームキャンディは遅い時間になると来てくれないかもしれない。急がなければ。
「水都公園にクリオネ女を誘い出しましょう。」
彼女の提案に、栗生は驚きの表情を浮かべた。綾香もその決意に驚いた様子だった。
奈理子は、自信に満ちた声で言った。
「コソコソと逃げ回っていても解決はしません。栗生さん、水都公園へ行きましょう。」
そして、綾香に向き直り、
「綾香、ゴメン。急用が出来ちゃったの。」
と軽く手を振り、渋る栗生の腕を引き、水都公園へと急ぎ足で向かった。
水都公園の噴水広場に静寂が降り注ぐ。夕日の余韻が水面に映し出される中、ミラクルナイトの姿がベンチの影にひっそりと潜んでいた。彼女の瞳は広場中央で立つ、不安に満ちた栗生の姿を見つめていた。
ミラクルナイトを見て、声をかけようとする市民もいた。しかし、彼女は指を唇に当て、静かに待機するように合図した。
時間が流れ、彼女はついに「彼女」が来ないのではと思い始めたその時、空から不意に現れたのは、耳と手があるてるてる坊主のような姿のクリオネ女だった。その姿に公園にいた人々の間に驚きの声が上がった。
「あなただけは絶対に許さない…」
というクリオネ女の冷たい声。そして、彼女の頭部から伸びる触手バッカルコーン。それが栗生に向かって飛び出した瞬間、ミラクルナイトが颯爽と飛び出し、栗生を救った。
「水都の平和を乱すことは、このミラクルナイトが許しません!」
と宣言するミラクルナイト。しかし、彼女の足は震えていた。悍ましい触手バッカルコーンを目の当たりにした恐怖、そして自らの判断の過ちに対する後悔。
だが、彼女は決して後退することなく、クリオネ女に立ち向かう覚悟を決める。クリオネ女は冷ややかに言った。
「どきなさい!これは私と栗生の問題よ。邪魔すると痛い目に合うわよ。」
ミラクルナイトの心は揺れ動く。この戦いに勝つための勇気をどこから呼び起こせばいいのか。しかし、何よりも大切なのは、栗生を守るという彼女の使命だった。
噴水広場に広がる水しぶきが輝く中、クリオネ女の冷気が静かに立ち込める。震えるミラクルナイトと怯える栗生の姿が、その中でぼんやりと浮かび上がる。栗生は、ミラクルナイトに隠れるように、彼女のスカートを固く掴んでいた。
「ミラクルナイト、その男はあなたが命を掛けて守る価値はないクズよ」
と、クリオネ女の声が冷たく響く。ミラクルナイトは背筋を伸ばし、強い意志を込めて彼女を睨む。
「私は絶対に栗生さんを守ります!」
彼女の声は、震えながらもきっとしたものだった。
冷気が徐々に強まる中、ミラクルナイトの心臓は疾走していた。栗生もその冷気の影響で震えていたが、彼の震える手が不注意でミラクルナイトのお尻に触れる。
「変なとこ触らないで下さい!」
と彼女が怒鳴ったその瞬間、クリオネ女が動いた。
「ならば、ミラクルナイト、あなたもクズと一緒に死になさい」
とバッカルコーンを放つ。ミラクルナイトは咄嗟に身をよじるが、彼女の動きは栗生にスカートを握り締められていたため制約されていた。ズッコケるミラクルナイトにまさかの瞬間が訪れる。ミラクルナイトのスカートが脱げてしまった。
「何やってんですか、栗生さん!」
ミラクルナイトは頬を赤らめながら彼を非難する。
「ゴメン。こんなに簡単に脱げるとは…」
謝る栗生の手にはミラクルナイトのスカートがあった。奈理子の純白のパンツが露わになっている。
「スカート返して下さい!」
とミラクルナイトが手を伸ばす。しかし、栗生の顔には驚きの色が広がっていた。ミラクルナイトの背後には、クリオネ女の触手が迫ってきていたのだ。彼は瞬時に状況を把握し、恐怖に駆られて逃げ出す。ミラクルナイトは、彼の後ろに忍び寄る触手と向き合い、決意の眼差しで準備を整えるのだった。
噴水広場の空気は一瞬にして凍りついたように感じられた。ミラクルナイトの身体を巧みに絡めとる触手バッカルコーンは、彼女を力づくで空に浮かせていた。優雅で愛らしかったクリオネ女が今や獰猛な獣のように変わっていた。
「いやぁ!離してぇ!」
ミラクルナイトの悲痛な叫びが広場に響き渡る。彼女の絶望的な声に心を痛める者も多かった。
「あのクズに味方するあなたが悪いのよ!」
クリオネ女の言葉が、冷たい風とともに広場に響く。彼女の言葉の裏には、何か深い怨みや痛みが感じられた。
クリオネ女はバッカルコーンで捕えたミラクルナイトを飲み込もうとする。
「助けてぇ〜!」
と叫び、空を仰ぐミラクルナイトの瞳に、突如として現れた黄色い光が映り込む。その光はミラクルナイトに衝突し、彼女を地面へと投げ落とす。
しかし、その黄色い光の中から現れたのは、小学生戦士ドリームキャンディだった。彼女はゴーグル越しに微笑むと、皮肉を込めて言った。
「またスカート脱がされたんですか?奈理子さん」
隠れていた栗生をキッとこへ、新たな仲間、風の戦士セイクリッドウインドが緑の輝きを放ちながら現れる。
「奈理子ちゃんの清純の証は眩しすぎて目の遣りどころに困るから、ここは私達に任せなよ」
更に恥じるミラクルナイト。しかし、ここは栗生を逃がすことが優先だと考え、深く頷くと、
「ここは任せたわ」
と栗生を引き連れて、戦場を後にした。背後では、彼女の仲間たちとクリオネ女の戦いが繰り広げられていく。
水都公園の噴水広場は、三者の対峙で緊張感に満ちていた。
「お前たちは何故あのクズの味方をする?」
クリオネ女の眼は、清らかな姿からは想像できない獰猛さを放っていた。
セイクリッドウインドは冷静にその瞳を見据え、
「あの男がクズかどうかは知らないけど、公園で暴れるバケモノは退治する」
と断言。その手には、扇子のような形をした武器、ガストファングをしっかりと握っていた。
一方、ドリームキャンディは、クリオネ女の能力に警戒しながらも、鞭のような武器キャンディチェーンを軽やかに振るって言った。
「街の平和を乱す者は許しません」
しかし、クリオネ女は笑みを浮かべながら、瞬時に空気の温度を下げる。広場は霧に包まれ、霜が舞い上がる中、三者三様の戦術が展開された。
セイクリッドウインドは、ガストファングを振り下ろし、一撃を狙うも、クリオネ女のバッカルコーンに阻まれた。その隙をついて、ドリームキャンディはキャンディチェーンを振り回し、クリオネ女を縛ろうとする。しかし、バッカルコーンの動きは予想以上に速く、キャンディチェーンは空を切るばかりだった。
そして、戦局は一変。ドリームキャンディの足元から突如として襲ってきたバッカルコーンが、彼女の足を絡め取った。キャンディチェーンを使って反撃しようとするも、更に多くのバッカルコーンが彼女の体を絡めとり、彼女は動きを封じられてしまう。
セイクリッドウインドは驚きながらも、ドリームキャンディを救出しようとガストファングを振り回すが、クリオネ女の圧倒的な能力の前には、なすすべがないことを実感させられていた。
水都公園の噴水広場は、クリオネ女の衝撃的な行動により、一時の静寂に包まれていた。彼女の透明な体は、ドリームキャンディの苦悶の姿をはっきりと浮かび上がらせており、その姿は観る者の胸をえぐるようだった。
「私の餌になりなさい」
と、クリオネ女の声は淡々としており、その言葉と共に、ドリームキャンディは彼女の中へと飲み込まれた。
「ドリームキャンディ!」
その声は、セイクリッドウインドの声だった。彼女の瞳には驚きと怒り、そして無力さが入り混じっていた。
広場に集まっていた市民たちは、その場面に呆然としていた。その中でも、セイクリッドウインドの悔しげな叫びは特に胸に響くものがあった。
しかし、クリオネ女はセイクリッドウインドの怒りにも動じず、
「やめなさい。あなたの攻撃は直接この子が受けることになるわ」
と、冷たく告げた。
セイクリッドウインドは、クリオネ女の体の中でもがくドリームキャンディの姿に目を奪われ、その場に立ち尽くしてしまう。
「クリオネはね、補食したものは全て消化してしまうの。この子を助けたければ、そこで大人しくしてなさい」
と、クリオネ女の声は、セイクリッドウインドの耳に響く。
「ドリームキャンディをどうするつもり?」
彼女の声は、絶望と怒りに満ちていた。しかし、クリオネ女は
「私の望みはグズ男を殺す、それだけよ」
とだけ答えると、空へ飛び上がっていった。
「待ちなさい!」
セイクリッドウインドも彼女の後を追うことを決意。彼の足は、クリオネ女の後を追いかけるように急いだ。
噴水広場の中心には、ミラクルナイトのスカートが残されていた。それは、風に吹かれながら、静かに舞っていた。その姿は、この場面の一時的な静寂を象徴しているかのようだった。
栗尾を抱え空を舞いながらも、ミラクルナイトの心の中は混乱していた。彼女の気にかかるのは、失われたスカートと、なぜクリオネ女が栗生を追い詰めるのか、その理由だった。
「私のスカートはどこにいったんですか?」
彼女の声は焦燥感に満ちていた。
「スマン、公園に忘れてきた」
と栗生の言葉に、ミラクルナイトは苦笑いした。今はそれを取りに行く暇などない。下半身は白いパンツと膝下までのブーツだけだが、今はスカートを取りに行く暇などない。。
空中での会話が続く中、ミラクルナイトの心に疑問が沸き上がる。
「栗生さん、クリオネ女に何をしたんですか?あの怒り方は普通じゃいですよ」
「俺は何もしていないよ。クリオネ女が一方的に俺を恨んでるみたいなんだ」
彼の答えはあいまいで、ミラクルナイトは栗生が何か隠しているのではないかと感じた。彼の目は、何かを言いたくないような表情を浮かべていた。彼が何をしようが、街で暴れて市民を襲ったクリオネ女は倒さなければならないと思うミラクナイト。
と、その時、背後から迫る寒気を感じ、ミラクルナイトは後ろを振り返った。
「わっ!」
驚きの声を上げる彼女の目の前には、クリオネ女が飛んで追いかけてきていた。「クリオネって飛べるの?」と思ったが、よく見るとジャンプしているようだ。
そして、彼女の体の中には、ドリームキャンディの姿が…。その姿には、彼女のコスチュームがほとんど溶けている。ほとんど裸であることが見て取れた。栗生を抱えたままでは逃げ切れない。ここは逃げるよりも、ドリームキャンディを助けなければならない。
「栗生さん、降りますよ」
とミラクルナイトは、決意の声で告げる。
しかし、栗生は
「逃げてくれ!ミラクルナイトじゃクリオネ女に勝てないだろ!」
と叫ぶ。彼の言葉に、ミラクルナイトはちょっとした傷つきを感じつつも、彼女はクリオネ女との戦いを避けることはできないと心に決めた。
地上に降り立ち、クリオネ女との対決の時が来た。ミラクルナイトは、彼女を迎え撃つ覚悟を固めるのだった。
水都の郊外に広がる濃密な森。そこでの一騎打ちは、刻一刻と緊迫していた。ミラクルナイトは、勇気を奮い立たせ堂々と立ち向かっていた。背後には、怯える栗生がいた。彼の表情からは、彼女を頼りにしていることが伺えた。
クリオネ女の透明な体の中では、飲み込まれたドリームキャンディの姿がうっすらと確認できた。そのコスチュームはもはや存在していない。しかし、ミラクルナイトは諦めなかった。
「ドリームキャンディを解放して!」
彼女の声には、強い決意がこもっていた。
クリオネ女は、その要求を一笑に付し、
「この子を助けたければ、栗生を渡しなさい」
と冷たく言い放った。彼女の言葉に、
「ひぃー!」
と声を出した栗生は思わずミラクルナイトの腰を掴んで震えた。
ミラクルナイトは勇気を振り絞り、クリオネ女に立ち向かった。
「栗生さんがあなたに何をしたかは知らないけど、悪い事をしたのなら栗生さんを裁くのは法であって、あなたじゃない。栗生さんは渡せない!」
と力強く宣言した。
クリオネ女は、ミラクルナイトの勇気に感じるものがあったのか、
「細い手足に柔らかい肌、その脆い体で私たちバケモノに立ち向かう貴方の勇気は称賛に値するわ」
と冷笑しながら言った。そして、突如として彼女の頭部が裂け、6本の触手、バッカルコーンが飛び出した。
「栗生さん、走って!」
ミラクルナイトが叫ぶと、同時に手から放たれる水色の光弾で触手を迎え撃った。しかし、彼女の目的はクリオネ女の身体の中のドリームキャンディだった。
バッカルコーンを掻い潜りミラクルナイトがクリオネ女に取り付いた瞬間、彼女の中にいるドリームキャンディの状態を確認した。
「ドリームキャンディ、しっかりして!」
彼女は気を失っているドリームキャンディに声をかけるが、彼女からの反応はなかった。
ドリームキャンディに当たらないように注意しながら、クリオネ女の身体に何度も光弾を打ち込むミラクルナイト。クリオネ女の柔らかい身体と中のドリームキャンディが揺れるが、クリオネ女にダメージを与えることはできないようだった。ミラクルナイトの目には涙が溜まってきていた。
どうしたら、ドリームキャンディを救えるのか。彼女は、その答えを求め続けるのだった。
水都の郊外の森の中での戦いは、一気に局面が変わった。突如として現れたのは、大きな竜巻だった。それはセイクリッドウインドの力だった。彼女は、クリオネ女を打ち払うべくその力を解放していた。
しかし、クリオネ女は、その竜巻の中でも天使のような軽やかさで舞い踊る。セイクリッドウインドはミラクルナイトに向かい、
「ミラクルナイト、これを使って。ドリームキャンディの忘れ物」
と、キャンディチェーンを投げた。受け取ったミラクルナイトは、
「私のスカートは?」
と声をかけたが、セイクリッドウインドは
「はぁ?そんなの知らない。パンツ丸出しは慣れてるでしょ」
と返した。クリオネ女の冷気で寒い。ミラクルナイトは生パン生脚で戦わなければならないのかと肩を落とすが、冷気で震えながらもキャンディチェーンを握りしめた。
しかし、キャンディチェーンを振ると、クリオネ女は簡単に避けた。そして、戻ってきたキャンディチェーンはミラクルナイト自身に巻き付いてしまった。驚いた彼女は、思わず
「わ!」
と声を上げると同時に、キャンディチェーンに絡まれてしまった。
「1人でギャグやってる場合じゃないでしょ!」
セイクリッドウインドがミラクルナイトに怒りの声を浴びせた。ミラクルナイトは、キャンディチェーンを扱う難しさを痛感した。しかし、彼女はあきらめなかった。キャンディチェーンをクリオネ女に巻きつけ、ドリームキャンディを取り戻すことを心に誓った。
森の中の戦いは一層激しさを増していった。クリオネ女の怪物のような触手バッカルコーンと、ミラクルナイトのキャンディチェーン、そしてセイクリッドウインドのガストファングが織りなす攻防が交差し、空気は緊張で張り詰めた。
セイクリッドウインドは、ドリームキャンディを傷つけないよう慎重に、ガストファングでクリオネ女を攻撃したが、彼女の不思議な柔らかさには全く効果が示されなかった。同様に、ミラクルナイトの初めての挑戦、キャンディチェーンの扱いにも手間取っていた。
だが、戦いの中で彼女の技は磨かれていった。一方、クリオネ女のバッカルコーンは、セイクリッドウインドを一瞬の隙をついて捕らえた。
「離せ!」
セイクリッドウインドの叫び声とともに、ガストファングがバッカルコーンに炸裂した。しかし、クリオネ女にダメージは無い。
クリオネ女がセイクリッドウインドを引き込もうとした瞬間、ミラクルナイトのキャンディチェーンがクリオネ女の足を捉えた。
「捕まえた!」と心の中で叫ぶミラクルナイト。彼女は、キャンディチェーンを使い、クリオネ女を振り回すことに成功した。
その強烈な遠心力により、ドリームキャンディはクリオネ女の体から放出されるかのようになった。ついに、クリオネ女はその圧力に耐えられず、ドリームキャンディを吐き出してしまった。
しかし、その力の反動で、ミラクルナイトも倒れこんでしまった。森の中は、一瞬の静寂に包まれた。
静寂の中、セイクリッドウインドの声が響き渡った。
「ドリームキャンディ!」
彼はそのキャンディのもとへ急いで駆け寄り、その生命感を感じ取り、安堵の息を吐いた。
ミラクルナイトは頭を抱え、目が回りながらもフラフラと立ち上がることに成功した。対照的に、戦い慣れしているミラクルナイトよりクリオネ女のダメージは深く、彼女はその弱さを露呈していた。この一瞬の隙をミラクルナイトは見逃さなかった。
彼女は瞬時に反応し、クリオネ女に飛び付き、その繊細な首元を自らの脚でしっかりと捉える。この技、それは
「ミラクルハピネスシザーズ!」
と名付けられたミラクルナイトの得意技だった。しかし、クリオネ女もその瞬間を逃さず、バッカルコーンを展開し、ミラクルナイトの躯を圧迫した。お互いに絞め合う彼女たちの攻防は一進一退、誰もがその結果を予測できない緊迫した戦いが繰り広げられた。
その戦いの舞台を冷静に見守るセイクリッドウインド。彼の目には不安と期待が交差していた。とうとう、その勝者が決まった。クリオネ女が地面に崩れ落ち、その姿は繊細な若い女性へと変わっていった。
ミラクルナイトは、彼女の変わり果てた姿に驚きながらも、ドリームキャンディに急ぎ足で近寄った。ゴーグルだけを残した彼女の身体は痛々しかった。ミラクルナイトが心配そうに
「大丈夫?」
と尋ねると、セイクリッドウインドは柔らかく微笑んだ。
「大丈夫。ドリームキャンディは強いからこれくらい平気だよ。」
ミラクルナイトはその言葉に安堵した。
セイクリッドウインドは、ドリームキャンディをやさしく抱きしめながら言った。
「でも、この姿は可哀そうだから、私たちは帰るよ。」
と立ち上がり、
「クリオネ女には勝てる気がしなかったけど、ミラクルナイトも強いね」
と感謝の言葉を述べ、セイクリッドウインドはドリームキャンディを抱いて静かな森を後にした。
水都郊外の深い森、ミラクルナイトは頭を抱えて立っていた。彼女の目の前には、かつての敵、クリオネ女の姿ではなく、若い女性が気を失って横たわっていた。この場面は彼女にとって異例のものだった。市街での戦いでは、敗北した敵は消滅するか、人の姿に戻ったときには逮捕されるなどして、市民の歓声に包まれて戦いは終わる。しかし、この森では彼女は一人、無防備な女性を前に何をすべきか戸惑っていた。
突然、背後から声がした。
「セイクリッドウインドじゃないが、クリオネ女に勝てるとは思わなかったな。」
振り返ると、私服の男、糸井が立っていた。
「ずっと見てたんですか?」
ミラクルナイトは半ば驚き、半ば不機嫌に問いただした。
糸井はゆっくりと話を始める。彼女の前の女性、羽純はクレイオ広告社のデザイナーで、その社長、栗生とは不倫の関係にあったという。そして彼女は栗生から結婚の約束を受けていたが、栗生は現在の妻との離婚を進めず、彼女は糸井に調査を依頼したのだという。その調査結果を羽純に報告したあと、クレイオ広告社襲撃事件が起こった。
「それじゃ、糸井さんが事件のきっかけを作ったようなもんじゃないですか。」
とミラクルナイトは苦々しげに言った。
糸井は苦笑しながら、
「俺も羽純がこんな事するとは思ってなかったぞ。」
と答えた。羽純は大人しく真面目な女の子だったらしい。
「明日はライムと遊園地だろ。今日中に片付いて良かったな。」
その後、彼はミラクルナイトの私生活を知っているように、彼女の明日の予定について触れ、彼女をからかった。
「警察には俺が連絡しとくから早く帰れよ。その格好は寒いだろ。」
と糸井はクレイオ女の冷気に包まれたミラクルナイトを見ながら言った。慌てて手でパンツを隠すミラクルナイト。
「奈理子の清純の証である純白パンティも、近くで見ると結構汚れてるんだな」
と糸井は笑う。
ミラクルナイトは顔を真っ赤にして
「糸井さん、嫌いです!」
と叫び、怒り心頭でその場を飛び去っていった。糸井の冷たい笑いが、彼女の背中に追いかけてくるようだった。
(第88話へつづく)
(あとがき)














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