DUGA

ミラクルナイト☆第153話

放課後、水都公園の遊歩道を歩く奈理子とライム。六月にもかかわらず、真夏のような日差しが照りつけ、奈理子はタオルで額の汗を拭いながら呟いた。

「暑い…六月でこれじゃ、七月や八月はどうなるんだろう…」

爽やかな水色のセーラー服に身を包んでいても、この猛暑には太刀打ちできない。

ふと、ライムがじっと奈理子を見つめていることに気づいた。

「どうしたの?」

奈理子が不思議そうに尋ねると、ライムの視線は奈理子の首筋に汗が滲む様子を追っていた。

奈理子は冗談っぽく笑いながら言った。

「まさか、魔物みたいに私のお汁を舐めたくなった?」

「そうだな、奈理子の体液は美味しいからな」

とライムがさらりと言う。奈理子は驚きつつも笑い声を上げた。

「やだ、魔物みたいなこと言わないでよ!」

とケラケラと笑う奈理子。しかし、ライムはどこか考え込んでいるように見えた。

「ライム、何かあったの?」

と奈理子は心配になって顔を覗き込んだ。

すると、突然ライムは奈理子を抱き寄せ、彼女の唇にキスをした。

「む〜…」

されるがままにキスを受け入れた奈理子。ふと二年前の夏、初めてのキスのことが頭をよぎる。あのときもライムは、いきなり公衆の面前でキスをしてきた。水都市民プールでの出来事だ。それから二年、ライムとは色々なことを乗り越えてきたけれど、こうしてまだラブラブでいられるなんて、ちょっとした奇跡だと思った。

しかし、ここは公園。奈理子は恥ずかしさから周囲の視線に気づき、ライムをそっと突き放した。

「こんな場所でやめてよ。みんな見てるから」

と少し照れくさそうに言う。

「今日のライム、何か変だよ」

と奈理子は不安げに問いかけた。

ライムは一瞬黙り込み、そして真顔で言った。

「奈理子、俺がもし魔物だったらどうする?」

その言葉に奈理子は少し驚いたが、すぐに優しく笑顔を浮かべて答えた。

「どうもしないよ。ライムはライムだもん、魔物だって関係ないよ」

その時、背後から女の子の明るい声が響いた。

「今日もイチャイチャラブラブですね!」

振り返ると、そこには寧々と奈理子の弟、隆が立っていた。

「寧々ちゃん!…隆も!いつから見てたの?!」

奈理子は驚きの声を上げた。

「見せつけたのは、そっちだろ」

と冷たい視線を投げかける隆。寧々はくすくす笑いながらも、奈理子の様子を気にしている様子だった。

ライムは何も言わずにその場を立ち去ろうとする。

「待って、ライム!」

奈理子は慌てて手を伸ばしたが、ライムはそのまま逃げるように去って行ってしまった。

奈理子は立ち尽くし、寂しげにライムの背中を見送った。

「奈理子さん、邪魔しちゃってごめんなさい」

と寧々が申し訳なさそうに言う。

「姉ちゃん、いつもあんなふうに人前でイチャついてんのか?」

と隆が呆れた様子で尋ねた。

奈理子は困った顔をしながら、少し恥ずかしそうにお願いした。

「隆、お願いだから、ママには公園でライムとキスしてたこと言わないでよ」

奈理子は隆にお願いするしかなかった。


水都公園内のカフェ萬々亭。午後の静かなひと時、奈理子は寧々と隆と一緒に向かい合って座っていた。

「奈理子さん、ご馳走になってもいいんですか〜?」

と、寧々が目の前に置かれたパフェに興奮気味の声を上げた。

「寧々ちゃんにはいつも助けてもらっているから、気にしないで食べて」

と、奈理子は微笑んだ。

「姉ちゃんは俺より小遣いが多いし、写真集の売上もあるんだろ?全然問題ないよな」

と、隆が何気なく付け加えた。

奈理子は一瞬、引きつった笑みを浮かべた。実際のところ、写真集の収入は母親が預かっているため、奈理子の手元には一銭も残っていない。しかし、今は弟の口を封じるために、この程度の出費は必要な犠牲だと思っていた。

奈理子は抹茶あんみつの白玉を一口頬張りながら、ちらりと横目で見た。隆はいつものように奈理子の隣ではなく、当然のように寧々の隣に座った。その光景に、奈理子は微かな嫉妬心を覚えた。まるで弟を奪われたような感覚だ。

寧々はその奈理子の心情を察したのか、優しい笑顔で隆に話しかけた。

「隆、パフェ美味しいよ。一口食べてみる?」

彼女はスプーンで掬った抹茶クリームを差し出した。

「おう」

と言いながら、隆は寧々のスプーンからクリームをパクリと食べた。

「じゃあ、私も隆のかき氷をちょうだい」

と甘えた声でお願いする寧々。

隆は微笑みながら白桃のかき氷をスプーンで掬い、彼女に差し出す。

「ほら」

「ありがとう!」

寧々は嬉しそうにそのスプーンを口に含み、

「美味しい〜!」

と歓喜の声を上げた。

奈理子はその光景を見ながら、寧々が心の中で

「隆はとっくに姉離れしていますよ」

と言っているように感じた。寧々と隆は仲良くパフェとかき氷を食べている。

奈理子は寒天を一口食べながらふと思った。

「何を見せつけられてるの、私?もし寧々ちゃんと隆が現れなければ、今頃ライムと二人で楽しい時間を過ごしてたのに…」

そんな思いに駆られた奈理子は、つい口を開いた。

「ねぇ、二人って、どこまでいったの?」

「どこまでって?」

と寧々がきょとんとした顔で尋ねる。

「ほら、キスとか…」

奈理子は少し戸惑いながらも、核心に迫る質問をした。

「そんなこと、してませんよ〜!」

寧々は照れくさそうに笑った。しかし、奈理子はその瞬間、隆が一瞬だけ不敵な笑みを浮かべたのを見逃さなかった。

「キスはしてる…」

奈理子は心の中で確信した。しかし、まだ隆は中学一年生。そこから先はないだろう、と奈理子は自分を落ち着けた。

ふと、奈理子は笑みを浮かべた。寧々がまだ子供扱いされていると察したのだろう。すると、寧々は突然こう言った。

「奈理子さんがライムと付き合い始めた頃、ライムはまだ小学六年生でしたよね~」

その言葉に、奈理子は驚いて思わずスプーンを落としてしまった。いつも素直で良い子の寧々が、今日はなぜか挑発的に感じられた。

「どうした、姉ちゃん。母さんには言わないから安心しろよ」

と隆が涼しい顔で言った。

「そうですよ、奈理子さん。隆はウソはつきませんから」

と寧々も柔らかく微笑んでいる。

その瞬間、奈理子の心の中で何かが揺れ動いた。自分が一番知っているはずの弟が、少しずつ自分の手の届かないところへと進んでいるような感覚を覚えた。

その時、カフェの外に設置されたスピーカーから緊急放送が流れた。

「パイナップル男とウズムシ男が水都公園内に出現しました。市民の皆様は直ちに避難を…」

奈理子は表情を引き締めて立ち上がった。

「行かなきゃ!」

寧々と隆も緊張した面持ちで奈理子に続き、店を後にした。


「敵は運河の方ね!」

奈理子は、逃げ惑う市民たちを掻き分けながらアイマスクを手に駆け出した。彼女の横を走る寧々が急に足を止め、

「奈理子さん、先に行ってください!」

と叫ぶ。寧々は変身するため、人目のない場所を探していた。

「寧々ちゃんも、もう正体を明かせばいいのに。隠れて変身するの、面倒臭いでしょ?」

奈理子が軽く笑いながら言う。

「私は、奈理子さんのように自分を曝け出す勇気なんてありません!」

寧々はそう答え、別の方向へと走り去った。

奈理子は息を整え、走りながらアイマスクを装着する。すると彼女の身体は水色の光に包まれ、瞬く間に制服が消え、純白のブラとショーツだけの姿へと変わった。しかし、その状態も一瞬のこと。白いリボンが髪に結ばれ、ブラを覆うようにノースリーブの水色のブラウスが現れ、手足に白いグローブとブーツが瞬時に装備される。最後に、白いプリーツスカートがふわりと広がり、ショーツを隠した。ミラクルナイトへの変身が完了すると、奈理子は翼のようにミラクルウイングマンを広げ、大空へと舞い上がった。

「奈理子だ!」

「ミラクルナイト、頼んだぞ!」

下にいる市民たちが歓声を上げ、彼女を見上げて声援を送る。

空に舞い上がると、すぐにミラクルナイトは運河沿いで暴れるパイナップル男の姿を捉えた。敵の凶悪な姿に目を光らせながら、地上へと降り立つ。

「パイナップル男!水都の平和を乱す者は、ミラクルナイトが許しません!」

ミラクルナイトは冷たい決意を込めて宣言し、敵の前に堂々と立ちはだかった。


「いい匂い…」

パイナップル男の前に舞い降りたミラクルナイトは、戦場には不似合いな甘い香りに戸惑った。その場には、あまりにふさわしくない甘さが漂っていたのだ。

「君がミラクルナイト、野宮奈理子かい。実際に見ると、写真や動画以上の美少女だな」

パイナップル男がミラクルナイトを見つめながら低い声で言った。

その巨体はパイナップルのような硬い、刺々しい装甲に覆われており、圧倒的な威圧感を放っている。その後ろにはウズムシ男が五人。ミラクルナイトは身構えた。メロン男の時と同じく甘い香りを感じていたが、どうやらパイナップル男の香りにはメロメロにさせる効果はなさそうだ。

「何が目的で水都公園に現れたの?!」

ミラクルナイトが鋭く問いかける。

テントウムシ女に代わって、奈理子の新しい担当になったんだ。今日は挨拶がてらだよ」

パイナップル男が軽く言い放つ。

「私の担当って何よ!」

ミラクルナイトはさらに詰め寄る。

「奈理子の遊び相手だよ、君を楽しませてやるためのな」

パイナップル男はにやりと笑い、冗談めかして言った。

「ふざけないで!」

ミラクルナイトは怒りを爆発させ、パイナップル男に飛び掛かり、強烈な右ハイキックを放った。しかし次の瞬間、

「痛っ!」

と声を上げたのはミラクルナイト自身だった。彼の装甲はあまりにも硬く、蹴りは全く通用しなかったのだ。

パイナップル男は笑いながら、ミラクルナイトの高く蹴り上げた右足を掴んだ。

「これが名高い奈理子の染み付きパンツか…」

「見ないで!離して!」

足を持ち上げられたミラクルナイトは顔を赤らめ、必死に足を引こうとするが、全く歯が立たない。

「今日は挨拶だけだ。俺はパイナップル男、覚えてくれたかい、奈理子ちゃん。あとはウズムシ男たちと楽しむといいさ」

パイナップル男はそう言うと、ミラクルナイトをウズムシ男たちに向かって投げつけた。

「やったー奈理子だ!」

「アイマスクを外して素顔を見ようぜ!」

五人のウズムシ男が歓声を上げ、ミラクルナイトに群がる。彼女は地面に倒れ込み、ウズムシ男たちに捕まって怯える。

「いや…やめて!」

ミラクルナイトは恐怖に震えながら叫んだが、ウズムシ男たちは容赦なく彼女に迫ってきた。

「次は俺が直々に相手をしてやってもいいよ。それまで元気でな、奈理子ちゃん」

パイナップル男は不敵な笑みを浮かべ、その場を去って行った。

黄色い光とともにドリームキャンディが現れたのは、既にパイナップル男が姿を消した後だった。


「パイナップル男は?」

ドリームキャンディは辺りを見渡す。しかし、パイナップル男の姿はすでに無く、代わりに聞こえてきたのは、五人のウズムシ男にコスチュームを剥ぎ取られ、怯えた声を漏らすミラクルナイトの鳴き声だった。

「奈理子さんから離れなさい!」

ドリームキャンディはウズムシ男たちに怒鳴りつけた。

「ちっ、お楽しみ中を邪魔するなよ」

「子供に用はないんだ、帰れ!」

「それともお前も、俺たちの玩具にされたいか?」

ウズムシ男たちはドリームキャンディにブーイングを浴びせかける。倒れているミラクルナイトは虚ろな目をしたまま、動かない。

「奈理子さんに何をしたの? 奈理子さんがこんな簡単にやられるはずがないわ!」

ドリームキャンディは詰め寄るように問いかける。

ミラクルナイトは非力な部分があっても、ミラクルパワーで一瞬だけ強大な力を発揮できるはずだ。ウズムシ男に一方的にやられるわけがない。

「奈理子はパイナップル男様の香りにやられたのさ」

一人のウズムシ男が得意気に答えた。

「パイナップル男の香り…」

ドリームキャンディはメロン男との闘いを思い出す。以前、メロン男の甘い香りに奈理子はメロメロにされ、寧々自身も危うく同じ目に遭うところだった。もし、パイナップル男もメロン男のような力を持っているのなら、奈理子や自分では太刀打ちできない。

ドリームキャンディの表情が一瞬、曇った。

「パイナップル男様の香りには、相手の動きを鈍らせる麻酔効果があるんだよ。奈理子もそれに気づかずに挑んで、このザマだ」

ウズムシ男は誇らしげに続けた。

「それを聞いて安心したわ。奈理子さんはメロメロにされただけじゃなく、麻酔にやられてただけなのね」

とドリームキャンディはほっとした様子を見せた。

「メロメロ?なんだそれは?」

ウズムシ男はドリームキャンディの言葉に首をかしげた。

「あなたたちは知らなくていいの!」

ドリームキャンディは声を上げると、

「キャンディシャワー!」

と叫び、虹色の光線を放った。五人のウズムシ男は光に包まれ、悲鳴を上げながら次々と消滅していった。

「奈理子さん、しっかりして!」

ドリームキャンディは乱れた奈理子の白いブラショーツを直しながら、彼女の頬を軽く叩いた。

「寧々ちゃん…またウズムシ男に…」

涙をこぼすミラクルナイト。

「もう大丈夫です。私がついています」

ドリームキャンディは優しくミラクルナイトを抱きしめた。だが、その心の中には、新たな敵・パイナップル男への闘志が燃え上がっていた。

第154話へつづく)