ミラクルナイト☆第232話
新年の空気はまだ水都の街に薄氷のように張り付いている。風間凜は石段を一段ずつ、静かに上っていく。境内の喧騒は背後に遠のき、耳に入るのは自分の足音と風の音だけだ。彼女の目的地は本殿の裏手にある、古びた展望台。通称、望楼。水都神社で最も高い場所であり、古来よりこの地を見守る聖域とされてきた。
「……あなたが私を呼び出すなんて珍しいわね」
凜が望楼の扉を開くと、そこには、一人の少年が座禅を組んで座っていた。奈理子の彼氏、ライム。その正体は、スライム男。かっては奈理子の敵であった男だ。
「……来たか、”ナメコ女”」
ライムは目を開けずにそう言う。
「可愛らしく”ナメコ姫”と言いなさい。それに、今はナメコ姫じゃないわ。水都神社の看板巫女、風間凛よ」
「……そうか。風間凛、と」
ライムはゆっくりと立ち上がる。その姿は人間の少年と変わらないが、凜は彼の体からブナシメジ男とは違う、どこか危険な匂いを感じていた。
「アンタは、一体、何なの?」
「……俺は、ライムだ。奈理子を愛している、奈理子の彼氏だ」
彼は、そう言って、凜に、ゆっくりと近づいてくる。
「彼氏ですって。それで、奈理子があのような目に遭っても涼しい顔してるの?」
「……あのような目、とは?」
「あなたは、奈理子がブナシメジ男に犯されたのを知っているんでしょう?」
「……ああ、知っている」
ライムは平然と頷く。
「……!なぜ、助けなかったの!」
「助ける?」
ライムは少し困ったように頭をかく。
「今の奈理子は凡庸なものだ。ブナシメジ男の胞子を受け入れるのが奈理子の本質なら、仕方がない」
「……何を、言ってるの……」
「お前は、奈理子を、非凡庸なものだと、勘違いしている。ミラクルナイトには毒を浄化する能力がある。なぜ、ブナシメジ男の胞子……媚薬が浄化されないと思う?」
「それは……」
凜はうつむく。
「それは、奈理子が媚薬の効果を受け入れているからだ。凡庸ゆえに、いとも簡単に快楽へと堕とされる」
ライムは、そう言って凛を見た。そして、
「凡庸なるものは、凡庸なりに美しい。お前も奈理子と同じ、凡庸だ。杉原寧々とは違う」
と言い放った。
「だから何よ!……凡庸なるものは、凡庸なりに生きている」
凜はライムを睨む。しかし、ライムは凜に対してスライムを放った。
「奈理子を助けられるのは凡庸であるお前だ。奈理子をブナシメジ男の胞子から解放してくれ」
スライムが、衣類の中に侵入していく。
「くっ……!凡庸、凡庸って、私のことを何だと思ってんのよ!」
凜の体から、力が吸い取られていく。
「凡庸なるものは、凡庸なりに美しいよ、風間凜」
ライムは満足げに言い、凜の下着の中にまでスライムが侵入する。
「やめてッ!」
凜は抵抗しようとするが、その手には力も入っていない。
「凡庸なる抵抗。それが君の本質だよ、風間凜」
彼は、そう言うと、彼女のショーツの下でうごめくスライムが、優しい愛撫を続ける。
「んんっ……!ひぐっ……!や、やめ……!」
快感が、凜の体を支配していく。
「いい反応だな。さすが、勅使河原さんに仕込まれた身体だ」
ライムは、そう言って、スライムの動きを激しくする。
「や、やめ……んんっ……ひぐっ……!いやぁ……」
凜の抵抗は、完全に、消え去っていた。
「頼んだよ、風間凜。奈理子を救うのは、快楽に溺れる気ちがわかる君だけだ」
ライムは、悶える凛を残して去って行った。
九頭は研究室のモニターを眺めていた。
「凡庸の深淵に触れる瞬間だ。野宮奈理子。非凡庸であることを信じるその強さが、快楽の前でいかに脆いか」
彼の隣では絹枝が黙々とデータを記録している。
「九頭先生、報告です。ブナシメジ男、観測フェーズ2を完了しました。対象の防御閾値は、想定より42%低下」
「……順調だな」
九頭は静かに頷く。
「彼の“凡庸”哲学は、僕の計画の、優れたプロトタイプとなり得る。だが、まだ足りない。彼は凡庸を“観測”する。だが、僕は凡庸を“利用”する」
彼はそこで立ち上がる。
「絹枝君。ここは、任せた」
「はい」
九頭はそう言って管制室を後にする。
穢川研究所、社長室。
巨大な一枚窓の向こうには、水都の街並みが静かに広がっていた。
勅使河原は、その窓の前で、背後の二人の男と、一人の女性に背を向けていた。
「……報告を聞こう」
その声は落ち着いていたが、その落ち着きは却って重い圧力となって部屋の空気を押しつぶしていた。
「社長。ブナシメジ男の“観測”は、順調に進捗しております」
九頭が手にしたタブレット端末を操作する。社長室の巨大なスクリーンに、ミラクルナイトがブナシメジ男に犯されている様子が映し出される。
「対象、野宮奈理子。彼女の持つミラクルな力は、毒を浄化する作用がある。しかし、ブナシメジ男の胞子……媚薬に対しては、有効に機能しませんでした。なぜか?」
九頭はそう言って、勅使河原の方を振り返る。
「それは、彼女が、“凡庸”な存在だからです。彼女は、媚薬という“毒”を、毒として認識せず、快感として受け入れた。凡庸なるものは理性のタガが外れやすい。彼女の“非凡庸”であるという信念は、この前で、いかに脆いか。ブナシメジ男の“凡庸”哲学は、この事実を見事に証明しました」
「……ふむ」
勅使河原はうなる。
「ブナシメジ男の言う“凡庸”という思想は、面白い」
「凡庸なるものは、凡庸なりに美しい。だが、それは弱さです。その弱さを利用すれば、世界は、もっと、簡単に、制御できる。この街に蔓延るミラクルな力も、この思想をもってすれば……」
「……それは、ブナシメジ男の……いや、九頭先生の個人的な趣味でいい」
勅使河原は、九頭の言葉を遮る。
「だが」
彼はそこで振り返る。その目は、氷のように冷たかった。
「君の“凡庸”哲学を実証するには、まだ、材料が足りない」
「……どういう意味で?」
九頭は、訊く。
「野宮奈理子。彼女は、“凡庸”かもしれない。だが、彼女は、“凡庸”であることに、悦んでいるわけではない。彼女は、今も、“非凡庸”であろうともがいている。彼女の内側には、まだ、“光”が、残っている。君の哲学は、その“光”を完全に消し去れない」
「……」
九頭は、黙る。
「だからだ。ブナシメジ男のやり方は、もう、古い。彼は凡庸を“観測”する。だが、私が必要なのは、凡庸を“利用”し、 “支配”する者だ」
勅使河原はそう言って、九頭の隣に立つ、男に視線を向ける。
「渦巻。次は君に、任せよう」
「……」
渦巻は静かに頷く。彼の口元に、薄い笑みが浮かぶ。
「九頭先生。先生の研究は、私が必要としている。だが、先生は奈理子の”光”を消そうとはしていない。むしろ、奈理子を輝かせようとしているように見える。ここは、攻め方を変えてみたい」
「……承知いたしました」
九頭は静かに頷いた。
「一ノ木」
勅使河原はそばに立つ女性に声をかける。
「はい」
一ノ木多実は頷く。
「君の判断で次の“材料”を選んでいい。ただし、凡庸なるものと非凡庸なるもの、その境界線が最も曖昧な者を」
「……承知いたしました」
多実は静かに頷く。その瞳は、何も映していなかった。
「凡庸なるものは、凡庸なりに、美しい。だが、それは制御できる、という意味だ」
勅使河原は、そう独りごちるように言った。
「凡庸なるものは、凡庸なりに、生きている」
九頭は、そう独りごちるように言った。
「凡庸なるものは、凡庸なりに利用される」
渦巻は、そう独りごとるように言った。
社長室の静寂が、四人の、それぞれの、思惑を、際立たせていた。
望楼の床に、凜は倒れていた。
白衣の胸元は大きく開かれ、その下の肌には、スライムの愛液がきらきらと光っている。
九頭の研究室。
「先生、どうでした?」
戻ってきた九頭に絹枝が声をかける。
「次は渦巻さんに任せるようだよ」
九頭は席に着くや、モニターにブナシメジ男に弄ばれるミラクルナイトを映し出した。
「私の作戦に不備でも?」
篠宮が顔を上げる。
「君はよくやっているよ。ひとまず、奈理子は渦巻さんに任せて、我々は凡庸の塊のような彼に何ができるか、楽しませてもうとしよう」
九頭はチラリと篠宮を見たが、すぐにモニターへ視線を移した。
「いや〜奈理子は可愛かった。“イク奈理子”は何回見ても癒されるね」
「先生……何言ってるんですか?!でも……そんな奈理子の姿が市民の心を掴んでいるのも事実ですが……」
絹枝がため息をつく。
「“もぅ……だめぇ……”がいいねぇ。その後の“奈理子、イクぅぅぅ……”って顔が最高に可愛い。自分の名前を口にしてしまうところがいい」
「先生、気持ち悪いから真似しないでください……」
絹枝は研究者として九頭を尊敬しているが、九頭の”奈理子愛”には困り果てている。
「ミラクルナイトのこれまでの戦いを全て確認しました。奈理子に最も効果があるのは快楽責め。奈理子に最適な媚薬を調合し、胞子として飛ばしました」
篠宮が説明する。
「その媚薬の効果は、いつまで持続する?」
「奈理子が快楽を受け入れる限り。凡庸たる奈理子は快楽から逃げることはできません」
「さすが、篠宮君だ!その媚薬、私にもくれないか?」
九頭が目を輝かせる。
「もちろんです」
手を取り合う九頭と篠宮。
「二人とも、いい加減にしてください!」
絹枝は呆れてしまう。
笑顔で参拝者に対応する凜。
しかし、腰の辺りに、まだスライムの感触が、残っているような気がする。あの男の言葉が、頭の中で、反響している。
「凡庸なるものは、凡庸なりに、美しい」
(……嘘よ)
凜は、そう思った。
(私は、非凡庸だ。セイクリッドウインドとして、この街を、守ってきた。それが、私の、誇りだ)
彼女は、そう思う。だが、その思考の裏で、先ほどの快感が、甘い毒のように、静かに、広がっていく。
(……私は、あんなの嫌いだ……)
そう思う。だが、その思考の裏でライムの言葉が静かに響く。
「凡庸なる抵抗。それが、君の本質だよ、風間凜」
(……違う……!)
彼女は、心の中で叫ぼうとする。だが、その声は弱しかった。
穢川研究所。渦巻の部屋では渦巻と多実が向かい合っていた。
「どうなさるおつもりですか?」
多実が冷たく問う。軽薄すぎる渦巻という男を、多実は好きになれなかった。
「篠宮は奈理子を狙ったが、私は風間凜を狙いたい」
渦巻は、静かに言った。
「私怨ですね……分かりました、次の”材料”は風間凜」
社内では、勅使河原の愛人であった風間凜を追い出したのは渦巻だと噂されている。そして、渦巻がカタツムリ男として出撃した際には、セイクリッドウインドに痛い目にあわされたこともあった。
「凡庸なるものは、凡庸なりに、美しい。非凡庸なるものは、非凡庸なりに、美しい。だが、その境界線は、どこにあるのだろう?」
渦巻は、そう言って、窓の外を、見つめる。
社内で”社長の腰巾着”と陰口を叩かれている渦巻の言葉に、多実は驚いた顔で渦巻を見た。
「凜と奈理子は、互いに、影響し合っている。奈理子が堕ちれば、凜も堕ちる。凜が堕ちれば、奈理子も堕ちる。その、連鎖を、見たい」
「……」
多実は、黙って、聞いていた。
「九頭のやつ、凡庸を利用しようとするが、凡庸は単純じゃない。凡庸は、非凡庸と隣り合わせだ。凡庸は、非凡庸を夢見る。非凡庸は、凡庸を恐れる。その揺らぎがこの世界を動かしている」
「……」
多実は、黙って、聞いていた。
「君の任務は、その揺らぎを記録することだ」
渦巻は、多実の隣に立ち、彼女の肩に、手を置く。
「……やめてください」
多実は、彼の手を、払いのける。
「凡庸なる抵抗だな、一ノ木君」
渦巻は楽しそうに笑う。
「凡庸だなんて、失礼な……」
「凡庸であることに、羞恥を覚えること。それもまた、凡庸の証拠だよ」
渦巻は、多実の顎を、持ち上げる。
「……!」
多実は彼の目を見つめる。その目は深淵のように黒かった。
「君も、面白い材料になれそうだ」
彼は、そう言って、多実の唇にキスをした。
「……!」
多実は彼を突き放すが、その胸は激しく鼓動していた。
「凡庸なる唇。それが君の本質だよ、一ノ木君」
彼は、部屋を後にする。
「……凡庸か……」
多実は自分の唇を撫でる。そこには、彼の唇の感触がまだ残っていた。
「凡庸なんて……」
彼女は、そう独りごちるように言った。
水都神社の控室。休憩時間の凛は、寧々と向かい合っていた。
「へぇ〜、ライム先輩が凜さんにそんなこと言ったんですか?」
寧々は驚いた顔で甘栗を摘む。
「私と奈理子と違って、寧々は凡庸じゃないみたいよ。ライム”先輩”に気に入られてよかったね」
凜は嫌味たっぷりに言った。凜の心の中では、ライムの言葉が反響している。
「凡庸なるものは、凡庸なりに、美しい。お前も奈理子と同じ、凡庸だ。杉原寧々とは違う」
「……私は、非凡庸?」
「そうよ。だからライムがチョッカイ出さないし、ブナシメジ男に目もつけられない。そういう意味では、アナタ、羨ましいかも」
「そ、そうかなあ。でも、私なんて、いつも奈理子さんと凜さんに人気で負けるし、戦いになっても奈理子さんの引立て役で、頑張りすぎると奈理子さんのファンから顰蹙を浴びるし……」
「アタシなんて、敵にスカートめくられて、パンツも見られちゃこともしょっちゅうなんだから。パンツを脱がされたこともあるし……」
凜の声が途切れる。ブナシメジ男の言葉が、蘇る。
(凡庸なるものは、凡庸なりに、闘う!)
「凡庸なるものには、凡庸なりの戦い方があるわ」
凜が口にする。
「凜さんは強いから、凡庸じゃありませんよ」
「私だって、奈理子に比べれば、凡庸よ。あの子のミラクルな力は、本物だもの」
凜は、温かいお茶が入った湯飲みを手にした。
(凡庸ゆえに、いとも簡単に快楽へと堕とされる)
ライムの言葉が、蘇る。
「快楽の前で……脆い……」
凜は呟く。
「凜さん?」
「な、なによ!」
寧々の視線に気づき、凜は慌てて言った。
「ねぇ、寧々。私のこと、変だと思わない?」
「どういうことですか?」
「うぅん……何でもないの……」
凜は自分の体を見つめる。
「……大丈夫ですよ、凜さん。私がいます。私が、凜さんも奈理子さんも必ず守ります」
寧々は微笑む。その姿は、まさに凛を守ろうとするドリームキャンディそのものだった。
穢川研究所・渦巻の部屋。
多実の去った後、部屋は再び静寂に包まれていた。渦巻は、窓の外の水都の街を見下ろしながらタブレット端末を操作していた。画面には水都公園の地図が表示されている。
「凡庸なるものは、凡庸なりに美しい。非凡庸なるものは、非凡庸なりに美しい。だが、その境界線はどこにあるのだろう?」
彼は、そう独りごちるように言った。
「奈理子と凜。互いに影響し合う二人。奈理子が堕ちれば、凜も堕ちる。その連鎖の始まりに立つ者は、奈理子だ」
彼の指先が端末の画面を軽く叩いた。
「ナメクジ男。出番だ。お前の本当の力を見せてやれ」
彼の声は、冷たく、計算高かった。
水都公園。冬の柔らかな日差しが芝生を黄金色に照らしている。遠くからは子どもたちの歓声が聞こえてくる。奈理子はベンチに座り、茫然と池の水面を見つめていた。彼女はここに来た。人混みを避け、一人で考える時間が必要だった。
(私の身体、やっぱり、おかしい……)
ライムに抱かれた時の感覚が、まだ体に残っている。凜の肩の温もりと、ライムの胸の温もり。どちらも救いだったはずなのに、今の彼女にはどちらもどこか虚しく感じられた。
(私の体が、あの男の……胞子に……侵されて……)
ブナシメジ男の言葉と、その時の快感が蘇る。
(凡庸なるものは、凡庸なりに美しい。凡庸なるものは、快楽へと堕ちる)
そんな考えが頭をもたげる。彼女は、自分で自分を裁けないでいた。
「……」
彼女はゆっくりと立ち上がる。もう、帰ろう。そう思った、その時だった。
地面がゆっくりと濡れていく。まるで巨大なナメクジが這いまわった後のような、粘着質のぬめり。
「何……?」
奈理子は足元を見る。そこから、ねっとりとした粘液の筋が伸びてきていた。そして、その筋の先端には、人間の胴体がくっついていた。
「ナメクジ……男?前に塩をかけて倒したはずじゃ……」
その男はゆっくりと姿を現す。粘液に覆われたぬるぬるした体。その姿はブナシメジ男と似ていたが、どこかより無機質で冷たかった。
「……あれは塩をかけられて縮んだだけだ。そして、俺は復活した。凡庸なるミラクルナイト、次はお前が潮を吹く番だ」
ナメクジ男は奈理子に近づいてくる。その声は感情のない金属音だった。
「潮を吹く??変な男は、嫌!」
奈理子はすぐに立ち向かう構えをとる。しかし、その時、体の奥から熱がこみ上げてくる。ブナシメジ男の媚薬の残滓が、再び彼女の神経を蝕んでいた。
(くっ……また……この感覚……)
息が乱れる。思考が曇る。しかし、敵の前で、体が勝手に動いてしまう。彼女は水都市民の希望の光、ミラクルナイトなのだ。
「ミラクル・チェンジ!」
彼女はそう叫んでアイマスクを掲げる。光に包まれる。だが、今日の光は昨日までの光とどこか違っていた。それは、弱々しく揺らめいていた。彼女の衣類が消え、水色の光の粒子を纏った白いコスチュームが身を覆う。
「おおっ!今日の奈理子のパンツはピンクだ!」
「冬休みだから白じゃないんだ!水女の”下着は白”の校則は本当だったんだ!!」
「奈理子、ピンクのパンツも可愛いよ~!」
公園にいた人たちが集まって来る。
「皆さん!危ないのでこっちに来ないでください!!」
ミラクルナイトの姿になった奈理子は、そう市民に告げ、ナメクジ男に立ち向かう。
「凡庸なるお前の力は、もう古い」
ナメクジ男は手から粘液の鞭を伸ばす。その鞭は音もなくミラクルナイトの体に絡みつく。
「きゃっ!」
その粘液は、電撃のような刺激を彼女の体中に走らせる。快感。それだけが、頭に浮かぶ。
「うっ……ひぐっ……!」
彼女は抵抗しようとするが、指先から力が抜けていく。ブナシメジ男に弄ばれた記憶が蘇る。あの時の快感が、今、蘇っている。
「凡庸なるものは快楽を受け入れる。それが、お前の本質だ」
ナメクジ男は鞭をさらに引き締める。
「んんっ……!や、やめ……!」
ミラクルナイトはよろめく。媚薬の効果が全身を支配している。理性はもうなかった。あるのは、ただ抗いようのない快感だけだ。
「さあ、お前の凡庸なところを見せてみろ」
ナメクジ男は、彼女の胸元を、粘液で、ゆっくりと、引き裂く。ピンクのショーツとセットになった可愛いピンクのブラが姿を現す。”奈理子のブラ~SexyGirl~”だ。
「奈理子ちゃんのシンデレラバストキター!」
「貧乳ブラ可愛い!」
「ちっぱいは正義!」
可憐なミラクルナイトの姿に市民の歓声が沸き起こる。
「なっ……うっ……やめて……やめてぇ……!」
彼女の抵抗は、もうなかった。彼女の体は、ただ、快感に反応していた。
「凡庸なる抵抗。それが君の本質だよ、奈理子」
ナメクジ男は、そう言って、彼女の最も敏感な部分を粘液で愛撫する。スカートが捲れ、”奈理子のショーツ~SexyGirl~”が露になる。
「ひゃんっ!あんッ……もぅ……だめぇ……な、奈理子、イクぅぅぅ……」
ミラクルナイトの体は、痙攣する。彼女の意識は、快楽の渦の中に、飲み込まれていく。
「なっ……うっ……やめて……やめてぇ……!」
凜は、フラッと、目を覚ます。夢だった。望楼でのライムとの、出来事。
「……風間さん、大丈夫?」
同僚の巫女が凜に声をかける。控室で、一瞬、睡魔に襲われたようだ。凜は窓の外を見る。そこからは、初詣の市民が長い行列を作っていた。彼らが拝殿に辿り着くには、まだ時間がかかりそうだ。
そのとき、”水都公園にナメクジ男出現”を知らせる町内放送が鳴り響いた。
「ナメクジ男?塩をかけられて消滅したんじゃ……」
不安がよぎる。しかし、年が明けたばかりの神社の1月は忙しい。凜が外れると他の巫女に負担がかかる。
仕事を抜けて水都公園に行くべきか、思案しているところで、スマホが鳴った。寧々からだった。
「凜さん、私が奈理子さんを助けに行きます!」
電話の向こうで、寧々の真剣な声がする。
「急いで、寧々!アタシも行く!」
凜はそう叫んで電話を、切る。彼女はもう迷っていなかった。
「奈理子……」
彼女はそう呟き、振り返る。同僚の巫女は頷いた。
「ゴメン」
凛は外に出た。
水都公園。
ドリームキャンディは駆けつけた。だが、そこにいたのは呆然とたたずむ市民だけだった。
「奈理子さん!」
彼女は叫ぶ。だが、返事はない。ただ、空気の中に甘ったるい匂いが残っているだけだった。ナメクジ男とミラクルナイトは、もう、ここにはいなかった。
「……どこに、行ったの……」
彼女は地面に膝をつく。そこには、ミラクルナイトのアイマスクが落ちていた。
「……!」
彼女はそれを拾い上げる。そのアイマスクは何かに濡れていた。それは彼女の涙だった。
「キャンディ、奈理子はナメクジ男に連れていかれたよ。キャンディが助けに来てくれると思ったのに……」
市民がスマホの画面をドリームキャンディに差し出した。動画が再生される。
「や、やめ……んんっ……ひぐっ……!いやぁ……」
ミラクルナイトが、ナメクジ男に、弄ばれている、映像だ。
「……」
ドリームキャンディは、黙って、見ていた。
「さあ、お前の凡庸なところを見せてみろ」
ナメクジ男が、ミラクルナイトの、胸元を、引き裂く。
「なっ……うっ……やめて……やめてぇ……!」
可憐なミラクルナイトの姿に、市民は歓声を上げる。
「凡庸なる抵抗。それが君の本質だよ、奈理子」
ナメクジ男が、彼女を、責める。
「ひゃんっ!あんッ……もぅ……だめぇ……な、奈理子、イクぅぅぅ……」
ミラクルナイトの体は、痙攣する。
「……」
ドリームキャンディは黙って見ていた。その瞳から、涙が一粒落ちる。
「お待たせ。奈理子は?」
セイクリッドウインドも水都公園にやって来たが、ドリームキャンディの表情から事態を察した。
穢川研究所・社長室。
勅使河原は、巨大なスクリーンに映し出される水都公園の様子を静かに見ていた。画面の隅には、ドリームキャンディが地面に膝をつき、肩を震わせている姿が映し出されている。
「……渦巻。手際がいいな」
その声は感情を殺ぎ落としていた。
「凡庸なるものは、凡庸なりに美しい。非凡庸なるものは、非凡庸なりに美しい。だが、その境界線は、彼女たちの涙の量で測れます」
社長室の片隅に立つ渦巻がそう答える。
「ああ、そうだ」
勅使河原は頷く。
「ドリームキャンディ……彼女は非凡庸を信じている。だからここの悲しみも、美しい」
彼は、スクリーンのドリームキャンディの、アップを映し出す。
「次はあの子を狙うのか?」
勅使河原が訊く。
「いえ」
渦巻は首を横に振る。
「彼女はまだ光が強すぎます。あの子の光を消すのは、風間凜です。捕らえた奈理子を利用し、風間凜を堕とします」
彼はスクリーンのもう一つの角に映し出されたセイクリッドウインドの姿を見つめる。
「凡庸なるものは、凡庸なりに生きている」
彼は、そう独りごちるように、言った。
「非凡庸なるものは、非凡庸なりに悲しむ」
彼は、そう独りごちるように、言った。
「だが、その悲しみも、いつかは凡庸に染まる」
彼は、そう独りごちるように、言った。
「凡庸なるものは、凡庸なりに支配される」
彼は、そう独りごちるように言った。
社長室の、静寂が、二人の、それぞれの、思惑を、際立たせていた。
「凜、お前はまだ凡庸のままなのか……」
勅使河原は小さく呟いた。
夜になると、水都の街はミラクルナイトがナメクジ男に連れ去られたニュースで大騒ぎになった。各局が速報を流し、SNSは「#ミラクルナイトを返せ」というハッシュタグで、埋め尽くされた。
「見てよこの動画!奈理子、イってる!」
「最高に可愛い顔じゃん!この泣き顔、エロくない?」
「タコクリスマスローズの時と同じだな。ミラクルナイトは、やっぱり、弱いよな」
「ドリームキャンディは助けなかったのか?キャンディなら、ナメクジ男なんか余裕で倒せるだろうに」
ネット上では早くもミラクルナイトに関する書き込みが増えていた。ドリームキャンディが、セイクリッドウインドが、必死に彼女を守ろうとした事実は、誰も気にかけない。
「……」
凜はスマホの画面を見つめていた。そこには、アイマスクを剝がされた奈理子の泣き顔が映し出されている。その瞳は、もう、彼女のものではなかった。
(凡庸なるものは、凡庸なりに美しい。凡庸なるものは、快楽へと堕ちる)
ライムの言葉が反響する。
「私だって、奈理子に比べれば凡庸よ。奈理子のミラクルな力は本物だもの」
自分の言葉が蘇る。
「……」
彼女はスマホを投げ捨てる。画面が割れる。だが、奈理子の泣き顔は、まだ彼女の目の裏に焼き付いていた。
一月、初詣の季節。
水都神社の参道は人で埋め尽くされていた。人々は良い一年を願いながら鳥居をくぐる。空気は冷たく澄んでいて人々の息が白く見える。
「今年こそは、彼女と両思いに……」
「受験に合格しますように……」
「家族の健康を祈ります……」
願いの声が参道を満たす。
「……」
巫女服姿の凛は、境内の片隅で祈る人々を見ていた。彼女の顔は氷のように無表情だった。心の中では、奈理子のことが離れなかった。
(ナメクジ男はどこに奈理子を……)
彼女は何度もそう問いかける。だが、答えはない。
そのとき、参道の入り口で騒ぎが起きた。
「何だ、あれは?」
人々が指差す。そこには、巨大な巻貝の殻を背負った化け物が立っていた。その体は粘液でぬめり、二本の触手がゆっくりと揺れていた。
「あれは……キセルガイ男……!確か、渦巻の手下……」
騒ぎの中、駆けつけた凜の目が見開く。新しい、敵だ。
「……何をしに?」
彼女は、すぐに戦う準備を整える。しかし、その男は攻撃してこない。ただ、ゆっくりと参道を凜に向かって歩いくるだけだ。
「凜ちゃん、変身だ!」
「奈理子の仇を討ってくれ!」
参拝者たちが凜を応援する。しかし、その声も彼女には届かない。
「凡庸なるものは、凡庸なりに生きている。非凡庸なるものは、非凡庸なりに、闘う。だが、その境界線は、どこにあるのだろう?」
彼女はそう独りごちるように言った。
「……凡庸は、凡庸でいいのか……?」
その瞬間、キセルガイ男が立ち止まる。そして、ゆっくりと片手を上げる。その手には、何かが挟まれていた。
「……!」
凜の瞳が揺らぐ。
それは、小さく可愛らしい、淡いピンク色のショーツだった。
「……奈理子の……」
彼女の呼吸が止まる。奈理子が拉致されたときに穿いていたはずのものだ。
「……これは、なに……」
彼女は震える声で訊く。
「……ナメコ姫、お迎えに参りました」
キセルガイ男は慇懃にそう答える。
「……ナメコ姫?」
「渦巻様がお呼びです。奈理子は、既に我々のもの。お前も、そちらへ来ればいい」
「……奈理子はどこに……!」
彼女は叫ぶ。
「……それは、お前が来れば教えよう」
彼はそう言って奈理子のショーツをゆっくりと持つ。そして、その指先で、ショーツのゴムを少し伸ばす。
「……!」
その時、参拝者たちから悲鳴が上がる。
「なっ……何してるの!」
「奈理子ちゃんの、パンツだよ!」
「奈理子、パンツを脱がされたんだ?!」
「やめて!」
ミラクルナイトがショーツを脱がされる瞬間。その情景を思い描く人々の目が開く。それは、彼らが今まで信じてきた正義の象徴の崩壊だった。
「……やめ……で……」
凜の声が震える。
「……来るなら来い。さもないと、このショーツの主、野宮奈理子は、永遠に我々の慰みものになる」
彼は、そう言って指を離す。ショーツのゴムが、ぴん、と音を立てる。
「……!」
その音が、彼女の神経を抉る。
「……分かった。ついて行く」
彼女は静かに頷く。
「……よい」
キセルガイ男は満足げにそう言う。
「変身だけはさせてもらうわ!」
凜は叫ぶ。光に包まれて、セイクリッドウインドになる。
「セイクリッドウインド、頑張れ!」
「凜ちゃんが行けば大丈夫だ!」
「奈理子を助けてくれ!」
人々は歓声を上げる。
「……」
セイクリッドウインドは、静かにキセルガイ男の後をついていく。その背中は、誰よりも重そうに見えた。
「凡庸なるものは、凡庸なりに、生きている。非凡庸なるものは、非凡庸なりに、選ぶ。だが、その選択は自由なの……?」
彼女は、そう独りごちるように言った。
穢川研究所・社長室。
勅使河原は、巨大なスクリーンに映し出されるセイクリッドウインドの姿を静かに見ていた。
「……渦巻。あれで、いいのか?」
その声は感情を殺ぎ落としていた。
「凜の心には、もう、穴が開いています。奈理子の下着という‘凡庸’な物で簡単に、彼女の意思を折ることができるとは」
渦巻はそう答える。
「ああ、そうだ」
勅使河原は頷く。
「非凡庸なるものは、非凡庸なりに悲しむ。だが、その悲しみも、いつかは凡庸に染まる」
彼は、スクリーンのセイクリッドウインドを見つめる。
「凡庸なるものは、凡庸なりに支配される」
彼は、そう独りごちるように言った。
「さて、私は凜のお迎えに行ってまいります」
渦巻は、ニヤリとして席を立った。
セイクリッドウインドは、踏み出しかけた足を止めた。
これは救出ではなく、選択の局面だと理解したからだ。凡庸なるものは凡庸なりに生き、非凡庸なるものは非凡庸なりに選ぶ。だが、その境界線は自らの意思で引けるのだろうか。
奈理子のショーツ――それは象徴であり、彼女を守るべきもの。しかし、それを武器にされた今、彼女は窮地に立たされていた。
(凡庸なる抵抗。それが君の本質だよ、風間凜)
ライムの言葉が脳裏に蘇る。彼女はそうならないと決意する。非凡庸としての矜持を保つため、彼女は最後の抵抗を試みた。
「……アンタ、渦巻の手下だったよね?」
キセルガイ男に問いかける。それは、彼女の非凡庸な意志の表明だった。
「……」
キセルガイ男は答えなかった。だが、その眼差しが、彼女の非凡庸さを試すように彼女を見つめていた。
水都市内の廃工場の一角。
それは、“飼育”と、名づけられた、区画だった。
そこにはナメクジ男が立っていた。彼の足元には、アイマスクとコスチューム、下着を剥ぎ取られたミラクルナイトが倒れていた。彼女の意識はまだ戻っていなかった。その肌にはナメクジ男の粘液と奈理子の愛液がきらきらと光っていた。
「……凡庸なるものは、凡庸なりに美しい。だが、それは弱さだ」
ナメクジ男は、そう独りごちるように言った。
「……」
彼女の唇が微かに動く。
「……私は、水都の守護神、ミラクルナイト……」
それは、彼女の精一杯の抵抗だった。
渦巻が部屋から去った後、多実は一人で部屋に残っていた。彼女の唇には、渦巻の唇の感触がまだ残っていた。
「凡庸か……」
彼女は、そう独りごちるように言った。
「凡庸なんて……」
彼女は、そう独りごちるように言った。
「……」
彼女は自分の唇を撫でる。そこには、彼の唇の感触がまだ残っていた。
「……凡庸なんて、嫌い」
彼女は、そう独りごちるように言った。
しかし、その裏側では、何かが静かに芽生えていた。それは、彼女自身にも気づけないような感情だった。
ミラクルナイトは目を覚ました。分娩台のような椅子に股を大きく開いて拘束されている。椅子絡みつく拘束は強すぎず、だが逃げ出そうとする意思だけを確実に奪っている。
周りには誰もいない、とミラクルナイトが思ったときだ。
「焦らなくていいわ」
女性の声だ。姿も見えない。ただ、確かに聞こえる。
「貴女はもう、十分に戦ってきた。今は――選ぶだけでいい」
ミラクルナイトは歯を食いしばった。
「みんな、貴女の友達を迎えに行っているわ」
ミラクルナイトの前に現れたのは、イチジク女。
「友達って……?」
ミラクルナイトが、大切な箇所を晒し出している格好であることを恥じらいながら問う。
「ナメコ姫……貴女には、風間凜と言った方が分かりやすいかしら」
「えっ……凜さんが……?」
ミラクルナイトの声が震える。
「そうよ。貴女の凡庸なる友達が。貴女のショーツを人質にされてね」
イチジク女は冷たく笑う。その笑い声はコンクリートの壁に反響し、ミラクルナイトの耳に突き刺さる。
「……嘘よ……」
ミラクルナイトは、信じられないという顔をする。
「……」
イチジク女は何も言わない。ただ、静かに彼女を見つめている。その沈黙が、何よりも雄弁に真実を語っていた。
「……」
ミラクルナイトは、黙る。下着までも奪われた今の姿では、どうすることもできない。。
「ここに、いれば、凜さんが助けに来てくれる……?」
彼女は、そう問いかける。その声は、か細く、脆かった。
「助けを待つだけ?貴女、水都の守護神、ミラクルナイトなんでしょう」
イチジク女の言葉は、鋭い棘だった。
「水都の守護神、ミラクルナイト」
彼女は、そう繰り返す。その声は、嘲笑に満ちていた。
「凡庸なるミラクルナイトは、ここで凡庸なりに待つだけ。非凡庸なる風間凜が、貴女を助けに来る。その姿を眺めるだけ。それが貴女の役割」
「……違う……」
ミラクルナイトはそう言った。だが、その声は彼女自身にも聞こえないほど小さかった。
「違う……私は、凜さんと一緒に……キャンディと一緒に……戦ってきた……」
彼女はそう思う。だが、その思考の裏で、先ほどの快感が甘い毒のように、静かに広がっていく。ブナシメジ男の媚薬が、まだ彼女の体の中に残っている。
「凡庸なるものは、凡庸なりに美しい。凡庸なるものは、快楽へと堕ちる。ミラクルナイトの能力を以てすれば、これくらいの拘束から抜け出すのは簡単でしょ。それをしないのは、貴女が、さらなる快楽を求めているから。違う?」
イチジク女は、そう言ってさらけ出された奈理子の膣口を指先で撫でる。その指先は、冷たく、滑らかだった。
「あんッ……ち……違う……」
彼女は、否定する。だが、その瞳は、もう、潤んでいた。
「さあ、選んで。非凡庸のミラクルナイトが、ここで凡庸に堕ちるのか。それとも、非凡庸のミラクルナイトが、非凡庸であり続けるのか。どちらにするか。凡庸なりに選んで」
イチジク女は、そう言って奈理子の膣口から指を離す。ミラクルナイトは、イチジク女を見る。イチジク女は、挿入してほしいと訴えるような奈理子を嘲笑っているかのように見えた。
イチジク女は背を向けミラクルナイトから離れる。
「あ、貴女のショーツはキセルガイ男が持っていったけれど、ブラはそこら辺に落ちているわ」
イチジク女は振り返りそう告げると、ミラクルナイトの前から姿を消した。
セイクリッドウインドは、踏み出しかけた足を止めた。
「……やっぱり、やめた」
彼女は、そう言ってキセルガイ男を見つめる。その瞳には、非凡庸なる意志の光が、宿っていた。
「……何をする気だ?」
キセルガイ男はそう訊く。その声は、相変わらず感情のない金属音だった。
「セイクリッドウインドがやるべきことを、やるまで」
彼女はそう答えると風をまとった。その姿は、まるで神々しい翼のようだった。
「凡庸なるものは、凡庸なりに、従う。非凡庸なるものは、非凡庸なりに、抗う。私は、非凡庸だから!」
彼女はキセルガイ男に、突進する。
「……」
キセルガイ男はその動きを追えない。セイクリッドウインドの動きは速すぎた。
「遅い!」
彼女の手が伸びる。その先にあったのは、奈理子のピンク色のショーツだった。彼女は素早くそれを奪い取る。
「……!」
キセルガイ男の目が見開く。彼は彼女がそこまで速いとは、思っていなかった。
「これが、あたしの非凡庸さよ!」
彼女は、そう叫んでショーツを懐にしまう。
「女の子のパンツを人質に取るなんて、そんな卑怯な真似をあたしは許さない!」
彼女は、巨大な扇を取り出す。彼女の武器、ガストファングだった。
「……」
キセルガイ男は殻を細長く伸ばす。その先端は鋭い棘のようになっていた。
「奈理子が我々の手の内にあること忘れたか?風間凜、お前もここで終わりだ」
彼は、そう言って、殻を、振り下ろす。
「くッ!」
セイクリッドウインドは、その攻撃を、ガストファングで、受け止める。
「!」
衝撃が、彼女の、腕を、伝わる。
「奈理子も非凡庸よ、私以上にね。奈理子は、アンタたちの手には落ちない!」
キセルガイ男は、さらに殻を伸ばす。その体は、まるで生きた鞭のようだった。
「凡庸な攻撃よ!」
彼女は、ガストファングを開く。風が、渦巻く。
「神風・颶風の舞!」
その一撃は、キセルガイ男の体を吹き飛ばす。
「ぐわっ!」
彼は壁に激突する。
「くっ……殻がなければ危なかった……」
だが、彼はすぐに立ち上がる。その体の細長い殻は、衝撃から彼のを守っていた。
「……しぶといな」
セイクリッドウインドは、そう独りごちるように言った。
「次はこっちの番だ」
キセルガイ男は再び殻を伸ばす。今度は彼女の周りを取り囲むように動いた。
「そんなもの……」
セイクリッドウインドは、その動きを追う。
「!」
その時、彼女は、気づく。キセルガイ男の、動きは、ただ速いだけではない、ということに。それは、まるで、壁の、隙間を、縫うように、動いていた。
「……」
彼女は息を殺す。キセルガイ男の次の動きを予測する。
「……そこだ!」
彼女は、ガストファングを、振る。風が刃となり、殻を避けキセルガイ男の柔らかい体を切り裂く。
「ぐッ!」
キセルガイ男は悲鳴を上げる。彼の体から青い体液が噴き出す。
「私は風の戦士セイクリッドウインド……」
セイクリッドウインドは、息を、整える。
「凡庸なものは、あたしが、吹き飛ばす!」
彼女は、そう叫んで、再び、突進する。
穢川研究所・社長室。
勅使河原は、巨大なスクリーンに映し出されるセイクリッドウインドの姿を静かに見ていた。
「……凜……」
その声は、感情を、殺ぎ落としていた。
「風間凛も非凡庸ですね」
背後から声をかけられた勅使河原が振り向く。白衣姿の九頭だった。
「篠宮君とは違って、私は初めから奈理子を凡庸だとは思っていまんでしたよ。社長が風間凛を凡庸だと思っていないようにね」
九頭は、勅使河原を見ずにモニターを見つめる。その表情は楽しそうだった。
「凡庸であるから、私は凜を捨てたのだ」
勅使河原は、そう口にするとモニターに視線を戻した。
「昔はそうだったかもしれない。でも、奈理子と出会ってからの風間凛は、ナメコ姫だったころの風間凛とは違います。奈理子には人を変える力がある」
「奈理子にそんな力があると?」
勅使河原は、信じられないといった表情で九頭に視線を移す。
「社長も、渦巻さんも、奈理子を甘く見すぎている。奈理子は、我々が思っている以上にミラクルな女の子です」
イチジク女が去り、ミラクルナイトは一人残された。分娩台のような椅子に開脚拘束されたまま。コンクリートの冷たい空気が、彼女の無防備な肌を直接撫でる。先ほどのナメクジ男の犯され記憶とイチジク女の言葉が脳裏で交錯する。
「非凡庸のミラクルナイトが、ここで凡庸に堕ちるのか……」
彼女はその言葉を反芻する。指先で弄ばれた膣口に、いまだ痺れるような感覚が残っている。
「……違う」
か細い声が静寂に響く。
「あたしは、凡庸なんかじゃない。水都の守護神、ミラクルナイト……」
その言葉が何かを引っ掛ける。
「そうよ、あたしはミラクルナイト。あたしには、ミラクルな力がある!」
彼女の瞳に、光が、宿る。
「ミラクルパワー!!」
ミラクルナイトの身体が水色の光を放つ。その光は、彼女の身体を縛る拘束具を弾き飛ばした。
「やった!わたし、やればできるじゃん!!」
ようやく自由の身になった彼女だが、身に着けているものは、ミディアムボブの黒髪を可愛く飾る白いリボン、手足のグローブとブーツのみ……あとは何もない。裸同然だ。彼女の身体には、ナメクジ男の粘液と、彼女自身の愛液が、まだキラキラと光っていた。
「まず、何か着ないと……」
あたりを見回す。
イチジク女が言った通り、床には彼女のブラが落ちていた。だが、それは見るも無残な姿だった。ナメクジ男の粘液で、びしょ濡れにされ、破かれ、彼女の肌がこすりつけられた跡がクッキリと残っている。
「……きゃっ」
思わず声をあげる。
「でも、これしかない……」
渋々それを拾う。その感触に、彼女は、戦慄する。
「うわぁ……ナメクジのヌルヌルで気持ち悪い……」
そう呟いてそれを身に着ける。汚れたブラが彼女の小さな胸に食い込む。
「……」
我慢する。
(パンツ、パンツがないと……)
あたりを探す。
「やっぱり……ない」
あきらめる。
「……」
床に落ちていた油で黒く汚れたウエスを見つけた。
「……こんなのしかないのか……」
それを腰に巻く。その感触は粗く冷たかった。
「……」
我慢する。
「よし、行くわよ!」
そう宣言して廃工場の扉を開ける。
冷たい風が肌を撫でる。
「パンツを取り戻して、わたしのミラクルを見せる!」
そう叫んで、夕方の街に飛び出していく。
「……まだ、まだ!」
キセルガイ男は殻を伸ばし壁の隙間から攻撃する。その動きはまるで影のようだった。
「……見える!」
セイクリッドウインドはその動きを見抜いていた。
「風は、どこにでもある!」
彼女は、ガストファングを開く。風が渦巻き、セイクリッドウインドのスカートを舞い上げる。そして、キセルガイ男の攻撃を受け止める。
「ぐッ!」
キセルガイ男は衝撃によろめく。
「終わりよ!」
彼女は風の刃で彼の体を切り裂こうとしたときだった。
「!」
その時、彼女の背後に、影が落ちる。
「お疲れ様でした。終わるのはあなたです、風間凜」
「う、渦巻……!」
彼女が振り向くと、そこにはスーツを着た男が立っていた。その背後には、巨大なナメクジ。
「ナメクジ男……」
「そう。わたくしの忠実な下僕」
渦巻は慇懃にそう言う。
「そして、あなたの友達を辱めた男。ミラクルナイトがあれほどイキ狂ったのは、この男のおかげですよ」
「……なっ……」
セイクリッドウインドの瞳が揺らぐ。
「奈理子が……イキ狂った……?」
その言葉が彼女の戦意を削いだ。
「ああ、そうですよ。あの子の泣き顔、可愛かったですよ。さすが”水都の絶対アイドル”といった感じですたねぇ」
渦巻はニヤリと笑う。
「凡庸なるものは、凡庸なりに美しい。あの子の悲しみも、美しいものですからね」
「……やめなさい……」
彼女は、そう呟く。
「次にイき狂うのはあなたです、風間凜!」
渦巻の言葉が終わる瞬間、ナメクジ男が彼女に襲いかかる。
「!」
ガストファングで受け止めるが、その体重に押し倒される。
「くッ!」
ナメクジ男の粘液が彼女の体を舐める。
「……奈理子……」
彼女の意識が遠のく。
「凡庸で派手好きの凜が、白いパンツとは……」
渦巻がセイクリッドウインドのスカートの中を覗き込み、下品な笑みを浮かべる。
「見るなァッ!」
その時、光が差す。
「凜さんから離れなさいッ!」
キャンディチェーンが、セイクリッドウインドを押さえつけるナメクジ男を打つ。
「キャンディ!」
「凜さん、大丈夫ですか?警報が鳴ったから水都神社に行ったんですが、凜さんも敵もいなかったから、探しましたよ」
現れたドリームキャンディが、ゆろめくセイクリッドウインドを支える。
「チッ、ドリームキャンディか。ナメクジ男、キセルガイ男、やれ!」
渦巻がそう言うと、ナメクジ男が彼女に襲いかかる。
「うッ!」
ドリームキャンディは、それを、キャンディチェーンで弾き飛ばす。
「高校生の奈理子さんと巫女の凜さんを虐める者は、中学生戦士ドリームキャンディが許しません!」
ドリームキャンディは、キセルガイ男に、突進する。
「ドリームキャンディは任せました。凜は、わたしが楽しませていただきます」
渦巻はそう言って、スーツを脱ぎ捨てる。
「カタツムリ男に変身……!」
ドリームキャンディが驚く。
渦巻の体は巨大なカタツムリの姿になった。その殻は巨大な螺旋で、体から粘液が垂れ流されている。
「望むところよ。渦巻、今日こそ決着をつけてやる!」
セイクリッドウインドはガストファングを構える。
「二対三か。不利だけど……」
ドリームキャンディはキャンディチェーンを構える。
「わたしたちは負けない!」
二人は肩を並べる。
「戦うわよ!」
「はい!」
戦いが再開する。
街中を走るミラクルナイト。胸の汚れたブラと腰に巻かれたウエスは、彼女の尊厳を削っていた。
「パンツを取り戻さないと……」
そう叫ぶ彼女の耳に、戦いの音が届く。
「……?」
彼女はその音のする方へ向かう。
すると、そこにはドリームキャンディとセイクリッドウインドが三体の怪人と戦っていた。
「キャンディ!凜さん!」
ミラクルナイトが叫ぶ。
「!」
彼女たちが振り返る。
「奈理子……!」
「奈理子さん!」
「みんな……」
ミラクルナイトの目に、涙が浮かぶ。
「……ごめんなさい。私がもっと強かったら……」
「奈理子、大丈夫!」
「奈理子さん、今、戻ってきてくれて嬉しいですよ!」
二人が微笑む。
「……うん!」
ミラクルナイトは頷く。
「今日こそ、みんなで敵を倒す!」
ミラクルナイトの身体から水色の光が放たれる。
「水都の平和を乱す者は、ミラクルナイトが許しません……!」
三人が立ち向かう。
「三対三ならこっちのものです!」
ドリームキャンディがキャンディチェーンを振る。
「くッ!」
キセルガイ男の殻は、それを弾き飛ばす。
「私の番よ!」
セイクリッドウインドがガストファングを開く。
「神風・颶風の舞!」
風が渦巻く。
「ぐわっ!」
ナメクジ男が吹き飛ばされる。
しかし、風は、ミラクルナイトが腰に巻くウエスまでも遠くに飛ばしてしまった。
「あ、あぁ〜〜ッ!いやぁ~!」
「ああ、見てみろ。ミラクルナイトのみっともない姿を」
カタツムリ男が放つ嘲笑が、空気を震わせる。その言葉は、ミラクルナイトの心をえぐるような鋭さだった。
「……ううッ」
彼女は咄嗟に股を隠そうと屈むが、その動きは空しく、むしろ敵の視線を集めるだけだった。
「ナメクジ男の玩具にされ、汚れたブラ。それに、下半身丸出しのマヌケな姿」
カタツムリ男の声は響く。
「それが水都の守護神、ミラクルナイト……凡庸に堕ちた姿か」
「……やめて……」
ミラクルナイトは震える声で言う。しかし、その声は、敵を喜ばせるだけだった。
「はい、奈理子のパンツ!」
セイクリッドウインドが、奈理子のショーツを差し出す。
「凜さん……」
ミラクルナイトが恥ずかしそうに、汚れたピンクのショーツに手を伸ばす。
「奈理子さん、アイマスクもありますよ!」
ドリームキャンディが、ミラクルナイトのアイマスクを差し出す。それも、汚れていた。
「……うん」
ミラクルナイトはそれを受け取る。アイマスクを装着し、いそいそとパンツを穿く。
「うわ〜〜〜ッ!見てみろ!水都の守護神が脱がされたパンツを穿く姿よ!」
「お前たちは、奈理子の尊厳を……」
セイクリッドウインドが怒りに打ち震える。
「水都の市民を守るためなら、わたしの裸くらい見せてあげるわ!」
ミラクルナイトが、そう叫ぶ。その瞳には、もう、涙はなかった。そこには、非凡庸なる意志の光が、宿っていた。
「奈理子!」
「奈理子さん!」
二人が彼女の叫びに驚く。
「凡庸を恥じない。それが、あたし、ミラクルナイト!」
ミラクルナイトが胸を張る。そして、
「ミラクルナイト、完全復活!」
キリッとポーズを決める。
「奈理子さん……下着を身に着けただけなのに……」
ドリームキャンディがつぶやく。裸から下着姿になっただけで、ミラクルナイトのコスチュームは復活していないだ。
「奈理子がその気になってるからいいんじゃないの」
セイクリッドウインドはドリームキャンディの肩に手を乗せ頷く。
その瞳の奥に秘められた非凡庸なる輝き。それだけで、ミラクルナイトを取り巻く空気は変質した。ただの下着姿の少女ではなく、再び水都の守護神としての威厳を取り戻したのか。彼女の意志が、現実に干渉し始めていた。
「何を言っている。お前は今、丸裸に等しい」
カタツムリ男は嘲笑う。だが、その声には、先ほどまでの揺るぎない自信がほんの僅かに欠けていた。
「違うわ。女の子の下着は、女の子にとって最強の鎧、裸とは全然違う!」
ミラクルナイトは一歩踏み出す。
「奈理子さん、下着姿であることを無理して納得しようとしてないですか?」
「奈理子は自分の下着姿に自信があるのよ……」
後ろでドリームキャンディとセイクリッドウインドがヒソヒソと話をする。しかし、敵は待ってはくれない。
「そんな布切れが最強の鎧だと?お前たち、再び奈理子の下着を剥ぎ取ってやれ」
カタツムリ男の言葉に呼応して、ナメクジ男とキセルガイ男がミラクルナイトに迫る。
「そうはさせない!」
「うわっ!」
ドリームキャンディがキャンディチェーンでキセルガイ男を止める。
「喰らえ!」
ナメクジ男がミラクルナイトに向かって粘液を放つ。
「フェアリーシールド!」
ミラクルナイトが掌から水色に輝く防御壁を展開し防ぐ。
「わたしの相手はアンタね」
セイクリッドウインドはカタツムリ男を睨見つける。
「行きます!」
ドリームキャンディは勢いよくキャンディチェーンを振り下ろす。鋭い鞭が空気を切り裂く音が響く。
「……当たらない」
キセルガイ男は微動だにしない。キャンディチェーンは彼の細長い殻に当たるかと思われたが、その直前で軌道を逸らされてしまう。殻はまるで意思を持つかのように、チェーンを撫で、弾き、無力化する。
「なんで……!」
ドリームキャンディは信じられないといった顔で自分の武器を見つめる。
「通れない場所はない。私の殻は絶対の防御」
キセルガイ男は静かにそう宣言し、殻を伸ばしてドリームキャンディの足元を狙う。彼女はぎりぎりでそれを避けるが、背後に回り込まれる。
「くッ!」
「君のその楽しげな鎖も、私の殻の前ではただの飴」
キセルガイ男は殻をドリームキャンディに絡みつかせる。強粘着の粘液が彼女の体にまとわりつき、動きを奪っていく。
「うわッ、粘っこい!やめてよ!」
「捕まえた」
彼は殻をさらに収縮させ、ドリームキャンディを引き寄せる。
ミラクルナイトの前に立ちはだかるナメクジ男。彼の巨大な体からは常に粘液が垂れ流され、床にドロドロとした跡を残している。
「また会ったな、ミラクルナイト。あの時の快感、覚えているか?」
ナメクジ男はどすこい声で言う。
「……あなたは、私の覚醒のきっかけをくれた人。ありがとうって言おうかと思ったんだけど」
ミラクルナイトはそう言ってフェアリーシールドを張りながら、一歩踏み込む。
「覚醒だと?くだらない。お前はただの女だ。快楽に溺れ、イき狂うだけの凡庸な女」
ナメクジ男は粘液を飛ばす。それはミラクルナイトが即座に作り直したフェアリーシールドで防がれる。
「えいっ!」
彼女は防御と同時に掌から水色の光弾を放つが、ナメクジ男の柔らかい体に吸収されてしまう。
「私の体はどんな衝撃も吸収する。お前の攻撃は何の意味も持たない」
ナメクジ男はゆっくりと近づいてくる。その姿は圧倒的だった。
「くっ!」
ミラクルナイトは後ずさるが、その足はナメクジ男の粘液を踏み、思うように動けない。
「捕まえた。へへっ……たっぷり可愛がってやるぜ」
ナメクジ男がミラクルナイトに覆いかぶさり、彼女の首筋を舐める。
「ヒャッ!や、やめなさいッ!」
彼女は体を激しくもがくが、ナメクジ男の重みと粘液に、彼女の力はかき消されていく。
セイクリッドウインドが立ちはだかるカタツムリ男。その巨大な殻は山のようで、絶対的な不動の象徴だった。
「さあ、どうする?凜。凡庸ゆえに我々に捨てられたお前が、私を倒せるか?」
カタツムリ男は挑発する。
「黙れ!」
セイクリッドウインドはガストファングを振りかざす。
「この風で、アンタの汚い粘液を吹き飛ばしてやる!!」
強風がカタツムリ男を襲う。と思われた瞬間、カタツムリ男は殻にすっぽりと隠れてしまう。風は殻を滑るようにすり抜け、何のダメージも与えられない。
「終わりだ!」
風が収まった隙に、セイクリッドウインドはガストファングで殻を強打する。
”カンッ!”
鋭い金属音が響くが、殻は微動だにしない。
「……そんなもので砕けるとでも思ったのか?」
殻の隙間からカタツムリ男の声が聞こえる。
「くそっ!」
セイクリッドウインドはさらに打ちつけるが、結果は同じだった。
「凜、お前は凡庸そのもののバカだ」
殻の中からカタツムリの声。
「うるさい!」
セイクリッドウインドは怒りに任せて殻を叩き続けるが、
”カンッ!カンッ!”
と虚しい男が響くのみ。
「凜はバカだが、我が主が見込んだ身体だけは極上だ」
カタツムリ男のねっとりとした声。
「黙れ!昔の話はするな!」
セイクリッドウインドの手が止まる。
「我が主に仕込まれたその身体、俺も楽しみたいとずっと思っていた……」
「!」
セイクリッドウインドは身の危険を感じ、カタツムリ男から離れようとするが、それよりカラカラ伸びたカタツムリ男の触覚がセイクリッドウインドの足首を掴んだ。
「うわ!」
セイクリッドウインドが尻もちを突き倒れる。触覚は、彼女の足首を掴み引き寄せる。
「わわっ!やめッ!」
慌てスカートを押さえるセイクリッドウインド。市民からは清楚な美人巫女と思われている彼女の白いショーツが丸見えだった。
「この殻の中に引きずり込んで、お前の身体をたっぷり楽しませて貰うぞ」
素早く殻の中から出てきたカタツムリ男が、セイクリッドウインドを抱きしめる。
「凜さんが危ないッ!あぁ……奈理子さんも……」
ドリームキャンディが二人のピンチに気付き振り向いた。
「よそ見をするな!」
キセルガイ男はその隙を見逃さない。鋭く尖った殻がドリームキャンディを襲う。
「……!」
ドリームキャンディはキセルガイ男の攻撃をかろうじて避ける。殻の先端が彼女の頬を掠める。
「くっ……」
冷たい汗が流れる。
「君も、凡庸な女だ。逃げるしかできない」
「私は逃げない!」
ドリームキャンディは立ち直り、キャンディチェーンを構える。
「そんな飴の鞭で何ができる?」
「これを見なさい!」
ドリームキャンディはキャンディチェーンの持ち手部分を強く握りしめる。チェーンが輝き、彼女の意志に応じて変形する。
「中学生戦士の夢と希望を乗せた、私の最強の武器!ロリポップハンマー!!」
キャンディチェーンは巨大なチュパチャップスの形をしたロリポップハンマーへと姿を変えた。
「何を……!」
キセルガイ男が驚く。
「このロリポップハンマーで、あなたの固い殻も砕いてみせる!」
ドリームキャンディは重たいハンマーを軽々と振り回し、キセルガイ男に襲いかかる。
「くっ!」
キセルガイ男は殻を伸ばして彼女を迎え撃つ。
「砕ける!」
ドリームキャンディはハンマーを振り下ろす。
「カーンッ!」
殻とハンマーが激突し、火花が散る。
「……!」
キセルガイ男の表情が変わる。彼の殻に、ヒビが入った。
「な、なんだと……!」
「隙あり!ロリポップ凄い突き〜ッ!!」
ドリームキャンディはハンマーを突き出す。その先端がキセルガイ男の殻に命中する。
「ぐわあっ!」
殻が粉砕される。
「殻を……失うと……」
キセルガイ男の体が縮んでいく。
「終わりよ!」
ドリームキャンディはロリポップハンマーをかざす。そこから虹色の光が放たれる。
「キャンディ・スターバースト!」
光がキセルガイ男を包む。
「う、うおおおおおお……!」
キセルガイ男の悲鳴が消える。彼の体は光と共に消滅した。
「やった……」
ドリームキャンディが息を切らす。
その時、彼女の耳に、ミラクルナイトの悲鳴が届いた。
「やめてッ!やめてよおおおッ!あひっ!うぐっ!ひゃああッ!」
「奈理子さん……」
ドリームキャンディが振り向く。
すると、そこにはナメクジ男に押し倒されたミラクルナイトがいた。彼女の身体中はナメクジ男の粘液で汚れ、彼女の瞳は、快楽と苦痛に泳いでいた。
「きゃあ!いやっ!どうして、いつも私ばかりこんな目に……あん、もうダメッ!」
ミラクルナイトは、必死に抵抗する。しかし、ナメクジ男の重みと粘液に、彼女の抵抗は虚しく、彼女の悲鳴は、敵を喜ばせるだけだった。
「いやぁ~!吸わないでぇ〜!」
「貧乳は乳首が敏感だってホントだな」
ナメクジ男は、奈理子のブラをずらして彼女の小さい胸に吸い付いた。
「いやぁ!やめてぇ〜!」
ミラクルナイトは陥落寸前だった。
「奈理子さん、負けちゃダメですッ!」
ドリームキャンディの声が、ミラクルナイトの意識を、呼び覚ます。
「……うッ」
快楽に蕩けきっていた彼女の瞳に、再び、光が宿る。
「……あたしは、凡庸なんかじゃない」
か細い声が静寂に響く。
「あたしは、水都の守護神、ミラクルナイト……!」
「まだ言うか!」
ナメクジ男が彼女の胸をさらに強く掴む。
「うぐッ!」
しかし、もう、遅かった。
「ミラクルパワー!!」
ミラクルナイトの身体が水色の光を放つ。その光は、彼女の身体にまとわりつくナメクジ男を弾き飛ばした。
「ぐわっ!」
ナメクジ男は壁に激突する。
「やった……」
ミラクルナイトは、その勢いで飛び上がる。背にミラクルウイングを広げ、上空へと舞い上がった。
「どこに逃げる!」
ナメクジ男は、罵る。
「うぅ…ヌルヌルで気持ち悪い……」
ミラクルナイトは、乱されたブラを整えながら上空から彼を見下ろす。
(……動きが鈍い)
彼女は、気づく。地を這うようなナメクジ男の動きは、地上では脅威だが、上空から見ると、極めて鈍い。
(はじめから空から攻めればよかった……)
彼女は、そう後悔する。
しかし、今は、それを言っている場合ではない。
彼女は、水色に輝き始める。優雅に舞うように、両手で水色の光を集め、天に掲げる。
「リボン・ストライク!」
ミラクルナイト最大の必殺技だった。
彼女が天に掲げた水色の光は、ナメクジ男に向かって放たれる。
光は、水色のリボンとなり、ナメクジ男を包み込む。
「くっ……この光は何だ……!」
ナメクジ男は、もがく。
「奈理子の乳首をもっと舐め尽くしたかった……!」
彼は、そう言って、光の中に消えていく。
「……」
静寂が戻る。
「……やった……」
ミラクルナイトは、やっとそう呟く。
「奈理子さん、すごいです!」
ドリームキャンディが、地面から叫ぶ。
しかし、彼女の声は、喜びに満ちてはいなかった。その声には、不安が、含まれていた。
「……!」
ミラクルナイトが、気づく。
セイクリッドウインドが、いなかった。
「凜さん……!」
ミラクルナイトは、地面に降り立つ。
すると、そこには、カタツムリ男が、彼女を待っていた。
「ようこそ、ミラクルナイト。君の友達、風間凛は、カタツムリの殻の中で、楽しんでおりますよ」
カタツムリ男は、ねっとりとした声で、そう言う。
「……!」
ミラクルナイトの瞳が、揺らぐ。
「……凜さんを、返しなさいッ!」
ミラクルナイトの声が夕暮れの街に響く。
カタツムリ男は、それを嘲笑うように、巨大な殻に完全に閉じこもった。
「どうする?ミラクルナイト。君のその凡庸で可憐な光など、この殻には通じん」
彼の声は、殻を通して歪んで聞こえる。
「……出てきなさい!」
ミラクルナイトは水色の光弾を放つ。しかし、殻の中にセイクリッドウインドいるため、本気では放てない。力のない光弾はナメクジ男の巨大な殻に弾かれててしまう。
「無駄なことだ。だが、見せてやろう。君が気にしている光景を」
カタツムリ男は、殻の一部を、投影スクリーンのようにする。そこには、セイクリッドウインドの姿が映し出されていた。
「……!」
ミラクルナイトの瞳が、揺らぐ。
セイクリッドウインドは殻の中で手足を拘束されていた。彼女のスカートはめくり上げられ、白いショーツが丸見え。カタツムリ男の触角が、彼女の身体を、あらゆる箇所を、執拗に撫でていた。
「ひゃッ!や、やめなさい……!あんッ!」
セイクリッドウインドの声は、快楽で、蕩けきっていた。
「殻の中では、凜はすっかりイキ狂っておりますよ。その美しい顔、君も見たいだろう?」
カタツムリ男の言葉が、ミラクルナイトの心に、杭を打ち込む。
「……やめて……」
ミラクルナイトは震える声で言う。
「その顔、見たくないか?凜が何度もイキ果てる様を」
カタツムリ男は、さらに、彼女を、挑発する。
「やめなさいッ!」
ミラクルナイトは怒りを顕にするが、
「奈理子さん、下がってください」
ロリポップハンマーを手にするドリームキャンディがミラクルナイトを背に前に出た。
「非凡庸たる中学生戦士か。しかし、わたしの殻の中には凜がいる。わたしを攻撃すると、凜が傷つくことになりますよ」
タツムリ男はドリームキャンディを脅した。
「そんなの知りません!」
ドリームキャンディは叫ぶ。そして、ロリポップハンマーを構える。その瞳は燃えていた。
「中学生の怒りを、舐めないでください!」
ビビるカタツムリ男を無視して、彼女は突進する。
「ロリポップ三段突きッ!」
超高速の三段突きが、カタツムリ男の殻に炸裂する。
「ガガンッ!」
その衝撃で殻が開く。
「うぐッ!」
セイクリッドウインドがそこから吐き出される。
「凜さん!」
ミラクルナイトは、慌てて彼女を支える。
セイクリッドウインドのスカートはめくり上げられ、白いショーツが見えていた。彼女の顔は快楽で蕩けきっていた。ヘロヘロとミラクルナイトにもたれかかる。
「……や、やめなさい……渦巻なんかにイカされたくない……」
「違います、わたしです!」
「な……奈理子……?」
セイクリッドウインドの瞳がゆっくりと焦点を結ぶ。
「……」
彼女は、自分の姿に気づき、顔を赤らめる。しかし、彼女の目からは、涙が流れていなかった。
「……渦巻……」
セイクリッドウインドは、そう呟く。
その声には、強い怒りが、込められていた。
彼女は、ミラクルナイトから、離れる。
そして、ガストファングを構える。
「私の身体を弄んで、満足したか?」
「な、なんだと……!」
カタツムリ男の体が、震える。
「凡庸ゆえに我々に捨てられたお前が、男好きする身体だけが取り柄のお前が、先ほどまでマヌケなアヘ顔を晒していたお前が、まだ戦えるのか?」
カタツムリ男は、最後の抵抗を、試みる。しかし、自慢の殻はロリポップ三段突きでヒビが入っていた。
「黙れッ!」
セイクリッドウインドは、彼に、襲いかかる。
「これで、アンタも終わり!」
セイクリッドウインドの声が、裂ける。
「凡庸などではない!あたしはセイクリッドウインド!風の聖域に仕える巫女、そして、水都の平和を守る戦士!」
彼女の身体から聖なる風が渦巻く。その風は、彼女の乱れた髪をなびかせ、その瞳を輝かせる。
「そんなことを言ったって、お前は……!」
カタツムリ男はヒビの入った殻を必死に閉じようとする。
「遅いッ!」
セイクリッドウインドはガストファングをかざす。その刃は神聖な光に包まれていた。
「神風・天罰の槍ッ!」
光の槍が、カタツムリ男を貫く。
「ぐわああああああッ!」
カタツムリ男の悲鳴が、街に、響き渡る。その巨大な体は、光に、溶けていく。
「……終わった……」
ドリームキャンディがそう呟く。
「……ええ」
ミラクルナイトも頷く。
セイクリッドウインドは、ガストファングを地面に突き立てる。彼女の体は疲労で震えていた。
「……ごめんなさい、奈理子、寧々。恥ずかしい姿を見せちゃって……」
「ううん、凜さんは、すごかった!」
「……これで、カタツムリ男は終わりですね。敵幹部の一人を倒しましたよ!」
ミラクルナイトとドリームキャンディが声を上げる。
「そうね……渦巻を……倒した」
セイクリッドウインドが小さく呟いた。
「凜さんが殻の中にいるのに、キャンディが三段突きをしたときは焦ったよ」
ミラクルナイトがドリームキャンディを詰る。
「ごめんなさい、奈理子さん。でも、私にはそれしか……!」
「まあ、結果として、凜さんは救出されたんだから、いいけどね」
ミラクルナイトは、微笑む。
「ありがとう、奈理子。寧々も……ありがとう」
セイクリッドウインドは、そう言って、二人を、見つめる。
「私たちの絆は、もう、誰にも壊せない」
彼女の声は静かだったが、強く響いていた。
「……ええ」
ミラクルナイトも頷く。
「私たちの絆は、絶対です!」
ドリームキャンディは、胸を張る。
三人は、笑顔で、見つめ合った。
穢川研究所の社長室。
巨大な一枚張りの窓の向こうには、工場地帯が見渡せる。しかし、その光景に目をくれず、社長の勅使河原が見つめているのは、壁に埋め込まれた巨大なモニターだった。
画面に映し出されるのは、水都の薄暗い街角。そして、聖なる光に包まれ消えていくカタツムリ男の姿。
「……渦巻は……」
勅使河原は静かに呟く。その顔には、何の感情も浮かんでいなかった。隣に立つ研究部門の責任者である九頭も、無言でモニターを見つめている。
「……側近として、尽くしてくれた。死に目も見てやれぬとは」
勅使河原は、モニターの電源を切る。
「お疲れ様でした、社長」
九頭が、静かに、頭を下げる。
「……」
勅使河原は何も言わず、窓の外に視線をやった。
九頭は静かに部屋を出る。重厚な扉が閉まる音だけが、静寂に響いた。
研究室に戻った九頭。白一色の無機質な空間に、コンピュータの冷却ファンの音だけが響いている。彼の前にいるのは、白衣を着た助手の絹枝と、篠宮だった。
「渦巻の件、報告しておく」
九頭は、いつもと変わらない声で言う。
「……了解です」
絹枝は小さく頷き、データ端末の操作に戻る。
篠宮は何も言わず、九頭の目を見つめていた。
「……大したことはできないと思っていたが、消されるとは思わなかったな」
「次は、私が……」
篠宮はニヤリと笑う。
「そうだな。やはり、君だ」
九頭は、デスク上のミラクルナイトフィギュアを手に取る。
「今回の戦闘で、興味深いデータが得られた。ミラクルナイトの覚醒だ」
九頭は、フィギュアを、眺める。
「凡庸を恥じない。彼女が言った言葉だ。それが、彼女の力の正体かもしれない」
九頭は、フィギュアを、デスクに置く。
「非凡庸なる意志……か」
「非凡庸……?」
篠宮が、尋ねる。
「そうだ。凡庸でありながら非凡であろうとする、その矛盾した意志こそが、彼女の力の源泉かもしれん」
九頭は、コンピュータの画面を、篠宮に見せる。そこには、ミラクルナイトの戦闘データと、彼女の精神状態を分析したグラフが表示されていた。
「屈辱。羞恥。絶望。しかし、そのどれもが、彼女の力に変わっている。凡庸であることを受け入れることで、非凡庸なる力を得る……面白いじゃないか」
九頭は、小さく笑う。
「つまり……」
篠宮が、尋ねる。
「もっと強烈な屈辱を与える。彼女たちがそこで本当の強さを手に入れるか、それとも、心が折れて凡庸に堕ちるか。それが、我々の実験であり、戦略だ」
九頭は、篠宮の目を、見つめる。
「凡庸に堕ちる、とは……?」
「精神崩壊だ。自我の喪失。ただの生ける屍になる。それは、我々にとって最も退屈な結果だが」
九頭は、窓の外に視線をやる。
「しかし、非凡庸なる意志が、真に覚醒するならば……それは、見応えがあるだろう」
「……面白そうですね」
篠宮は、ニヤリと笑う。
「君、次の作戦の準備を頼む。より強烈な、より深い、彼女たちの精神の核心に触れるような屈辱を」
「お任せください」
篠宮は、嬉々として頷いた。
九頭は、再びミラクルナイトフィギュアを手に取る。
「先生、大好きな奈理子が自我を喪失してもよいのですか?」
篠宮が研究室を出たことを確認した絹枝が九頭に問う。
「私は奈理子を信じているよ。奈理子は仲間の助けがある限り、自我の喪失などしない。私はただ、可愛い奈理子が羞恥に耐える姿を楽しみたいだけさ」
九頭はそう言うと、フィギュアのスカートの中をそっと覗いた。
三人がいる街角。
「これで、しばらくは、落ち着くかしら」
セイクリッドウインドが、そう言う。
「ええ!でも、また敵が出てきても、私たちなら大丈夫!」
ドリームキャンディが、胸を張る。
「……うん。寧々ちゃんには助けられてばかりだけどね……」
ミラクルナイトは、静かに頷く。
彼女の胸には、まだ、快楽と屈辱の名残が、微かに、残っていた。しかし、それはもう、彼女を、苦しめはしない。それは、彼女が戦った証であり、非凡庸なる意志の源だった。
「あッ!私、お勤めの途中だった!」
変身を解除して巫女服姿に戻った凜が気付いた。
「大谷さんなら許してくれるんじゃない?」
奈理子が言う。
「大谷さんは厳しいから、帰ったらたっぷり絞られますよ」
寧々が悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「私、先に帰るから!」
奈理子と寧々は、駆け出す凜を手を振りながら見送った。
(第233話へ続く)
(あとがき)











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