DUGA

ミラクルナイト☆第152話

水都女学院高校一年二組の教室。今日もその中心にいるのは、野宮奈理子だった。教室中が、彼女の話題で持ちきりだ。先日、奈理子は十三匹もの魔物を撃退したばかり。生徒たちは、ミラクルナイトとしての奈理子の活躍を称賛し、興奮した様子で彼女を取り囲んでいた。

「奈理子さん、あの時の活躍、すごかったよね!」

「本当にミラクルナイトがいなかったらどうなってたんだろう…」

クラスメイトたちが口々に言い、奈理子は微笑んで応じている。写真集も発売され、重版が即座に決定。周囲から見れば、奈理子の人生は順風満帆に見えた。

だが、奈理子の内心は落ち着かない。魔物を倒したあの日、謎の敵に襲われたことが頭を離れないのだ。襲撃はあまりにも瞬時の出来事だった。敵の姿をはっきりとは見ていないが、奈理子は確信していた――魔物ではなかった。そして、何か奇妙な既視感があった。あの飛翔能力…。間違いない、過去に戦ったトンボ男と同じ動きだ。かつての空中戦で、奈理子はトンボ男に苦戦を強いられ、辛うじて勝利を収めたが、その自信はもろくも揺らいでいた。そして、今回の敵には鎌のような腕があったのだ。

「トンボとカマキリ…トンボカマキリ…」

奈理子は小さく呟いた。

隣にいたすみれがそれに気付き、

「何?どうかした?」

と尋ねる。しかし、奈理子はその言葉を飲み込む。魔物を倒したあと、正体不明の敵に襲われたことはまだ公にはされていない。ミラクルナイトが謎の怪人に瞬殺されたとあっては、街の人々が動揺するのは目に見えている。

「ううん、なんでもないよ」

と奈理子は笑顔で誤魔化した。

「奈理子さんがいれば、水都の街は安心だね!」

「本当、奈理子さんがいてくれてよかった!」

クラスメイトたちは口々に奈理子を頼もしく持ち上げる。

だがそのとき、クラスメイトたちを押しのけるように、険しい顔をした菜々美とその取り巻きが、奈理子の席の前に現れた。クラスが瞬時に静まり返る。


「菜々美さん、ごきげんよう」

と、にこやかに挨拶する奈理子。その笑顔に、一瞬、菜々美は言葉を詰まらせた。しかし、すぐに取り戻し、険しい表情で腕を組む。

「奈理子さん、あの写真集はどういうこと?」

と冷たく言い放つ菜々美。

「あ…あれはパンツじゃなくて、白い水着だよ」

奈理子は写真集に掲載されたパンチラショットのことを思い出し、慌てて弁解する。販促用のポスターや等身大パネルにもその写真が使われていたが、ブレザー風の制服衣装のスカートの下に見えるのは実際のパンツではなく水着だ。

「パンツなんてどうでもいいわ!」

菜々美は苛立たしげに声を張り上げ、写真集を取り出してページを広げる。

「私が言いたいのはこれよ!」

「わぁ〜、菜々美さん、私の写真集を買ってくれたんだ!ありがとう!」

と奈理子は純粋に喜ぶ。

「しかも、初回限定版だなんて…予約までして勝ったのね」

と写真集の帯を見て、すみれは呆れた様子で言った。

「そんなことはどうでもいいの!」

菜々美は再び写真集のページを指し、

「大切なのはここ!」

と奈理子の水着姿の胸元を指摘した。

「うぅ…」

奈理子は思わず息を飲んだ。一瞬で教室が静まり返る。誰もが菜々美の言いたいことを理解した。

「奈理子さん、どんなに頑張っても、そんな谷間は作れないでしょ?どういうこと?」

菜々美は勝ち誇ったように言い放つ。

「それは…」

奈理子は言葉に詰まった。撮影時、胸を少しでも大きく見せようとブラにパッドを入れて工夫したが、それでもスタッフが納得する形にはならず、最終的にその部分の写真は加工された。しかし、それは奈理子が決めたことではなかった。

偽乳なんて、ファンに対する裏切り行為じゃない?」

菜々美はさらに追い詰める。

教室の空気が一層重くなる中、すみれが菜々美を制するように口を開いた。

「菜々美さん、言い過ぎよ。カメラマンが巨乳好きだっただけでしょ」

「写真集はありのままの奈理子で出すべきよ」

菜々美も一歩も譲らない。

「確かに菜々美さんの言うことも一理あるけど、奈理子さんの本当の胸の大きさが一番似合ってるよ」

「そうそう、小さくて可愛らしい胸が奈理子さんの魅力だよね」

教室のあちこちから、奈理子の胸を巡る話題が飛び交い始める。

奈理子はそんなやりとりを聞きながら、心の中で静かに呟いた。

「私の胸の話は、もうやめてよ…」


奈理子の胸についての話題は、グフグフハンバガーの一角でも広がっていた。

「奈理子の胸、盛りすぎ〜!実際はAAに近いAだよね」

と凜が奈理子の写真集を広げて笑いながら言う。

「奈理子さんの胸、私よりも小さいのに…」

と、寧々が小さく呟く。水都の絶対的ヒロインである美少女奈理子に対して、寧々が唯一外見で勝っていると感じるのは、胸のサイズだった。奈理子の弟、隆に好意を寄せる寧々にとって、そのことはささやかな自信の源でもあった。

「隆君は奈理子の胸が小さいことはちゃんと知ってるよ。だって、奈理子の弟だもん」

と凜が寧々を慰めるように言う。

「でも、写真集を出せるなんて、奈理子さんは本当にすごいです…」

と寧々がため息をつくと、凜はにやりと笑って、

「寧々だって、正体を明かせば写真集くらい出せるよ。私だってオファーがあったくらいだし」

と言った。

「えぇッ!凜さんに写真集のオファーがあったんですか?!」

寧々は驚きの声を上げた。

「元地下アイドルだし、凜さんなら絶対売れますよ!どうして写真集を出さなかったんですか?」

「今の私は神に仕える身だよ。写真集なんて出せないでしょ」

と凜は肩をすくめる。水都神社の巫女である凜にとって、グラビア写真集はありえない話だった。

その言葉を聞いて、寧々は心の中で考え込んだ。もし自分が写真集を出したら、隆は喜んでくれるだろうか?けれど、ドリームキャンディの正体を公にする勇気はまだなかった。


まだ6月だというのに、真夏のような強い日差しが水都公園に降り注いでいる。放課後、水都女学院からの帰り道、奈理子は穏やかな木陰を歩いていた。小川で遊んでいた幼い子供たちが、爽やかな水色のセーラー服を身に纏う奈理子に気付くと、

「奈理子ちゃんだ〜!」

「奈理子ちゃん、可愛い〜」

と大はしゃぎ。子供たちにとって、奈理子は憧れのお姉さんだ。

「こんにちは!」

と奈理子が挨拶すると、子供たちは嬉しそうに

「こんにちは〜!」

と返してくる。その元気な声に、学校で菜々美に胸のことで散々に言われた奈理子の心も少し和む。放課後の平和なひとときだ。

だが、水都の守護神ミラクルナイトとしての使命を持つ奈理子には、今日も災難が待ち受けていた。

「奈理子ちゃん、今日も可愛いねぇ」

「水女(水都女学院)のセーラー服の奈理子、まるで天使のようだ」

ニヤニヤと笑いながら現れたのは、五人のウズムシ男たち。一瞬で和やかな公園が恐怖の空気に包まれた。

「逃げてください!」

と奈理子は、公園で遊んでいた子供たちの保護者に叫ぶ。

その時、

「お子供たちを人質にして奈理子を誘き出そうと思っていたけど、自分から来てくれて手間が省けたわ」

とテントウムシ女が現れた。

「ここは私の通学路よ。人質なんか取らなくても、学校がある日は必ずここを通るわ!」

と奈理子は冷静にテントウムシ女を見据える。敵は彼女と五人のウズムシ男だけのようだ。

「奈理子ちゃん、頑張って〜!」

子供たちからの声援が飛ぶ。

「奈理子、変身だ!」

と、大人たちからも応援が巻き起こる。公園全体が奈理子に注目している。しかし、ウズムシ男たちは、制服姿の奈理子に執着しているらしい。大人しく変身させて貰えるか…。変身すべきか迷う奈理子。

「何を迷っているの?早く変身しなさい」

とテントウムシ女が急かすが、ウズムシ男たちは

「姉さん、もっと女子高生の奈理子で楽しみましょうよ」

と不平を漏らす。

「ミラクルナイトになっても奈理子が高校生であることに変りは無いでしょ!」

とテントウムシ女が呆れて言うが、

「姉さんは分かってないな。女子高生は制服を脱ぐと価値が下がるんですよ」

「水女の制服のまま奈理子を穢してやるのが楽しみなんです」

と次々にウズムシ男たちが主張する。

「黙りなさい!素の奈理子を倒しても自慢にならないでしょ!」

テントウムシ女がウズムシ男たちを怒鳴りつけると、怒りの矛先は奈理子にも向いた。

「奈理子もボーッとしてないで、さっさと変身しなさい!」

「じゃあ、お言葉に甘えて…」

と奈理子はアイマスクを取り出す。

「変身だー!」

「待ってました!」

市民たちの期待が高まり、遠巻きに集まってきた人々が声を上げる。

「変身中に襲ってこないでよ!」

と奈理子が言いながらアイマスクを装着すると、彼女の身体は水色の光に包まれ、ミラクルナイトへと変身した。


変身が完了すると、水色の光が消え、軽い風がふわりと奈理子のスカートを舞い上げた健康的な太もも白いパンツが一瞬だけ露わになる。

「水都の平和を乱す者は、ミラクルナイトが許しません!」

と、ミラクルナイトは凜とした声で宣言する。

「奈理子ちゃん、かっこい~!」

「今日も白だ!」

「奈理子、今日も可愛いぞー!」

子供も大人も、清純可憐なミラクルナイトの姿に歓声をあげる。

ミラクルナイトの美しさに魅了されるのは、市民だけではない。

「水女の制服じゃなくなったのは残念だが、ミラクルナイトのコスチュームも可愛いな」

「ヒラヒラスカートから覗く奈理子の太もも、最高だ!」

「俺は奈理子の二の腕を舐め回したいぜ!」

「やっぱり、写真集よりも生の奈理子の方が可愛いな」

ウズムシ男たちもその姿に魅了されていた。

だが、ウズムシ男たちの下卑た視線に晒されても、ミラクルナイトは立ち向かわねばならない。

「ミラクルアクアティックラプチャー!」

と叫び、水のオーラが放たれると、三人のウズムシ男が瞬く間に包み込まれた。

「消えなさい!」

というミラクルナイトの言葉とともに、彼らは消滅していった。

しかし、残ったウズムシ男が背後からミラクルナイトに迫り、素早く抱きつき胸を掴んだ

「うぅ…離してッ!」

非力なミラクルナイトは、捕まってしまうと抵抗するのが難しい。

「掌にスッポリ収まるコンパクトサイズだな」

ミラクルナイトの微かな膨らみを楽しむウズムシ男。

さらに、もう一人のウズムシ男が正面から現れ、身動きの取れないミラクルナイトに向かって、

「よくも仲間を殺ったな」

と強烈な腹パンチを繰り出した。痛みに耐えられず、身体がくの字に曲がるミラクルナイト。すぐさま、二人のウズムシ男に両腕を掴まれ、押さえつけられてしまう。

「十三匹の魔物を撃退したって言うから、少しは強くなったのかと思えば、相変わらず弱いわね」

とテントウムシ女が嘲笑う。

「く、悔しい…」

両腕を捕まれ膝立ちの状態にされながらも、悔しさに顔を背けるミラクルナイト。

「無様な姿ね」

と満足気に笑うテントウムシ女。

「貴女の目的は何?なぜ私を襲うの?」

ミラクルナイトが問いかけると、テントウムシ女は笑みを浮かべ、

「それはね…」

と意味ありげに語り出した。


「これよ!」

テントウムシ女は奈理子の写真集を開き、そのページをミラクルナイトに突きつけた。そこには、奈理子の水着写真が大きく写っている。

「またその話…」

ミラクルナイトはうんざりとした表情で呟いた。

そのとき、緑と黄色の光が水都公園に舞い降りた。光の中から現れたのは風の戦士セイクリッドウインドと中学生戦士ドリームキャンディだった。二人は商店街のグフグクハンバーで奈理子の写真集を見ていたが、テントウムシ女の出現を聞きつけ、急行してきたのだ。

「凜ちゃんだ!」

「キャンディ!」

市民たちの歓声が響き渡る。二人のヒロインが現れたことで、ミラクルナイトのピンチを救おうとする気運が高まっていた。

「奈理子を離しなさい!」

「奈理子さん、すぐに助けます!」

と、セイクリッドウインドがガストファングを構え、ドリームキャンディもキャンディチェーンを握りしめた。

しかし、テントウムシ女は彼女たちを一喝する。

「お黙りなさい!」

と怒声を放ち、

「私はただ、奈理子にこの写真が何なのか説明してほしいだけよ!」

と二人に写真集を突きつけた。

「あ…」

「それは…」

セイクリッドウインドとドリームキャンディは、思わず言葉を飲み込む。実は、彼女たちもさっきまでその写真について話していたばかりだった。テントウムシ女の言いたいことが、嫌というほど分かるからこそ、戸惑ってしまったのだ。

「でも!」

セイクリッドウインドが反論する。

「今どき写真の修正なんて普通でしょ?奈理子本人に直接聞くなんて、やりすぎよ!」

ドリームキャンディも負けじと叫ぶ。

「そうよ!ファンが勝手に胸を盛られた奈理子さんの気落ちを想像して楽しめばいいのに!」

セイクリッドウインド、ドリームキャンディ、そしてテントウムシ女の間で言い争いが始まった。しかし、当の奈理子は静かにその光景を見つめていた。実は、写真が修正されて少しだけ胸が大きくなったことに、奈理子自身は内心少し嬉しかった。学校で菜々美に指摘されたときも、大して気にしていなかった。それなのに、今はセイクリッドウインド、ドリームキャンディ、テントウムシ女までが自分の胸について語り合っている。それを市民までもが面白がっているように感じ、奈理子は次第に苛立ちを覚えていった。

「もう、いい加減にしてよ…!」

突然、ミラクルナイトの身体が水色に輝き始めた。そして、

「ミラクルパワー!」

と叫び、水色の光で自分を捕らえていた二人のウズムシ男を弾き飛ばした。

「私の胸が小さいから、写真でちょっとだけ大きくしてもらった。それがそんなに悪いことなの?!」

奈理子は怒りに震えながらミラクルウイングを広げ、空に舞い上がった。その姿は、誰もが思わず息を呑むほど神々しく、圧倒的な力を感じさせた。


大空に舞い上がったミラクルナイト。

「奈理子が飛んだぞ!」

「奈理子ちゃんのパンツ、かわいい〜!」

「奈理子の逆さパンチラ最高!」

と歓声を上げる市民たち。下からスカートの中が丸見えなのだ。

ミラクルナイトは、そんな状況にも気を取られずに力強く叫んだ。

「写真集には、ファンだけじゃなく、私の夢も詰まってるのに!それなのに…!」

そして、

「えい!」

とテントウムシ女に向かって上空から水色の光弾を撃ち下ろした。

「うあ!」

テントウムシ女は身を屈めながら耐えるが、ミラクルナイトの光弾は次々と彼女に着弾する。とはいえ、テントウムシも甲虫の一種。彼女の硬い外骨格がその攻撃を防いでいた。

「おのれ…ウェーブスイング!」

テントウムシ女は電波エネルギーを衝撃波に変換し、ミラクルナイトに放った。ウェーブスイングが炸裂し、

「きゃッ!」

と悲鳴を上げながらミラクルナイトは空中で飛ばされる。

しかし、ミラクルナイトは巧みにミラクルウイングを羽ばたかせ、宙返りをしてその衝撃をやり過ごした。

「こんなの、遊園地のアトラクションみたいなものよ!」

と、空を舞うミラクルナイトに余裕が見える。テントウムシ女は苛立ちながら、

「ウェーブスイング!ウェーブスイング!」

と何度もポーズを決めて技を放つが、ミラクルナイトはそれを楽しむように、空中で踊るように舞っていた。

「おのれ、ミラクルナイト!私も空を飛べるのだ!」

テントウムシ女はついに自らも羽根を広げ、空中戦に挑むため飛び上がった。

「二人とも飛んじゃったね…」

地上からその様子を見上げたセイクリッドウインドが呟く。

「そうですね…」

とドリームキャンディも同意する。飛べない二人にとっては、空で戦う彼女たちに手を出すことができなかった。

「姉さん、頑張れ!」

「奈理子のスカートを脱がせちゃえ!」

飛べないウズムシ男たちはテントウムシ女を応援しながら下から叫んでいる。

「じゃあ、私たちはこいつらを片付けようか」

とセイクリッドウインドがにやりと笑いながら言う。

「お任せください!」

ドリームキャンディが前に進み出た。

「おう、何だ、飴玉娘。やるのか?」

とウズムシ男が挑発する。

「子供だからって容赦しないぜ!」

ともう一人も続ける。しかし、ドリームキャンディは冷静に、

「キャンディシャワー!」

と虹色の光線を二人のウズムシ男に放った。

「うわー!」

彼らは光に包まれ、叫び声を上げながら消滅していった。

ドリームキャンディが微笑みながら一息つき、セイクリッドウインドとともに空を見上げた。


「レディバードアタック!」

テントウムシ女がミラクルナイトに向かって上昇しながら、強烈な体当たりを喰らわせた。

「あぁッ!」

ミラクルナイトは吹き飛ばされながらも、全身に走る痛みに耐える。空中で睨み合うミラクルナイトとテントウムシ女。

「見た目は可愛らしいけれど、ナナホシテントウは実は凶暴な肉食昆虫なのよ!」

とテントウムシ女が嘲笑う。

「テントウムシは可愛いかもしれないけど、貴女は全然可愛くないわ!」

ミラクルナイトが負けじと叫ぶ。

貧乳奈理子のくせに、調子に乗るんじゃないわよ!」

「胸の大きさは関係ないでしょ!」

ミラクルナイトが力強く反論する。

「ファンに逃げられるほど臭い女にしてやるわ。それっ!」

テントウムシ女が叫び、ミラクルナイトに向けて悪臭の攻撃を放った。

「フェアリーシールド!」

ミラクルナイトはすかさず両掌から水色の防御壁を展開し、悪臭を防ぐ。貧乳であることを笑われようとも、彼女の心は揺らがない。ミラクルナイトは不屈の意思を持って、敵に立ち向かう。

水都の街を守るため、争いが絶えないこの場所で、市民の幸せを守るために、彼女は今日も悪を討つのだ。

「奈理子ちゃん、がんばって~!」

地上から子供たちが声を枯らして応援している。

「奈理子、負けるなー!」

「生の奈理子も、写真集の奈理子も、どっちも大好きだー!」

と大人たちも負けじと声援を送る。

「奈理子、しっかり〜!自分の胸に自信を持って~!」

「奈理子さんの胸は、修正なんかしなくても素敵ですよ!」

空を飛べないセイクリッドウインドとドリームキャンディも、力強く応援の声を上げる。

市民の声援がミラクルナイトの力となり、その心に不滅の力が宿る。水都の人々の想いを背負ったとき、彼女は更なる力を発揮するのだ。

ミラクルナイトの周囲に水色に輝く水のオーラが漂い始めた。

「アクアティックラプチャーシャワー!」

ミラクルナイトは空中に水のオーラを撒き散らし、周囲に漂う悪臭を一瞬で消し去った。

「テントウムシ女、貴女との戦いも今日で終わりよ!」

と決意を固めたミラクルナイトは、ミラクルウイングを羽ばたかせ、テントウムシ女に向かって一直線に飛び込んだ。


水色に輝く両腕をX字に交差させ、ミラクルナイトは勢いよくテントウムシ女に向かって飛び込んだ。

「バカな…奈理子がこれほどの力を…!」

その圧倒的な気迫に、テントウムシ女は思わず怯んだ。ミラクルナイトはテントウムシ女に激突する直前、

「ミラクルクロスチョップ!」

と叫びながら、交差させた両腕を振り抜き、強烈な手刀をテントウムシ女の体に叩き込んだ。

「ぐはぁっ!」

と苦しげな声を漏らし、水色の光の中でテントウムシ女が身をよじる。しかし、

「このままでは終わらない…奈理子も道連れだ!」

と叫びながら、テントウムシ女は最後の力を振り絞ってミラクルナイトの両肩をがっちりと掴んだ。

「まだ力が残ってるの…離してッ!」

と焦るミラクルナイト。だが、テントウムシ女は決して離そうとはしなかった。

「奈理子、一緒にあの世へ行くぞ!ウェーブサイクロン!」

と叫び、体内に蓄えた電波エネルギーを振動波に変え、ミラクルナイトを内側から破壊しようとする。

「アッ!あぁぁッ!」

悲鳴を上げるミラクルナイト。振動波の衝撃でそのコスチュームは粉々に吹き飛び、奈理子の白いブラとショーツのみが露わになってしまった。しかし、テントウムシ女の手がミラクルナイトの肩から外れ、次第に消えていく。

「そんな…もう少しで奈理子を…!」

と愕然とした声を漏らしながら、テントウムシ女はそのまま消滅していった。ミラクルクロスチョップによって致命傷を受けた彼女には、ウェーブサイクロンを完全に発動する力は残されていなかったのだ。

墜落していく下着姿のミラクルナイトを、ドリームキャンディがすかさず受け止める。ミラクルナイトはブラウス、スカートだけなく、グローブとブーツまでもが消失していた。ミラクルナイトが身に付けているのは、髪を飾る白いリボンと、奈理子の白い下着のみ。ブラはカパと浮き上がり、奈理子の可愛らしい蕾が覗いている

「奈理子さん、しっかりしてください!」

とミラクルナイトの頬を軽く叩きながら呼びかける。

「テントウムシ女は…?」

と目を開けたミラクルナイトが尋ねる。

「消滅しました。奈理子さんが勝ったんです!」

とドリームキャンディが答える。

始めは変な奴と思っていたけど、手強い相手だったね」

とセイクリッドウインドが息をつく。

「死ぬかと思ったけど、勝ったんだ…」

と安堵した瞬間、ミラクルナイトは再び気を失った。

水都公園に集まった市民たちは、激闘を制したミラクルナイトに惜しみない拍手を送り続けた。その拍手は、勇敢に戦い抜いた彼女の勝利を称える温かいものだった。


穢川研究所の社長室に、多実は静かに足を踏み入れた。社長の勅使河原と所長の九頭がテーブルを挟んでソファーに座っている。勅使河原の隣には、いつものように側近の渦巻が控えていた。

「テントウムシ女がミラクルナイトに殺られました」

と、多実は淡々と報告する。九頭は軽く頷き、

「彼女には一撃必殺の技を付与しておいたが…奈理子には通用しなかったのか」

と言葉を漏らす。

「その技を発動させる前に倒されました」

と多実が続けた。

「そうか…奈理子は可愛らしさに加えて、実力も兼ね備えてきた。水都の絶対ヒロインとして着実に成長しているな」

と九頭は、まるでミラクルナイトの成長を喜んでいるかのように語った。

それに苛立ちを覚えた渦巻が九頭に問い詰める。

「先生、あなたはどちらの味方なんですか?我々の仲間が一人消されたんですよ」

九頭は事も無げに、

「奈理子がいなくなれば、研究の成果を試す楽しみが減る。可愛い奈理子の存在は私の生き甲斐みたいなものさ」

と笑みを浮かべて答える。渦巻はその態度にますます不満を募らせたが、言葉にはしなかった。

「テントウムシ女にとっては、奈理子の相手は荷が重すぎたようだ」

と勅使河原が静かに口を開いた。

「やはり、奈理子の相手はウデムシ男しかいないな」

と続けた。勅使河原のウデムシ男への信頼は絶大だ。しかし、渦巻は眉をひそめる。

「ウデムシ男は…」

彼はその猥褻な性格がどうしても気に入らなかったのだ。実力に関しては申し分ないが、彼の扱いには慎重になるべきだと渦巻は考えていた。

「ウデムシ男ほど、奈理子をうまく扱える者はいない」

と勅使河原が断言する。だが、九頭が口を挟んだ。

「夏も近いですし、夏らしい者を使ってはどうですか?」

まだ六月だが、水都では連日の真夏日が続いていた。

「九頭先生のおすすめは?」

と勅使河原が問いかける。

「パイナップル男」

と九頭は答え、勅使河原はニヤリと笑った。

「奈理子は、メロン男の香丸君に心を奪われた過去があります。パイナップル男の鮮やかな雰囲気と独特の風味も、彼女を調子狂わせるには十分でしょう」

と九頭は続ける。

「パイナップル男に任せてみるか…」

と勅使河原が決断を下した。

その様子を見ながら、多実は内心で思った。香丸のような爽やかで魅力的な男と、あの暑苦しいパイナップル男では全然違うのではないか…と。しかし、口に出すことは避けた。

「一之木君、何か気になることでも?」

と、勅使河原は多実の怪訝な表情に気付いて声を掛けた。

「いえ、何でもありません」

と多実はすぐに答えた。

「市議会の対策は問題ないか?」

と勅使河原が尋ねる。

「抜かりはありません。魔物対策として、市独自の力を持つことが次の議会で承認されるでしょう」

と多実は自信を持って答える。市警が治安維持を担っているが、国の監督を受ける市警だけでは不十分だ。水都が独自の力を持つ口実として、魔物の存在はうってつけの理由だった。

ミラクルナイトに新たな刺客が迫りつつある。しかし、勅使河原にとってミラクルナイトは取るに足らない存在の一つに過ぎなかった。彼の本当の目的はもっと別のところにある…多実はその思いを胸にしまいながら、社長室を後にした。

第153話へつづく)