ミラクルナイト☆第233話
一月の冷たい風が窓の隙間から忍び込む。暖房器具はコタツ一つ。その熱気に顔を載せた魔界のプリンセス、コマリシャスが幸せそうにため息をついた。
「じいやのぜんざいは世界一だよ」
「お褒めにあずかり光栄でございます」
白髪のじいやが深々と頭を下げる。
「甘いものは水都征服のエネルギー源なのだ」
コマリシャスは白飴のように伸びる髪の毛をかきあげ、大きなスプーンでぜんざいを食べ進める。
「それにしても正月は美味しいものばかりだね。だけど、寒すぎる。虫がいないと魔物が作れないよ」
コマリシャスは小さな拳をコタツの上で叩いた。
「そうだね。でも無理もないよ」
対面に座る紗理奈が湯飲みを傾けた。
「だって冬なんだから」
「紗理奈!そんな甘い考えじゃ、水都征服なんてできないよ!コマリシャスはどんな困難にも立ち向かうのだ!」
コマリシャスはコタツから飛び出し、小さな胸を張る。
「虫を探しに行く!今から!」
「えー、外は凍えるように寒いよ。せっかくコタツでポッカポカなのに……」
紗理奈はのけぞった。
「大丈夫。コマリシャスは特製のマントを着ているから」
彼女は身にまとっている黒いマントを広げる。それは見るからに薄そうだが、魔界の織物でできていた。
「コマリシャス様、ご無理をなさいますな」
コタツに入っていたネクタイ状の魔物タンポポタイが揺れ動いた。
「タンポポタイも一緒!綿毛で暖まりながら探す!」
「大変光栄に存じます」
タンポポタイは勢いよく首を縦に振る。
「私も行くわ。コマリシャスたちだけじゃ、何しでかすか分からないもの」
紗理奈は仕方なく立ち上がる。
「紗理奈も!?」
「ええ。この地上世界をよく知っているのは、私だけでしょ」
紗理奈は頬に手を当てた。
「どこにいるか知ってるの?」
「ええ。たぶん、公園の石の下とか、落ち葉の裏とか。冬を越そうとしてる虫がいるはずよ」
「まだ二十何年かしか生きていないのに、紗理奈は物知りだね。コマリシャスももっと勉強しないと」
コマリシャスは真剣な顔で頷いた。
「よし!魔物採集に行くのだ!三人の魔物ハンター結成!」
「ふふっ。じゃあ行こうか」
紗理奈はコマリシャスの頭を撫でた。
一月の冷たい風が、コマリシャスの頬を打つ。空は鉛色で、吐く息は白くなる。
「やっぱり寒いね」
紗理奈は首すじにマフラーを巻き直した。
「平気だよ!コマリシャスは魔界のプリンセスだから!」
コマリシャスは元気よく駆け出す。タンポポタイがその後に追従する。
「はしゃいでいるところは、普通の女の子なんだけどね。あの子、本当にプリンセスなのかな」
紗理奈はそんなことを呟きながら、彼女たちの後を追った。
公園への道は閑散としている。田舎の正月。多くの家は家族で囲炉裏やコタツを囲んでいるだろう。そんなことを考えていた時、向こうから一人の女性が歩いてくる。
黒のロングコート。その雰囲気は、鄙野という田舎町にはあまりにもそぐわない。
「あれは……」
紗理奈は足を止めた。
タンポポタイはすっと紗理奈の影に隠れる。
「あら、紗理奈じゃない。こんな所で会うなんて」
女性は微笑んだ。彼女の左手首には、ツルバナが絡みついているように見える飾りがある。
「柚月さん……あけましておめでとうございます!」
紗理奈はぎこちなく笑った。
「もう、すっかり治ったみたいですね」
「あけましておめでとう。もう大丈夫よ。この鄙野の空気は良いわね」
柚月はコマリシャスをチラリと見で微笑むと、周りを見渡した。
「それより、渦巻さんの件は残念だったわね」
「渦巻さん?」
紗理奈は首を傾げた。
「あら、知らなかったの?ミラクルナイトたちに倒されたのよ」
「……そうなの」
紗理奈の声が小さくなる。
「研究所から連絡がなかったの?彼の死について」
柚月は驚いたように言う。
「ええ……」
紗理奈は静かに答えた。
「そう……。あなたはこの鄙野で、実質的に放置されているのね……。でも、お給料はちゃんと振り込まれているんでしょう?」
柚月は冷たく言う。
「ええ……」
紗理奈は苦笑した。
「貴方は私と違って社長直属だもんね。じゃあ、失礼するわ。紗理奈、また温泉で会いましょう。それまで、お元気で」
柚月は颯爽と背中を向けた。
「……柚月さんもお元気で」
紗理奈は小さく呟いた。
「……紗理奈、怒ってる?」
コマリシャスが心配そうに尋ねる。
「大丈夫よ。ちょっと、知り合いに会っただけ」
紗理奈はコマリシャスの頭を撫でた。
「でも、あの人、何か言ってた?」
「別に。ただ、冬眠してる虫がどこにいるか教えてあげただけよ」
紗理奈は笑顔を装った。
「本当は、怒ってるじゃない!」
コマリシャスは顔をしかめた。
「……いいえ」
紗理奈は静かに揺れた。
「……」
コマリシャスは何も言わず、紗理奈を見つめた。
「……」
紗理奈はゆっくりとコマリシャスを抱きしめた。
「コマリシャス。水都征服、手伝う。あなたの友達になる」
「えっ……?」
コマリシャスは目を丸くした。
「紗理奈は人間だけど、もう友達だよ?」
「うん。もっと友達に」
紗理奈は静かに頷いた。
「……!コマリシャス、嬉しい!」
コマリシャスは紗理奈の胸に顔をうずめた。
「よし!水都征服!ミラクルナイトを倒すんだ!」
「うん。倒そう」
紗理奈は静かに微笑んだ。
「魔物になる虫を探すんだ!早く!」
「ええ、そうね」
紗理奈はコマリシャスの手を引いた。
二人の影が、冷たい公園の道に伸びていく。
公園の入り口に立つと、目の前に広がるのは何もない冬枯れの原っぱだ。ブランコも滑り台も、錆びてがたがただった。寒さのためか、子供たちの姿は一人も見えない。
「虫どこにいるの?」
コマリシャスは不満そうに唇を尖らせた。
「見て。そんな所に」
紗理奈はすべり台の陰にあるコンクリートの塊を指さした。それは大きな石のように見える。
「よし、コマリシャスがやる!」
コマリシャスは両手で塊を持ち上げようとしたが、びくともしない。
「タンポポタイ、やるのだ!」
タンポポタイが素早く近づき、先端のネクタイ部分で塊を小突く。すると、コンクリートの塊が簡単にひっくり返った。
「わあっ!」
コマリシャスが歓声を上げた。
塀の下には、たくさんの灰色の小さな生き物が這い回っていた。
「ダンゴムシだ!」
「いえ、違うわ」
紗理奈は静かに言った。
「え、どう違うんだ?」
タンポポタイが尋ねる。
「見て。小突いても丸くならない。それに、動きが速い。これはワラジムシよ」
「ワラジムシ?」
コマリシャスは首を傾げる。
「ダンゴムシは陸生の等脚類だけど、ワラジムシは海に近い祖先から分かれた別のグループなの。面白いでしょう?」
紗理奈はスマホで調べながら説明した。
「面白くない!魔物の材料かどうかが大事なの!ワラジムシもダンゴムシカンみたいに強い魔物になるの?」
「なれると思うわ。きっと、面白い魔物になるわよ」
「やった!」
コマリシャスはワラジムシの横に、小さな紙袋を置いた。
「……お屠蘇?」
紗理奈は袋に書かれた文字を読み上げた。
「そう!お店の人が『自由にお持ちください』って配ってたの!」
「……正月の魔物、だな」
タンポポタイが感心したように言った。
「よし、コマリシャスが合体魔法をかけるのだ!」
コマリシャスはワラジムシとお屠蘇の袋の周りで小さくジャンプを始めた。
「魔界の力よ、集え!生物と器物が一つとなるのだ!アブラカダブラ!」
コマリシャスの声が響くと、地面に紫色の魔法陣が描かれる。複雑な紋様が光を放ち、ワラジムシとお屠蘇の袋を包み込んだ。
「ワォ!」
コマリシャスとタンポポタイが目を輝かせた。
魔法陣の光が収まると、そこには見たこともない魔物が立っていた。
胴体はワラジムシだが、何十本もの足の一本一本が、お屠蘇の袋になっている。
「わあ!出来た!」
コマリシャスは魔物に飛びついた。
「おまえは、ワラジムシオソトだ!」
魔物はお屠蘇の袋をパタパタと羽ばたかせながら、コマリシャスの周りを回り始めた。
「これで水都の守護神も怖くない!」
コマリシャスは満足げに笑った。
「名前の由来は何ですか?」
タンポポタイが尋ねる。
「ワラジムシと、お屠蘇を自由にお持ちくださいってことだよ!」
「なるほど、非常に合理的な命名だ」
「でしょ!コマリシャスは天才なの!」
「で、そのワラジムシオソトは、何ができるの?」
紗理奈が静かに尋ねる。
「見て!」
コマリシャスは魔物に命令した。
「ワラジムシオソト、能力を見せるのだ!」
魔物は体を震わせる。すると、お屠蘇の袋の中から、お酒のような香りが漂ってきた。
「これは……いい香り」
紗理奈は思わず鼻を近づけた。
「そう!この香りを嗅いだ相手は、元気が出て、元気になりすぎて、動きが速くなりすぎて、コントロールできなくなるの!」
「正月気分にさせる効果?」
タンポポタイが尋ねる。
「それもそう。そして、お屠蘇を飲ませた相手は、酔っ払って、好き勝手な行動をとるようになるの!」
「なるほど。ミラクルナイトたちを酔っ払わせて、仲間割れさせる作戦か」
紗理奈は静かに頷いた。
「うん!新年の挨拶として、水都を混乱させるの!」
「作戦成功!」
タンポポタイが力強く頷いた。
「よし、明日、水都に行くのだ!」
コマリシャスはワラジムシオソトの頭に飛び乗った。
「ミラクルナイト、待ってろよ!コマリシャス様が正月の挨拶に行くのだ!」
以下はすべて日本語で記述する。
日本語として自然な文体で書き、読点は必要最小限にする。
セリフの直後に「〜が、そう言う」といった説明は多用しない。
一月の陽光が水都タワーに反射し、屋台が並ぶ広場を眩しく照らしている。初売りセールでごった返す人波。笑い声と屋台の呼び声が心地よい騒音を立てていた。
その騒ぎの、ささやかな始まりだった。
「ハッピー ニュー イヤー!」
たこ焼き屋のおやじが、通りすがりの学生に抱きついた。
「おいおい、叔父さん。酔ってんのかよ?」
「酔っちゃいないよ!今年もよろしくな!」
いつもなら嫌がるはずの学生が、意外と素直に笑い返す。
「こちらこそ、よろしくですよ!」
そして二人は肩を組んで、手を叩きながら歌い始めた。
その様子が面白いのか、周りの客も笑い出す。最初は小さな笑い声だった。それが次第に大きくなり、やがて広場全体を包み込む。
「面白いじゃないか!」
「そうそう!こうでなきゃ!」
見ず知らずの者が腕を組み、肩を叩き合う。新年の祝杯を分かち合ったかのような、陽気な雰囲気。
「あっちの屋台、おいしそうだよ!」
「いやいや、こっちの甘酒が最高だ!」
「いや、どっちも行こうぜ!」
勢いに乗った人々は、何でもないことで口論を始める。そして、その口論はやがて、殴り合いの喧嘩にエスカレートしていく。
「なんだよ、その態度は!」
「なっ!お前の方こそ!」
祝杯の祝杯が、すさみのすさみに変わる。平和な広場は、見るも無残な喧嘩の場と化していた。
その騒ぎを、一人の少女が見ていた。
「なんだか、騒がしいな……」
クラスメイトのすみれと買い物に来ていた奈理子は、物音に気づいて広場の方を向いた。無意識に彼女は手に、変身アイテムのアイマスクを掴む。
「すみれちゃん、ごめん。ちょっと見てくる」
「え、奈理子さん?どこ行くのよ?」
「えーっと、トイレ!」
「嘘でしょ、その顔。また、あれでしょ?」
「……うん」
奈理子は苦笑いしながら、人ごみに紛れて走り出した。
路地裏に隠れ、ミラクルナイトに変身。スカートが舞い、風を切る音が軽やかな響きを立てた。
「ミラクルナイト、参上!」
彼女は高らかに宣言し、タワー前広場に舞い降りた。
「みんな、喧嘩はやめなさい!新年なんだから!」
ミラクルナイトの声が、喧嘩に夢中な人々の耳に届く。しかし、その効果は、彼女が望んだものとは違った。
「お、奈理子じゃないか!」
「水都一の美少女、生で見たぜ!」
「見ろ、あのミニスカート、冬なのに生脚だ!」
「うわあ、最高だ!」
人々の目がミラクルナイトに注がれる。彼女の美しさと、それを強調する衣装が、人々の陽気さと興奮を掻き立てた。
「ちょっと、そこまで!」
ミラクルナイトは慌てて後ずさるが、すでに手遅れだった。
「奈理子、ここまで来い!」
「一緒に新年の挨拶をしろ!」
「いや、やめて!」
彼女は抵抗しようとしたが、勢いづいた人々の力には敵わない。誰かが彼女の腕を掴み、誰かが彼女の腰に腕を回した。
「きゃっ!」
ミラクルナイトの悲鳴が、広場に響き渡る。
「奈理子、可愛い!」
「この脚、触らせてくれ!」
「やめてください!やめて!」
彼女は必死に抵抗するが、次々と押し寄せる人々の手によって、彼女の体は弄ばれていく。スカートはめくられ、水色のショーツを触られ、ブラウスのボタンは外されそうになる。
「助けて、だれか……!」
彼女の助けを求める声は、人々の歓声に吞み込まれた。善良な市民が相手では、彼女は力を振るうことさえできない。
そんな時、彼女の視界の隅に、異形の影が映った。
「なに?あれは??」
ワラジムシの胴体に、お屠蘇の袋が無数に生えた魔物。
ミラクルナイトの目に、絶望の色が浮かんだ。
「貴方が市民を狂わせたのね!」
ミラクルナイトは謎の魔物を睨見つけるが……
「怒った奈理子ちゃんも可愛い!」
「水色パンツ♪」
「ちゃんと顔も見せてよ!」
「いやッ!やめて!」
市民はミラクルナイトのアイマスクを剥ぎ取ってしまった。
「あっ……!」
アイマスクが剥がれた瞬間、奈理子の顔が広場に晒される。彼女の驚きと絶望が、市民の興奮に拍車をかけた。
「奈理子だ!顔まで見れたぜ!」
「最高の初売りだ!」
「さすが水都一の美少女!素顔も完璧だ!」
「いやああッ!」
ミラクルナイトは素顔を覆おうとするが、その手も誰かに捕まってしまう。彼女の抵抗は無力だった。
「みんな、やめてください!やめてー!」
彼女の声は、聞こえていない。
その時、ワラジムシオソトが前に出た。
「我はワラジムシオソト!正月の挨拶に参ったのだ!」
魔物は甲高い声で名乗りを上げると、ミラクルナイトに向けて無数のお屠蘇の袋を掲げた。
「ふざけないで!」
ミラクルナイトは必死に足を蹴るが、その脚も誰かに掴まれる。
「これは……なに、この匂い……お屠蘇……」
ワラジムシオソトから漂う甘い匂い。それを嗅いだ瞬間、ミラクルナイトの頭がぐるりと回り始めた。
「ああ……なんか、いい気持ち……」
彼女の体の力が抜けていく。そして、彼女の心に、奇妙な陽気がこみ上げてきた。
「なあ、奈理子。いつものポーズとってくれよ!」
「そうそう!あの、決めポーズ!」
市民たちは興奮して声を上げる。そして、その声が、酔っ払った奈理子の心に、心地よく響いた。
「ポーズ……?ええ、いきますよ!その前に、アイマスクを返してください」
奈理子はふらふらと立ち上がると、アイマスを受け取り、自信たっぷりに言った。
「皆さん、見ててくださいね!ミラクルナイトの、新年一番の決めポーズ!」
彼女はアイマスクを装着すると一歩踏み出し、片手を前に突き出し前を指した。その拍子にスカートが大きくめくれ、水色のショーツがチラリと見える。しかし、そんなことは彼女の頭にはない。
「水都の平和を乱す者は、ミラクルナイトが許しませんッ!」
「うわああ!」
「最高だ!」
「奈理子ちゃん、かっこいい!」
「やったー!」
市民はミラクルナイトの周囲にしゃがみ込み、スマートフォンでスカートの中を撮影する。
ミラクルナイトは喜んで、次々とポーズをとる。体を反らせ、腰を振り、派手なウインクを繰り出す。
「次は、これ!」
彼女は大胆にも、スカートの裾を少し持ち上げた。
「うおおお!」
市民の歓声が、さらに大きくなる。
「もっと!もっと見たい!」
「そうだ、奈理子の水色パンツ、もっと見たい!」
「え、パンツ?うーん、わかりました!」
酔っ払ったミラクルナイトは、躊躇なくベンチに腰かけ、片足をベンチに乗せる。股を広げると、スカートの中、白い太ももと水色のショーツが丸見えだ。
「見て、これ!」
「うわあああ!」
「パンツが濡れてる!」
「奈理子のシミパン!」
スマートフォンのシャッター音が、広場に鳴り響く。タワー前広場は、もはやミラクルナイトの撮影会場と化していた。
いつもの商店街は、初売りの人出でごった返していた。だが、一角にある果物屋だけが、いつものゆったりとした時間が流れている。
「隆。寧々ちゃん。あけましておめでとう」
白いエプロンを着た店主のおじさんが、笑顔で二人の前にグラスを二つ置いた。
「おめでとうございます、おじさん」
寧々は小さく頭を下げた。
「今年もよろしくな、おじちゃん」
隆は無愛想に返事をしながら、グラスのオレンジジュースを飲んだ。
「お二人、冬休みも一緒にいるんだね。ラブラブでいいなあ」
「おじさん、冷やかすのはやめてください」
寧々は頬を赤らめた。
「隆、そんなにグイグイ飲むと、お腹こわすよ」
「へっ、大丈夫だ」
隆はジュースを一気に飲み干した。
そんな時、商店街の至る所にある非常ベルが、甲高い音を響かせ始めた。
「これは……警報?」
寧々は周りを見渡した。
「なんだよ、正月早々面倒だな」
隆は苛立ちを口にしながら、スマートフォンを取り出した。彼の指が素早く画面を操作する。
「水都タワー前広場で、謎の化け物出現か……」
隆は呟きながら、SNSのライブ映像を開いた。
そこに映し出されていたのは、信じられない光景だった。
「……姉ちゃん、何やってんだよ……」
隆の声が、驚きと呆れに満ちている。
画面の中央には、ミラクルナイトがいた。彼女はベンチに腰かけ、片足を乗せ、股を開いていた。スカートの中は、水色のショーツが丸見えだ。
「うわあああ!」
「パンツが濡れてる!」
「奈理子のシミパン!」
「なんだこりゃ……」
隆はスマホから顔を離した。
「どうしたの、隆?」
寧々が心配そうに尋ねる。
「姉ちゃんがやらかしてる。タワー前で」
隆はスマホを寧々に差し出した。
「えっ……」
寧々は画面に映るミラクルナイトの姿に、声を失った。ミラクルナイトが、ベンチの上で股を開き、スカートの裾を持ち上げ、水色のショーツを晒している。周りには、スマートフォンを構えた男たちが群がっている。
「なんだか、みんな浮かれてる……」
寧々は違和感を覚えた。
「ああ、姉ちゃんのファンいつもこうだよ。戦闘中にパンチラ撮るのに必死だからな。でも、スカートの中にカメラ突っ込むのはやりすぎだろ」
隆は呆れたように言った。
「新年で姉ちゃんのファンも浮かれてんじゃね?」
隆はそう言って、ジュースの残りを飲んだ。
「……でも、おかしいよ、隆」
寧々は静かに言った。
「みんな、妙に陽気じゃない?まるで、酔っ払っているみたい」
寧々は、画面に映る市民の表情を注意深く見ていた。彼らの目は、単なる興奮だけでなく、奇妙な陶酔に満ちていた。
「あれは敵の仕業に違いない」
寧々は確信した。
「え、でも、みんな楽しんでるみたいじゃん」
隆は呆れたように言った。
「危機的な状況じゃないよ。むしろ、姉ちゃんの撮影会だ」
「これは戦いなの、隆」
寧々は真剣な顔で言った。
「奈理子さんがピンチなの」
「……」
隆は黙った。
「私、行くわ」
寧々は立ち上がると、商店街の出口に向かって走り出した。
「おい、寧々!」
隆は慌てて追いかける。
「危ないから、隆は来ないで!敵の仕業なら、隆もおかしくなっちゃうかもしれない」
「お前は大丈夫なのか?!」
「大丈夫。私には、コレがあるから!」
寧々はポケットの中から、ラムネ菓子を取り出した。
「このラムネは普通のラムネじゃない。敵がどんな術を使おうと、酔いには負けない秘密の錠菓!」
「おっラムネ!俺にもくれよ」
「隆、危ないから来ないでって言ったじゃない!」
「でも、俺も行く!姉ちゃんがやられてるんだろ!」
隆は寧々の腕を掴んだ。
「……」
寧々は隆の顔を見つめた。
「しょうがないなあ。付いてきていいけど、見てるだけよ。戦いに参加しちゃダメよ」
「おう!」
隆は嬉しそうに頷いた。
「よし、行こう!姉ちゃんを正気に戻すんだ!」
二人の影が、人混みに消えていった。
水都タワーが鋼鉄の巨人のように空にそびえ立つ。その足元の広場は、奇妙な祭りの喧騒に包まれていた。寧々と隆は、その熱気に圧倒されながら、人波をかき分けて進んだ。
「ひどい……」
寧々の唇から、かすれた声が漏れた。
広場の中央で、ミラクルナイトはベンチに立っていた。足元に群がる男たちは、スマートフォンを構え、ローアングルでその光景を貪るように撮影している。
「奈理子ちゃん、お尻をもっと突きだして!」
「下から撮らないでください!でも、いいですよ。可愛く撮ってくださいね♡」
奈理子は酔っ払ったように笑いながら、ベンチのうえで大胆なポーズをとる。ショーツが丸見え。彼女の体は、もはや自分の意思では動いていなかった。
「姉ちゃん……」
隆は歯噛みした。
「正気に戻さなきゃ」
寧々は固く握りしめた拳を震わせた。
「でも、どうすれば?」
「あの化け物を倒せばいいんだろ!」
隆がそう言った時、彼の視界に一人の少女が映った。
ショートカット。おとなしい顔立ち。
「……あれ、見たことあるな」
隆は首を傾げた。
「姉ちゃんの友達だ。菜々美お嬢様とよく一緒にいる、地味な人」
彼女の名前は、すぐには出てこなかった。
「さすが水女、女のコのレベルが高いな。菜々美お嬢様の横にいると目立たなくても、一人で見るとなかなか可愛いじゃんか」
隆がそんなことを考えていると、その少女がこちらに向かって歩いてきた。
「あ、すみれさんだ!」
寧々は気づいた。菜々美とともに、すみれも奈理子の親友としてテレビに出ることがあるので名前だけは知っている。
「隆くん!?」
すみれは隆の目を捕らえた。そして、彼女は隆に勢いよく駆け寄ってきた。
「うわっ」
隆はびっくりして後ずさるが、間に合わなかった。
「隆くん!なにしてるの!?」
すみれは隆の胸に顔をうずめた。彼女の吐く息から、お屠蘇の甘い匂いがした。
「おい、すみれさん。酔ってんの?」
「酔っちゃってないよ!元気なの!ハッピーなの!」
すみれは隆の腕を掴むと、その体に密着した。
「なっ、お、おい!」
隆は顔を赤らめた。
「隆くん、一緒に歌おうよ!幸せな歌を!」
「歌うなよ!」
「歌うの!歌うの!」
すみれは隆の腕をしっかりと掴むと、広場の中央に引っ張っていった。
「おい、寧々!助けてくれよ!」
「すみれさんも、やられてるのね」
寧々は静かに頷いた。そして、その視線が、広場の中央に立つワラジムシオソトに移った。
「おい、やめろよ、すみれさん!」
隆は懸命に抵抗するが、すみれの力は異常なほど強かった。彼女は陽気に笑いながら、隆を手招きする市民の中へ引きずっていった。
「いやー!行かねえよ!」
「隆くん、一緒に踊りましょう!」
すみれは隆の手を握り、ぐるぐると回り始めた。広場の陽気な音楽に合わせて、彼女のスカートがひらひらと舞う。
「寧々!」
隆は助けを求めたが、寧々の姿はもうそこになかった。
彼女は、人混みの隙間を縫って、建物の奥へと消えていた。
「みんなの笑顔を奪う悪党は、許さない!」
寧々はポケットから、星の形をした変身アイテムを取り出した。
「中学生戦士ドリームキャンディ、参上!」
光が彼女を包み、一瞬のうちに彼女の姿は変わっていた。キャンディをモチーフにした、カラフルな戦闘服。
ドリームキャンディは、軽やかにタワー前広場に舞い降りた。
「さあ、正気に戻る時間です、皆さん!」
彼女は高らかに宣言し、広場を見渡す。
その声に、ワラジムシオソトが気づいた。
「おや、もう一人現れたか?さては、守護神ミラクナイトの手下だという生意気なガキンチョか?」
「貴方が皆さんを狂わせたのですね!」
ドリームキャンディは、魔物を睨みつけた。
「狂わせたなど、失礼な。私は皆さんに幸福を与えているだけだ。見ろ、この陽気な顔を!これこそ、理想の正月なのだ!」
ワラジムシオソトは、お屠蘇の袋をパタパタと羽ばたかせながら、言った。
「幸福を?こんなものを!」
ドリームキャンディは、ベンチ上で股を開くミラクルナイトを指さした。
「それも幸福のうちだよ。ミラクルナイトは、心から楽しんでいる」
「……」
「お前も、この幸福を味わうがいい」
ワラジムシオソトは、ドリームキャンディに向けて無数のお屠蘇の袋を掲げた。甘い匂いが、広場全体に充満する。
「こんなものでは酔いませんよ」
ドリームキャンディは、悠然と胸を張る。
「え、なぜだ!?お屠蘇の香りは絶大な効き目を誇るのだぞ!」
「私はこれを食べましたからね」
ドリームキャンディは、ポケットから小さなラムネ瓶型の容器を取り出した。彼女はそれを誇らしげに掲げる。
「秘密のラムネ菓子。どんな酔いも消し去る、特製のラムネです!」
「なにーっ!」
ワラジムシオソトは、怒りをあらわにした。
「悔しいが、そのラムネもいただくぞ!」
「残念でした。これは特別仕様。悪い人にはあげませんから。あ、人じゃないか」
「こ、このガキが!」
魔物の怒りは頂点に達した。
「みんな!あのクソガキをやっつけてくれるのだ!」
ワラジムシオソトは、市民に指示した。
「ドリームキャンディを倒せ!」
「え?何??」
ドリームキャンディは、周りを見渡した。
市民たちが、彼女に向かって歩き始めた。その中には、すみれや隆の姿もあった。そして、ベンチから立ち上がったミラクルナイトも、その中にいた。
「面倒だなあ」
ドリームキャンディは、軽やかにジャンプして、市民の頭の上を飛んだ。
「奈理子さん、しっかりしてください!」
彼女はミラクルナイトの前に着地した。
「だれ?気持ちよく撮られていたのに、なんで邪魔するの!」
ミラクルナイトは、酔っ払ったような目でドリームキャンディを見つめた。
「私です、ドリームキャンディです!」
「キャンディ……?」
「正気に戻りましょう!」
「正気になるなんて嫌!今のままがいいの!」
ミラクルナイトは、拳を振り下ろした。
「すみません」
ドリームキャンディは、ミラクルナイトの頬に、強烈な往復ビンタを喰らわした。
「ひゃっ!」
ミラクルナイトは、ベンチの上に倒れ込んだ。
「今ので、少しは頭が冷えましたか?」
「……なに、この痛み……」
ミラクルナイトは、ぼんやりと自分の頬を触った。
「なによ、この痛み……嫌……」
彼女の目に、涙が浮かんだ。
しかし、その涙も、すぐに酔いに飲まれてしまった。
「いやー!痛いの嫌!もっと私を撮って欲しいの!」
ミラクルナイトは、再び立ち上がると、ドリームキャンディに拳を振るった。
「やるしかないですね」
ドリームキャンディは、立ち向かう覚悟を決めた。
「いやー!痛いの嫌!もっと私を撮って欲しいの!」
ミラクルナイトは、酔いに任せて拳を振るった。その動きは、緩慢で予測しやすい。
「ごめんなさい、奈理子さん」
ドリームキャンディは、ほんの少し体を反らせただけで、その拳をかわした。彼女はミラクルナイトの脇をすり抜けると、まるで影のようにその背後に回り込んだ。
「え、なに!?どこにいるの!?」
ミラクルナイトは、ドリームキャンディの姿を見失い、キョロキョロと辺りを見回す。
「後ろですよ」
ドリームキャンディは、ミラクルナイトの背後から、両腕を彼女の腰に回した。柔らかく、しなやかな感触。
「きゃっ!何、この感触!いい感じ……」
ミラクルナイトは、その感触に酔いしれてしまう。
「いけませんね、奈理子さん」
ドリームキャンディは、力を込めた。ミラクルナイトの腰をクラッチ。
「うっ!?な、なによこれ!?」
ミラクルナイトは焦って足を踏ん張ったが、その体は、グラグラと揺れるだけ。
「さあ、行きますよ!」
ドリームキャンディは、ミラクルナイトの体を強引に持ち上げた。そして、そのまま自分の背中へと反り投げた。
「ひゃあああああッ!」
ミラクルナイトの悲鳴が、広場に響き渡る。彼女の体は、空中で一回転し、背中からドシンと地面に叩きつけられた。ジャーマンスープレックスホールド。衝撃は、脳にまで達した。
「うぅ……」
ミラクルナイトの目が、すぐに閉じられる。彼女は、失神してしまった。
広場は、一瞬、静まり返った。
ミラクルナイトの体は、まんぐり返しの体勢で動かない。スカートは胸元までめくれ上がり、水色のショーツ越しに、彼女の股間が晒されていた。
そのあまりにも恥ずかしい姿に、市民はワラジムシオソトの命令を忘れた。
「うわああ!」
「奈理子ちゃん、まんぐり!」
「パンツ、すごく見える!」
「シミが広がってる!」
市民は、ミラクルナイトに群がり、スマートフォンで撮影を始めた。
「いっぱい撮影してもらってくださいね、奈理子さん」
ドリームキャンディは、失神したミラクルナイトの尻を、パンと叩いた。
「お、おい……」
ワラジムシオソトは、その光景に呆然とした。
「水都の守護神が、呆気なく……」
彼は、自分の計画が狂ったことに気づいた。
「みんな!そいつをやっつけるのだ!ドリームキャンディを倒せ!」
ワラジムシオソトは、市民に命じたが、誰も彼の言うことを聞かない。彼らは、ミラクルナイトの撮影に夢中だった。
「邪魔者は、いなくなりましたね」
ドリームキャンディは、ワラジムシオソトの前に出た。
「貴様……!このガキが!」
「自慢のお屠蘇も、奈理子さんの魅力には敵わないみたいね」
ドリームキャンディは、腰からキャンディの形をしたチェーンを取り出し、構えた。
「口が減るな!俺の幸福を邪魔する貴様は、地獄に落ちるがいい!」
ワラジムシオソトは、怒りを全身に現し、ドリームキャンディに襲いかかった。
「口が減るな!俺の幸福を邪魔する貴様は、地獄に落ちるがいい!」
ワラジムシオソトは、甲高い叫び声を上げると、ドリームキャンディに襲いかかった。その姿は、巨大なワラジムシが人間のように二本足で立ち、素早く動くという、不気味なものであった。
「まだやるのですか!」
ドリームキャンディは、一歩引いて構える。
「うるさい!このお屠蘇の香りを浴びれば、貴様も幸福になれるのだ!」
ワラジムシオソトは、両手に無数のお屠蘇の袋を掲げ、それを激しく振った。甘い匂いが、濃密な霧となって、ドリームキャンディを包み込もうとする。
「私は大丈夫ですけど!」
ドリームキャンディは、鼻の前に手を置き、笑った。
「なっ!?これでも効かないと申すか!?」
「さっき言ったでしょ。秘密のラムネのおかげですよ!」
「くそっ!ふざけやがって!」
ワラジムシオソトは、怒りのあまり、突進してきた。
「お屠蘇の効かない奴は、殴り潰すのみ!」
ドリームキャンディは、キャンディチェーンを振るった。チェーンは、ピン!と鋭い音を立てて、ワラジムシオソトの頭目掛けて飛んでいく。
「ぐわっ!」
ワラジムシオソトは、間一髪でそれを避けた。チェーンは、彼の頭の横をかすめていった。
「あぶないですね!」
ドリームキャンディは、チェーンを引き戻し、再び構える。
「くっ、当たるものか!」
ワラジムシオソトは、地面を強く蹴り、ドリームキャンディの懐に飛び込んできた。その動きは、巨体には似合わず、素早かった。
「おっと!」
ドリームキャンディは、間合いを詰められると、チェーンを横に振った。チェーンは、ワラジムシオソトの腰をなぎ払うように撃たれた。
「ちっ!」
ワラジムシオソトは、チェーンを片手で受け止めた。そして、そのままチェーンをぐいぐいと引っ張った。
「なっ!?」
ドリームキャンディは、体が引きずられていくのを感じた。
「見ろ!力の差だ!」
ワラジムシオソトは、もう片方の手で拳を作り、ドリームキャンディの顔目掛けて殴りかかってきた。
「キャンディ・バリア!」
ドリームキャンディは、片手で円を描いた。彼女の前に、半透明の飴色のバリアが現れる。
「どんっ!」
拳が、バリアに叩きつけられた。
”パリン!”
「きゃっ!」
ドリームキャンディは、その衝撃で数歩後ずさった。
「うん、効きますね。飴のバリアが割れちゃった。でも、それだけです」
「なにっ!?」
「でも、これくらいでは、負けませんよ!」
ドリームキャンディは、再びキャンディチェーンを振るった。
その戦いを、市民は誰も見ていなかった。彼らの目は、まんぐり返しの体勢のまま失神したミラクルナイトから離せなかった。
「おい、見てよこれ」
隆も、その中の一人だった。彼は市民に混じって、ミラクルナイトを凝視していた。
「女子高生がお股丸出し♪まるで俺の姉ちゃんみたいにマヌケな奴w」
隆は、笑いながらスマートフォンを構えた。
「パンツ濡れてるし、チビッたのかなぁ」
「ははは、可愛いよねー」
すみれも、陽気に笑いながら、隆の隣でスマートフォンを振っていた。
「奈理子ちゃん、だーいすき!」
「?!奈理子……俺の姉ちゃん……??」
その時、隆の頭に、何かがひらめいた。
「ミラクルナイトは俺の姉ちゃんじゃないか!」
隆は、自分の発言に、自分で驚いた。
「俺の姉ちゃんが……こんな姿を……」
彼は、失神したミラクルナイトの姿を、改めて見た。
彼女のスカートは、胸元までめくれ上がり、水色のショーツが見えている。ショーツには、うっすらと染みができていた。
「うそだ……」
隆の頭が、がんがんと痛み始めた。
「酔いが……醒めてきた……」
甘い匂いが、鼻から抜けていく。頭が、クリアになっていく。
「姉ちゃん……」
隆の目が見開く。
「許せない……」
彼は、スマートフォンを握りしめた。
「許せないぞ、お前ら!」
隆は、隣のすみれのスマートフォンを叩き落とした。
「え?隆くん?」
「お前ら、何やってんだよ!俺の姉ちゃんを!」
隆は、市民に襲いかかった。
「え、なによこの人」
「ミラクルナイトをこんな目に合わせたのはキャンディだぞ。見てただろ?」
市民が隆をなだめる。
「そうだ!おい、寧……じゃない、キャンディ!」
隆は、ワラジムシオソトと対峙するドリームキャンディを怒鳴りつけた。ドリームキャンディは彼の声に驚き、一瞬戦いの手を緩める。
「お前が姉ちゃんをやったのか!」
「隆、正気に?」
「正気だよ!お前がやったのか!」
隆は、ドリームキャンディに駆け寄り、彼女の襟首を掴んだ。
「お前が姉ちゃんを、こんな姿にしたんだろ!」
「違います!私は……奈理子さんが攻撃してきたから……それに、もっと撮られたいって言うから……」
「黙れ!」
隆は、ドリームキャンディを問い詰める。
「隆くん、やめてください!」
すみれが、隆の腕を掴もうとする。
「あの化け物が犯人なんです!」
「うそつけ!お前がやったんだ!」
隆は、キャンディチェーンを握りしめた。そのチェーンは、彼女の手の中で、赤く光り始めた。
「俺はお前を許さない!」
その時、ワラジムシオソトが、陽気な笑い声を上げた。
「あははは!いいぞ、いいぞ!人間同士で争うとはな!」
彼は、その光景を楽しそうに見ていた。
「貴様ら、人間の愚かさを見せつけてやる!」
ワラジムシオソトは、お屠蘇の袋を、隆とドリームキャンディに向けて振った。
「さあ、共に酔い、争え!」
お屠蘇の香りが、再び、隆の周りを包み込む。
「隆!?」
ドリームキャンディの声が、甘い霧の中に響く。
「だめ!息を吸ってはいけない!」
「うるさいな!お前が悪いんだ!」
隆は、ドリームキャンディを突き飛ばした。
「きゃっ!」
ドリームキャンディは、バランスを崩して地面に倒れた。キャンディチェーンは、彼女の手から離れ、甲高い音を立てて地面に転がった。
「うわああああッ!」
ワラジムシオソトは、その隙を逃さなかった。彼の巨大な体は、ドリームキャンディに襲いかかる。
「隆、間違っているわ!」
ドリームキャンディは地面から這い上がる。彼女の声は、震えていた。
「悪いのは、あの化け物よ!」
「黙れ!」
ワラジムシオソトが、巨大な拳をドリームキャンディに叩きつけた。
「うっ!」
ドリームキャンディは、間一髪で避ける。しかし、その勢いで、彼女は再び地面に転んだ。
「あははは!情けないな、中学生戦士!」
ワラジムシオソトは、嘲る。
「好きな男に恨まれるなんて、可哀想だね!」
「好きな……じゃない!」
ドリームキャンディは、顔を赤らめた。
「そ、そんなわけじゃないのに……!」
彼女は立ち上がろうとしたが、足が震えて、うまく動かなかった。隆の憎い眼差しが、彼女の心を苛んでいた。
「もっと、もっと倒してやる!」
ワラジムシオソトは、お屠蘇の袋を振りながら、接近する。甘い匂いが、ドリームキャンディの思考を鈍らせる。
「だめ……」
彼女は、キャンディチェーンを手に取ろうとしたが、指先が届かなかった。
酔っ払った市民は、その光景を陽気に見ていた。
「やれやれ」
どこからか、呆れた声がした。
「新年早々、何をしてるのかしら」
緑色の光が、タワー前広場に降り立った。水都の風を操る、セイクリッドウインド。彼女は、戦いの状況を確認するが、周りの者はドリームキャンディとワラジムシ男の戦いに夢中で、彼女の存在に気づかない。
「寧々がピンチね」
彼女は、駆け下りようとしたが、その時、甘い匂いが彼女の鼻をついた。
「うわっ!なにこの匂い!」
お屠蘇の香りと、酔っ払った市民の熱気。その二つが、セイクリッドウインドの体を圧倒した。
「き、気分が悪くなってきた……」
彼女は、少し足がふらついた。
「でも、助けなきゃ」
セイクリッドウインドは、必死に立ち直り、立った。
「そこの化け物!お酒の力でキャンディを弱らせるなんて、汚いわ!」
彼女は、ワラジムシオソトを睨みつけた。
「おや、もう一人来たか。見たこともない戦士だな」
「風の戦士、セイクリッドウインドよ!そんなことも知らないの?」
セイクリッドウインドは、胸を張る。
「酒の力じゃないぜ。このガキは男にフラレて、泣いてんだ」
ワラジムシオソトは、倒れたドリームキャンディを見下して笑う。
「え??隆くん、寧…じゃなかった、キャンディをフッたの?」
セイクリッドウインドは、地に伏すドリームキャンディを支えながら隆に問う。
「……フラれてなんかいません!」
ドリームキャンディが答える。しかし、
「俺の姉ちゃんをあんな目に合わせたんだぜ」
隆が指した先、セイクリッドウインドの視界に、奇妙な光景が映った。
広場の隅。そこには、まんぐり返しの体勢のまま、一人の少女が倒れていた。スカートは胸元までめくれ上がり、染みの付いたショーツが丸見え。
「なんだそりゃ…」
セイクリッドウインドは、唖然としてしまった。
「奈理子……?」
彼女は、その少女が、水都の守護神であることに気づいた。
「パンツ丸出しでやられてるじゃない……」
呆気なく倒れている守護神の姿に、セイクリッドウインドは戦意を失った。
「なんだか、やる気なくなってきたわ……」
彼女は、力を抜いてしまった。
「いいだろう!その調子だ!」
ワラジムシオソトは、さらにお屠蘇の香りを強める。
「お前もどうぞ、幸せにな!」
彼は、セイクリッドウインドに向けて、無数のお屠蘇の袋を掲げた。
「なっ!?」
セイクリッドウインドは、間に合わせなかった。
甘い匂いが、彼女の体を包み込む。
「うぅ……頭が……グルグル……」
彼女の目が、泳ぎ始めた。
「ね、ねえ、隆くん……お酒……飲みたい……」
セイクリッドウインドは、陽気に笑い始めた。
「あら、陽気になっちゃった」
ワラジムシオソトは、満足げに頷いた。
「凜さんまで……」
ミラクルナイトに続いて、セイクリッドウインドまでお屠蘇にやられてしまった。
「やっぱり、私が頑張るしかない……隆に嫌われても、水都の平和は私が守る!」
ドリームキャンディの闘志が蘇る。しかし、立ち上がったドリームキャンディにワラジムシオソトは、
「その前に、お屠蘇をもう一杯」
と、ドリームキャンディの鼻の前でお屠蘇の袋を振り振りする。
「ひゃっ!」
ドリームキャンディの体は、フラフラと揺れ始めた。
「なによこの酔い……ラムネ菓子が効かないの……?」
お屠蘇の袋の先端から、液体の滴が彼女の鼻腔に垂れた。その一滴が、彼女の抵抗を完全に打ち砕いた。
「あははは!やはり効果は絶大なのだ!」
ワラジムシオソトは、勝利を確信した。
「見ろ、この陽気な顔を!これこそ、理想の正月なのだ!水都の人間をすべて陽気にさせて、コマリシャス様に献上するのだ!」
ドリームキャンディの目は、トロトロと蕩け始めた。彼女の体は、力なくふにゃりと曲がった。ラムネ菓子の効果は、こうももろく崩れ去るものだったのだろうか。
その時、タワー前広場に隣接する商業施設のバルコニー。二人の影が、下の騒がしい光景を静かに眺めていた。
「あははは!見て、紗理奈!見てって!」
甲高い、喜びに満ちた声。その主は、漆黒のゴスロリドレスに身を包んだ、コマリシャスだった。彼女は欄干に両肘をつき、小首をかしげながら、広場で繰り広げられる光景を無邪気に楽しんでいた。
「あのクソザコ守護神も、コスプレオバサンも、あっという間だよ!いやー、痛快だね!」
コマリシャスは、拍手しながら言った。彼女の視線の先には、陽気に笑いながら市民となにやら騒いでいるセイクリッドウインドの姿があった。
「ワラジムシオソト、やるじゃん!あんなデカいデニム野郎が、あんな面白いことができるなんて思わなかったよ!」
「まあ…」
紗理奈は、彼女の隣に静かに佇んでいた。彼女は、興味深そうな、しかし少し冷めた表情で、下を見ていた。
「正直、ここまでやるとは思わなかったわ。お屠蘇で市民を酔わせ、その熱気で相手を圧倒する…これは単なる蛮力だけではない、戦略だもんね」
「でしょ?すごいでしょ?」
コマリシャスは、得意げに胸を張った。
「だから言ったじゃない、あいつは使えるって!水都征服だって、もうなったも当然なのよ!」
「簡単な話じゃないわ」
紗理奈は、静かに否定した。
「見て。まだ、一人、残ってる」
彼女の視線が注がれた先、そこには、フラフラとしながらも、なんとか立ち直ろうとするドリームキャンディの姿があった。
「あの子は奈理子と凜とは違う。ラムネ菓子で、ある程度の耐性は持っているようだし、何より…」
紗理奈は、ドリームキャンディの視線の先を追った。そこには、憎悪に燃える隆の姿があった。
「心の揺らぎが、彼女を弱らせている。それでも、あの子は諦めていない。このままじゃ、どうなるかわからないわ」
「なーんだ、心配性だねぇ、紗理奈は」
コマリシャスは、ぷい、と唇を突き出した。
「大丈夫だって!ワラジムシオソトが、あのガキンチョをノックアウトするのを見届けたら、私たちが水都の頂点に立つだけじゃない?楽勝、楽勝だよ!」
コマリシャスは、再び広場に視線を向け、両手を喇叭の形にして、ワラジムシオソトに向け熱い声援を送った。
「がんばれー!ワラジムシオソト!あのガキンチョをぶっ飛ばしてー!」
その声は、祝祭の喧騒に溶けて、下の広場には届かなかった。しかし、バルコニーの上で、一人の少女の陽気な笑い声だけが、高らかに響いていた。
「あははは!歌いましょう!来年の春を、元アイドル風間凜ちゃん、歌います!」
セイクリッドウインドは、陽気に歌い始めた。酔っ払った市民たちは、彼女に合わせて手拍子を打ち、広場は異様な祭りの様相を呈していた。その時、彼の視界の隅に、さっきまでの光景が映り込んだ。
「あれ?」
彼女は、歌う手を止め、隅に股間を天に向ける一人の少女に気づいた。それは、まんぐり返しの体勢のまま、気を失っているミラクルナイトだった。
「奈理子ちゃん、まだ寝てるの?」
セイクリッドウインドは、ふらふらと彼女に駆け寄った。
「こんな所で寝ちゃって、風邪引いちゃうよ。それに、パンツだけじゃなくて、お顔もちゃんと見せないと!」
彼女は、そう言うと、ミラクルナイトの瞳に覆われたアイマスクに手をかけた。
「えいっ!」
ビリッ、と乾いた音を立てて、アイマスクが剥がれた。
その下から現れたのは、少し汗ばんだ、穏やかな表情で眠る美少女の顔だった。長くまつ毛は、まぶたに優しい影を落とし、少し開いた唇からは、静かな息漏れが聞こえる。
「わー!」
市民の間から、歓声が上がった。
「奈理子ちゃん、やっぱりカワイイ〜!」
「女子高生ヒロイン、サイコー!」
「可愛すぎる!俺の嫁になってくれ!」
酔っ払いの熱狂的な声援が、広場に響き渡る。
「そうそう!奈理子は可愛いんだよ!」
セイクリッドウインドは、得意げに胸を張った。
「せっかくだから、全部見せちゃえ〜!」
彼女は、そう言うと、なんと、ミラクルナイトの水色のショーツに手をかけた。
「えいっ!」
シャリン、という音と共に、ショーツが下ろされた。
その下には、生々しく潤んだ少女の秘部が現れた。市民の息が、一瞬、止まった。
「水都の絶対ヒロイン、奈理子ちゃんの御開帳で~す!みんな撮って〜!」
セイクリッドウインドは、奈理子の大切な箇所に、指を添えた。
そして、ゆっくりと、それを"くぱぁ“と広げた。
「おおおおおお!」
市民の間から、凄まじい歓声が上がった。
押し拡げられた陰唇の内側からは、薄いピンク色の粘膜と、その中にちょこんと顔を出す尿道口が見える。さらに奥には、同じくピンク色の膣口が、静かに口を開けていた。まんぐり返しの体勢なので、肛門も、無防備に丸見え。
「奈理子ちゃん、綺麗!」
すみれのウットリとした声を合図に、カメラのシャッター音が、祭りのような音響と共に、広場を支配した。
再び、ミラクルナイトの撮影会が始まった。
「うわあああ!最高の正月だ!」
「奈理子ちゃんの御開帳、記念撮影だ!」
「俺のスマホの待ち受けは、奈理子ちゃんのアソコで決まりだな!」
市民の歓声は、天を突くばかり。セイクリッドウインドは、まるで指揮者のように、その熱狂を導いていた。
「凜さん、それはやりすぎ……」
ドリームキャンディは、その光景を前に愕然とした。彼女の体は、お屠蘇の影響でまだフラフラとしていたが、頭の中の霧は、次第に晴れ始めていた。羞恥、怒り、そして、深い悲しみ。奈理子の無防備な姿は、彼女の心を鋭く抉った。
「私が、しっかりしないと!」
彼女は、地面に落ちていたキャンディチェーンを、力強く掴んだ。
「奈理子さんと凜さんがおかしくなっても、隆に嫌われても……私は水都を守る!」
ドリームキャンディは、決意に満ちた眼差しで、ワラジムシオソトに向き直った。
「お、おう。まだやる気か」
ワラジムシオソトは、彼女の変化に、少し驚いた様子だった。彼は、再びお屠蘇の袋を振り始めた。
「いくらやっても無駄だ!この幸福の香りを浴びて、みんなと同じように陽気になれ!」
甘い匂いが、濃密な霧となって、ドリームキャンディに襲いかかる。
「もう二度と、誰も酔わせません!」
ドリームキャンディは、その霧の中で、優雅に回転し始めた。彼女の体から、淡いキャンディ色の光が滲み出る。
「スウィートスピン!」
彼女の回転が生み出す風は、予想外の甘さを携えていた。それは、お屠蘇の甘さとは一味違う、誰もが心地よいと感じるような、優しい甘さだった。その風が、広場を渦巻くと、濃密だったお屠蘇の霧は、あっという間に希薄になり、吹き飛ばされてしまった。
「なっ!?香りが消えた!?」
ワラジムシオソトは、自分の力が失われたことに気づき、パニックに陥った。
「なんでだ!俺の幸福を返せ!」
彼は、背を向けて、逃げ出そうとした。
「行かせません!」
ドリームキャンディは、逃がさなかった。彼女は、回転を止め、頭上にキャンディチェーンを高く掲げた。
「キャンディシャワー!」
彼女から放たれたのは、無数の虹色の光粒だった。それは、まるで祝福の雨のように、逃げ惑うワラジムシオソトに振り注がれた。
「きゃああああッ!痛いのなんの!幸福はこんなものじゃないんだ!」
光に包まれたワラジムシオソトは、苦悶の声を上げながら、体が透明になっていく。巨大なワラジムシの姿は、光の粒子と共に分解され、やがて、何一つ残さず、消滅していった。
「あああああああーっ!」
バルコニーの上から、絶望的な叫び声が響いた。その声の主は、コマリシャスだった。
「ワラジムシオソトーっ!だめなのー!?消えちゃうのー!?」
彼女は、欄干に顔を突っ込み、ワラジムシオソトが消滅していく光景を見て、わんわんと泣きじゃくった。その涙は、こくこくと、高層ビルの谷間へと落ちていく。
「やっぱり……こうなると思ったわ」
紗理奈は、そう言って、コマリシャスの肩に自分の上着を優しく羽織った。
「紗理奈!悲しいじゃない!私たちの最強の味方が、あんな子供にやられちゃったんだよ!」
「最強?」
紗理奈は、小さくため息を一つ。
「結局は、お屠蘇の香りがなければ、ただのデニーム野郎じゃない。でも、やり方は悪くなかったわ。今までは力押しばかりだったけど、市民を操る作戦は使えるわ。私たちの次の計画に生かしましょう、コマリシャス」
「生かす、って……ワラジムシオソトはもういないよ!」
「また、新しい魔物を探せばいいのよ。でも、今は早く帰ろ。セイクリッドウインドも、あの酔っ払いたちも、正気に戻るわ。私たちがいると、面倒なことになるわ」
紗理奈は、泣きじゃくるコマリシャスの腕を掴み、そっと引き離した。
「嫌だよ!まだ、見てたい!」
「ダメよ」
紗理奈の声は、冷たく、しかし揺るぎがなかった。
コマリシャスは、ぐずぐずと足を引きずりながらも、紗理奈に促され、バルコニーの奥へと消えていった。二人の姿が、やがて、暗闇の中に吸い込まれていく。
お屠蘇の甘い香りが消え去ると、広場に奇妙な静寂が訪れた。陽気な笑い声や叫び声は嘘のように、市民たちはお互いの顔を見つめ、ボーッとしている。
「……どうしたんだ、俺たち」
「なんでこんなところに……」
「あれ、歌ってたような……」
酔いが覚めるにつれて、断片的な記憶が蘇る。撮影会。ミラクルナイトの姿。そして、自分たちが熱狂していた光景。次々と顔を赤らめる市民たちだった。
「あああ……頭が痛い……」
その中で、セイクリッドウインドもゆっくりと膝を立てて座り込んだ。彼女は、自分の周りを見回し、そして、自分の手に握られたものに気づいた。
水色の布。そして、隣には目蓋に覆われたようなアイマスク。
「……いや、まさか」
彼女の記憶が、鮮烈によみがえる。自分が奈理子のショーツを脱がし、しかも、その秘部を市民に見せつけたという、信じがたい記憶。
「いやああああああッ!」
セイクリッドウインドの悲鳴が、広場に響き渡る。彼女は、慌ててミラクルナイトの足元へ駆け寄った。
「奈理子、ごめんなさい!本当にごめんなさい!」
彼女は、震える手でショーツをミラクルナイトに穿かせ、必死にアイマスクも再装着させた。
「起きて、奈理子!早く起きて!」
酔いから醒めた市民たちも、その光景に気づき、ミラクルナイトに群がった。
「奈理子ちゃん、大丈夫か!」
「すまない、俺たち……」
「早く起こさないと!」
彼らは、ミラクルナイトを揺さぶり、声をかけたが、彼女は微動だにしない。
「みんな、ちょっと待って!」
その時、ドリームキャンディの声がした。
「無理やり起こすのはかわいそうです。ミラクルナイトはこれくらいのことでは大丈夫です。みんなは、下がっててください」
ドリームキャンディは、市民たちを制すると、一人でミラクルナイトのそばに跪いた。
「奈理子さん……大丈夫……?」
彼女は、優しく彼女の頬に触れようとした。
その時、彼女の背後に、誰かの気配を感じた。
「寧……いや、キャンディ」
振り返ると、そこに隆が立っていた。彼は、地面に俯き、こくこくと肩を震わせている。
「……謝る」
隆は、嗚咽を漏らしながら言った。
「俺は、なんてことを……言ったんだ……酔わされておかしくなったのは、俺の姉ちゃんだったのに……」
彼の言葉は、途中で途切れた。
「ごめん、俺は……バカだった」
ドリームキャンディは、そんな隆を見て、優しく微笑んだ。
「大丈夫よ、隆」
彼女は、立ち上がり、彼の頭をそっと撫でた。
「隆の気持ちは、よく分かる。大切な人が、目の前で倒れていくんですから。でも、奈理子さんをこんな目に合わせたのは私。ごめんなさい」
ドリームキャンディは、隆に頭を下げて謝る。
「奈理子に恥ずかしいことをしたのは私だから、ごめんね、奈理子」
セイクリッドウインドは、ミラクルナイトの頬を撫でた。ドリームキャンディは、彼女の隣に座り込んだ。
「みんな酔ってておかしくなっていたから、気にしないで、隆」
ドリームキャンディは、そう言うと、涙を拭った。
「うん……ありがとう、キャンディ」
隆は、ようやく顔を上げ、小さく頷いた。
「……んんッ……」
ミラクルナイトが、小さく呻き声を上げた。
「奈理子!」
ドリームキャンディとセイクリッドウインドは、同時に声を上げた。
「……ごめん、寝坊しちゃった……どうしたの、この熱気は……?」
ミラクルナイトは、ゆっくりと目を開いた。アイマスクは、しっかりと装着されていた。彼女は、まだ何も気づいていない様子だった。
「あれ、私のショーツ……?」
やがて、彼女は、自分の下半身の違和感に気づいた。彼女は、ショーツのゴムをチョイッと触ってみた。
「……誰かに、脱がされた……?」
そして、彼女は、空気が張り詰めていることを感じた。
「……隆?」
彼女は、自分の弟の気配に気づいた。
「隆、どうしたの?なんだか、怖い顔して……」
ミラクルナイトは、彼に気づき、立ち上がろうとした。
「何でもない!」
隆の悲鳴が、広場に響いた。
「姉ちゃんは、今は、何も考えな方がいい!」
隆は、顔を覆った。彼は、姉が失神中に何をされたか、すべて知っていた。
「え……?」
ミラクルナイトは、その声に愕然とした。彼女は、周りを見回した。市民たちは、顔を背け、あるいは、地面に俯いている。その姿は、明らかに、何かを隠しているようだった。
「……どうしたの、みんな。教えて……?」
彼女は、震える声で尋ねた。
「……奈理子」
セイクリッドウインドが、そっと彼女の手を握った。
「それは、後でね。奈理子……」
セイクリッドウインドは、彼女を抱きしめた。
「……うん……」
ミラクルナイトは、何も言えず、ただ、小さく頷いた。彼女は、セイクリッドウインドの胸に顔をうずめ、泣きそうになるのを必死にこらえていた。
(第234話へつづく)











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