ミラクルナイト☆第62話
水都の街は夕暮れとともににぎやかさを増していた。しかし、その賑わいの裏には、10代後半から20代のカップルを狙った金品強奪事件が暗躍していた。被害者の口コミから、怪人の姿は2体確認されており、彼らと同じ年頃の少年少女も目撃されていた。
「未成年か……」
街の片隅、路地裏にひっそりと設けられた占師のテント。その中で、占師として名を馳せる鈴が、ささやかな炎の下でタロットカードを並べていた。彼女の鋭い目は、カードだけでなく、街の出来事にも敏感だった。
「勅使河原から薬を買った不良の仕業。薬は恐喝して巻き上げた金で買ったに違いないわ。」
鈴の声は冷たく、薬の力を用いた犯罪に対しての嫌悪感を隠そうとはしていなかった。
テントのカーテンがそっと開くと、学生服を着た少女、奈理子が顔をのぞかせた。
「鈴さん、ちょっといいですか?」
鈴は奈理子の顔を見るなり、彼女の胸の内を察した。
「また怪人のことで悩んでるの?」
奈理子は顔を赤らめてうなずいた。
「ミラクルナイトとして、何とかしないと…」
しかし鈴は、タロットカードを片付けると、奈理子の手を取った。
「今はそれよりも、期末テストの方が大事よ。」
「でも、カップルたちが…」
「数万円程度のちっぽけな強奪事件。警察が対応すること。」
鈴は断固として言った。
「受験生の奈理子には、勉強が先決。」
奈理子は目を伏せ、しばしの沈黙の後、
「分かりました。」
と小さく言った。
街のどこかで、怪人たちは次なる計画を練っているかもしれない。しかし、その夜、少なくとも鈴のテントの中では、未来への希望が光っていた。
水都市内、ファミレスに十代後半と思われる少年たちのはしゃぐ声が響き渡っていた。他の客たちは不快そうに彼らをチラリと見るが、一団の気にする様子はない。
「チッ、5,000円しか入ってねぇ。あんなの狙った甲斐がなかったな。」
A男が口元に悪戯っぽい笑みを浮かべながら、先程奪ったであろう財布をテーブルに叩きつけた。
E子は、その財布から取り出したクレジットカードを指で弾き、
「使ってみる?」と提案した。
「使ったらアカン。すぐバレるぞ。」
と、C男が釘をさすように言った。
一方、B男は更なるスリルを求めていたようで、
「カップル狩りよりもっと大きなこと、やってみてぇな」
と優雅にストローをくわえながら言った。D男も続ける。
「俺たち、未成年だし、ちょっとくらい問題起こしても問題ないしな」
と、そんな彼らの台詞の中に、スキンヘッドで強面の男がテーブルに近づいてきた。彼の足音だけで、ファミレス内は一気に静まり返った。彼の名は氷川。A男とB男は、その存在だけで顔色を変え、すばやく立ち上がった。
「氷川さん、お疲れ様です。」
彼らの礼儀正しい態度の裏には、震える声が隠されていた。
氷川は、無表情にA男とB男を見つめ、
「ミラクルナイトを殺れ」
とだけ命令を下した。そして、その場を後にした。氷川が出ていく背中に、A男とB男は丁寧にお辞儀をし続けた。
F子は、氷川の去った後、悪戯っぽく笑って、
「面白そう。ミラクルナイトって、あの中学生の子? 街のアイドルみたいで、前から気に食わなかったわ。ちょっと、遊んでやろうかしら?」
と言い放った。
6人の少年少女たちは、街の秩序を乱す新たな計画を練り始めた。それは、水都市の平和を大きく揺るがす出来事の幕開けだった。
水都公園、その多目的トイレは奈理子にとって特別な場所だった。しかし、最近『目的外利用禁止』の張り紙が出現して以降、彼女の心の中にはちょっぴりの寂しさが漂っていた。かつての秘密の場所が奪われ、健全で清らかな恋愛を余儀なくされていたのだ。
放課後の下校時、ライムとともに歩く道は特別なものに感じられた。彼の冷静な雰囲気と無口な態度が、奈理子の心をドキドキさせていた。彼女はライムに向かって一方的に話を続けていたが、それは彼女の愛情の証でもあった。
その時、奇妙な姿の少女が、奈理子の方へと慌てて駆けてきた。派手な化粧と、なんとも健康でなさそうなその顔色。彼女の名はF子。
「奈理子さん、お願い、助けてください!」
という彼女の声に、奈理子は驚いた。
「友達が、怪物に…!」
F子の言葉に、奈理子は一瞬戸惑ったが、ともに行動するライムに、
「行ってくるね」
と言って、F子に引き連れられる形でその場を離れた。
ライムは、奈理子が去った後、F子の匂いをかぎつけ、顔をしかめながら
「あの女、何か臭いな」
とつぶやいた。その表情には、いつものクールさが混ざっていた。
水都の廃工場の影が、夕暮れの空に黒くそびえ立っていた。奈理子はF子の背後からその建物に近づいていくのを躊躇していた。しかし、F子の突然の叫び声に驚く。
「ミラクルナイト連れてきたよ!」
その声は、まるで罠を仕掛けていた猛獣が獲物を捉えた時のように響いた。急に後ろを向くF子の横顔に、何とも言えない危険な笑みが浮かんでいた。
仕方がない、と奈理子は思いながら、廃工場の扉を開ける。そこには、イソメ男という名前の怪物が立ち、ケバい化粧をしたD子という少女がいた。高校生か中学生くらいに見えるが制服ではないD子とF子の姿や服装に、奈理子は疑問を抱いた。これは一体どういう状況なのか?
感じ取ったのは何か不吉な雰囲気。奈理子は直感的に身の危険を察知する。そして彼女の持つアイマスクを急いでかざす。瞬時に周囲は水色の光で満たされた。彼女の通常の制服姿が消え、新たな姿へと変わりはじめた。
しかし、変身途中、F子が彼女に突進してきた。ミラクルナイトの変身は完璧ではなく、スカートが現れる前にその場を弾き飛ばされてしまった。何が起きたのかと驚く間もなく、スカートのないその姿を見て、D子とF子が高笑いを上げた。
奈理子は、震える手を股間の前で交差させながら、その場の空気の重さと冷ややかな視線を感じ取っていた。
水都の廃工場内、幽かに残る夕暮れの光と、ガラス破片から漏れる月明かりだけがミラクルナイトの姿を照らし出していた。彼女の脚元には、先ほどの嘲笑の声が響き渡る中、決意と怒りが入り混じった表情で立ち上がった彼女の影が揺れていた。
「騙したのね…」
その声は、静かでありながら、その中に怒りの火花がちりばめられていた。廃工場の暗闇からC男が突然姿を現した。光る鉄パイプを高く振り上げ、彼女へと猛然と打ち下ろそうとする。だが、ミラクルナイトの左手から光るシールドを展開する。彼女の手から放たれるフェアリーシールドはその一撃を受け止め、C男はその反動で地面に倒れ込んでしまう。
ミラクルナイトの目がシールドの光に照らし出されたC男の倒れる姿を追っている間に、扉の影から再び一人、D男が現れる。木刀を手に、その攻撃の範囲とスピードは先程のC男とは一線を画していた。ミラクルナイトは直感でその一撃を避けるため、急いで後ろへと飛び跳ねた。
しかし、その行動が新たな危機を引き寄せてしまう。飛び跳ねた先、彼女は突如強力な腕に捕まり、そのまま抱きしめられる。ゴカイ男の温かくも重苦しい息が彼女の耳元に響く。
「捕まえたぜ、ミラクルナイト。」
ゴカイ男の手が、不意に彼女の胸に伸びてくる。その先からC男とD男の冷たい目と、手にした武器がミラクルナイトに迫ってきた。廃工場の中にはミラクルナイトの息遣いと、怪物と少年少女たちの残酷な笑い声が響き渡っていた。
暗い廃工場の中、静寂が君臨する中、ゴカイ男の腕に捕らえられたミラクルナイトは絶体絶命の状況に置かれていた。その瞬間、D男の嘲笑が響いた。
「ただの人間の俺たちには攻撃できないよな、ミラクルナイト」
と。その言葉の後に続くC男の言葉も、彼女の心に重く突き刺さった。
「守るべき水都市民にこれから叩きのめされる気分はどうだ?」
ミラクルナイトは反撃の術を失っていた。が、そのとき、空気に変化が起こった。細く、白く、そして絶大な力を秘めた蜘蛛の糸が、空からC男とD男の首を捉えた。驚きと苦しみのあまり、彼らの手からは武器が落ち、続いて二人の悲鳴が響く。
「クソガキ共が調子に乗るんじゃねぇ」
と言うのは、その糸を操る者、糸井だった。彼の隣で、緑色のスライムに捉えられているE子とF子の声がした。
「ライム!」
ミラクルナイトが急いで声を上げた。彼女の叫び声を聞き、ライムは涼しげな笑顔を浮かべながら、彼女に言った。
「こいつらの体は不味い。糸井、頼む」
その言葉と共に、E子とF子はスライムから解放された。が、すぐさま蜘蛛の糸に捕らえられる。
「このガキ共どうする?顔見られたし殺すか?」
と、糸井が尋ねる声が響いた。その時、柔らかな足音と共に現れたのは、鈴だった。
「私達の記憶を消すわ」
と言いながら彼女はC男たちの方に歩み寄っていった。
ミラクルナイトは、まだゴカイ男の手中にあったが、ライムに尋ねた。
「どうしてライムが…?」
ライムの目がF子の方に向けられ、
「このブスが臭かったから、鈴と一緒に奈理子の跡を追うことにした。鈴のとこに行ったら、糸井が鈴の周りをウロチョロしてたから糸井も連れて来た」
と説明した。糸井のことはミラクルナイトが知らなかったが、彼女は彼が何者か察することができた。
その後、糸井が声を張り上げて、
「お前ら隠れてないで出て来いよ」
と叫び、廃工場の奥から、スキンヘッドの氷川と髭の大男赤石が、ゆっくりと姿を現した。
廃工場の薄暗い中、緊迫した空気が漂う。氷川の鋭い目が糸井に注がれ、
「邪魔をする気か?」
と冷たく尋ねた。糸井は苦笑いを浮かべ、
「俺たちはカップル狩りのクソガキを捕まえただけだ。仲良くミラクルナイトと釣餌コンビの戦いを楽しもうぜ、勅使河原の手下のお兄さんたち」
と反論する。
そのやり取りに戸惑いを隠せないイソメ男とゴカイ男。そして、氷川の眼差しに、明確な命令を感じ取った。彼の瞳から、彼らに向けられた"殺れ!"の合図が確かに送られた。
急にゴカイ男に捕らえられた状態のミラクルナイトに、イソメ男が猛スピードで襲い掛かる。しかし、その瞬間
「ダメだな、手がガラ空きだ」
と糸井が冷静に呟いた。困難な状況でありながらも、ミラクルナイトは冷静さを保ち、両手を突き出し水色の光弾を連射する。一瞬の内に、イソメ男は光弾の嵐に飲み込まれ、壮絶な爆風とともに吹き飛ばされた。
ゴカイ男はミラクルナイトの意外な反撃に驚きの表情を浮かべる。その隙をついて、彼女は勢いよくジャンプし、イソメ男の方へと突進した。空中で水色の光を放つ彼女の股間から、ミラクルヒップストライクが放たれ、ふらつきながら立ち上がろうとしたイソメ男の顔面に直撃した。その衝撃で、彼の姿は一瞬にしてA男に変わっていった。
「この俺が中坊に負けるわけねー!」
とゴカイ男が叫び、新たな闘志を燃やしながらミラクルナイトに迫る。しかしその瞬間、
「ダメだな。隙だらけだ」
と糸井の冷静な声。そして、ミラクルヒップストライクがゴカイ男の顔面に容赦なく直撃。彼の姿もB男に変わった。
その後、白いパンツを露にしていたミラクルナイトは変身を解き、セーラー服の少女、奈理子に戻っていた。
奈理子の小柄な身体が、一瞬のうちにライムの方へと飛んだ。その間に、鈴はA男とB男の意識の中を探り、自分たちの存在を丁寧に消し去った。遠くから見れば、魔法のようなその手続きは、何事もなかったかのように静かに行われた。
一方、糸井は厳かな空気の中で氷川と赤石に目を向け、
「勅使河原の手下さんたち、お前らは何者なんだ?」
と尋ねた。
氷川は冷たく
「カラクサ」
と答え、その隣で赤石が
「ザリガニだ」
と声を荒げた。それに対して、糸井は軽く笑いながら
「学校を襲ったやつらか。ここで俺たちと戦ってもいいが、どうする?俺たちはお前らのボスよりも強いかもしれないが」
と挑発した。
その言葉に、氷川の眼差しが更に鋭くなり、
「お前たちは勅使河原の敵なのか?」
と糸井に詰め寄った。糸井はじっとその瞳を見つめながら、
「さぁ、勅使河原とは一度仕事を共にしたことはある。だが、最近の彼の動向など知らん」
と冷静に答えた。
氷川は少しの間、沈黙を保った後、糸井の言葉から彼が敵でないことを理解すると、
「クモとスライム、そしてあの女…ヒメバチか。覚えておく」
と糸井達を警戒しつつも、赤石を連れてその場を後にした。
楽しそうに語り合う奈理子とライムと鈴を見ながら、糸井は知り合いの刑事にミラクルナイトがカップル強盗の犯人を捕獲したことを連絡していた。水都のカップたちを震え上がらせた事件は、ミラクルナイトによって無事解決をしたのであった。
(第63話につづく)
(あとがき)












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