DUGA

ミラクルナイト☆第164話

商店街にあるグフグフハンバーガーの店内。昼時で賑わう店内の一角で、セイクリッドウインドこと凜とドリームキャンディこと寧々が席についていた。

「夏休みの特番で奈理子特集?」

ポテトを摘まみながら、凜が興味なさげに呟いた。

「はい、急に決まったみたいで、今夜公開生放送だそうです。観覧募集もあったらしいですけど、応募が殺到してすぐに締め切られたみたいですよ」

寧々は隆から聞いた話を伝えた。

「へぇ、生放送なんてよく出る気になったねぇ」

凜はポテトをコーラで流し込みながら、感心しているような、それでいて少し羨ましそうな表情を浮かべた。

「凜さんには出演依頼は来なかったんですか?」

寧々が尋ねると、凜は少し言い淀んだあとに答えた。

「私は神に仕える身だから、メディア露出は控えているの」

いつもノリノリで取材に応じているくせに、と寧々は心の中で思ったが、それを口には出さなかった。

「それにしても、奈理子が水中戦が得意だなんて知らなかったわね」

凜は話題を変えた。

寧々は、凜が自分に出演依頼が来なかったことを指摘されたくないんだろうと察したが、確かにクモゲンゴロウとの戦いは意外だった。春のエビカブトン戦で、水中では全くダメだったミラクルナイトが、先日の戦いでは見事に勝利しているのだ。

「よく考えると、奈理子さんはアクアティックラプチャーを使うから、水のオーラを操れるんですよね」
寧々が首を傾げると、凜も頷いた。

「そうそう。エビカブトンのときは、それを忘れてたんじゃない?」

「奈理子さん、抜けてるところありますもんね。いつも水のオーラを使ってるのに、肝心なときに忘れるなんて普通は有り得ませんけど」

寧々が苦笑すると、凜も笑った。

「ほんと、強いのか弱いのか分からない子よね。いつもはヘロヘロなのに、たまーに信じられないくらい強いし」

「相性なんですかね。私も硬い外殻の敵が苦手ですし、奈理子さんは触手とか…えっちな敵がダメみたいですし」

寧々が思い返しながら言うと、凜がふと面白そうな顔をして言った。

「奈理子って、いつも敵にえっちなことされてるわよね。もしかして、敵の目的って水都の平和を乱すことじゃなくて、奈理子で遊ぶことなんじゃない?」

「そうかもしれませんね…」

寧々は真剣な顔で相槌を打った。

そのとき、凜が時計を見て立ち上がった。

「あ、昼休みが終わる。仕事に戻らなきゃ。これ、寧々が食べて」

と残りのポテトを差し出す。

「今夜の放送、奈理子さん楽しみですね」

「公開生放送でえっちなことされなきゃいいけどね。奈理子、どんな格好で出るんだろ?」

「制服で行くって隆が言ってましたよ」

寧々が答えると、凜は

「そっか」

と言いながら手を振り、店を後にした。

一人残された寧々はポテトを摘みながら、ふと遠くを見る。市民から熱狂的な人気を誇る奈理子。彼女が水都の絶対ヒロインであることは間違いない。だが、どこか遠い存在のように感じる。

(奈理子さん、今夜の特番でもみんなを楽しませてくれるのかな…)

そう思いながら、寧々は冷めたポテトを口に運んだ。


スタジオの観覧席。紗理奈は隣に座るコマリシャスの手を取りながら、控えめにため息をついた。スタッフに案内されて席に着いたものの、ざわめきに満ちた会場の雰囲気がどうにも居心地悪い。

「へ~、ここにいる人間たち、みんなミラクルナイトの奈理子を見に来たの?」

コマリシャスが周りをきょろきょろと見渡しながら聞いてくる。

「そうだよ。みんな奈理子が大好きなの」

紗理奈は努めて平静を装って答えた。

「ふ~ん、人気だけは一丁前だね。弱っちい守護神のクセに」

コマリシャスは呆れたように肩をすくめる。

「その弱さが奈理子の人気の秘訣なのよ」

紗理奈は微笑みながら答えたが、内心では違う思いがあった。ミラクルナイトは決して弱くはない。たった一月前の戦いで、コマリシャスが送り込んだ十三匹の魔物が全滅したのを紗理奈は忘れてはいない。そのとき、コマリシャスは大泣きしていたが、今となってはすっかり忘れてしまったようだ。

(ほんと、子供ってすぐ忘れるんだから、羨ましいわね…)

紗理奈がそんなことを考えていると、不意に妖しい視線を感じた。振り返ると、観覧席の隅で満足気に自分を眺めている女がいた。

「アイツ…!」

紗理奈はすぐにそれが誰かを見抜いた。人間の姿をしているが、正体はトケイソウ女だ。鄙野での一件以来、あの女には恨みがある。紗理奈は鋭い視線で睨みつけたが、トケイソウ女はニコリと笑っただけで、どこ吹く風といった様子だ。

(アンタのためじゃない、魔物の力を試すために水都に来たんだから…!)

紗理奈は心の中で毒づいたが、声に出すことはなかった。

そのとき、観覧席から歓声が上がった。司会者がスタジオに登場したのだ。

「バナナ男…」

紗理奈はその司会者の正体を知っている。普段は人気タレントとして活動しているが、裏では怪人・バナナ男として暗躍しているのだ。

さらに、雛壇に並ぶゲストがスタジオに入ってきた。その中の一人に紗理奈の視線が止まる。

(教授…!?)

人を怪人に変える薬を開発した水都大学の教授。彼は紗理奈やトケイソウ女のボスである勅使河原ですら頭が上がらない存在であり、「最強最悪のエロ爺」とも噂されるタコ男であった。

「紗理奈、まだ奈理子は出ないの?」

隣のコマリシャスが首を傾げて尋ねる。

「もうすぐだと思うよ…」

紗理奈は適当に答えながら、心の中では焦っていた。

(教授まで引っ張り出して、アンタ、いったい何を企んでるの?!)

視線の先でトケイソウ女が満足気に微笑む。その瞬間、司会者が興奮気味に声を張り上げた。

「みなさん、お待ちかね!本日のスペシャルゲスト、水都の守護神ミラクルナイト、野宮奈理子さんの登場です!!」

スポットライトが舞台に集まり、そこに現れたのは水都女学院高校のセーラー服を身に纏った可憐な美少女、奈理子だった。観覧席は拍手と歓声に包まれる。

紗理奈は目を細めながら舞台を見つめた。その中で、奈理子の笑顔の裏に潜む覚悟を感じ取りながら、これから始まるであろう波乱に胸の内で備えた。


スタジオの照明がきらびやかに奈理子を照らし出す。司会者や観客の熱い視線が彼女に集中している。奈理子は慣れた笑顔を浮かべながら、司会者やゲストたちの当たり障りのない質問に応じていた。その仕草一つ一つが観客の心を掴み、拍手や歓声が沸き起こる。

水都一の美少女として、また水都の守護神ミラクルナイトとして、彼女は常に市民の注目を浴びてきた。奈理子は、自分を魅力的に見せる術を心得ているが、それは決して好きでやっているわけではない。

街を守るために戦うミラクルナイトだが、戦いのたびに街の一部が破壊されることは避けられない。もし自分がもっと強ければ、もっと街の被害を抑えることができたのではないか。奈理子はいつもその責任を感じていた。だからこそ、人前に出ることが好きではない彼女でも、それで市民が笑顔になってくれるのいであればとの思いでメディアへの露出を受け入れてきたのだ。

「規制が厳しい地上波なら、危ない内容にはならないはず」と心のどこかで安心しながら、奈理子は清純可憐な女子高生としての振る舞いに集中していた。

(今日も無事に収録が終わりそう…)

そんなことを思いながら、ゲストの質問に答えたその瞬間だった。

「それでは、いよいよ奈理子ちゃんにミラクルナイトへ変身してもらいましょう!」

司会者の元気な声がスタジオに響く。

「えっ?ここでですか?」

奈理子は驚き、目を見開いた。事前に聞いていた内容には、変身のパフォーマンスなど一切含まれていなかったはずだ。あくまでも、野宮奈理子としての出演だと思っていたのに。

「今日は徹底的にミラクルナイトの秘密に迫ります!さあ、奈理子ちゃん、お願いします!」

司会者の声がさらに弾み、観覧席からも歓声が湧き起こる。

奈理子の胸中は一気にかき乱された。ミラクルナイトへの変身の途中では、一瞬だけ下着を残して衣類が消え、下着姿が露わになる。それを大勢の観客やカメラの前で晒すことになるとは…。

「それは…」

奈理子の口元が震える。

しかし、観覧席からの熱狂的な声援が彼女を包み込む。

「待ってました!」

「奈理子ちゃん、変身だー!」

何十台ものカメラが彼女に向けられ、逃げ場はどこにもない。

(うぅ…変身するしかない……)

奈理子は観覧席の人々の熱い期待を背負い、拒むことができなかった。観客の目が彼女に向けられる中、奈理子は深く息を吸い込んだ。

「それでは…」

奈理子が手にしたアイマスクをゆっくりと装着する。その瞬間、水色の光が彼女を包み込む。水都女学院高校の制服が光と共に消え、下着姿になった奈理子の身体をミラクルナイトの装いが覆っていく。

スタジオは息を飲んだように静まり返る。そして、光の中からミラクルナイトが姿を現した。

観客は歓声と拍手でスタジオを揺るがせた。奈理子はその声援を背に受けながら、胸を張り、力強い瞳でカメラを見つめた。


スタジオが熱狂の渦に包まれる中、水色の光が収まり、ミラクルナイトの姿が現れた。

「おおおお!」

「ミラクルナイトだ!」

「今日も奈理子ちゃんのパンツは白だ!」

観覧席から歓声が沸き上がる。ミラクルナイトは頬を赤らめ、両腕を胸の前で交差させると、ノースリーブのブラウスから肌が露出する二の腕を隠すように押さえた。

「恥ずかしい…」

と小さな声で呟くミラクルナイト。その愛らしい仕草に観客はさらに盛り上がる。

司会者が笑いながら、

「奈理子ちゃんはまだ高校一年生ですからね。今は控えめでも、これから成長する可能性はゼロじゃないですよ」

とフォローする。ミラクルナイトがが胸を隠したと思ったのだ。

「えっ…な、何の話ですか?」

ミラクルナイトは戸惑いながらも笑顔を崩さない。しかし、司会者はそのまま進行を続けた。

「それにしても、こんなに露出の多い衣装で戦闘なんて大丈夫なんですか?」

ミラクルナイトはプリーツミニスカートとノースリーブのブラウス、ロンググローブ、膝下丈のブーツという戦闘衣装を見下ろしながら説明を始めた。

「肌には目に見えない防御膜があって、敵の攻撃を防いでくれるんです。」

「ほう、それは便利ですね。実際に触れてみても?」

司会者が彼女の二の腕を軽く撫でると、ミラクルナイトは思わず身を引きながら顔を赤らめた。

「あまり触らないで下さい…」

「少し感触が違いますね!教授もこっちに来て触ってみてください!」

司会者が熱心に観覧客へ説明し、さらに教授を呼び寄せた。

「では、わしも少し触らせてもらおう。」

「はい…」

ミラクルナイトは教授がタコ男であることを知らない。高名な大学教授を拒むことはできなかった。

教授が立ち上がり、

「では、失礼するよ」

とミラクルナイトの太股にそっと手を触れる。

「あっ!」

ミラクルナイトの身体に甘い電流が走り、驚きの声を上げる。ミラクルナイトのクローンであるブラックナイトを使役する教授は、奈理子の身体のことは隅々まで把握していた。

教授は真剣な表情で太股を撫でながら、

「なるほど、この感触、興味深い…」

とわざとらしく呟いた。

「カメラさんも、こちらに寄ってください!目には見えませんが、防御膜を映しましょう!」

司会者がカメラを誘導し、ローアングルから太股がアップで映し出される。

「きゃっ!」

モニターに白いショーツ映し出されると、ミラクルナイトは慌ててスカートを押さえた。観客の笑い声が響く中、司会者と教授はコスチュームの素材について議論を続ける。

「この素材は何じゃろ?軽いが、シルクではないな。」

教授がスカートの裾をつまみ、軽く持ち上げながら言う。

「私にも分かりません。でも、このコスチュームはミラクルな力で敵の攻撃をある程度は防いでくれます。」

ミラクルナイトは無理やり笑顔を作り、言葉を濁した。

そのとき、教授が突然ショーツ越しに奈理子の大切な箇所に触れた。

「ひゃぁ!」

「パンツの下には防御膜がないようだな。」

「えっ…!」

ミラクルナイトの顔がさらに赤くなる。

「下着には防御膜が張られないんです。変身の途中で下着だけは消えないからだと思います。」

ミラクルナイトが小さな声で答えると、司会者がそれを補足した。

「なるほど、変身の秘密が少しずつ明らかになってきましたね!」

ミラクルナイトはそのやり取りが早く終わることを心の底から願いながら、耐え忍ぶしかなかった。


教授と司会者に肌を撫でまわされるミラクルナイト。モニターにはミラクルナイトのスカートの中アップで映し出され、ワイプにはその表情が映る。彼女のアイマスクから覗く瞳はかすかに潤み、心の中で必死に叫んでいた。

(どうして私がこんな目に…)

それでも、ミラクルナイトは笑顔を絶やさず耐える。守護神としてのプライドが、涙を堪える力となっていた。

そのとき、雛壇のゲスト席から救いの声が上がった。

「奈理子ちゃんはまだ女子高生なんだから、そんなに触っちゃダメだよ!」

テレビでよく見かける教育評論家が声を張り上げる。

(名前は憶えていないけど、ありがとうございます!)

ミラクルナイトはその言葉に救われた気持ちで教育評論家を見つめた。しかし、その希望は瞬く間に打ち砕かれる。

「何を勘違いしておる。今の奈理子さんはただの女子高生ではない。水都の守護神、ミラクルナイトじゃ!」

教授が堂々と声を響かせる。その一言に、教育評論家は圧倒され、何も言い返せなくなった。

「教授がそう仰るのなら…」

とつぶやき、視線を逸らす。

「その通りです。普通の女子高生扱いをしては守護神ミラクルナイトに失礼ですよね!」

司会者が調子よく話を合わせる。ミラクルナイトのわずかな希望は無惨にも潰えた。

「エロ爺め…」

観覧席に座る紗理奈が小声で毒づいた。この番組はトケイソウ女とバナナ男が教授を呼び込んで仕組んだ罠だと気づいていた。

「水都の守護神って、みんなの玩具なの?」

コマリシャスが隣でつぶやく。

「守護神は市民のためなら、玩具にだってなるんだよ。」

紗理奈はそう言いながら、コマリシャスの頭を軽く撫でた。

「や、やめてください!」

ミラクルナイトが慌てて叫ぶ。司会者が彼女のスカートを下に引っ張ろうとしていたのだ。

「あれ?スカートが脱げませんね。」

司会者が不思議そうな顔をする。

「そう簡単にスカートは脱げません!」

ミラクルナイトは必死に否定するが、司会者は笑顔を崩さず言葉を続ける。

「でも、戦いではいつもスルリと脱げるじゃないですか?」

「それは…」

ミラクルナイトは言葉を詰まらせた。戦闘中、スカートを脱がされるのは確かにミラクルナイトの定番だった。

「スカートを穿いたままのミラクルナイトなんて違和感があるのう。」

教授が腕を組み、まるで学術的見地から語るような口調で言う。

「市民が思い描くミラクルナイトは、スカートを穿いていないミラクルナイトだと思いますよ。」

司会者が同意するようにうなずいた。

(この人たち…私に何をさせたいの…?)

ミラクルナイトは心の中で叫びながらも、笑顔を崩すことはできない。水都の守護神として、市民の期待に応えるのがミラクルナイトの使命なのだ。

「奈理子ちゃん、頑張れ!」

観覧席から次々と声援が飛ぶ。その声援は彼女にとって希望でもあり、重圧でもあった。

(みんなが望むなら、そうするしかないの…?)

市民の期待を裏切ることはミラクルナイトには許されない。

ミラクルナイトの心には、使命と個人の意志が交錯していた。それでも、彼女は水都の絶対ヒロインとしての笑顔を崩すことはしない。彼女自身の手でスカートに手を掛ける。


スタジオに歓声が轟いた。

「おおおおお!」

ミラクルナイトは、スカートを穿いていない状態で立っていた。観客席からは熱狂的な声援が飛び交う。

「奈理子ちゃん、可愛いよ!」

「さすが奈理子ちゃん、みんなの期待を裏切らない!」

その声援を受けて、ミラクルナイトは俯きがちに目を伏せながらも、笑顔を作って耐えていた。

「これこそ市民が思い描くミラクルナイトの姿です!奈理子ちゃん、最後にカメラに向かって、いつものアレをお願いします!」

司会者が楽しそうに促した。

「いつものアレ…?」

ミラクルナイトが困惑したように聞き返す。

「アレですよ、『水都の平和を乱す者は〜』ってやつです!」

司会者が嬉々として説明し、彼女を急かす。

観客席の熱い視線が奈理子に注がれる中、彼女は仕方なく頷いた。

「はい…分かりました…」

その様子を観覧席から見ていた紗理奈は目を細めた。

「コイツら…」

敵であるミラクルナイトが可哀想に思えてきた。

すると、紗理奈の耳元に低い声が響いた。

「奈理子がいつものヤツを決めたら、お願いね。」

振り向くと、いつの間にかトケイソウ女である女が紗理奈の背後に立っていた。

「貴女、何を企んでるの?」

紗理奈がコマリシャスには聞こえないように囁く。

「アイツにミラクルナイトの戦いを独占中継させてあげたいだけ。」

女は顎で司会者を指した。

「あんな奴のために、大切な魔物を…」

紗理奈はバナナ男である司会者に目を向けた。

「水都テレビから大金が手に入るの。勿論、貴女にも分け前をね。」

トケイソウ女が意味深に微笑む。

紗理奈は心の中で舌打ちした。トケイソウ女とバナナ男の計画に乗るのは不本意だったが、今日連れてきた魔物には絶対の自信があった。

「コマリシャス、準備はいい?」

紗理奈がコマリシャスに声をかけた。

一方、奈理子はカメラに向き直り、声を張り上げた。

「水都の平和を乱す者は、ミラクルナイトが許しません!」

彼女がポーズを決めると、スタジオはさらに盛り上がった。観客席から歓声が湧き上がり、拍手が鳴り響く。しかし、その裏でミラクルナイトは心の中で泣いていた。

(こんな格好で…恥ずかしい……)

その瞬間、スタジオの中央に突如として魔法陣が浮かび上がった。

「何だ?!」

「えっ?!」

観客が一斉にざわめく中、楽しそうに呪文を唱えるコマリシャスの声が響く。

そして、魔法陣の中心からゆっくりと異形の魔物が姿を現した。混乱するスタジオの中、魔物の恐ろしいシルエットが浮かび上がる。


水都テレビのスタジオには、緊張感と熱狂が入り混じった空気が漂っていた。

”カシャッ、カシャッ!”

シャッター音が響く中、ミラクルナイトが観覧席に向かって叫ぶ。

「みなさん、危険です!逃げてください!」

観客たちは慌てて席を立ち逃げ出そうとする。しかし、シャッター音は止まらない。

「カメラの人も早く逃げてください!」

ミラクルナイトはカメラマンに声をかけるが、腰を抜かしたカメラマンの一人が魔物を指差して答えた。

「写真を撮っているのは俺たちじゃないよ。」

振り返ると、そこには異形の魔物がいた。カメラを持つその魔物は、ミラクルナイトにレンズを向けて執拗にシャッターを切り続けている。

「いやっ!」

スカートを穿いていないことを思い出したミラクルナイトは、慌てて白いショーツを両手で隠す。

「俺様はヤモリカメラだ!水都の守護神、ミラクルナイトの恥ずかしい写真をたっぷり撮ってやるぜ!」

魔物が邪悪な笑みを浮かべながら言い放つ。

「撮らないで!」

ミラクルナイトが震えながら後退するその姿を、司会者が楽しげに実況し始める。

「テレビをご覧の皆さん!なんと、スタジオに魔物が出現しました!これからミラクルナイトの戦いを完全生中継でお届けします!」

腰を抜かしていたカメラマンや他のテレビスタッフが素早く中継の用意をする。彼らの仕事に対するプロ意識は、魔物に対する恐怖をも上回っていた。むしろ、これから始まる戦いに興奮しているようだ。

「やっちゃえ〜!」

混乱の中、コマリシャスがヤモリカメラに激を飛ばす。しかし、観覧席の人々にはその声がミラクルナイトへの応援に聞こえたらしい。逃げようとした観客たちの足がとまる。

「こんな小さな子供が逃げずに奈理子ちゃんを応援しているのに、僕たちが逃げちゃいけない!」

「そうだ、奈理子ちゃん、魔物をやっつけちゃえ!」

「奈理子、頑張れ!」

観客たちが観覧席にもどり声援を送る。中にはスマホを取り出して撮影を始める者まで現れたが、スタッフたちが慌てて中止させた。この戦いは水都テレビの独占放送でなければならい。混乱の中でも、スタッフたちの意思の疎通はできているようだった。

「どうして、みんな逃げてくれないの…」

ミラクルナイトは涙ぐみながらも、決意を固めた。この状況では、狭いスタジオで、観客とカメラの前で戦うしかない。

「水都の平和を乱す者は、ミラクルナイトが許しません!」

ミラクルナイトの力強い宣言に、スタジオが沸いた。

「ミラクルナイトがいつもの宣言をしました!」

司会者が興奮気味に叫ぶ。

「奈理子、カッコいいぞ!」

と観客の声。

「いけ〜!」

とコマリシャスが叫ぶ。

ヤモリカメラは邪悪な笑みを浮かべた。

お汁を吸われる守護神の恥ずかしい顔を、たっぷり撮ってやるぜ!」

スタジオ内は熱狂に包まれ、テレビを視聴する大勢の市民も画面越しに固唾を飲んで見守っている。ミラクルナイトとヤモリカメラの戦いが、彼らの熱い視線の中で幕を開けた。


スタジオ内は熱気と混乱で満ちていた。テレビカメラはミラクルナイトを追い、観客たちは固唾を飲んでその戦いを見守る中、ミラクルナイトは焦りながらも冷静に状況を見極めていた。

(シャインブラストは…ダメ。みんなを巻き込んでしまう…)

ミラクルナイトはちらりと観客席を見やる。観客が自分を応援してくれているが、それと同時に、彼らがこの密室で戦闘の危険にさらされていることに責任を感じていた。

上を見上げても、天井には大量の照明機材が吊るされている。ミラクルウイングで飛び上がっての攻撃もリスクが高すぎる。

「接近戦しかない!」

ミラクルナイトは覚悟を決めた。白いショーツが露わになった状態の自分を目の前にしても、戦わなければならない。

「さあ!ミラクルナイトが接近戦を挑むようです!」

司会者の声が響く中、ヤモリカメラはカメラを構え、ミラクルナイトを撮影し続けている。

「こっちに来るのか。面白いじゃないか!」

ヤモリカメラがその鋭い目でミラクルナイトを見つめた。突然、その長い舌が鞭のように飛び出し、ミラクルナイトに向かって襲いかかる。

「そんなもの…!」

ミラクルナイトは飛び出してきた舌をかわしながら、その場で鋭くターンし、ヤモリカメラの横腹に蹴りを見舞う。しかし、その蹴りが当たる直前、ヤモリカメラは瞬時に後方へ跳び下がり、その距離感の取り方にミラクルナイトは舌打ちした。

「なかなかやるじゃないか。でも、このカメラで守護神の全てを撮影してやる!」

”カシャッ、カシャッ!”

とシャッター音が連続して響く。

「撮らないで!」

ミラクルナイトは声を上げながら、ヤモリカメラの距離を詰める。相手のカメラに撮られるたびに、観客たちがどよめき、その羞恥心が奈理子の集中力を揺るがせていた。

「これでもくらえ!」

ヤモリカメラは床を蹴り、一瞬でミラクルナイトの背後を取った。素早い動きに対応しきれないミラクルナイトの背中に、その鋭い爪が迫る。

「きゃあっ!」

爪がブラウスを引き裂き、ミラクルナイトは思わず身体を丸める。その隙を逃さず、ヤモリカメラの舌が再び飛び出し、ミラクルナイトの手首を絡め取った。

「離して!」

もがくミラクルナイト。しかし、ヤモリカメラの舌は異様な粘着力で、彼女の動きを封じていく。

「この姿も、みんなに見せてやる!」

ヤモリカメラがニヤリと笑いながらカメラをミラクルナイトに向けた。観客席からは

「奈理子、頑張れ!」

という声援が飛ぶが、その声が奈理子の羞恥心をさらに煽る。

「私は…負けない…!」

ミラクルナイトは懸命に抵抗するが、舌の締め付けは強くなるばかり。その場を覆う緊張感の中、ヤモリカメラの撮影が容赦なく続いていた。


スタジオ内の喧騒に、ヤモリカメラとミラクルナイトの激しい攻防が繰り広げられていた。観覧席からの熱狂的な声援とカメラのシャッター音が混ざり合い、場内は混乱の極みだ。

「さあーっと、ミラクルナイトがヤモリカメラの長い舌に絡み取られた!」

司会者の声が実況ブースから響く。

「奈理子ちゃんの愛らしい表情が、痛みに歪んでおります!」

ミラクルナイトの苦しげな声がスタジオ中に響き渡る。

「いやぁ~!」

ヤモリカメラの長い舌がミラクルナイトの頬をベロリと舐めた。

「さすが守護神、汗の味も一級品だな。さて、下のお汁はどうかな?」

とヤモリカメラはさらに下へと視線を向ける。

「おおーっと!ヤモリカメラ、なんと奈理子ちゃんの純白パンティに狙いを定めた!それは、ミラクルナイトのコスチュームではありません。奈理子ちゃんの素のパンツです!いわば、奈理子ちゃんの清純の象徴。そに触れるつもりか?!」

司会者の興奮した声が観客をさらに煽る。

「いやぁぁ!」

ミラクルナイトの叫び声が、舌がクロッチに触れた瞬間に響き渡る。ヤモリカメラは構わず撮影を続け、舌をさらに伸ばそうとする。

「直接味わってやる!」

とショーツの中に侵入しようとするその瞬間だった。

「それだけは絶対にダメ!」

ミラクルナイトの瞳が力強く光る。

「ミラクルパワー!」

と叫び、水色の光が彼女の身体を包む。その光の奔流が、ヤモリカメラを舌ごと吹き飛ばした。

「はぁ…はぁ…」

大きく息をつくミラクルナイト。体力を消耗しながらも、なおその立ち姿には凜とした美しさがあった。

「さすがミラクルナイト!奈理子ちゃんのパンツは無事だ!」

司会者が歓喜の声を上げる。

「テレビで放送できないシーンになるかと思われましたが、中継を続けます!」

観覧席からは割れんばかりの声援が飛び交う。

「いいぞ、奈理子!」

「守護神の名に恥じないぞ!」

その熱狂の中、観覧席の紗理奈が静かに笑みを浮かべる。

「でも、無駄よ。ヤモリカメラは奈理子の最も弱い部分、羞恥心を完璧に突いているわ。」

コマリシャスも嬉しそうに手を叩き、

「そうだ!もっと恥ずかしい目に遭わせちゃえ!」

と声を上げる。

ヤモリカメラは壁に張り付きながら冷笑を浮かべた。

「次は閃光だ!」

その言葉とともに、カメラ部分から眩いフラッシュが放たれる。

「ああっ!」

ミラクルナイトが一瞬、目を覆った。スタジオ全体が閃光に包まれ、スタッフや観客も一瞬、何が起こったか分からなくなる。

視界を奪われたミラクルナイトは防戦一方に陥り、スタジオ全体に不安の声が漂う。

「ミラクルナイト、大丈夫か!?」

観客が叫ぶ中、ヤモリカメラの得意げな笑みだけが浮かび上がった。そして、

「ああっ!」

ミラクルナイトの悲鳴。彼女のピンチはますます深まっていく。


スタジオ内は興奮と驚きが入り混じり、観客もテレビスタッフも固唾を飲んで見守っていた。眩い閃光が晴れると、目に飛び込んできたのは衝撃的な光景だった。

「うわぁー!これは…!」

司会者の声が震える。モニターに映し出されたのは、ブラウスを剥ぎ取られ、純白のブラとショーツ姿でうつ伏せに倒れているミラクルナイトの姿だった。

「光の中で何が行われたかは分かりませんが、ミラクルナイトが敗北です!グローブとブーツだけを残してコスチュームを剥ぎ取られ、動きません!完全に失神敗北の状態です!」

司会者の実況がスタジオ中に響き渡る。

観客はあまりの衝撃に声を失い、呆然とその場に立ち尽くしていた。その間にも、ヤモリカメラは余裕の笑みを浮かべ、ミラクルナイトの傍に寄る。

「へへっ、守護神のお汁をたっぷり楽しませてもらおう。その前に、敗北したお顔を記念に撮らせてもらうぜ」

と言いながら、ミラクルナイトの髪を掴んで上半身を持ち上げると、アイマスクを剥ぎ取った。

生気を失い、無垢な美しさをそのまま残した奈理子の素顔が露わになる。

”カシャカシャ”

とシャッター音が響き、ヤモリカメラは執拗にその顔を撮影した。

「さて、次はいよいよ…」

とヤモリカメラの視線が奈理子のショーツに移る。

「水都の守護神のアソコを…」

と舌なめずりしながら手を伸ばした、その瞬間だった。

パチリと奈理子の瞳が開いた。

「ブラウスを脱がされただけで失神するはずないでしょ!」

ミラクルナイトの声が力強く響く。そして、次の瞬間、

ミラクルチョップ!」

と水色に輝く手刀でヤモリカメラのカメラ部分を粉砕した。

「ぎゃあっ!」

悲鳴を上げるヤモリカメラ。場内が騒然とする中、司会者が絶叫する。

「おおおー!ミラクルナイトは終わっていなかった!死んだふりだったのか?!」

ミラクルナイトは反撃の手を緩めず、ヤモリカメラの腕にしがみついた。

「せっかく撮った写真を台無しにしやがって!」

ヤモリカメラが怒りをあらわにするが、ミラクルナイトは素早く飛び上がると太腿でヤモリカメラの頭を挟み込む。

「私のお汁を舐めたいなら、好きなだけ舐めさせてあげるわ。ただし、これに耐えられたらね…」

ミラクルナイトが冷ややかに言い放つと、太腿が水色に輝き始める。

ミラクルハピネスシザース!」

ミラクルナイトの太股がヤモリカメラの頭部を挟み込んだ。クロッチ越しに奈理子の大切な箇所を顔面に押し付けられたヤモリカメラは歓喜の声を上げる。

「うおお!守護神の匂いは最高だ!」

しかし、その喜びも束の間。ミラクルナイトの太腿に込められた力が、次第にヤモリカメラを締め付けていく。

「幸せに浸りながら、消えなさい!」

奈理子が叫ぶと、ゴキッという音とともにヤモリカメラの首が折れ、魔物は跡形もなく消滅していった。

「奈理子ちゃん、見事な逆転勝利です!」

司会者が熱狂的に叫ぶ中、ミラクルナイトは華麗に着地した。

(スカートを脱ぐ羽目になったのは司会者のせいよ!)

と内心で怒りを滲ませながらも、奈理子は笑顔を浮かべた。

「奈理子、やったぞ!」

「今日も最高だったよ!」

観客たちの熱狂的な歓声がスタジオに響き渡る。興奮の余韻が消えない中、水都テレビの「奈理子特集」公開生放送は幕を閉じたのだった。


番組が終了し、観客はすでに帰路についたが、スタジオ内では依然としてざわめきが残っていた。ミラクルナイトは変身を解き、制服姿の奈理子に戻ろうとしたが、教授が素早く近寄り、

「素晴らしい腹筋じゃ」

と彼女の引き締まった下腹部に手を触れた。

「鍛えてますから…」

ミラクルナイトは気まずそうに答えた。周囲にはテレビ局のカメラマンがまだ残っており、彼女の下着姿を撮影し続けている。早く変身を解きたかったが、大学の偉い教授に逆らうことはできない。ミラクルナイトは仕方なく下着姿のまま応じていた。

「うちの娘たちも鍛えさせなきゃいかんな」

と教授はミラクルナイトの筋肉の付き具合を確認するように腹や太腿を撫で回した。その手が彼女のショーツ越しの尻に触れ、

「このあと、わしの研究室に来んか?気持ち良いことをしてやるぞ」

と耳元で囁いた。

「ひやぁ!」

ミラクルナイトは電気が走るような感覚に悲鳴を上げ、反射的に後ずさる。

「教授、奈理子ちゃんは嫌がってますよ」

と教育評論家が注意した。

「いえ、嫌がってる訳では…」

ミラクルナイトは口を挟むが、心の中では動揺していた。教授の手の感触には覚えがある。しかし、教授と会うのは今日が初めてのはずだった。

「いや、すまん。わしには可愛い娘たちがいるから、本物は彼氏に譲ることにしよう」

と教授は手を振りながらスタジオを後にした。

「奈理子ちゃん、大丈夫?」

教育評論家が優しく声をかける。

「はい、大丈夫です…」

奈理子は笑顔を作って応じたが、

(本物って何…?)

と教授の言葉に違和感を覚えていた。

一方、水都テレビを後にしたコマリシャスと紗理奈。

「ヤモリカメラなら水都の守護神に勝てると思ったのに…」

コマリシャスは仲間を失った悲しみを隠しきれなかった。

「奈理子は撮られることに慣れているから、カメラじゃ決定打にはならなかったのかも。ゲジカメラとヤモリホースの好いとこ取りで期待してたんだけど…」

紗理奈は敗因を冷静に分析する。

「次はもっと強い魔物を作ってやる!」

コマリシャスの小さな体から大きな闘志が燃え上がる。

「奈理子はエッチな攻撃に弱いから、次はモロにエッチな魔物を作るのがいいかも。触手系の蔓植物なんかが良さそうね」

と紗理奈は考えを巡らせた。蛸や烏賊も候補に上がるが、生きた蛸や烏賊を用意するには少々ハードルが高い。

「クズライトは団扇のおばちゃんに負けたよ」

とコマリシャスがぼやく。葛と電飾を合成した触手使いの魔物クズライトは、一月前の戦いでセイクリッドウインドに敗北していた。

「次は電飾じゃなくて、電気で直接攻撃できる魔物を考えるわ。別の道具と組み合わせればいいかも」

「うん!絶対にもっと強い魔物を作って、水都の守護神をコマリシャスの前に跪かせてやる!」

コマリシャスは拳を握りしめ、決意を固めた。

ミラクルナイトと魔物たちの戦いは、まだまだ始まったばかり。水都の平和を守るための戦いは、今後さらに激しさを増していくのだった。

第165話へつづく)

あとがき