ミラクルナイト☆第163話
夏の午後、鄙野の町の広々とした原っぱで、幼女と女性が虫取りに興じていた。
「たくさん捕れたね~!」
幼女が無邪気な笑顔で女性に声をかける。その手には虫取り網、肩には虫籠。この幼女こそ、鄙野を支配する魔界の姫、コマリシャスである。
「夏は虫がたくさんいるからね。山に罠を仕掛けたら、クワガタやカブトムシも捕れるかもしれないよ」
麦わら帽子をかぶり、Tシャツとハーフパンツ姿の女性が答えた。彼女の名は御祖紗理奈。水都の穢川研究所からコマリシャスの監視のために派遣されていた。
「へ~!それ強いの?」
長閑な虫取り風景に見えるが、実際には魔物の素材となる生き物を捕獲するという恐ろしい目的が隠されている。
「コマリシャス様ー!」
遠くから老人が現れた。
「爺や、見て見て!こんなにたくさん捕れたよ!」
コマリシャスは嬉々として虫籠を掲げる。中にはバッタやセミなどが詰め込まれていた。
「素晴らしい成果でございますね」
爺やは目を細めて答える。
「これで魔物をいっぱい作って、今度こそ水都の守護神をやっつけてやるんだ!」
無邪気な笑顔を浮かべるコマリシャスに、老人は丁寧に頷いた。
「コマリシャス様なら、必ずや水都を支配できるでしょう」
その言葉を聞いたコマリシャスは満足そうに笑と、爺やは魔界の魔王がコマリシャスを呼んでいることを告げた。
「紗理奈、またね!」
コマリシャスは爺やに手を引かれ帰っていった。
コマリシャスが去り、一人残った紗理奈は原っぱに座り込んだ。
「虫は嫌いなんだけど、仕方ないか…」
溜息をつきながら独りごちるそのとき、足元から絡みつく蔓が彼女を捉えた。
「誰!」
紗理奈が振り返ると、笑いながら現れたのはトケイソウ女だった。
「健康的に日焼けしちゃって、田舎娘が板に付いてきたじゃない。すっかり鄙野の風景に馴染んでるわね」
蔓を操りながら冷やかすトケイソウ女。
「虫取りだからこんな格好してるのよ!」
紗理奈は怒りを含んだ声を上げる。
「その恰好、似合っているよ。でも、こうした方が貴女らしいわ」
トケイソウ女は笑みを崩さず、蔓を巧みに使い紗理奈のハーフパンツをスルスルと脱がしてしまった。
「や、やめなさい!」
紗理奈が叫ぶが、トケイソウ女は悪びれもせず赤いショーツを眺めてにやりとした。
「ふ~ん、パンツだけは派手なのね」
「チッ!」
紗理奈はすぐさまサソリ女に変身し、鋏で蔓を切り裂いた。
「私とやるつもり?」
鋭い視線でトケイソウ女を睨むサソリ女。
「冗談よ。今日はお願いがあってきたの」
トケイソウ女は軽い調子で答える。
「人にものを頼む態度じゃない!」
「そんなに怒らないでよ。それより、魔物を一匹貸してほしいの」
「それは…社長からの命令?」
「違う、私のお願いよ」
トケイソウ女は蔓でサソリ女の太ももを撫でた。
サソリ女は考えた。魔物たちはコマリシャスの支配下にあるが、人間を見下しているため、紗理奈の命令を素直に聞くことはない。しかし、試してみたい魔物がいる。
「分かった。考えておくわ」
「お礼に、貴女が早く水都に帰れるよう社長にお願いしてあげる」
満足げに微笑むと、トケイソウ女は立ち去った。
「社長がトケイソウ女の言うことを聞くとは思えないけど…」
紗理奈は元の姿に戻り、何気なくハーフパンツを拾おうとしたそのとき、観光客の団体が原っぱに現れた。鄙野は田舎町であるが、近くに温泉があり観光客があたりをよく散歩している。
「おおっ!」
「何だ、何だ?」
「若い姉ちゃんがパンイチで虫取りしてるぞ」
ざわめきが広がる中、紗理奈は自分がハーフパンツを脱がされていたことを思い出した。
「わぁッ!」
悲鳴を上げる紗理奈。
「トケイソウ女め…!」
赤くなった顔を隠すようにしながら、紗理奈は急いでその場を後にした。鄙野の空には彼女の悔しげな独り言がこだました。
一学期の終業式が終わった水都中学一年A組。教室内は明日から始まる夏休みに浮かれる生徒たちの声で賑やかだった。そんな中、寧々は黙々と帰り支度をしていた。
戦いの連続だった一学期。それでも寧々は、小学生の頃から変わらず上位の成績をキープしていた。しかし、中学生の授業は格段に難しくなり、夏休みの宿題も山積みだ。荷物をまとめながら、ふと隆のことを考えた。
(隆は勉強についていけているのかな?)
さりげなく隆に視線を送った瞬間、不幸なことにその様子を慎治が見逃さなかった。
「おっ、寧々が隆に"夏休みどこか連れてって"って目で見てたぞ!」
慎治の軽口に教室がざわつく。
「寧々も中学生になって女の子らしい仕草をするようになったな」
章太郎も調子に乗って茶化し出す。
「隆、寧々が可哀想だから一緒に帰ってやれよ」
慎治の容赦ない言葉に、寧々は顔を赤らめて必死に否定した。
「違う!」
その様子を見た女子たちも面白がり、次々に口を挟む。
「黙って寧々の恋路を見守ってあげなきゃ」
「それにしても、寧々があの隆を好きになるなんてねぇ」
小学生の頃からの仲間たちにとって、寧々が隆と仲が悪かったことは周知の事実。それが今やこんな状況になっているのだから、彼らにとっては格好のネタだった。
「寧々、帰るぞ」
ざわつく教室の中、隆が堂々と寧々の前に立ち、短く告げた。
「はい!」
思わず返事をして立ち上がる寧々。その姿に他の生徒たちは呆気にとられる。
「一緒に帰りたいなら、ちゃんと口に出して言えよ」
そう寧々に言い放つと、隆は教室を出て行った。
(違うのに…一緒に帰りたかったわけじゃないのに)
内心で呟きながら、寧々は慌てて隆の後を追った。小学生の頃とは全く違う二人の態度に、クラスメイトたちは驚きを隠せない様子だった。
「ねえ、クラスのみんなにあんなに言われて平気なの?」
寧々は隆に問いかけた。
「言われたのは寧々だろ。俺じゃない」
「私と隆のことを言われてたんだけど」
隆は少し考え込んでから答えた。
「色々言われないようにするには、姉ちゃんとアイツみたいに堂々としてればいいんだよ」
奈理子とライム。水都の絶対ヒロインとその恋人は誰もが知るラブラブカップルだ。奈理子はライムと付き合っていることを隠さず、ライムはどんな場面でも堂々としていてる。それが奈理子の人気をさらに押し上げていた。
「私は奈理子さんとは違うし…」
「じゃあ寧々も"隆くんカッコいい!大好き~!"って公言すればいいじゃん。そうすれば誰も茶化さなくなる」
「自分で"カッコいい"とかよく言うね」
呆れたように言いながら、寧々は話題を変えた。
「奈理子さん、夏休みはいつからなの?」
「もう始まってるけど、補習があるから本格的に休めるのは八月からだってさ」
「へえ、大変だね…」
中学生は勉強が大変だと思っていた寧々だが、高校生になればもっと大変になるのだと実感する。
「手を繋ぐ?」
唐突な隆の言葉に、寧々は驚いた顔をする。
「はぁ?」
「じゃあ肩を…」
伸ばしてきた隆の手を、寧々は勢いよく払いのけた。
「お硬いな」
「バカ」
ふくれっ面の寧々に、隆は楽しげに笑う。
明日から夏休み。寧々と隆の日々はどんな展開を迎えるのだろうか。
そのころの穢川研究所。静寂な廊下を一ノ木多実が深いため息と共に歩き、秘書室から社長室の扉を開けた。部屋には社長の勅使河原、そして所長の九頭が待ち構えていた。
「お疲れのようだね」
九頭が多実に声を掛ける。
「御祖さんですよ」
多実は疲れ切った表情で応じた。
「トケイソウ女が鄙野に現れて、悪質な嫌がらせを受けたとか。その愚痴を延々と聞かされました」
九頭が軽く笑みを浮かべた。
「御祖さんは元気かい?」
御祖紗理奈が研究所にいた頃、九頭にとって彼女のピチピチのパンツスーツ姿は密かな楽しみだった。彼女が鄙野に異動となった際、九頭は少なからず落胆していた。
「愚痴ばかり言っていますが、鄙野でそれなりに楽しんでいるみたいです。ただ、愚痴を聞く私が迷惑なんですけどね…」
多実はまたため息をつく。
「憂さ晴らしに、少し街で暴れてみるかい?」
九頭が提案した。
「私が?」
多実は目を丸くする。
「それはいい案だ。一ノ木君、実戦から遠ざかっているだろう」
勅使河原が九頭に同意する。
「社長がそう仰るなら…」
多実は仕方なく頷いた。
九頭が不敵な笑みを浮かべる。
「新しい薬があるんだよ」
その言葉に多実が少し身構える。
「蜘蛛と源五郎の合成。名付けてクモゲンゴロウだ。彼と一緒に行くといい」
源五郎と聞いた多実の表情が曇る。彼女は「イチジク女」として戦う能力を持つが、水中での戦闘には全く自信がない。
「私は水中は…」
多実が不安げに言う。
「奈理子たちを運河に叩き落とせばいい」
勅使河原が口を開く。
九頭がにこやかに説明を続ける。
「クモゲンゴロウは水中では圧倒的な力を発揮する。奈理子たちを水に落とせば、後はクモゲンゴロウに任せればいいんだ」
多実は渋々ながらも頷く。
水都のヒロインたちに、また新たな危機が迫っていた。運河を舞台にした新たな戦いが、静かにその幕を上げようとしている。
商店街の明るい通りを寧々と隆が並んで歩いていた。寧々のポニーテールが一歩ごとに軽やかに揺れる。
「寧々ちゃん、大人になったねぇ。この前まで赤いランドセル背負ってたのに…」
蕎麦屋の店主が感慨深げに声を掛ける。
「しばらく寧々ちゃんのセーラー服姿が見れないのは寂しいよ」
果物屋のおじさんは、明日から夏休みで制服姿を見られなくなることを嘆いていた。商店街が誇る水都の絶対ヒロイン奈理子の弟として商店街の住民に可愛がられてきた隆。その彼女である寧々も、今では商店街の人々に愛される存在となっていた。
「このまま姉ちゃんを超えて、水都の絶対ヒロインの座を奪っちゃえよ」
隆が冗談交じりに言う。
「私は奈理子さんみたいにはなれないよ」
と寧々は首を振る。奈理子の人気は美少女であることも理由だが、何よりも水都の平和のためならどんな屈辱にも耐え、全てを捧げる自己犠牲の精神が市民の心を掴んでいる。
「私には奈理子さんみたいな覚悟はない。ただ目の前の敵を倒すだけ…」
寧々が呟いたとき、町内放送が響き渡った。
「水都公園内の運河にイチジク女と謎の怪人が出現しました。近隣の方は避難してください」
「イチジク女…久々だな」
と隆が呟く。
「奈理子さんは補習、凜さんはお仕事で直ぐに来られない。私が行くしかない」
と寧々が決意を固める。
「いい機会だ。姉ちゃんが補習で動けない今、ドリームキャンディが水都の真のヒロインだって見せつけてこいよ」
と隆が熱く語る。
「水都の絶対ヒロインはミラクルナイトだよ。私は張り合うつもりなんかない」
寧々は静かに答えた。
水都公園の運河沿いでは、イチジク女と謎の怪人クモゲンゴロウが市民を威圧していた。久しぶりのイチジク女の登場に市民は驚いていたが、それ以上に異様な姿をしたクモゲンゴロウに恐怖していた。
クモゲンゴロウの側部には毛の生えた強靭な両脚が生え、両手には鋭い爪が光る。さらに、背中からは蜘蛛のような八本の腕が伸び、暗褐色の卵型の甲殻が強固に輝いていた。
「いやぁ、元水都信用金庫の美人職員、一之木多美ちゃんと一緒に出撃できるなんて光栄だねぇ」
とクモゲンゴロウがニヤニヤとイチジク女に話しかける。
イチジク女はそれを無視しようとしたが、クモゲンゴロウは楽しげに続けた。
「イチジク女の正体が一之木多美ちゃんだと市民が知ったら、驚くだろうなぁ!」
「黙りなさい!」
イチジク女が睨みつけると、クモゲンゴロウはわざとらしく怯えたように手を挙げた。
「怖いなぁ~」
(どうして九頭先生はこんな奴に新型の薬を託したんだろう…)
イチジク女は心の中で疑問を抱いていた。その時、空から黄色い光が降り注ぎ、一人の少女が現れた。
「水都の平和を乱す者は、私が許しません!」
中学生戦士ドリームキャンディが二人の前に立ち、鋭い眼差しを向けた。
「お久しぶりね、ドリームキャンディ。今日は奈理子はいないの?」
イチジク女がわざとらしく肩を落として尋ねた。その様子に市民たちもどこか物足りなさそうにざわめく。
「キャンディ、奈理子はどうした?」
「今日は体調でも悪いのか?」
ミラクルナイトとイチジク女の久しぶりの激突を期待していた市民たちは、肩透かしを喰らったようだった。
ドリームキャンディはきっぱりと答えた。
「奈理子さんは学校です!」
「夏休みでしょ?」
イチジク女がさらに突っ込む。
「補習らしいです…」
と、少し申し訳なさそうにドリームキャンディは付け加える。
ミラクルナイトは決して強いわけではない。しかし、彼女の人気は絶対的だ。市民たちはその弱さから来るピンチの瞬間を心待ちにしているのだ。
(私は強すぎる。奈理子さんみたいにピンチシーンで市民を喜ばせるなんてできない…)
ドリームキャンディは、強さゆえに自分が欠けているものを意識して、ほんの少し俯いた。
「まあ、いいわ。前回戦ったときは貴女、まだ小学生戦士だったわね。中学生戦士になった貴女がどれほど成長したか試してあげる」
イチジク女の言葉が、再び市民の熱を煽る。
「おお!ドリームキャンディ対イチジク女だ!」
「一年ぶりの再戦だぞ!」
歓声に背中を押されるように、ドリームキャンディは顔を上げた。その瞳には再び自信の光が宿っていた。
「貴女こそ、久しぶりの登場で大丈夫なの?私は、この一年間ずっと戦い続けてきたわ」
ドリームキャンディは鋭い眼差しでイチジク女を見据える。
「私にも色々あったのよ…」
イチジク女はふっと遠くを見るように目を細めた。
一年前の記憶。彼女はまだ水都信用金庫の職員だった。ミラクルナイトたちと戦いながらも、昼間は水都信用金庫公園前支店カウンターで市民の生活を支える仕事に勤しんでいた。平穏な日々を送りつつ、自分なりの幸せを見出していたはずだった。
(あの事件さえなければ…)
イチジク女は思い出したくもない過去が胸をよぎる。すべてが変わった。今の彼女はもう、あの穏やかな職場には戻れない。一ノ木多実は今や穢川研究所の社長秘書、そして勅使河原の手足となりイチジク女として生きる身だ。
イチジク女は首を振って過去を追い払う。目の前の戦いに集中することに決めた。
「キャンディ、頑張れ!」
「中学生になったドリームキャンディの実力をイチジク女に見せつけてやれ!」
市民の熱い声援が響き渡る。
「みんなは私とドリームキャンディの戦いを望んでいるから、貴方は下がって」
イチジク女がクモゲンゴロウに冷たく言い放つ。
「チッ、分かったよ」
と渋々後ろに下がるクモゲンゴロウ。
「さあ、来なさい。中学生戦士の力、見せてごらんなさい!」
イチジク女が挑発する。
「お望み通り、見せてあげる!」
ドリームキャンディはキャンディチェーンを手に、イチジク女へと一歩前に出た。
芝生広場に響く市民の歓声の中、二人の女戦士の闘いがついに幕を開けた。
「さあ、始めましょうか。私の力、見せてあげる!」
イチジク女が両手を広げると、体から無数の小さな鉄分の矢が空中に舞い上がった。イチジクに含まれる鉄分を凝縮し矢を作り出したのだ。鉄分が黒い霧のように広がり、辺りの空気がピリピリと張り詰める。
「キャンディチェーン!」
ドリームキャンディが鋭い声を上げると、彼女の手に握られた鞭がしなやかに振り抜かれる。キャンディチェーンの先端が一閃し、鉄分の矢の群れを叩き散らした。
「その程度で私を止められると思って?」
イチジク女が不敵に笑うと、散らばった鉄分が再び動き出し、ドリームキャンディを取り囲む。
「甘いわ!」
ドリームキャンディは軽やかに跳び、空中でキャンディチェーンを回転させて鉄分を吹き飛ばす。その動きはまるで舞う蝶のように優雅だ。しかし、地上に降り立つや否や、イチジク女の影が彼女に迫る。
「甘露ミスト!」
イチジク女の声と共に、イチジクの甘い香りがドリームキャンディの足元を覆い尽くす。
「これで動きが鈍るわね!」
イチジク女が勝ち誇るように言い放つ。甘露ミストに触れると一時的に動きが遅くなる効果がある。
「そんなもの!」
ドリームキャンディはキャンディチェーンを自分の足元に叩きつけ、甘露ミストを弾き飛ばした。
「動きを封じられると思ったら大間違いよ!」
ドリームキャンディは一瞬の隙を突き、イチジク女に向かって猛然と突進する。
「えい!」
鋭く振り下ろされたキャンディチェーンの一撃がイチジク女に迫る。しかし、イチジク女は咄嗟に体をひねり、その攻撃をギリギリで回避する。
「ふふ、なかなかやるじゃない。でも、私はまだ本気を出してないわ!」
イチジク女の背後に、巨大なイチジクの形をした植物が姿を現した。その果実がイチジク女に吸い込まれ、無数のエネルギー波が飛び出してドリームキャンディに向かって襲いかかる。イチジクのカリウムをベースにしたカリウム波動だ。
「逃げられるかしら?」
「やれるものならやってみなさい!」
ドリームキャンディは後方に跳びながらキャンディチェーンを一気に振り抜き、迫り来るカリウム波動を弾き飛ばす。しかし、その間にもイチジク女は攻撃の手を緩めず、カリウム波動を次々と繰り出す。
「さすが、しぶといわね!」
ドリームキャンディは息を切らしながらも、決して引かずに立ち向かう。その瞳には、ミラクルナイトに負けない意志が宿っていた。
「お互い、なかなか倒れないわね。やっぱり、貴女は中学生になって少しは成長したみたいね。」
イチジク女が余裕を漂わせながら微笑む。その言葉に、ドリームキャンディは鞭を握る手にさらに力を込めた。
「成長したのは当たり前よ!私はミラクルナイトだけじゃない、全ての人を守るために戦ってるんだから!」
彼女の強い決意を乗せた言葉が響き、二人の視線が激しくぶつかり合う。
その時、不意に背後から迫る巨大な影が現れた。クモゲンゴロウの八本の腕がイチジク女の手足を掴み、彼女を宙に引き上げた。
「何をするの!」
イチジク女は驚きと怒りでクモゲンゴロウを睨みつけた。しかし、クモゲンゴロウは不敵な笑みを浮かべるだけだった。
「もう十分だろ。イチジクちゃんが怪我でもしたら、俺が怒られるんだからさ。ここからは俺の番だ。」
クモゲンゴロウは低い声でそう囁くと、無理やりイチジク女を引き寄せ、彼女を後方へと放り投げた。
「さあ、キャンディちゃん、次はお兄ちゃんと遊ぼうか。」
ドリームキャンディに向けられるクモゲンゴロウの視線には、明らかに楽しむような悪意が滲んでいた。
「嫌です!貴方なんかと遊びたくない!」
ドリームキャンディはすかさずキャンディチェーンを振り抜いたが、クモゲンゴロウの反応は速かった。彼の体から発射された糸が瞬く間に彼女の身体を絡め取り、動きを封じてしまった。
「うわっ!」
全身を糸で拘束されたドリームキャンディは、まるで蜘蛛の巣に囚われた獲物のように身動きが取れなくなった。
「キャンディちゃん、水着じゃないのは残念だけど…水遊びをしようか。」
クモゲンゴロウは嗜虐的な笑みを浮かべながら、糸に絡められたドリームキャンディを運河へと投げ込んだ。
「きゃああ!」
ドリームキャンディの悲鳴が響き、彼女の体は大きな水飛沫を立てて運河に沈み込む。
「うわっ!」
水中で必死にもがくドリームキャンディ。しかし、絡みついた糸が彼女の動きを鈍らせる。
「さあ、楽しい水遊びの始まりだ!」
クモゲンゴロウは得意気に笑いながら運河へと飛び込み、ドリームキャンディに迫る。
水面を激しく掻き分けながら必死で糸を振り解こうとするドリームキャンディ。しかし、クモゲンゴロウは彼女の一挙手一投足を見逃さず、その動きを封じるべく近づいていく。
「どうした、キャンディちゃん。そんなものか?」
クモゲンゴロウの挑発的な声が運河に響き渡る。
「負けるもんですか!」
ドリームキャンディの目が決意に燃える。糸が絡みついたままでも、彼女の戦意は微塵も衰えなかった。
運河では、彼女の力とクモゲンゴロウの圧倒的な水中戦能力が激しくぶつかり合い、勝負の行方は未だ分からないままだった。
緑色の光が降り注ぎ、風の戦士セイクリッドウインドが運河の岸辺に降り立った。彼女の目に映ったのは、運河の水面をじっと見つめる市民たちと、彼らに紛れて何食わぬ顔で佇むイチジク女だった。
「お待たせ…」
そう言いかけたセイクリッドウインドは、違和感に気づいて足を止めた。
「みんな、何をしているの?」
訝しげに市民たちの方へ歩み寄ると、彼らの視線の先に目をやった。
「あら、風間凜。」
その声に振り向くと、そこには余裕の笑みを浮かべたイチジク女の姿があった。
「げッ!イチジク女!」
咄嗟に身構えるセイクリッドウインド。
「遅かったわね。可哀想に、ドリームキャンディは今頃…」
イチジク女は芝居がかった口調でそう言いながら、水面に目を遣った。
「キャンディが水の中に?!」
驚愕したセイクリッドウインドは、即座に助けに向かおうと運河に飛び込む体勢を取る。
「やめておきなさい。」
イチジク女が手を振って制止した。
「何で止めるのよ!水の中にいるのはキャンディでしょ!」
怒りを露わにするセイクリッドウインドに、イチジク女は肩をすくめて答える。
「水中でクモゲンゴロウに勝てるはずがないのよ。彼は水中戦では無敵だから。」
「アンタ、そのクモゲンゴロウの仲間でしょ!」
セイクリッドウインドは鋭い眼差しを向ける。
「仲間だからと言って、全員が好きなわけじゃないわ。あの男、気に入らないのよ。」
イチジク女は不機嫌そうに呟き、再び運河の水面を見つめた。
セイクリッドウインドは躊躇した。しかし、思い浮かんだのはドリームキャンディの顔だった。まだ中学生の彼女が、強敵と不慣れな水中で戦っている。
「キャンディに何かあったら、私は絶対にアンタたちを許さない!」
セイクリッドウインドは決意を込めて叫び、ためらわずに運河へ飛び込んだ。
彼女の姿が水中に消えると、イチジク女は小さく溜息をついた。
「彼女は立派な中学生に成長していたわ。」
そう呟きながら、水面に広がる波紋をじっと見つめていた。
冷たい運河の水がドリームキャンディの身体を包み込んでいた。水中戦は得意ではない。いや、それ以前に、彼女は水中での戦闘経験はあまりなかった。絡みつくクモゲンゴロウの糸が四肢を拘束し、藻掻くたびに動きが鈍る。
「逃げられると思うなよ、キャンディちゃん。」
クモゲンゴロウの笑い声が水中で響く。彼の八本の腕が水を切りながら、キャンディの周りを獲物を狩る捕食者のように旋回していた。
「負けない…!」
ドリームキャンディは意を決してキャンディチェーンを振るう。しかし、水中ではその動きは鈍く、チェーンはクモゲンゴロウの太い脚に絡まっただけだった。
「何だ、その程度か?地上では多少やるようだが、水の中ではただの子供だな。」
余裕の表情でチェーンを引き寄せるクモゲンゴロウ。その力に抗えず、キャンディは糸を巻かれたまま引き寄せられた。
「うっ…放せ!」
彼女は必死に足をばたつかせるが、周囲の水圧と糸の拘束で力を発揮できない。
そのとき、水面から緑色の光が差し込んだ。
「キャンディ!」
セイクリッドウインドが飛び込んでくる。彼女もまた、水中での戦闘には慣れていないが、仲間を見捨てることなどできなかった。
「助けに来たわよ!」
セイクリッドウインドはガストファングを振るい、水中で刃のような風を発生させる。しかし、風の力も水中では弱体化していた。クモゲンゴロウは悠々とその攻撃を避け、逆に背後からセイクリッドウインドの脚を狙う。
「風の戦士ってのも、ここじゃただの源五郎のエサだな。」
クモゲンゴロウの鋭い前脚がセイクリッドウインドの脚を絡め取る。彼女は必死にもがくが、背中から襲いかかる触腕が首元に絡みついた。
「やめて…!」
セイクリッドウインドは声にならない悲鳴をあげながら、クモゲンゴロウの圧倒的な力に飲まれていった。
「さあ、お姉さんもゆっくり楽しもうぜ。」
二人のヒロインを完全に抑え込んだクモゲンゴロウは、勝利を確信し不気味な笑みを浮かべる。
「キャンディ、凜ちゃん…」
水面を見つめていた市民たちから悲痛な声が上がる。
運河の水は、二人のヒロインの無力感を象徴するかのように静かに波打っていた。クモゲンゴロウの影がその中で支配的に揺らめく。
運河の岸辺は静まり返り、心配そうに見守る市民たちのざわめきだけが響いていた。
水面が揺れ、やがてザバーンと大きな飛沫が上がる。
「浮かび上がってきたぞ!」
「勝ったのはどっちだ!?」
市民たちの期待が膨らむ中、水面から現れたのは、ぐったりとしたドリームキャンディとセイクリッドウインド。そして、彼女たちを担ぎ上げる八本の腕を持つ怪人クモゲンゴロウの姿だった。
岸辺に降り立ったクモゲンゴロウは、二人のヒロインを無造作に地面に放り投げた。
「弱すぎる。もっと楽しませてくれると思ったんだけどなぁ~」
冷笑を浮かべるクモゲンゴロウ。その声に市民たちは肩を落とし、二人の敗北が確定的であることに打ちひしがれていた。
「まだ奈理子が残っているわ。いい気になるのはミラクルナイトを倒してからにしなさい。」
イチジク女が忌々しげに言う。しかし、クモゲンゴロウは楽しげに笑みを浮かべた。
「ミラクルナイトの野宮奈理子?あの人気だけ先行したヒロインか。可愛い女子高生ってだけで市民にチヤホヤされる弱っちい奴だろ?面白そうじゃないか。」
そのとき、市民の一人が空を指さした。
「あっ!奈理子だ!」
白い翼、ミラクルウイングを広げ、空から現れたのは水都の守護神ミラクルナイトだった。補習を終え、怪人の出現を耳にした奈理子は、急いで水都公園へ駆けつけてきたのだ。
ミラクルナイトは地上に降り立つと、まず目に入ったのは倒れ伏すセイクリッドウインドとドリームキャンディの姿だった。
「凜さん!キャンディ!」
二人の名を呼びながら駆け寄るが、反応はない。無惨な彼女たちの姿に、奈理子の瞳が怒りに燃える。
「よくも…凜さんとキャンディを…!」
イチジク女の手の内は知っている。二人を痛めつけたのはクモゲンゴロウに間違いない。ミラクルナイトはクモゲンゴロウを鋭く睨みつける。その視線はまるで炎のように激しかった。
「凜ちゃんとキャンディちゃんが二人がかりで勝てなかった俺に、奈理子が勝てるとでも?」
クモゲンゴロウが余裕たっぷりに挑発する。しかし、ミラクルナイトはその言葉に動じることなく、力強く立ち上がる。
「奈理子、逃げるんだ!」
「無理だ!あいつは強すぎる!」
市民たちの心配の声が飛び交うが、ミラクルナイトはゆっくりと背筋を伸ばし、冷静に言い放った。
「私は水都の守護神ミラクルナイト。この街を、そして皆を守るのが私の使命よ。」
その決意の言葉に、周囲のざわめきは静まり返った。
ミラクルナイトの目には迷いがなかった。傷ついた仲間のため、市民のため、そして自分の誇りのため――彼女はただ、前を見据えて立ち向かう。
運河を挟んで睨み合う守護神と怪人。新たな戦いの幕が上がろうとしていた。
風が吹き抜け、ミラクルナイトのスカートがふわりと舞い上がり、純白のショーツが一瞬覗いた。市民たちがミラクルナイトのピンチシーンを楽しむことができるのは、セイクリッドウインドやドリームキャンディといった仲間の存在があってこそだ。ミラクルナイトが敗れても、彼女たちが敵を退治してくれるという安心感があったのだ。しかし、今やセイクリッドウインドとドリームキャンディは既に敗北している。最後の希望はミラクルナイトに託された。もはや後がない状況だ。市民たちは、ミラクルナイトがクモゲンゴロウに勝てるはずがないと彼女の身を案じていた。しかし、ミラクルナイトの可憐なパンチラに、その心は一瞬で吹き飛ばされた。
「奈理子、勝ち負けは関係ない!今日も可愛い奈理子を見せてくれ!」
「俺たちは、たとえ負けても奈理子が大好きだ!」
「奈理子、どんな目に遭わされようと、最後までしっかり見届けてやるぞ!」
市民たちの大声援がミラクルナイトに向けられた。
「噂通り、人気だけはあの二人と比べても圧倒的だな。人気だけは」
とクモゲンゴロウは皮肉を込めて言った。
「私は水都の守護神、ミラクルナイト。市民の期待は絶対に裏切らない!水都の平和を乱す者は私が許さない!」
ミラクルナイトは水色の光弾をクモゲンゴロウに放った。
「市民が期待しているのは、奈理子のピンチだけどな」
とクモゲンゴロウは源五郎の硬い甲殻で光弾を弾き飛ばしながらミラクルナイトに迫った。
「早い!」
素早いクモゲンゴロウの動きに驚きの声を上げるミラクルナイト。
「ほらよっと」
ミラクルナイトの背後を取ったクモゲンゴロウは、八本の腕でミラクルナイトに抱き着いた。
「うぅ…離して!」
身動きが取れないミラクルナイト。
「市民は奈理子の可愛い姿を期待している。水都の守護神様は市民の期待に応えなきゃね」
とクモゲンゴロウはミラクルナイトの耳元で囁いた。そして、
「そうだろう?」
と市民に問いかけた。
「もちろんだ!俺たちは奈理子の可愛い姿が見たいんだ!」
「奈理子のちっぱいが好き!」
「俺は奈理子の太ももが好きだ!もっとスカートを上に!」
市民たちは盛り上がった。
「いや!変なことを期待しないで!」
ミラクルナイトは叫んだ。しかし、水都の守護神であるミラクルナイトは、水都市民の期待に背くことはできないのだった。
「うぅ…みんなが喜んでくれるのなら……」
観念してミラクルナイトはクモゲンゴロウに身を委ねた。
「奈理子、可愛いぞ!」
「奈理子の白パンツだ!」
大喜びの市民たち。テレビ局の記者たちも水都公園に到着し、実況を始めた。撮影用ドローンもクモゲンゴロウに弄ばれるミラクルナイトを撮影している。
「みんなが、私を見て喜んでいる…」
ミラクルナイトは呟いた。市民の喜びはミラクルナイトの喜びとなる。目を閉じて耐える奈理子の気持ちもそれに流されようとしていた。
そのときだ。
「奈理子ちゃん、諦めちゃダメだ!」
運河の畔に声が響いた。
「その声は…」
諦めかけていたミラクルナイトは瞳を開いた。
「会長さん!」
ミラクルナイトの瞳に映ったのは、水都大学奈理子私設ファンクラブ、通称『MNSFC』の会長の成好だった。成好の背後では、MNSFCの面々が『純白の天使 野宮奈理子』と書かれた横断幕を掲げている。ミラクルナイトの戦いの報を受け、水都公園に駆けつけたのだ。
「市民の期待に応えることがミラクルナイトの定めなら、僕たちはミラクルナイトの勝利を期待する!」
成好は吠えた。
「そうだ!奈理子ちゃん、頑張れ!」
「諦めるな!奈理子ちゃんには俺たちMNSFCがついているぞ!」
MNSFCの面々も叫んだ。
「フン、その横断幕の『純白の天使』は奈理子の純白パンチラのことだろ。コイツらも奈理子のエッチな姿を期待してるんだ」
とクモゲンゴロウはミラクルナイトに囁いた。
「うぅ!」
図星だっただけに、成好は言葉に詰まってしまってった。他のMNSFCも同様だ。しかし、ミラクナイトはそうではない。
「違うわ…白は私の清純さを現す色!」
ミラクルナイトの身体が水色に輝き始めた。
「ミラクルパワー!」
輝きを増したミラクルナイトの聖なる力でクモゲンゴロウの八本の腕を振りほどいた。
「会長さん、MNSFCのみなさん、いつも応援ありがとうございます!私は…野宮奈理子は、みなさんの期待に応えます!ミラクルナイトは必ず勝利します!」
ミラクルナイトは高らかに宣言した。
「奈理子、頑張れ!」
「俺たちも奈理子の勝利を期待しているぞ!」
MNSFC以外の市民もミラクルナイトに声援を送る。
「こうなったら奈理子は強いわよ。注意しなさい」
イチジク女は熱狂する市民を見渡しクモゲンゴロウに告げた。しかし、
「お楽しみはこれからさ」
クモゲンゴロウは不敵に笑う。
ミラクルナイトは白い翼、ミラクルウイングを広げた。空からクモゲンゴロウを攻めるつもりだ。だが、素早くクモゲンゴロウが反応する。
「空には逃がさないよ」
クモゲンゴロウが放った蜘蛛の糸が、網となり飛び上がろうとするミラクルナイトに絡みついた。
「あぁっ!」
ミラクルナイトが地に落ちる。
「水遊びだ。ほれ」
とクモゲンゴロウは網ごとミラクルナイトを運河に投げ込んだ。
運河の冷たい水が全身を包み込む。ミラクルナイトは蜘蛛の糸の網に絡め取られたまま、深く沈んでいった。水中での戦闘経験が乏しい彼女にとって、この状況は圧倒的に不利だった。
「水中での戦いは初めてかい?」
クモゲンゴロウの声が水中に響く。彼は水中でも自在に動き回り、八本の腕を巧みに操ってミラクルナイトに迫ってきた。
「くっ…」
ミラクルナイトは必死に網から抜け出そうとするが、蜘蛛の糸は水中でさらに絡みつき、動きを封じていた。呼吸もままならず、意識が遠のきそうになる。
「さあ、楽しもうじゃないか。観客からは見えないのが残念だが」
クモゲンゴロウは冷笑を浮かべ、ミラクルナイトに向かって突進してきた。彼の圧倒的な水中戦闘能力の前に、ミラクルナイトは成す術もなく追い詰められていく。
「このままでは…」
ミラクルナイトは必死に考えるが、体力も限界に近づいていた。水中での戦いを得意とするクモゲンゴロウの前に、彼女は徐々に劣勢に立たされていった。
水中でもミラクルナイトは息をすることができ、そのコスチュームは水を弾く特性を持っていた。しかし、奈理子のコットンショーツは水をたっぷりと吸い込んでしまう。気を抜くと身体が浮いてしまい、スカートは常に捲れ上がった状態だ。浮力に抗して水中で姿勢を保つだけで精一杯のミラクルナイトには、巨体に似合わず素早く泳ぐクモゲンゴロウに対抗する術がなかった。クモゲンゴロウの鋭い爪がコスチュームを切り刻んでいく。
「水中では奈理子の勝利を期待する市民の声援も聞こえまい。思う存分、奈理子を可愛がってやるよ」
と、クモゲンゴロウは奈理子の太股を見てニヤリと笑う。その視線に悪寒を感じ、両手で股を隠すミラクルナイト。
「隠しても無駄だ!奈理子の清純の証を剥ぎ取ってやる」
と、クモゲンゴロウが軽快に游泳しミラクルナイトに迫る。
「あぁ…水中では源五郎には勝てない…」
一瞬、敗北を覚悟したミラクルナイト。しかし、
「ん?水中?そうだ!私は水を操れる!」
と、大切なことを思い出す。
ミラクルナイトは無防備に自分の胸を抱くように両腕をクロスさせた。
「奈理子、ようやく諦めたか!」
とクモゲンゴロウが言う。
「水都は水の都。水は私の力の源…」
「何をブツブツ言っている!」
クモゲンゴロウの爪が奈理子のショーツに触れようとしたとき、
「ミラクルアクアティックラプチャー!」
と叫び、ミラクルナイトから放たれた水のオーラがクモゲンゴロウに直撃した。
「ぐわぁ!奈理子にこんな力が!」
水のオーラは水流となりクモゲンゴロウを水面へ押し上げていく。
一方、運河の岸辺では、イチジク女と市民が水面を眺めていた。水中の戦いは岸辺からは見えない。
「奈理子ちゃん、大丈夫かな…」
とMNSFCのメンバーが口にする。
「奈理子ちゃんは、ファンの期待を裏切らない。奈理子ちゃんを信じるんだ!」
と成好が叫ぶ。そのとき、巨大な水柱が水面から噴き出した。水柱の頂上まで吹き飛ばされたのはクモゲンゴロウだ。それを確認した市民は、
「奈理子が優勢だ!」
「凄いぞ、奈理子ちゃん!」
と水飛沫を浴びながら大歓声を上げる。
「だから、奈理子を甘く見るなと言ったでしょ」
とイチジク女が冷たくクモゲンゴロウに言葉をかける。
「クソッ、奈理子め…だが、水中の動きでは俺が上だ!まだ、勝負はついていない!」
とクモゲンゴロウはイチジク女を一瞥すると再び運河に飛び込んだ。
運河の水面が揺れ、クモゲンゴロウの巨体が再び水中に消えた。しかし、ミラクルナイトの姿はどこにも見えない。
「どこへ隠れた!」
苛立つクモゲンゴロウの目が鋭く動き、水中を探る。
「ここよ!」
突然、クモゲンゴロウの背後から響いた声に反応する間もなく、ミラクルナイトのしなやかな脚が彼の頭部に巻き付いた。
「ミラクルハピネスシザース!」
ミラクルナイトはそのままクモゲンゴロウの頭部をしっかりと挟み込む。強靭な太股に締め付けられたクモゲンゴロウは、意図せず水中で身動きが取れなくなる。
「これなら、得意の水泳も封じられるでしょ!」
ミラクルナイトの自信に満ちた声。
「グオォ…!」
クモゲンゴロウは苦痛に呻きながらも抵抗を試みる。その巨大な足を使い、力任せにミラクルナイトを引き剥がそうと必死に泳ぎ始めた。しかし、ミラクルナイトは冷静に水流を操り、彼の動きを封じ込める。そして次の瞬間、
「ミラクルハピネスホイップ!」
と叫びながら身を翻すと、クモゲンゴロウを勢いよく頭から護岸へと叩きつけた。
「ぐわっ!」
衝撃に水飛沫が激しく上がり、クモゲンゴロウは大きくダメージを受けたものの、一撃必殺のミラクルハピネスホイップも、威力は水中では十分に発揮されない。息を整えながらミラクルナイトは再びミラクルウイングを広げ、水面に向かって急上昇した。
「うわっ!今度は奈理子が出てきた!」
突然、水面から飛び出したミラクルナイトの姿に市民たちの歓声が湧き上がる。彼女の全身が水色の輝きに包まれ、ミラクルウイングが華やかに広がる。その姿は、まるで天使が舞い降りたかのようだった。
空中に舞いながら、ミラクルナイトは静かにステップを踏む。両手で光を集めるその動作は優雅そのもので、水都で暮らす誰もが知るミラクルナイトの最強必殺技、「リボンストライク」の発動モーションだった。
「リボンストライクだ!」
「奈理子ちゃん、綺麗だよ!」
脹脛、膝裏、太腿、靡くプリーツスカート、白いショーツから少しだけはみ出した可憐なお尻、奈理子の魅力的な生脚とミラクルナイトのしなやかな動きに、彼女を見守る市民の目が釘付けになる。キラキラと輝く光が奈理子の周囲を踊り、両手に集められた光がさらに強く輝いた。
「これで終わりよ!リボンストライク!」
高らかに宣言する声とともに、彼女は天に掲げた光を一気に水面へと撃ち下ろした。水色の輝きがリボンのような形となり、水面を通じて水中のクモゲンゴロウへと向かう。
運河全体が水色の光で満たされ、その中でクモゲンゴロウの巨体が浮かび上がる。彼の抵抗も虚しく、光に包まれた身体が徐々に消えていった。
「やった!今日は奈理子ちゃんが勝ったぞ!」
「さすがミラクルナイト!」
市民たちの歓声が運河全体に響き渡る。光が収まり、ミラクルナイトはゆっくりと着地した。疲れを隠せない表情ながらも、市民に向かって微笑みながら誇り高く立ち上がるその姿は、水都の守護神にふさわしいものだった。
運河の岸辺に着地したミラクルナイトを、集まった市民たちが熱狂的に出迎えた。
「奈理子、最高だ!」
「カッコよかったぞ!」
歓声が上がり、拍手が響き渡る。その中で、ミラクルナイトはふと周囲を見回した。イチジク女の姿はどこにもない。いつの間にか逃げ去ったようだ。
(イチジク女とも、いずれ決着をつけないと…)
ミラクルナイトはそう心に誓った。
「凜さんとキャンディは無事なの?」
心配そうに声を上げたミラクルナイトは、MNSFCのメンバーに囲まれて介抱されているセイクリッドウインドとドリームキャンディのもとへ駆け寄った。
「凜さんは大丈夫だよ」
セイクリッドウインドを抱き起こしながら、成好が答える。
ミラクルナイトはセイクリッドウインドのそばにしゃがみ込み、顔を覗き込んだ。
「奈理子、勝ったのね…」
セイクリッドウインドが呟く。彼女の目に安堵の色が浮かんでいた。そして、続けて
「今日はスカートも…」
とミラクルナイトをじっと見たかと思うと、不意にスカートを捲り上げた。
「ちょっと!」
白いショーツがチラリと見え、慌ててスカートを押さえるミラクルナイト。
「…パンツも脱がされていない。奈理子、よくやったわ」
と、セイクリッドウインドは満足げに頷いて褒めた。
「やめてください。みんな見てるんですから…」
ミラクルナイトは顔を赤くしながら、周囲を気にして俯いた。
「キャンディはどう?」
ミラクルナイトは次にドリームキャンディの方に目を向けた。
「かなり水を飲んでしまってるけど、そのうち目を覚ますと思う」
MNSFCの会員が答えた。
ミラクルナイトは倒れているドリームキャンディのそばに歩み寄り、その体を支えながら、優しく声をかける。
「寧々ちゃん、私がもっと早く来ていたら…」
「寧々は頑張ったよ。私が来るまで、一人で水中のクモゲンゴロウに立ち向かってた。私なんて瞬殺されちゃったけど…」
セイクリッドウインドが声を振り絞りながらミラクルナイトに言った。
「寧々ちゃんは頑張り屋さんだもんね」
とミラクルナイトは微笑む。
「それにしても、あのクモゲンゴロウを水中で倒せるなんて…すごいわね」
セイクリッドウインドは、驚きと称賛の目でミラクルナイトを見つめた。
「市民のみなさんの声援が、私を後押ししてくれたの」
ミラクルナイトはそっと市民たちに目を向けた。水中では声援そのものは聞こえなかったが、その想いはしっかりと奈理子の心に届いていたのだ。
「みなさん、今日も応援ありがとうございました!」
ミラクルナイトが深々と頭を下げると、岸辺に集まった市民たちから温かな拍手が三人のヒロインを包み込む。
それは、ただの戦いではなかった。守るべき人々と、応援する人々が共に心を繋げた戦いだったのだ。
夕日に照らされる水都の運河のほとりで、三人のヒロインと市民たちは勝利の余韻に浸りながら、それぞれの思いを胸に刻んでいた。
(第164話へつづく)
(あとがき)













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