DUGA

ミラクルナイト☆第172話

タマムシ男、散る…か」

穢川研究所の所長室に重苦しい空気が漂っていた。所長秘書の絹絵は頭を抱え、深いため息をつく。

「あのタマムシ男が……」

彼の力を知る者ならば、敗北は信じがたい事実だった。

「驚くことはないよ。奈理子の魅力にやられたなら仕方がない」

無造作にミラクルナイトのフィギュアを弄びながら、穏やかに語るのは所長・九頭。その口元には、どこか楽しげな笑みが浮かんでいた。

「ですが…!」

絹絵の声が上ずる。

水都ファミリーランドでの戦いでは、タマムシ男はエビカイコを逃がすためにドリームキャンディとの決着をつけず撤退した。しかし、今回は違う。タマムシ男はドリームキャンディとの決着を果たすべく、独断で出撃。そして結果は——

「ドリームキャンディは一蹴したものの…ミラクルナイトに敗れ、消滅…」

「ふん。飛ぶことが得意じゃないくせに、ミラクルナイトに空中戦を挑んだ。自業自得だな」

低く冷静な声が響く。

ソファーに腰掛け、スマホの画面を見つめる青年**——ガ男**。
その画面には、動画投稿サイトにアップされたばかりのミラクルナイトとタマムシ男の激闘が映し出されていた。

「敢えてミラクルナイトが得意な空中で戦ったのは、タマムシ男の油断…いや、慢心とも言えるかな」

九頭が愉快そうに言う。

「私がミラクルナイトを倒します」

絹絵の声には決意が滲んでいた。

——彼女の正体はエビカイコ
仲間の仇を討とうという覚悟に、九頭は薄く微笑んだ。

「いや、タマムシ男を倒して自信を付けた奈理子は手強いよ」

そう言いながら、九頭の視線がガ男へと向けられる。

「ミラクルナイトはタマムシ男を倒したことで、さらに空中戦への自信を深めたはずだ。その奈理子を、再び恐怖のどん底に叩き落とす

「……分かっていますよ。俺の出番でしょ」

ガ男はソファーから立ち上がり、不敵に笑った。

「僕はね、可愛い奈理子のピンチが見たいんだ」

九頭の言葉に、ガ男の笑みが深まる。

「夜空を支配する虫は——。
それを奈理子に、しっかりと思い知らせてやりますよ」

仄暗い笑みを浮かべながら、ガ男はゆっくりと背を向けた。
新たなる戦いの幕開けが、静かに近づいていた。


商店街のグフグフハンバーガー

昼下がりの店内で、奈理子と凜は水都市警の蒼菜と向かい合っていた。
テーブルの上には、数枚の写真が並べられている。

「綺麗な人ばかりですね」

奈理子が写真を見つめながら呟く。
写っているのは、二十代から三十代の女性たち。

しかし、蒼菜は溜息をついた。

「実際はそうでもないみたいよ。最近は加工アプリばかりで、本当の顔なんて分からないわ」

彼女の言葉には、どこか苦々しさが滲んでいた。

水都の街で相次ぐ若い女性の失踪事件——。

「それに、怪人が絡んでる訳ですか?」

隣の凜が尋ねる。

「またカエル男?」

奈理子の問いに、蒼菜は首を横に振った。

「今回はカエル男の事件じゃないの。水呑町で、この人がウズムシ男と口論していたという目撃情報があるのよ」

蒼菜は、一枚の写真を手に取った。

水呑町…」

奈理子と凜が顔を見合わせる。

水都一の歓楽街

酒場が立ち並び、風俗街としての側面も持つ。
飲食店やライブハウスが密集し、ネオンが瞬く夜の街。
女子高生の奈理子にとっては、縁遠い世界だった。

「目撃情報が正しいのか確証はないけど、怪人が絡んでいる可能性は否定できない。だから、奈理子さんと凜さんにも伝えておこうと思って」

蒼菜は手早く写真を片付けると、席を立った。

「それじゃ、私は仕事に戻るわ。気を付けてね」

そう言い残し、彼女は店を出て行った。

「……何か、ヤバい事件っぽいね」

蒼菜が去った後、凜がポツリと呟いた。

元地下アイドルの風間凜
彼女はかつて、水呑町のライブハウスでステージに立ったことがある。
だからこそ、その街の裏の顔も知っていた。

「でも、ウズムシ男が出たのが本当なら、放っておくことはできない……」

奈理子の表情が引き締まる。

「奈理子、あの街は本当に危険だから、気を付けなよ」

凜はそう言うと、奈理子の肩にそっと手を添えた。

水呑町——。
そこには、まだ見ぬ闇が広がっている


凜と別れた奈理子は、そのまま帰らずに水呑町へ向かった。

夜になればネオンが輝く歓楽街も、昼間は落ち着いた雰囲気。

路地裏に漂う酒の匂い、ゴミ拾いをする初老の男性、ホスト風の男に声をかけられる女性、そして、奇抜なファッションの人々——。

奈理子にとっては見慣れない光景だったが、ここではこれが“普通”なのかもしれない。

水呑公園のベンチに腰掛け、考えを巡らせていた奈理子は、周囲からの視線を感じた。

水都の街で、奈理子を知らない者はいない。

彼女の姿を見つけた人々のささやきが聞こえる。

(警察が何も掴めてないのに、私が何かできるはずないよね。帰ろっと)

そう思い、ベンチを立ち上がったその時——。

「奈理子ちゃん、一人で何してるの?」

背筋に冷たいものが走る。

「うッ!」

奈理子の目の前に、ウズムシ男が立っていた。

「ここは、女子高生が一人で来る所じゃないよ」

ウズムシ男は穏やかな口調だったが、その視線は奈理子のミニスカートから伸びる生脚に注がれていた。

「変身しなよ、奈理子ちゃん」

「女の人を誘拐しているのは貴方たちね!」

奈理子は怯えを悟られないように、毅然とした声で言い放つ。

(変身しなきゃ…)

辺りを見渡す。

公園の端に女子トイレがあった。しかし、それはよくある簡易的な公衆トイレであり、隠れて変身するには不安が残る

ウズムシ男は笑いながら言った。

「せっかく来てくれたんだから、遊んであげるよ、奈理子ちゃん」

彼の視線がねっとりと絡みつく。

「うぅ…」

「どうしたの?早くミラクルナイトに変身しなよ」

その言葉に、奈理子は目を見開いた。

「え…?変身させてくれるの??」

「生身の奈理子ちゃんよりも、ミラクルナイトになった奈理子ちゃんの方が、思いっきり遊べるじゃん」

ニヤニヤと笑うウズムシ男。

(くッ…完全に舐められてる……でも、変身できるなら願ったり!)

奈理子はアイマスクを装着した。

水色の光が彼女を包み込む。

シャツとスカートが消え、純白ブラショーツのみの姿になる。

そこから、次々とミラクルナイトのコスチュームが現れ、変身が完了する。

「今日も奈理子ちゃんのパンツは白だね」

ウズムシ男がにやりと笑った。

「うぅ…!」

それでも、ミラクルナイトは気を取り直し、力強く宣言する。

「水都の平和を乱す者は、ミラクルナイトが許しません!」

「俺はガ男様の配下のウズムシ男だから、普通のウズムシ男とは一味違うよ」

不敵な笑みを浮かべるウズムシ男。

その言葉に、奈理子の警戒心がさらに高まる。

「おっ、ミラクルナイトだ」
「奈理子、水呑に来てたのか」
「ウズムシ男もいるぞ!」

騒ぎを聞きつけ、次第に人が集まり始める。

水呑公園の広場。

その中心で対峙するミラクルナイトとウズムシ男。

彼女を待ち受ける運命とは——。


「おーっ!」
「可愛い!」

白いコスチュームに水色の光の粒子をまとい、輝くミラクルナイトの姿に、市民から驚きの歓声が上がる。

その声援を浴びながらも、ミラクルナイトの心は落ち着かなかった。

(普通のウズムシ男とは違う…? ガ男の配下だから、飛ぶ…とか……?)

目の前のウズムシ男を慎重に観察する。

しかし、見た目はごく普通のウズムシ男。特別な特徴もなさそうだった。

「可愛いねー、奈理子ちゃん」

ウズムシ男はニヤニヤと笑いながら、じりじりと距離を詰めてくる。

(見合っていても仕方がない。先手必勝!

ミラクルナイトは水のオーラを発生させようとした——その瞬間だった。

「え…? 何で??」

突然、ミラクルナイトのスカートがずり落ちた。

「奈理子ちゃんのスカート、いただき!」

背後から現れた別のウズムシ男が、ミラクルナイトのスカートを奪い取ったのだ。

「え〜?」

「奈理子ちゃんのスカート、いい匂い!」

予想外の出来事に、一瞬状況を飲み込めないミラクルナイト。

(ウズムシ男はいつも複数で現れる…1人だと思ったのは迂闊だった……! 私のバカ!

後悔が遅すぎた。

「はい、奈理子ちゃん捕まえた」

目の前のウズムシ男が、ミラクルナイトの右腕をガシッと掴む。

「あッ!」

さらに、背後から別のウズムシ男が左腕を捕らえた。

非力なミラクルナイトでは、2人がかりの拘束を振りほどくことはできない。

「奈理子ちゃんは可愛いんだから、顔を隠しちゃ勿体無いよ」

にやりと笑ったウズムシ男が、ミラクルナイトのアイマスクを剥ぎ取った。

「こんなに簡単に捕まえられるなんて思わなかったよ。奈理子ちゃん、弱いねー

容赦ない言葉が、ミラクルナイトの心に突き刺さる。

「ミラクルパワーを使われると面倒だから、ちょっと眠ってもらうね」

ウズムシ男たちは顔を見合わせると、ミラクルナイトを大きく持ち上げた。

「えッ…いやぁ~!」

しかし、ミラクルナイトの叫びは虚しく——

「ツープラトン・アトミックドロップ!」

ドンッ!!

衝撃がミラクルナイトの身体を打ち抜いた。

「ぎゃんッ!」

ツープラトンアトミックドロップ

ウズムシ男たちは、両側からミラクルナイトの身体を打ちつけるように技を繰り出したのだ。

激しい衝撃に、ミラクルナイトは前方へ投げ出され——

そのまま、意識を手放した

「可愛くて弱いって、奈理子ちゃん最高だな!」

「ドリームキャンディが来る前に、さっさと奈理子ちゃんをお持ち帰りしようぜ!」

楽しげに話しながら、ウズムシ男たちは失神したミラクルナイトに手を伸ばした、その時——。

「キャンディシャワー!」

虹色の閃光が走る。

「ド、ドリームキャンディ…!? 来るのが速すぎるぞ……!」

瞬く間に、一体のウズムシ男が消滅した。

「ひーっ!」

残ったウズムシ男は、運良くキャンディシャワーから逃れたものの、怯えたように物陰へと逃げ込んだ。

「奈理子さんをいじめる奴は、私が許さないんだから!

ドリームキャンディが、水呑公園に舞い降りる。

大勢の市民が取り巻く公園の中心。

失神したミラクルナイトを守るように、ドリームキャンディが静かに構えた。

次なる戦いの幕が、上がろうとしていた——。

(奈理子さん、またスカート脱がされちゃって……。あッ!このパンツは…)

ミラクルナイトを助けようと近寄ったドリームキャンディは、奈理子の白いショーツを見てハッとした。

奈理子は白いショーツを複数所持しているが、ミラクルナイトとして戦うたびにスカートを脱がされるため、奈理子のショーツの種類はほぼ把握している。

——今日は何度も見たことがある奈理子の純白ショーツ。

生地が厚めのシンプルなコットンショーツだ。 だが、よく見ると毛玉や黒ずみがあり、かなり使用感がある。

(これ、もうくたびれちゃってる……。奈理子さん、結構稼いでいるのに意外と質素な生活してるんだな……。前回は新しいパンツが1回でダメになったど、奈理子さんを長く守ってきたこのパンツも今日が見納め??)

しみじみと奈理子の白いショーツを見つめるドリームキャンディ。

「……はッ! そんなこと考えてる場合じゃない!」

我に返ったドリームキャンディは、ミラクルナイトの頬にパンパーン!と往復ビンタを食らわせた。

「んッ…あ、キャンディ……どうしてここに……?」

ミラクルナイトが目を覚まし、ぼんやりとドリームキャンディを見つめる。

「凜さんから聞いたんですよ。奈理子さんは、きっと事件を解決しようと水呑町に行くって。

「またキャンディに助けられちゃったね……」

ドリームキャンディに支えられ、ミラクルナイトはふらつきながらも立ち上がる。

「ウズムシ男は追い払いましたよ」

「ガ男配下のウズムシ男だけに……手強かった……」

「えッ?」

ドリームキャンディは耳を疑った。

どう見ても普通のウズムシ男だった。

(奈理子さんはタマムシ男のような強敵を見事に倒すのに、どうしてウズムシ男みたいな雑魚に簡単にやられてしまうんだろう?

ドリームキャンディは首をかしげた。

「キャンディ、どうしたの?」

ミラクルナイトがドリームキャンディの顔を覗き込んだ、その瞬間——

スルッ……

「えッ?」

ミラクルナイトのショーツが、足首までずり下ろされた

「いやぁ~! もう、何なのよ!!」

ミラクルナイトはしゃがみ込む。

背後から、もう一体のウズムシ男が忍び寄っていたのだ。

「奈理子ちゃん、パンツ新しいのに変えたほうがいいよ」

ウズムシ男は笑いながら逃げていく。

「うぅ……」

涙目で使い込んだショーツを引き上げるミラクルナイト。

これは、迷いながらも「あと一回履いたら捨てよう」と決めていたショーツだった。

まさか、こんな形で指摘されるとは……。

「奈理子さん、追いますよ!」

ドリームキャンディが、すぐに走り出そうとする。

「でも……私、こんな格好なのに……」

ミラクルナイトはスカートを履いていない。

「いつものミラクルナイトの格好じゃないですか。ことは緊急を要します。恥ずかしがっている場合じゃありません!」

ドリームキャンディは何事もないかのように言う。

(……確かに……)

だいたい、ミラクルナイトはすぐにスカートを脱がされる。

もはや、スカートが無い状態の方が戦闘時のデフォルトのようなものだ。

「……分かったわ……」

覚悟を決めたミラクルナイトは、ドリームキャンディとともにウズムシ男の後を追った——!


ウズムシ男を追い、夕方の歓楽街・水呑町を駆け抜けるミラクルナイトとドリームキャンディ。

だが、ミラクルナイトは スカートを脱がされたままだった。

「おっ!奈理子の生パン!」
「奈理子、パンツ丸見え!」

道行く人々が驚き、振り返る。

(うぅ…恥ずかしい……)

羞恥に耐えながらも、ミラクルナイトはドリームキャンディの後を追い走る。

「奈理子さん、急いでください!」

ドリームキャンディは必死にウズムシ男を追う。

そのとき——

突如、路地から別のウズムシ男が飛び出し、ミラクルナイトに抱きついた

「わあぁ!」

不意を突かれたミラクルナイトは 押し倒される。

「奈理子ちゃーん! いい匂いだー!」

「もう!やめてよ!」

ミラクルナイトは必死にウズムシ男を押しのけようとするが、びくともしない。

「ヘヘっ! 奈理子ちゃんの 使用済みパンツ 頂き!」

ウズムシ男の手が、奈理子の白いショーツにかかった——

キャンディシャワー!

ドリームキャンディの声と共に、虹色の光が炸裂する!

「ぎゃああ!」

ミラクルナイトに抱き着いたウズムシ男は 光の中で消滅した。

「……あ! 逃げた!」

ドリームキャンディが顔を上げる。

ウズムシ男に気を取られている間に、 本命のウズムシ男を見失ってしまったのだ。

「ゴメン、キャンディ……」

ミラクルナイトが申し訳なさそうに言う。そして、純白の翼・ミラクルウイングを展開!

「私が空から探してくるよ!」

ミラクルナイトが舞い上がる。

「奈理子さん、お願いします!」

地上からドリームキャンディが声をかける。

「やっと空に上がれた……。恥ずかしかったぁ……」

——パンツ丸出しで街中を走る羞恥プレイから、ようやく解放された。

ミラクルナイトは飛んでウズムシ男を追いたかったが、ドリームキャンディが駆け出したために仕方なく一緒に走ってウズムシ男を追っていたのだ。

ミラクルナイトは、雑居ビルが立ち並ぶ水呑町の空を飛び、ウズムシ男の行方を探す。

「どこに行ったの……?」

視線を巡らせると——

「あっ! いた!」

ウズムシ男が、廃墟ビルに入っていくのを発見した。

「こんな街中にアジトが……。これが、ガ男の拠点?」

ミラクルナイトは踵を返し、ドリームキャンディのもとへと急行する。

「キャンディ、見つけたよ!」

空から声をかけると、ドリームキャンディが両手を広げた。

「やっつけに行きましょう。連れて行ってください!」

——そう、ドリームキャンディは飛べない。

ミラクルナイトは急降下し、ドリームキャンディの身体を抱き上げる。

「奈理子さん、いい臭い……なのかな?」

胸にしがみつくドリームキャンディが呟く。

夏の夕方、汗の匂いがほんのり漂う。

「フローラルの香りよ」

ミラクルナイトは 即座に嘘をついた。

「でも、敵は奈理子さんの この匂いが好き なんですよね。不思議ですねぇ。パンツとか思いっきり臭いのに」

臭い嗅がないでよ!!

そんな会話を交わしながら、廃墟ビルの上空に到達する。

「どこに降りる?」

ミラクルナイトが問いかけると、ドリームキャンディは堂々と答えた。

正面から堂々と乗り込みましょう!

2人の戦士は、廃墟ビルの正面に舞い降りた。

次なる戦いが、今始まる——!


「おじゃましま~す。ガ男いますか~?」

ドリームキャンディが 8階建ての廃墟ビル の玄関を開け、中へと足を踏み入れた。

続いて、ミラクルナイトが後に続く。

——薄暗い玄関ホール。

壁のペンキは剥がれ落ち、天井からは剥き出しの配線が垂れ下がる。

この建物は かつて病院だった。

今ではその面影もなく、廃墟と化している。

「誰もいませんね」

ドリームキャンディが周囲を見渡す。

「……キャンディは怖くないの?」

ミラクルナイトが少し怯えた声を漏らした。

ここは、悪い噂のある場所だった。かつて何人もの患者が この病院で亡くなり、幽霊が出る と囁かれている——

「ただの都市伝説ですよ」

ドリームキャンディは軽く返すと、改めて内部を観察する。

この広いスペースは 病院時代の待合室 だろうか?

天井はそれほど高くない。キャンディチェーンの射程内だ。

(……ここで決着をつけないと)

ドリームキャンディは警戒を強める。

——自分は飛べない。

もしガ男が外へ逃げれば、 空を飛ぶ敵には攻撃の手段がなくなる。

空から一方的に狙われるだけだ。

「奈理子さん、2階に行きましょう」

そう言って振り返った瞬間——

「きゃぁ!!」

ミラクルナイトが 悲鳴を上げて、ドリームキャンディに抱きついてきた。

「ど、どうしたんですか?」

「……あそこで、何か動いた……!」

指差す先—— 隣接する事務室。

ドリームキャンディが すかさず声を張る。

「出て来なさい!」

すると——

「奈理子ちゃん、そんなに怖がらなくてもいいよ」
「たっぷり可愛がってあげるよ」

——ワラワラと 3体のウズムシ男が姿を現した!

「ガ男はいないの?」

ドリームキャンディがロリホップハンマーを手に問い詰める。

「俺たちは 奈理子ちゃんを捕まえて連れて来い って、ガ男様に命令されたんだ」

ウズムシ男の一体がニヤつきながら答えた。

「……私が奈理子さんを渡すはずないでしょ。ガ男のいるところに案内しなさい。私がガ男の相手をしてやる」

ドリームキャンディが 毅然とした態度 で言い放つ。

しかし——

「ガ男様は、ドリームキャンディは 空を飛べないつまらない奴 だから 相手にするな って言ってたなぁ」

ウズムシ男が 嘲笑うように言い放った。

……私がつまらない奴!?

——カチン。

たしかに 空を飛ぶ敵が苦手 なのは事実。

けれど、『つまらない』呼ばわりされたことには納得がいかない。

「ガ男……許さない!!」

ドリームキャンディの 怒りが燃え上がる。

「キャンディ、ガ男の目的は私なのよ」

ミラクルナイトがドリームキャンディを宥めた。

さっきまで幽霊を怖がっていたミラクルナイト。

しかし、出てきたのが 怪人・ウズムシ男 だったため、落ち着きを取り戻していた。

「やっぱり、奈理子ちゃんは可愛いなぁ」
「奈理子ちゃんの使い込んだ白パンツ、いい匂いがしそう」

ウズムシ男たちは ミラクルナイトを舐めるように見つめる。

——その下半身は、白いショーツと膝丈のブーツのみ。

それをじっくり眺めながら ニヤニヤと近づくウズムシ男たち——

しかし——

ミラクルナイトの周囲に水のオーラが発生する!

ミラクルアクアティックラプチャー!!

水のオーラが ウズムシ男たちを包み込む!

「うわー! 奈理子ちゃんの太腿にスリスリしたかったー!」
「俺は奈理子ちゃんのパンツの匂いを嗅ぎたかったー!」
「俺は奈理子ちゃんの を舐めたかった ……!」

——断末魔と共に、 ウズムシ男たちは消滅した。

静寂が訪れる。

ミラクルナイトは 息を整えながら 振り返った。

「キャンディ、2階に行こう」

ドリームキャンディは頷き、2人は 薄暗い階段を駆け上がる——!


——ギシッ、ギシッ……。

古びた階段を踏みしめながら、ミラクルナイトとドリームキャンディは2階へと上がっていく。

「奈理子さんのパンツ、汚れちゃいましたね」

ドリームキャンディが、ミラクルナイトの 白いショーツ を見てぽつりと呟いた。

もともと 使い込まれていた そのショーツは、水呑公園での激闘を経て 土や埃でさらに汚れてしまっている。さらに白だから 汚れが目立つ

「こんなことになるなら、新しいパンツを穿いてくればよかった……」

ミラクルナイトがため息混じりに言う。

「でも、タマムシ男を倒したときは 新しいパンツが一回でダメになった じゃないですか。だから今日は その使い古したパンツでよかった んですよ」

ドリームキャンディは さらっと言うが、妙に説得力があった。

ミラクルナイトは 苦笑い しながら、階段を上り切る。

——そして、2階。

2人が足を踏み入れると、そこには 待ち構えていたウズムシ男が3体。

「奈理子ちゃんたち、よく来たねぇ〜」

1体目のウズムシ男が ニヤニヤしながら 歓迎の声を上げた。

「俺たちと楽しく遊ぼうぜ」

2体目のウズムシ男が ぺろりと舌なめずり する。

「やっと奈理子ちゃんの 白パンツに顔をうずめられるぜ……

3体目のウズムシ男が 腕を擦り合わせながら 近づいてくる。

「もう、ウンザリだよ!」

ミラクルナイトは 水のオーラを漂わせ、身構える。

「数が多いですね。奈理子さん、分担しましょう!」

ドリームキャンディが ロリホップハンマーを構えた。

「私が右の2体をやります。奈理子さんは左の1体を!」

ミラクルナイトは 頷くと、目の前の1体に突進する!

「ミラクルアクアティックラプチャー!!」

——シュバババッ!

ミラクルナイトが水のオーラを放つ!

しかし——

「そんな単純な攻撃、見切ってるぜ!」

ウズムシ男は 素早く飛び退き、回避!

「だったら!」

ミラクルナイトは すかさず空中へ舞い上がる。

「ほらほら、下から見上げる奈理子ちゃんのパンツも最高 だぜ、奈理子ちゃん!」

ウズムシ男が ニヤつきながら 追いかける。

ミラクルヒッププレス!!」

——バゴォン!!

ミラクルナイトは反転し 勢いよくお尻をウズムシ男の顔面に押し付ける。

「ぐへぇ!!」

顔面に直撃を受けたウズムシ男が、床を転がる!

「まだ……終わらない!」

ミラクルナイトは 追撃に入る——!

一方——

ドリームキャンディは 2体のウズムシ男に囲まれていた。

「お前、空を飛べねぇんだろ? 逃げ場ねぇじゃん!」

キャンディのドレスも脱がしてやるよ!

2体のウズムシ男が 同時に襲いかかる!

「甘いですよ……」

ドリームキャンディは ニヤリと笑う。

「キャンディチェーン!!」

——ギュンッ!!

ドリームキャンディの ロリポップハンマーが鎖状に変形し、ウズムシ男2体を一瞬で捕らえる!

「な、なんだ!? 体が動かねぇ!」

「キャンディシャワー!!」

——バシュウウウウ!!

虹色の光線がウズムシ男2体を包み込む!

「ぐぎゃあああああ!!」

「お、俺の……夢が……!!」

——バチバチバチッ!!

光の粒子と化し、ウズムシ男2体は消滅した。

「……ふぅ」

ドリームキャンディは 一息つくと、ミラクルナイトの方を見た。

「はぁっ!」

ミラクルナイトは 空中から急降下!

ミラクルハピネスシザース!!」

「う、うわぁぁぁぁ!!」

ウズムシ男の 頭部を太腿で挟み込む!

「俺の……奈理子ちゃ……」

—— ふわ~~ん……

ウズムシ男は 奈理子の匂いに包まれながら消滅した。

「やった……!」

ミラクルナイトは 安堵の息をつく。

ドリームキャンディが 駆け寄る。

「奈理子さん、ナイスでした! これで2階は制圧ですね!」

「でも…… まだ上がある……

ミラクルナイトは 上階を見上げた。

ガ男の気配は まだ感じない。

「先を急ぎましょう!」

ドリームキャンディの掛け声とともに——

ミラクルナイトとドリームキャンディは 廃墟ビルの3階へと駆け上がっていく!


——ギシ……ギシ……。

古びた廃墟ビルの 3階 に足を踏み入れたミラクルナイトとドリームキャンディ。

そこは、かつて ナースステーション だったらしい。

壁際には 古びたカウンター があり、その奥には 病室がいくつも並んでいる。

「病室を一つずつ見ていきますか?」

ドリームキャンディが慎重に提案する。

「いや……ガ男は 偉そうな奴 だから、こんな病室に隠れたりしないでしょ。4階に行こ!

ミラクルナイトは、迷わず次の階へ進もうとする。

——しかし、その時だった。

「チーン——」

突然、動くはずのない エレベーターの扉 がゆっくりと開いた。

「奈理子ちゃん、待ってたよ〜♪」

中から現れたのは ウズムシ男!

「ええっ!? 壊れたエレベーターの中でずっと待ってたの!?

意外な登場にドリームキャンディが 驚きの声を上げる。

しかし——

「……あっ!あれは!!」

ミラクルナイトの 瞳が大きく見開かれた。

ウズムシ男の 手に握られているもの を見て、息を呑む。

それは ミラクルナイトのスカートだった。

「水呑公園で私のスカートを奪った奴ね……!返してよ!」

ミラクルナイトが 怒りの声を上げる。

「奈理子さん、そんな素直に返すような相手じゃないですよ」

ドリームキャンディが 冷静に警戒し、構えを取る。

すると——

「その通り♪ スカートは返さない!

ウズムシ男は 得意げにスカートをひらひらと振る。

「それどころか……次は奈理子ちゃんのパンツをいただくぜ! 体液をたっぷり吸った香ばしいパンツをな!

「どこまでスケベなの……!」

ミラクルナイトは 心底呆れたように息をつく。

「ウズムシ男のくせにいい気にならないでよ!」

ドリームキャンディが キャンディシャワーの構えを取る。

しかし——

「おっと、待った!」

ウズムシ男が 片手を上げて制止した。

「俺は奈理子ちゃんと戦いたいんだ!正々堂々、一対一の勝負をさせてくれ!

「は? ウズムシ男の言うことなんて信用できないわ! どうせ他にも仲間が潜んでるんでしょ?」

ドリームキャンディが 疑いの目 を向ける。

「いや、本当に この階には俺一人しかいないぜ。 俺はただ、奈理子ちゃんのパンツが欲しいだけ だ!」

変態!! 私は変態と戦いたくない!!

ミラクルナイトは 思わず拒絶の叫びを上げる。

「う〜ん……でも、ウズムシ男は本当に一人だけみたいですし……。奈理子さん、ちゃっちゃとやっつけちゃってください!

ドリームキャンディが あっさり引いた。

「えっ!??」

驚くミラクルナイト。

——このパターンはまずい。

敵が ドリームキャンディを恐れて ミラクルナイトを指名する。

そして、ドリームキャンディが 戦いから退く。

この展開になると、大抵ミラクルナイトは負けるのだ。

「よっしゃー!奈理子ちゃんと 一騎打ちだ!!

ウズムシ男が 腕をぶんぶん振り回しながら気合を入れる。

「くぅ……!スカートは絶対に返してもらうわ!

覚悟を決めたミラクルナイトは 戦闘態勢に入った。

——ミラクルナイト vs. ウズムシ男、勝負開始!!


廃墟ビル三階。瓦礫が散らばるフロアで対峙するミラクルナイトとウズムシ男。

「奈理子さん頑張れ〜!」

ミラクルナイトがウズムシ男一体に負けるはずはないと信じるドリームキャンディの明るい声援が響く。

(相手はウズムシ男1人だけ。負けない!)

ミラクルナイトも覚悟を決めた。

「じゃ、奈理子ちゃんのパンツを頂いちゃうよー!」

ウズムシ男が楽しげに言うやいなや、ウズムシ男が三体に分裂した。

「ええ〜!」

一対一の戦いだと思っていたミラクルナイトが驚く。

「あ〜!やっぱり嘘だったんだ!」

ドリームキャンディもウズムシ男に抗議する。しかし、

「分裂はウズムシの能力だよ。自分の能力を発揮して何が悪いのさ」

得意気なウズムシ男。

「う〜ん…確かに、ウズムシって分裂と再生くらいしか能力無さそうだし…」

ドリームキャンディは言いくるめられてしまった。

「キャンディ、納得しないでよ!」

ミラクルナイトは不満げだ。

「3つの体で、奈理子ちゃんをたっぷり可愛がってあげるよ」

三体のウズムシ男が奈理子の白いショーツに熱い視線を浴びせる。

「いゃぁ!」

身の危険を感じたミラクルナイトの悲鳴。

「行くよ、奈理子ちゃん。僕らの三位一体の攻撃で逝かせてあげる♡」

ミラクルナイトは三体に分裂したウズムシ男を前に、唇を引き結んだ。

「いくよ、奈理子ちゃん。三位一体の可愛がりアタック、始まるよ〜!」

「な、なによそれ…!」

警戒するミラクルナイト。

ウズムシ男Aが真正面から突進してくる。その軌道は単純で、容易にかわすことができる――はずだった。

「今だ!」

と同時に、背後からウズムシ男BとCが疾風のごとく回り込んできた。

「うわっ!」

一瞬のうちにミラクルナイトの両肩を押さえつけ、体を浮かせるように持ち上げる。

「ちょっ、やめ――!」

叫ぶ間もなく、三体目のウズムシ男Aが下から滑り込み、タックルの勢いそのままにミラクルナイトの腹部へ肩を突き入れた。

「ぐはっ!」

勢いよく吹き飛ばされたミラクルナイトは、柱に背中を叩きつけられ、石片がパラパラと床に舞う。だが連携は止まらない。

「連撃はここからだよ、奈理子ちゃん!」

今度はウズムシ男Bが左、Cが右からクロスするように突進し、すれ違いざまに両足を払うような体勢でミラクルナイトを狙う。

「きゃあっ!」

宙に浮くミラクルナイト。その体を、今度はウズムシ男Aが空中でキャッチすると、片手でぐるりと一回転させて投げ飛ばした。

「まるで、ジェットストリームアタック…!」

見守るドリームキャンディが呆然と呟く。

翻弄されるミラクルナイト。ウズムシ男たちは交代で攻め、隙を与えない。分裂という特性を活かした、まさに連携の鬼。

「くっ…これじゃ、攻撃のタイミングが…!」

ミラクルナイトは立ち上がるたびに押し倒される。彼女のミラクルパワーがなかなか発動できないほど、三体のウズムシ男は巧妙かつしつこく、戦術的に動いていた。

果たして、彼女はこの連携攻撃から脱することができるのか――。


廃墟ビルの3階、瓦礫と崩れた壁の隙間から差し込む光が、対峙する者たちの姿を鈍く照らしていた。ミラクルナイトの目の前で、ウズムシ男が不気味に笑う。

「行くよ、奈理子ちゃん。三位一体のジェットストリームアタック、受け止めてごらん!」

一体が突進の構えを見せる。その動きに集中したミラクルナイトの死角から、残る二体が左右から飛び出した。

「なっ…!?しまっ…!」

次の瞬間、ミラクルナイトは身動きを封じられ、強引に投げ飛ばされた。回転する視界、逆さまの重力――。

「奈理子さん、逃げてっ!」

ドリームキャンディの声が響く。

だが遅い。ミラクルナイトの身体は、三体のウズムシ男の連携によって床へと叩きつけられた。

「うあっ……!」

鈍い衝撃と共に、奈理子の意識は闇へと沈んだ。ミラクルウィングは消え、彼女の身体はぐったりと崩れ落ちる

「奈理子ちゃん、もう戦えないね〜。じゃあお楽しみタイムかな?」
「パンツもらってくね〜!」

にやつくウズムシ男たちがミラクルナイトに手を伸ばす――そのとき。

「やめなさい!」

その声は鋭く、そして力強く響いた。

虹色の光が廃墟の闇を切り裂き、ドリームキャンディがその場に舞い降りる。

「奈理子さんをパンツを奪うなんて…絶対に許さない!」

ドリームキャンディの怒りに燃える瞳が、三体のウズムシ男を貫く。

「まとめて消えなさい! キャンディシャワー!」

渦巻く虹光が放たれ、三体のウズムシ男を包み込んだ。

「ひぃぃ!やっぱりキャンディは洒落にならんっ!」

断末魔の声を上げながら、ウズムシ男たちは光に飲まれ、消えていった。

静寂が訪れる。

ドリームキャンディは、倒れたミラクルナイトに駆け寄り、そっと彼女の手を握る。

「大丈夫、奈理子さん。ここからは私が守ります」

微かに動いたミラクルナイトの唇が、安心したように微笑んだ気がした。


「奈理子さん、しっかりしてくだい!」

ドリームキャンディがミラクルナイトを揺らす。

「んッ…ウズムシ男は……」

ミラクルナイトの瞳が開いた。

「この階のウズムシ男は倒しました!」

ドリームキャンディが明るく告げる。

「また寧々ちゃんに助けられたね…」

「そんなことより、奈理子さんのスカートを取り返しましたよ!」

ドリームキャンディは水呑公園でウズムシ男に奪われたミラクルナイトのプリーツスカートを振る。

「ありがとう、寧々ちゃん……!」

ミラクルナイトは手を伸ばすが、ドリームキャンディはサッとスカートを引いた。そして、

「その前に…」

奈理子のショーツをパンパンと叩いた。

「寧々ちゃん、何を…」

「白いパンツは奈理子さんの清純の証です。綺麗にしないといけません」

下半身はショーツとブーツだけで戦っていたミラクルナイト。奈理子の白いショーツは土や埃で汚れていた。しかも、汗で全体的に湿っている。元々使い込んで生地がよれていたショーツだ。

「う〜ん…汚れが落ちないですね……」

「寧々ちゃんもういいわ……」

ミラクルナイト――奈理子は、ドリームキャンディが手渡してくれたプリーツスカートを両手で受け取った。

「ありがとう」

白と水色を基調としたミラクルナイトのコスチューム。その中で、このスカートだけが欠けていた。今までの戦いで何度も脱がされ、奪われ、晒されてきたが、それでも奈理子にとってこのスカートは“ヒロインの誇り”だった。

スカートを身に着けた瞬間、奈理子の中にスッと芯が通ったような感覚が走る。

「やっぱり、スカートがあるだけで全然違う…!」

くるりと軽くターンして、ふわりと広がるスカートの感触を確かめる。軽やかに舞う裾の下、ふと見えた白いパンツにドリームキャンディが微笑んだ。

「奈理子さん、ちゃんと“普通のヒロイン”に戻りましたね」

奈理子も微笑み返す。

「うん、今なら自信を持って名乗れる。――水都の守護神、ミラクルナイト、完全復活!」

その宣言は、たった一枚のスカートに支えられた決意だった。

そして、ふたりは再び階段を上る。次なる戦いが待つ上の階へ。ミラクルナイトのスカートが揺れ、凜としたその背中が、自信と希望に満ちていた。


薄暗いコンクリートの階段を、ミラクルナイトとドリームキャンディが駆け上がっていた。二人の呼吸は少し荒いが、足取りには迷いがない。

4階も3階と同じ作りで病室が並んでいるようだった。敵の姿は見当たらない。目指すはこのビルの更に上の階――そこに待ち受ける強敵を倒すためだ。

「上に行こう」

ミラクルナイトがドリームキャンディにし、5階へと階段を登る。

「次は5階ですね、奈理子さん」

ドリームキャンディが息を弾ませながらも笑みを浮かべて言った。

ミラクルナイトは力強くうなずく。

「うん、急ごう。でも油断しちゃダメよ」

静かな声に緊張がにじむ。

ところが次の瞬間、二人が4階と5階の間の踊り場に足を踏み入れた途端、ドリームキャンディは背後に気配を感じた。

「ん?」

ドリームキャンディが振り返り、目を凝らす。その薄暗がりから、ヌメヌメと光る人影がずるりと這い出してきたのだ。

「うわっ、出た!ウズムシ男が三……三匹? いや、三人?!奈理子さん、スカートの中を覗かれてますよ!!」

ドリームキャンディが目を見開いて叫ぶ。

「え?」

振り返るミラクルナイト。そこには、ウズムシ男と呼ばれる下級怪人がミラクルナイトを見上げていた。全身が平べったく軟体動物のようにくねり、肌は粘液でテカテカと光っている。三体ともしゃがみ込み気味の悪い笑みを浮かべていた。!

「へへっ、奈理子のパンチラいい眺め♪」

ニヤけるウズムシ男。

「いやぁ~!!」

ミラクルナイトは慌ててスカートを押さえる

「へっへっへ、待ってたぜぇ、奈理子ちゃん!」

真ん中のウズムシ男がいやに甲高い声で笑い、左右の二体も

「5階には行かせないウズ~!」

と声を揃えて威嚇するように腕を広げた。ウズムシ男たちはじりじりと間合いを詰めてくる。

ドリームキャンディは鼻先に漂う生臭い匂いに思わず顔をしかめた。

「もう、くさいし気持ち悪いんだから!」

彼女はキャンディーチェーンをくるりと振り回し、構えを取る。

「奈理子さん、サクッとやっつけちゃいましょう!」

ミラクルナイトも身構えた。

「うん、行くわよ!」

頼もしい声が響く。

その声を合図にするかのように、ウズムシ男たちが一斉に飛びかかってきた。ヌルリと長い腕が鞭のようにしなり、ドリームキャンディめがけて伸びてくる。

「甘いよ!」

ドリームキャンディは素早く横に跳んで攻撃をかわした。直後に床板へバシャンッと粘液が叩きつけられ、踏み場がヌルヌルと光る。

「きゃっ、危ない…当たったらベトベトになっちゃうところだった!」

彼女は床の粘液を見てヒヤリとした声をあげた。

同時に、別のウズムシ男二体がミラクルナイトに襲いかかる。

「ウズウズさせてやるぜぇ!」

一体が不気味に叫び、もう一体は無言で横合いから飛びついてきた。ミラクルナイトは落ち着いて身を翻し、迫る敵の腕を払い除ける。ヌチョッと嫌な感触が腕にまとわりついたが、

「うっ…気持ち悪い……」

と小さく息を吐いた。それでも油断はしない。すぐさま体勢を立て直し、次の攻撃に備える。

ドリームキャンディはミラクルナイトに敵が二体集中しているのを見て、

「えいっ!」

と機転を利かせた。彼女は腰のポーチから一握りのカラフルなキャンディ玉を取り出し、敵たちの足元めがけてぱらぱらと撒いたのだ。転がったキャンディが床一面に散らばる。

「なんだぁ!?」

ウズムシ男の一体が驚いて足を滑らせた。

「うわっ!?」
「おっとっと!」

残りの二体も次々とツルンと滑ってバランスを崩す。三体とも足元がおぼつかず、互いにぶつかり合って大混乱だ。絶好のチャンスだった。

「今です、奈理子さん!」


ドリームキャンディが明るい声で叫ぶ。

ミラクルナイトは力強くうなずくと、水のオーラを発生させた。

「ミラクルアクアティックラプチャー!」

スカートをヒラヒラと舞い上げながら素早く水のオーラを放つ。

「うわぁっ!」
「あぎゃぁー!」
「ふぎゃぁ!」

三体のウズムシ男は水のオーラに包まれながら消滅していった。

「やったぁ!奈理子さん!」

ドリームキャンディが小さくガッツポーズを作り、ウインクした。

ミラクルナイトは軽く笑って構えを解く。

「ふう、なんとか片付いた」

二人がほっと見合わせた、その瞬間だった――。

静まり返った階段に、パチ…パチ…パチ…とゆっくりした拍手の音が響いた。ハッとして顔を上げると、踊り場の上方、5階の入り口付近に人影がある。

「ガ男…!」

ミラクルナイトが低くつぶやく。空中戦を得意とする強敵、ガ男がついに姿を現したのだ。ガ男はにやりと嫌な笑みを浮かべて二人を見下ろしている。

その瞬間、冷たい風が吹き抜けた。

「来ます!」

ドリームキャンディがキャンディチェーンを構える。

その予感は的中した。床の上方、吹き抜けの天井からふわりと舞い降りてきたのは、闇の中に浮かび上がる二枚の羽根。

「ようこそ、歓迎するよ。水都一の美少女と謡われる野宮奈理子と……その付き添いの子守役」

ガ男だった。闇の中からその大きな羽根が虹色に輝き、ミラクルナイトたちを見下ろしていた。

「付き添い……?」

ドリームキャンディが眉をひそめる。

「あなたの相手は私よ!」

「フン、地面しか歩けぬ者に用はない」

と、ガ男は彼女を一瞥しただけで視線を逸らした。

「俺が欲しいのは、空を翔る純白の天使…奈理子一人だ」

「えっ……!」

その瞬間、ミラクルナイトの背後に突風が巻き起こる。ガ男の動きは早かった。ほとんど風と同化するようにミラクルナイトへと迫り、背後からその腕を拘束する。

「う、うそっ……! キャンディ……っ!」

「奈理子さん!」

ドリームキャンディが駆け寄ろうとした、その前に突如ウズムシ男が分裂して立ちふさがった。

「通さないよ〜ん!」

「邪魔ッ!!」

ドリームキャンディのキャンディチェーンが唸りを上げて振るわれる。しかし、その一瞬の足止めの間に──

「さあ、夜の空へ踊ろう。今宵の主役は……お前だ、ミラクルナイト」

ガ男は窓ガラスを突き破り、ミラクルナイトを抱えたまま、夜の空へと飛翔した。ビルの上層から、彼の羽ばたきとともに細かいガラス片がきらめきながら散ってゆく。

「奈理子さんーーーっ!!」

ドリームキャンディの叫びは届かない。夜空に浮かぶ二つの影が、ネオンきらめく水呑の空に吸い込まれていった。

そして、空では──

ミラクルナイトとガ男の、本当の戦いが始まろうとしていた。


夜の水呑町。煌びやかなネオンの上空を、白と黒の影が舞う。

「はあっ!」

ミラクルナイトはミラクルウイングを大きく広げ、宙を滑るようにしてガ男の猛攻をかわした。プリーツスカートが風をはらみ、ヒラリと舞うたび、光の粒子が夜空に流れる。

対するガ男は、背中の鱗粉を巻き上げながら自在に空を滑空する。

「逃げても無駄だ。空は、我が縄張りだ!」

ミラクルナイトは光弾――ミラクルシャインブラストを放つが、ガ男はそれをひらりとかわし、すぐに接近する。

「そんな攻撃など俺には当たらない」

「まだ……終わってないわ!」

空中での身のこなしは互角。だが、パワーでは圧倒的にガ男が上。防戦一方のミラクルナイトは、次第に押し込まれていく。

その様子を、地上から見上げる市民たちがいた。水呑公園の広場に集まった人々の間に、緊張が走る。

「がんばれミラクルナイト!」
「負けるな! 水都の守護神!」
「奈理子ちゃーん!飛びながらの戦い、かっこいいよー!」

スマートフォンを空に向ける者、拳を握りしめて見守る者。誰もが、その小さな戦士に心を寄せていた。

「うぅ……っ!」

ガ男の翼が発する風圧に煽られ、ミラクルナイトはバランスを崩す。一瞬、空中で姿勢が乱れたそのとき――

「奈理子ちゃん、がんばってー!」
「立てー!下から見てるぞー!」

無数の声援が夜空に響き、ミラクルナイトの鼓膜に届いた。

「……ありがとう、みんな……!」

夜風を切ってミラクルナイトは旋回する。髪を飾る白いリボンがたなびき、再びガ男に向き直った。

「今度は……私の番よ!」


夜の水都の空に、白と金の翼が交差する。
月明かりを浴びて浮かぶのは、プリーツスカートをひらめかせながら飛ぶミラクルナイトと、鱗粉をまとい滑空するガ男。

「さあ、飛べるだけじゃ勝てないぞ、奈理子!」

ガ男が羽ばたき、毒の鱗粉を撒き散らす。ミラクルナイトはミラクルウイングを広げて回避を試みるが、濃厚な鱗粉に包まれ、視界が霞んだ。

「くっ……なんか、くら……い……」

ぐらりと身体が傾き、翼の光が弱まる。ガ男が背後から襲いかかり、その手がミラクルナイトの細い足首を掴む。

「可憐なヒロインの墜落だな」

ガ男の手から伸びる糸のような触手がミラクルナイトを縛り、逆さ吊りにする。彼女の白いスカートがふわりと垂れ下がり、夜風に煽られて白いショーツと太ももが露わになる。

「奈理子ちゃーん!?」
「ミラクルナイトー!!」

下から見上げる市民たちの叫びが飛ぶ。

ドリームキャンディも、地上から声を張り上げた。

「奈理子さん、負けないでください!!奈理子さんは、水都の希望です!」

吊るされたまま、意識の糸が途切れそうになる奈理子。だが──

(こんな姿……見られたくない……でも……私は……)

震えるまぶたがゆっくりと開く。

「まだ……終われない……」

ミラクルナイトの瞳に、水色の光が宿った。


逆さ吊りにされたまま、ミラクルナイトの白いプリーツスカートが月光に照らされ、ひらりと舞う。白いショーツと美しい太腿が夜風に晒される中、彼女の瞳がゆっくりと開いた。

「奈理子、終わりだよ」

ガ男が嗤いながら、触手を伸ばす。その刹那。

「私は……水都の守護神、ミラクルナイトよッ!ミラクルパワー!!」

ミラクルナイトの身体から水色の光が爆ぜた!

ズバァンッ!

爆風のような衝撃とともに触手が千切れ、ミラクルナイトの身体が宙に解き放たれる。水色の光が翼を再び輝かせた。くるりと一回転し、空中で美しく着地──再び舞い上がる。

「やった!奈理子ちゃんが復活した!」
「ミラクルナイトーッ!」
「頑張れ!純白の天使!!」

歓声が地上から湧き上がる。スマホを構える市民たちの目に、輝く翼とスカートをはためかせる姿が映る。

「……フッ。しぶといな」

ガ男が空中で睨む。

「貴方だけは、絶対に許さない!」

ミラクルナイトの両手が輝き始める。

「ミラクルシャインブラスト──!!」

放たれた水色の光弾が、ガ男の鱗粉の幕を突き破る!

「ぬうっ!?」

ガ男がバランスを崩す。

「まだよ!」

翼を羽ばたかせて一気に距離を詰めたミラクルナイトが、空中で身体をひねり、美しいヒップラインを突き出した。

「ミラクル・ヒップ・ストライク!!」

空中を舞う白と水色の残光が、ガ男の顔面に炸裂──!

ドンッ!!!

「ぐはぁっ!」

ガ男が大きく吹き飛ばされ、上空で身体をよじる。その羽根が一瞬、きらりと反射して裂けたように見えた。

「……これが、私の……想いの力よ」

スカートを押さえながら、ミラクルナイトは静かに構えを取る。月の下、風に舞う姿は──まさに、夜空に咲く一輪の奇跡の花だった。


ミラクルナイトの白い翼が夜空を切り裂き、反撃の狼煙を上げた。

「ミラクル・ヒップ・ストライク!!」

勢いを乗せた回転から繰り出される渾身のヒップアタックが、ガ男の顔面を直撃する。蛾の羽がバサバサと大きく揺れ、夜空に鱗粉が舞った。

「おおっ、やったか!?」

地上から見上げる市民たちが歓声を上げる。

だが、その刹那。

「――まだだ!」

ガ男の双眼がぎらりと輝き、羽ばたきとともに空中で態勢を立て直した。羽からふわりと放たれた新たな鱗粉が、ミラクルナイトの視界を霞ませる。

「くっ…また、目が…!」

ミラクルナイトの翼がふらつく。バランスを失った彼女を、ガ男は逃さなかった。

「甘いな、小娘!」

ガ男は猛禽のようなスピードで距離を詰め、鋭く蹴りを放つ。その一撃がミラクルナイトの腹部に命中し、彼女の身体が弓なりにのけぞる。

「きゃあっ!」

風に舞い上がるプリーツスカート――
露わになる白いショーツと美しい太腿が、夜空の月明かりにきらめいた。

「ミラクルナイト!」
「奈理子ちゃん、頑張って!」

市民たちの声援が再び響くが、今回は届かない。
ミラクルナイトはそのまま意識を失い、空中でふわりと浮かぶガ男に捕らえられてしまう。

「さて…お楽しみはここからだ」

ガ男は笑いながら、意識を失った彼女を再び逆さに吊るし、夜空にさらす。
スカートが重力に逆らえず落ち、純白の下着が無防備に晒された。

「見よ、市民よ!お前たちが崇めた『守護神』の無様な姿を!」

ガ男の挑発が響く。

地上で歯を食いしばるドリームキャンディ。

「……奈理子さん。今度こそ、負けちゃダメですよ」

彼女の声は夜空を駆け、失神していたミラクルナイトの耳へ届いた。

まぶたの奥で光が揺れる。

――まだ、終わってない。

自分には、この街を守る理由がある。仲間がいる。応援してくれる市民がいる――!

ミラクルナイトの指先が、ゆっくりと動いた。


意識の淵から、奈理子の耳に聞こえてきたのは、市民の叫びと――

「奈理子さん、信じてます!」

ドリームキャンディのまっすぐな声だった。

瞼が震え、ゆっくりと開かれる。逆さ吊りの視界のなかに、星空と、冷笑を浮かべるガ男の姿が映った。

「……終わってない……まだ……!」

ミラクルナイトの身体に再び水色のオーラが灯る。

「なにっ――!?」

吊るしていた脚がガ男の手からすり抜け、ミラクルウイングが夜空に広がった。一気に空中で体勢を立て直し、回転するように舞い上がる。

白いスカートがひらりと広がる。その下にある、奈理子の象徴ともいえる清らかな白いショーツと、少女らしい柔らかな太腿が月明かりに照らされる。

「ガ男……これが、私の……!」

ミラクルナイトは、翼をひと打ちし、くるりと背を向けて加速した。

「ミラクル――」

月を背に、彼女の全身が水色の輝きを帯びる。

「ヒップストライク!!!」

夜空を裂く速度で迫ったヒップアタックが、ガ男の顔面に炸裂した。

「ぬわあああああっ!!」

ガ男の羽が千切れ、鱗粉が空に散る。彼の巨体が弾き飛ばされ、ビルの屋上へ激突して火花を散らした。

そして、静寂。

次の瞬間、地上にいる市民たちが一斉に歓声をあげた。

「奈理子ちゃーん!」
「やったー!」
「ミラクルナイト万歳!」

スカートを押さえながら、ゆっくりと降りてくるミラクルナイト。息を切らせながらも、誇らしげに微笑んだ。

「ふぅ……ちょっと、派手に決めすぎちゃったかな……」

照れたように呟く彼女の背には、まだ水色の光がやさしく瞬いていた――。


ミラクルナイトがふわりと地上に降り立った瞬間、周囲から拍手と歓声が湧き上がった。

「ミラクルナイト!」
「奈理子ちゃん最高だったよ!」
「ヒップストライク、やばかった!」

人々の中から真っ先に駆け寄ってきたのは、ドリームキャンディだった。

「奈理子さん!お疲れさまでした!」

彼女は満面の笑顔で駆け寄り、倒れこみそうなミラクルナイトの身体を支える。

「ありがと……キャンディ……」

奈理子は息を弾ませながらも、うっすらと笑みを浮かべた。

そのとき、倒れたガ男のもとに制服姿の警官たちが駆け寄る。
その中心にいたのは、水都市警の蒼菜だった。
地面に横たわるガ男は、すでに変身が解け、意識を失った一人の青年の姿となっていた。

「こいつがガ男……間違いない。最近相次いでいた女性の拉致事件、こいつが関わっているはずなのよ」

蒼菜は青年に手錠をかけながら、ミラクルナイトの方を見た。

「奈理子さん、戦ってる途中で何か聞き出せたりした?女性たちがどこに連れていかれてたかとか……」

「……え? あっ……」

ミラクルナイトは気まずそうに視線を逸らす。

「ご、ごめんなさい。戦いに夢中で、何も聞き出してないです……」

「…そう……」

蒼菜は頭をかきながら苦笑した。

「まぁ、無事に確保できただけでも十分よ」

「そうだよ、奈理子さんが頑張ったおかげです!」

ドリームキャンディが力強く言った。

「うん……ありがと、みんな……」

ミラクルナイトは静かに頷き、照れくさそうにスカートの裾を整える。

白く短いプリーツスカートがふわりと揺れ、ほんの一瞬だけ、勝利の証の“純白”が市民の目に映った。
再び湧き起こる拍手と歓声――。

夜の水呑町に、平和と笑顔が戻ってきたのだった。

──水都の守護神・ミラクルナイトの戦いは、まだまだ続く。

第173話へつづく)

あとがき