DUGA

ミラクルナイト☆第217話

水都神社・大谷家

夕餉を終え、居間でスマホを見ていた大谷悠真がため息をついた。そこに、仕事を終えた凜が巫女衣装のまま帰って来る。

「“#白パン巫女”……やっぱりまだトレンドに残ってるな。これから年末年始でバイトの子たちも来るのに、“神社は白パンツ強制”なんて言われたらどうするんだ……」

「だから!私は神様に仕える者として清廉潔白の白を選んでいるだけ!」

緋袴の裾をバサリと払って、凜はムキになって叫んだ。

大谷は眉をひそめ、真面目に言葉を続ける。

「でも、世間はそうは見ないんだよ。煩いフェミニズム団体から苦情が来るかもしれない。今のSNSの世の中、軽く炎上するだけで神社の信用に……」

「もうっ!悠真はいつもそう!私が一生懸命市民のために戦っても、パンツが見えたら全部“炎上”で片付ける!こっちは命懸けなのよ!」

凜は頬を真っ赤にして、座布団を悠真に投げつけた。

「ちょっ、おい!」

顔に当たりながら大谷は困惑。

「昨日だってそうよ!私が必死で戦っているのに、“白パンがどうとか”市民はそればっかり!それに悠真まで“白パンツ強制とか思われたら困る”って!私がどれだけ恥ずかしい思いをしたか分かってるの!?」

畳の上で正座しながら、凜は涙目で八つ当たりを続けた。

「巫女さんらしく清楚でいようと努力してるのに!奈理子と同じパンチラヒロイン扱いにされて、巫女としての威厳もなくなっちゃった!」

大谷はしばし黙って凜を見つめ、ふっとため息をついた。

「……分かった。俺が悪かったよ。凜は清廉潔白な“白”を守りたいんだな。俺が守ってやるから、泣くな」

「べ、別に泣いてなんかないわよ!」

凜はそっぽを向きながらも、ほんの少しだけ安心したように小さく鼻をすするのだった。


畳に正座したまま、凜は拳を握りしめた。

「悠真……私、もう迷わない。市民がどう言おうと、恥をかこうと、私はセイクリッドウインドとして戦う。水都神社の巫女として、守るべきものがあるから!」

真剣な眼差しでそう言い切る凜に、大谷は黙って頷いた。

「うん。凜は強いよ。俺はずっと見てきた。だからこそ……市民に余計な誤解を与えないためにも、ちゃんと伝えてほしいんだ」

「伝える……?」

首をかしげる凜。

大谷は真顔のまま、ずいと凜に迫った。

「凜、お前の口からハッキリ公表してくれ。“水都神社の巫女の下着は自由です”って」

「は、はぁあああああ!?!?」

凜は真っ赤になって畳を叩いた。

「だ、だって!このままじゃ“神社は白パンツ強制”って風評が広まる!俺一人が否定しても説得力がないんだよ。本人が宣言すれば一発で収まる!」

大谷は至極真剣だ。

「……っ!あんた、そんな大事なことを、私に言わせようっていうの!?」

凜は涙目で詰め寄る。

「凜だからこそ意味があるんだ。俺がどれだけ守ろうとしても、結局は市民が見てるのは“凜本人”なんだよ」

凜はしばらく口を開けたまま固まり、そして……観念したようにため息をついた。

「……分かったわよ。言ってやるわ。“水都神社の巫女のパンツは自由です”って……! ただし、これ以上私に恥をかかせたら、あんたを風で吹き飛ばすから!」

「助かるよ、凜」

大谷はようやく笑みを浮かべた。

「くぅぅ……こんな恥ずかしいこと言わされるなんて……!」

顔を両手で覆う凜。しかし、その胸の奥には、不思議な決意と覚悟が確かに芽生えていた。


穢川研究所・作戦会議室

資料の山に囲まれた机に、篠宮=ブナシメジ男は黙々とペンを走らせていた。地味なスーツに眼鏡、誰の目にも「研究所の事務係」としか見えないが、その目は真剣だった。

「……“ミコール新作発表会”。下着ブランドのイメージキャラクターである野宮奈理子が出席するのは間違いありません」

篠宮はスクリーンに投影されたイベント概要を指差した。

「おぉ~?ブラの発表会か。じゃあ奈理子ちゃん、あの”奈理子のブラ&ショーツ”を見せちゃうのか?」

篠田=カラシ男が口角を吊り上げる。

「見せるのは宣伝用の新作ブラでしょうが。ですが、我々の目的は別です」

篠宮は冷静に切り返す。

篠田は椅子にふんぞり返りながらニヤリと笑った。

「で、俺にどうさせたいんだ?まさか、また辛味で泣かせろってんじゃねえだろ?」

「ええ。前回の商店街での成果は大きかった。ドリームキャンディは辛味に弱い。ミラクルナイトも、辛味によって視界や呼吸を封じられれば、地上戦に引きずり込めます」

篠宮は淡々と分析を語った。

「なるほどな。あの白パン天使を地べたに這わせて、辛味で泣かせるってわけか」

篠田の口調には愉悦が滲む。

「加えて、発表会は大勢の記者や観客が集まります。奈理子を辱めるには最高の舞台です。……彼女は白い下着を“純白の象徴”としてきました。そのイメージを打ち砕けば、精神的なダメージも計り知れません」

「ククッ、いいな。大衆の前で泣きながらパンツ丸出し……これ以上のショーはねえ!」

篠田が膝を叩いて笑う。

篠宮は小さく頷き、さらに計画を補足する。

「ただし、突撃して暴れるだけでは警備に阻まれる可能性がある。篠田くん、君には“舞台を掌握する役”を担ってもらう。僕は裏で状況をコントロールしよう」

「要するに、俺が派手に暴れて奈理子を泣かす。お前は地味に締める、ってことか?」

「その通りです。地味で結構。ですが確実に、ミラクルナイトを辱める……それが使命です」

篠宮の言葉に、篠田はしばし無言のまま篠宮を見つめ、やがてニヤリと笑った。

「気に入ったぜ、篠宮さん。柚月姉さんの後釜はやっぱり篠田さんだな。……よし、この作戦、乗った!」

二人の手が固く結ばれる。
奈理子にとって最大の恥辱となる「ブラ発表会襲撃作戦」が、静かに幕を開けた。


ミコール新作発表会・特設ステージ

眩いライトがステージを照らす。カメラのシャッター音が小さな嵐のように鳴り響く中、司会者が高らかに告げた。

「お待たせいたしました!ミコールが贈る新作“奈理子のブラ〜シンデレラバスト〜”!そのイメージキャラクター、ミラクルナイトこと――野宮奈理子さんです!」

ステージ中央のカーテンが開き、白と水色のスポットライトに包まれて奈理子が現れる。純白を基調に、水色のリボンとレースがあしらわれた新作ブラとショーツ。その上からは透明感ある薄水色のドレスを羽織り、裾が揺れるたびに「シンデレラバスト用」の下着が可憐に映える。

会場から大歓声が上がる。

「奈理子ちゃーん!」
「天使すぎる!」
「Aカップでも最強の可愛さ!」

奈理子は少し緊張した表情を見せながらも、マイクを取ると真っ直ぐに観客を見据えた。

「Cカップ以上の女の子には可愛いブラがたくさんあります。でも、私のように胸が控えめな女の子には、選べるものが少ないのが現実です。だからこそ――この“奈理子のブラ〜シンデレラバスト〜”を作っていただけて、本当に嬉しいんです」

会場に拍手が広がる。奈理子の頬が少し赤らむ。

「胸が小さくても、女の子は可愛くて素敵な下着を着ける権利があります。今日ここにいる皆さん、そして画面の向こうの皆さんに、それを知ってもらえたら嬉しいです」

奈理子は両手でドレスの裾を軽く持ち上げ、お辞儀をする。その仕草に、報道陣もファンも「小さくても可愛い」というメッセージを確かに感じ取った。

「奈理子ちゃーん、最高だー!」
「シンデレラバストに光をありがとう!」

フラッシュの光に包まれ、奈理子は“シンデレラバストの象徴”として舞台に立ち続けていた。


奈理子のスピーチが終わり、拍手と歓声が響き渡るその瞬間――。

「ガハハハッ!シンデレラバストだと?笑わせるな!」

突如、会場の壁を突き破って現れたのはカラシ男だった。鼻を突く刺激臭と辛味の霧が会場を覆う。会場の人々は悲鳴を上げ、カメラマンたちは混乱しながらもシャッターを切り続ける。

「奈理子ちゃーん逃げてー!」
「え、また?また敵に襲われてるの!?」

スタッフとマスコミの声が混じり、場内は阿鼻叫喚となった。

奈理子は一瞬で事態を悟る。

(アイマスク……!控室に置いたまま……)

変身できない。控室に戻ろうと走り出すが、黒いスーツ姿から怪人態へと変わったブナシメジ男がステージ脇に立ち塞がる。

「控室には行かせませんよ、奈理子さん」

低い声で告げるブナシメジ男。その目は真剣そのもので、奈理子の足はすくみそうになる。

「また……また私のせいでみんなが……!」

奈理子は必死に震える膝を抑えながらステージ中央に後退した。

会場の後方、一般客に紛れて観戦していた凜と大谷は立ち上がる。

「やっぱり来たな……」

大谷が低く呟く。

「イベントの奈理子は必ず敵に襲われるんだから、休んで正解だったわね」

凜が苦笑した。

だがすぐに真剣な表情になった大谷が凜を見た。

「マスコミも来ている。公表するには絶好の機会だ」

「……分かったわよ……」

凜は緊張で唇を噛む。

「今日のパンツの色は?」

大谷が真顔で問う。

「はぁ!?悠真、何言ってるのよ!」

頬を真っ赤にする凜。

「今日の凜のパンツの色は?」

再び真剣な眼差し。

「……紺色……」

小さく答える凜。今日は有給を取っていたため、白ではなく、お花のレースで飾られた大人可愛いショーツを選んでいた。

「無難な色だな」

「う、煩い!」

凜は顔を覆い、羞恥と覚悟の入り混じる声を上げた。

そして、大谷に背を押されるようにステージ前に歩み出ると――。

「セイクリッドウインド・変身!」

眩い緑の光に包まれ、凜はセイクリッドウインドへと変身した。

会場の騒然とした空気が一瞬で張り詰める。

「凜さんが来たぞ!」
「セイクリッドウインドだ!」
「奈理子ちゃんを助けてー!」

観客もマスコミも熱狂し、カメラのフラッシュが一斉に走った。


突然の襲撃に悲鳴が飛び交い、会場は大混乱に陥っていた。
その中心に立つのは、カラシ男とブナシメジ男。そして、颯爽と舞い降りたのは――。

「風の戦士、セイクリッドウインド!ここに参上!」

緑と銀の光をまとった巫女戦士の登場に、観客とメディアの視線が一斉に集まる。

「今日は下着の発表会だ。だったら……2人まとめて下着姿を晒してやろう」

不気味に笑うブナシメジ男。

「凛さん!」

奈理子が駆け寄る。

「ここは私に任せて。奈理子は早く行きなさい!」

セイクリッドウインドは迷わず告げた。奈理子の変身アイテム・アイマスクは控室にある――そこへ走らなければ、ミラクルナイトになることはできない。

「……凜さんの今日のパンツのメーカーは?」

奈理子が恐る恐る聞く。

「こんなときに何を言ってるの?!」

「だって今日は、ミコールの大切な発表会だから……」

しばし睨み合った後、凜は観念したように小さく答えた。

「……ミコールよ!」

「凜さんの下着もミコールだ!」
「弊社のどのブランドですか!?」
「やっぱり白ですか?!」
「凜さんもぜひ、弊社のイメージキャラクターに!」

マスコミとミコール社員が一斉に盛り上がり、カメラのフラッシュが乱れ飛ぶ。

「……こいつら、下着のことしか考えてないの……?」

セイクリッドウインドは溜息をつく。

「下着メーカーだもん」

奈理子が苦笑で返す。

「フフッ……皆、風間凜のパンツに興味津々だな」

ブナシメジ男がニヤリと嗤った。

「黙りなさい!」

セイクリッドウインドがガストファングを振り抜くと、会場を切り裂く烈風がブナシメジ男を吹き飛ばした。

しかし――。

「きゃああッ!」

椅子も机も宙を舞い、ついでにセイクリッドウインドのスカートも盛大にめくり上がる。

「凜さんのパンツは紺!」
「お花のレースだ!大人可愛い……!」

観客が息を呑み、次いで大歓声を上げる。

「凜さん、屋内でガストファングは危ないよ!」

奈理子が声を上げる。

「そんなこと言っている場合じゃないでしょ!……この隙に、行きなさい!」

セイクリッドウインドは奈理子を出口の方へと突き飛ばした。

「はい!変身して戻って来ます!」

奈理子は全力で控室へ駆け出す。

緑の風と辛味の刺激臭が入り乱れる中、セイクリッドウインドは一人、戦場に立ちはだかった。


マスコミのカメラが並び、まだざわめきが収まらない会場に、三人の姿が対峙していた。

「風間凜……いや、“ナメコ姫”。雲の上の存在だった君と、こうして戦う日が来るとは思ってもいなかったよ」

ブナシメジ男が、静かにしかし含みをもって告げる。

セイクリッドウインドは鼻で笑った。

「私はお姫様だったから、アンタみたいな地味なキノコ怪人なんか知らないわよ」

「ふん……味噌汁や蕎麦の具材として主役を張るナメコから見れば、確かにブナシメジは地味な脇役かもしれない。だが――今の君はもう“ナメコ姫”ではない」

ブナシメジ男の視線が鋭く光る。

「今に君は、市民から“脱がされることを期待される”お色気担当のビッチヒロイン、セイクリッドウインドだ」

「……言ってくれるじゃないの」

悔しげに、しかし強がって、セイクリッドウインドはガストファングを広げて構えた。

その瞬間、カラシ男が口を挟む。

「風を起こすのはやめたほうがいいぜ。そこら辺にある高級撮影機材、壊したらどうする?あれ、一本でお前の給料何か月分だ?」

「うっ……」

思わずセイクリッドウインドの手が止まる。
目の前に並ぶテレビ局のカメラ、照明機材、ミコールの展示パネル。凜の薄給では、到底賠償など不可能だった。

「ブナシメジ男はそこを計算して、この会場を戦場に選んだんだ」

カラシ男がニヤリと笑う。

「屋内じゃお前のガストファングは封じられる。ミラクルナイトは飛べない。しかも、平日の昼間だ。中学生のドリームキャンディはここには来ない」

「……」

セイクリッドウインドの表情が強張る。

「さあ、どうする?君はここで無様に散るんだ」

ブナシメジ男が低く告げる。

「……風を起こせなくても、アンタたちなんか!」

セイクリッドウインドはガストファングを閉じ、扇を武器のように握りしめる。

「これはただの風を起こす道具じゃない。叩いて、突いて、切り裂く武器にもなるのよ!」

「ククッ……面白え」

カラシ男が鼻を鳴らし、辛味ガスを立ち込めさせた。
ツンと鼻を突く刺激臭が会場に広がり、メディア関係者や社員が一斉に涙目になって後ずさる。

「俺の辛味で、泣き顔を晒させてやるぜ!」

カラシ男の目が爛々と光った。

――屋内という戦場を制約にされながらも、セイクリッドウインドは諦めなかった。
セイクリッドウインドは閉じた扇を構え、辛味の煙の中に踏み込んでいった。


「私は、アンタなんかに泣かされない!」

セイクリッドウインドはガストファングを逆手に握り、辛味の煙をかき分けて突進した。

「無駄だ、風間凜!」

カラシ男の口元が歪む。

「風を使えないセイクリッドウインドなんざ、ミラクルナイト以下のクソザコだ!――喰らえッ!辛烈ガス弾!!」

炸裂音とともに、濃縮されたからし菜の成分が詰め込まれた黄緑色のガス弾が弾け飛ぶ。

「きゃああッ!……あぁッ!目が……鼻が……喉が……!」

凜の美貌が苦悶に歪む。涙があふれ、鼻水が垂れ、呼吸さえままならない。

「もう泣いているのか?かつては“ナメコ姫”と呼ばれた女が……堕ちたものだな」

ブナシメジ男の声が冷たく響いた。

次の瞬間、彼の指先から無数の菌糸が伸び出す。蛇のようにうねる白い糸はセイクリッドウインドの四肢を絡め取り、あっという間に宙吊りにしてしまった。

「いやぁッ!!」

逆さ吊りにされ、スカートが重力に負けてめくれ上がる。
会場のライトに照らされ、紺色のレースショーツが眩い照明の下に晒された。

「おおッ!あのショーツは、我が社の“ラグジュアリー・ライン”!」
「やはり水都神社のナンバーワン巫女、下着まで一流ブランドだ!」

マスコミ記者やミコール社員がフラッシュを焚き、興奮気味に叫ぶ。

「いやぁッ!写真撮るな!カメラ回すなッ!」

セイクリッドウインドの必死の叫びは、逆にシャッター音と歓声を煽るだけだった。

「水都神社の美人巫女が……パンツ丸見えで吊られてる……!」

観客のどよめきが会場を揺らす。

逆さ吊りのセイクリッドウインドは涙を流しながら、かすかに声を漏らした。

「奈理子……早く……助けに来て……」


ブナシメジ男の菌糸に絡め取られ、逆さ吊りにされたセイクリッドウインド。両脚は強制的に開かされ、ライトに照らされて紺色のショーツの豪華な花刺繍が晒し出される。

「薄給でも、下着はゴージャスだな。……さては見せる気満々だったのか?濡れてるぜ」

カラシ男が、ほんのり湿ったクロッチに顔を近づけて嗤った。

「ち、違うわよッ!」

セイクリッドウインドが必死に叫ぶが、声は会場の爆笑にかき消される。

「どうだかねぇ。――さぁ、風間凜さんの“記者会見”といこうじゃないか!」

カラシ男の挑発に呼応するように、ミコール社員の一人が勢い込んで手を挙げた。

「凜さん! 弊社の下着、着心地はいかがですか?」

逆さ吊りの凜の口元に、マイクが差し出される。

「……動いても裾がズレ上がりにくく、着け心地はいいです。レースが可愛くて、気に入っています……」

羞恥に震えながらも、真面目な質問に思わず真面目に答えてしまうセイクリッドウインド。

「ありがとうございます! では、弊社にご要望などはありますか?」

さらに食い下がる社員に、凜は一瞬考え込み、涙で潤んだ瞳で答えた。

「……白いショーツは中高生向けの種類は多いですが、大人向けは少ないと感じます。大人用のシンプルな白いショーツを、もっと増やして欲しいです……」

逆さ吊りのまま真剣に答える凜。その姿に無数のフラッシュがまたたく。

そのとき――凜の視線が、観客席の大谷と交わった。

(悠真……ここで、あれを言えってこと……?)

大谷は小さく頷いた。

「……あの、ひとこと言わせてください」

羞恥に震えながら、逆さ吊りのセイクリッドウインドが小さく呟く。

スタッフがすぐにマイクを差し出す。

「凜さんからメッセージです!」

「水都神社は、下着の強制なんかしていません! 白い下着じゃない巫女もいます。……私が勝手に、仕事中は白を身につけているだけです。SNSで、謝った情報を流さないでください!」

一気に言い切った凜。
逆さ吊りにされた身体、涙に濡れた顔、ゴージャスな紺色ショーツにフラッシュが一斉に集中する。

(どうして……どうして、私がこんな目に……!)

カラシの刺激で涙を流しながら、凜は本当に泣き出しそうだった。

――そのとき。

「凜さんを逆さ吊りにして、大股開きにして、パンツを晒して、撮影会を開くなんて……そんな不届き者は!」

強い声が会場に響いた。

「水都の守護神――ミラクルナイトが許しません!!」

光の粒子を纏いながら、ミラクルナイトが堂々と会場に姿を現した。


豪華な照明に照らされた舞台。カメラのシャッター音が絶え間なく響き渡り、スクリーンには逆さ吊りにされたセイクリッドウインドの姿が無情にも映し出されていた。

「さあ、奈理子も凜と同じ目に合わせてやるぜ!」

カラシ男が紺色ショーツ越しに凜の大切な箇所をいやらしく撫でながら、観客席に向かって嗤う。

「白と紺――並べて“パンツ撮影会”だ!」

会場の空気がざわめいた。
プレス用カメラが一斉にカラシ男とセイクリッドウインドを狙う。

その瞬間――。

「凜さんのパンツを触っちゃダメ!」

水色の光を纏い、颯爽と舞台に現れたのはミラクルナイト!
その姿に会場中が一斉に沸き立つ。

「きたっ! 奈理子ちゃんだ!」
「イメージキャラクター自らの現場を守るとは!」
「これぞシンデレラバストの守護神!」

プレス関係者は興奮し、ミコール社員は涙ぐみながらカメラを回し続ける。
外の大型ビジョン前でも、市民がどよめきと歓声を上げていた。

ミラクルナイトは光を集め、両手を構える。

「――ミラクル・シャイン・ブラスト!!」

しかし。

「ここで光弾を放てば、この会場は滅茶苦茶になるぞ」

ブナシメジ男が低い声で釘を刺す。舞台上には高価な撮影機材、報道陣、社員がひしめいている。

「くっ……!」

ミラクルナイトは攻撃をためらった。その隙を逃さず、ブナシメジ男の菌糸がうねりを上げる。

「捕獲完了だ」

瞬く間に全身を絡め取られ、ミラクルナイトの華奢な身体が宙に吊り上げられた。

「クソザコヒロイン、二人ともあっけなかったな」

カラシ男が勝ち誇ったように笑う。

だが――。

ミラクルナイトの体が突如、水色の光を帯び始めた。

「――ミラクルパワーッ!!」

光の奔流が菌糸を一瞬で弾き飛ばし、観客席から歓声とフラッシュが轟いた。

「なっ、何だと!?」

驚くブナシメジ男。

「はぁぁッ!」

解放された勢いのまま、ミラクルナイトは逆さ吊りにされたセイクリッドウインドへと飛び込む。

菌糸を断ち切り、セイクリッドウインドの身体を抱き下ろした。

「凜さん、大丈夫ですか!」

「うん……ありがとう」

セイクリッドウインドは赤くなりながらスカートを必死に押さえ、ショーツを隠した。

ライトの下で並び立つ二人――水色の光を放つ奈理子と、紺のスカートを翻す凜。
プレス会場と大型ビジョンの前は、二人の姿に熱狂の渦と化した。


会場のスポットライトが点滅し、怒号とフラッシュが入り乱れる中、
ミラクルナイトとセイクリッドウインドはブナシメジ男とカラシ男に対峙していた。

「ここは屋内だ。お前たちの“持ち味”は封じられている」

冷ややかに笑うブナシメジ男。

「くっ…」

ミラクルナイトは歯を噛む。
本来なら空を舞って攻撃の死角を取れるはずの自分は、天井の低い会場では飛行が封じられる。

「凜さん、気を付けて!」

「分かってる!」

しかしセイクリッドウインドもまた苦しい立場にあった。
ガストファングを振るえば、強風は観客席の機材や人員を直撃してしまう。
無闇に風を起こせない彼女は、ガストファングを閉じて接近戦に頼るしかなかった。

「俺の辛味で、涙と鼻水まみれにしてやるぜ!」

カラシ男が大きく息を吸い込み、辛烈からし霧を吐き散らす。

「うっ……目がっ!」

ミラクルナイトの瞳が焼けつくように熱く、涙が滲む。

「奈理子ッ!」

セイクリッドウインドはミラクルナイトを庇うように前に立ち、ガストファングを閉じて斬りつける。
だが、その刃をブナシメジ男の菌糸が絡め取り、逆に体勢を崩されてしまった。

「脆いな、セイクリッドウインド」

ブナシメジ男の冷笑が響く。

「凜さんっ!」

奈理子が駆け寄ろうとするが、床一面に広がったブナシメジ男の胞子が足を取る。

「ほらほら、飛べない鳥はただの獲物だ」

カラシ男の鋭い蹴りが奈理子の腹に突き刺さる。

「くぅっ……!」

ミラクルナイトは小さな身体を折り曲げ、必死に踏みとどまった。

フラッシュを焚く記者たちの声が会場を包む。

「ヒロインたちが苦戦しているぞ!」
「シンデレラバスト発表会は史上最大の乱戦だ!」

観客席では悲鳴と歓声が入り混じり、ネット配信のコメント欄も大荒れだ。

「奈理子さん頑張って!」
「凜ちゃん、負けるな!」
「やばい…屋内戦は二人の弱点突かれてる!」

奈理子と凜は互いに背中を預け合った。

「……このままじゃ押し切られる!」

「でも、やるしかないわ!」

二人の白と緑のスカートが揺れ、気高い決意が交錯する。
しかし、屋内という不利な条件の中、二人はまだ突破口を見いだせずにいた。


「くぅっ……!」

ミラクルナイトはカラシ男の放った辛烈なガスに目を押さえ、視界が滲んでいた。
涙が止まらず、呼吸をするたびに喉が焼けつく。

「どうした?お前の必殺光弾は? 会場を壊すのが怖くて撃てないんだろう?」

カラシ男がミラクルナイトの顎を持ち上げるように迫る。

「奈理子を離しなさいッ!」

セイクリッドウインドがガストファングを閉じたまま突進した。
しかし、床から伸びるブナシメジ男の菌糸が彼女の足に絡みつき、動きを封じる。

「うわっ!」

バランスを崩したセイクリッドウインドの身体を、ブナシメジ男の太い菌糸が締め上げる。

「ナメコ姫がこの程度か。市民に脱がされるだけの存在に相応しいな」

冷徹な声が響いた。

「やめなさいッ!」

ミラクルナイトが涙を浮かべて飛び込むが、

「邪魔だ!」

カラシ男の蹴りが炸裂。
ミラクルナイトの小さな身体は床を転がり、純白のパンティが無残に晒された。

「きゃぁあっ!」

観客席から悲鳴とも歓声ともつかぬ声が上がる。

「白パン丸見え……でも、立ち上がれない……」
「凜ちゃんまで捕まってる!これはまずいぞ!」

スクリーン越しに水都タワー前広場でも、数百人の市民が固唾を呑んで見守っていた。大型ビジョンにセイクリッドウインドの股間がアップで映され、ネット配信のコメント欄は騒然となる。

「凜ちゃんの股間アップ!これはエロい!」
「奈理子、完全にやられてるじゃん!」
「凜ちゃんまで染みパン晒して負けるのかよ…」
「これは…白パンツと紺パンツの同時敗北あるぞ」

会場に押し寄せる絶望感。
セイクリッドウインドは逆さ吊りにされ、紺色ショーツを曝しながら必死に耐えていた。

「奈理子……もう、限界……」

セイクリッドウインドの声が震える。

「いいぞ……白と紺、二人並べてパンツ撮影会だ」

カラシ男が下卑た笑みを浮かべる。

「……私が、守らなきゃ……!」

膝をつきながら、ミラクルナイトは震える手で床を押した。
だが立ち上がる力が湧かない。
観衆の目が集まる中、ミラクルナイトは再び地に伏そうとしていた。


「もうやめて……!このままじゃ……!」

セイクリッドウインドが菌糸に捕らわれ逆さ吊りのまま呻く。
ミラクルナイトは床に膝をつき、立ち上がれずにいた。

そのとき――。

「――気にするなッ!」

重厚な声が会場全体に響いた。
壇上に立つのはミコール社長、黒光りするスーツを纏った壮年の男だった。

「会場の什器が壊れようと、ビルが傷つこうと構わん!
 お前たちが着けているのはミコールの新作だ!
 戦え!世界にこの下着の強さと美しさを知らしめろッ!!」

「「「おおぉぉおおーーーっ!!」」」

社員たちが総立ちで拍手喝采する。

「奈理子ちゃん!凜さん!存分に戦ってください!」
「我が社の広告塔なんですから!」
「会場の被害なんか宣伝効果に比べれば安いもんだ!」

マスコミのカメラが一斉に二人を映し出す。
生配信はネットを通じて世界中に流れていく。

「……社長さん……」

ミラクルナイトの頬を涙が伝った。
それは恐怖の涙ではない。

「これで、思い切り……戦える!」

「わたしも同じ気持ちよ!」

セイクリッドウインドの瞳に炎が宿る。
菌糸を振りほどき、逆さ吊りの体勢から身を翻す。

「凜さん!」

ラクルナイトが駆け寄る。

「奈理子、行くわよ!
 もう、カラシの刺激には慣れてきた!」
「はいっ!」

セイクリッドウインドはガストファングを大きく広げる。
緑と銀の光が刃となってほとばしる。

「――翠光風斬ッ!!」

強烈な風圧が吹き荒れ、辛味ガスを一気に拡散させた。

ミラクルナイトも呼応するように、掌に水色の輝きを収束させる。

「フェアリー・シールド!」

彼女を包む光の膜が、残る刺激を弾き飛ばす。

「白と紺の二人組、復活だ!!」

ミコール社員が狂喜乱舞する。

「純白と紺、ミコールの新作ラインだ!」
「これ以上の宣伝はないぞ!」

「……くそっ、立ち直ったか!」

カラシ男が歯噛みする。

「まだまだここからだ!」

ブナシメジ男も構える。

戦場は再び、熱気に包まれていった。


「カラシの力を舐めるなよ!」

カラシ男が両手に辛味を溜める。

「水を使います!濡れちゃダメなものは隠してください!!」

ミラクルナイトが会場スタッフに告げる。その周囲には、水のオーラが漂っていた。

「水で俺のカラシは防げないぜ。マスタード・シャワー!」

カラシ男は両手からカラシ色の辛味オイルを噴射した。

「ミラクル・アクアティックラプチャー!」

ミラクルナイトが水色に輝く水のオーラを放つ。

「なにっ!」

カラシ男は辛味オイルごと水のオーラに包み込まれてしまった。

「カラシ男、今助けるぞ!」

ブナシメジ男がカラシ男を救おうとミラクルナイトに向かって菌糸を放つ。

「奈理子の邪魔はさせないよ!」

セイクリッドウインドが風の刃で菌糸を切り裂いた。そして、

「ヌルヌル発射!」

とナメコの粘液をブナシメジ男に放つ。

「ぬわっ!これがナメコ姫の力か……」

「そう、このヌメリこそがナメコがキノコのお姫様と呼ばれる所以よ、脇役のブナシメジくん」

「キノコのお姫様なんて聞いたことがないぞ……」

ナメコの粘液にまみれてもがくブナシメジ男。

カラシ男はまだ力は尽きていない。

「こんなもので俺を倒すことはできんぞ…辛味ブースト!」

カラシ男が全身を震わせ、黄金色のオーラを纏った。全身に辛味成分を巡らせ、血流を加速、身体能力をブーストさせ水のオーラを弾き飛ばす。

これまで以上の辛味がミラクルナイトとセイクリッドウインドを襲う。

「これ以上、目と鼻が痛いのはイヤ。奈理子、決めるよ」

セイクリッドウインドは天井を見上げた。天井は低くはない。小さな竜巻なら発生させることができることを確認。

「今日は、スカートがあるから大丈夫」

ミラクルナイトは覚悟を決めた。

「辛味の真髄を見せてやるッ!」

鼻を突き破るような刺激臭が会場を支配する。

「ぐっ…っ!」

ミラクルナイトが腕で鼻と口を覆う。

「目が…開けられない……!」

セイクリッドウインドの瞳から涙が零れる。

しかし、二人は倒れなかった。

「奈理子、まだ立てる?」

「ええ……市民のために……私の”シンデレラバスト”のために!」

涙に濡れた瞳で強く頷くミラクルナイト。

「今日の私たちには――合体技がある!」

セイクリッドウインドがガストファングを高く掲げ、竜巻の風を呼び込む。

「翠光、舞え!」

緑と銀の風が会場を渦巻き、ステージ中央に竜巻が形成される。

「奈理子、今よ!」

「はいっ!」

ミラクルナイトはスカートを押さえることなく、白いパンティを堂々と晒した。

「……もう、恥ずかしくない!これが私の覚悟!」

水色の光を纏ったミラクルナイトが竜巻に巻き込まれる。
竜巻の中で彼女の身体は超高速で錐揉み回転を始めた。

「ミラクル・スピン――!」
「クロスチョーーーップッ!!」

竜巻を突き破り、巨大なドリルのように回転する白と水色の閃光が、一直線にカラシ男へ突き刺さる。

「ぐわぁぁぁぁっ!!」

辛味のオーラを身に纏い、必死に抗うカラシ男。しかし――。

「馬鹿な……!俺の“辛烈ブースト”は、身体能力を限界まで引き上げたはず……!なぜ、この技だけは……!」

回転十字の衝撃は、単なる打撃ではなかった。
風が削り、水が穿つ。
竜巻で生じた強烈な気流がカラシ男の皮膚を細かく裂き、水の刃がその傷口に染み込んで内部から破壊していく。
さらに回転の遠心力が、辛味オーラを一瞬で拡散させ、カラシ男自身の防御を根こそぎ剥ぎ取っていたのだ。

「俺が……辛味の王……ワサビ男の後継者として……!」

絶叫しながら、カラシ男の身体が水と風に呑まれ、黄色い光の粒子となって四散する。

「辛味は……涙と鼻水とともに……散るのかぁぁぁッ!!」

最後の言葉を残し、カラシ男は完全に消滅した。

「決まった……!」

ミラクルナイトがふらつきながらも着地する。
セイクリッドウインドがその身体を支え、二人は並んで観客とカメラの前に立った。

「やったぞー!」
「ミラクル・スピン・クロスチョップ最強!」
「水と風の二人だからできた奇跡だ!」

ミコール社員たちが涙を流し、カメラマンがシャッターを切る。

壇上の社長が叫んだ。

「見たか皆さん!ミコールの新作下着は、戦場においても美しく、強靭で、ヒロインたちを輝かせるのだ!」

「凜さん、これでやっと……お互いの下着姿を全国配信される苦労が報われましたね……」

「奈理子、嬉しいんだか悲しいんだか分からないけど……でも、勝ててよかったわ」

二人は笑い合い、照明に包まれる。
水都に、新たな勝利の伝説が刻まれた瞬間だった。


「馬鹿な……カラシ男が……」

ナメコの粘液に包まれていたブナシメジ男が、粘りを振りほどきながら呻いた。

「さすがキノコ怪人。自力で私のヌルヌルから抜け出したことは褒めてやるわ」

翠光を纏った扇を構えながら、セイクリッドウインドが鋭い視線を向ける。

「次は貴方の番よ」

水色の翼を広げるミラクルナイトが毅然と告げた。

「……カラシ男の無念は、必ず俺が晴らす!」

ブナシメジ男は悔しげに叫び、白煙の中へと姿を消した。

発表会再開

滅茶苦茶にされた会場だったが、スタッフが急ぎ舞台を整えると、すぐに発表会が再開された。
水色のライトに照らされて、新作下着 「奈理子のブラ〜シンデレラバスト〜」 を身に着けた奈理子が舞台に登場する。

「わぁ……奈理子ちゃん、やっぱり可愛い!」
「小さい胸でも自信を持てるブラなんて、素敵すぎる!」

メディアも社員も大盛り上がりだ。

舞台袖 ― 凜と大谷

「奈理子は敵に脱がされなくても、下着姿になるのね……」

苦笑するセイクリッドウインド=凜。

「奈理子は下着モデルだからな。奈理子が下着を見せなければ発表会にはならないだろ」

真顔で返す大谷。

「ねぇ、ミコールのイベントだから、私もわざわざミコールの下着買ったんだよ。経費で落としてよ」

「セイクリッドウインドの活動は神社とは関係ないだろ」

「え〜!高かったんだよ、この下着。ブラが一万円、ショーツが五千円」

「ミコールでも“奈理子のブラ”みたいに安いのがあるじゃないか」

「世界中に私の下着が配信されるんだよ。悠真は安っぽい下着の私が晒されても平気なの?」

「下着を晒されないように、キッチリ勝てばいいじゃないか……」

「セイクリッドウインドのコスチュームじゃ、パンツを見せずに戦うのは無理でしょ!」

凜と大谷が小声でやり合っている間に、巨大スクリーンに新しいCMが流れ始めた。

”奈理子のブラ〜シンデレラバスト〜”を纏った奈理子が笑顔で踊る姿に、会場は再び歓声に包まれる。

「やっぱり、奈理子は可愛いね」

スクリーンを見上げて凜が呟く。

「凜も下着モデルやってみるか?」

と大谷。

「私は神様に仕える身だからなぁ」

凜は肩をすくめて笑った。

色々あったが――
「奈理子のブラ〜シンデレラバスト〜」発表会は、世界中に強烈なインパクトを残して幕を閉じた。


穢川研究所・社長室

「カラシ男が……敗北しました」

篠宮=ブナシメジ男は深く頭を垂れ、重苦しい声で報告した。

「馬鹿な……ワサビの系譜を継ぐ者が消されたと?」

社長・勅使河原が目を細める。

「はい。ミラクルナイトとセイクリッドウインドの合体技により、完全に消滅しました」

篠宮は悔しげに拳を握り締めた。

「フン、結局はその程度か」

渦巻が鼻で笑う。

「彼もまだ若かった。経験不足だな」

と九頭が呟く。

「篠宮くん、君はどう思う?」

勅使河原。

「……カラシ男は、確かに力はありました。しかし、奈理子と凜が揃って立ち向かえば、どんな相手でも分が悪い。ならば――狙いは彼女らが揃わぬ状況、あるいは心を乱す状況に置くことです」

篠宮の声は淡々としていたが、その瞳には強い決意が宿っていた。

「ほう……続けて」

使河原が顎を撫でる。

「奈理子は下着モデルとしての顔を持つ。凜は神社の巫女という公的立場を持つ。その役割を逆手に取り、市民の前で“守護神”としてではなく“女”としての弱点を突くのです。敵に勝つのではなく、彼女らの心を折り、信用を失墜させる――それが次の作戦です」

「面白い。具体的には?」

頭が興味を示す。

篠宮は深呼吸をひとつしてから答えた。

「次は 心理戦 です。彼女らが“恥”を恐れて力を発揮できなくなる舞台を用意します。私は既に幾つか候補地を調べてあります」

「いいだろう。任せてみようじゃないか」

勅使河原が笑みを浮かべた。

篠宮は静かに頷いた。

(……次こそは、必ずミラクルナイトを辱め、研究所の勝利を証明する)


商店街のグフグフハンバーガー

「いやぁ〜やっぱり、ハンバーガーはグフグフだよね!」

奈理子が頬をほころばせながらポテトをつまむ。白いブラウスの袖をまくり、学生らしい無邪気な笑顔だ。

「ふふん。どう?カラシ男を倒したのは私と奈理子なのよ」

凜は得意げに胸を張った。普段はクールな巫女だが、今日ばかりは自慢が止まらない。

「えっ、本当に二人だけで?!」

寧々は思わず声を上げた。

「だって、カラシ男ってワサビ男と同系統でしょ?私がワサビ男に完敗したのを忘れたわけじゃないです!」

「確かに強かったわ。でも今回は奈理子と私、二人で勝ったのよ」

凜は得意げに言う。

「うん、凜さんがすごく頑張ってくれたんだ」

奈理子も素直に微笑む。

「……奈理子さんまで……」

寧々は肩を落としたが、同時に憧れの眼差しも隠せなかった。

SNS上の反応

発表会のライブ映像はすでに切り取られ、SNSを賑わせていた。

「奈理子の白ショーツ、やっぱり“純白の天使”って感じ!」
「セイクリッドウインドがまさかの紺ショーツ!大人可愛いしエロかった!」
「下着見せはともかく、あの二人がドリームキャンディ抜きで勝ったのはマジで驚き」
「セイクリッドウインド、本当にパワーアップしてたな」
「奈理子も凜も可愛いだけじゃなくて強いんだって、ちょっと見直した」

辱めを受けながらも立ち上がり、ついに勝利をつかんだミラクルナイトとセイクリッドウインド。その姿は、市民に新たな希望を与えていた。

再び商店街のグフグフハンバーガー

奈理子はストローでジュースをすすりながら、ぽつりと呟いた。

「次は、寧々ちゃんも一緒に勝とうね」

「……はいっ!」

寧々の瞳がきらめいた。

(第218話へつづく)