DUGA

ミルキーナイト~胡桃・21歳~☆第13章「帰還、そして風の名は」

 鏡の中の自分は、ひどく痩せて見えた。

 青ざめた頬、泣きはらしたような目、肩でずり落ちかけた戦衣。

 胡桃は、敗北を重ねていた。

 コマリシャスとタンポポタイの残した魔物たちは、夜な夜な町に現れ、破壊と嘲笑を撒き散らした。

 「おやおやぁ、またミルキーちゃんだ〜」

 「今日はどこまでイジれるかな〜?」

 粘液、触手、嘲り。ミルキーナイトは、ただ立っていることすら困難だった。

 逃げる市民の前で無様に地を這うたび、心が削れていった。

 ──私は、弱い。  ──レオを忘れられない。  ──あのぬくもりに、すがりつきたい。

 誰にも言えない夜を幾度となく過ごし、胡桃は変身することすら恐れるようになっていた。

 * * *

 その頃、水都の神社の境内では、訓練が続いていた。

 「はーい、その蹴り、ぜーんぜんダメ!可愛くないし角度がブサイク!」

 「はあ!?てめぇが着せたこのフリフリのせいだろ!!」

 怒鳴るカスミの姿は、まるで別人だった。

 ピンクと水色を基調にしたリボンだらけの魔法少女風衣装、ふわふわのツインテール型カツラまで付けられている。

 「くっそ……こんなの誰が喜ぶんだよ……」

 「え? 市民。あと私。」

 涼しい顔で答える凜。

 「……それにしても、カスミちゃん。なかなか素質あるよ。力も反応もセンスも◎!名前も決めたし」

 「決めたって……」

 「“プリティ・ストーム”!かわいいでしょ? 略してプリスト!」

 「最悪のネーミングだな……」

 カスミいや、プリティ・ストームは吐き捨てながらも、その頬には汗の光。

 数日間の修行と実戦訓練で、彼女の動きは別人のように研ぎ澄まされていた。

 「でも……」

 その時、風が吹いた。

 鄙野の方角から届く、不穏な空気。

 「……胡桃が、危ない」

 プリティ・ストームの瞳が細められる。

 「行ってくる。凜さん、今までありがとう」

 「へぇ、ちゃんとお礼を言えるんだ。かわいいじゃん」

 「……蹴るぞ」

 「はーい、いってらっしゃーい!“プリスト”ちゃーん!」

 プリティ・ストームは凜のからかいを背に受けながら、風を切るように走り出した。

 その胸には、ひとつの思いだけがあった。

 ──あいつを、見捨てたくない。

 * * *

 鄙野中心部。  広場で膝をつくミルキーナイトを、三体の魔物が取り囲んでいた。

 「おいおい、もう立てないの?」

 「ミルクちゃん、ちょっと寝転び癖ついちゃってるよ〜」

 口々に笑いながら魔物たちが迫る。

 「……誰か、助けて……」

 声が漏れたその瞬間。

 ──ビュオオオオ!!

 突風。

 「だれかって……あたし以外いないでしょ、バカ」

 風の中に舞い降りたのは、フリルのドレスにリボン、長い髪をなびかせた魔法少女。

 その顔は、だが凜々しく、鋭い。

 「誰だテメェ!?お姫様コスプレかぁ!?」

 「名乗ってやるよ……あたしの名は──プリティ・ストーム!!」

 ミルキーナイトが目を見開いた。

 「カスミ……!? なにその格好……!」

 「見るな!つーか笑うな!殺すぞ!!」

 だがその直後、魔物に向き直るカスミの瞳は、真っ直ぐだった。

 「お前ら……胡桃をよくも弄んでくれたな……」

 その怒りが風を生む。

 「いっけえええええええっ!! プリスト・テンペストォォォ!!」

 放たれた一撃は、広場全体を飲み込み、魔物三体を一瞬で吹き飛ばした。

 風が止むと、ミルキーナイトの目の前には、フリルのドレスを揺らす少女が立っていた。

 「……来るの、遅いんだよ」

 「悪いね。準備に時間かかって」

 「……でも、ありがと」

 二人の笑みは、どこかくすぐったく、そして確かな絆を感じさせた。

 ──再起の風が、鄙野に吹き始めていた。

第14章へつづく)