ミラクルナイト☆第77話
水都大学の第二体育館の扉を開けた瞬間、奈理子の目前に広がったのは、一途にボールを追いかける体育会バレー部の部員たちの姿だった。彼らの動きは早すぎて、瞬きをする間もなくボールが飛び交っていた。
彼女が立ち止まってその光景を眺めていると、奈理子の視界に入るバレー部の選手たちは彼女の中学生の身体から見ると、まるで巨人のように映った。
「奈理子さん、こっちです。」
突如として背後から声をかけられ、振り返ると「水都大学プロレス同好会」のロゴが入ったTシャツを着た青年の顔が覗いていた。彼は自転車を持っていて、荷台を指差し、
「乗ってください」
と微笑んだ。
「でも、ここが体育館じゃないんですか?」
奈理子は少し驚きの声で尋ねた。
青年は微笑みを深めながら
「うちみたいな同好会が体育館を使わせてもらえるはずがないじゃないですか」
と答えた。奈理子は大学のことに詳しくはないものの、体育会と同好会の間の圧倒的な格差を感じ取ることができた。
「さあ、鉄山さんが待ってますよ。」
青年が続ける。
その名前を聞き、奈理子は先日の野獣のような男の顔を思い出した。
「あの人、鉄山って名前なんだ… 」
と彼女は心の中で繰り返した。
奈理子は青年の指示通りに自転車の荷台に腰を下ろした。青年は彼女を上下に見て、あたかも宝物を発見したような目で言った。
「実際に近くで見ると、動画で見るよりずっと可愛いですね。」
その言葉に、奈理子の頬はピンク色に染まった。しかし青年は驚くことに更に続け、
「動画の奈理子さんももちろん可愛いですよ」
と、再び笑顔で言った。彼は嬉しそうに自転車のペダルを踏み始め、二人は大学のキャンパスを横切っていった。
幽霊のような静けさが流れる廃工場に、若い女の子と青年が到着した。廃墟の間に響く自転車の車輪の音。その門をくぐると、ふと耳に飛び込んできたのは、彼女の名を呼ぶ声だった。
「奈理子ちゃん!」
目を上げると、そこには水都大学奈理子私設ファンクラブ会長、成好の姿があった。
「会長さん!」
と、少し驚きながらも安堵の声をあげる奈理子。その微笑みの背後には、なにやら意味ありげな笑顔を浮かべる成好がいた。
「これは僕たち、水都大学奈理子私設ファンクラブからのプレゼント」
彼は手に持っていた練習着を奈理子に差し出した。
「これは…」
濃紺のショーツ状の物体に、奈理子は少し困惑した表情を浮かべた。
成好はにっこりと微笑み、
「昭和、平成の遺物、ブルマーさ。令和の時代だけど、やっぱりヒロインの特訓といえば体操服とブルマーじゃなくちゃね」
と語った。奈理子は頬を赤く染めながら、
「はぁ…ありがとうございます…」
と返事をした。その体操服のシャツには「奈理子」という名前のゼッケンが縫い付けられていた。成好の話によると、本物の新品学販ブルマーを入手するのに苦労したという。
工場の奥に進むと、そこには一つのリングが置かれていた。そのリングの上に立つのは、昨日まで野獣として彼女の前に現れた男、鉄山だった。
彼女は彼に近づき、
「あなたはカブ…」
と言いかけたが、彼の冷たい視線と
「人がいる。みなまで言うな」
という言葉に言葉を飲み込んだ。
しかし、その瞬間、奈理子の中で確信が湧き上がった。彼はカブトムシ男だ。そして今、そのカブトムシ男から特訓を受けることになる。奈理子の心は、興奮と期待で高鳴った。
勅使河原の執務室。勅使河原の目には満足の光が灯っていた。クワガタ男がミラクルナイト、ドリームキャンディ、セイクリットウインドに完璧な勝利を収めた。この瞬間を前に、全てが計画通りに進んでいると感じていた。
「これでカブトムシ男も我らの脅威ではなくなりました。」
その瞬間、渦巻の軽い言葉が勅使河原の達成感を霧散させた。口元の笑みが硬くなる。
「お前、カブトムシ男の本当の力を知っているのか?」
勅使河原は重々しく問いかける。
「え、その、いや…」
渦巻が言葉に詰まる中、勅使河原は静かに頭を振った。
「カブトムシ男、クモ男、そしてスライム男。彼らの真の強さをなめてはいけない。クワガタ男でも、簡単には倒せない。」
「失礼しました、それを考慮に入れていませんでした。」
渦巻は頭を下げた。
勅使河原は一瞬の沈黙を挟んで、
「次は誰にする?」
と問いかける。
「ウニ男はいかがでしょうか。」
渦巻が答えた。
ウニ男。その名の通り、攻撃と防御を兼ねた棘を全身に持つ存在。しかし、勅使河原はここで一つの決断をする。
「渦巻、お前も一緒に行け。戦いの本質をもっと理解するべきだ。」
「ハッ、承知しました。」
渦巻は畏まって答える。
勅使河原の瞳には新たな火が灯った。決定的な敗北を喫した3人のヒロインに対し、更なる屈辱的敗北を与え心を折る。次なる戦いに向け、彼は自分自身とその部下が成長する場を見据えていた。
商店街の奥、どこか昭和の風情を残す老舗のハンバーガーショップ「グフグフハンバーガー」。そのカウンター席に、小学生の寧々と大学生の凜が向かい合って座っていた。窓の外は鳥のさえずりと人々の笑顔が、時間を忘れさせるような穏やかな世界を映している。
しかし、その二人の間には微妙な緊張が漂っていた。強敵、クワガタ男との戦いを控え、寧々は凜にその対策を相談しようと呼び出したのだった。
「懐かしい!お子様ケータイだ〜」
凜が寧々の携帯を手に取り、遊ぶように操作している。この年齢のギャップが、ちょっとした緊張を生んでいる。
「中学生になったらスマホ買ってもらいます!」
寧々の弾む声が店内に響く。凜は笑顔で返す。
「普通に喋っていいよ。タメ口でも呼び捨てでも私、気にしないから。」
しかし、そんなことを言われると、逆にどんな態度で接すればいいのか困ってしまう寧々。そして、凜の口からは奈理子の名前が飛び出す。
「奈理子は水大でプロレスの特訓してるって、大谷が言ってたよ。」
寧々は大谷が水都大学の学生だったことを思い出した。心の中で、大谷との過去を思い返す。ナメコ姫を救った後の彼からの言葉が胸に響く。それは、寧々はもう1人で立派に戦えるという言葉。しかし、クワガタ男の前での敗北は、その自信を崩壊させてしまった。
凜は鋭く寧々を見据え、
「寧々も奈理子もさ、クワガタ男を見てカブトムシ男みたいだってビビっちゃたんじゃないの?」
と言う。
しかし、寧々の頭には、クワガタ男の黒褐色に輝く堅牢な外骨格と、彼の力に打ちのめされた自分の姿が重なって見えた。
そんな中、凜は突如として笑顔で
「私、すごいことに気づいたの!今もナメコ姫の能力使えるんだよ!ヌルヌル出せるんだ!」
と明るく語る。
クワガタ男に完敗したのは凜も同じであるのに、その脳天気な姿勢に、寧々の心はほっとする。そして、凜の持っている強さや自由さに、少しの羨望の念が生まれていた。
商店街の一角、「グフグフハンバーガー」の店内に、大学生の凜が楽しげに厚焼きたまごバーガーを頬張っていた。その甘く、ほんのり塩味が効いたたまごと、柔らかいバンズが彼女の舌を喜ばせる。しかし、その穏やかな時は束の間、町内放送が店内に響き渡る。
「水都公園にウニ男出現!」
「凜さん、行きましょう!」
と小学生の寧々が断言するように叫んだ。
凜は一気にバーガーを口に詰め込むと、寧々の後について店を飛び出す。二人は瞬時に変身し、空に輝く2つの光の球となって水都公園に急降下した。落ちてきた場所、その中心には刺々しい姿のウニ男が立っていた。
「奈理子は特訓で来ないかもね」
とセイクリッドウインドが語り始める。
「私だけで戦いましょう」
とドリームキャンディが即座に返答する。そのとき、しっとりとした存在感とともにカタツムリ男が現れる。
「ミラクルナイトは今日は欠席ですか?」
彼の声は滑らかで、まるで粘土をこねるような手触りを想像させた。
「奈理子さんがいなくても、私たちで充分よ!」
とドリームキャンディは優雅に宣言した。しかし、その言葉の裏にはミラクルナイトが戦闘において足手まといになることへの苛立ちが隠されていた。
寧々が凜を見ると、セイクリッドウインドの頬が細かく震えていた。ゴーグル越しの彼女の目は鋭く、瞬きもせずカタツムリ男を睨んでいるのが察知できた。脳天気で天真爛漫だった凜の面影は、この戦場には微塵もなかった。
水都公園の真ん中、セイクリッドウインドとカタツムリ男が対峙していた。
「私はカタツムリ男をやるから、ウニ男はお願い」
セイクリッドウインドの目には、燃え上がる怒りが宿っていた。一方、ドリームキャンディはその場の緊張を隠しきれない顔で様子を伺っていた。ドリームキャンディは2人連携して戦った方がいいと思ったが、ナメコ姫時代の凜とカタツムリ男の間に何か因縁があるのかもしれないと考えセイクリッドウインドに従うことにした。
セイクリッドウインドは、扇子型の武器ガストファングを高く掲げ、その刃から放たれる疾風の一撃をカタツムリ男に向けて放った。しかし、カタツムリ男は即座に自身の殻に身を隠してその攻撃を避ける。
「いきなり攻撃ですか。せっかちな人ですねぇ。」
と、笑みを浮かべて殻から顔を出したカタツムリ男。しかし、セイクリッドウインドは一歩も引かず、挑発するように言った。
「相変わず殻に閉じ籠るしか脳がないのね。使えない奴だから戦いに出された訳?」
カタツムリ男は、彼女の言葉に顔をしかめ、戸惑った表情を浮かべた。
「貴方は一体何者ですか!」と声を荒げた。
セイクリッドウインドは、軽く笑い、
「さぁ、誰かしら…」
と答えた。そして、周囲に集まった市民たちの方に向かって、声を大にして叫んだ。
「誰か塩を持っている人いませんか〜!」
この言葉に、カタツムリ男の顔が真っ青になった。その瞬間、ウニ男が回転しながらセイクリッドウインドに向かって突進してきた。しかし、セイクリッドウインドは、再びガストファングを振るい、強力な竜巻を作り出し、ウニ男を弾き飛ばした。
「セイクリッドウインド、許しませんよ!」
と、カタツムリ男が叫びながら、再び彼女に襲い掛かった。
その横では、ドリームキャンディが、彼女の鞭状の武器キャンディチェーンを手にし、ウニ男への対策を考えながら戦いの続きを見守っていた。
水都公園でセイクリッドウインドたちが戦っている頃、水都大学近くの薄暗い廃工場のリング上で、奈理子の悲痛な叫びが響いていた。
「痛い!痛い!痛いー!!」
奈理子は鉄山の猛烈な技、片エビ固めに捉えられていた。
鉄山は厳しい目をして、奈理子の筋肉の弱さを確認しながら、右腕で彼女の左脚を捻じ曲げていた。
「まだまだだな、奈理子。お前の筋肉はもっと鍛えないと。」
奈理子は涙を流しながら、
「ゔぁぁ!えっぐぅ!いだぁぁ!」
と、言葉にならない叫び声を上げ続けていた。その痛みには耐えられないのか、彼女の顔は赤くなり、息も絶え絶えだった。
鉄山の左手が、しっかりと奈理子の右太腿を確認し、しばらく触れていたが、その手はゆっくりと彼女のブルマーに移動した。しかし、痛みで意識が朦朧としている奈理子は、そのことに気づく余裕もなかった。鉄山は奈理子のブルマ尻の感触を楽しむ。
この瞬間の奈理子の心情、彼女が何を思っていたのか。それは、彼女の心の中にしか分からない。しかし、鉄山とのこの特訓が、奈理子をどれだけ強くしたのかは、これからの彼女の戦いで証明されることだろう。
水都公園の緑の中、四者の戦いが一気に激化していった。
「くるりん…」と音を立てながらカタツムリ男がゆっくりとセイクリッドウインドに迫ってくる。セイクリッドウインドは彼女の扇子型の武器、ガストファングを手にし、閉じたそれでカタツムリ男を一撃。しかし、カタツムリ男の体が粘液に包まれているため、ダメージはまったく無効であった。彼女の瞳の奥に一抹の苛立ちが浮かんでくる。
「ヌルヌルねぇ…」
と彼女は小さくつぶやいた。
一方、ウニ男は身体を一つの巨大な球体にし、そのまま急速に回転。その勢いでドリームキャンディに突撃してくる。彼女はその回転するウニ男をかわしながら、セイクリッドウインドの方に急接近。
「ナメコ姫の能力を使えるなら、ヌルヌルでウニ男を止めください」
と、彼女は小さな声で頼んだ。しかし、セイクリッドウインドは
「ヌルヌルを使ったら、私の正体がバレてしまうわ」
と、軽く拒否。
「それじゃナメコ姫の能力は使えないのと一緒じゃないですか…」
ドリームキャンディは彼女のその返答に、心の中で失望していた。
戦局は変わらず、セイクリッドウインドは
「ウニ男はドリームキャンディがなんとかして」
と言い放ち、再びガストファングを振るってカタツムリ男に立ち向かった。ドリームキャンディはウニ男の急速な攻撃に立ち向かわざるを得なくなり、一触即発の状況が続く水都公園。その結果は、まだ誰にも分からない。
凜は勅使河原から見放された過去を持つ。そのため、勅使河原の側近であるカタツムリ男に対する怒りは凄まじかった。セイクリッドウインドの目は炎を宿しているかのように赤く燃え盛っていた。
「出てこい!腰巾着!」
その言葉に続いて、セイクリッドウインドのガストファングが再び振り下ろされる。カタツムリ男は異様な程の敵意に圧倒され、再び自分の硬い殻に逃げ込んだ。
この様子を見ていたドリームキャンディとウニ男もセイクリッドウインドの強烈なオーラに押され、一時戦いを忘れてしまった。しかし、ウニ男が我に返ると、カタツムリ男を救出するためにセイクリッドウインドの背中に自らの棘を突き刺した。毒が徐々にセイクリッドウインドの体を蝕む。
フラつきながら、セイクリッドウインドはその棘を手で引き抜く。ひょっこりと殻から顔を出したカタツムリ男は言った。
「貴方は一体何者なんですか?私に恨みでもあるんですか?」
「やっと出てきたわね。」
力を振り絞って、セイクリッドウインドはウニ男の抜けた棘をカタツムリ男の体に突き刺す。
「うぎゃー!」
カタツムリ男は悲鳴を上げた。それに同調するかのように、ウニ男も目を丸くした。
「今度会った時は俺様の力をたっぷり見せてやるからな!」
と、戦い足りない様子でウニ男はカタツムリ男を引き連れて去っていった。
セイクリッドウインドは毒による影響で少しフラついていたが、目の色は少し落ち着いた。勅使河原への恨み、それを背負いながら戦う彼女の瞳には、次に繰り広げられる戦いへの新たな決意が宿っていた。
廃工場のリングは静寂を保っていたが、その中で激しい息の音だけが響いていた。
「はぁはぁはぁ…」
と、断続的にリング上で呼吸を整える奈理子の姿があった。疲労困憊の表情を浮かべている奈理子の姿は、一連のスパーリングの熾烈さを物語っていた。
彼女は「ミラクルナイト」として、長い間、自分独自のトレーニングを積んできた。それだけに、この日のスパーリングでの彼女の惨敗は、彼女自身の未熟さを如実に示すものであった。自分の未熟さを痛感し、奈理子はリングに大の字になり、その場で動けなくなってしまった。
その彼女を、鉄山が見下ろしていた。彼は、すっと腰を下ろし、彼女を容易く抱き上げた。そのまま、奈理子の細身の体をエビ固めの形に抑え込んだ。奈理子の目のには、ブルマーの股間越しに鉄山の顔が見えた。彼の顔は冷静で、彼女をテストするかのような眼差しをしていた。
「ここから脱出してみろ」
と、彼は淡々と言った。
しかし、まんぐり返しの体勢で奈理子の両腕は鉄山の両足に、奈理子の胴は鉄山の両腕にガッチリ抑えされている状態では、なかなかうまく動くことができない。下半身しか動かせない状態で、彼女は苦しむばかりだった。
「そんなことしてもムダだぞ」
鉄山の言葉に焦りながらも、奈理子は彼の頭を太腿で挟み込んで反撃しようとした。
「もっと内腿に力を入れろ」
と、鉄山の言葉は指導とも嘲笑ともつかないものであった。奈理子はその言葉に応えるかのように、ブルマーを食い込ませる程に力を込めて鉄山の頭を挟み込んだ。ブルマー越しに奈理子の股間が鉄山の顔面に喰い込む。
すると鉄山は、そのまま体を起こし、奈理子を宙吊りにした。
「技を一つ教えてやる」
と、鉄山は新たなトレーニングの開始を予告したのであった。
(第78話につづく)
(あとがき)












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