DUGA

ミラクルナイト☆第231話

一月一日。
空気は新たに生まれ変わったように澄み切り、肌を刺すような冷たさの中にも、どこか希望の匂いが混じっていた。奈理子は窓際に立ち、まだ色濃い夜空を眺めていた。昨夜は異常なほどの眠りに落ち、何度も夢から覚めてはまた深い闇へ引きずり込まれた。今、目が覚めた直後の頭には、昨夜の鐘の音と共に昨日の戦いの記憶が不鮮明に滲んでいた。

(例年より、静かな元旦……)

心のどこかで安堵している自分に気づき、同時にそれこそが不気味だと感じた。

「姉ちゃん、アイツと初詣に行くのか?」

階下から隆の声が聞こえる。隆は奈理子の彼氏であるライムのことを良く思っていない。

「……うん。隆も寧々ちゃんと行くんでしょ」

奈理子は重い体を引きずるようにしてクローゼットへ向かい、白いダウンのコートを取り出した。新しい年を大好きな彼氏と過ごす。それは彼女にとって安らぎのひとときだった。


年下の彼氏、ライムが待つ場所へ向かうと彼は先に待っていた。

「抱かれる気満々だな」

ダウンコートにミニスカートの奈理子を見てライムは満足そうにニヤリとする。美しい生脚が日を浴びて輝いている。

「そんなことしか考えてないの?」

元日もいつもの調子であるライムに呆れる奈理子。
二人で一緒に水都神社へ向かう。

「風間凜は今日も仕事か?」

ライム、何気に言う。

「うん。凜さんは巫女さんだから」

昨年の元日はイセエビ男が現れた。奈理子のピンチに凜はお務めの途中にも関わらず駆けつけてくれたのだ。

「今日は、何があっても凜さんの仕事の邪魔にならないように、私が解決させる」

奈理子は決意を込めて呟いた。
ライムが奈理子の頭をポンと叩く。

「痛っ……やめてよライム」

怒る奈理子にライムは微笑む。
初詣の参道は例年通りの人出で賑わっていた。提灯の光が人々の笑顔を暖かく照らし出している。だが、その賑やかな光景の中で、奈理子は先日の戦い以来ずっと感じ続けている違和感を拭いきれずにいた。それは、まるで世界に僅かな歪みが生まれ、それが自分にだけ聞こえる耳鳴りのようだった。

(……まだ、続いてるの……?)

ブナシメジ男の胞子が自分の体内にまだ残っているような、そんな感覚。

「なあ、奈理子。その顔、何か心配そうだぞ」

ライムが、奈理子の肩を抱く。

「え?……あ、うん。大丈夫。ちょっと疲れてるだけ」

彼女はそう言って彼の胸にそっと顔をうずめる。彼の温もりに、一瞬不安が和らぐ。だが、その直後、ふと視界の端に何かが揺らめいた。
参道脇の薄暗がりの中に。
それは人の気配とは明らかに違う、粘着質で冷たい影。奈理子はそっとライムの腕を離し、その方向へと視線を送る。そこには何もいなかった。だが、地面にはごく僅かに灰色の粉が舞っているように見えた。

(……やっぱり、いる)

彼女は、ライムに微笑みを向け彼に小耳を挟む。

「ごめんなさい、ライム。ちょっと、お手洗いに行ってくる」

「ああ。行ってらっしゃい。のぞきには気をつけろよ。壁に穴が開いていなんかちゃんと確認するんだ」

彼は、何も疑わずに頷いた。

奈理子は人混みに紛れて薄暗がりへと消えた。

「……水の守護神よ、光の化身よ……今、私に力を……ミラクル・チェンジ!」

アイマスクを装着した彼女の吐く息が白く、その声が風に消えかかる頃、彼女の体を水色の光が包み込む。光が収まったとき、そこに立っていたのはミラクルナイトだった。

「お待たせしました。新年のあいさつにうかがいました」

静かに響く、紳士的だがどこか悪意を感じる声。
薄暗がりから、マントのような灰色の胞子幕を纏う地味な存在感の男――ブナシメジ男が姿を現した。

「ブナシメジ男……また、あなたなの?」

ミラクルナイトは警戒しながらも落ち着いた口調で問いかける。

「あけましておめでとう、奈理子。お正月はやはり静かに観測するのが一番だね。君が、人々の祝福の中で笑っている様、それはそれで美しいが……」

彼は悠然と構える。

「……凡庸なる日常の隙間に忍び寄る“何か”。それこそが、僕が観測したい世界の本質なのだよ」

「また、難しいこと言って……。早く、終わらせましょう。今日であなたとの決着をつける……」

「ああ、そうだね。君のためにも、今年の僕のテーマを早く披露しなくては」

ブナシメジ男は、ゆっくりと胞子幕を広げる。

「凡庸なるものの、執拗な生命力。それを君に体感していただこう」

周囲の空気が、再びゼリーのように重くなる。先日の路地裏と同じ、胞子の霧だ。ミラクルナイトは即座に距離を取る。だが、今回は違う。

「……!」

彼女の動きが、僅かに遅れる。筋力が、わずかに低下している。先日の戦いの疲れが、まだ残っているのか。あるいは、胞子が着実に自分の体に浸食しているのか。

「どうだね?君の動き、僕はもう読んでいるよ」

ブナシメジ男は不敵に笑う。

「君の“凡庸”さが、僕に君のすべてを教えてくれるのだ」

ミラクルナイトは背後の神社の森を視界に入れる。人がいない場所だ。

「森に行くわよ!」

彼女はブナシメジ男を引きずるように森へと飛び込んだ。

「賢明な判断だ。人々の祝福の中で君が悶える姿を見せるのは少々早すぎるからな」

ブナシメジ男も静かに彼女の後を追う。


森の奥深く、陽射しが斑に差し込む静寂の中。ミラクルナイトはブナシメジ男と対峙していた。胞子の霧が彼女の視界を霞ませ、呼吸を浅くさせる。昨日の戦いの疲れが、ここにきて如実に彼女の体を蝕んでいる。

「はぁ、はぁ……あなたの胞子、まさか、私の中に……?」

「ああ。君という“生態系”に僕という“菌”は、既に根を下ろし始めているのだよ。君の“凡庸”な体は僕の棲家に最適なのだ」

彼は哲学的な口調で言いながら胞子を操り、ラクルナイトの足元に菌糸を這わせる。

「くっ……!」

ミラクルナイトは足を取られる。

「君は、凡庸なるが故に何度でも立ち上がる。だが、その凡庸さが僕にとっての最上の観測材料なのだ。君がどれだけ耐え、どれだけ苦しみ、そして、どれだけ“凡庸”に戻るか。それを僕は今年じっくりと見届けようと思う」

彼は、ミラクルナイトにゆっくりと近づいてくる。菌糸はミラクルナイトの脚を伝い、スカートの中に入っていった。

「やめて……!」

ミラクルナイトは抵抗しようとするが力は入らない。菌糸は彼女の白いショーツの中に潜り込み、秘部を優しく、しかし執拗に刺激する。

「凡庸なる快感。それが君の本質だよ奈理子」

屈辱的な言葉が彼女の耳に突き刺さる。

「ち、違うっ……うあぁっ!」

快感が脊髄を駆け上る。理性のタガが、また外れ始めていた。

「今年の最初の戦いが、こんな形になるなんて……」

ミラクルナイトは歯噛みする。だが、その体は正直だった。菌糸の刺激に、彼女の体は反応している。

「いい顔だね。君は恥じらう顔が一番美しいよ」

ブナシメジ男は楽しげに言い、菌糸の動きを激しくする。

「や、やめ……んんっ……ひぐっ……!
 いやぁ……正月なんだから……始めはライムに……」

ミラクルナイトの抵抗はさらに弱くなる。理性のタガが完全に外れそうになっていた。

「さあ、奈理子。僕からの今年の最初のプレゼントをあげるよ」

ブナシメジ男の菌糸が彼女の最奥部を責める。

「ひ、ひゃあぁぁああああっ!」

奈理子の体が痙攣する。快感が頭を真っ白にする。彼女の視界が白く染まり、意識が途切れる。

「あ……あれ……?」

ミラクルナイトは気絶し、そのままブナシメジ男の菌糸に抱き上げられた。彼女の白いコスチュームは先ほどの絶頂で濡れて肌に張り付いている。

「凡庸な結末。しかし、今年はここからが本当の観測の始まりだよ」

ブナシメジ男は満足げに言い、ミラクルナイトを抱きしめ、静かに森の奥へと姿を消した。


「奈理子……?」

ライムは、トイレの前で待ちくたびれていた。奈理子がトイレに行ってから随分と時間が経つ。

「……なんだ、奈理子の奴、まだお参りもしていないのに、どこいったんだ??」

彼はそう呟くと、不機嫌そうに神社の賑わいの中へと消えていった。


その頃、穢川研究所・白い管制室。
九頭と絹枝は、静かにモニターを見ていた。そこには、ブナシメジ男が、気絶したミラクルナイトを抱え、森の奥へと消えていく様子が映し出されていた。

「……篠宮くんは、去年よりも、ずっと、大胆になったな。
 年明け早々に出勤してきた甲斐があったよ。ねえ、絹絵くん」

九頭は、淡々とそう言う。

「そうですね。先生と二人で元日を過ごすことになるとは、思ってもいませんでした。手当は……出ませんよね……」

家族と新年を迎えていた最中に突然呼び出された絹絵が不満げに言うが、九頭は気にせずに続ける。

「今年の最初の“観測”だね。彼の“凡庸”哲学が、どこまで奈理子の本質に迫るか」

絹枝は端末を操作し、データを記録し始める。

「このままブナシメジ男を放置するのですか?」

「ああ」

九頭は、静かに頷く。

「彼が彼なりの“答え”を出すまでは。
 ただし……」

彼はそこで言葉を切り、視線をモニターのもう一つの角に移す。そこには、ライムが不機嫌そうに人混みを歩く姿が映し出されていた。

「“変数”が動き始めた。彼が奈理子を見つけ出すか、それとも……風間凜か……」

九頭の口元に、薄い笑みが浮かぶ。

「今年も面白くなりそうだね」

管制室の静寂が、装置の音だけを、際立たせていた。


水都の空が淡いオレンジ色に染め上げ始める。
森の奥深く冷たい木漏れ日の下、ミラクルナイトはゆっくりと目を開けた。
体中の骨が軋むような痛む。頭は鉛のように重い。

「……ここは……?」

彼女はゆっくりと起き上がろうとするが、力は入らない。身体は、まるで自分のものではないようだった。

「お目覚めかい、奈理子」

静かに響く、ブナシメジ男の声。

ミラクルナイトは彼が隣に座っているのに気づく。

「あなた……!何を、したの……?」

「僕は何もしていないよ。君の“凡庸”な体が、僕の胞子と共鳴し、最も自然な形で休憩を求めただけだ」

彼はそう言って、ミラクルナイトの髪を優しく撫でる。

「……いやッ!」

ミラクルナイトは彼の手を払いのけるが、その手には力も入っていない。

「凡庸なるものは、怒ることも、凡庸だね」

彼は、楽しそうに笑う。

「さあ、今年の最初の“観測”を再開しよう。君の凡庸なる生態系が、僕の菌とどのように共生していくか。それを、じっくりと見届けよう」

彼は、ミラクルナイトの白いコスチュームの胸元にゆっくりと手を伸ばす。

「やめて……!」

ミラクルナイトは抵抗しようとするが、体は勝手に快感を求め始めていた。

「凡庸なる体は正直だよ、奈理子」

彼はそう言って、彼女の小さな胸を優しく執拗に揉みしだく。

「んんっ……!ひぐっ……!や、やめ……!」

快感が彼女の体を支配していく。

「いい声だね。貧乳は乳首が敏感というが、本当だ。君の、恥じらう声が一番美しいよ」

ブナシメジ男は楽しげに言い、手の動きを激しくする。

「や、やめ……んんっ……ひぐっ……!いやぁ……」

ミラクルナイトの抵抗は完全に消え去っていた。

「さあ、奈理子。今年の最初の“観測”をあげるよ」

スカートの中に入ったブナシメジ男の手が、ショーツ越しに彼女の最も敏感な部分を責める。

「ひ、ひゃあぁぁああああっ!」

ミラクルナイトの体が、再び、痙攣する。

「凡庸なる結末。しかし、今年はここからが本当の観測の始まりだよ」

ブナシメジ男は満足げに言い、ミラクルナイトを抱きしめ、静かに彼女の唇を奪う。

「凡庸なるキス。君の本質だよ、奈理子」

屈辱的な言葉が、彼女の耳に突き刺さる。

「……やめて……!」

ミラクルナイトは最後の抵抗を試みるが、その声は、彼の唇の中に吸い込まれていった。


「奈理子……!」

ライムは、神社の境内を何度も、何度も、歩き回っていた。
彼女は戻ってこなかった。

「……どこかに行っちまったのか……」

彼は不機嫌そうに携帯電話を取り出す。奈理子に電話をかける。

「……つながらねぇ……」

彼はそう呟くと、背後から声をかけられた。

「ライムじゃないの。奈理子は一緒じゃないの?」

水都神社の巫女凜だった。いつもの白衣と緋袴ではなく、千早を羽織り、頭には綺羅びやかな髪飾りが輝いていた。正月らしい、少し華やいだ姿だが、その瞳は鋭く、ライムを射抜いている。

「……ああ。いなくなった」

ライムは素っ気なく答える。

「どうして?」

「知るかよ。どっかに行っちまったのかもしれねぇ」

「……そんなことないわ。奈理子がライムをほっていくはずないこと、あなたが一番、分かってるはずよ」

凜はそう言って、ライムの目を真っ直ぐに見つめる。

「……分かってる」

ライムは不機嫌そうにそう呟いた。

「私も、探すわ」

凜はそう言ってライムの隣を通り過ぎる。

「いや……奈理子は凜の仕事の邪魔したくないって」

「いいから、アンタはここで待ってなさい。
 どうせ、敵に捕まってエッチなことされてんのよ」

凜は振り返らずにそう言った。

「……」

ライムは凜の後ろ姿を不機嫌そうに見送っていた。


森の奥深く、ミラクルナイトはブナシメジ男の腕の中で、静かに息を潜めていた。
彼の胞子は、彼女の体中に根を下ろし始めていた。彼女の思考は少しずつ、彼の哲学に染め上げられていく。

(凡庸なるものは、凡庸なりに……生きている……)

彼女はそう思った。

「君は、理解し始めたね」

ブナシメジ男はそう言って、ミラクルナイトの肩を抱く。

「……何を」

「君の“凡庸”さが、僕にとっての最上の観測材料なのだ」

彼はそう言って、ミラクルナイトの白いコスチュームのスカートを、ゆっくりとめくり上げる。

「やめて……!」

ミラクルナイトは抵抗しようとするが、その声は、ほとん、出ていなかった。

「凡庸なる抵抗。それが、君の本質だよ、奈理子」

彼は、そう言って、彼女の白いショーツを、ゆっくりと、脱がし始める。

「いやッ!」

ミラクルナイトは、最後の抵抗を試みるが、その体は、快感を求め始めていた。

「凡庸なる体、正直だよ、奈理子」

彼、そう言って、彼女の秘部に、ゆっくりと指を滑り込ませる。

「んんっ……!ひぐっ……!や、やめ……!」

快感が、彼女の体を支配していく。

「いい声だね。君の感じる声が、一番美しいよ」

ブナシメジ男は楽しげに言い、指の動きを激しくする。

「や、やめ……んんっ……ひぐっ……!いやぁ……」

ミラクルナイトの抵抗は完全に消え去っていた。

「さあ、奈理子。今年の最初の“観測”を、あげるよ」

ブナシメジ男の指が、彼女の最も敏感な部分も責める。

「あんッ……もぅ……だめぇ……な、奈理子、イクぅぅぅ……」

ミラクルナイトが限界に達しようとしたそのときだった。


「フッフッフ……見つけたわ!雑魚茸!!」

セイクリッドウインドはゆっくりと投げ捨てられた奈理子の白いショーツを拾い、土を払う。

「うっ!ナメコ姫!!」

と、ブナシメジ男が叫んだ。

「ナメコ姫じゃないわ、セイクリッドウインドよ!」

凜は、そう言って、ブナシメジ男に、詰め寄る。

「アンタのような凡庸な存在が、奈理子を汚すなんて許せない!」

彼女はそう言って、ブナシメジ男の胸を鋭く蹴り上げる。

「ぐはっ!」

ブナシメジ男は吹っ飛ばされる。

「凡庸なるものは、凡庸なりに、闘う!」

彼は胞子幕を広げる。

「フン!そんなもの、この私の舞で一掃してあげる!」

セイクリッドウインドは、彼に、舞い掛かる。
ミラクルナイトは、二人の戦いを、呆然と見ていた。

(凜さん……が……)

彼女は、そう思った。

(私の……恥ずかしい姿を……)

彼女は、そう思った。

「凡庸なるものは、凡庸なりに、生きている」

彼女は、そう思った。

(そうだ……私は、凡庸なりに……!)

ミラクルナイトは、ゆっくりと、起き上がる。

「凡庸なるものは、凡庸なりに、戦う!」

彼女は、ブナシメジ男に水のオーラを放つ。

「ミラクル・アクアティック・ラプチャー!」

「ぐはっ!」

ブナシメジ男は、冷たい水のオーラに包まれる。

「奈理子!」

セイクリッドウインドは、彼女の隣に駆け寄る。

「凜さん……ありがとう……」

ミラクルナイトは、セイクリッドウインドの胸に、顔をうずめる。

「いいのよ。アタシは、奈理子が、何も言わなくても分かるから」

セイクリッドウインドは、ミラクルナイトの背中を、優しく、抱きしめる。

「凡庸なるものは、凡庸なりに、美しいよ、奈理子」

ブナシメジ男は、静かに、森の奥へと、姿を消した。

「凡庸なるものは、凡庸なりに、生きている」

彼は、そう独りごちる。


ミラクルナイトとセイクリッドウインドは変身を解き、野宮奈理子と風間凜の姿に戻った。

「もう少しでイクところだったのに、邪魔してゴメンね。
 はい、汚れちゃったけど、奈理子のパンツ」

凜は、奈理子にショーツを差し出した。そのショーツには、愛液の染みが広がっていた。

「……恥ずかしいよ、凜さん……」

奈理子の顔が、また、恥ずかしさで頬が染まる。

「いやいや、これは貴重な証拠品よ。この染み、犯人アナタでしょう、と警察に突き出せば完璧じゃない。ほら、もっと詳しく調べたいなら、アタシに任せて。舌でなめ回して、犯人特定するわ」

「やめてよー!」

「まあ、冗談はさておき。これ、穿きなさい」

凜は、そう言って、奈理子に、ショーツを渡す。

「……ありがとう、凜さん」

「奈理子は、少し、休んだ方がいいわ。スカート短いんだから、パンツに土が付かないように気をつけて」

「……うん」

奈理子は、そう言って、地面に座り込む。

「ねえ、凜さん」

「なに?」

「私のこと、変だと思わない?」

「どういうこと?」

「私の体が、あの男の……胞子に……侵されて……」

奈理子は、そう言って、自分の体を、見つめる。

「……大丈夫よ、奈理子。アタシがいるじゃない。アタシが、必ず、助けてあげる」

凜は、そう言って、奈理子の肩を、抱く。

「……ありがとう、凜さん」

「さ、休んだら、ライムのところに行きなさい。パンツの汚れは上手く誤魔化すのよ」

凜は、そう言って、奈理子の背を押した。

「うん……」

奈理子は、そう呟き、ゆっくりと立ち上がった。


穢川研究所・白い管制室。

九頭と絹枝は、静かにモニターを見ていた。

「……風間凜が、動いたな」

九頭は、淡々とそう言う。

「今年の、最初の“介入”だね。彼女の“非凡庸”な力が、どこまで、奈理子の本質を守るか。
 それにしても、風間凜のパンチラが見れなかったのは惜しい」

絹枝は端末を操作し、データを記録し始める。

「何言ってるんですか……
 で、このまま、ブナシメジ男は放置するのですか?」

「ああ」

九頭は、静かに頷く。

「彼もタコクリスマスローズの活躍に触発されたようだ。
 彼が、彼なりの“答え”を出すまでは任せよう」

「ただし」

彼はそこで言葉を切り、視線をモニターのもう一つの角に移す。そこには、ライムが相変わらず不機嫌そうに人混みの中に立つ姿が映し出されていた。

「“変数”は、まだ、動いていない。彼が、どこまで奈理子が汚されることに耐えられるか、それとも……」

九頭の口元に薄い笑みが浮かぶ。

「今年も面白くなりそうだね」

管制室の静寂が、装置の音だけを際立たせていた。


森の中から抜け出し、神社の賑やかな境内へと戻る。人の温もり、屋台の匂い、子どもの歓声。普段なら心地よいもののはずが、今の奈理子にはまるで別世界の風景に見えた。ブナシメジ男の言葉と感触が、皮膚の下にまるで生きている菌糸のように絡みついている。自分の凡庸な体が、あの男の哲学にどこまで侵食されてしまうのだろう。頭の中を巡るのは先ほどの屈辱と、それに混じる自分でも説明のつかない、微かな甘い残滓。

(凡庸な快感……)

そんな言葉がふと浮かび、自分で吐き出したように震える。

(あんなの、私じゃない……私が求めたものじゃない……)

そう自分に言い聞かせる。だが、心臓の奥で何かが冷たく反応するのを感じる。

「奈理子!」

声がして振り向くと、不機嫌な顔でライムが立っていた。その肩を抱いてくる手は、いつもより力が込もっている。

「どこ行ってたんだよ。また、敵に悪戯されたんじゃないだろうな」

「……違う。ちょっと、人混みではぐれちゃって……」

「……そうか」

ライムは、奈理子の顔を覗き込む。その目が、何かを求めているように感じた。

「……顔色、悪いな」

「……うん。ちょっと、疲れてるの。今日は、早く、ライムに癒されたい」

奈理子は、ライムの胸に顔をうずめる。彼の温もりに、一瞬、不安が和らぐ。だが、その直後、ふと、ライムの体からブナシメジ男とは違う、どこか危険な匂いを感じた。

「……癒す?」

ライムは、奈理子の耳元でささやく。その息は、熱かった。

「うん……」

奈理子はそう頷く。

「ああ、そうか。癒されたい、と。だったら……」

ライムは、そう言って、奈理子の白いダウンのコートの胸元に、手を入れる。

「!」

奈理子は抵抗しようとするが、その手には力も入っていない。ブナシメジ男に犯された時と同じ感覚が、蘇る。

「……やめて……ここじゃダメ!」

「なあ、奈理子。オレのこと信じてるよな?」

ライムは、セーターの中にスライムを流し込んだ。
セーターの下で、スライムは奈理子の胸を優しく揉みしだく。

「んんっ……!ひぐっ……!や、やめ……!」

快感が、再び奈理子の体を支配していく。

「いい声だな。オレに癒されたい、って言ったんだろ?
 周りの人たちにバレないようにイッてみろ」

ライムの言葉に応え、スライムは動きを激しくする。

「や、やめ……んんっ……ひぐっ……!いやぁ……」

奈理子の抵抗は完全に消え去っていた。

「さあ、奈理子。俺から今年の最初のプレゼントを、オレがあげる」

スライムは奈理子の服の中を伝い、彼女の最も敏感な部分を、責める。

「あんッ……もぅ……だめぇ……初詣に来た大勢の人たちの前で、な、奈理子、イクぅっちゃう……」

ブナシメジ男の次は、ライムに弄ばれる奈理子であった。

(第232話へつづく)