ミラクルナイト☆第200話
午後四時過ぎ、水都女学院高校の白壁の校門を抜け、制服の夏服姿の奈理子はいつもの坂道を歩いていた。
白い日傘を差し、軽やかに揺れる水色のプリーツスカート。蝉の鳴き声が、10月とは思えぬ陽射しを強調する。
「うぅ〜暑い……放課後のおやつはプリンだなぁ〜♪ チーズ蒸しパンも捨てがたいけど……」
そんな呑気な独り言を呟きながら、坂の途中でふと足を止めた。
「――あれ? 白園……さん?」
街路樹の陰に立つのは、白いワンピースに優雅な笑みをたたえた白園麗華。例の模擬結婚式で奈理子に花嫁役を勧めた人物だ。しかし、それは本物の白園麗華ではなかったが……
「お久しぶりですね、奈理子さん。今日もお美しいわ」
「へ? あ、ありがとうございます……でもどうしてここに?」
「ちょっと、お話したくて。あなたにだけ……」
その声が一瞬、ひどく低く響いた気がした。
「えっ……え……?」
ゴソッ――。
白園の足元から、音もなく伸びてくる“それ”に、奈理子は息を呑む。
「なっ……何っ……!?」
「花嫁の“お仕置き”の続きを、たっぷりとね――」
ズバン!
無数の**蔓(つる)**が一気に奈理子の脚に巻きつき、持ち上げる。カバンが地面に落ち、水色のスカートがめくれる。
「きゃあっ!? や、やだあぁああっ!!」
「な、何だ今の!?」
「おい、あれって奈理子ちゃんじゃね?」
「動画撮れ! 動画!奈理子のパンツだ!」
市民たちがざわつく中、奈理子は必死で蔓を振りほどく。
(ここじゃ変身できないっ……人が多すぎる……!)
咄嗟に電柱の陰へ飛び込み、鞄からアイマスクを取り出す。
「いっけない……でも、やるしかない!」
アイマスクを目に当てると、光の粒子が舞い始めた――
「――ミラクル・チェンジ!」
制服のセーラー服が消え、白いブラウスとミニスカートが光の中で現れる。
――ミラクルナイト、出撃!
「正体を現したわね……ツルバナ女!」
「ようやく気付いたのねぇ、愛しのミラクルナイトさん♡」
蔓を振るうツルバナ女の声には艶やかな悪意がにじんでいた。
「こんな市街地で好き勝手させないわよ! それッ!」
ミラクルナイトは両掌を前に突き出し、水色の光弾を連射する。
「えいっ! それっ! おりゃっ!」
ピュン!バシュッ!ピカァン!
目にも鮮やかな光が空中を彩る。
市民から歓声が上がる。
「すげぇ! シャインブラストだ!」
「ミラクルナイト来たぁあ!」
「相変わらずスカート短けぇ……!」
だが――ツルバナ女は涼しい顔で蔓を伸ばす。
「そんな牽制弾、効くと思ってるの?」
「っ……!?」
飛び交う光弾を難なく避けたツルバナ女が、足元からも蔓を噴き上げた。
「うわぁっ! きゃっ!」
ミラクルナイト子の足首が、ふくらはぎが、腰が締め付けられていく。
「やめっ……やめなさ――」
ビシッ!
蔓がミラクルナイトの腰布を引き、ミニスカートが捲れ上がる。
「きゃぁあああっ!!見ないでぇええ!」
「うふふ、見せたのはあなたよ?」
(だめ……っ! まともに戦えてない……!)
ズンッ!
地面に背中を叩きつけられ、ミラクルナイトは息を詰まらせた。
「がはっ……う……!」
「う、うわ……やられてる……!」
「あのスカートの下、やっぱり生パン!?」
「奈理子、がんばれぇええ!」
「くっ……ここで……負けられないのに……!」
ミラクルナイトの瞳が涙に滲む。
まだ陽のある放課後、水都商店街。
色とりどりの果物が並ぶ店先に、制服姿の寧々と、カバンを肩から下げた中学生男子・隆が並んでいた。
「このパインジュース、甘すぎず酸っぱすぎず……うん、今日も大当たりね!」
寧々はストローをくるくると回しながら微笑んだ。
果物屋の店主が
「また来てくれよ〜」
と手を振っている。
「アブサワガニ……やっぱり手強いな」
隆が隣で呟いた。
「ええ。キャンディチェーンが通用しなかった。あの泡の装甲……昆虫の羽根と甲殻の合成みたいだったわ」
「空も飛べるし、泡で拘束するし……ドリームキャンディが一番相性悪いんじゃ?」
「だから、どう戦うかちゃんと考えておきたいの。次に現れたとき、負けないために」
寧々はそう言って、真剣な瞳でジュースを飲み干した。
「……姉ちゃん」
そのとき――
ウーーーンッ!! ウーーーンッ!!
街中に警報サイレンが鳴り響いた。スピーカーが重々しく告げる。
「市内南西部にて怪人の出現を確認。市民の皆様は速やかに避難してください。繰り返します――」
寧々の表情が一変する。
スマホを開くと、防災アプリの速報が表示されていた。
『ミラクルナイト、戦闘中』
『敗北の可能性あり』
「姉ちゃん、また負けたのか……」
隆が苦笑しながら呟いた。
「奈理子さんは、私が助ける!」
寧々は立ち上がり、制服のスカートを翻す。
「隆、あとはお願い!」
「おう。帰りは気をつけろよ!」
商店街の人々が騒ぎ始める中、寧々は裏路地に駆け込んだ。
腰のポーチから小さなハートのコンパクトを取り出す。
「キャンディ・スイーツ、ドリーム・キャンディ……!」
眩いオレンジの光が彼女の身体を包み、ドリームキャンディが現れた。
キャンディチェーンを握り、彼女は南へと駆け出す。
一方その頃――
水都神社。
巫女服姿の凜は、境内の水場を清掃していた。竹の柄杓で桶を洗いながら、静かな午後の時間を過ごしていた。
「ふう……落ち葉が多いわね、今日は」
その時だった。
ウーーーンッ!!
警報音が境内の静寂を切り裂いた。
「っ……!」
神社の本殿から、ひとりの青年が姿を現す。白衣の神職装束に身を包んだ、穏やかな目の大谷だった。凜と同い年の、静かな眼差しの青年。
「来たか……ミラクルナイトの危機だな」
「また……?」
「行け、凜。今度こそ、お前の力が必要だ」
「……わかってる。あの子を見捨てるなんて、できないもの」
凜は手を合わせ、一礼すると本殿の影に姿を消す。
袖の内から鉄扇型の変身デバイスを取り出し、静かに呟く。
「風よ――聖なる力を我に。セイクリッド・ウインド!」
風が吹き抜けると同時に、白と緑の装束が舞い、彼女はセイクリッドウインドとなった。
「奈理子が危ない……間に合って」
■水都駅前 午後5時18分
夕陽が街を黄金色に染める中、駅前のロータリーでは人々が仕事帰りの足を急がせていた。
バスの発着音、制服姿の高校生たちの笑い声。そこに、奇妙な音が混ざった。
「ぷく……ぷくぷく……ボボボ……」
駅前のロータリー中央、噴水の縁に、いつの間にか得体の知れない影が立っていた。
蟹のような太い鋏と、巨大な虻の複眼。
その背にはタンクのような器官がつき、無数の泡を生み出している。
「さあ――始めようか」
アブサワガニは低く笑い、鋏を開いた。
「泡の支配による、都市構造の『再編』だよ!」
彼が掲げた鋏の先から、無数の泡が噴き出した。
泡はただの水の膜ではなかった。強靭で粘着質、しかも形状記憶性を持つ特殊構造体。
それらは風に乗り、駅前のビル群、商店街、路面電車の上空へと漂っていく。
「“ミラーバブル・リンクフェーズ2”……発動!」
アブサワガニが足元の装置に触れると、街に散った泡の一部が突如共鳴発光を始めた。
青紫色の光が泡の内部で脈動し、そこに映し出されるのは――
ミラクルナイトの敗北映像、蔓に絡まれて喘ぐ姿、そしてスカートが捲れ上がり露わになっている白いショーツ――
「見てくれ、水都市民の皆さん……お前たちの守護者は、無様に這いつくばっている。これが“真実”だ!」
泡の一つ一つが、街頭スクリーンのように映像を映し出す。
駅前、地下鉄入口、商業ビルのガラス窓、通りの街灯――どこもかしこも、泡が覆い始めていた。
騒然とする人々。
「なにあれ……空中にスクリーンが!?」
「えっ、この映像……ミラクルナイトが……やられてる!?」
「嘘だろ、こんなのフェイク動画じゃ……」
それだけではない。
泡のいくつかが突然分裂・増殖し、バリア状に道を塞いでいく。
交通網は次々に遮断され、避難誘導の警備員たちは泡に閉じ込められて身動きが取れなくなる。
「都市を制する者は、泡を制する!」
アブサワガニは街の高所――駅前の巨大広告ビルの屋上に跳び上がると、泡の海を見下ろして勝ち誇ったように吠えた。
「ツルバナ女よ、私は君がミラクルナイトで遊んでる間に、この街を“泡姫の城”に変えるぞ!」
泡はさらに膨張を続け、駅前の空間全体を薄く覆っていく。
まるでシャボン玉でできたドーム都市が出現したかのようだった。
その内部で、徐々に酸素濃度が変わっていく感覚を市民が覚え始めていた。
まさに、水都市は**“泡の支配”の胎動の中にある。**
だが――
その時、遠くから風を裂く音とともに走るオレンジと白の光線。
ドリームキャンディとセイクリッドウインドが、奈理子救出のため戦場に向かっていた――!
■水都タワー前広場・ミラクルナイト拘束現場
――風が止まり、音も止まったようだった。
ツルバナ女の蔓に捕らえられ、広場のオブジェの上に吊り下げられたミラクルナイト。
白と水色のミニスカートが風に翻る。泥と汗にまみれた姿。
意識がないように見えるその顔に、蛍光灯とカメラフラッシュが無慈悲に光を注いでいた。
「あ……あれは……奈理子さん……?」
駆けつけたドリームキャンディが声を上げる。
「ひどい……こんな……」
セイクリッドウインドの瞳が震えていた。
警察車両のサイレンが鳴り、警官たちが懸命に市民を避難させようと奔走していたが――
「撮れ!今がシャッターチャンスだ!」
「水都の守護神ミラクルナイトが……無様に……!信じられない映像だぞ!」
野次馬、そして報道カメラマンたちが一斉にミラクルナイトにレンズを向けていた。
そのどれもが、彼女の苦しむ顔を、歪んだポーズを、欲望のように切り取ろうとしていた。
――そのとき。
《ピピッ……緊急通達。水都駅周辺が泡状物質により封鎖されました。該当区域の避難を優先してください……ピピッ……》
空に響き渡る合成音声。
駅ビルの屋上に、泡の群れが渦巻いていた。
そしてそこに浮かぶ影――アブサワガニ。
「さあ、泡の支配を完成させるぞォォ!!泡の中で、真実を暴いてやる!」
彼が叫ぶと同時に、さらに泡が分裂し街全体へと広がっていく。
「きゃっ!な、何これ!?」
「泡が……こっち来るッ!?」
市民が叫び、混乱が拡がる。
そして、二人のヒロインの前に影が舞い降りた。
艶やかな赤紫のドレス姿、蔦を纏い、艶笑を浮かべるツルバナ女。
「まあまあ、困っちゃうわよねぇ?守るべきお友達が吊るされてて、泡の中では市民がパニック。さて、どうするのかしらぁ?」
その背後には、3体のウズムシ男。
だらしない舌を出し、既にミラクルナイトの下へと忍び寄っている。
「うふふふ、スカートの中、また見たいなぁ〜♡」
「また光弾撃たれてもいいもんね〜」
「もうちょっと恥ずかしい姿になってもらおうか〜」
セイクリッドウインドが鉄扇・ガストファングを握りしめる。
ドリームキャンディがキャンディチェーンを構える。
「……奈理子を救う?それとも……アブサワガニのところに行って市民を守る?」
「分かってる。でも、でも、こんなのって……っ!」
ふたりの目に、涙が浮かぶ。
どちらを選んでも、何かを捨てなければならない選択。
だが、そのとき――
吊るされていたミラクルナイトの瞼が、ゆっくりと開いた。
「……大丈夫、ふたりとも……」
掠れた声だった。
「えっ!? 奈理子!?」
「意識が……!」
ミラクルナイトの唇が震えながら、言葉を紡いだ。
「お願い……私はいいから……行って……市民が危ないのよ……」
「でも、晒し者にされている奈理子さんをほっておけないっ……! 」
ドリームキャンディの声に、ミラクルナイトは首を振る。
「だからこそ、お願い……! 私に構わないで。私のことは……後ででいいから……!」
蔦に絡まり、スカートを翻し、恥ずかしげに身体を隠しながらも――
ミラクルナイトの目は、涙と共に凜と輝いていた。
「この街を、お願い……ドリームキャンディ! セイクリッドウインド!!」
言葉に力が宿った。
それは、市民を想う“水都の守護神”としての、確かな祈りだった。
ふたりの戦士は、迷いを捨てた。
「わかった……行こう、キャンディ!」
「はい……奈理子さんの想い、無駄にはしない!」
ドリームキャンディとセイクリッドウインドが駆け出す。
泡に覆われた駅の彼方へ――アブサワガニとの決戦の場へ。
残されたミラクルナイトの瞳に、微かな笑みが浮かんだ。
「ふふっ……ヒロインって、大変……」
吊るされたままのその姿に、誰よりも強い心が宿っていた。
ミラクルナイトを残し、泡に包まれた水都駅前へ駆けつけたドリームキャンディとセイクリッドウインド。
泡のヴェールは空を覆い、視界は白濁し、駅前ロータリーは別世界と化していた。
「ここが……泡に支配された場所……」
「どこにいる……アブサワガニ……っ!」
ふたりが構えた瞬間、泡の間から異様な影がぬるりと現れた。
ザッ――
甲殻が軋み、爪が火花を散らす。
ハチの複眼とカニのハサミを備えた合成怪人、アブサワガニ。
「やっと来たな……守護の二輪よ。ミラクルナイトを置いてくるとは――信じられる“仲間”だなあァ?」
泡の唇をくゆらせながら、アブサワガニが嗤う。
「奈理子の覚悟を、私たちは無駄にしないだけよ」
セイクリッドウインドが静かに応じた。
「私たちは奈理子さんの“刃”になる」
ドリームキャンディの声には迷いがなかった。
その言葉に、アブサワガニの複眼が嫌悪を込めて震える。
「ならば……試してやるよッ!!この泡の海の恐ろしさをなぁッ!!」
両腕を広げた瞬間、彼の背中から巨大な蟹泡の触腕がうねり出た。
「必殺・泡の大渦――クラブバブルクラッシャーッ!!」
――ズオオオッ!!!!!
大地がうねり、泡が地面を這い、触れたものを泡の殻で拘束する。
金属、アスファルト、人……すべてを包み込む“泡の檻”。
「凜さん!来ます!!」
「風の導きは失わせない!」
セイクリッドウインドは鉄扇・ガストファングを広げ、吹き荒ぶ突風で泡を散らす。
だが、アブサワガニの泡はただの水泡ではない。
「風がっ……この泡、粘性が強すぎるッ!」
「キャンディチェーンで――!」
ドリームキャンディが、鉄鎖状の鞭を振るう。
しかし、泡の弾力とカニの甲殻にまったく通じない!
「はっはっはっは!通じると思ったか!?貴様らの攻撃など、俺の甲羅には届かんッ!!」
アブサワガニが泡を凝縮し、口元から毒泡弾を射出――!
「ぷくぷく爆弾、いっけぇぇえ!!」
泡の中で爆発し、ふたりは吹き飛ばされた。
「くっ……っ、重い……泡のくせに……」
「身体に……まとわりつく……ッ!!」
立ち上がろうとするふたりの足元に、泡がまとわりつき、滑らせ、倒す。
視界も塞がれ、感覚も鈍る。まさに水都の死角。
アブサワガニが近づいてくる。
「さあ、どうするぅ?貴様らの無様な姿を、泡に包んで世界に中継してやろうかァ?んん?」
「くっ……絶対に……負けない……」
「奈理子さんの覚悟を、無駄にするわけには……ッ!」
泡に沈みかけたその瞬間――
風が渦を巻いた。
セイクリッドウインドが、風の精を呼ぶようにガストファングを掲げた。
「キャンディッ……この泡、風で吹き飛ばすだけじゃダメ……泡を割るには、内側から……!!」
「……中から!? つまり……!」
――ドリームキャンディの目が見開かれた。
「泡の中心に、力を集中させて……!一点に衝撃を与えれば、泡は自壊する!!」
「なるほど……さすが、“直感型”……ですね」
「ふふ、よく言われるの!」
ふたりの目が、光を取り戻す。
ここから勝利の糸口が見えてきた。
白濁した泡の迷宮――。
空は覆われ、音は吸収され、まるで音も光も閉ざされた別世界。
だが――その中心に、再び光が射し込んだ。
「凜さん、私に時間を!」
「了解。泡を割る風、見せてあげるわ」
セイクリッドウインドのガストファングが大きく弧を描いた。
突風が泡を削ぎ落とし、ドリームキャンディの足元に一瞬の突破口を開く。
「いける……!」
泡を裂いて駆けるドリームキャンディ――!
キャンディチェーンがきらめき、彼女の手の中で巨大なロリポップハンマーに変形する。
「見てて……奈理子さん……隆……!私、勝つから!」
アブサワガニが目を見開いた。
「またその武器か……だが通じんぞ!甲羅は砕けんッ!!」
「そんなの、わかってる……!」
――だが、今回は違った。
ドリームキャンディのハンマーの先端が七色の光を放ち始めた。
彼女の瞳には迷いはなかった。
静かにハンマーを構え、叫ぶ。
「これが私の全力――キャンディスターバースト!!」
――ズドオオオオンッ!!
ロリポップハンマーの先端から、七色の光線が発射される!
泡の空間すら貫き、アブサワガニの巨大な身体を飲み込んだ!
「が、がはぁあああ!?熱い、甘い、眩しいぃぃぃい!!」
蟹の甲羅を貫く虹色の一閃――!
アブサワガニの身体にヒビが入り、泡の触腕が次々と崩れ落ちていく!
「おのれ……この私が……泡沫に還るとは……っ!!」
光の奔流がやがて収束し、アブサワガニの身体は閃光とともに四散した。
ツルバナ女は、遠くからそれを見届けるとすぐさま指を鳴らす。
「ドリームキャンディも、セイクリッドウインドも……今日は上出来だったわ」
身を翻し、彼女は去っていった。
敗北を認めたわけではない。次の機会を狙う、撤退だった。
泡が消えた駅前。
空は晴れ渡り、残されたのは泡に濡れたロータリーと、2人の勝者。
「はあ……っ、終わった……」
「キャンディ、良くやったわ……。あれは、完全に決まってた」
「えへへ……早く奈理子さん、助けなきゃ……!」
ふたりは、再び走り出す。
ミラクルナイトの元へ。
彼女のために。仲間のために。
ヒロインたちの絆は、確かにそこにあった。
――水都駅前の泡は晴れた。しかし、タワー前広場では……
ツルバナ女が去り、人々が再び集まりはじめるその片隅で、
未だ蔓に縛られたままのひとりの少女がいた。
白いノースリーブのブラウスと水色のプリーツミニスカートが泡で濡れ、張り付く。
蔓は太腿や腕に絡みつき、彼女を無防備に晒し者にしていた。
その名は、ミラクルナイト――
だがその姿には、いつもの輝きはない。
「はぁっ……うぅ……誰か、来て……」
呻き声に似たか細い声。
その身の周りで、3体のウズムシ男がにやついていた。
「おやおや、こんなに動けないなんて〜、さすがに今日は元気ないねぇ」
「この足……もう少し観察してもいいかな〜」
「このまま、ず〜っと眺めていたいよぉ〜♡」
ウズウズ、むずむずと蠢く彼ら。
蔓を撫でながら、ミラクルナイトのスカートを翻しては歓喜の声をあげる始末。
そこに――風を切る声が響いた。
「そこまでよ!!」
ガストファングが大地を叩いたかと思うと、風の壁がウズムシ男たちを押し返した。
「あなたたち、奈理子さんになにしてるのよっ!!」
セイクリッドウインド――そして、オレンジ色の戦士・ドリームキャンディが現れた。
観客の間から大歓声が沸き上がる。
「奈理子さんをいじめる者は……絶対に許しません!!」
ドリームキャンディがロリホップハンマーを上空に放り投げると、それは空中でクルクルと螺旋を描き、
ドリームキャンディの体から七色の光が放たれた。
「キャンディシャワーッ!!」
流星のような光の粒が無数に降り注ぐ!
「あ、あぁっ!?や、やめ――」
「ミラクルナイト~~また来るからねぇえええ!」
次の瞬間、3体のウズムシ男は光の粒に飲まれ、
パァンッという音を立てて消滅した。
ドリームキャンディは回転しながら落下するロリホップハンマーをキャッチしてポーズを決める。
風の中、セイクリッドウインドは無言で一閃。
「ふっ……風断ちの舞」
ガストファングから放たれた風の刃が絡みつく蔓を断ち切り、
倒れかけたミラクルナイトの身体を優しく受け止めた。
「奈理子、もう大丈夫よ。迎えに来たから」
「うぅ……凜さん……寧々ちゃん……ありがと……」
疲れきったミラクルナイトの瞳に、ようやく光が戻る。
観衆が歓声を上げる。
「すげええ!ドリームキャンディとセイクリッドウインドだ!」
「ヒロインが助けに来たって展開……燃える……!」
市民たちは拍手と歓声で3人の戦士たちを讃える。
風に揺れるスカートを押さえながら、ミラクルナイトは微笑んだ。
「……やっぱり、わたし……ひとりじゃないんだね」
太陽が傾き始めた水都の街。
市民たちの間を、静かな熱気が包んでいた。
ミラクルナイト、ドリームキャンディ、セイクリッドウインド――
3人の戦士が、肩を並べて立っていた。
服は汚れ、髪は乱れ、それでも、
その姿は誰よりも凜々しく、美しくあった。
ミラクルナイトは傷ついた脚を少し引きずりながら、
小さな声で、けれどはっきりと語り出す。
「私……ひとりじゃ、もう戦えなかったかもしれない。
でも、来てくれた。ふたりが……来てくれたから……
また、立ち上がれた……」
ドリームキャンディとセイクリッドウインドはミラクルナイトの背をそっと支えるように立つ。
「ミラクルナイトはひとりじゃありません」
「仲間って、こういうときのためにいるんだよ」
ミラクルナイトの頬に、ようやく笑顔が戻った。
観衆の中から、どこからともなく拍手が起こる。
「良いものを見せてくれてありがとう!ミラクルナイト!」
「ドリームキャンディ!セイクリッドウインド!ありがとう!」
「水都のヒロインたち、バンザーイ!」
拍手はやがて、水都全体を包むような祝福の波へと変わっていく。
ミラクルナイトは少し涙ぐみながら、右手を高く掲げた。
「水都は、絶対に――守るから!」
その声は、風に乗って、街の隅々まで届いていく。
■数時間後:TV報道スタジオ
大型スクリーンに映し出されたのは、泡に包まれた水都駅、
そして、タワー前広場で蔓に絡め取られて晒し者にされたミラクルナイトの姿だった。
《臨場感ある映像ですね。こちら、目撃者の方が撮影された映像になります。》
《見てください、あのスカートの翻り!あ、失礼。ミラクルナイトの勇姿ですね》
スタジオではコメンテーターや女子アナが熱く語り合っている。
《それにしても、ミラクルナイトさんの…えっと…太ももが美しすぎて……》
《いやいや、今回はドリームキャンディとセイクリッドウインドの連携が素晴らしかったですよ!》
《でもウエディングドレス姿のミラクルナイトも話題ですよね〜》
SNS上では、
- #ミラクルナイトの太もも
- #奈理子ドレス事件
- #水都ヒロインズ無双
- #膕派
などのハッシュタグがトレンド入りしていた。
■翌日・水都女学院高校
登校してきた奈理子は、廊下ですれ違う女子生徒たちから
ひそひそとささやかれていた。
「やっぱ、捕らわれのお姫様が似合うよね、奈理子さん……」
「昨日のテレビ観た!?涙出たぁ〜!!」
「ツルバナ女に拘束されてる奈理子さん、美しかった……!」
菜々美はそっぽを向いて拗ねたように言う。
「……なによ、負けたくせにヒーロー気取りって……。べ、別に羨ましくなんかないんだから!」
そんな中、奈理子はそっとつぶやいた。
「もっと強くならなきゃ……でも、仲間がいれば、きっと……!」
制服の裾を風になびかせながら、
彼女はまた今日を歩き出す――
水都の守護神として、ひとりの少女として。
(第201話へつづく)











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