DUGA

ミラクルナイト☆第239話

凜は、節分祭の進行表を眺めていた。真新しい書類のインクの匂いが、古びた木材の匂いと混じり、独特の空気を生み出していた。ゲストリストには、市議会議員、地元財界の大物、そして、全国区の人気芸能人たちの名前が並ぶ。だれもが、水都神社の節分祭には欠かせない顔ぶれだ。
しかし、今年の目玉は、奈理子に違いない。水都市民から絶大な人気を誇る、"純白の天使"。彼女が豆まきで元気な姿を見せてくれれば、この祭りは、きっと成功する。

「…奈理子には、頑張ってもらわなきゃ」

凜は、独りごちた。最近の彼女は、敗戦が続いていた。あのタワー前広場での一件は、テレビで何度も繰り返し放送され、凜の胸を、締め付けた。バターまみれで、失禁し、失神した姿。市民の記憶に、その光景は、焼き付いてしまったことだろう。
凜が、奈理子が節分祭で元気を取り戻してくれることを祈っていると、ゲストリストの中の、一人の名前が、彼女の瞳に、刺さった。
人気お笑い芸人、バナチュウ。
凜の眉間に、しわが寄った。奈理子が、あるテレビ番組に出演した際、彼は終始、奈理子の身体を、触りまくっていた。ミラクナイトの秘密を探ると言って、カメラの前で変身させる。ローアングルでスカートの中を映す。「市民が思い描くミラクルナイトは、スカートを穿いていないミラクルナイトだと思いますよ」と言い放ち、テレビカメラの前でミラクルナイトにスカートを脱がさせた男だ。

「…何も起こらなければいけど…」

凜は、心の中で呪文のように唱えた。その時、社務所の障子が、そっと開かれた。
神職の大谷が、そこに立っていた。彼の顔には、何やら、申し訳なさそうな、表情が、浮かんでいた。

「凜、ちょっといいかい?」

「ああ、大谷さん。何ですか?」

凜は、進行表から、顔を上げた。勤務中は、大谷は凜の上司だ。

「その…セイクリッドウインドの衣装で、一つ、お願いが…」

「衣装?新調するわけでもないでしょう?」

「いえ、その…パンツの色を、変えていただけないかな…?」

凜は、息をのんだ。

「…なんですって?」

「申し訳ない、だけど…」

大谷は、深々と、頭を下げた。
凜は、神様に仕える身として、巫女として勤務するときは、常に、白い下着を身に着けていた。それは、清廉潔白の、しるし。セイクリッドウインドは、ミニスカートの下は、生パンツ。水都神社の巫女である凜が、白い下着を身に着けていることは、市民のほとんどが知っている。そのせいで、「水都神社の巫女は、白いパンツの着用を義務付けられている」という、根も葉もない噂が、流れていた。

「…いい加減にしてください!その件は、前に否定したでしょ?!」

凜の声が、社務所に、響き渡った。彼女の怒りは、抑えきれないほどに、募っていた。

「凜、落ち着いてくれ。聞いてくれれば、分かるはずだ」

大谷は、それでも、静かに、言った。

「白いパンツは、『純白の天使』と呼ばれる奈理子のトレードマークだ。彼女の象徴だ。セイクリッドウインドとミラクルナイトは共に戦う仲間だが、奈理子といつも同じ色のパンツでは、皆が納得しない。それに、白と水色のコスチュームのミラクルナイトは、白いパンツが似合う。だが、緑と銀色のセイクリッドウインドには、白いパンツよりも他の色が似合うだろう?」

大谷は、一息ついて、説得を続ける。

「奈理子は、まだ、女子高生だ。あの若さが、白いパンツを、より、純白に見せる。だが、凜は、24歳だ。大人の色気がある。白いパンツは、君には、似合わない。大人の女性には、大人の色の下着が、似合うはずだ」

「…何を、言ってるの…」

「これは、君のためを思って言っているんだ。凜。君の人気を、さらに、高めるための提案だ」

「…黙って!」

凜は、顔を伏せた。彼女の拳が、震えていた。

「私の人気…奈理子の人気…それが、何なんなのよで…?私は、戦う巫女!パンツの色で、そんなことを言うなんて…」

「だから、だから言っているんだ!君は、巫女だ。ただの戦士じゃない。神社の顔であり、水都の誇りだ。君のすべてが、市民の期待に応えなければならない」

大谷は、凜の肩に、手を置いた。

「奈理子には、奈理子の、居場所がある。凜には、凜の、居場所がある。その違いを、理解してほしい」

「…奈理子の、居場所…?」

凜は、呟いた。

「『純白の天使』の居場所は、純白の世界。そして、セイクリッドウインドの居場所は…もっと、深く、豊かな、色の世界だ」

大谷は、そう言って、社務所から、静かに、去っていった。
凜は、一人、残された。彼女の手には、節分祭の進行表が、握られていた。

「…大人の色…?」

彼女は、窓の外を見た。そこには、深く、豊かな、緑色が、広がっていた。


節分祭当日の水都神社の控室ーー

境内からは、屋台の焼きソバの醤油と、おでんの出汁の匂いが混じり合い、人々のざわめきが、こだましている。まるで、お祭りという名の、生きた獣が、息をしているかのようだ。
水都女学院高校の制服姿の奈理子が、鏡の前に立っていた。セーラー服の水色の衿が、彼女のうなじの色を、一層、際立たせている。

「じゃあ、奈理子。肩衣を着けるわよ」

巫女装束の凜が、後ろから静かに声をかけた。凜の手には、浅葱色の爽やかな肩衣があった。

「はい、凜さん」

奈理子は、そっと、ため息をついた。タワー前広場の出来事から数日間。市民の記憶は新しいニュースで上書きされていくらしいが、彼女自身の心の傷は、まだ痛む。
凜は、奈理子のセーラー服の上に肩衣をそっとかぶせた。奈理子には裃を身に着けてもらう案もあったが、水都女学院の制服の上に肩衣を羽織る姿にとなった。水色襟のセーラー服は、清純可憐な女子校生、野宮奈理子のトレードマークの一つと市民に認識されているためだ。着付けの熟練した指が、紐を結び、着丈を整える。

「今日の豆まきは、拝殿前に設置された舞台から、参拝者に向かって撒くの。下から、たくさんの人が見てるから、気を付けるのよ。特に、スカートの中は覗かれないように」

凜の声は、いつもより、少しだけ厳しかった。大谷から下着の色を指摘されて以来、奈理子のスカート丈と、その中の白いショーツについて、凜は、人一倍、気にするようになっていた。

「…分かってる」

奈理子は、小さく、頷いた。その時、控室の扉が開き、姿の正装の紳士が、入ってきた。

「奈理子さん、本日はご多忙のところ、お集まりいただき、感謝申し上げます」

その男は、奈理子に深々と頭を下げた。

「あ、春宮先生!」

凜が、驚いて言った。

「市議会議長の春宮先生よ」

「…あっ!おはようございます、菜々美さんのお父さん」

奈理子も、慌ててお辞儀をした。春宮は、菜々美の父親だ。厳格な顔つきをしているが、娘の菜々美を誰よりも大切にしていると噂されていた。

「いや、我が家の娘こそ、いつもお世話になっております」

春宮は、そう言って、奈理子に笑顔を向けた。

「いいえ、こちらこそ」

春宮が去った後、奈理子は、安堵のため息をついた。

「…菜々美さんのお父さんだ。緊張した…」

奈理子が、ホッとしたところで、

「奈理子ちゃん、今日も主役だねぇ」

振り向くと、そこには、人気お笑い芸人のバナチュウが、立っていた。いつもの軽い調子、いつもの笑顔——だが、距離が妙に近い。熟した果物の甘い匂いが、奈理子の鼻を擽った。
凜は、眉をひそめたが、奈理子は、何度か共演したことのある相手なので、無警戒に笑顔を見せた。

「バナチュウさん、おはようございます!」

「最前列は、奈理子ちゃんのファンで埋め尽くされているよ」

バナチュウは、そう言って、小袋に入った豆を差し出した。豆まき用の、煎り大豆だ。だが、その表面が、わずかに、湿って光っているように見えた。

「特製なんだよ、これ。滑りがよくてさ」

「バナチュウさんが滑っちゃダメですよ〜」

奈理子は、冗談半分にそう言いながら、豆の袋を受け取った。だが、指先に伝わる、ぬめりのような感触に、一瞬、彼女の眉間にしわが寄った。

「あはは!そうだね」

バナチュウは、笑ったが、その目は笑っていなかった。


儀式が終わり、いよいよ、豆まきが始まった。

「水都女学院高校1年2組、野宮奈理子さんです!」

司会の水都テレビアナウンサーの声とともに、奈理子は拝殿前に設営された特別の舞台に姿を見せた。

「奈理子ちゃーん!」
「こっち向いてー!」

満員の境内から大歓声が気起こる。
舞台のすぐ下に陣取るのは、お揃いの法被を身に纏った水都大学奈理子私設ファンクラブ、通称MNSFCの面々。

「奈理子ちゃん、今日も可愛いよ!」

一際大きな声は会長の成好だ。緊張気味の奈理子だったが、いつも応援してくれるMNSFCを見て落ち着いた。
子供たちが

「鬼は外!」

と声を上げる中、ステージに奈理子とバナチュウが並ぶ。
司会の合図。
一斉に豆が宙を舞う。
その時だった。奈理子は、足元が、ぬるっとした感触に、覆われたのを感じた。

「…!」

彼女の足は、すべる。バナチュウの「特製」の豆だった。その一つが、奈理子の足元で潰れ、バナナの皮ような膜を、放出していたのだ。
奈理子は、バランスを崩した。前方に、倒れこむ。その先には、ステージの端、そして、石畳の、地面があった。

「きゃっ!」

奈理子の悲鳴。
彼女のプリーツスカートが、空中で大きく裏返る
白いショーツが、陽の光を浴びてきらめいた。境内にいた何百人もの人々が、その光景を見た。

「うおおおお!」
「これは、眼福!」

観客は笑う。そして、カメラのフラッシュが、一斉にたかれた。

「奈理子ちゃんが撒いた福、しっかり目に焼き付けました!」

司会の声に、境内がどっと沸く。

「奈理子ちゃん、今日もありがとう!」

成好らMNSFCの面々も大喜び。
しかし、奈理子の身体は、舞台から転げ落ちる。その瞬間、彼女の肩衣が引っかかった。それが、クッションになり、彼女は、地面に叩きつけられるのを免れた。
だが、彼女は、舞台と地面の間に吊るされた格好になっていた。

「…うっ…ぐ…」

奈理子は、もがく。しかし、肩衣が、首と腕を締め付け動けない。

「…助けて…」

彼女の声は、叫びにならなかった。
バナチュウは、ステージに立ち、ただ、見ていた。彼の唇が、わずかに、笑んでいた。

「奈理子ちゃん、大丈夫?!」

舞台下の成好らMNSFCの面々も、奈理子を助けようと、駆け寄ろうとする。下の成好たちからは、奈理子のスカートの中が丸見えだ。

「奈理子ちゃん、動いちゃ危ないよ」
「誰か、上から奈理子ちゃんを引っ張り上げて」

スカートの中を覗き込む成好らの声に、バナチュウが応える。

「皆、落ち着け。奈理子ちゃん、腕を上げて」

「バナチュウさん…」

バナチュウが、舞台から身を乗り出し、奈理子の腕を掴む。そして、奈理子を優しく、抱きしめるように、引き上げた。その手は、さり気なく、奈理子の胸を揉んでいた

「…ありがとうございます…」

奈理子は、恥ずかしそうに礼を言った。

「奈理子ちゃん、無事に救出されました!奈理子ちゃんに盛大な拍手をお願いします!」

司会にうなさがされて、盛大な拍手が沸き起こる。

「ズッコケて吊るされる奈理子ちゃんも可愛いかったよー!」
「奈理子ちゃん、頑張れー!」

皆、思わぬハプニングに大喜びだった。

「奈理子、大丈夫?」

駆け寄ってきた凜は、そう言って、奈理子の、乱れた髪を、整えた。

「…ごめんなさい…」

「ん?なにこれ?」

凜は、滑る床に気付き、手ぬぐいで拭き始めた。

「さあ、豆まき神事、再開です!奈理子さんも準備はいいですか?」

司会が、豆まき再開を告げる。

「あっ、はい。福は〜内ぃ〜!」

奈理子は、皆さまに福が届きますようにと願いながら、声を張り上げ豆を撒くのであった。


豆まきの神事が終わり、奈理子は控室でマスコミの取材に応じている。ステージで滑って吊るされたという、前代未聞の恥ずかしいハプニング。だが、彼女の目の前のカメラを向けた記者たちは、その表情に、どこか嬉しそうな色を浮かべていた。

「奈理子さん、今日のハプニング、すごく勇気のある対応だったと思います。吊るされたままの姿も、多くのファンの心を掴みましたね」

水都テレビのレポーターが、そう言って、マイクを突きつける。

「は、はい…。自分では、ただ焦っているだけでしたけど…。でも、皆さんが笑顔でいてくれて、嬉しかったです。福が届けば、それでいいんです」

奈理子は、そう答えた。彼女の心の中では、バナチュウが自分の胸を触った感触と、スカートがめくれて白いショーツが晒された光景が、断片的に、蘇っていた。だが、彼女は、それを、顔に出さなかった。ミラクルナイトは、いつも笑顔でなければならない。

その時だった。
境内の、ある一角から、不思議な光が、立ち始めた。それは、陽の光を乱反射するような、陽炎とは違う、不気味な輝きだった。まるで、見えない膜が空間に張られ、その表面が、きらきらと、光を、帯びているようだった。

「うわっ!」

まず一人の男が、悲鳴を上げて転んだ。彼は、何もないはずの地面で、すっぽんと、足を、すべらせた。

「危ない…!」

隣にいた女が、助けようとするが、彼女もまた、バランスを崩し、地面に、倒れ込む。
一人、また一人と、まるで、連鎖するように、足を取られていく。先ほどまで祭りの熱気に満ちていた、人々のざわめきは、今や、純粋な、恐怖の悲鳴に、変わっていた。
控室にいた、記者たちも、その異変に気づき、窓から様子をうかがう。

「どうしたの?何か起きたの?」

奈理子も、顔を出した。
その時、控室の隅で、帰り支度をしていたバナチュウが、一人、ほくそ笑んだ。

「ほらね、よく滑るでしょ?」

彼は、そう呟いた。そして、彼は、市議会議長の春宮の耳元に、そっと、寄り添った。

「面白いものをお見せいたしますよ、議長殿」

その声が、グニャリ、と、歪み、伸びる。まるで、機械の故障するような、不快な、音色だった。
春宮が、彼を見る。バナチュウの衣装の隙間から覗くのは、黄色く光る、異質な、皮膚。そして、彼の身体は、ぐにゃりと、人の形では、ありえないように、歪んでいた。

「今日は春の訪れを祝う、めでたい神事だ。やりすぎるなよ」

春宮が、先ほどまでバナチュウだった者に告げる。

「この街で最も人々に愛される娘、奈理子の可愛らしい姿を、神様に奉納いたします」

――バナナ男。
その名前が、春宮の脳裏に、浮かんだ。


突如、境内に現れた、人ならざる、何か。それは、バナナの姿をしていた。
拝殿前は、全面が、つるつるの、皮で、覆われていた。人々は、立ち上がろうとすれば、すぐに転び、逃げようとすれば、すぐに滑る。まるで巨大な、バナナの皮の上に、閉じ込められたかのようだった。

「バナナ男!」

奈理子が、叫んだ。水都の平和を脅かす、悪の、組織。

「奈理子ちゃん、助けて!」
「ミラクルナイト!」

人々の視線が、奈理子に、一斉に、向かう。恐怖と期待が、入り混じった、その眼差しは、奈理子の、小さな肩を、重く、押さえつけた。
彼女は、覚悟を決めた。スカートのポケットの中から、アイマスクを取り出した。

「節分祭を邪魔するなんて、許せない!」

彼女は、高らかに、叫んだ。

水都女学院高校の制服姿の可憐な美少女、野宮奈理子。風が、境内の空気をかき混ぜ、彼女の紺色のプリーツスカートを優しく揺らした。スカートの裾が少しめくれ、太ももの白く滑らかな肌が、陽の光を浴びて、ほんの瞬間、輝いた。

「奈理子ちゃんの太もも、眩しいっ!」
「変身だー!」

それを見ていたMNSFCの面々から、どよめきが起きた。
奈理子は、その光景を気にする暇もなく、星空を模したアイマスクを高く掲げる。

「ミラクル・チェンジ!」

その声が境内に響き渡った瞬間、彼女はアイマスクを顔に装着する。奈理子の身体は、すぐさま、穏やかな水色の光に包まれた。光は彼女の周りで渦を巻き、まるで水の入った瓶の中に閉じ込められたかのように、彼女の姿を周囲から遮断した。
光の中、変化が起こっていた。水都女学院の誇る、紺色のセーラー服とプリーツスカートが、無数の光の粒子となって分解し、消滅していく。制服の下から現れたのは、何の飾り気もない、純白のブラとショーツ。まだ、発育途上と言えるAカップを包むブラは、陽の光を反射してきらきらと輝き、細い腰にフィットするショーツは、彼女の若さと無垢を証明しているかのようだった。

「おおっ!」
「奈理子ちゃんの下着だ!」

毎度おなじみのミラクルナイトの変身シーンに、すでにパニックに陥っていたはずの参拝者は、バナナ男の存在を忘れ、熱狂に包まれた。彼らの恐怖は、一瞬にして歓喜へと変わった。MNSFCの面々に至っては、純白の下着姿の奈理子に、大歓声を上げ、カメラのシャッターを切る音が境内にこだました。
下着姿は、ほんの一瞬。光の粒子が再び奈理子の身体に集い始める。ミディアムボブ黒髪に、愛らしい白いリボンが現れ、彼女の顔周りを可愛らしく飾る。Aカップの胸を包んでいたブラは、胸元に水色のリボンをあしらった、真っ白なブラウスに覆われる。同時に、白い手袋とブーツが彼女の手足に現れる。そして最後に、純白のショーツを、同じく純白のプリーツスカートが、フワリと優しく包んだ。スカートは短く、無防備にも見える下半身である。彼女の秘められた部分を守りるものは、そのプリーツスカートと市販品であるミコール謹製"奈理子のショーツ"のみ。それが、少女らしさを最大限に引き立てていた。
水色の光が静かに消え、変身を終えたミラクルナイトが、拝殿前に立つ。その美しさに、境内は一瞬、静まり返った。しかし、それはほんの束の間。その瞬間、またしても風が吹き抜け、スカートをふんわりと優しく捲くり上げた。短い間ながらも、彼女の純白のショーツが、チラリと、見えてしまった。

「わーっ!」
「純白の天使、降臨!」
「奈理子ちゃん、今日も可愛いよー!」

熱狂は最高潮に達した。カメラのフラッシュが、昼間の境内を、何度も、照らした。
ミラクルナイトは、皆の視線を浴びながらも、毅然と、バナナ男のほうを向いた。市民の期待に応えるように、彼女は、キッ!と、睨みつける。

「水都の平和を乱すものは、ミラクルナイトが許しませんッ!」

その言葉と共に、彼女は戦いの構えをとった。だが、その足元は、先ほどのバナチュウと同じく、滑る。彼女は、わずかに、体勢を崩した。その小さな揺らぎに、観客の心臓が、ひょんと、持ち上げられた。

「うわっ!」
「奈理子ちゃん、滑るから気をつけて!」

成好から、悲鳴に近い叫びが上がる。ミラクルナイトの足元は、既に踏み潰された滑る豆で、完璧な滑り台と化していた。彼女は、わずかに体勢を崩したが、すぐに膝を曲げ、低い姿勢でバランスを取った。その動作は、まるで氷上のスケーターのように、しなやかだった。

「凜ちゃんが来るまで、何とか耐えるんだ!」
「そうだ、凜ちゃんはどこにいるんだ?!」

参拝者たちの声。水都神社の巫女、風間凜は近くにいるはずだ。ミラクルナイトを心配するその声が、ミラクルナイトの胸に、棘のように突き刺さる。


「私が、いつも負けてばかりいるから…私は、敵を倒すことは期待されていないの…」

ミラクルナイトは、そう小さく呟き、悲し気に俯いた。

「油断したね、ミラクルナイト」

バナナ男は、歪んだ笑いを浮かべた。彼の身体は、ぐねぐねと揺れ動き、黄色い皮膚が、不気味な光を放っている。

「この神聖な場所で、あなたのその可愛らしい姿を、より多くの人に見せるための、舞台を準備させていただいたのですよ」

バナナ男は言うと、彼の手が地面に触れる。その触れた部分から、さらに黄色い滑りやすい膜が、拡大していく。石畳は、もはや見えなくなっていた。境内全体が、巨大なバナナの皮に、変わりつつあった。


お授け所で、参拝者に厄除けのお札を手渡していた凜。境内の異変と、奈理子の変身の声を聞き、彼女の表情は、硬くなった。

「すみません、お札はあとで…」

凜は、自分の席を立とうとする。巫女の仕事よりも、セイクリッドウインドとしての使命が、今は、優先される。奈理子を一人で、戦わせるわけにはいかない。

「凜、待て」

大谷が、彼女の腕を掴んだ。

「放してよ!奈理子が一人じゃ…!」

「奈理子は、神様に愛された存在だ」

大谷の声は、静かだったが、その瞳には、強い、意志が、宿っていた。

「神様のお膝元のこの場所で、彼女が戦う限り、ミラクルナイトは負けない。私は、そう、信じている」

「信じている、だけ…?」

凜は、大谷の目を、睨みつけた。

「奈理子は、エッチな責めに、トコトン弱い!バナナ男は、いかにも奈理子にエッチなことをしそうじゃない!また、大勢の人々の前で、奈理子が辱めを受けるかもしれないのよ!」

凜の声は、震えていた。彼女の脳裏には、タワー前広場で風船に捕らわれ、お尻丸出しになったミラクルナイトの姿が蘇る。

「それは…ミラクルナイトの試練だ」

大谷は、そう言った。

「何ですって…?」

「凜、よく聞いてくれ。最近の奈理子は、負け続きだ。自信を失っている。このままじゃ、次の戦いにも、その次の戦いにも、勝てない。彼女が、今、自分の力で敵を倒し、自信を取り戻す必要があるのだ」

「でも…!」

「それに、奈理子のファンは、ミラクルナイトのピンチシーンを楽しみながらも、彼女が自力で敵を撃退することを望んでいる。それは、彼らの、祈りだ。その祈りを、私たちが、遮ってはならない」

大谷は、凜の肩を強く掴み、彼女の目を見つめた。

「これは、奈理子のためでもあり、市民のためでもある。そして、水都のためでもあるのだ。今は、この街の守護神、ミラクルナイトの戦いを、見守るしかない。そう、神様も、望んでいるはずだ」

「…神様が…望んでる…?」

「奈理子は神様に愛されたゆえ、ミラクルナイトになったんだ」

凜は、ぐっと唇を噛んだ。大谷の言葉は、彼女の心に小さな疑念を生んだ。

「でも、私の使命は、ミラクルナイトを守ることだったはず…」

「だからといって、守られれるだけの存在ではいけない。神様に、守護神として選ばれたミラクルナイトの強さを見てもらうんだ」

「…分かったわ…」

彼女は、小さく、頷いた。その瞳には、納得と、悔しさと、そして、深い、心配が、入り混じっていた。

「…奈理子、頑張って…」

彼女は、心の中で、そう叫んだ。


少女漫画のように大きく潤んだ瞳、守ってあげたくなるほど華奢な身体、そして、特別な女の子だけが持つ、何にも代えがたい華やかさ。弱々しくもありながら、その繊細さがかえって美しさを増す、水色の光の粒子をキラキラと漂わせるミラクルナイトの姿に、参拝者の期待は、一気に膨れ上がった。

「行け、奈理子ちゃん!」
「バナナ男をやっちゃえ!」

声援が、境内に響き渡る。
ミラクルナイトは、その期待に応えようと、バナナ男に一歩踏み出す。しかし、彼女の足が地面を捉える前、靴の裏がぬるりと横に滑った。バランスを崩し、かろうじて立て直す。地面は、氷よりも、油よりも滑らかだった。

「うっ…!」

彼女は、低い姿勢で慎重に足を運ぼうとする。しかし、わずかに傾いた地面の傾斜が、彼女をどんどんバナナ男とは逆方向に流していく。近づくことすらできない。

「ふふっ…」

バナナ男は、歪んだ笑みを浮かべる。その黄色い体は、ぐにゃりと伸縮自在に揺れている。

「それでは、ミラクルナイト、あなたのその可愛いお尻を見せていただきますか?」

その言葉と同時に、バナナ男は、地面を滑るように静かに、そして、猛烈なスピードでミラクルナイトに突進してきた。彼の足音は一切聞こえない。ただ、黄色い影が、光の如く疾走するだけだった。

「きゃっ!」

ミラクルナイトは、咄嗟に飛び上がった。彼女は、空中で体をひねった。しかし、着地の瞬間を待ってはくれなかった。バナナ男の伸ばした腕が、彼女の脇腹を鋭く払う。

「うぐっ…!」

衝撃が、彼女の小さな体を、貫いた。ミラクルナイトは、悲鳴を上げながら吹き飛ばされる。彼女の体は、空中で小さくくの字となった。

「きゃあああっ!」

彼女は、石畳に、叩きつけられる。その衝撃で、彼女の純白のスカートは、勢いよく、腰まで捲り上がった。露わになったのは、白いショーツ。陽の光を浴びて、その純白さは、さらに際立っていた。

「おおおっ!」
「奈理子ちゃんのおパンツだああ!」

MNSFCの面々をはじめとする奈理子ファンは、彼女のピンチを、喜びと興奮で見ていた。
倒れたミラクルナイトは、すぐに起き上がろうとする。しかし、その時、バナナ男の足が、彼女の股間にぴたりと止まった。そして、彼女の両足首を掴み、股を左右横方向に大きく開いて開いて持ち上げる。純白のショーツが、バナナ男の足で踏みつけられた

「ひゃっ…!」

意図は、明らかだった。バナナ男は、踏みつけた足で彼女の秘部をぐりぐりと擦りつける。悪質で、屈辱的な攻撃だった。

「うっ…あっ…!」

ミラクルナイトは、顔を真っ赤にして、耐える。しかし、その身体は、思わず、びくびくと、痙攣してしまう。恥ずかしさと、快感と、そして、怒りが、混じり合い、彼女の頭の中を、かき混ぜる。

「どうだ、ミラクルナイト。この感触は、気に入ったかな?」

バナナ男は、嘲るように、言った。奈理子の"清純の証"である純白のショーツが、バナナ男の足で汚されていく。

「奈理子ちゃんのお股が…!」
「頑張れー!」

MNSFCの面々も、心の中で応援していた。彼らは、彼女のピンチを楽しみながらも、心の底では、彼女が、この窮地を乗り越えることを望んでいた。
ミラクルナイトは、歯を食いしばり、踏みつけられた股間に力を込める。捲れたスカートを戻してショーツを隠す余裕はない。

「…いやぁッ!」

彼女は、叫んだ。しかし、その声は、か細く、まるで、助けを求める、子猫の、鳴き声のようだった。大勢の参拝者の前で、仰向けに倒され、ガッチリと両足と股間の三点を固定され、パンツ丸出しで、電気按摩を受けるような屈辱。ミラクルナイトは、ついに、涙を浮かべた。その涙は、瞳から漏れを伝い、アイマスクを濡らす。

「な…なんで、こんなことに…」

彼女の心は、絶望のどん底に沈んでいた。水都の平和を守るはずの守護神。それが、なぜ、こんなにも、みじめで辱められる立場に、立たされてしまうのか。
バナナ男の足は、その意に反して止まることがない。グリグリと、ねっとりと、奈理子の純白のショーツ越しに、彼女の最も敏感な股間へ執拗な振動を与え続ける。

「ひゃっ…あっ…くぅッ…」

漏れる声は、自分のものとは思えないほど、甘く、そして、淫らだった。
羞恥心と、仄かな快感。それは、彼女の中で、奇妙な化学反応を起こしていた。始めは、何とか閉じようと力を込めていた足も、いつしか、バナナ男に持ち上げられるままにピンと伸びきっていた。無防備に、バナナ男の責めを受け入れ、彼女の身体は、次第にその刺激に反応し始めていた。

「んっ…ああんッ!」

ついに、喘ぎ声が、彼女の唇からこぼれ落ちた。彼女は、顔を真っ赤にして悶える。その姿は、もはや戦うヒーロインではなく、ただの無力な少女だった。
天使のような清純可憐な美少女が、その顔を真っ赤にして悶える姿に、奈理子ファンは熱狂した。彼らの期待は、彼女のピンチシーンを楽しむことから、彼女の痴態をより深く見たいという、欲求へと変わっていた。

「ふふっ、泣き顔も可愛いぞ、奈理子ちゃん」

バナナ男は、ミラクルナイトの痴態を嘲笑いながらも、その足で、奈理子の股間に与える刺激を、さらに強めていく。

「さあ、もっと可愛い声を聞かせてくれ。この神聖な場所で、多くの人々に、見守られながら、奈理子ちゃんの本当の姿を、見せつけるのだ」

バナナ男の言葉が、彼女の耳に、痛く、突き刺さる。

「いやっ…やめてっ…!」

彼女は、必死に首を振る。しかし、その身体は、もはや、彼女の意志では動かなかった。股間から伝わる強烈な快感に、彼女の意識は遠のいていく。

「あっ…あんッ…!」

彼女の視界は、白く、霞んでいく。そして、その時だった。

「奈理子ちゃん、頑張ってー!」
「奈理子ちゃん、負けないでー!」

節分祭には、親に連れられた多くの子供たちが参加していた。その中の小さな女の子たちが、泣き声のような叫びを上げていた。ミラクルナイトは、水都の幼い女の子たちの憧れの存在なのだ。
その声は、雷のように、彼女の霞んだ意識に落ちた。

負けるわけにはいかない。

ミラクルナイトの目が、大きく、開く。しかし、遅かった。
バナナ男の足が、最後の一押しをした。その振動は、彼女の耐え忍んでいた、最後の理性の糸を、見事に叩き切った。

「ひゃああああああっ!」

意に反する、強制絶頂。そして、失禁。それは、彼女の体中の細胞の一つ一つを引き裂くような、激しい衝撃だった。

「あっ…あ…」

ミラクルナイトは、だらしなく股を広げたまま痙攣した。子供たちの期待に応えられなかった情けなさと悔しさに、彼女は嗚咽した。
純白のショーツは、土と、奈理子自身の体液でひどく汚れていた
そんな、ミラクルナイトのあまりにも惨めな姿に、参拝者たちは、静まり返った。カメラのシャッター音も、止んでいた。誰もが、言葉を失っていた。バナナ男だけが、その場で大笑いする。

「ガハハハ!"純白の天使"が、えらくパンツを汚しちゃったな!」

その、悪意に満ちた嘲笑が、境内に、響き渡る。

「…なんで…セイクリッドウインドは…」

成好は、ふと、気づいた。ミラクルナイトの相棒であるセイクリッドウインドが、いないことに。彼女は、水都神社の巫女、風間凜だ。近くにいるはずなのに。参拝者たちも、なぜ、セイクリッドウインドが、ミラクルナイトを助けに来なかったのかと騒ぎ始めていた。


社務所の陰で外の様子を伺っていた凜は、とうとう我慢の限界に達し、ガストファングを手に取った。この状況では、出ていくしかない。

「奈理子、今、行くわ…」

しかし、社務所の戸口に出ようとした凜の背に、大谷の冷たい声が落ちた。

「これは、奈理子の戦いだ」

その言葉は、彼女を、釘付けにした。

「でも…!」

「信じろ」

大谷は、それだけ言って、彼女の背中を、押しも、止めもしなかった。


一方、拝殿前では、バナナ男が、さらなる、屈辱を、与えようとしていた。

「さてさて、楽しませてもらったお礼にプレゼント」

彼は、汚れたショーツのクロッチをずらし、奈理子の無防備な秘所に、黄色く光る、モンキーバナナを挿入した。そして、指で、彼女の、最も敏感な箇所を弄び始める。

「…!」

ビクン!と身体は反応するものの、抵抗する力は、残っていなかった。ミラクルナイトは、ただ、泣き続けるだけだった。

「奈理子を辱めるという目的は、十分に果たした。今日は、これでおしまいにしようか」

バナナ男は、そう言って、立ち上がろうとした。

その時だった。

「待ちなさい!まだ、終わってないわ」

凛とした、美しい、声が、境内に、響き渡る。
ガストファングを手にした、風間凜が、現れた。


風間凜の登場に、死んでいた境内に、一瞬、活気が戻った。参拝者たちは、セイクリッドウインドが来たと安堵した。しかし、彼女が、セイクリッドウインドの姿ではなく、いつもの巫女装束であることに気づき、また、ざわめきが起こった。

「…凜ちゃんのまま…?」

「なんで、セイクリッドウインドじゃないの?」

疑問の声が、あちこちから上がる。
しかし、凜は、参拝者の疑問を完全に無視した。彼女は、美しい瞳を据えたまま、ガストファングでバナナ男を鋭く指す。

「これは、3本勝負の奉納試合。まだ、1本目が終わっただけよ」

その宣言に、場内は、さらに、驚きに、包まれた。

「凜さん、何言ってるの…?」

意識が戻りかけたミラクルナイトは、凜の言葉に、自分の耳を疑った。何を言っているのか、わからない。
凜は、そんな彼女の迷いも無視する。

「泣いてないで、早く、立ちなさい」

彼女の声は冷たく、しかし、どこか温かい光を秘めていた。
そして、凜は、泣いている、子供たちの元に歩み寄り、優しく語りかける。

「奈理子お姉ちゃんは、強いんだから。バナナ男なんかに負けないよ」

その声は、子供たちの涙を、止めた。

「そうだ!まだ、スカートもパンツも脱がされていない!勝負は、これからだ!」

成好が、叫んだ。その声に、MNSFCの面々も勢いを取り戻した。

「奈理子ちゃん、まだいける!」
「負けるな、ミラクルナイト!」

凜は、子供たちに微笑みかけた。

「みんなも、奈理子お姉ちゃんを、応援してね」

元気を取り戻した、子供たちは、再び、応援の声を上げ始めた。

「奈理子ちゃん、頑張ってー!」

ミラクルナイトは、その声に押されるように、ゆっくりと地面から体を起こした。スカートの乱れを整える。挿入されたモンキーバナナを抜く。ショーツのクロッチに感じる不快感。
しかし、それ以上に、胸に込み上げてくる何かがあった。
大歓声の中、彼女は、立ちはだかる。

だが、バナナ男は、あからさまにミラクルナイトを侮蔑する。

「ふん、立てば何だ。可愛いだけが取り柄の最弱ヒロインに、何ができると言うんだ。俺のプレゼントで、いい気になっただろうが」

「ミラクルナイトは、水都の守護神」

凜が、言い放った。その声は、氷のように冷たく鋭かった。

「そして、ここは神域。この地を戦場に選んだことを後悔するといいわ」

凜は、ミラクルナイトに檄を飛ばす。

「奈理子の頑張る姿を、神様は絶対に見ている。奈理子、神様に選ばれた女の子の力を、見せてやりなさい!」

「そうだ!神様は可愛い奈理子ちゃんが頑張る姿を見逃さないよ!俺たちも、奈理子ちゃんを全力で応援だ!」

「おー!」

成好の言葉に、MNSFCの面々が威勢を上げる。

「奈理子ちゃーん、まだ一本取られただけだ!」
「勝負はこれからだ!」

参拝者たちも、MNSFCと一緒に声援を送る。その声は、境内中に響き渡り、空気を震わせる。
市民の応援に応えるように。キラキラと水色の光の粒子が、ミラクルナイトの周囲に立ち込める。一度は戦意を喪失した彼女だったが、その瞳に、もう一度、強い光を宿し始めた。

「凜さん、会長さん、子供たち…まだ…諦めちゃ、いけない…!」

光の粒子が、彼女の両手に集まる。それは、彼女の新たな決意だった。

「ミラクル・アクアティック・ラプチャー!」

ミラクルナイトが放った水のオーラが、地面に着くと清らかな水が境内中に広がった。バナナの皮のように滑る床は、奈理子がお漏らししたおしっことともに、その水に洗い流される。

「なっ…!」

バナナ男は、驚く。彼の足は、水に流され、ぐらりと体勢を崩す。


冬の澄んだ夜気が境内を満たし、提灯の灯りが揺れるたびに白い息がふわりと浮かんでは消えていく。水都神社の石畳は、先ほどまでの賑やかな節分祭の名残を残しながらも、いまや異様な熱気を帯びていた。豆まきで撒かれたバナナ豆と、それが変化した滑る地面は洗い流されたが、バナナ男は倒されてはいない。今度はより悪質なものが、境内を覆う。そんな気配を誰もが感じた。

ミラクルナイトは、一歩、踏み出した。冷たい石の感触が、じん、とブーツの底から伝わる。視界の端で、無数のバナナの皮が、ぬらりと光り、境内全体がひとつの巨大な罠へと、変わっているのが分かった。バナナ男は、まだ、何か企んでいる。
くつくつと、笑い声が、響いた。
黄色い怪人――バナナ男が、軽薄な仕草で、肩をすくめる。

「これからが本番だ」

今度は、バナナの豆じゃない。バナナの皮が、地面にばら撒かれた。
バナナの皮は、まるで意思を持つかのように、うねっている。

「ほら、守護神様が、そんなところで、立ちすくんでちゃ、締まらないんじゃない?」

という声は、いつもの軽さを装いながらも、その奥に、明確な“狩り”の意志を、滲ませている。
一歩踏み出せば滑る。踏ん張れば流される。跳べば、着地で崩れる。立つという行為そのものが、否定される戦場。バナナ男は、距離を保ちながら、完全に空間を、支配していた。

「鬼は外、福は内……だっけ?今日は、違うよ。全部まとめて、外に滑らせるんだ」

バナナ男が、そう言った。

まだ、ミラクルナイトのピンチは、続く。ざわめきが、境内を、満たす中で、ミラクルナイトは、歯を、食いしばる。
その時、凛とした声が、響いた。

「奈理子!」

凜が、真っ直ぐに、こちらを見つめ、頷いた。その背後には、節分祭に参加した、子供たち。そして、その中から、一際大きな声が、突き抜ける。

「奈理子ちゃぁぁぁん!!負けるなあああ!!」
成好が、腕を振り上げ必死に叫んでいる。その声に呼応するように、周囲からも次々と声が重なっていく。

「がんばって……!」
「立って……!」
「守ってくれてるんでしょ……!」

その一つ一つが、ミラクルナイトの胸の奥に、染み込んでいく。
ミラクルナイトは、バナナの皮が撒かれた地面に手をつきながら、ゆっくりと顔を上げた。
転ばないように戦うんじゃない。転んでも、進む。
膝に力を込める。ずるっ、と足が流れる。それでも、止まらない。

「まだ、終わってない」

その声には、もう、迷いはなかった。
一歩、踏み出す。滑る。だが、その滑りを受け入れる。身体が流れる方向を読み、その勢いを利用して、低く加速する。

ずるっ――そのまま地面を滑るように距離を詰める動きに、バナナ男の表情が、わずかに歪む。

「なっ……!?」

歓声が、弾ける。

「いけえええ!!奈理子ちゃぁぁぁん!!そのまま行け!!」

凜は、静かに手を組み、祈るように目を閉じる。冷たい空気がわずかに揺らぎ、背中を押すような風が吹く。
ミラクルナイトは、さらに、踏み込む。滑り、崩れ、それでも止まらない。何度も体勢を崩しながら、そのたびに立て直し、前へと進む。

「神様、見ててね……!」

足元が大きく流れる。しかしその勢いのまま身体を回転させ、逆に軸を作り直す。

「信じているよ!!」

ついに、バナナ男の懐へと入り込む。空気が張り詰め、時間が一瞬止まったかのように感じられる。
バナナ男の笑みが、消える。初めて、余裕が、崩れる。

「……やるじゃん」

低く、呟く、その声と同時に、周囲の皮が、一斉にうねりを強める。まだ終わらない。むしろここからが本気だと告げるかのように。バナナ男の黄色い体が、ぐにゃりと、膨らむ。まるで、無数の弾丸を、体内に溜め込んでいるかのようだった。

「次は、これだ!」

彼の叫びとともに、その体から、硬い殻を持つ未熟なバナナが、まるで銃弾のように高速で射出される。

「きゃっ!」

ミラクルナイトは、咄嗟に身をかがめる。一本のバナナが、彼女の髪を掠める。もう一本が、彼女の足元に突き刺さる。地面は、バナナの皮の滑りやすさと、バナナ弾のでこぼこで、もはや、立つことすら困難だった。
地面には、バナナの皮。空中には、バナナの弾。全方位から、攻撃が迫る。

「もう、だめか…」

参拝者の誰かが、そう呟いた、その時、彼女の背中から、白い光の翼が、広がった。

「ミラクルウイング!」

ミラクルナイトは、低空を飛行する。迫りくるバナナ弾を華麗に掻い潜り、ついに、バナナ男の懐に入る。

「決めなさい、奈理子!」

凜が、拳を握りしめる。

「ミラクルクロスチョップ!」

ミラクルナイトは、渾身の一撃を叩き込む。

「うぐっ…!」

バナナ男は、ふっ飛ばされた。その体は、拝殿前の舞台に激突し、ぐしゃりと潰れた。

「奈理子ちゃんが、勝った…?」

参拝者から、どよめきが、起こる。


ミラクルクロスチョップで吹き飛ばされたバナナ男。境内は、一瞬、静まり返った。

「奈理子ちゃんが、勝った…?」

参拝者から、どよめきが、起こる。MNSFCの面々は、すでに、勝利の、雄叫びを、上げようとしていた。
しかし、潰れたバナナの山が、ぐにゃりと、動いた。バナナ男は、奈理子の攻撃を、

「甘い!」

と、言い放ちながら、ゆっくりと立ち上がる。彼の体は、潰れた痕跡もなく、完璧に再生されていた。

「奈理子がこれから恥ずかしがる姿を、想像するだけで、俺は興奮するんだ」

バナナ男は、歪んだ笑みを浮かべ、奈理子に、襲いかかる。
その時だった。

「はいは〜い、2本目は、奈理子の勝ち〜♪」

凛とした美しい声が、境内に響き渡る。
ガストファングを手にした風間凜が、あっさりと割って入った。

「なっ…!まだ、負けてないぞ!」

バナナ男は、叫んだ。

「えーっ?舞台に激突してるじゃん。それで、立ち上がれなかったら、負けでしょ?」

凜は、あっけらかんと、言い放つ。

「こ、この巫女が…立ってるだろうが!」

「それに、言ったでしょ?これは3本勝負の奉納試合。だから、今は1勝1敗。次で決着ね」

凜は、バナナ男に告げる。

「1勝1敗の五分か!」

参拝者たちは、凜の裁定に、大いに盛り上がる。いよいよ、決着のときが来た。

「凜さん…」

ミラクルナイトは、息を、切らしながら、凜を、見つめる。彼女の胸に、温かいものが、込み上げてくる。

「神域での戦いは、神様の前で行われる。ルールは、巫女である私が決める」

凜の瞳は、神々しく、輝いていた。


凜が宣告した「3本勝負」に、境内の空気は一変した。ピンチと絶望の色は消え、祭りのような熱気が再び渦巻く。彼らの唯一の関心事は、ミラクルナイトとバナナ男の決着戦、それだけだった。

「奈理子お姉ちゃんの応援、頑張るぞ!」
「負けないでー!」

先ほどまで泣きべそをかいていた子供たちも、再び声を弾ませる。その純粋な声援が、ミラクルナイトの体に、新たな力を注ぎ込むように感じられた。彼女は深く息を吸い、傷ついた体を支え、改めてバナナ男と対峙する。

「チッ、3本勝負だと…。面白いじゃねえか。いいだろう」

バナナ男は、不敵な笑みを浮かべ、腰に手をやる。その黄色い体が、次第に濃い茶色へと変色していく。完熟しすぎ、腐敗へと向かうバナナのような色。

「お前が俺様の本気を引き出したご褒美に、死ぬほどの快楽を与えてやる」

その言葉と共に、彼の背中から、ドス黒いバナナのような翼が、ごそりと生える。その姿は、もはや滑稽などではなく、不吉な気配を漂わせていた。

「そんなの、ただの見かけ倒し」

凜は、ガストファングを肩に担ぎ、あっさりと切り捨てる。
そして、彼女はミラクルナイトへ向き直り、静かに、だが、確かに響く声で告げる。

「奈理子、本気でやりなさい。100%の自分を、まだ、見せてないでしょ」

その瞳には、疑いも期待もない。ただ、彼女の力を信じる、揺るぎない光があった。
その時、境内の入り口に、オレンジ色の輝きと共に、新たな人物が現れた。

「やっと着いた!あれ?奈理子さん、無事なの…!?」

ドリームキャンディだ。彼女は、ミラクルナイトがピンチに陥っていると聞き、駆けつけた。だが、目の前に広がるのは、祭りのような熱気と、最終形態とでも言うべきバナナ男、そして、平然とガストファングを構える巫女姿の凜だった。状況が、さっぱり呑み込めない。

「どういうこと…?凜さん、変身していないんですか??」

ドリームキャンディが呆然と立ち尽くすと、凜がニコリと微笑んで近づいてくる。

「あら、キャンディ。ちょうどよかった。いま、奈理子が奉納試合をやってるところで、決着戦っていうやつ。見ていかない?」

「奉納試合…?バナナ男と、ですか?」

「そーそー。で、今は1勝1敗の五分。あと一本で決着っていう、とっても面白いところなのよ」

凜は、テキトーに言いくるめる。その口調に、ドリームキャンディは疑問を飲み込み、とりあえず周囲の様子を伺う。成好らMNSFCの人たちは興奮し、子供たちは必死に声援を送っている。どうやら、これは、戦いではなく、見せ物なのだろうか…?

「…わ、わかりました。じゃあ、私は…見てます」

こうして、ドリームキャンディも、ミラクルナイトvsバナナ男の決着戦を、皆と一緒に観戦することになったのである。


最終形態になったバナナ男は、狂気じみた笑みを浮かべた。

「見てろ。これが、俺様の世界だ!」

彼が足を踏み鳴らすと、地面から黒く粘つくバナナの皮が、無限に生み出されていく。それは、もはや滑るだけのものではない。生きた皮腐のように、うねりながらミラクルナイトに迫る。

「きゃっ!」

足を捕らえられた。すぐに、次の皮が彼女の脚を絡め取り、さらに、体中を這い回る。動きが、次第に封じられていく。

「ほらほら、もがいてみろよ。そのもがき方が、いい味出すんだよ。俺様の、完熟したバナナの…」

バナナ男の下劣な声が、耳にこびりつく。もう、どうしようもない。このまま、蝕まれていくだけだ…。
バナナの皮が、ミラクルナイトのスカートを捲り上げ、奈理子のショーツの中に侵入していく。ノースリーブのブラウスの裾からも、奈理子の小さな胸の膨らみへ向かってバナナの皮が入っていく。絶望的な状況に、ミラクルナイトの瞳が、霞んでいく。

「凜さん!コレ、奈理子さんがエッチなことをされるパターンですよ!イカされますよ!」

ドリームキャンディが、慌てて凜の袖を引く。だが、凜は動じない。

「へ〜、中学生の寧々も『イク』って言葉、覚えたんだ」

「なっ…奈理子さんが、『奈理子、イキます』とか、『奈理子、イク』とか、よく言ってるじゃないですか!」

顔を赤らめるドリームキャンディ。

「奈理子なら、腐ったバナナを浄化させることくらいできるはず」

凜は、呟いた。

「奈理子ちゃん、頑張ってー!」
「ピンチの奈理子ちゃん、今日も可愛い!」

絶望を救ったのは、子供たちとMNSFC、そして、多くの参拝者たちの熱い声援だった。

「奈理子ちゃん、みんな奈理子ちゃんが大好きなんだ!」

成好のその言葉と共に、境内のあちこちから、湯気のような霧が湧き上がり、境内中にゆっくりと、広がっていく。それは、神域の空気を清め、浄化するかのようだった。

「こんなに、たくさんの声援…」

霧の中、ミラクルナイトの身体が、水色に輝き始める。

「ミラクルパワー!」

ミラクルナイトは、ミラクルなパワーを開発した。粘つくバナナの皮が消滅し、彼女の身体が、解放される。

歓声に応えるべく、ミラクルナイトは、再び、バナナ男に、挑む。

「甘い香りは、もう効かない!」

「へへっ…そうかい?」

バナナ男は、ニヤリと、笑う。

「そいつは、残念だなあ!」

彼の周囲に、甘い香りが、再び漂い始める。だが、それは、先ほどまでのものとは違った。より、濃厚で、どろっとした香りだった。

「バナナの香りで、相手の集中力を鈍らせる…。なんて、つまらない能力だと思ってる?」

バナナ男は、そう言うと、長いバナナの鞭を、振り下ろす。

「これは、ただの香りじゃない。俺様の、分身だ!」

香りの元となっていたのは、彼のバナナの房だった。それが、今、彼の鞭となって、ミラクルナイトに、襲いかかる。

「うわッ!」

ミラクルナイトは紙一重でかわすも、スカートの裾が裂かれた

「次は、お前の可愛いブラウスだぜ!」

バナナ男の鞭は、さらに激しくなる。だが、ミラクルナイトはひるまない。

「みんな、見てて!」

彼女の背中から、白い光の翼が広がる。ミラクルウイングだ。低空を飛行しながら、鞭を華麗にかわしていく。

「ほう…飛べるのか。じゃあ、こっちも、本気だ!」

バナナ男は、自身の体から、硬い殻を持つ未熟なバナナを高速で射出する。

「見える!」

ミラクルナイトは、それを、すべて、見切った。

「ミラクルアクアティックラプチャー!」

彼女の両手に集まった水のオーラが、地面に着くと、清らかな水が、境内中に、広がった。

「何を…!」

バナナ男は、驚く。彼の足は、水に流され、ぐらりと、体勢を、崩す。

「よし!」

ミラクルナイトは、水の上を、滑るように、バナナ男に、近づく。

「ミラクルパンチ!」

渾身の一撃が、バナナ男の胸に炸裂する。

「うぐっ…!」

バナナ男は、ふっ飛ばされる。その体は、またもや豆まき用に設置された舞台に激突した。

「…何だ、この力は…」

潰れたバナナの山から、か細い声が、漏れる。

「奈理子ちゃんが、勝った…?」
「よっしゃー!」
「奈理子お姉ちゃん、すごい!」

境内は、歓声に、包まれる。


崩れた舞台に埋もれたバナナ男。しかし、分厚いバナナの皮が、クッションのように彼の体を守っていた。大したダメージは、ない。

「終わったつもりか?」

潰れたバナナの山から、憎々しい声が、響く。
バナナ男は、バナナの実を、一つ、食べる。

「もぐもぐ…あー、美味い。パワーが、湧いてくる…」

彼の体が、みるみるうちに、元に、戻っていく。

「なっ…再生能力まで、あるなんて…!」

ミラクルナイトは、驚き、声を、上げる。

「これが、俺様の、真の力だ!」

バナナ男は、バナナの鞭を振り下ろし、地面を叩きつける。


「今度こそ、これで、終わりだ!」

すると、蔓のように絡み合ったバナナの束が、ミラクルナイトの足元で生成され、彼女を捕縛する。

「うぐっ…!」

バナナネットは、びっしりと、彼女の体を締め上げる。ミラクルウイングも発動できない。

「ほらほら、もがいてみろよ。そのもがき方が、いい味出すんだよ。俺様の、完熟した、バナナの…」

バナナ男は、捕縛したミラクルナイトに近づき、

「お前がこれから苦しむ姿を想像するだけで、俺は興奮するんだ」

と、耳元で、囁く。そして、彼女のブラウスの胸元を開け、Aカップの白いブラを上にずらすと、露わになった可憐な乳首に、小さなバナナの芽を、取り付ける。

「栄養吸収攻撃!」

ミラクルナイトの体力が、みるみるうちに、奪われていく。

「いやぁ…」

ミラクルナイトの身体が、ぐったりと力を失う。ピンと勃つ乳首に張り付いたバナナの芽。そこから受ける心地よい刺激に包まれながら、彼女の意識が遠のいていく。

「奈理子ちゃん!」
「貧乳の奈理子ちゃんに、乳首責めなんて…」
「やめてくれええ!」

境内からは、悲鳴と、泣き声が、響き渡る。

「あははは!みんな、乳首から力を吸い取らる奈理子をよく見てろ!これで、俺様の勝利だ!」

バナナ男は、勝利を確信し、狂気の笑いを上げる。

「こっちはどうなってるか、確かめてみよう」

さらに、バナナ男は、ミラクルナイトのスカートを捲り、奈理子のショーツの中に手を突っ込んだ。

「下の方は、もう、大洪水だ」

奈理子の濡れ具合を確認し、彼女の大切な箇所を指で弄ぶ
境内の空気は、どんよりと重く淀んでいく。子供たちの泣き声は、次第にか細くなっていく。ドリームキャンディは、顔を蒼白にし、唇を噛みしめている。もう、これで終わりなのか…。多くの人々が、そう思った。

「こんなときこそ、僕たちの出番だ!みんな、声を出して、奈理子ちゃんを励ますんだ!」

成好の声が響く。

「会長さんの言う通り。みんなの思いを、頑張っている奈理子に届けて!」

凜も続く。そして、ミラクルナイトに向かって、

「奈理子、目を覚まして!神様に選ばれた奈理子の力は、ミラクルナイトの力は、そんなもんじゃないでしょ!」

と叫んだ。
その時、静かな、風が、吹いた。
それは、祭りの熱気でも、冬の冷気でもない。まるで、太古の神域に吹く、清浄な風だった。

風が、ミラクルナイトの頬を撫でる。
彼女の瞼が、ゆっくりと開く。その瞳は、今までの迷いや、恐怖が消え去り、澄み切った光を宿していた。

「…みんな…」

彼女の口元に、小さな笑みが浮かぶ。

「まだ、負けないよ。みんなの笑顔を守るために、私は、全力で戦う!」

その声は、静かだったが、境内中に、はっきりと、響き渡った。

「…なっ!?」

バナナ男は、その変化に驚き、後ずさる。

「私の力は、みんなから、もらったもの。だから…」

ミラクルナイトは、バナナネットを、引きちぎる。

「私を支える、みんなの心が、壊されるのは、嫌だ!」

ミラクルパワーが、光るジュエルの輝きになり、彼女の全身から溢れ出す。その力は、今までとは比べ物にならないくらい、強烈だった。

「こんなもので、私の力は奪えない!」

彼女は、乳首に取り付いたバナナの芽を取り除く。

「消えなさい!」

彼女の身体から放たれた光は、彼女の周囲を浄化していく。バナナネットは、光に包まれ消滅する。バナナ男の再生能力も、封じられる。

「…嘘だ…奈理子にこんな力があるはずが、無い…」

バナナ男は、信じられないといった顔で、自分の体を見つめる。

「これが、みんなが支えてくれた私の、本当の力!」

ミラクルナイトの純白のコスチュームは、光を放ち、水都神社の境内に存在感を示していた。

「奈理子お姉ちゃん、すごい…!」
「勝つんだ、奈理子ちゃん!」

境内の空気は、一瞬で入れ替わる。絶望から希望へ。静寂から、歓声へ。

「こんなっては…最終奥義だ!」

バナナ男は、究極技を出すしかないと判断する。

「究極技!バナナスパイラルドロップ!」

彼の上空に、巨大なバナナが生成される。それを、回転させながら、ミラクルナイトに落下させようとする。

「バナナなんかに、負けないッ!」

ミラクルナイトは、静かに、言い放つ。

「水の都、水都の神様、力をください!ミラクル・アクアティック・ラプチャー!」

彼女の両手に集まった水のオーラが、巨大な水の渦となり上昇する。それは、落下してくる巨大なバナナを迎え撃つかのようだった。

「なんだと…!」

バナナスパイラルドロップは、水の渦に巻き込まれる。バナナの皮は、水に溶けていく。中の果肉も、水と混ざり合う。

「そんな、ばかな…俺様の、必殺技が…」

バナナ男は、信じられないといった顔で、自分の技が浄化されていくのを見つめる。

「これで、最後!」

ミラクルナイトは、水の渦をさらに大きくする。そして、バナナ男に向けて放つ。

「ええっ…!」

バナナ男は、水の渦に、飲み込まれる。

ミラクルナイトの身体の輝きがさらに増す。彼女は、舞うように両手で光を掬い集る。

「おー!これは、久々の…!」
「奈理子ちゃん、可愛いよ!」

皆が知る、ミラクルナイト最大の必殺技の発動モーションに大歓声が沸き起こる。

「みんな…神様…見ててね、私の最大の技…」

ミラクナイトが、両手で集めた水色の光を頭上に掲げる。

「リボン・ストライク!」

ミラクルナイトから放たれた水色の光が、光のリボンとなり、バナナ男を巻き込む水の渦を包み込む。

「いやあああああああああああ!」

バナナ男の悲鳴は、境内中に、響き渡った。

「…これで、終わり」

リボンストライクの光が、消える。
そこに、バナナ男の姿は、なかった。

「勝った…!」
「奈理子ちゃんが、勝った!」

境内は、歓声に、包まれる。

「奈理子お姉ちゃん、一番っ!」

子供たちも、飛び跳ねて、喜んでいる。
ドリームキャンディは、感動の涙を流しながら、ミラクルナイトの姿を見つめている。

「…すごい、奈理子さん…」

凜は、ニコリと、微笑んでいた。

「やったね、奈理子」

彼女の胸に、温かいものが、込み上げてくる。
ミラクルナイトは、疲れた体で、ゆっくりと膝をつく。しかし、彼女の顔は、満足感に満ちていた。

「…ありがとう、みんな」

そう、呟いた。


節分祭は、大いに、盛り上がった。
バナナ男の事件は、人々の記憶に、深く、刻まれた。それは、恐怖の記憶ではなく、ミラクルナイトの活躍と、人々の心が一つになった温かい記憶だった。
MNSFCは、節分祭の成功を、祝っていた。

「会長、今年の節分祭、大成功ですね!」

「うむ、大成功だったな。奈理子ちゃんのおかげだ」

「奈理子ちゃんは、エロいところも見せてくれたし、最高でした!」

「うむ、あの乳首責め、見応えがあったな。僕も、興奮したよ」

成好は、満面の笑みで、言う。

「会長さん、えっちなこと、言ってないでください!」

ドリームキャンディは、顔を赤らめる。

「まあまあ、キャンディ。このような祭りとは、本来、生命力の賛美であり、豊穣の祈念でもあるの。エロスは、神聖な営みに他ならないわ」

凜は、そう言って、ドリームキャンディの頭を撫でる。

「何を、言ってるか、さっぱり、わからないです…」

ドリームキャンディは、呆れていた。

「まあ、いいや。とにかく、奈理子ちゃんは、頑張ってくれた。彼女を、労ってあげよう」

「はい!」

MNSFCの面々は、そう言って、奈理子の元へ、向かう。
彼女は、社務所の一室で休んでいた。

「奈理子ちゃん、お疲れ様!」
「奈理子ちゃん、すごかったよ!」
「奈理子ちゃん、よくやった」

みんなは、彼女を、労う。

「…ありがとう、みんな」

奈理子は、疲れた顔で微笑む。

「ねえ、奈理子ちゃん。あのバナナ男の栄養吸収攻撃、どうだった?」

成好が、真剣な顔で訊ねる。

「…えっ…?」
奈理子は、その質問に戸惑う。

「あの、力を吸い取られるやつ。どんな気分だった?」

「…そ、そんな、こと…!」

奈理子の顔が、カァーッと、赤くなる。

「あははは、恥ずかしがるなんて、可愛いな、奈理子ちゃん」

「も、もう、会長さん、恥ずかしいこと、言わないでくださいよ!」

奈理子は、顔を、両手で、覆う。

「まあまあ、奈理子。そんなに気にすることじゃないわよ。あれは、あれで、立派な神域の出来事だったのよ」

「…神域の、出来事、ですか…?」

「そうよ。バナナ男という、邪な気を、奈理子の純粋な気で浄化したの。あの光景は、きっと、多くの人々の心に刻まれたはずよ」

「…そう、かなぁ…」

「きっと、そうよ」

凜は、優しく微笑む。

「…ありがとう、凜さん」

「いいのよ。奈理子は、この街の、大切な、守護神さんだから」

「…はい」

奈理子は、そう答えると、安心したように、お茶をすすった。

「お疲れ様、奈理子」

凜は、静かに、社務所を後にして仕事に戻る。
冬の日差しが、戦い終えた彼女を、優しく、照らしていた。


次の朝。
奈理子は、気持ちのいい朝日を、浴びて、目を覚ます。

「…ふぁ…」

節分祭の興奮も、ようやく、冷めてきた。彼女は、朝食を済ませ、セーラー服を身に纏い、水都神社へ向かう。

「おはよう、奈理子」

凜は、すでに、掃除を始めていた。

「おはよう、凜さん」

「昨日の夜は、ゆっくり、眠れた?」

「はい、おかげさまで」

「そっか。それは、よかったわ」

凜は、そう言って微笑む。

「…ねえ、凜さん」

「ん?」

「あの時、私、すごい力を、出したでしょ?」

「ああ。すごかったわよ。まるで、水の女神様だったわ」

「…女神、ですか…。それが、私の、本当の力、なの?」

「…どうかしらね。奈理子の力は、まだ、目覚めたばかり。これから、どう変わっていくかは、奈理子自身が決めることよ」

「…私が、決めること?」

「そうよ。奈理子が、どうなりたいかを、強く思うこと。それが、奈理子の力を形にするのよ」

「…なるほど…」

奈理子は、少し考え込む。

「でも、なんだか、嬉しいような、恥ずかしいような、不思議な気持ち」

「ふふっ、それは、あなたが、これから、大人になっていく証拠よ」

「大人…」

「そうよ。奈理子は、もう、子供じゃないわ。だって、あんなに市民を喜ばせる、素敵な戦いをしたんでしょ?」

「…そっか。私、大人なんだ…」

奈理子は、自分の胸を少し撫でる。

「…まだ、小さいけど」

「ふふっ、そうね。でも、それも、奈理子の可愛らしさよ」

「…ははっ」

奈理子は、照れ笑いをした。

「まあ、そんなことは、いいわ。さあ、早く、学校に行きなさい。遅刻するわよ」

「あ、そうだ!」

奈理子は、時計を見て叫んだ。

「遅刻しちゃう!」

「おっとりさんね。気をつけて行ってらっしゃい」

凜は、手を振りそう言う。

「はい!いってきます!」

奈理子は、そう言うと、走り出した。冬の空気が、爽やかにプリーツのスカートを揺らしていた。

(第240話へつづく)