DUGA

ミラクルナイト☆第175話

ちゃぶ台の上には、コマリシャス手描きの「水都侵攻作戦図」。クレヨンで描かれたミラクルナイトの似顔絵が真ん中に大きく貼られ、そこへ赤ペンで「弱っちい!」「涙目!」「今回こそ捕獲!!」と書きなぐられている。

「ふふふ…今回の新兵器は風の魔物・カギムシソウジキ!これで、スカートひらひらミラクルナイトも、もうオワリなのよ!」

小さな体をソファに沈めてニヤリと笑うコマリシャス。その肩の上で、魔法陣から生まれたばかりの掃除機型魔物・カギムシソウジキが

「ヴォオオ〜」

と無意味にノズルを伸ばしている。

「姫様、スカートを吸い上げる吸引力は、前回のユムシセンプウキの三倍に設定してあります!」

と、タンポポタイが自信満々に敬礼する。

「ふふん、これで今度こそ“弱っちい守護神”に勝てるのよ!前はちょっとだけ、うっかり逃げられちゃったけど…」

「うっかりでございますか…」

爺やがぽつりと呟くと、すぐさま

「爺やはだまってて!」

と突っ込まれる。

ソファの反対側、ノートPCを開いていた御祖紗理奈は静かに眼鏡を押し上げた。

「コマリシャス、セイクリッドウインドとドリームキャンディも油断できないわ。前回も彼女たちが現れて流れが変わった」

「ガキンチョとオバサンでしょ?たいしたことないわよー」

「コマリシャス、彼女たちは連携が強い。…セイクリッドウインドとドリームキャンディは、私の方で手を打っておくわ」

「手を打つ…?どうするの?」

首を傾げるコマリシャス。

「ふふ、気にしないで。ただの“外部支援”よ。ミラクルナイト以外の相手は、こちらで足止めしてもらうわ」

紗理奈はノートPCの画面を閉じると、スマートフォンに手を伸ばした。

紗理奈からの電話を受けたのは穢川研究所の一ノ木多実だった。

「わかった…」

電話をっ切った多実は、ソファーに腰掛ける男に告げる。

「オナモミ男、君の出番だわ」


秋風が心地よく吹き抜ける校舎の中庭で、野宮奈理子は制服のスカートを揺らしながら笑っていた。

「すみれさん、見て見て〜。今日、購買の焼きそばパン、最後の一個ゲットできたの!」

「すごいわ、奈理子さん。さすが水女の守護神!」

と、クラスメイトのすみれが拍手する。

廊下を歩けば

「あっ、奈理子さん!お写真一枚だけ!」
「うわあ…今日も可愛いね」

と生徒たちの視線が集まる。生徒会広報部の掲示板には

「野宮奈理子・ミラクルナイト特集号」

と書かれた冊子が誇らしげに貼られていた。

──市民だけでなく、水女でも奈理子は“絶対的アイドル”として認知されている。

それでも本人はどこかマイペースで、すみれや時には怖〜い菜々美とも交流を持ちつつ、平凡で楽しい学園生活を満喫していた。

だが──

放課後、制服の袖をまくりながら購買袋を片手に笑っていた奈理子に、ふと微かな違和感が走った。

(……? なんだろう、今、どこかから視線を感じたような……)

背後には人気のない運河の桟橋。風に吹かれて揺れる木々、そして──そこには誰もいない。けれど、奈理子は目を細めて言った。

「……まさかね。今は、平和なはずだし」

スカートを抑え直しながら振り返り、再び笑顔で帰路についたその背後。

風にそっと揺れる木の影の中で、見えざる扇風機のような羽音が一瞬、木霊した。

──カギムシソウジキ、出撃準備完了。

──オナモミ男、転送待機中。

「ふふふ、ミラクルナイト、次こそはそのスカートごと…吸ってやるからねぇぇぇぇ!」


放課後の水都女学院。淡い夕焼けに照らされ、水色のセーラー服に身を包んだ野宮奈理子は、通い慣れた通学路を軽やかに歩いていた。手にはお気に入りの苺ミルクパンと、購買部で買った可愛らしい文具袋。

「ふふっ。やっぱり放課後の空気って、ちょっと特別な感じがするわ」

誰もいない水都公園の前を通りかかり、噴水広場のそばを歩いていたときだった。ふいに、風向きが変わった。妙に重い空気。どこからともなく微かに漂う――掃除機のモーター音のような、耳障りな機械音。

「……なに? この感じ……」

ピタリと足を止めた奈理子の目の前、芝生の上に突如として紫の光の魔法陣が浮かび上がる。そこから、重々しい音とともに現れたのは――異様な姿の魔物。

節足だらけの胴体に、巨大な掃除機のノズルを思わせる口。何本もの脚がカチャカチャと音を立てて芝を踏みしめる。

「我こそは、風と吸引の王、カギムシソウジキ!」

「へ、変な名前ッ!?」

「変じゃない! 美しい発音で言いなさい。カ・ギ・ム・シ・ソ・ウ・ジ・キ!」

「む、無理があるわよその名前……! あの、通報してもいいかしら?」

「通報? そんな暇はない。私は命じられてここに来たのだ、ミラクルナイトこと野宮奈理子――!」

「ええっ!? いきなり本名!?」

「君が戦闘中に名前呼ばれまくってるのが悪い!」

「うぅ……! ちょっと市民の皆さんが自由すぎるだけよ……!」

カギムシソウジキは、ずずっと一歩踏み出し、ノズル状の口をカシャリと鳴らす。

「今度こそ貴様を吸い込んでプリーツスカートの真価を確かめてやるッ!」

「や、やだもう……! 何その変なモチベーション!? っていうかスカートが目的!?」

「そうとも! 強風で翻るヒロインのスカート、それを制する者こそ、水都を制す!」

「そんな戦術聞いたことないわよ!?」

風がざわりと吹き抜け、カギムシソウジキの掃除機ノズルが唸り声を上げる。

「覚悟しろ、奈理子=ミラクルナイト! 風と吸引の力、今こそ見せてやる!」

「こ、こんな場所で変身なんて無理よ……! まずい……どこか、どこかで……!」

奈理子は周囲を見渡す。すぐそば、噴水広場の向こうに――ちょうどいい、あの多目的トイレがあった。

「はあっ……! 全力で逃げるしかない!」

「逃がすかッ! 吸引起動、風力三倍ッ!」

「うわーっ、なにその設定!? 風やめてーっ!!」

走り出す奈理子の背後から、カギムシソウジキの吸引音が轟く――!


「はぁ、はぁ……っ、間に合った……!」

奈理子は勢いよく多目的トイレのドアを閉め、壁に背を預けた。外ではカギムシソウジキの風圧が吹き荒れ、公園のベンチがひっくり返る音が聞こえる。

「やるしかない……ここで立ち止まったら、みんなが危ない……!」

奈理子はアイマスクに手に、目を閉じる。

「ミラクルチェンジ……ミラクルナイト!」

トイレの内部が水色の光に包まれる。光が奈理子の制服を溶かすように消し去り、彼女は一瞬、純白下着姿となる。

そこへ、輝く白色のリボンが奈理子の黒髪のミディアムボブに巻き付き、鮮やかに結ばれる。白いノースリーブのブラウスが上半身を包み、同時に両腕にグローブ、両脚にブーツが装着される。胸にはきらめく水色のリボンが出現。

最後に、白地に水色のラインが入ったプリーツスカートがふわりと腰に巻きつき、ひらりと風に舞うように定着した。

「ミラクルナイト、参上よっ!」

その瞬間、トイレのドアが勢いよく開く。

水色の風が公園全体に広がり、ミラクルナイトが飛び出した。ミラクルウイングが煌めきを帯びて広がり、空に舞い上がる。

「おおおおおっ……!!」

公園の片隅に避難していた市民たちが歓声を上げる。

「出たぁああ! ミラクルナイトだっ!」
「水都の守護神! 純白の天使!」
「スカートがひらひらしてて可愛いぞー!」
「今日もプリーツ完璧ッ!」
「がんばれ、ミラクルナイト! 負けるなーっ!」

ミラクルナイトは一度くるりと宙を舞い、風をまといながら芝生広場の中央に着地した。その姿は、まさに市民が誇る“アイドルヒロイン”。

彼女は指先をカギムシソウジキに向ける。

「水都の平和を乱す者は、ミラクルナイトが許しませんッ!」

「おおっ……! 正義の決め台詞来たー!」

市民の熱烈な声援が、公園の空気を振るわせていた。

その様子を少し離れた木陰から見ていたカギムシソウジキは、ノズルをぶるぶる震わせて笑った。

「ふふ……さあ、スカート舞い上げ合戦、第二幕のはじまりだ――!」


『魔物出現、魔物出現。水都公園に魔物出現!ミラクルナイトと交戦中――』

放課後、制服のまま町を歩いていた水都中学一年・杉原寧々は、その町内放送を聞いて立ち止まった。すぐにスマホを確認する。案の定、数件の通報が上がっていた。

「やっぱり……奈理子さん、今度は何に巻き込まれてるんですか……」

軽くため息をつくと、彼女は人目を避け、公園脇の植え込みに飛び込む。

「キャンデイスイーツ、ドリームキャンディ!」

虹色の光が弾け、オレンジのドレスにキャンディーチェーンを纏った戦士が現れた。

「行きますよ、奈理子さん――!」

しかし、走り出そうとしたその瞬間。前方の通路が、何かで“ぼふん!”と音を立てて塞がれる。

「えっ……何?この毛玉――」

立ちはだかったのは、全身にとげとげした緑の実をびっしり付けた、モコモコのシルエット。

「オナモミ男、ここに爆誕~!」

大の字ポーズで通路を塞ぐその姿は、まるで地面に転がる歩く雑草のようだった。

「なにが“爆誕”よ……退いて!私は急いでるの!!」

「ふっふっふ……奈理子ちゃんに加勢しようってんだろう?残念だったな、今日の主役はオレだぜ! 君のスカートとかに絡まったら、もう離れないぞ~?」

「わたし、スカート穿いてませんけど!」

オレンジドレスの下は安全設計の黄色いブルマー。ガードは万全だ。

「うぐぐ、それでも絡めとってみせる! このオナモミスローで、キミの足をもっふもふにしてやる!」

言うが早いか、オナモミ男が身をひねると、無数のとげとげボールがドリームキャンディへ飛来。

「わっ、汚いっ!地味に痛いっ!」

跳ね返すキャンディーチェーン。ドリームキャンディの額に青筋が浮かぶ。

「面倒だけど、あなたを片付けてから向かうしかないわね!」

一方その頃、ミラクルナイトは…

「うわっ、やっぱり掃除機って強いなぁ!」

魔法陣から現れたカギムシソウジキに引きずられながら、ミラクルナイトこと野宮奈理子が水都公園で絶賛大苦戦中であった――。


午後の陽射しが傾きかける商店街。町内放送で魔物の出現を知ったドリームキャンディ――杉原寧々は、躊躇なく変身を完了し、ミラクルナイトのもとへ向かおうとしていた。

しかし、その行く手を阻んだのは、全身をトゲに覆われた、巨大な毬のような怪人――オナモミ男

「お前が行こうとしている場所は、通行止めだよ、ドリームキャンディちゃん!」

「……もう一度言うわ。オナモミ男、道を開けて。奈理子さんが危険なのよ!」

「危険なのはお前だッ!」

オナモミ男の体から、無数のトゲが飛散する!
ドリームキャンディは咄嗟に回避。黄色いドレスが風に翻るが、すぐに足元へと構えを取る。

「キャンディシャワー!」

七色の光線が一直線にオナモミ男へと伸びる。だが、敵は柔らかくトゲを膨らませると、光を分散させて無効化した。

「効かない!? じゃあ、これはどう――ロリホップ三段突き!」

ドリームキャンディの手に現れたロリホップハンマーが、バネのように飛び出し、三連撃を叩き込む。トゲを突き破って、オナモミ男が後退する。

「ちっ、生意気な……!」

オナモミ男が体を回転させると、全身のトゲが竜巻のように周囲に飛び散る! ドリームキャンディはハンマーを盾に受け止めるも、足元をすくわれ、後方へ跳ね飛ばされた。

「くっ……このくらい……!」

立ち上がろうとするも、腕に絡みつくように小型のオナモミが吸着している。そこから電流が流れる!

「ぐうっ……!」

「これが、オナモミ電気ショックだあっ!」

――その時だった。地を裂くような突風が吹き抜け、オナモミ男の姿が後方へ跳ねる。

「キャンディは奈理子のところへ。ここは、私が相手する」

風と共に現れた白と緑の戦士、セイクリッドウインド。背に広がる風のマントが、夕日に揺れる。

「凜さん……!」

セイクリッドウインドが扇状の刃――ガストファングを構えると、冷たい風がオナモミ男の前線を吹き飛ばす。

「風の、おばさん……ッ!」

「誰がおばさんよッ!」

――戦いの舞台は、いよいよ次なる局面へと進む。


軒を連ねる小さな店々の間で、セイクリッドウインドとドリームキャンディは、一匹の奇妙な怪人と対峙していた。

「きゃっ!また引っ付いたわ!」

セイクリッドウインドがスカートの裾に張り付いた無数のトゲを振り払う。

「オナモミ男……っ!」

ドリームキャンディが睨みつける。

「うふふ~、このトゲトゲ、可愛い子たちにいっぱいくっついちゃうよ~」

嬉しそうに笑うオナモミ男は、腰からいくつものオナモミ型のトゲを飛ばしてくる。

「この、煩わしいわねっ!」

セイクリッドウインドが風の刃でオナモミを吹き飛ばすが、次から次へと無限に飛んでくる。

「ひっつき虫って、ほんとに厄介ですね……」

ドリームキャンディもキャンディチェーンで絡め取ろうとするが、オナモミが絡みついてチェーンも機能しにくい。

商店街の蕎麦屋のおじさんが、暖簾をかき分け顔を出す。

「おお、嬢ちゃんたち頑張れ!負けるな!」

果物屋のオジサンも、バナナを片手に叫ぶ。

「奈理子ちゃんの仲間だろう!行けー!」

そして、占い師の綺麗なお姉さんが手を合わせて祈った。

「あなたたちには強い星がついているわ……!信じなさい!」

商店街の住民の声援を背に、ドリームキャンディはキュッと拳を握る。

そのとき――町内放送が鳴り響いた。

『水都公園にて、戦闘中のミラクルナイトは大ピンチです!水都公園には立ち入らないでください!』

「えっ、奈理子さんが……!?」

驚いたドリームキャンディが顔を上げる。

「セイクリッドウインドさん、ここはお願いできますか?」

セイクリッドウインドは笑みを浮かべ、軽くウインクした。

「任せなさいな。奈理子が身包み剝がされる前に、早く行って。」

「ありがとうございます!私、奈理子さんのもとへ!」

ドリームキャンディは踵を返し、虹色の光を纏いながら駆け出した。
その後ろ姿を、商店街の人々が手を振って送り出す。

「行けぇーっ!」
「奈理子ちゃんと力を合わせてー!」

果物屋のオジサンが大声で叫ぶ。

「ドリームキャンディ!奈理子ちゃんを頼んだぞー!」

奈理子の弟、隆もこっそり商店街の陰から見守り、拳を握り締めた。

(姉ちゃん、寧々が着くまで頑張れ……!)

オナモミ男は小さく舌打ちした。

「チッ、逃げられたか……まあいい、オバサンと遊んであげるよ~」

「オバサンじゃないわよッ!!」

怒り心頭のセイクリッドウインドが、ガストファングを構え直した。

商店街に再び戦いの火花が散る――。

そして、一方。
ドリームキャンディは風を切って、水都公園へと疾走していた。

(奈理子さん、今行きますからね!)

彼女のオレンジ色のドレスが、夕陽に輝いていた。


水都公園・芝生広場――。

白いブラウスに水色のリボン、白いプリーツスカートを翻しながら、清らかに立ち向かうミラクルナイト。
その清純可憐な姿に、集まった市民たちは目を輝かせた。

「奈理子ちゃん!がんばれーっ!」
「ミラクルナイト、天使みたいだーっ!」

成好を筆頭とする水都大学奈理子私設ファンクラブ(MNSFC)の面々は、まるでライブ会場のような熱狂で声援を送っていた。

「純白の奇跡!今日も完璧だぞーっ!」
パン……じゃなかった!守護神ミラクルナイト最高!!」

だが――。

ミラクルナイトの前に立ちはだかる怪物、カギムシソウジキは無慈悲だった。

「ブォオオオオオッ!!」

掃除機型の口から放たれる猛烈な吸引風。
ミラクルナイトのスカートがバサァッと激しく翻る。

「きゃあっ!」

ミラクルナイトは両手で必死にスカートを押さえるが、風圧は容赦ない。
白いショーツとすらりと伸びた美しい太腿が、風に煽られ無防備に晒されてしまう。

「うぉおおおおお!!」

市民たちは歓声を上げ、成好たちも涙ぐみながら声援を送る。

「が、がんばれ奈理子ちゃん……!!」
「負けるなーっ!」

必死に堪えるミラクルナイト。しかし、彼女は思った。

(こんなの……無理だよぉ……)

「今度は真空モードだ!お前の全部を吸い取ってやるぜぇッ!!」

「吸い取るとか言わないでよ!きゃぁぁッ!」

スカートを必死で押さえながら、ミラクルナイトは後退する。その姿に、さらに歓声が高まった。

「奈理子ぉーー!こっち向いてーー!!」
「ファンクラブ特製のスカートクリップ贈っとけばよかったぁぁーッ!!」

一方、カギムシソウジキの口元にキラリと光るカギムシの牙が現れる。

「フフフ…ただの風だけじゃないのさ。この掃除機には“カギムシロール”っていうとんでもない吸い込みと巻き取りが……」

「長い!技の説明が長いのよ!」

ミラクルナイトが突っ込みながらも、両掌に水色の輝きを込める。

”プツン”

聞きたくない音がミラクルナイトの耳に届いた。吸引に耐えられずスカートのホックが外れてしまったのだ。

「ああッ!スカートが……」

スカートを押さえるだけで精一杯。まともに攻撃を仕掛ける隙すらない。
清楚な守護神の顔に、弱音が浮かびかけたその時――。

「奈理子さん、諦めないでください!!」

明るく凜とした声が、公園に響いた。

オレンジ色のドレスを纏い、キャンディチェーンをたなびかせながら――
ドリームキャンディが、ミラクルナイトのもとへ駆けつけた。

「キャンディ……!」

ミラクルナイトの瞳に、光が戻る。
背後から駆け寄ったドリームキャンディが、迷わずミラクルナイトの手を取り、グッと引き寄せた。

「一人じゃありません。私がついています!」

その言葉に、ミラクルナイトの胸が熱くなる。

「うん……!ありがとう、キャンディ!」

市民たちも湧き上がる。

「ドリームキャンディだーっ!」
「今度こそ反撃だーっ!」

「ブオオオオッ!」

再び強烈な吸引を放つカギムシソウジキに向かって、ドリームキャンディは怯まなかった。

「今です、奈理子さん!」

キャンディチェーンを振るい、ミラクルナイトを風の軌道から外へと跳ね飛ばす。

ミラクルナイトは空中でミラクルウイングを広げ、ふわりと華麗に舞い上がった。

「水都の守護神、ここに健在よ!」

ミラクルナイトの声が高らかに響く。

2人のヒロインの反撃が、今、始まる――!


水都公園・芝生広場――。

「いくよ、キャンディ!」
「はい、奈理子さん!」

ミラクルナイトとドリームキャンディ、2人のヒロインが並び立った。

再び風を吹き荒らすカギムシソウジキ。
だが、今のミラクルナイトは先ほどまでのように、スカートを押さえているだけの少女ではない!

「ミラクルシャインブラスト!」

水色に輝く光弾がカギムシソウジキ目掛けて放たれる!
しかしカギムシソウジキは吸引力を最大限に高め、光弾すら吸い込もうとする!

「甘いよ!」

すかさずドリームキャンディがキャンディチェーンを放ち、掃除機の吸入口をぐるぐると巻き付けた。

「ナイス、キャンディ!」

ミラクルナイトはミラクルウイングを広げて空中高く舞い上がる。

テレビ局の中継ドローンが彼女を追う。
水都タワー前広場の大型ビジョンには、清らかな白のブラウス、ひらりと舞うプリーツスカート、そしてスカートの中で可憐に輝く白いショーツまで映し出された。

「かわいいー!!」
「がんばれ、ミラクルナイトー!!」

タワー前広場の大型ビジョンで戦いを見守る市民たちの声援が、遠くの空に響き渡る。
水都公園ではMNSFCの面々も、旗を振り、声を枯らして奈理子に愛を送っていた。

「水都の天使、奇跡を起こせー!!」

アナウンサーが興奮気味に実況する。

『現在、水都公園ではミラクルナイトとドリームキャンディが、謎の魔物と壮絶なバトルを展開しています!』
『見てください!あの白く輝くスカート、あの可憐な美しさ!』
『この街に生まれてよかったーーーっ!!』

そのとき――。

「ミラクルハピネスシザース!」

空から急降下したミラクルナイトが、太ももでカギムシソウジキの顔面を挟み込む

「むぎゅううっ!いい匂いだー!!」

悲鳴だか歓声だか分からない声を上げるカギムシソウジキ。

「今です、奈理子さん!」

ドリームキャンディがキャンディチェーンを振るい、カギムシソウジキに巻き付かせた。
甘い香りを放つキャンディチェーンが、カギムシソウジキの動きを封じる!

「ミラクルパンチ!」

白いグローブの拳が、カギムシソウジキに炸裂した。
打ち抜かれたカギムシソウジキは後退り、地面を滑る。

芝生の上で転がるカギムシソウジキを、奈理子の白いブーツが軽やかに追う。

「まだまだぁ!」

華麗に着地したミラクルナイトが、カギムシソウジキを追い詰める。

「すごい!ミラクルナイトが押してるぞ!」
「ドリームキャンディも強い!!」

市民たちが歓喜に沸き、スマホでその光景を撮影する者も続出した。

(みんなが見てる。私……絶対に負けられない!)

奈理子の胸に熱いものがこみ上げた。

「ミラクルナイト、ドリームキャンディ、ファイトー!!」
成好たちMNSFCも総立ちで応援する。

2人のヒロインとカギムシソウジキの激闘は、いよいよクライマックスへと向かっていく――!


水都公園・芝生広場――。

「まだ……まだ、負けないぞぉ!!」

カギムシソウジキは最後の力を振り絞り、ミラクルナイトに掃除機のノズルを向けた。

ゴォオオオオッ!!

轟音とともに凄まじい吸引力が放たれる。
白いスカートがはためき、ミラクルナイトの身体が引き寄せられていく!

「くっ……!」

必死に抗うミラクルナイト――
しかし、細い腕では完全に踏ん張れない。

そんな奈理子の危機に、力強い声が響いた!

「奈理子さんを吸い込ませるわけにはいきませんッ!!」

オレンジのドレスがひるがえる!
ドリームキャンディが、ロリポップハンマーを構え、跳び上がった!

「ロリポップ凄い突き!」

巨大なキャンディ型ハンマーが空を裂き、掃除機のノズルに直撃!
バキィィィィン――!!

凄まじい破壊音とともに、カギムシソウジキの掃除機部分が砕け散った!

「ぎゃひぃぃぃッ!?」

武器を失ったカギムシソウジキがよろめく!

「今です、奈理子さん!!」

ドリームキャンディの声援を背に受け、ミラクルナイトは軽やかに舞い上がる!

白いブーツが、芝生を蹴った。
ひるがえる純白のプリーツスカート。
眩しい太陽の下、輝く水都の守護神。

「ミラクル……ヒップストライク!!」

空中で身体を回転させ、華麗なヒップアタックを繰り出すミラクルナイト!

シュパアァァッ!!

スカートを翻しながら突進するその姿は、まるで光の矢――!!

「うわぁぁぁぁぁッ!!」

真正面から直撃を受けたカギムシソウジキは、吹っ飛びながら水色の光に包まれ、消滅していった――。

パアアアアァァ――ッ!!

芝生広場が歓喜に包まれる。

「やったぁー!!」
「ミラクルナイト、最高ー!!」
「世界一かわいいよー!!」

MNSFCの成好たちも、大旗を振りながら絶叫する!

『水都公園、完全勝利!』
『ミラクルナイト、ドリームキャンディ、万歳!!』

テレビ局の中継アナウンサーも、涙声で実況していた。

ミラクルナイトは空中でくるりと回転して着地。
市民たちに向かって、優雅に手を振った。

(みんな……ありがとう。私は、みんなの笑顔のために戦うの――!)

風に揺れるスカートを押さえながら、可憐に微笑むミラクルナイト。
その隣には、力強く支えるドリームキャンディの姿があった。

こうして、水都の守護神たちは、またひとつ大切な街を守りきったのであった――。


「ミラクルナイトさん!ミラクルナイトさん! 今のお気持ちは!?」

まだ興奮冷めやらぬ市民たちの歓声の中、テレビ局のアナウンサーがマイクを持って駆け寄ってきた。

「えっ、わ、私ですか?」

目を丸くするミラクルナイト。

白いリボンが揺れる黒髪ミディアムボブ。
白いプリーツスカートをそっと押さえながら、ミラクルナイトはぎこちない笑顔を浮かべた。

「はいっ! 水都を救ったヒロイン野宮奈理子さん、ミラクルナイトに独占インタビューです!」

カメラもぐいっと寄ってくる。
市民たちが

「がんばれー!」
「かわいいー!」

と大声援。

「えっと……あの、皆さんの応援のおかげで、勝てました……!」

お嬢様らしい丁寧な受け答えに、さらに拍手喝采!

「今日も白がまぶしかったですね!」
「ええっ!? あ、あの……その……!」

顔を真っ赤にするミラクルナイト。
その様子を見て、テレビアナも市民も爆笑の渦だった。

「水都の守護神、ミラクルナイト! これからも頑張ってくださいね!」

「は、はいっ……! み、皆さんの笑顔を守るために、が、がんばります!」

慌てながらも一生懸命に答えるミラクルナイトに、広場は割れんばかりの歓声に包まれるのだった――。

その裏で――。
ドリームキャンディは人混みに紛れ、そっと公園を抜け出していた。

「凜さん、大丈夫かな……?」

ドレスの裾を翻し、駆けるドリームキャンディ。
向かった先、商店街の裏手では。

「……なんて、みっともない……」

ひっつき虫まみれのセイクリッドウインドが、ため息をついていた。

オナモミ男の仕掛けた種子が制服にびっしりと張り付いて、まるでトゲトゲの怪人のような有様だ。

「凜さん……!」

ドリームキャンディが駆け寄る。

「ふふ、見ての通り……少し、苦戦したわ」

苦笑するセイクリッドウインド。
けれどその瞳は、決して揺らいでいなかった。

オナモミ男――。
あの敵はただの奇襲犯ではない。
確実に、こちらを分断し、孤立させようとしていた。

「今回は、逃げられたけれど……次は、必ず仕留める」

「はいっ……!」

ドリームキャンディもきりりと表情を引き締めた。

ミラクルナイト一人で勝てる相手ではない。
私たちも、戦わなければ――。

商店街に静かに夜風が吹く。
光のヒロインたちは、次なる戦いへ向け、心を一つにしていくのだった。

第176話へつづく)

あとがき