DUGA

ミラクルナイト☆第69話

喫茶店のほのかな明かりの下、水都大学のキャンパス内でささやかれているある伝説の男、鉄山がカウンターに座っていた。壁にはプロレスのポスターや過去の試合の写真がずらりと並び、静かなジャズの音楽が店内に流れている。

扉が開き、外からの日光と共に、水都大学奈理子私設ファンクラブ、通称SNSFCの会長である成好が入ってきた。彼の瞳には焦燥感と、奈理子への深い憧れが映っていた。

「鉄山さん!」

と声をかけながら、成好は彼の前に立ち止まった。

「メロン男から、僕たちファンの元に奈理子ちゃんを取り戻して下さい。」

彼は深々と頭を下げた。その様子は、まるで騎士に王女の救出を託す町の青年のようであった。

鉄山はゆっくりと彼の方を見上げ、

「何で俺が?」

と冷静に言った。彼の声は低く、一筋の煙が彼の口元から立ち昇っていた。

「先月のミラクルナイトとカブトムシ男の対決の会場設営を指揮したのは鉄山さんでしょう。鉄山さんはカブトムシ男の知り合いではないのですか?」

成好は真っ直ぐに鉄山の目を見つめた。鉄山は沈黙した。確かに、メロン男の手法に彼も快くは思っていなかった。心の中で、カブトムシ男としての自分をひとしきり省みると、

「話はしてみるが、どうなるか分からんぞ」

と言った。成好は目を輝かせながら、鉄山に感謝の言葉を述べた。しかし、鉄山はその表情を見て、心の中で

「ファンとは憐れな生き物だな」

と考えていた。彼は、奈理子にライムという彼氏がいることを知っている。そして、成好が持つ純粋な気持ちの間で揺れていた。


学内の一角にある古びた研究棟。その扉を開けると、医学の研究所にはカオリが真剣な眼差しで何かを研究していた。一筋の光が彼女の白衣を照らし出す。この場所は鉄山には見慣れない空間だった。

「ここは経済学部の学生が来るところじゃないわよ。」

白衣が風になびきながら、カオリは振り返り、鉄山に微笑んだ。彼女の表情は、鉄山の用件を既に察しているようだった。

鉄山は直接的に口にする。

「香丸に指示を出したのはお前だろ。」

カオリの口元に薄く笑みが広がる。香丸はメロン男の正体だ。

「そうよ。勅使河原のような大所帯とは違い、私の下には数は少なくても実力者が揃っているの。勅使河原も思い知ったでしょう。」

鉄山の目つきが鋭くなった。

「しかし、香丸はやり過ぎだ。奈理子はまだ中学生だぞ。」

カオリは一瞬、彼の言葉に考え込む。しかし、その後、彼女は軽く笑って

「そうね、奈理子で遊び過ぎると、ライムが怒るかもしれないわね」

と言った。空気が一変し、カオリは新しい質問を投げかける。

「それより、あなたの卒業後はどうするの?」

「内定は貰ってる。」

と、鉄山は短く答えた。

カオリの瞳が驚きで広がった。鉄山が普通に就職するとは思ってもいなかった。しかも、国内最大手のスポーツメーカーだ。

「てっきりあなたはプロになると思ってたわ。」

鉄山は自信たっぷりに笑う。

「学生プロレスの人脈を舐めちゃいけないぜ。スポーツ関係の就職には強い。」

カオリの瞳が柔らかくなり、

「あなたが大学を去ると、私も不安なのよ」

と告白する。鉄山と同学年だがカオリは来年も大学に残る。彼女の言葉には、彼に対する信頼と、その後の寂しさが混ざっていた。鉄山は黙って彼女を見つめ返した。

「香丸にはちゃんと言っとけよ」

と、その言葉を残して、鉄山は研究棟を後にした。

カオリは彼の背中を見送りながら、文学部2年生の香丸のことを考えた。香丸にはカオリの手足となって動いてくれること期待している。彼が奈理子のことを気に入ってしまったことに、彼女はどう対応すべきか、真剣に思い悩んでいた。


陰鬱とした暗い部屋、壁には大きなマップや異能の者たちの写真がピンで留められている。部屋の奥で大きな椅子に座る勅使河原の背後には、見下ろすように月の光が差し込んでいた。渦巻はその光に照らされ、メロン男の報告を伝える。

「恐るべき能力です。彼を我らの同士に迎え入れることができたら…」

と、渦巻の声にはわずかな興奮が滲んでいた。

しかし、勅使河原は無表情で

「メロン男のことは忘れろ。我らは我らのやるべきことをやるだけだ」

と冷たく言い放つ。カオリの息が掛かった者の能力が優れていても、我らのようなまとまりはない。大学生の小娘に過ぎないカオリは脅威となる相手ではないと勅使河原は考えていた。

フジツボ男の様子は?」

と、勅使河原の心配は彼の部下であるフジツボ男の方へ向いていた。

「回復にはしばらく時間が掛かるようです。」

と、渦巻の声は少し申し訳なさそうに響いた。そして、渦巻は新たな報告をする。

「シオマネキ女がミラクルナイトと再び戦いたいと言っています。」

勅使河原は考えることなく

「やらせろ。ウシウミ男も一緒にな」

と即答する。

部屋のドアが閉まり、孤独に包まれた勅使河原は窓の外を見つめながら、凜のことを考えていた。彼がかつて見下していた女が、ナメコ姫として一度は打倒ミラクルナイトを達成したのだ。そして、その彼女が突然姿を消したことに、心の中に淡い焦りと興味が湧き上がってきた。凜が今どこで何をしているのか、その思考に勅使河原はしばらく囚われ続けた。


灯りが微かに明滅するファミレスの一角で、仕事帰りの渚と牛島は密談していた。店内は夜の静けさに包まれ、零れる笑い声やフォークと皿の音がときおり耳に届く。相変わらず渚は、ほぼノーメークにTシャツとジーンズにサンダル。職場で制服に着替えるとはいえ、年頃のOLがこんな格好で出勤してもいいのか、と牛島は心の中で首を傾げる。

「場所はタワー前広場か水都公園がいいです」

と、渚は黒縁メガネの奥の瞳を輝かせた。その眼は、人々の目線を浴びることへの期待で煌めいているように見えた。牛島はちょっと考えてから、断定的に

「水都公園だ。夏祭りにやる」

と答える。その言葉に渚の顔は一層明るくなった。夏祭りは花火も上がり、水都公園は身動きもできないほどに人が集まる。皆、ミラクルナイトを打ちのめすシオマネキ女に注目するはずだ。前回の戦いで、ミラクルナイトは話にならないくらい弱いことは分かっている。彼女の心の中ではすでに、多くの人々の中でミラクルナイトを圧倒するシーンが脳裏を過ぎっていた。

しかし、牛島の次の一言で、彼女の気分は一変する。

「奈理子はスライム男と付き合っているらしい。もし、奈理子がスライム男と一緒なら、襲うのは奈理子がスライム男と別れたあとになる。」

「え?」

と驚きの声をあげる渚。奈理子は中学生、そんなに早くから恋愛をしているのかと思うと、未だ男性経験がない彼女の心は悔しさで一杯になった。

「牛島さん、スライム男が怖いんですか?」

と、渚は少し挑発的に問いかける。牛島は少し表情を硬くし、

「潮田さん、君は何も知らない。敵はミラクルナイトとドリームキャンディだけじゃないんだ。勅使河原さんはスライム男と戦うことを臨んでいない」

と言い、渚の知らない真実を匂わせるような言葉を残した。

渚は奈理子とスライム男の行動を想像し、スライム男と一緒なら奈理子とスライム男が別れるのは花火が終わった後。ほとんどの人か帰ってしまった時間になってしまうかもしれない、と考え込む。

牛島は優しく、渚の肩を叩いた。

「付き合っていると言っても中学生だから、そんなに遅い時間にはならないさ」

と言い、彼女の不満を少しでも取り除こうと努力した。


水都公園噴水広場は、夏祭りの興奮と熱気で包まれていた。金魚すくいや射的、たこ焼きやかき氷といった出店の屋台が、多くの人々で賑わっており、こどもたちの笑顔や大人たちの楽しむ様子が広場いっぱいに広がっている。そのど真ん中では、盆踊りのリズムに合わせて手を振り上げる人々の姿が見受けられた。

夜の闇を打ち消すような明るい提灯の光の中、朝顔柄の水色の浴衣を身に纏った奈理子の姿が映えている。柔らかな縁の浴衣は、彼女の腰を緩やかに揺れるたびに風になびいて、夏の夜の清涼感を伝える。彼女の瞳は、浴衣の色と一緒になるような水色に輝き、夏祭りの情景に見入っている。

彼女の手を優しく握っているのはライム。ふたりは、互いの存在を深く感じながら、夏の一夜を共に楽しんでいる。奈理子は、屋台の甘い香りや、遠くで聞こえる盆踊りの音、そしてライムの温もりを感じながら、この夜が終わらないようにと心から願っていた。

屋台で購入した綿菓子を口に運びながら、ふたりは浴衣姿のカップルや家族連れを眺め、夏祭りならではの一コマ一コマを心に刻んでいく。そして、盆踊りのリズムに乗って、ふたりは手を取り合い踊り始めた。奈理子の顔には、幸せの色が広がっており、彼女がこの瞬間を永遠に記憶に留めたいという思いが、その笑顔から伝わってきた。


水都公園噴水広場の上空が、一瞬の暗闇から爆音とともに紅と金の輝きで埋め尽くされる時間が迫っていた。浴衣姿のカップルたちや家族連れが待ち構える中、奈理子はライムの温かい手を握り、心の中で刻一刻と訪れる花火の時間を待っていた。

しかし、その期待の瞬間を割って入るように、

「おっ!」

という深い、野太い声が二人の間に響いた。その声の主は、まるで異世界から飛び出してきたかのような、美女と野獣のようなペアだった。

「あら、ライム。今日はデート?」

と、彼女の甘く、そして少し毒のあるような声がライムに向けられる。

誰だが知らないけど、ライムの彼女として挨拶しなけらばならないと考える奈理子。美女は艶やかな髪を振り乱し、その甘いバラの香りが風に乗って奈理子の鼻をくすぐった。

「可愛い彼女さんね」

と美女は奈理子に微笑んだ。このバラの香りは初めてじゃない、と奈理子は思った。この美女の隣に立つ男は、文字通りの「野獣」のような存在感を放っていた。奈理子の小さな身体が自然と彼の方を見上げるほどの大男で、厚い胸板と太い腕その逞しい体格に、何となく記憶のどこかで触れたことがあるような感覚に取り憑かれた。瞬時に脳裏をよぎる思い出の断片から、奈理子は

「カブ…」

と言葉を発しようとするが、その瞬間、ライムの手が彼女の手を強く引っ張った。

ライムの手の引き具合に驚きながらも、奈理子は彼のリードに従って、美女と野獣の存在を後ろに残して進んでいった。

「ねぇライム、あの人たち…カブトムシ男とバラ女じゃ…」

彼女の声は、疑問とともに少しの興奮も含んでいた。しかし、ライムは黙ったまま、彼女を導くように歩き続けた。

奈理子の心の中は、カブトムシ男との過去の記憶と、その刺激的な感情に引き裂かれつつあった。しかし、その思考は突如、空からの轟音とともに打ち消された。大輪の花火が夜空に咲き誇り、その美しさに目を奪われる人々。その瞬間、ライムは動きを止め、彼女をそっと抱きしめた。夜空に映る彼女の瞳には、花火の色とともに、ライムへの深い信頼と愛情が溢れていた。


花火の最後の煌めきが夜空に消え去り、公園の雰囲気は再び静かなものとなった。ただ、その静けさは、多くのカップルたちの間で芽生える甘い空気に包まれ、そこには別の熱気が渦巻いていた。カップルたちは適当な距離を取り、それぞれに2人だけの時間を楽しんでいる。その中に、奈理子とライムも混ざっていた。ライムの手が、彼女の繊細な顔を包み込み、彼らの間には言葉よりも強い繋がりが生まれていた。

しかし、その熱いシーンを少し離れた影から、ひそかに2人の姿を監視している者たちがいた。渚と牛島だ。ライムに抱かれ濃厚なキスを受ける奈理子の浴衣は乱れ、下着が見えている。彼らの目的は奈理子だが、奈理子とライムの情熱的な一幕に、渚の頬は紅く染まっていた。

「僕たちも怪しまれないように何かする?」

牛島は何かしらのアクションを起こそうと、渚の髪に触れた。しかし、渚は素早く彼の手を払い除けた。

「やめて下さい」

と、渚の声は少し冷たく、その視線は奈理子とライムの方に向けられていた。

牛島は周囲のカップルを見回し、皮肉たっぷりに

「周りがこんなではやる気無くすよね」

と言った。彼の声には、半ば呆れ、半ば羨望のニュアンスが含まれていた。

「最近の中学生は凄いなー」

と牛島が続けるが、彼の言葉が単なる独り言なのか、それとも渚に向けられたものなのかは、明確ではなかった。

ともかく、渚の心の中は、奈理子に対する熱意で満たされていた。奈理子との対決を前にして、彼女の心は高鳴り、その情熱は夜空に舞い上がった花火と同じくらい強烈であった。


夜の静寂を裂くような花火の余韻が、夏の祭りを彩っていた。暗闇に星がちりばめられ、ライムの愛をたっぷりと受けた奈理子はその中を一歩一歩、帰路を急ぐ足で歩んでいた。ライムとの甘く切ない別れを胸に秘め、彼女の瞳はやや曇っていた。

しかし、彼女の歩みは突如として中断された。前方から現れたシオマネキ女の出現に、奈理子は声も出せずに驚愕した。シオマネキ女の存在感に圧倒され、周囲のカップルたちは恐怖で逃げ散った。

「こんな時間まで遊んじゃダメって、学校で教わらなかったの?」

その言葉とともに、シオマネキ女は瞬く間に奈理子の背後を取り、浴衣の帯を引き絞った。

「きゃっ!」

地へと倒れ込む奈理子の姿に、時代劇のような派手な帯回しを期待していたシオマネキ女は、あっさり倒れる奈理子に拍子抜けしていた。帯を剥ぎ取られ開けた浴衣の下から、奈理子の白いキャミソールパンツが街灯の明かりに照らされた。

奈理子は怒りに顔を紅潮させながら浴衣で前を隠し立ち上がり、

「何するの!」

と声を強く振り絞った。

「待ってあげるからミラクルナイトに変身しなさい」

とシオマネキ女。その隣で、ウミウシ男がにっこりと微笑みながら、

「いや、せっかく浴衣を着ているのだから、浴衣の奈理子でもっと楽しもう」

と軽く言った。シオマネキ女の鋭い眼差しとウミウシ男の気だるい態度。そのコントラストが、奈理子をさらに深い絶望へと導いていた。彼女が持つ秘密の力、ミラクルナイトへの変身を促すシオマネキ女の言葉。しかし、その先に待つ運命は、果たして奈理子にとって救いとなるのか、それとも更なる試練となるのか。夜の闇が彼女の運命を包み込んでいった。


夜の闇が奈理子の運命を包み込む中、彼女の瞳はシオマネキ女とウミウシ男に強く焦点を定めた。彼女の手の中には、変身の鍵となるアイマスクが輝いていた。

「変身してあげるから、ウミウシ男に手を出させないで!」

強い決意と共に奈理子はシオマネキ女にその言葉を放った。

ウミウシ男は皮肉たっぷりに

「浴衣の奈理子、可愛かったのに勿体ないなー」

と呟く。

そして、輝きを放つミラクルナイトが立ちはだかる。彼女は力強く

「今日こそ水都の守護神ミラクルナイトがあなた達を倒します!」

と宣言する。その姿勢には、彼女の不屈の意志と正義への強い信念が込められていた。

だが、シオマネキ女は電磁鋏を振り回し、余裕の表情で

「いつも負けてるくせに、相変わらず自信だけはご立派ね」

と挑発する。ウミウシ男も不意に彼女の背後に回り込み、

「自信満々なのにいつも手も足も出ず負けるのがミラクルナイトの可愛いところなんだよ」

とからかった。そして、

「分かっているね、シオマネキ女」

「スカート脱がすんでしょ」

ミラクルナイトはその二人のコンビネーションに翻弄される。ウミウシ男とシオマネキ女は、かつて無い絶妙な連携で彼女を圧倒する。シオマネキ女の速攻とウミウシ男の巧妙な動き。その結果、ミラクルナイトはウミウシ男に捉えられ、シオマネキ女の手によって、そのプライドを象徴するスカートを脱がされてしまう。

その瞬間、時間がゆっくりと進むように感じられた。ミラクルナイトの困惑と絶望、そしてシオマネキ女とウミウシ男の勝ち誇った笑顔が、夏の夜に刻まれていくのだった。


夜空に浮かぶ星々が、水都の街路を照らす中、二人の姿が影とともにひそかに立ち込める緊張感を楽しむように立っていた。それは、カオリと鉄山だった。

「奴らにはミラクルナイトのスカートを脱がすって縛りがあるのか?」

鉄山が不思議そうに問いかけると、カオリは余裕の笑みを浮かべながら言った。

「さぁ、ただ面白いから脱がしてるんじゃないの」

実は、この二人、ライムと奈理子の関係に興味津々だった。ライムがどんな顔をして奈理子を抱いているのか、ひそかに観察していたのだ。しかし、ことが終わった後に奈理子が突然、勅使河原の手下に襲われる事態に、彼らも予想していなかった。

ミラクルナイトとして戦った奈理子の姿が、遂に地面に崩れ落ちた。その下には、純白のフリルとリボンが飾られた勝負パンツが照らし出されていた。カオリは微笑みながら

「ライムとのデートのために用意したパンツね」

と呟いた。

しかし、その平穏な瞬間は束の間だった。シオマネキ女とウミウシ男がミラクルナイトを倒し引き上げようとすると、力強い声が響いた。

「待て」

とその声の主は、怪人の姿であるにも関わらずイケメン過ぎるメロン男だった。

「私の奈理子をこのような姿にしてこのまま済むと思うなよ」

鉄山が驚きの表情でカオリに向き、

「おい、香丸には奈理子を諦めろと言ったんじゃないのか?」

と詰め寄ると、カオリは義理堅く

「言ったんだけど、もう一回奈理子と遊びたいって…」

と、少し照れくさい様子で言った。

状況が急激に動き出し、シオマネキ女、ウミウシ男、メロン男と、魅力的な戦士たちの対決が始まる中、カオリの目には好奇心と戦いへの期待が輝いていた。

「面白くなってきたじゃない。私達も行くわよ」

と、カオリはバラ女へと変身し、ウキウキしながら鉄山の腕を引き寄せた。鉄山は少し渋りつつも、

「仕方ないな」

と言いながらカブトムシ男に姿を変えた。

水都の夜空には、星々の下、勇者たちの戦いの火花が散りばめられ、その輝きが神秘的な物語の始まりを予感させていた。


夜の水都は、紙灯籠のやわらかな光に包まれていた。夏祭りの賑やかな音が遠くから聞こえる中、奇妙な一団が対峙していた。いきなり現れたメロン男に戸惑うシオマネキ女。シオマネキ女を惹きつけるような甘い香りがする。その香りの源は、緊張感を持って立ちはだかるメロン男だった。シオマネキ女の瞳は、甘い香りに酔わされて、うっとりとしていた。シオマネキ女は焦った。

「どうしますか?」

シオマネキ女はウミウシ男に問う。

「メロン男は強敵だ。だが、こちらは2人。やるか?塩田さん」

とウミウシ男。

「変身しているときに名前で呼ばないで下さい。私は…メロン男は苦手です…早く逃げましょう…」

既にシオマネキ女はメロンの香りに酔い始めていた。このままではメロン男に取り込まれてしまう。彼女の体が次第に火照りを増してくる中、ウミウシ男は困惑の表情を浮かべていた。

「せっかく夏祭りデートのために浴衣を着て来たのに、あなたたち酷いことするのね」

と、その場に現れたバラ女が打ち捨てられた奈理子の浴衣の帯を手に取りながら言った。その後にはカブトムシ男の巨体があった。バラ女の声に、一瞬シオマネキ女は我に返るような表情をした。しかし、すぐに再びうっとりとした瞳でメロン男を見つめていた。

「どうした?シオマネキ女」

シオマネキ女のよろける体をウミウシ男が支えた。

「メロン男様…」

とシオマネキ女が呟く。

「あら、もうメロン男の虜になっちゃったのかしら。メロン食べてないのに早すぎない?もしかして恋愛に耐性ないの?」

と、バラ女が冷ややかに笑うと、シオマネキ女の顔が紅潮した。

「牛島さん、早く私を連れて逃げて下さい…このままでは私…メロン男に…」

ウミウシ男をウミウシ男と呼ぶ余裕すら無い彼女の頼みの声は、絶望と恐怖に満ちていた。

ウミウシ男の視線が、悩むように一瞬だけバラ女とカブトムシ男を交差させた後、シオマネキ女をしっかりと抱きしめ、その場を立ち去ることを選んだ。

「君たちは僕たちの敵なのか?」

去り際にウミウシ男はとバラ女に問いかけた。

「敵じゃなくて同業者と言ったほうが近いかな。勅使河原はどう思っているか知らないけど」

とバラ女は軽く言い、

「それより早く逃げないと、その子、使い物にならなくなっちゃうわよ」

とシオマネキ女を指して言った。

その後ろに立つカブトムシ男とメロン男はただ、黙って去っていくウミウシ男とシオマネキ女の背中を見送っていた。

水都の夜空に、花火が上がり、華やかな光と音でその場の緊張が和らいだかと思うほどの美しさだった。しかし、シオマネキ女とウミウシ男の心の中には、まだまだ解けない謎と戦いの火種が残っていた。


夜の帳が降り、街灯の柔らかな光が一筋、沈黙の中で仰向けにカエルのように倒れて動かないミラクルナイトの白いパンツを優しく照らし出していた。静かな路地裏で、三人の影がその姿を取り囲んでいた。

バラ女、カブトムシ男、メロン男はそれぞれカオリ、鉄山、香丸としての姿に戻っている。彼らは、スカートを脱がされ気を失っているミラクルナイトの姿について微妙な表情を浮かべ語り合っていた。

「改めて見ると、ミラクルナイトはなかなかの美少女だな」

と、鉄山は少し感嘆の声を漏らした。彼の隣で、カオリはニコリと微笑むと、

「髪の白いリボンがいいのよね。可愛くって思わずちょっと弄んでみたくなるわ」

と、ほんのりと頬を染めた。

香丸の眼差しは、ミラクルナイトのほんのりと汚れた白いパンツに留まっていた。

「私はミラクルナイトの弱々しい白いコスチュームが好きです。奈理子の少し汚れた白い生パンも中学生らしくて愛らしい」

と、彼はぼんやりと口にした。

「起こすか?」

と鉄山。香丸の目が輝く。

「香丸、今日はメロメロはだめよ。せっかくライムと楽しい時間を過ごしたんだから、いい気分のまま奈理子を帰してあげましょう」

とカオリが香丸を嗜める。

「家まで連れて行ってやるか」

と鉄山は、ミラクルナイトの体を前向きに抱え上げた。彼の胸と彼女の顔が、ちょっとした距離で重なり合っていた。

抱っこなの?普通、おんぶしたり、肩に担いだりしない?それじゃ駅弁みたいじゃない」

と、カオリはからかうように笑いながら言った。しかし、その笑顔はやがて微笑へと変わり、

「香丸、あなたは帰りなさい」

とカオリは香丸を帰し、ミラクルナイトを抱っこする鉄山と歩き出す。

深い眠りの中で、奈理子は逞しい力に抱かれる心地良さを感じていた。無意識のうちにミラクルナイトの腕と脚が鉄山に強くしがみつく。

「この子、起きてるのかしら?」

と、カオリはミラクルナイトの動きを指摘した。鉄山の手は奈理子のパンツを撫でていた。

奈理子の家の前で、鉄山は彼女をそっと地面に下ろした。彼女はまだ深い眠りの中にいるようだった。カオリは、奈理子の浴衣の帯を彼女の足元に静かに置いた。そして、二人はミラクルナイトの寝顔を最後に一瞥して、夜の闇の中に消えていった。

街灯の光の中で、ミラクルナイトの無防備な姿がそっと夜風に吹かれていた。夜の静寂の中、彼女の微かな呼吸だけが聞こえてくる。


水都公園のベンチに佇む二人の姿があった。夜の涼しい風が吹き抜ける中、牛島は渚の震える肩を静かに抱きしめていた。メロン男の甘い香りに悶える渚の声は、夜空に溶け込むように柔らかく、色っぽく響いていた。

夏の祭りの夜だというのに、渚の姿は他の多くの女性たちとは一線を画していた。彼女の髪は無造作に括られ、黒縁のメガネが真面目さを際立たせていた。Tシャツにジーンズ、そしてサンダル。その地味なスタイルに、牛島は何とも言えない感情を抱いていた。彼は彼女のメガネを外して、その素顔を見つめると、

“ちょっとの努力で、彼女はとても魅力的になるのに…"

と、ほのかな残念さを感じていた。

一方、牛島の心の中には、あのバラ女たちの面影がまだ鮮明に残っていた。勅使河原のライバル的な存在だと思っていた彼女たちだったが、実際に顔を合わせてみると、彼女たちの軽やかな雰囲気や、勅使河原よりも若々しい感じに、彼は新しい魅力を感じていた。高圧的な勅使河原よりも楽しそうに思える。

やがて、渚の呼吸が落ち着いてきたことを感じ取った牛島は、彼女に向かって優しく話しかけた。

「塩田さん、大丈夫?」

と、渚の瞳に心配の色を映しながら。渚は、まだ淡い涙の痕を残しながら、

「私… メロン男に何をされたんですか?」

と、小さく声を震わせて訊ねた。牛島は少し考え込むと、

「僕も正確には分からない。ただ、メロンの匂いがしたことだけは確かだ」

「匂いだけで私はメロン男に…」

心を奪われてしまったと思うと渚は怖くなってきた。牛島は

「彼らは敵じゃないと言ってたよ。たまたま同じタイミングでミラクルナイトを狙ったので鉢合わせしてしまったようだ」

と言い、渚の頭を優しく撫でようとした。しかし、彼女は牛島から突然距離をとり、

「やめてください。それと、メガネを返してください」

と、少し困った表情で言った。

牛島は、彼女のメガネを手渡しながら、

「メロン男のことはもう忘れよう。これからも、二人で力を合わせていこう」

と力強く語りかけた。

渚は、彼の言葉を受け止めながらも、

「これからも、牛島さんと一緒なんですね」

と、少し疑問の色を帯びて訊ねた。

「たぶんそうなると思うよ」

と牛島は答える。

渚にとって、男性は少し距離を置いて接するものだったが、牛島とは何故か普通に話ができる。牛島は、特別の人なのかもしれない。と思う一方で、彼女は髪や顔を触ったり、勝手にメガネを外したりするのはやめて欲しいとも感じていた。

第70話につづく)