DUGA

ミラクルナイト☆第212話

夏の夕暮れ、町工場の裏口。
カタン、と古びた鉄扉が開き、事務机の匂いを背負った塩田渚が姿を現した。白いブラウスはくたびれ、ベージュのカーディガンは毛玉だらけ。地味なロングスカートの裾を靴で踏みながら、愛用のママチャリを押し出す。
顔には大きな黒縁メガネ、髪はひとつ結びで、目立つ気配など微塵もない。

「渚〜!」

道端の自販機にもたれていたのは、Tシャツにジーンズ、サンダル履きという完全ラフスタイルの牛島。にやけた笑みで手を振る。

「……何ですか、牛島さん。わたし、今から帰るんですけど」

渚は眉間にしわを寄せ、自転車のハンドルを握ったまま立ち止まる。

「連絡だよ。奈理子…つまりミラクルナイト襲撃の許可が下りた。明日、放課後。水都公園の噴水広場だ」

牛島はわざと軽く、楽しげに告げた。

渚の目が、わずかに光を帯びる。

「……本当ですか」

声は低く、しかしその奥底には、ずっと押し殺していた喜びの熱が潜んでいた。

「おう。夏祭り以来だな。早退して準備しろってさ」

「……」

渚は返事をせず、ふっと口角を吊り上げる。その笑みは、普段の陰気さを一瞬で別の色に変える、暗く湿った喜びの笑みだった。

牛島はそんな彼女の横顔を覗き込み、すかさずメガネを取ろうと手を伸ばす。

「やめてください」

パシン、と彼の手をはたく渚。

「いやー、久しぶりに楽しめそうだな。奈理子を相手に」

「……虐め甲斐のある相手ですから」

低く、確信に満ちた声で答える渚。

彼女はママチャリにまたがり、ペダルを踏み出す。夕焼けの中、その背中にまとわりつくのは、地味女の皮を被った“青蟹の悪魔”の影だった。


ママチャリのタイヤがアスファルトを小さく軋ませながら、渚は薄暗くなった住宅街を抜けていく。
ペダルを踏む足取りは普段よりわずかに軽い。

──夏祭り以来か…あの時の奈理子の情けない泣き顔…市民の歓声…フラッシュの嵐…。

思い出すだけで、胸の奥がひくりと甘く震える。
あれからどれだけ退屈な日々を過ごしただろう。事務室の蛍光灯の下、無駄な伝票整理、くだらない世間話、昼休みのテレビのワイドショー…。
けれど明日は違う。

「……ふふ」

気付けば、口元がゆっくり吊り上がっていた。通りすがりの主婦が怪訝そうな顔を向けたが、渚は気にも留めない。

家に着くと、玄関でサンダルを脱ぎながら、壁に立てかけた鏡に映る自分の姿に目をやる。

──明日は、あの子の全てを剥ぐ。

市民の前で、泣かせて、撮られて、笑われて…そして記憶に刻む。
それが唯一の生き甲斐。

鏡に映る自分の姿は、地味な事務員に過ぎない。
けれど鏡越しにメガネを外した瞬間、その奥の瞳に灯るのは“悪魔”の光。

「…待ってなさい、奈理子」

翌日。
渚は職場で「体調が悪いので」と昼過ぎに早退。
心配そうな同僚の視線を背中でかわしながら、更衣室で平然と事務服を脱ぎ、普段着に着替える。

午後三時前、水都公園へと続く並木道。
蝉時雨の中、すでに牛島が噴水広場近くのベンチで待っている。ラフなTシャツにサングラス、ペットボトルのお茶を片手に。

「来たな、渚」

「……準備はできてます」

牛島はおどけて親指を立てる。

「いいねぇ、その目。もう完全に“青蟹の悪魔”だ」

渚は口元をほんの少しだけ緩め、視線を噴水の水飛沫に向けた。
その中心に、間もなく現れるはずの──純白の天使、ミラクルナイト=奈理子。


水都女学院高校・1年2組。
午後の陽が窓から差し込み、金色に光る机の列の中で、奈理子は英語の教科書を閉じた。
授業終了のチャイムが鳴ると同時に、クラスのあちこちから華やかな笑い声と椅子を引く音が重なる。

「──あら、またSNSで見たわよ。あの“粘液地獄”の動画」

前列から振り返るのは、いつものように小さな取り巻きを従えた菜々美。
市議会議員の娘らしい気品をまといながらも、その瞳は氷のように冷たい。

「ミラクルナイトって、本当に何回負けたら気が済むのかしら?」

奈理子は一瞬言葉を詰まらせ、ぎこちない笑みを浮かべた。

「え、えっと…それは、その…」

奈理子はミラクルナイトに変身する間もなく襲われたと説明しようとしたが、

「言い訳は結構。私、あなたのことは嫌いじゃないけれど──見てる方としては、もう少し締まった戦いをしてもらわないと困るの」

ピシリと指摘し、菜々美は取り巻きたちと足並みを揃えて教室を出て行った。

「…なんであんなに奈理子さんに突っかかるんだろうね」

横からすみれがぼそりと呟く。
ショートボブの髪が揺れ、呆れ顔の視線がドアの方へ。

「さぁ…わからないよ、私…」

奈理子は小声で返すが、その胸の内には毎度の疑問が渦巻く。

教室の外からは、廊下に集まった生徒たちの明るい声。

「菜々美お嬢様と奈理子ちゃんってやっぱり美少女コンビだよね」
「次の戦いはきっと勝つわ、奈理子さん」

──そんな他愛ない囁きも聞こえてくる。

外面だけを見れば、菜々美は奈理子の一番の親友として羨望の的。
だが、奈理子の胸には、冷たい視線の理由も、時折向けられる優しさの真意も分からないままだった。

すみれが鞄を肩に掛けながら、ちらりと奈理子に視線を向ける。

「放課後、どうするの?バス停まで一緒に帰る?」

「ううん、今日は…ちょっと公園の方に寄って帰るね」

奈理子は鞄の紐を握り直し、窓の外に視線を向けた。
その先に待つのが、何も知らず歩き出す自分を狙う者たちであることを、この時はまだ知らなかった。


校門前。放課後のざわめきの中、牛島はラフなシャツにジーンズ姿で電柱の陰に身を潜め、鋭い視線で生徒の流れを見張っていた。
──水都公園は奈理子の帰宅ルート。だが、途中で寄り道でもされたら面倒だ。

しかし、正門から現れたのは奈理子ではなく、取り巻きを連れた菜々美だった。
牛島が反射的に一歩下がると、菜々美はすぐにその存在を察知。

「……アンタ、牛島だっけ?

「あっ!菜々美お嬢様」

牛島が口角を上げるが、菜々美は眉一つ動かさない。

「女子高前でコソコソしてれば、ただの不審者よ」

その目は観察するように細められ、牛島を上から下までなぞった。
牛島も負けじと口を開く。

「……菜々美お嬢様は、近頃奈理子とやけに仲が良いみたいだね」

菜々美はすぐには答えず、何かを計算しているような表情になる。

「……あの地味な女、意外に奈理子ファンから人気があるのよね」

「奈理子ファンは奈理子のエッチなシーンを見たいだけだからね。辱めることにかけては、シオマネキ女の右に出る者はいないよ」

牛島は得意げに胸を張った。

「場所はどこ?」

菜々美が短く問う。

「水都公園だけど……まさか、菜々美お嬢様、邪魔をするつもりじゃないでしょうね?」

「邪魔はしないわ。──私が奈理子を水都公園に連れて行くから、あなたはテレビ局に伝えなさい」

「は?」

牛島が眉をひそめる。

「実況中継させるのよ。そして、私が奈理子と一緒にいることも伝えるの」

「何故??」

「私がいることをテレビ局が知れば、きっと私をゲストとして放送席に招くはずよ」

「はあ……」

「早く行きなさい!」

菜々美は牛島の肩を押して追い立てる。

追い払われる形になった牛島は、苦笑いを浮かべつつポケットからスマホを取り出し、テレビ局への連絡を始めた。
──その横顔には、「まあ、悪くない絵になるかもな」という軽い笑みが浮かんでいた。


【テレビ局・報道フロア】

「至急だ!これから、水都公園噴水広場でミラクルナイトとシオマネキ女の対決がある!」

匿名の通報電話を受けた報道部のデスクが声を張る。

「実況班、すぐ機材車の準備!カメラは三台、正面・俯瞰・望遠!」

「ゲスト席を二つ増やせ!菜々美お嬢様が来るらしいぞ!」

「えっ、菜々美お嬢様?じゃあ衣装映えする背景も組もう」

ADたちがメモを取り、音声・照明・中継車クルーが次々と走り出す。

「どうせやるなら、アオカビ決戦のときみたいに視聴率を叩き出せ!」

スタッフの顔には、確信めいた興奮が浮かんでいた。

【放課後・水都女学院高校前】

「え?萬万亭じゃなくて……?」

奈理子が首を傾げる。菜々美は扇子をパチンと閉じ、涼しい顔で答えた。

「今日は別のところにしましょう。ゆっくり歩きたい気分なの」

「でも……菜々美さん、家は反対方向だよね?」

「たまには違う帰り道も悪くないわ」

そう言いながら、菜々美は奈理子の歩調に合わせ、自然と水都公園方面へと導く。

──内心では、菜々美はすでに算段を立てていた。

(ネバヤナギ女にやられて落ち込んでる奈理子には、シオマネキ女がうってつけよ。触手や粘液じゃなく、全力でぶつかる相手。あの地味女相手なら、あんたも本気を出せるでしょ……)

そしてもう一つ、胸の奥にくすぶる欲。

(ついでに私もテレビで目立てる。どうせならゲスト席で、解説もしてあげるわ)

「奈理子、ぼーっとしてると転びますわよ」

「あ、はい……」

奈理子はまだ、菜々美が何を企んでいるのか知る由もない。
公園の噴水広場に向かう道すがら、街頭には「ミラクルナイトvsシオマネキ女」のバトル告知のポスターが貼られ、市民たちの期待に満ちた声が風に乗って流れてきていた。


噴水広場に続く階段に、奈理子と菜々美の二人が姿を現した。
眼下には、すでに詰めかけた市民の人垣。中央では、鋏をギラつかせたシオマネキ女が仁王立ちで待ち構えている。

「おーっ!水女の美少女コンビだーーっ!」
「奈理子ー!今日も可愛いぞー!」
「菜々美お嬢様ー!まぶしすぎるーっ!」

観客席と化した広場が、一瞬で大歓声の渦に包まれた。
奈理子は目を丸くし、

「えっ?な、なにこれ??」

と完全に状況を飲み込めずに立ち止まる。

そのとき、噴水の水しぶきとともに、イタズラな突風が階段を駆け上がった。
ふわり、と。
紺色のプリーツスカートがふたり同時に舞い上がる

「きゃっ!」
「えっ?!ちょっと!」

奈理子も菜々美も慌てて両手でスカートを押さえるが――遅い。
見下ろす市民の視線と、テレビの望遠カメラはすでに、その奥の世界まで鮮明に捉えていた。

奈理子の純白コットンショーツ、菜々美の純白シルクショーツ。
両者の“”が午後の陽光を受けて眩しく輝き、広場はさらにヒートアップする。

「水女美少女の純白パンチラ、ダブルでゲットォォーッ!」
「奈理子ー!それだ、それが欲しかったんだよー!」
「菜々美お嬢様のパンチラ、尊すぎて拝みたいっ!」

カメラマンは本能のままにシャッターを切り続け、実況アナも「おおっと!まさかの両者同時パンチラァ!」とテンション爆上がり。

(奈理子さんと一緒にいるときは……どうしてこういう目ばかりに遭うのよ……!)

菜々美は頬を赤らめながらも、すぐに表情を切り替える。

「菜々美さん、こちらへどうぞ」

テレビ局のクルーが、放送席への花道を作るように彼女を案内する。

「えっ?!菜々美さん……」

取り残された奈理子が戸惑うと、菜々美は振り返り、階段上から真っ直ぐに彼女を見据えた。

「奈理子さん、市民は――ミラクルナイトとシオマネキ女の全力勝負を待っているわ。嫌なことは忘れて、あなたの全てをぶつけてきなさい」

背後で鋏をカチカチ鳴らすシオマネキ女の笑い声と、熱狂する市民のコールが重なり、噴水広場の空気は一気に戦いの舞台へと変わっていった。


奈理子は階段を一段ずつ、ゆっくりと降りていった。
噴水広場の中央、シオマネキ女が鋏をカチカチと鳴らしながら待ち構えている。
その視線は、迷いも慈悲もない、宿敵を見る者の目だった。

「負けたらどうなるか、分かっているでしょうね」

低く、鋭い声。

「……分かってるわ」

奈理子はかすかに唇を震わせながらも、しっかりと見返す。

この二人の対戦――戦績は、奈理子が大きく負け越している。
だが、全敗ではない。ほんの数回だけ、奇跡の勝利を掴んだことがある。
それでも――シオマネキ女の勝利後に行われる“恒例”の儀式は、市民には完全に刷り込まれていた。

「今日もやるんだろうな……」
「もちろん、敗北ヒロイン撮影会だ!」
「ミラクルナイトの恥じらい顔、何度見ても飽きないぜ!」

観客席からは妙な熱気を帯びた声援が飛び交う。
対戦成績から見ても、ミラクルナイトの勝機は薄い――だが、市民は“敗北”を期待していた。

奈理子は人々の視線を全身に浴びながら、一歩前へ。

「私は市民の期待を絶対に裏切らない。たとえ戦力を尽くして負けたとしても……私は可愛らしく、私らしく、市民の期待に応えてみせる」

そう言って、胸元から小さなアイマスクを取り出す。
光沢を帯びた水色が、陽光を反射してきらめいた。

「相変わらず……自分の可愛らしさには絶対の自信があるのね」

シオマネキ女は冷ややかな笑みを浮かべる。鋏の先がわずかに震え、期待と興奮を隠しきれない。

奈理子は静かに息を吸い込み――

「ミラクルチェンジ!」

アイマスクが顔に触れた瞬間、まばゆい水色の光が全身を包み込む。
制服のセーラー服は一瞬で光に飲まれ、消え去る。
光の中に浮かび上がったのは、純白のブラとショーツ――ほんの刹那だけ現れる、少女としての無防備な姿

その肌を、次々と白と水色の衣装が包んでいく。
ミディアムボブの黒髪には、清らかな白いリボン。
胸元にはノースリーブの白いブラウスと水色のリボン。
手足には光沢あるグローブとブーツが形を成す。

そして最後に――彼女の象徴である、裾に水色の二重ラインが引かれた純白のプリーツスカートが、優しく腰を覆った。
その下には、コットン100%の白いショーツが、戦う少女の純潔を守っている。

「水都の平和を乱す者は――水都の守護神、ミラクルナイトが許しません!」

高らかな宣言に、広場は再び沸き立つ。

「奈理子、今日も可愛いぞー!」
「やっちまえー!……いや、負けてもいいぞー!」

奈理子は市民の熱狂を背に、鋏を構える宿敵へと歩み出した――。


《水都テレビ 臨時特別中継》
カメラがズームアウトし、広場全景と中央の二人を捉える。

実況・早乙女アナ
「さあ!ご覧ください、水都の市民の皆さん! いよいよ始まります! “純白の天使”ミラクルナイトと、鋼の鋏を持つ宿敵――シオマネキ女の直接対決! 会場のボルテージは最高潮です!」

解説・春宮菜々美
「ええ、まさしく水都が誇る注目カードでございますわ。
 このお二人の対戦は、勝敗の行方もさることながら、ミラクルナイトの全力の戦いぶり、そして……敗北時の麗しいご様子まで、市民の皆さまに愛されておりますの」

早乙女アナ
「そ、そうですね……えーと、過去の対戦成績はシオマネキ女の圧倒的リード。しかし、ミラクルナイトも何度か奇跡を起こしています!」

菜々美
「奇跡は必ずしも、戦いに勝つことだけを意味いたしませんのよ。
 ご自身の全てを賭けて立ち向かう――その姿が、市民の心を奪うのですわ」

早乙女アナ
「なるほど……! ちなみに春宮さんはミラクルナイト、奈理子さんの親友であり、クラスメートでいらっしゃる」

菜々美
「ええ、光栄なことに。……もっとも、彼女は時にお転婆で無鉄砲、そして非常にお人好しでございますけれど」

カメラに向かってにっこり微笑む菜々美。だがその声色の奥には、“頑張りなさいよ、奈理子”という静かな檄が隠れていた。

早乙女アナ
「ありがとうございます! それではまもなく試合開始の合図です! 市民の皆さん、目を離さないでください!」


噴水広場に緊張が走る中、突如、甲高い声が響いた。

「奈理子さんを虐めることは止めなさい!」

中央通路を駆け抜け、鮮やかなオレンジのドレス姿――中学生戦士ドリームキャンディが姿を現す。手にはキャンディチェーンを握りしめ、視線はまっすぐシオマネキ女へ。

しかし、その前にぬるりと立ち塞がる影があった。

「これは市民が待ち望んだ一対一の対決だ。邪魔はさせないよ」

全身に鮮やかな海色を纏い、ひらひらと触角を揺らすウミウシ男。

「奈理子さんがシオマネキ女に勝てるはずがないでしょ!」

ドリームキャンディの声は怒気を帯びていた。だが、その背後から凛とした声が響く。

「待ちなさい、キャンディ」

緑と銀のコスチュームを身に纏う風の戦士・セイクリッドウインドが歩み寄ってくる。風間凛だ。

「奈理子はヤル気よ。私たちは奈理子を見守りましょう」

ドリームキャンディは口を噤み、悔しげに視線を奈理子へ向けた。

一方、噴水広場の片隅では、水都大学奈理子私設ファンクラブ(MNSFC)の面々が密集していた。

「どうする……? シオマネキ女が勝ったら、あの恒例の“敗北ヒロイン撮影会”に参加できるぞ」
「でもファンクラブとしては奈理子ちゃんを応援しないと……」
「いや、でもあの恥ずかしい姿は……!」

そんな迷いを断ち切るように、会長の成好が一喝した。

「何を迷っている! 応援するのは奈理子ちゃんだ! 全力で奈理子ちゃんを応援するぞ!そして、我々はその結果を嬉々として受け入れるのだ!」

その声に奈理子が振り返る。

「会長さん、ありがとう……私、野宮奈理子は、皆さんの期待に必ず応えます!」

ファン席から大歓声が湧き上がる。

「奈理子ファンの期待は奈理子さんの敗北なのに……」

ドリームキャンディがぼそり。

「奈理子は撮影会したいんじゃないの」

せくリッドウインドはくすっと笑った。

シオマネキ女が鋏を鳴らす。

「さあ、始めましょうか」

「奈理子、行きます!」

ミラクルナイトの声が高らかに響き、彼女の右足が唸る。

「おー!」

ファン席からどよめきが起こった。

「えいっ!」

ミラクルナイトお得意のハイキックが宙を切る。

放送席・早乙女アナ
「出たー! オープニングのパンチラキック!」

白いスカートがふわりと舞い、市民とカメラの視線を一斉に釘付けにした――。


シオマネキ女の前で、ミラクルナイトの右足が弧を描く。
ふわりと舞い上がる白いプリーツスカート、その奥で純白のコットンショーツがきらりと光る――。

早乙女アナ(実況)
「シオマネキ女、ミラクルナイトのパンチラキックを余裕で受け止めます!これはもう“お約束”の光景ですね、菜々美さん」

菜々美(解説)
「先制攻撃のハイキックは、あくまで下着を見せるためのものですわ。“純白の天使”である証を見せつけることで、奈理子さんはまずファンの心を鷲づかみにしますの」

早乙女アナ
「なるほど、ファンサービスの一環ということですね。ちなみに奈理子さんは下着メーカー“ミコール”のイメージキャラクター兼下着モデルも務めています。『パンツを見られても恥ずかしくない!』といったところでしょうか?」

菜々美
「モデル撮影用に用意された下着と、一日中身につけて奈理子さんの体温と体液をたっぷり吸い込んだ木綿の下着は、まったくの別物ですわ。奈理子さんは羞恥に耐えながらも、それを市民とファンのためにさらけ出しているのです。私には到底真似できませんわ」

会場からは、

「奈理子ー!今日も最高だー!」
「純白の天使バンザーイ!」

という声援とともに、スマホのシャッター音が響き渡る。

一方のシオマネキ女は、余裕の表情で鋏を交差させると、

「またその芸?いいわ、今日もたっぷり“ご奉仕”してやる」

と、にやりと笑った。


ミラクルナイトの流れるような連続蹴りが、白い弧を描きながらシオマネキ女へと振り下ろされる。
スカートがふわりと舞い、純白のコットンショーツが、秋の噴水広場の光を反射してきらめいた。

早乙女アナ(実況)
「おっとー!ミラクルナイトの大開脚ハイキック!今日は風のコンディションも最高です!」

観客席からは歓声とスマホのシャッター音が嵐のように降り注ぐ。

「奈理子ー!もっと見せてー!」
「純白の天使の証ー!」
「シオマネキ女、負けるなー!」

期待は入り乱れ、広場全体が一種のカーニバル状態。

しかし、シオマネキ女は鋏で軽く受け止めただけで、全く動じない。

「相変わらずファンサービス重視だねぇ、ミラクルナイト」

と余裕の笑みを浮かべ、わざとスカートの裾を揺らす。

菜々美(解説)
「……正直申し上げますと、これは戦術というより“演出”ですわね。奈理子さんは序盤から派手なアクションでファンの目を奪うことで、自らのペースを作ろうとしているのです」

早乙女アナ
「なるほど、これは観客心理を利用しているわけですね」

菜々美
「ええ。ただし、このやり方はシオマネキ女のように動じない相手には通用しませんわ。むしろ、恥ずかしいだけで終わる可能性が高いですわね」

そのやり取りを聞きながら、広場の後方で腕を組んでいたドリームキャンディが小さく舌打ちする。

「……何やってんのよ、奈理子さん。こんなの戦いじゃなくて見世物じゃない」

隣で見守る風間凛は肩を竦め、

「まあまあ、これが奈理子の流儀よ。派手にやらないと彼女じゃないわ」

と微笑み、視線を再び噴水広場へ戻した。


「やあっ!」

ミラクルナイトが軽やかに回転し、ミニスカの裾が大きく弧を描く。ふわりと翻る度に、純白のコットンが冬空の光を反射し、ファンの網膜を直撃する。

「いいぞ、奈理子ーっ!」
「白いパンツが眩しすぎるっ!」

熱狂の渦に包まれる噴水広場。

奈理子本人にその気があろうがなかろうが、ミニスカ&生パンの宿命は変わらない。攻撃のたびに、必ず観客に“証”をさらしてしまう――それがミラクルナイトだ。

「主役は私よっ!」

ネバヤナギ女編での脇役扱いに鬱憤を溜め込んでいた彼女は、ファンの声援を浴びながら突き進む。

そんな奈理子を、鋏をわずかに開いたシオマネキ女が鋭く見据えた。

「盛り上がってきたし、そろそろいい頃合いね」

「えいっ!」

――高く跳ね上がる奈理子の右脚。
しかし、鋏の怪人はひらりと身を捻り、奈理子の懐へ滑り込む。

「パンツだけじゃなく、素顔もよく見せた方が、ファンは喜ぶわ♪」

ぐいっ――!
次の瞬間、ミラクルナイトの顔からアイマスクが奪われた。

「奈理子ちゃんの素顔キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!」
「奈理子、今日も可愛いぞー!」

広場が再び歓声の爆発に包まれる。コスチュームのまま、素顔を晒す奈理子。その頬は羞恥と驚愕で真っ赤に染まっていた。

「うぅっ……!」

シオマネキ女は鋏を軽くカチカチ鳴らしながら、さらに口元を歪める。

「スカートも邪魔ね。下着モデルなんだから、もっとパンツを見てもらいたいでしょ♪」

バサッ!
あまりに素早い動きで、ミラクルナイトの白いプリーツスカートが宙を舞い、地面に落ちた。

「待ってましたー!」
「恒例のスカート脱がしーー!」

奈理子ファンの歓声が爆音のように広場を揺らす。

ミラクルナイトは素顔に上半身コスチューム、下半身は純白コットンショーツがむき出しという、あまりにも無防備な姿

「やだっ……!」

両手でスカートの代わりに裾を抑えようとするが、もう何も隠すものはない。

シオマネキ女は勝ち誇ったように、奈理子を上から下まで舐めるような視線で見下ろした。

「ほら、奈理子ちゃん――お客さんは、もっと見たがってるわよ♪」


シオマネキ女は鋭い足さばきで奈理子の背後へと回り込み、がしっと両脇から抱え上げた。
次の瞬間――ミラクルナイトの両脚が左右に大きく開かれ、M字のまま高々と掲げられる

「奈理子のパンツ最高ーーっ!」
「シオマネキ女、こっちにも見せてくれ!」
噴水広場のあちこちから、ファンの野太い声が飛ぶ。

「えっ…あっ!いやっ、見ないでぇ〜〜っ!」

顔を真っ赤にして足をばたつかせるミラクルナイト。しかし観客席からは、そのもがきが余計に“見せ場”となっていた。

放送席もヒートアップする。

早乙女アナ「こ、これは……かなり危険な体勢ですっ!」

菜々美「……勝負、決まりましたわね」

シオマネキ女は鋏のような手をカチリと鳴らし、ニヤリと嗤った。

「ほら……パンツ、濡れてるじゃないの。喜んでもらえてよかったわ♪」

「も、もう……やめて……」

羞恥に押し潰され、奈理子の瞳から戦意の光が消えていく。

「じゃ、終わりにしようかな」

次の瞬間、シオマネキ女は奈理子を前方に放り投げ――自分の立てた片膝に奈理子の尻を真芯から打ち付けた!

ドンッ!

「ひゃああああっ!」

会場に響き渡るアトミックドロップの衝撃音。前のめりに投げ出されたミラクルナイトは、そのまま地面に突っ伏し、ぐったりと動かなくなった。

「お楽しみはこれからよ……」

勝ち誇ったシオマネキ女がしゃがみ込み、ためらいなく奈理子のショーツをスルリと引き抜く。

「待ってましたーーっ! 敗北ヒロイン奈理子ちゃんの撮影会だぁっ!!」

熱狂の渦に包まれる奈理子ファン。スマホやカメラが一斉に構えられ、白い閃光が広場を乱舞する。

その瞬間、実況席の菜々美が勢いよく立ち上がった。

「奈理子さん! 目を覚ましなさいっ!!」

その声にハッとしたのは、水都大学奈理子私設ファンクラブの面々だった。

「そうだ、こんなときこそ、我々が奈理子ちゃんの目を覚まさせるんだ!」

会長・成好が拳を突き上げる。

「奈理子コールだ!」

「ナ・リ・コ! ナ・リ・コ!」

地響きのようなコールが広場を覆い尽くす。

「んっ……」

ミラクルナイトのまぶたが、かすかに震えて開く。

「奈理子さん、立ち上がりなさい!」

々美の厳しい声。

「菜々美さん……はっ!」

――そこでようやく、自分がショーツを脱がされていることに気付き、顔を真っ赤にする。

「貴女は水都の守護神、ミラクルナイト。負けることは許しませんわ!」

菜々美の激が、奈理子の胸の奥に残っていた火を再び燃え上がらせる。

奈理子は素早くシオマネキ女の手から“ミコール謹製・奈理子のショーツ”をひったくると、くるりと体を翻しながらきっちりと穿き直す。

「私は、まだ戦えるわ!」

その目には、もはや怯えはない。シオマネキ女を真っ向から射抜く視線――。
宿命の対決、第2ラウンドの幕が高らかに切って落とされた。


「菜々美さん、やっぱり奈理子さんが大好きなんだ…!」

感動に目を潤ませるドリームキャンディ。

「奈理子、水女でいい友達できてよかったね」

セイクリッドウインドも穏やかに頷く。

「パンツを穿き直したミラクルナイト、スカートは穿いていませんが、まだ勝負を捨ててはいません!」

早乙女アナの声が、いつも以上に熱を帯びる。

その瞬間、ミラクルナイトの背に白く輝く羽――ミラクルウイングが展開した。

「そう、シオマネキ女は空を飛べない。空間を使って戦うのよ…」

菜々美が口元を引き締め、低く呟く。

「空に逃げる気?」

シオマネキ女が挑発混じりに睨み上げる。

「逃げたりはしないわ!」

ミラクルナイトは噴水広場の石畳を強く蹴り、白い光の軌跡を残して舞い上がった。

「おおっ! 飛んだぁーーっ!」

客席から歓声が沸き起こる。

しかし――空中で放った水色の光弾、ミラクルシャインブラストは、シオマネキ女の分厚い外殻を弾き返すだけだった。

「だめっ、貫けない!」

「フンッ!」

シオマネキ女が鋭く跳躍、青い電磁鋏を振るって追いかける。

「ミラクルナイト、接近戦に持ち込むしかない!」

菜々美の声に呼応するように、ミラクルナイトは翼をたたみ急降下――。

水色の光弾が乱れ飛び、青い電磁鋏が閃光を引く。観客の息が詰まる。

「行けぇー!」
「落とせぇー!」

両陣営の声が入り混じり、広場は熱狂の坩堝と化す。

鋏が空を裂く寸前、ミラクルナイトは宙返りでかわし、すれ違いざまに光を帯びた踵を叩き込んだ。

「ミラクルスカイキック!」

早乙女アナが叫ぶ。

「いいわ、その調子!」

菜々美の眼差しが鋭く光った。


「くっ…!」

鋭い光と音を伴い、シオマネキ女の巨大な鋏の先から泡が弾け飛んだ。
――次の瞬間、白く煌めくその泡がミラクルナイトの胸元で破裂。

「きゃああっ!」

じゅわっ、と耳障りな音を立ててブラウスの布地がみるみる溶け、肩から胸元へと形を失っていく。
あっという間に彼女の上半身は白いブラジャーが晒され、噴水広場の観客席から地鳴りのような歓声が沸き起こった。

「おおーーっ! アイマスク、スカートに続いてブラウスまでぇーー!!」

実況席の早乙女アナが声を張り上げる。

「ま、また…奈理子さんが…! こ、これは…水都女学院の生徒としては大変よろしくない状況ですわ……!」

解説の菜々美は顔を紅潮させ、上品なお嬢様口調のまま声を震わせた。

舞い散る布切れの中、ミラクルナイトは息を呑む。
残されたのは、ミディアムボブの黒髪を飾る白いリボン、そして手足を覆う白いグローブとブーツのみ――。
あとは純白のブラとショーツが頼りの、ほぼ下着姿。

「な、奈理子ちゃんの貧乳ブラまで拝めるとは…!」
「これが水都の守護神…ありがたや…!」

興奮した奈理子ファンが手を合わせる者まで現れ、広場は一種の祭り状態。

「やめ…見ないでぇっ!」

奈理子――いや、ミラクルナイトは必死に腕で胸元を隠そうとするが、戦いの最中にそんな余裕はない。
頬を真っ赤に染めたその表情さえ、観客には最高のご褒美と化していた。

「ふふふ、いい顔になってきたじゃない…」

シオマネキ女は獲物を弄ぶように低く笑い、鋏の先端で空気を切り裂く。

「もっとファンに見せてあげなきゃねぇ、奈理子ちゃん♪」

「や、やめなさいってばぁ!」

羞恥と怒りが入り混じった声をあげながら、ミラクルナイトは再び白い翼を広げ、青い空間へ舞い上がる――。


白い翼・ミラクルウイングを大きく羽ばたかせ、噴水広場の空中を旋回するミラクルナイト。

「そう簡単には地上に降りないわよ…!」

彼女は上から狙いを定め、水色の光弾・ミラクルシャインブラストを放つ。しかし――。

「そんな豆鉄砲じゃ、私の甲羅は傷つかないのよ♪」

シオマネキ女は青い外殻で軽く受け流し、涼しい顔。
そして、顎を上げて観客席へと大きく声を響かせた。

「ねぇみんなー! あの子、空から逃げてるだけじゃない? これじゃ守護神というより“空飛ぶ下着モデル”じゃないのー?」

「ひゅーーっ! 地上に降りてこい奈理子ー!」
「そうだそうだ、もっと近くで見せてくれー!」

観客席は一気に煽られた熱で沸騰し、手を振る者、スマホを構える者が次々と現れる。

実況席の早乙女アナも、わざと興奮を煽るような声色で叫ぶ。

「これは…まるで人気アイドルの撮影会! 下着姿のまま空を舞うミラクルナイトに、降りろコールが止まりません!」

「まったく…お嬢様としては、ああいう挑発に乗るべきではありませんのに…!」

菜々美は唇を引き結びつつも、頬は少し赤い。

上空で息を整えるミラクルナイトの耳にも、歓声とコールが突き刺さる。

(くっ…このままじゃ有効打は与えられないし、空からじゃシオマネキ女を倒せない…)

彼女はぐっと拳を握り、翼をたたんだ。

「…わかったわ。降りて、決着をつけてあげる!」

その瞬間、観客からは割れんばかりの大歓声。

「来た来た来たーーっ!」
「下着ナイト様、地上戦だぁーー!」

にやり、と笑うシオマネキ女。

「そう、それでいいのよ。近くで…たっぷりファンサービスしながら、ね♪」


石畳に軽やかに着地したミラクルナイト。白い翼は消え、視線は真正面のシオマネキ女へと突き刺さる。

「行くわよ!」

その声と同時に、スカートのない脚線美が一歩、また一歩と切り込む。

「来たわねぇ!」

青い電磁鋏が左右に唸りを上げる。ジジジ…と放電音が空気を裂き、観客席からは悲鳴とも歓声ともつかぬ声が飛び交った。

「ミラクルナイト、恐怖をものともせず接近戦を挑むー!」

早乙女アナの声が熱を帯びる。

「奈理子さん…危ない!」

々美は手すりを掴み、思わず身を乗り出した。

鋏が唸り、火花が散る。ミラクルナイトは身をひねってかわすが、青白い光が頬をかすめ、焦げた匂いが鼻を突く。

(怖い…でも、負けられない!)

だが――次の瞬間。

「しまっ――!」

キィィィン! 電磁鋏が、ミラクルナイトのAカップを包む“奈理子のブラ”を正確に挟み込み、そのままスパッと切断!

「きゃあああっ!」

腕で慌てて胸を隠す奈理子。

観客席が爆発したように沸く。

「やったぁぁ! 奈理子ちゃんのブラ、いただきー!」
「これぞ地上戦の醍醐味だー!」
「ありがとうシオマネキ女ーー!」

早乙女アナは息も絶え絶えに叫ぶ。

「つ、ついにブラまで失われたー! この戦い…もう一枚しか残っていない!」

菜々美は顔を真っ赤にし、声を震わせる。

「奈理子さん…っ、耐えてください…っ!」

ブラを高々と掲げ、勝ち誇るシオマネキ女。

「ふふ…あと一枚ね♪ 次は“奈理子のショーツ”をお客さんにプレゼントしてあげるわ!」

電磁鋏が、いやらしい輝きを帯びて腰元へと迫っていく――。


電磁鋏が離れ、冷たい夜気が素肌に触れた瞬間、奈理子の全身を熱と寒気が同時に駆け抜けた。

(や…やだ…胸が…全部見られた…!)

胸を両腕で覆うも、その向こうから突き刺さる視線の熱は、まるで鋼をも溶かすかのようだった。

観客席から湧き上がる歓声は、耳を塞いでも聞こえてしまう。

「奈理子ちゃん最高ー!」
「これぞ“ちっぱいの天使”!」

それは応援でありながら、同時に奈理子の羞恥心を鋭く抉る刃でもあった。

(見られてる…ファンのみんなに…私の…)

ただの下着じゃない。朝から一日中身に着け、汗や熱や鼓動を吸い込んだ“奈理子の一部”とも言えるものだ。それを奪われ、掲げられ、喜ばれている。
胸の奥で、誇りと羞恥がせめぎ合う。

(私は…水都の守護神…なのに…)

そのはずなのに、今この瞬間は“守る者”ではなく、“晒される者”としてそこに立っている。膝が震える。心臓は暴れ馬のように跳ね、頭の奥で「逃げたい」という声が囁く。

――けれど。

(負けたら…終わる…)

ファンの声援の中には、確かに自分を信じている熱も混じっていた。それが痛いほど分かるからこそ、背を向けられない。

唇を噛み、視線を上げた。
そこにはブラを高々と掲げ、次の獲物――ショーツ――へ狙いを定めるシオマネキ女。

「あと一枚…♪」

と妖しく笑う敵の姿に、羞恥は怒りへと変わっていく。

(これ以上…奪わせない!)

奈理子は両腕で胸を隠したまま、わずかに腰を落とし、迎撃の体勢を整えた。


観客の轟音は嵐のようだった。ブラを失ったミラクルナイトが胸を押さえたまま戦いを続ける姿は痛々しくも艶やかで、ファンの熱狂をさらに煽っていた。

「胸を隠したままでは…勝てない…」

奈理子の唇が震える。視線を落とし、震える指を外す。

――さらけ出した
秋の風が小さな胸を撫で、ぞくりと背筋が冷える。

ちっぱいは正義ーーっ!!」
「恥じらいの表情が可愛すぎるっ!」
凛ちゃんより控えめなおっぱいが可愛いぞーッ!」

観客席は割れんばかりの大歓声。

「なっ…なにを比べているのよっ!」

セイクリッドウインドの凛が顔を真っ赤にして怒鳴る。

実況席では早乙女アナが興奮気味に声を張り上げた。

「ミラクルナイト、決断しましたぁ!羞恥を振り切り、自らの胸を曝け出したぁッ!水都の守護神、捨て身の覚悟です!」

解説の菜々美が眉をひそめる。

「お恥ずかしい戦法でございますわ…でも、奈理子さんが覚悟を決めた証ですわね」

奈理子の脳裏に過去の記憶が蘇る。
――硬い外殻。非力な自分の拳は弾かれ続けた。勝利をつかんだのはただ一度、電磁鋏の死角に潜り込み、関節技で外殻を極めた時だけ。

(怖い…でも、それしかない…!)

「丸裸にしてあげるわよぉ♪」

シオマネキ女が電磁鋏を広げ、白いショーツへ狙いを定める。鋏の隙間から吐き出される泡が、どろりと光りながら迫った。

「フェアリー・シールドッ!」

ミラクルナイトが両手を広げ、淡い水色の光壁を展開。ぶちゅっ、と溶解泡が当たり、蒸気を上げて弾かれた。

「おおっとぉ!ミラクルナイト、防御技だぁ!」
「さすが奈理子さん!このまま耐え切れば!」

ファンの歓声が追い風になる。だがシオマネキ女は余裕の笑みを浮かべ、再び鋏を唸らせる。

「泡ごと押し潰してやるぅ!」

ぶん、と電磁鋏が閃く。

「くっ…!」

理子は恐怖を振り切り、真っ直ぐその懐へ飛び込んだ。
胸を晒したまま、細い腕で敵の関節を狙う。

観客の声が爆発した。

「行けぇぇ!奈理子ちゃーーんッ!」
「パンツ死守!絶対死守!」

白いリボンが風になびく。奈理子は羞恥と恐怖を背負いながらも、ただ一筋の勝機を掴むために、電磁鋏の地獄へと身を投げ込んでいった――。


「キッチンバサミがないときは、蟹は関節を折る!」

奈理子の叫びが夜に響いた。小柄な身体が稲妻のように閃き、ミラクルナイトはシオマネキ女の巨大な電磁鋏を掻い潜る。

「なっ…!」

シオマネキ女の視界から白い影が消えた。次の瞬間には奈理子のしなやかな美脚が絡みついていた。

「うぅっ!」

しっかりとシオマネキ女の左腕をホールド、柔らかそうに見える太腿が鉄の締め付けに変わる。さらに体重をかけ、左肘を極めにかかる。

「これはっ! 飛びつき腕ひしぎ十字固めだぁーッ!!」

実況席が絶叫する。

「奈理子さん、出した!出したぁーッ! カブトムシ男直伝の必殺技ぁぁ!」

観客席も割れんばかりの声援。

「決まれぇぇ!」
「パンツを守れーッ!」
「奈理子ちゃーーんッ!」

奈理子の脳裏に、水都大学プロレス同好会のマットの上での特訓がよぎる。汗だくの鉄山先輩に投げ飛ばされ、何度も決めそこねた夜。

(これで決めるっ!これしかないんだ!)

だが――。

「ふん…同じ技が何度も通用すると思わないで!」

シオマネキ女は勝ち誇ったように口角を吊り上げる。

極まる寸前、シオマネキ女は左腕を内側に捻り、同時に空いていた右手でミラクルナイトの右足首をがっちりと掴んだ。

「しまっ…!」

ミラクルナイトが目を見開く。

「ぐふふっ!」

シオマネキ女は自らの足を絡め、てこの原理のように奈理子の右足ロックを外してしまう。ホールドの支点を失った奈理子の技は、急速に崩れ始めた。

「こ…このっ…!」

必死に足を締め直そうとするミラクルナイトだが、シオマネキ女はすかさず奈理子の左足を押しのける。技が完全に外れると同時に――。

「いただきっ♪」

シオマネキ女の指が奈理子の白いショーツに触れた。

「や、やめっ――!」

スルリ、と滑るように布が腰から抜け、するりと両足から抜き取られていく。

「いやぁぁぁぁぁっ!」

ミラクルナイトの悲鳴が夜空に弾ける。

実況席が悲鳴混じりに叫ぶ。

「ミラクルナイト、ショーツを奪われたぁーッ!!必殺の腕ひしぎが、逆に隙となってしまいましたぁっ!」

観客席は騒然としつつも興奮は最高潮。

「ちょ…ちょっとォ!奈理子ちゃんのがっ!」
「見えっ…やべぇぇぇ!」
「隠せ!誰か隠してあげろぉぉ!」

ミラクルナイトは顔を真っ赤に染め、震える手で下半身を隠そうとする。しかし、シオマネキ女はショーツをぶらぶらと掲げて、勝ち誇った笑みを浮かべるのだった。


闘技場に広がるのは、敗北の余韻ではなく、狂喜乱舞の喝采だった。
シオマネキ女が高々と掲げたのは、奈理子から奪い去った純白のショーツ。その象徴的な戦利品は、まるで勝利のトロフィーのようにライトを浴び、会場全体に見せつけられる。

「シオマネキ女の勝利だーっ!!!」

早乙女アナの声が絶叫となって響き渡り、観客席は総立ちとなった。

「うおおおおっ!」
「やっぱり奈理子ちゃん、今日も最高だぁぁ!」
「負けっぷりが可愛すぎる!」

ファンは涙すら浮かべ、推しのヒロインがまたもや敗北する姿を、歓喜とともに焼きつけていた。

対して、地面に膝をついたミラクルナイトは、うなだれながら小さく呟いた。

「……負けたわ……」

その声は震えていたが、はっきりと敗北を受け入れる響きを持っていた。

「負けたら、分かっているわよね?」

鋭くも甘やかすように囁くシオマネキ女。
奈理子は顔を真っ赤にしながらも視線を逸らさず、唇を噛んで答えた。

「……私は、ファンの期待は裏切らない……」

そう言って、ミラクルナイトは抵抗することなくシオマネキ女の腕に身を委ねた。

――そして始まったのは、敗北ヒロイン撮影会。
シオマネキ女に抱え上げられた奈理子は、涙と羞恥で頬を染めつつも、ファンに向かって震える声で呼びかけた。

「……奈理子は今日も負けました……情けない奈理子の全てを、可愛く……撮ってください……」

その瞬間、観客席は割れんばかりの喝采とカメラのフラッシュに包まれる。

「奈理子!今日も最高だぁ!」
「奈理子ちゃん、綺麗だよーー!」
「ダブルピースお願いっ!」

羞恥に顔を歪めながらも、奈理子は小さくダブルピースを掲げる。その愛らしさに場内は大爆発し、歓声は雷鳴のように続いた。

「……この戦いって、パンツ取られたら負けってルールでしたっけ??」

ドリームキャンディが小首を傾げると、セイクリッドウインドが苦笑して肩をすくめた。

「奈理子が自分で負けを認めたから、それでいいんじゃない? ほら、本人もまんざらじゃなさそうだし……むしろ撮影会が目的だったのかもね。自分から股を広げてるよ」

「もう、見ていられませんわ!」

観客席の上段で腕を組んでいた菜々美が、憤慨しながら立ち上がり、その場を後にした。

一方で、勝利を謳歌するシオマネキ女は奈理子の耳元に唇を寄せ、妖艶に囁く。

「……また、気が向いたら遊んであげるわよ」

その言葉に奈理子は小さく震え、恥じらいの中で答えを返した。

「……よろしくお願いします……」

こうして、またもや情けなくも愛らしい敗北を刻んだ水都の守護神。
だがその姿は、ファンにとって何よりも尊く、永遠に記録される一枚となるのであった――。


撮影会は凄まじい熱狂とフラッシュの嵐の中で終わりを告げた。
奈理子――いや、ミラクルナイトは、シオマネキ女に抱え上げられたまま、涙と笑顔を同居させた屈辱的なショータイムを終えると、ようやく解放された。

しかし解放と同時に、彼女の身に残されたものは何一つなかった。
奪われたスカートもブラも、そしてショーツも。
戦士の象徴である衣装も、守るべきはずの尊厳も、ファンへのサービスとして晒し尽くされ、今や彼女は眩しいライトに照らされる素っ裸の存在へと成り果てていた。

照明が落ち、観客が徐々に退場していく中、舞台袖へよろよろと歩み寄る奈理子。
そこには両腕を組み、呆れ果てた顔のドリームキャンディとセイクリッドウインドが待ち構えていた。

「……奈理子さん」

ドリームキャンディがじとっとした目で睨む。

「あなた、いつから“守護神”から“ファンサービス専門アイドル”になったんですか?」

「ち、違うのよ……」

奈理子は両腕で必死に胸と下腹部を隠しながら、小声で抗弁した。

「だ、だって……ファンの期待を裏切るわけには……」

「裏切るよりももっと駄目なことをしているように見えるけど?」

凛が静かな声で突き刺す。長い黒髪を揺らし、冷ややかに奈理子の全裸の姿を見据えた。

「水都の守護神が、敵にパンツを掲げられて敗北宣言なんて……。恥を知りなさい」

「うぅ……わ、分かってるわよ……」

奈理子は顔を真っ赤にして、必死に目を逸らす。

「だいたい、あんな“撮影会”なんて……!」

ドリームキャンディが怒りに震える。

「『奈理子は今日も負けました』って、ファンに自分で言う必要がどこにあるんですか!? わたし、穴があったら埋まりたい気分でした!」

「……で、でも、喜んでたでしょ? ファンの人たち……」

奈理子がぽつりと呟くと、凛とドリームキャンディは同時に額を押さえた。

「……ほんとに、あなたは……」

「……もう、救いようがないわね」

二人の嘆息が重なり、奈理子は裸のまま縮こまるしかなかった。
シオマネキ女の勝利は戦闘を超えて、奈理子の心にも深々と刻まれてしまったのであった。


噴水広場の熱狂は、奈理子にとって麻酔のようなものだった。
シオマネキ女に敗北し、すべてを剥ぎ取られたはずなのに、ファンの歓声とフラッシュの嵐に包まれている間は、不思議と誇らしさすら覚えてしまった。
――あの人たちの期待に応えられた、私は“水都のアイドル”なんだ、と。

だが、舞台裏で寧々と凛に浴びせられた厳しい言葉が、その高揚感をあっさりと打ち砕いた。

「守護神がアイドルごっこですか?」

「恥を知りなさい」

二人の突っ込みが耳にこびりついて離れない。

夜。布団の中でスマホを握りしめた奈理子は、震える指でSNSを開いてしまった。
――見なければよかった、と後悔するのは数秒後のことだった。

タイムラインには「#シオマネキ女」「#奈理子のパンツ」が並び、トレンド欄の上位を独占していた。
ファンたちが投稿した写真や動画が、無数に拡散されている。

「奈理子ちゃん今日も負けてて最高w」
「ブラ剥がされたときの表情、尊い」
「水都の守護神、もう戦士じゃなくて脱衣アイドルでいいんじゃない?」
「奈理子のダブルピース画像、保存した」

奈理子は顔を真っ赤にし、思わず枕に顔を押し付けた。
心臓が早鐘のように鳴り、頭が熱くなる。

さらに目に入ってしまったのは、編集された無数のミーム画像だった。
電磁鋏でブラを切られた瞬間を切り抜き、「あと1枚」というテロップを加えたもの。
シオマネキ女が掲げたパンツに「水都の新しい国旗」とコメントされたもの。
極めつけは、裸でダブルピースする奈理子に「敗北はファンサービス」という文字が踊るコラージュだった。

「……ひどい……」

声にならない呻きが洩れる。
でも、スクロールを止められない。

その一方で、真っ直ぐな応援コメントもある。

「奈理子ちゃん、今日もよく頑張ったね!」
「恥ずかしかっただろうけど、俺たちはそんな奈理子が大好きだ」
「守護神でもアイドルでもいい。奈理子は奈理子だから」

涙が滲んだ。
心はぐちゃぐちゃで、誇らしさと恥辱、期待と絶望が入り混じる。

――ファンに応えることが、私の使命なの……?

そう自分に問いかけても、胸の奥に沈殿するのは、抗えない羞恥と依存の感覚だった。

奈理子はスマホを胸に抱きしめ、眠れぬ夜を過ごすのであった。


穢川研究所の奥、夜の研究室。
机の上にはモニターが並び、そこには噴水広場で戦ったミラクルナイト=奈理子の姿が映し出されていた。ブラを奪われ、羞恥に身をよじるその瞬間を、九頭はまるで美術館の絵画でも鑑賞するかのように頷きながら見入っている。

一方、書類棚の前では絹枝が黙々と資料を整理していた。ちらりとモニターに目をやると、奈理子の必死の表情が映っている。思わず眉が寄る。

「九頭先生、お約束の品です」

重たい扉が開き、牛島が紙袋を携えて入ってきた。その口調は妙に楽しげだった。

九頭が手を伸ばすと、袋の中から取り出されたのは、一枚の白いショーツ。
――奈理子がシオマネキ女に奪われた、あのものだった。

「ほぅ……これはまた、ずいぶんと」

九頭は指先でそれを摘み上げ、光に透かすように眺めた。布地には淡いシミが残り、生々しい痕跡を物語っている。

「かなり汚れているね。まさしく“使用済奈理子のパンツ”だ。1日分の体液をしっかり吸い込んだ証拠だよ」

声には学者めいた分析の響きがあったが、その目はいやに輝いていた。

絹枝の表情は途端に曇る。

「……先生。私の前で、そのようなもののやりとりするのはやめていただけませんか?」

だが九頭は意に介さない。むしろ満足げにうなずくと、牛島に分厚い封筒を差し出した。

「これは君たちへのお礼だ。感謝しているよ」

「ありがたく頂戴します」

牛島はにやりと笑い、一礼して部屋を後にした。

重苦しい沈黙が残る。
絹枝は思わず視線をショーツに落とし、そしてすぐに逸らした。

「これは僕の個人的な趣味ではないよ」

九頭は涼しい顔で言葉を継ぐ。

「以前、切れ端しか手に入らなかったときとは違う。今回は完全体だ。これを解析すれば、今度こそ美少女奈理子――いや、ミラクルナイトの秘密に迫れるはずだ」

研究者の眼差しで布を観察する九頭。だが、その声音にはどうしても含み笑いが混ざる。

(先生の興味が、私に向かなくてよかった……)

絹枝は胸の内でそっと息を吐いた。

だが――

「絹枝くん」

不意に名を呼ばれ、背筋が強張る。九頭がショーツから視線を外し、彼女をじっと見つめていた。

「僕はね、君にも興味があるんだよ」

「なっ……!」

資料の束を抱えたまま、絹枝は凍りついた。

「安心したまえ」

九頭はわざとらしく手を広げる。

「今はセクハラだパワハラだと煩いご時世だ。社内で問題を起こす気はない」

「そ、そうですよね……」

ホッと胸を撫で下ろす絹枝。

「ただ……こうして“奈理子の戦利品”を見せたときの、君の反応を楽しむくらいだ。なかなか良い表情をしてくれるからね」

九頭の唇が不気味に歪む。

(それがセクハラなんですってば!)

絹枝は叫びたい衝動を飲み込み、奥歯を強く噛みしめるしかなかった。

――九頭の研究室には、奈理子の戦いと羞恥を笑いの種にする不穏な空気が漂っていた。

(第213話へつづく)