ミラクルナイト☆第168話
「隆、どう? お姉ちゃん、可愛いでしょ?」
隆の部屋に、水色に朝顔柄の浴衣をまとった奈理子が勢いよく入ってきた。
「……夏祭りは今日じゃないぞ?」
ゲームのコントローラーを握ったまま、隆はチラリと姉を見た。
「もうすぐ夏祭りだから、ママに浴衣を出してもらったのよ!」
奈理子はニコニコと満面の笑みを浮かべる。
ミラクルナイトとしては敗北続きの奈理子だが、それでも夏祭りが近づくと気分はウキウキだった。
夏休み最大のイベント、夏祭り。
夜の闇を照らすキラキラと輝く出店の灯り、天を突くようにそびえる櫓、鳴り響く太鼓の音——
そこに集う水都の乙女たちは、華やかな浴衣を身にまとい、盆踊りのリズムに心を弾ませる。
クライマックスは花火。
乙女たちは、大好きな彼氏と手を繋ぎながら、夜空に咲く大輪の光を見上げる——。
(もちろん、私もライムと一緒に……!)
奈理子は頬を染め、未来の甘いひとときを想像する。
「隆も、寧々ちゃんと一緒に行くんでしょ?」
「いや、誘われてないぞ。」
隆はゲーム画面から視線を逸らさずに答えた。
「バカね。こういうことは男子から誘うものなの!」
奈理子は呆れたように言い放つ。
「今はジェンダーレスの時代だぜ。男子も女子も関係ないだろ。」
「はぁ?」
「アイツ、優等生だからな。夏祭りのときも家で勉強してるんじゃないのか?」
「いいから誘いなさい!」
奈理子はピシャリと命令するように言った。
「……チッ、めんどくせぇ……。」
口では文句を言いながらも、姉の圧に押される隆だった。
戦いの舞台となることが多い水都公園。
真夏の強烈な日差しが照りつける中、夏祭りの会場設営が急ピッチで進められていた。
噴水広場には巨大な盆踊り櫓。
芝生広場にはステージと出店。
祭りの準備が整えば、公園は一変し、夜の賑わいが生まれるはずだ。
そんな中、公園の運河沿いを手を繋いで歩く奈理子とライム。
「トロピカルなかき氷、芳ばしい醤油が香るイカ焼き……誘惑が多すぎる…!」
奈理子は心躍らせながら、すでに食べるもののリストを考えていた。
「ライムは何が食べたい?」
「冷やし胡瓜だな。夏と言えば胡瓜だろ。」
「わ〜、ライム渋〜い!」
周りの目など気にせず、2人だけの世界に入り込む奈理子とライム。
まさにバカップル。
◆
その頃、寧々は水都神社を訪れていた。
境内にて凜と向かい合うと、凜は微笑みながら寧々の頭を撫でた。
「へ〜、隆くんに誘われたんだ。よかったね。」
「ちょ、凜さん……!」
照れる寧々。
しかし、すぐに表情を引き締めた。
「でも……奈理子さんが心配です。」
「奈理子? ライムと楽しくやるでしょ。」
凜は肩をすくめて笑う。
「あの2人は周りの目を気にせず、イチャイチャして2人だけの世界に入り込めるし。」
「……去年の夏祭り、奈理子さんは敵に襲われたじゃないですか。」
寧々の言葉に、凜の表情がわずかに変わる。
昨年の夏祭りの帰り道、奈理子はウミウシ男とシオマネキ女に襲撃された。
「ライムと夏祭りデートで浮かれた奈理子がスカートを脱がされて敗北する姿が目に浮かぶわ…」
2人の怪人とは激闘を繰り返してきたが——
「そういえば、ウミウシもシオマネキも最近姿を見せないね。」
「……絶対に、敵は仕掛けてきますよね。」
寧々もまた、奈理子がショーツを脱がされ敗北する姿を思い描いてしまった。
◆
一方、水都市内のファミレス——。
扉が開き、1人の青年が店内に足を踏み入れる。
視線の先には、テーブル席に座る地味な女の姿。
「渚、君が僕を呼び出すなんて珍しいね。」
青年はその女——渚の向かいに腰を下ろした。
「牛島さん、久しぶりに奈理子を虐めたいなと思ったんです。」
渚はメガネに手を添え、冷たく微笑む。
「……夏祭りだね。」
牛島の口元が、ゆっくりと歪んだ。
「勅使河原さんには話を通しておこう。」
「浴衣で着飾った奈理子の帯を引っ張って…」
渚の顔に、ぞっとするような暗い笑みが浮かんだ。
「独楽みたいにクルクル回してあげる。」
ウミウシ男とシオマネキ女——
再び、奈理子を辱めようと影が蠢き始めていた。
夏祭り当日。
浴室から出た奈理子は、ほんのり蒸気を纏いながら自室へと戻った。
部屋の鏡の前に立ち、身に着けているのはカップ付きのキャミソールとコットンショーツのみ。
純白のショーツはフロントに小さな白いリボンがあしらわれ、足繰りにはさり気ないピコレースが施されている。
まさに、清純可憐な女子高生奈理子にふさわしい純白の一着。
「うん、可愛い……。」
鏡に映る自分の姿に、奈理子は満足げに微笑んだ。
「花火のあとは、ライムと……」
ふと、胸が高鳴る。
——夜空に咲く花火の下、ライムと2人きりの時間。
——手を繋ぎ、寄り添い、そして……。
奈理子は一人、頬を赤らめた。
「それまで、パンツを汚さないようにしないと……。でも、ライムは汚れたパンツのほうが好きかな……?」
ふと口をついて出た言葉に、自分で驚き、慌てて浴衣へと手を伸ばした——その時。
「姉ちゃ〜ん。」
突然、部屋のドアが開いた。
「きゃっ!」
奈理子は驚いて、咄嗟に浴衣を体に巻きつける。
「小遣いくれ。」
無遠慮に部屋へ入ってきたのは、弟の隆だった。
奈理子ファンなら歓喜しそうな奈理子の下着姿だが、弟にとっては見慣れた姉の姿でしかない。
「そんなこと、ママに言いなさい!」
「母ちゃんには頼めなくてさ。」
夏休みはしゅぴが多い。既に来月分の小遣いを前借りしていた隆は、当然のように姉を頼ってきた。
「寧々を誘って夏祭りに行けって言ったのは姉ちゃんだろ?責任とってくれよ。」
「何で私が隆に小遣いあげなきゃいけないのよ!」
「写真集もフィギュアも完売したし、姉ちゃん稼いでるだろ。」
「それは……。」
奈理子は言葉を詰まらせた。
確かに、自分のグッズは好評で、利益は出ている。
しかし、その管理は親がしており、奈理子の手元には限られた小遣いしかない。
それも、水都の絶対ヒロインとしてあり続けるため、衣装や交際費に消えていく。
先日のフィギュア発売イベントで着たオーダードレスも決して安いものではなかった。
奈理子自身は、意外と慎ましい生活を送っているのだ。
そして今、身に着けている白いショーツも、高価なものではない。
「……花火のあと、アイツと良からぬことをするつもりなんだろ?」
隆がニヤリと笑う。
「可愛い1人娘がそんなことをしてると父ちゃんが知ったら泣くよなぁ…」
「お姉ちゃんを脅すつもり……?」
「俺は寧々と夏祭りを楽しみたいだけさ。」
「……分かったわ。」
奈理子は渋々、財布から千円札を数枚取り出す。
「今日の姉ちゃん、可愛いぜ。」
隆は受け取った金をポケットに入れながら、改めて姉の姿をじっくりと観察する。
「その真っ白パンツにアイツも喜んでくれるさ。姉ちゃんと言えば白いパンツだからな。」
「もう、出て行って!」
顔を真っ赤にした奈理子が隆を押し出そうとする。
「はいはい、お邪魔しました〜。」
涼しい顔で部屋を出て行く隆。
バタンとドアを閉め、奈理子はため息をついた。
「もう……。」
少しだけライムとの時間を想像していた自分が、馬鹿みたいに思えてきた。
しかし——
それでも、今夜は待ちに待った夏祭り。
奈理子はもう一度、鏡の前に立ち、浴衣を身に纏った。
「よし……!」
これから始まる特別な夜に、心を躍らせながら——。
「苺にマンゴーにブルーハワイ!とってもトロピカル♪ 南国に来ちゃった感じだね!」
奈理子は色鮮やかなかき氷を頬張りながら、目を輝かせていた。
そんな彼女の様子を横目で見ながら、ライムは胡瓜の一本漬けにかぶりつく。
(かき氷で南国気分を味わえるとは、安上がりな女だな……。)
心の中でそう呟くが、目の前で嬉しそうに笑う奈理子を見て、ライムの口元も自然と緩んだ。
「ん? あれなんだろ?」
賑わう屋台の向こうに、人だかりができていた。
興味を惹かれた奈理子とライムは、人混みをかき分けて近づく。
そこには、射的の銃を構える市警の蒼菜の姿があった。
隣では、相棒の山田が大量の景品を抱えて立っている。
「わぁ、すごい!」
奈理子は目を丸くして、蒼菜の戦果を見つめる。
「あっ、奈理子さん。」
蒼菜も浴衣姿の奈理子に気づき、銃口を下ろした。
「蒼菜さん、今日はお休みですか?」
奈理子はにこにこと微笑みながら尋ねる。
しかし、蒼菜はどこかバツが悪そうに答えた。
「……見廻りよ。」
その言葉に、奈理子の表情が一瞬引きつる。
刑事課に所属する蒼菜が「見廻り」と言うからには、何か事件が発生しているのかもしれない。
「駆り出されたのよ。市警は人手が足りないから。」
蒼菜は肩をすくめる。
夏祭りのような大規模なイベントでは、浮かれた若者たちが事件やトラブルに巻き込まれることが多い。
だからこそ、蒼菜は仕事帰りのOLを装い、パトロールをしているのだ。
「この人、勤務中に射的で遊んでるんですよ。」
うんざりした様子で、山田がぼやいた。
「射撃の腕が落ちてないか試しただけよ……。」
と、言い訳しながらも、蒼菜はちらりと奈理子とライムに視線を向けた。
明らかに、デート中である。
「奈理子さん、この辺りは私服の警官がうじゃうじゃいるから、女子高校生としてあるまじき行為をしちゃダメよ。」
蒼菜はもっともらしく忠告する。
「警官としてあるまじき行為をしているのは蒼菜さんじゃないですか。行きましょう。」
山田は呆れたように蒼菜の袖を引く。
しかし、蒼菜は去る間際に、小声で奈理子に囁いた。
「射的にはコツがあるの。威力がある銃の見極めと、きれいな形のコルクを使うこと……。」
「早く仕事に戻りましょう!」
山田が彼女の腕を引き、2人は人混みの中へ消えていった。
「ライム……女子高生にあるまじき行為、だって……。」
頬を赤らめる奈理子。
「ここではやめたほうがいいな……。」
ライムがからかうように言うと、さらに奈理子の顔が熱を帯びる。
「奈理子ちゃんのおかげで助かったよ。あの姉ちゃんに景品を全部持っていかれるかと思った。」
屋台のオジサンが、お礼にとお菓子を手渡してくれた。
ドンドン! ドン! ドン!
祭りの太鼓の音が、夜空に響き渡る。
人々の笑い声、屋台の賑わい、きらめく灯り——
水都市民が浮かれる夏祭りは、まだ始まったばかりだ。
夏祭りの人混みの中で
「奈理子さん、いないな……。」
黄色い浴衣姿の寧々は、賑やかな人混みを見渡しながら呟いた。
「姉ちゃんのことは忘れて、祭りを楽しんだらどうだ?」
隆はベビーカステラを頬張りながら、少し後ろを歩く。
しかし、寧々の表情は晴れない。
「奈理子さんは絶対に襲われる。奈理子さんの浴衣を脱がして楽しむことができるのは今日しかないから。」
敵は奈理子を辱めることを、まるで娯楽のように楽しんでいる。
この夏祭りで浴衣姿の奈理子を見逃すはずがない。
「姉ちゃんは水都の守護神ミラクルナイトだぞ。敵に襲われても自分で何とかするだろ。」
隆はそんな寧々を軽くいなすように言うと、肩に手を回した。
「ほら、寧々も食えよ。」
ベビーカステラが入った袋を差し出され、寧々の体がビクッと震える。
(こんなところを誰かに見られたら……。)
突然の距離の近さに、思わず周囲を見渡した。
その少し離れたところでは…
「あっ、寧々がいるよ! 隆くんに肩を抱かれてる!!」
少し離れた場所で、その光景を見つけたのは、Tシャツとハーフパンツ姿の凜だった。
「へぇ〜、隆くんと一緒にいるときの寧々って、あんな顔するんだ。」
隣にいる大谷の腕を引きながら、凜は興味津々の様子で笑う。
「まだ子供だと思っていたが……。寧々ももう中学生か……。」
感慨深げに呟く大谷。
彼が寧々をドリームキャンディとして導いたとき、寧々はまだ小学五年生だった。
あの頃は幼かった少女も、今では立派な中学生戦士になっている。
「そっとしてやろう。」
大谷は、凜が2人の跡をつけようとするのを制した。
水都公園の夏祭り。奈理子の姿を探す者は寧々だけではない。
光と熱気が渦巻く人混みの中で、浴衣姿の奈理子を探す2つの影があった。
牛島と渚。
「あれは……風間凜!」
渚の目が鋭く光る。
人混みの中、凜が男と親しげに屋台の出店を覗いていた。
「部屋着みたいな格好で、男と2人で夏祭りに来るなんて……見せつけてくれる。」
渚は忌々しげに呟く。
それを聞いていた牛島は、
(いや、待てよ……部屋着みたいな格好は、お前も同じじゃないか?)
と心の中で思わずツッコんだ。
だが、すぐに考えを改める。
(いや、同じじゃない。風間凜の“部屋着っぽい”格好はファッションだ。ズボラなだけの渚とは全然違う。)
改めて、渚の服装を観察する牛島。
(身なりを整えれば、それなりの女には見えるんだがな……。)
心の中でそう呟きながら、
「風間凜は性格が悪いが、見た目だけは良い。あれだけ可愛ければ、男の一人や二人いてもおかしくないさ。」
と口にする。
そう言いながら、無造作に括られた渚の髪に手を伸ばす。
「触らないでください!」
渚は素早く交わし、睨みつけた。
牛島は悪い男ではないが、やたらと触りたがるところが気に入らない。
「風間凜は邪魔ですね……。」
渚の声が低くなる。
ターゲットはあくまで奈理子。
だが、もしセイクリッドウインドの風間凜が近くにいれば、余計な手出しをされる可能性がある。
「まさか、祭りの最中に奈理子を襲うつもりだったのかい?」
牛島は肩を竦めながら呆れたように言った。
「当たり前です。大勢の市民の前で、奈理子の身ぐるみを剥がして恥をかかせてやるんです。」
渚の表情には、僅かに狂気が滲んでいる。
「はぁ……。」
牛島が深く溜息をついた。
「夏祭りの奈理子はスライム男と一緒にいるはずだ。渚はスライム男と事を構えるつもりかい?」
牛島の問いに、渚の顔が一瞬強張る。
「それに、僕も水都市民だ。市民の楽しみである夏祭りをぶち壊したくない。」
そう続ける牛島に、渚は苛立ちを隠せない。
「花火が終わるまで待つんだ。去年のように、スライム男と別れて帰る奈理子を襲えばいい。」
「あのマゾっ子ヒロインが大人しく帰るはずありません。花火のあと、スライム男と良からぬことをするはずです。」
渚は語気を強めた。
しかし、牛島はピシャリと断言する。
「渚、君は何も分かっちゃいない。」
「……は?」
渚が訝しげに牛島を見上げる。
「奈理子は水都の“絶対アイドル”だ。常に水都の女子高生の模範となる行動を取り続ける義務がある。」
「あのマゾっ子が、女子高生の模範??」
渚の混乱は深まるばかり。
「そう。奈理子は常に市民の視線に晒されている。彼女の本質がどうであれ、“女子高生としての節度ある行動”をとるはずだ。」
「……本当にそう思ってるんですか?」
「信じろ。だから、僕たちも花火が終わるまで夏祭りを楽しむんだ。」
牛島は爽やかに言い放つと、櫓の方を指さした。
「踊ろう。盆踊りの音色が僕らを待っている!」
「嫌です……。」
日陰を歩くことに慣れた渚にとって、華やかな祭りの輪の中に入るのは耐え難い。
だが――
「渚、君も自分の殻を破るんだ。歌って踊って夏祭りを満喫するんだ!」
牛島は渚の手を強引に引く。
奈理子を狙う2人の姿は、やがて盆踊りの輪に溶け込んでいった。
水都公園の夜空に、大輪の花が咲いた。
ドォン……!
まばゆい閃光が闇を裂き、鮮やかな赤や青、金色の火の花が弾ける。
「綺麗……!」
奈理子は思わず目を輝かせ、空を仰いだ。
水都の夏祭りのクライマックス、花火大会が始まっている。
運河沿いに並ぶ屋台の灯りも、夜空に広がる花火の煌めきにかき消されるようだった。
彼女の手を握るライムは、静かに夜空を見上げていた。
浴衣の袖が揺れるたび、朝顔の模様が揺れ、奈理子の頬も花火の光を受けて淡く染まる。
「ライム、花火が水面に映ってるよ……。」
運河に広がる色とりどりの花火の残像に、奈理子は嬉しそうに目を細めた。
「水面に映った花火は一瞬だけど、本物よりも綺麗に見えることもあるよな。」
ライムは奈理子の手を軽く握る。
「そうなのかな……? でも、一瞬だからこそ、綺麗に思えるのかもね。」
「奈理子もそんな感じだ。」
「え?」
奈理子は思わずライムを見上げる。
「奈理子はいつもみんなの前にいるけど、戦いに負けて倒れる姿を見せることが多い。でも、だからこそ奈理子の姿は特別に輝いてる。まるで、花火みたいだ。」
「ライム……。」
ライムの静かな言葉に、奈理子の胸がドキリと高鳴った。
いつものように軽口を叩くでもなく、からかうでもなく、真っ直ぐな言葉だった。
「花火みたいに、一瞬で消えたりしないよ? ずっとライムのそばにいるんだから。」
奈理子は照れ隠しのように笑いながら、ライムの腕にぎゅっとしがみついた。
ドォン……!
夜空に、ひときわ大きな花が咲く。
白と金色の光が交差し、ゆっくりと消えていくその姿は、水面にも儚く映る。
「この時間がずっと続けばいいのにね……。」
奈理子はポツリと呟いた。
ライムは微笑むと、奈理子の肩を引き寄せ、そっと囁く。
「ずっとは無理だけど、今この瞬間なら、俺たちのものだろ。」
奈理子は嬉しそうに微笑み、もう一度、夜空を仰いだ。
花火の輝きが消えても、彼女の心の中には、熱く眩しい光が残り続けていた。
夜の帳が降りても、恋人たちの時間は終わらない。むしろ、ここからが本番――。
水都公園の片隅、夜風がそよぐ木陰で、奈理子とライムは密かに唇を重ねていた。
花火が終わり、人々が帰路につく喧騒が遠ざかる。
ライムの手が奈理子の浴衣の裾を開き、そっと太腿を撫でる。滑らかな肌を慈しむように指先が這い、ゆっくりとショーツへと伸びていく。
奈理子は抗うことなく目を閉じた。ライムの指が触れる感触を受け入れ、このまま身を委ねたい――そう思った。
だが、現実は甘くない。
「今日はダメ。」
奈理子はそっとライムの手を押さえた。
「門限か?」
ライムは低く囁く。
「それもあるけど……見られてる。」
奈理子は周囲の視線に気づいていた。
誰かがこちらを見ている――。
「ならば、見せつけてやろう。奈理子は見られるのも好きだろ?」
ライムは意地悪く微笑み、なおも奈理子の湿ったショーツの中へと指を忍ばせようとする。
「ダメだってば。」
奈理子は慌ててライムの手を止めた。
彼女は水都女学院高校に通う清純可憐な女子高生。市民が思い描く清純可憐な女子校生野宮奈理子のイメージを壊すわけにはいかない。
「……仕方ないな。」
ライムは諦めたように手を引いた。
「ごめんね、ライム。」
奈理子は申し訳なさそうに微笑むと、もう一度短いキスを落とし、素早く浴衣を整えた。
帰宅の準備を始める奈理子。
だが、その後ろでは――。
「ほらな。奈理子は模範的な女子高生を演じるって言っただろ?」
暗がりから、じっと奈理子たちのやり取りを見ていた二つの影。
牛島と渚だった。
「このままスライム男とイチャついてれば、これから可哀想な目に遭わずに済んだのに……バカな女。」
渚が忌々しげに吐き捨てる。
「浴衣姿の奈理子もいいな。……パンツは白。奈理子らしい、まさしく純白の天使だな。」
牛島の目が怪しく光る。
「今日もたっぷり可愛がってあげる、奈理子。」
渚が冷たく笑いながら、帰ろうとする奈理子の後ろ姿を見つめた。
「先回りしよう。」
牛島が静かに言う。
二人はすでに奈理子の帰宅ルートを熟知している。
彼女の逃げ場はない。
夜道に忍び寄る影。
奈理子に、危機が迫っていた。
蒸し暑い夏の夜、奈理子は慣れない浴衣姿で小走りに家路を急いでいた。
花火の余韻が心地よく残る中、彼女の心はまだライムとの時間に引きずられている。もっと一緒にいたかったが、門限の時間が迫っていた。親に心配をかけるわけにはいかない。
――仕方ない。火照った身体は、自分の部屋で、自分の手で慰めるしかない。
そんなことを考えながら住宅街の角を曲がった瞬間、目の前の街灯の下に不気味な影が立ちはだかった。
「そんなに急がなくてもいいじゃない。真夏の夜は長いのに」
女の声が響く。
奈理子の目の前に現れたのは、蒼い甲殻に覆われた異形の怪人――シオマネキ女。
左腕の巨大な電磁鋏が街灯の光を受け、鋭い輝きを放つ。
「シオマネキ女……!」
奈理子は足を止めた。
過去に幾度も戦い、そして屈辱を与えられてきた宿敵。その姿を目にした瞬間、奈理子の背筋に冷たい汗が流れる。
「スライム男の代わりに、私がたっぷり可愛がってあげる。」
シオマネキ女が妖しく微笑む。その目には、奈理子を弄ぶことへの期待が滲んでいた。
「くっ……」
奈理子は震える手で懐からアイマスクを取り出す。
だが、その瞬間――ふわりと風が吹いたかと思うと、シオマネキ女の顔が奈理子の目の前にあった。
「ひっ……!?」
一瞬で距離を詰められ、奈理子は思わずのけぞる。
「変身する前に、やっておきたいことがあるのよ。」
シオマネキ女の唇が微かに歪む。そして、彼女の右手が奈理子の浴衣の帯を掴んだ。
「や……あぁっ! 許して……!」
身の危険を感じ、奈理子は恐怖に震える声で懇願する。
だが――
「いいじゃないの。これをやらなきゃ始まらないわ。」
シオマネキ女はくすりと笑うと、帯を一気に引き抜いた。
――バサァッ!
奈理子は帯を奪われた勢いで、独楽のようにクルクルと回転しながら倒れ込んだ。
浴衣の裾が乱れ、肌が夜風に晒される。
「はははっ! 奈理子もノリがいいじゃない。悪代官ごっこが好きなの? さすがマゾっ子ヒロイン。」
シオマネキ女が嘲笑する。
「許さないわ!」
奈理子は開けた浴衣を必死に押さえながら立ち上がった。そして、
「変身中に襲ってこないでよね!」
シオマネキ女を睨みつけ、アイマスクを掲げる。
変身途中のミラクルナイトは無防備なのだ。
「バカなの? 襲うなと言われて襲わない敵がいると思ってるの?」
シオマネキ女は小馬鹿にしたように奈理子を見下す。
「うっ……」
怯む奈理子。
「なーんて、嘘よ。」
シオマネキ女の目が冷たく光る。
「素の奈理子よりも、ミラクルナイトの方が虐めがいがあるからね。ゴチャゴチャ言ってないで早く変身しなさい。」
その言葉に、奈理子は息を飲み、震えながらもアイマスクを装着した。
――水色の光が辺りを包み込む。
光の中で、浴衣が霧散する。
(……ん?)
異変に気づいたのは、その瞬間だった。
「えっ……!? ちょ、ちょっと待って!!」
キャミソールが消えた――?
普段ならブラとショーツのみの姿になるはずが、カップ付きのキャミソールはブラと同じ扱いににはならなかったったらしい。
奈理子の小振りな胸が、完全に露わになってしまった。
「そんな……!」
一瞬、奈理子の頬が羞恥で紅潮する。
だが――
ひらり。
髪に白いリボンが現れ、次いでブラウスが胸を覆う。
ミラクルナイトの清楚な装いが、次々と奈理子の身体を包み込んでいく。
胸元に水色のリボン。
手足にグローブとブーツ。
そして最後に――
純白のコットンショーツを覆うように、白いプリーツスカートが優しく翻った。
「水都の平和を乱す者は――」
奈理子は周囲の迷惑にならぬよう、夜の住宅街で静かに宣言する。
「ミラクルナイトが、許しません。」
闇の中で、シオマネキ女の蒼い甲殻が鈍く光る。
「今日のミラクルナイトはノーブラなのね。」
ニヤリと笑う宿敵。
「さぁ、今夜も楽しませてもらおうかしら?」
蒼き悪魔と、純白の戦乙女。
静かな住宅街に、戦いの火蓋が切って落とされる――!
夏祭りの喧騒が遠くに聞こえる夜の住宅街。
月明かりが白く照らすアスファルトの道で、ミラクルナイトとシオマネキ女が対峙していた。
涼やかな夜風が吹き抜け、ミラクルナイトのスカートの裾が揺れる。しかし、彼女の額には汗が滲んでいた。
「さて、マゾっ子ヒロイン奈理子ちゃん。今夜はどんな鳴き声を聞かせてくれるのかしら?」
シオマネキ女が不敵に笑う。
その左腕に備えられた巨大な電磁鋏が、カチンッと鈍い音を立てて開閉された。
――まるで、これから獲物を切り裂くかのように。
「私は水都の平和を守るヒロイン……あなたに屈するわけにはいかない!」
奈理子は恐怖を振り払い、足を踏み込んだ。
「えい!」
ミラクルナイトの可憐な右脚から、ハイキックが放たれる。
しかし――
シュンッ!
シオマネキ女は驚くほどの速度で横に跳び、その攻撃を軽々と回避した。
「遅いわね。そんな鈍い攻撃、当たるとでも思った?それに、パンツが濡れている。」
「なっ……!?」
ミラクルナイトが目を見開いた次の瞬間――
「疾しいことばかり考えている女子校生には、お仕置きよ。」
ヒュンッ!
シオマネキ女の電磁鋏が猛スピードで振り下ろされる。
ギリギリでそれを察知したミラクルナイトは、素早く後ろに跳び退いた。
しかし、避けたと思った瞬間――
「甘いわ。」
ガシィッ!!
シオマネキ女の右手が奈理子の腕を掴んだ。
「しまっ……!」
奈理子の身体が、一瞬にして宙へと投げ飛ばされた。
「きゃあっ!!」
ミラクルナイトの細い身体が空中でくるくると回転しながら、無防備に地面へと落下する。
「ドサッ!」
背中からアスファルトに叩きつけられ、ミラクルナイトは激しく息を吐いた。
「ぐぅ……っ!」
地面に倒れ込んだまま、彼女は荒い呼吸を繰り返す。
「ふふ、やっぱりあなたは私の期待を裏切らないわね。いつも簡単に転がされちゃう。」
シオマネキ女がゆっくりと歩み寄る。
「でも、これで終わりじゃないわよね? まだお楽しみが残ってるでしょう?」
ミラクルナイトは、頭を振りながらゆっくりと起き上がろうとする。
しかし――
「はい、ストップ!」
ズルリッ……
シオマネキ女の爪先が、ミラクルナイトのスカートの裾を踏みつけた。
「あっ……!?」
嫌な予感がミラクルナイトの背筋を駆け上がる。
「さて……」
シオマネキ女はゆっくりとしゃがみ込み、ミラクルナイトの怯える瞳を覗き込んだ。
「お決まりの儀式、始めようか?」
「やめ……っ!!」
ミラクルナイトは慌ててスカートを押さえようとする。
しかし――
「残念。もう遅い。」
シオマネキ女がニヤリと笑うと、
ビリッ!!
強引にプリーツスカートを引き剥がした。
白いコットンショーツが、夜の住宅街にさらされる。
「あぁっ……!!」
ミラクルナイトの頬が、一気に羞恥で染まる。
「やっぱり白ね。奈理子といえば、純白の天使だもの。」
シオマネキ女は満足そうに笑い、剥ぎ取ったスカートを軽く振ってみせた。
「さて、次はどうしてあげようかしら?」
夜の静寂の中で、ミラクルナイトの戦いはまだ終わらない――。
水都女学院高校1年2組、野宮奈理子。彼女はこの街を守る正義のヒロイン、ミラクルナイト。
高校生になってからは白いショーツを身につけることが増え、戦闘時の純白のコスチュームと相まって、人々は彼女を敬愛を込めて「純白の天使」と呼ぶようになった。その清廉な姿は市民の心をとらえ、今や奈理子は水都の絶対的なアイドル的存在へと成長していた。
しかし、その夜——。
夏祭りの余韻が静寂へと変わる深夜。喧騒も歓声も届かない住宅街の片隅で、ミラクルナイトは窮地に立たされていた。
「ふふ……とうとう追い詰めたわね、ミラクルナイト」
奈理子の前に立ちはだかるのは、蒼き甲殻を纏う宿敵——シオマネキ女。
街灯の光に照らされた奈理子の白いショーツと細い脚が、戦場の冷たい夜風にさらされる。じりじりと迫る敵の圧力に押され、ミラクルナイトはわずかに後ずさった。
「くっ……」
思わず唇を噛む。ここは住宅街——これ以上騒ぎを大きくすれば、住民を巻き込んでしまう。
(逃げるしかない……!)
奈理子の背中が淡い光を帯びると、ミラクルウイングが白く輝きながら展開した。彼女の唯一の逃げ道、それは空。
「飛ぶつもり?」
シオマネキ女が不敵に笑う。
奈理子は答えない。大きく翼を広げ、一気に夜空へと舞い上がろうとする——その瞬間。
「——残念だけど、逃げられないわ」
暗い笑みを浮かべたシオマネキ女が笑う。
次の瞬間、ミラクルナイトは腰を、何者かに掴まれた。
(——なっ!?)
純白の天使、ミラクルナイトに最大の危機が迫る——!
夜の住宅街に響く静寂を破り、ミラクルナイトはミラクルウイングを広げて空へと逃れようとした。しかし、彼女の身体がふわりと宙に浮いた直後、背後からガシッと細い腰を掴まれたのだ。
「なっ…!」
驚く間もなく、強い力によって地面へと引き戻された。
「ラブラブの夏休みデートのあと、地獄に引きずり降ろされる気分はどうだい?」
耳元で囁く、湿り気を帯びた不気味な声。
「ウミウシ男…!」
ミラクルナイトの表情が一瞬にして恐怖に染まる。シオマネキ女と常に行動を共にするこの男が現れた時、彼女の戦況は大抵最悪のものとなる。
「離して!」
必死に藻掻くが、ウミウシ男の手はまるで粘着するかのように奈理子の腰をがっちりとホールドし、びくともしない。
「まるで恋人同士みたい。奈理子の素顔を見せてよ」
シオマネキ女は笑いながら腰を掴まれたミラクルナイトに近づき、アイマスクを剥ぎ取った。
「あぁ…」
奈理子の素顔が街灯に照らし出される。その瞳には涙が浮かんでいた。
そんなミラクルナイトの窮地を、隠れた場所から見守る二つの影があった。
「奈理子さん、頑張って…!」
と寧々が小さく呟く。しかし、その声には不安が滲んでいた。
「姉ちゃんはシオマネキ女に苦手意識がある。ウミウシ男まで出てきたら、もう勝ち目はない」
と冷静に状況を分析する隆。
寧々もその言葉に頷いた。確かに、ミラクルナイトがこの二人を相手に勝利することは考えられない。
「寧々、頼んだぞ。姉ちゃんを助けてくれ!」
隆が寧々の肩を掴み、強く言う。しかし、寧々は
「うん…」
と歯切れが悪い。
ウミウシ男とシオマネキ女のコンビは、ドリームキャンディ一人では到底勝てる相手ではない。もし、セイクリッドウインドがいれば…と寧々は周囲を見渡した。彼女がここに来てくれれば、形勢を逆転できるかもしれない。しかし、今のところ、その姿はどこにも見えなかった。
その間に、ウミウシ男はミラクルナイトを四つん這いの姿勢に追い込んでいた。腰を掴まれたミラクルナイトは、ウミウシ男に操られているようにも見える。シオマネキ女は、非力なミラクルナイトを見て楽しそうに笑っていた。
ウミウシ男は、ついに奈理子のショーツに手を掛けようとした。
「姉ちゃんはもうダメだ。寧々、早く…」
と隆が焦る。しかし、その時——。
「ミラクルパワー!」
ミラクルナイトの身体が水色に輝き、爆発的なエネルギーがウミウシ男を吹き飛ばした。まるで奇跡が起きたかのように、彼女は自らを拘束する力を振りほどいたのだ。
「姉ちゃん…!」
隆が驚愕の声を漏らす。
「奈理子さんはまだ諦めていない!」
寧々の瞳に希望の光が宿る。そうだ、かつてはミラクルナイトとドリームキャンディ、二人でどんな強敵にも立ち向かっていた。あの頃のように——奈理子さんと一緒に戦うんだ。
「キャンディスイーツ、ドリームキャンディ…」
寧々が変身の呪文を唱えると、オレンジ色の光が夜の住宅街を照らした。その光の中から現れたのは、甘い夢を紡ぐ中学生戦士——ドリームキャンディ。
「奈理子さん、今助けに行きます!」
颯爽と舞い降りた彼女は、ウミウシ男とシオマネキ女の前に立ちはだかった。新たな戦いの幕が、今ここに切って落とされる。
月明かりと街灯の淡い光の下、ミラクルナイトは荒い息を吐きながら片膝をついた。ウミウシ男に腰を掴まれ身体を制御されていたことと、先ほどのミラクルパワーの発動による体力の消耗が激しく、今にも倒れそうなほどだった。
「はぁ…はぁ…キャンディ……」
ミラクルナイトの肩が小さく震えている。その姿を見下ろしながら、ドリームキャンディは屈み込んで彼女の体を支えた。そして、にっこりと微笑むと、呟くように言った。
「奈理子さん、一人で戦う奈理子さんの姿、可愛いかったですよ。白いパンツが輝いて見えます。」
「こんなときに、変なこと言わないで…!」
スカートを奪われたままのミラクルナイトは、恥ずかしそうに顔を赤らめる。
「勝負はこれからです。私と奈理子さんのコンビは、誰にも負けないってことをウミウシ男とシオマネキ女に教えてあげましょう!」
ドリームキャンディはそう言うと、ミラクルナイトの尻をポンポンと労わるように叩いた。
「ひゃっ!?」
ミラクルナイトが驚いて飛び跳ねる。
「いきなり何するの!」
と抗議するが、ドリームキャンディは満足げに笑っていた。
「奈理子さんの大切な箇所を守ってくれた真っ白パンツにご褒美です。」
そのとき——。
ザワ……ザワ……
周囲の住宅から微かなざわめきが聞こえてきた。ドリームキャンディの変身時に放ったオレンジ色の閃光が、近隣の住民を騒がせてしまったのだ。
「キャンディ、住民を巻き込まないように注意して!」
「分かってます!」
ドリームキャンディは真剣な表情で頷く。
しかし、それを嘲笑うかのように、シオマネキ女が鋭い声を上げた。
「ふふふ、ミラクルナイトは相変わらず弱々しいわね。でも、住民の前で派手に負けるところを見せるのも、あなたにはお似合いかしら?」
彼女の左腕の電磁鋏が青く光を放つ。
「シオマネキウェーブ!」
強烈な衝撃波が発生し、ミラクルナイトとドリームキャンディに向かって放たれた。
「避けて!」
ミラクルナイトが叫ぶが、ドリームキャンディはとっさにロリポップハンマーを振りかざし、エネルギーの衝撃を弾いた。衝撃波は近くの街路樹を揺らし、夜の静寂を破る。
「うぅ…! 今の一撃でこんな威力なんて…!」
ドリームキャンディが歯を食いしばる。その隙を突くように、ウミウシ男がぬるりとした動きで距離を詰める。
「真っ白パンツが奈理子を守りきれたとはまだ限らないぞ!」
ウミウシ男がゆっくりと両手を広げる。狙っているのは奈理子のショーツだ。
「させないっ!」
ドリームキャンディは即座に間合いを詰め、ロリポップハンマーを振りかざした。
「ロリホップ凄い突き!」
強烈な突きをウミウシ男へと放つ。直撃を受けたウミウシ男が後方へと吹き飛び、夜の闇に消えていく。
「やった…?」
ドリームキャンディが警戒する。
「甘いわよ!」
突然、シオマネキ女の電磁鋏が唸りを上げ、ロリホップハンマーを絡め取った。
「しまった!」
と気づいたときには遅かった。電磁波がドリームキャンディの腕に走り、彼女は思わず膝をつく。
「キャンディ!」
ミラクルナイトがすかさず駆け寄ろうとするが——。
「させると思う?」
シオマネキ女は素早くミラクルナイトの腕を鋏で掴み、強引に地面に引き倒した。
「くぅ…!」
ミラクルナイトが苦悶の声を上げる。シオマネキ女の力に抗えず、その場に組み伏せられてしまう。
「これで終わりね。さあ、私たちの夏の宴を始めましょうか?」
「いやッ、やめて!」
シオマネキ女が邪悪な笑みを浮かべ奈理子のショーツを引き下ろそうとする。
しかし、次の瞬間——。
ズガァァァンッ!!
夜の静寂を切り裂くように、空から強烈な風の刃が舞い降りた。突風とともにシオマネキ女が後方へ吹き飛ばされる。
ミラクルナイトとドリームキャンディが顔を上げると、そこに立っていたのは——。
「セイクリッドウインド!」
ドリームキャンディが歓喜の声を上げる。
「遅くなったわね、奈理子、私が来たからにはもう安心よ。」
セイクリッドウインドは冷静な口調で言いながら、ガストファングに風を纏わせる。
「ちょうど良かったわ。奈理子とドリームキャンディだけじゃ物足りなかったから。」
シオマネキ女は倒れてもなお、不敵に笑う。
「奈理子、キャンディ。こいつらは私が抑える。二人は態勢を立て直して。」
セイクリッドウインドの力強い声に、ミラクルナイトとドリームキャンディの表情が引き締まる。
「奈理子さん、いけますね?」
ドリームキャンディが手を差し伸べる。
「もちろん…!」
ミラクルナイトはその手を取り、ゆっくりと立ち上がると太股まで下げられたショーツを整えた。
闇夜の住宅街で、三人の戦士が宿敵に立ち向かう。
水都の平和を守るため、今ここに、反撃の狼煙が上がった——。
「次から次へと鬱陶しい奴ら。」
シオマネキ女が忌々しげに吐き捨てた。
「奈理子とキャンディのコンビの強さを見せるとか言いながら、もう一人出てくるとはな。正義のヒロインのくせに、卑怯な奴らだ。」
ウミウシ男が皮肉たっぷりに言う。
「卑怯なのは、奈理子さんを闇討ちしようとした貴方たちでしょ!」
ドリームキャンディが憤る。
「それに、私だって凜さんが助けに来るなんてこれっぽちも思ってなかったわ。」
「助けに来たのに、それはないでしょ。」
セイクリッドウインドが肩をすくめる。
「なんだ? 仲間割れか?」
「奈理子ちゃん、今日の白パンツも可愛いよ!」
家の窓から戦いを眺める住民たちが、思い思いに声を上げる。
その声を聞きながら、シオマネキ女が不敵な笑みを浮かべた。
「いいこと教えてあげる……」
「?」
「今日の奈理子はノーブラよ!」
「なっ?!」
シオマネキ女の突然の暴露に、ミラクルナイトは顔を真っ赤にして驚いた。
「えっ?! そうなの?」
セイクリッドウインドも思わず驚きの声を上げる。
「変身するときに、ブラキャミが消えちゃったんですよ。」
ドリームキャンディが冷静に説明する。
「キャンディ……その場面からずっと見てたの……?」
唖然とするミラクルナイト。
「それなら、もっと早く助けに来てくれたらよかったのに……!」
「ふふっ、奈理子のピンチシーンを楽しんでたってわけ?」
シオマネキ女は愉快そうに笑うと、電磁鋏を構えた。
「そういうわけで、これからもっと楽しいショーをお見せするわ。」
電磁鋏がジリジリと音を立てながら、ミラクルナイトのブラウスに向けられる。
「ひっ……!」
ミラクルナイトは咄嗟に腕で胸を隠す。
「キャンディ、奈理子を守るよ。」
「分かってます!」
セイクリッドウインドとドリームキャンディが、ミラクルナイトの盾になるように前に出た。
夜の住宅街で、再び戦いが幕を開ける——!
「シオマネキウェーブ!」
シオマネキ女が電磁鋏を振り下ろすと、青白いエネルギー波が地を這うように飛び、3人のヒロインを襲う。
「来るわよ!」
セイクリッドウインドが素早く反応し、ガストファングを振るった。
「セイクリッドテンペスト!」
巻き起こる風の刃が、シオマネキ女の電磁波を相殺する。しかし、その隙にウミウシ男が滑るように接近した。
「僕の腕では伸びるんだよ!」
ヌルリとした動きで、ドリームキャンディに向かって腕を伸ばす。
「そんな攻撃、通用しないわ!」
ドリームキャンディはすかさずロリポップハンマーを振り下ろす。
「ロリホップ三弾突き!」
高速の三弾突き炸裂し、ウミウシ男の攻撃を弾き返した。
「ちっ……中学生戦士も侮れないな。」
ウミウシ男が後退する。その間にミラクルナイトも体勢を立て直していた。
「ふふ……でも、そろそろ動けないでしょ?」
シオマネキ女がミラクルナイトを見据え、鋏を構え直す。
「……ッ!」
ミラクルナイトの体は疲労で思うように動かない。ミラクルパワーの代償が、ここで響いていた。
「奈理子さん!」
ドリームキャンディが駆け寄ろうとするが、ウミウシ男が行く手を阻む。
「行かせないよ、キャンディ。」
「邪魔しないで!」
ドリームキャンディが鋭く睨みつける。
その瞬間、シオマネキ女の電磁鋏がミラクルナイトのブラウスに向かって振り下ろされた。
「あぁ……!」
ミラクルナイトの目が見開かれる——。
しかし、その刹那——。
バシュッ!!!
突如、風の刃が飛来し、シオマネキ女の攻撃を弾いた。
「何……?!」
驚くシオマネキ女。
「私がいる限り、奈理子をやらせはしないわ」
月明かりの下に浮かび上がるのは、風の戦士。
「風間凜……!!」
ミラクルナイトとドリームキャンディの心に希望が灯る。
「あの風間凜がここまでやるとは……」
ウミウシ男が僅かに後退する。
「これで形勢逆転ね!」
セイクリッドウインドがミラクルナイトを庇うように立ち、鋭い眼光でシオマネキ女とウミウシ男を見据えた。
「3対2。どうする?」
ミラクルナイト、ドリームキャンディ、そしてセイクリッドウインド。
水都を守る三人のヒロインが揃い、夜の戦いは最終局面へと向かう——。
「以前より腕を上げたな、風間凜。3人揃うと少々厄介だ。」
ウミウシ男が冷静に分析する。
「せっかく奈理子がノーブラなんだから、このままじゃ終われない。」
シオマネキ女が意地悪く笑う。
「それでこそ蒼蟹の悪魔だ。陰湿さなら誰にも負けない。」
ウミウシ男が愉快そうに笑う。
「陰湿は余計です!」
シオマネキ女が鋭く睨みつける。
「まずは風間凜を抑えよう。風の刃は当たると痛い。奈理子はそのあとだ。」
ウミウシ男が作戦を伝えると、シオマネキ女は黙って頷き、セイクリッドウインドへと突進した。
「痛いどころか、斬り裂いてやるわ!」
セイクリッドウインドがガストファングを振るう。
無数の風の刃がシオマネキ女に向かって飛び交うが——。
「甲殻類を甘く見ないでよね!」
シオマネキ女の硬い外殻が、風の刃をことごとく弾き返した。
「危ない!」
ミラクルナイトとドリームキャンディが助けに入ろうとするが、間に合わない。
「切り裂くとはこうするのよ!」
シオマネキ女の電磁鋏がセイクリッドウインドへと振り下ろされる。
「チッ!」
紙一重で身を翻し、攻撃をかわすセイクリッドウインド。しかし、その背後には——。
「ウミウシには毒があるんだよ。」
「わわわ…!」
ウミウシ男の粘液に含まれた神経毒が、セイクリッドウインドの体を蝕む。
「凜さん!」
ミラクルナイトが叫ぶ。
「キャンディ、飴を!」
「はい!」
ドリームキャンディが素早く解毒の飴を取り出そうとした、その瞬間——。
「隙だらけね。」
いつの間にか、シオマネキ女がミラクルナイトの足元に入り込んでいた。
「あッ!」
ミラクルナイトが驚く間もなく、シオマネキ女の電磁鋏が振り上げられる。
「あぁぁ……!!」
バシュッ!!!
ミラクルナイトのブラウスが一瞬で切り裂かれた。
「きゃあぁ!」
慌てて小さな胸を腕で隠すミラクルナイト。
「下がガラ空き!」
シオマネキ女は素早く奈理子のショーツを膝まで摺り下げた。
「貧乳のくせに、下はしっかり生えているのよね」
「……あ……いやぁぁ~~~!」
一瞬遅れてしゃがみ込み、うずくまるミラクルナイト。
「ハハハ、今日はこれくらいにしといてやるわ。」
「パンツ一丁の奈理子も可愛いかったよ。」
シオマネキ女とウミウシ男は満足げに笑いながら、夜の闇へと消えていった。
ミラクルナイト、ドリームキャンディ、セイクリッドウインド。
3人のヒロインは辛くもウミウシ男とシオマネキ女を退けた。
だが、ミラクルナイトの胸に残るのは、安堵ではなく悔しさだった。
「また……負けた……。」
ショーツを整えて膝をつくミラクルナイト。その背中を、ドリームキャンディが優しく撫でた。
「でも……コスチュームを剥がされていく奈理子さんは、とても可愛かったですよ。」
「そんな慰め、嬉しくない……!」
夏祭りの夜——。
ミラクルナイトの心に刻まれた悔しさは、やがて新たな戦いへの覚悟へと変わっていく。
(第169話へつづく)













ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません