ミラクルナイト☆第65話
煌めくシャンデリアの下、豪奢な部屋の中央に広がる大きな机の前に、勅使河原と渦巻が対峙していた。空気は濃厚で重く、シャコ男の敗北の影が厳然とその部屋に漂っていた。
勅使河原は机の上に置かれたシャコ男に関する報告書を目の前に持ち、深いため息をついた。
「最強の称号を与える価値があると思っていたシャコ男…彼のこの結果には、予想もしなかった。」
渦巻は礼儀正しく一歩を踏み出して提案した。
「シャコ男の失敗は痛烈でしたが、次にはイチジク女を立てるのはいかがでしょう。フジツボ男にサポートさせるという手も…」
「了解だ。」
勅使河原は一言でその提案を受け入れた。
しかし渦巻の顔色は曇っていた。
「次の問題点として、アリ男の行動が…」
勅使河原の眉がひそめられた。
「アリ男が何をした?」
「勝手にミラクルナイト…いや、奈理子に手を出したようで…」
勅使河原の顔色はさらに冷えた。
「あの少年にも困ったものだな…」
渦巻は軽く頷き、追加した。
「彼の家系は水都の有力者。アリ男にもしものことがあると我々にとって不利となる可能性もあります。」
勅使河原は椅子に深く体を沈め、一呼吸置いた。
「その不届き者の父に、息子が勝手なことをしないように言い聞かせよう。」
続けて勅使河原が口を開いたのは、彼の愛人、凜のことだった。
「凜には飽きた。彼女とミラクルナイトを戦わせるというのはどうだろう。」
渦巻は僅かに驚いた様子で、しかし冷静に答えた。
「彼女は戦うことを好まないでしょう。」
勅使河原は冷たく微笑んだ。
「なら、彼女を適当に追い出しておいてくれ。」
「彼女は薬のこと知りすぎています。始末すべきでは?」
渦巻が探るような声で問うと、勅使河原はゆっくりと首を振った。
「いいや、凜は顔と体だけが取り柄のつまらない女だ。始末する価値もない。」
つまらない女だが愛嬌はある。凜を始末するのは忍びないと勅使河原は思っていた。
部屋には2人の息遣いと、どこか遠くから聞こえる時計の音だけが響き渡った。
水都中学の校舎裏、時折聞こえるセミの声が放課後の夏を知らせていた。下駄箱の前で、奈理子は一人、立ち尽くしていた。その表情は、どこか期待と不安が交錯するものだった。今日、一緒に帰る約束はしていないが、彼女は特別な理由でライムと一緒に帰りたかった。
足早に現れたのは、二つ学年が下のライムだった。彼の眼差しはクールで、奈理子を一瞥すると、言葉もなくその場を去っていった。彼のその態度は、他の生徒たちには魅力的に映る一因だった。奈理子は、彼の背中を追いかけながら、心の中で何度も「今、話しかけるべきか…」と自問自答していた。
やがて奈理子は、ライムの横に並び歩き始めた。沈黙の中、ライムの声が響いた。
「何かあったのか?」
奈理子は、頭をうつむきながら、切実に
「スライムして欲しい」
と告げた。アリ男に弄ばれた体をライムのスライムで綺麗にして欲しいと奈理子は思っていたのだ。
ライムは、その理由を詮索することなく
「どこでやる?」
と尋ねた。奈理子は迅速に
「二人きりになれる場所ならどこでも」
と答えた。二人は言葉を交わさず、水都公園の運河へ向かった。
水都公園の運河には、夕方の穏やかな風が吹いていた。ライムが提案したボートは、平日のこの時間だとほとんど人がいない。静かにボートを進める中、奈理子は心の準備を整えていた。
しかし、ライムがスライムを準備し始めると、奈理子は
「待って」
と言った。周りに注意しながらセーラー服とスカートを脱いで水色のブラとショーツの姿になる奈理子。ライムの目に映る奈理子の姿は、恥ずかしげでありながらも、何かを期待しているようだった。奈理子はブラとショーツまで脱いだ。アリ男に執拗に弄られた場所をライムに晒す。
ライムは、深く息を吸い込み、緑色のスライムを奈理子に向けて放った。そのスライムは、奈理子を優しく包み、彼女の心と体を癒していった。夕陽が沈む中、二人はその瞬間、何か特別な絆を感じていた。
放課後の水都公園の運河。奈理子は、緑色のスライムに包まれていた。その感触に声をあげそうになるたび、手で口を塞ぎ、静かにその快感を味わっていた。しかし、スライムだけでは満たされない何かが彼女の中で芽生えてきた。彼女はライムを見上げ、
「ライムが欲し…」という言葉を漏らす。
しかし、ライムは彼女の目を見て、
「もう時間だ。戻るぞ」
と冷たく言い放った。ボートの時間が終わろうとしている。彼の冷静な声に、奈理子は現実に引き戻された。
「早く制服を着ろ。人に見られるぞ」
とライムは厳しい口調で彼女を急かした。奈理子は、頬を染めながらも慌てて制服を身に纏った。
すると、突如として公園全体に放送の声が響き渡った。
「警告!噴水広場にフジツボ男とイチジク女が出現!市民の皆様は速やかに安全な場所へ避難してください!」
奈理子の瞳は一瞬で鋭くなり、アイマスクを手に取ると、ライムの方を向いた。
「パンツちゃんと穿いたか?」
と彼は半笑いで聞いてきた。奈理子は少し赤らめて、
「穿いたよ」
と答えると、その瞬間、彼女の身体を水色の光が包み込んだ。ミラクルナイトへの変身が完了すると、彼女はライムに鞄を託し、
「私の鞄、見といてね」
と言うと、ミラクルウイングを広げてボートから空へ飛び立った。
残されたライムは、その背中を見つめながら、公園の危機を感じ取っていた。公園の平和が再び乱れる中、彼女の戦いが再び始まることを知っていた。
噴水広場の空気は緊迫していた。天を突くような噴水の水しぶきが太陽の光を受けて輝きながら、無数の水滴と共に地へと落ちていく。その足元で、彫像のようにじっと立っているフジツボ男の姿があった。彼の存在は、不可解な重さを広場に持ち込んでいた。
「フジツボ男、何をしている?」
独特の魅力を持つイチジク女が、彼の動きのなさに苛立ちを隠せない様子で尋ねる。
広場の四隅にいる市民たちは、息をのんでこの二人のやりとりを見守っていた。彼らの間には確執があるのだろうか、それともこれは単なる前戯なのだろうか。
「貴方、まさか動けないの?」
イチジク女が言う。
「焦るな、イチジク女。じっとしていればミラクルナイトはやって来る。」
と、フジツボ男は深い声で応じた。その声は、彼の体に宿る深い自信を感じさせるものだった。
イチジク女は疑問に思った。彼は本当に動けないのか、それともこれは何かの策略なのか。しかし、過去に彼がミラクルナイトを打ち負かした実績を思い出し、彼を侮ることなく警戒を続けた。
まさかと思った矢先、風の音が聞こえてきた。それは、ミラクルナイトの颯爽とした姿と共に。彼は空から広場に降り立ち、その存在感で場の空気を一変させた。
「フジツボ男!水都の守護神ミラクルナイトが、今日こそはあなたを倒します!」
彼女の高らかな宣言に、広場にいた市民たちは一斉に歓声を上げた。
イチジク女は目を細めた。以前、フジツボ男に打ちのめされたミラクルナイトが、どこからこんな自信を持ってきたのか。そして、その彼を熱狂的に応援する市民たち。まるで、広場が劇場の舞台になったかのようだった。
この瞬間、噴水広場の運命が、大きく動き始めることを感じることができた。
夕暮れの噴水広場、市民の歓声と期待に包まれ、
”ライムの愛と市民の期待を受ける私は絶対に負けない!”
との思いでミラクルナイトはフジツボ男に向かって決意の一歩を踏み出した。だが、そんな彼女の前に、一人の美しい怪人、イチジク女が立ちはだかった。
「まずはスカートからだ。ミラクルナイトのスカートを脱がすのがお約束だ。」
フジツボ男が冷ややかな声で指示すると、イチジク女の瞳がキラリと光った。彼の言葉に、市民たちの興奮した声が広場を包み込んだ。
ミラクルナイトは瞬時に状況を理解し、その挑発に応えるように宣言した。
「あんたたちが私のパンツを見たいのなら、見せてあげるわ!」
その言葉とともに、彼女はイチジク女に華麗なハイキックを繰り出した。空を舞うスカートの下、露わになった水色のパンツは、広場にいるすべての者の目を引きつけた。
しかし、イチジク女はすばやくそのキックを避け、奈理子のショーツが濡れていることを確認し反撃の瞬間を窺っていた。彼女の目が細められ、そして、思わず目を逸らしたくなるような痛烈な一撃がミラクルナイトの股間に突き刺さった。
「思った通り、あなたは弱いわ。」
と、イチジク女が冷笑しながらミラクルナイトを見下ろした。
「くぅぅ…」
痛みに歪むミラクルナイトの顔。だが、彼女の瞳にはまだ諦めの色はなく、
「私は、決して負けない!」と高らかに宣言した。
「その自信、どこから来るのかしら?」
とイチジク女がからかうように笑った。しかし、ミラクルナイトは
「ここからよ!」
と叫びながら、掌から放たれる強烈な水色の光弾で反撃した。
その光の風圧によって、再びミラクルナイトのスカートが舞い上がり、彼女の水色のパンツが露わになる。だが、その瞬間、彼女の決意と勇気が、広場にいるすべての者に伝わったのだった。
水色の光を纏った光弾が空間を切り裂き、イチジク女へと向かって飛んで行った。しかし、まるで予知していたかのように、その光弾の行く手を、フジツボ男の堅牢な外殻が遮った。その瞬間、鳴り響く大きな衝撃音。ミラクルナイトが放った水色の光は、彼の硬い殻によって瞬時に跳ね返された。
「油断は禁物だぞ、イチジク女」
とフジツボ男が彼女の方を振り返る。イチジク女の目には、一瞬の驚きと、それと同時に生まれた新たなる決意が宿っていた。
「わかったわ。ミラクルナイトのスカートを脱がせばいいのね」
と彼女は言いながら、再び前線へと出る。その挑発に、ミラクルナイトは怒りを込めて応えた。
「さっきからスカート、スカートって、そう簡単に脱がされはしないわ!」
イチジク女に向かって行くミラクルナイト。しかし、イチジク女は冷静さを保ちながら、独特の戦術を展開した。
「次は私の番よ」
と微笑みながら、彼女は一瞬のうちに手刀を構えた。ミラクルナイトがその手刀を避けるためのアクションを取った瞬間、空気が震えた。
「イチジク酵素スラッシュ!」
その叫びとともに、イチジク女の手から放たれる輝く斬撃が、ミラクルナイトのスカートを瞬時に切り裂いた。切り裂かれた布片が風に舞い、ミラクルナイトはその瞬間の出来事を完全に理解できないまま、冷たい風を股間で感じる。
「きゃ!」
という驚きと恥じらいの混ざった声が広場に響き渡った。露わになった奈理子の水色のパンツを見て、市民たちが大歓声を上げた。
「脱がすんじゃなくて斬っちゃったけど良かったかしら?」とイチジク女が満足げに笑いながら言った。その言葉がミラクルナイトの心に刻まれた瞬間だった。
そのとき、夕焼けの中を瞬く黄色い光が噴水広場に舞い降り、その中心からドリームキャンディの姿が現れた。しかし、ドリームキャンディ自身、過去のフジツボ男との戦いの中での敗北を忘れていなかった。敵を前にしても、彼女の中には強い決意が湧いていた。
しかし、その意気込みも短かった。ミラクルナイト姿に、ドリームキャンディの目は大きくなった。
”あらら…奈理子さん、またスカート脱がされちゃて…”
内心、微笑んでしまった彼女は、前回の戦闘の時も同じような場面を目撃していたことを思い出していた。
“前にフジツボ男と戦ったときも奈理子さんは水色パンツだったような…"
と思いを巡らせたところで我に返る。
「奈理子さんを苛めるのは許さない!」
と宣言し、彼女の特徴的な武器、キャンディチェーンを振り回しながら、露出する下着を隠すように座り込むミラクルナイトのもとへと駆け寄った。
「恥ずかしがるのは後です。みんなミラクルナイトの戦いを期待してますよ」
彼女の言葉はミラクルナイトの耳に届き、ミラクルナイトは再び戦意を取り戻す。
「うん。ドリームキャンディ、一緒に戦おう」
と言いながら立ち上がるミラクルナイト。二人の絆を感じ取った市民からは大きな歓声が上がった。
「みんな奈理子さんが大好きなんですよ。ミラクルナイトのコスチュームに水色のパンツ似合ってますよ」
とドリームキャンディが笑顔でつぶやいた。
「恥ずかしいから言わないで…」
恥ずかしそうに顔を赤らめるミラクルナイトだったが、その中には感謝の気持ちも混ざっていた。
一方、イチジク女は待ち構えていた。
「さて、茶番は終わったかしら?」
と言って、再び戦闘態勢に入る。緊張感が広場全体を包む中、ミラクルナイト、ドリームキャンディとフジツボ男、イチジク女の間に、新たな戦いの火蓋が切って落とされるのを市民たちは息を呑んで見守っていた。
水都公園の噴水広場では、超常的な能力を持った者たちの戦いが繰り広げられていた。ミラクルナイトとドリームキャンディは市民たちの期待と期待に応えるべく、フジツボ男とイチジク女に立ち向かっていた。
「俺がドリームキャンディを相手にする。イチジク女、ミラクルナイトはお前がな!」
と豪快に宣言するフジツボ男。しかし、ドリームキャンディは彼の計画に沿わない行動を選択。キャンディチェーンを振り回し、イチジク女の方へと突進した。彼女の意図は明白だった。過去の戦闘での経験から、フジツボ男の堅牢な殻には、キャンディチェーンが効果が薄いことを知っていた。だから彼女の最初の目標は、イチジク女を倒すことにあった。
しかし、イチジク女も彼女の意図を察知していた。
「喰らえ、鉄分の矢!」
と叫ぶと、彼女の周囲の空気中から鉄分を吸収し、鋭利な矢を作り出してドリームキャンディに放った。しかし、ドリームキャンディはその矢を巧みにキャンディチェーンで叩き落とし、さらに進撃を続ける。
一方、ミラクルナイトは掌から水色の光弾を放ち、イチジク女の側面から攻撃を仕掛けていた。だが、それを目の端に捉えたフジツボ男は彼女を援護。彼の体は硬化し、瞬時にフジツボの形に変化。その特性を活かして、地面を這いながらミラクルナイトに迫った。
ミラクルナイトは、フジツボ男の驚異的な移動速度と硬さに驚きながらも戦いを続けたが、ついには彼の巧妙な動きに捉えられてしまった。フジツボ男の強固な殻によって、ミラクルナイトの動きは封じられてしまう。
水都公園に響く市民たちの歓声や悲鳴、それに混じる戦いの音。四者四様の特異な能力が交錯する中、この戦いの結末はどうなるのか。期待と不安が入り混じった空気が公園全体を包み込んでいた。
水都公園には緊迫した空気が漂っていた。四者四様の激闘が続いていたが、その中心で、ミラクルナイトはフジツボ男の恐るべき蔓脚の魔の手に捉えられていた。
「離して!」
絶叫するミラクルナイト。しかし、フジツボ男の残忍さは増すばかりだ。
「ご自慢のパンツをたっぷり市民に見せてやりな」
と言い放ち、彼は蔓脚を使ってミラクルナイトの脚を無理矢理に広げさせた。
「くぅぅ…」
ミラクルナイトの苦痛と屈辱が混じった声が、公園中に響き渡った。
ミラクルナイトは蔓脚の生えている部分が殻に覆われていないことに気づいた。しかし、四肢を完全に拘束され、動きが取れない彼女はどうすることもできなかった。
「奈理子さん、しっかり!」
と声を張り上げるドリームキャンディだったが、イチジク女の連続する猛攻に押し込まれ、ミラクルナイトを救う余地はほぼなかった。
「やめてー!」
強制的に股を広げられるミラクルナイトの悲鳴が聞こえる。
このままではミラクルナイトが危ないと判断したドリームキャンディは諦めなかった。彼女は最後の力を振り絞り、キャンディチェーンでフジツボ男の蔓脚を狙った。その瞬間、イチジク女の強烈な蹴りが彼女の腹部に直撃し、彼女は後方へと吹き飛ばされた。
その瞬間の隙をついて、ミラクルナイトはフジツボ男の殻の内部、特に蔓脚の根元に向けて水色の光弾を放った。フジツボ男の悲痛な叫びが、一瞬の静寂を切り裂いた。
「ぐわぁぁぁ!」
とフジツボ男は声を上げる。そのダメージは深く、彼の動きは一時的に鈍っていた。
イチジク女はフジツボ男を後ろに引っ張りながら、一歩後退する。
「ミラクルナイト、次は私があなたを討つ」
と冷たく宣言し、二人はその場を去っていった。
一人残されたミラクルナイトは、傷ついたドリームキャンディの元へと急いで駆け寄った。戦いが一段落した公園には、安堵と悲しみ、それに期待の気持ちが渦巻いていた。
夕暮れの水都公園で、戦いの痕跡が色濃く残る。倒れていたドリームキャンディのもとへ、ミラクルナイトが駆け寄った。
「しっかりして、ドリームキャンディ!」
と、心配そうな声で彼女を呼び覚ますミラクルナイト。彼女の優しい手がドリームキャンディの頬を撫でた。ドリームキャンディが意識を取り戻すと、彼女の最初の言葉は
「敵は…」
だった。その言葉に、ミラクルナイトは微笑み返し、
「ドリームキャンディのお陰で、フジツボ男を退治することができたのよ。ありがとう…」
と、目を潤ませて感謝の言葉を伝え、ドリームキャンディを抱きしめた。
しかし、その温かな一幕にドリームキャンディが照れくさい表情で
「奈理子さん、ちょっと汗臭いですよ」
と囁くと、公園にほのぼのとした空気が流れた。
周囲には、この二人のヒロインに感謝する市民たちの姿が。彼らは、ミラクルナイトとドリームキャンディの勇気に感動し、心からの拍手を送っていた。ミラクルナイトは夕暮れの中、スカートを失い、水色のパンツを晒しながらも、堂々と四方に頭を下げ、声援に感謝の言葉を返していた。
夕陽の金色が、奈理子の細い生脚と水色のパンツを優しく照らしている。この変わった姿での変身を解除しないミラクルナイトに、ドリームキャンディはちょっとした疑問を抱きつつも、奈理子の姿を温かい目で見守っていた。彼女の心の中でこっそりと思った。
”奈理子さん、もしかしてわざとみんなにパンツを見せているのかな?”
と。夕日が二人の間に優しい影を落としていった。
都会の夜、マンションの高層階に住む凜の部屋の扉が静かに開かれる。だが、そこには普通の日常ではなく、予期せぬ訪問者がいた。ソファに座っているのは渦巻だった。彼の存在はこの部屋に重たく圧し掛かっているように感じた。
「渦巻?」
凜は眉をひそめながら問いかけた。彼女のマンションではあるが、所有は勅使河原。この場所はただの宿として彼から与えられていた。勅使河原から鍵を預かった渦巻がいることもあり得るが、自分の部屋に勝手に入られることは不快極まりない。
渦巻は目を上げずに凜に封筒を手渡す。内容は100万円。その大金を目の当たりにしながらも、凜の心には疑念と冷めた感情が湧き上がる。
「手切れ金?」
と問い、渦巻はひたすらに頷くだけだった。
「就職が決まるまではこのマンションを使っていいそうです」
彼の言葉に凜は頭の中で未来の自分を思い描いた。アイドルとしての道を踏みしめてきたが、勅使河原の後ろ盾なくしてはどこまでやれるのか。その思考の途中で、凜が勅使河原と別れたくないと思ったのか、渦巻がミラクルナイトの名前を口にする。
「ミラクルナイトを倒せば、あのお方はあなたの価値を認めてくれるかもしれません」
それが凜の心にとって大きな引き金となる。
「私は彼にとって、もはや無価値なの?」
と、一つの誤解から彼女の中に炎のような怒りが燃え上がる。
「就職が決まるまでじゃなくて、新しい部屋が決まれば直ぐに荷物全部引き払って出ていってやるわ!」
と宣言し、渦巻を部屋から追い出した。
夜が更け、凜は独りで部屋に取り残される。引越代、新しい部屋の敷金、家賃、生活費…100万円は未来の自分を救うにはあまりにも少ない。そして、バイトの経験も無く、就職の見込みも立たない彼女の前に、ミラクルナイトとの戦いが浮かび上がる。奈理子のことは嫌いではないが、彼女を倒すことで勅使河原に自分が価値がある女だと思い知らせることができる。凜はその決意を固く胸に秘め、新たなる戦いへの第一歩を踏み出した。
(第66話へつづく)
(あとがき)












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