ミルキーナイト~胡桃・21歳~☆第14章「仮面の呼び声」
夕暮れの鄙野。 商店街の裏通りに、倒れ伏す魔物の残骸が転がっていた。
「……やったな」
「……ま、当然でしょ」
ミルキーナイトとプリティ・ストーム、ふたりの少女が並び立つ。 魔物の撃退はここ最近の日課のようになっていた。かつて蹂躙された鄙野の町並みも、少しずつ息を吹き返しつつあった。
けれど――
「ふっ……っ、く……!」
白と茶の衣装をまとった胡桃は、膝に手をついて荒く息を吐いていた。
「おい、大丈夫か」
カスミ――プリティ・ストームが心配そうに声をかける。
「う、うん……ちょっと、疲れただけ……」
強がる胡桃の声は震えていた。
共闘が続く中で、胡桃の苦戦が目立ち始めていた。 本来であれば真ミルキーナイトとして備えているはずの力。 だがその輝きは、ここ最近ほとんど見られていない。
その代わりに戦線を支えているのは、皮肉にも戦士として覚醒したばかりのカスミだった。
「……なにやってんだろ、私……」
戦いの後、人けのない水辺に一人佇む胡桃。 夕暮れの川面に映る自分の姿は、かつてのミルキーナイトではなかった。
「真ミルキーナイト……なのに……全然、ダメじゃん」
拳を握る。だが、力は湧いてこない。
「私の力って、何……?」
その時だった。
「その問いの答えを、探しているのかね」
背後から、男の声。 胡桃が振り返ると、そこには仮面をつけた中年の男が静かに立っていた。 黒のロングコート、銀のステッキ、どこか貴族めいた佇まい。
「……シグマ」
以前、一度だけ出会ったその男。 その存在は、どこか現実感を欠いていた。
「貴女は、まだ“真”には至っていない」
「……何よ、それ」
「力とは、“在り方”だ。名を継ぎ、姿を得たところで、“在るべき理由”を欠けば、ただの殻にすぎぬ」
胡桃は眉を寄せた。
「私に、何をしろっていうの?」
「知ることだ。己の心を。そして──己の弱さを抱きしめること」
「弱さを……?」
シグマは川面を見下ろしながら、静かに言葉を重ねた。
「人が強くなるとは、傷を隠すことではない。傷を、晒し、受け入れ、それでもなお前に進む意思を持つことだ」
「……じゃあ、私にそれがないって言いたいの?」
「否。貴女には、それが“生まれかけている”。だが、未だ形にはなっていない」
胡桃は目を伏せた。 心のどこかで、わかっていた。 力に頼り、痛みに背を向け、傷ついたふりをして、何も変えられていない自分。
「……私は、変われるの?」
「貴女自身が、変わると決めれば」
その言葉と共に、シグマは一歩、後ろへ下がる。
「近いうちに、“扉”が開く。その時、貴女が進む道を選ぶがよい」
風が吹いた。 次の瞬間、男の姿はふっと消えていた。
取り残された胡桃は、川面に映る自分の姿を、もう一度見つめ直した。
(私が、私であるために……)
風が、そっと頬を撫でた。 その先にある戦いを、胡桃は少しだけ、見据えるようになっていた。
* * *
翌日。 ミルキーナイトとプリティ・ストームは、旧市街の商業施設跡地に現れた魔物の出現を確認し、急行していた。
「ふっふっふっ……我こそは“カビチーズマン”! 熟成48ヶ月、臭さも粘りも格別の高級怪人だ!」
「カ、カビチーズマン……?」
思わずミルキーナイトとプリティ・ストームが顔を見合わせる。
「臭い、粘い、見た目最悪……最強の三拍子そろってるのさ!」
とろけるような黄色い粘液を撒き散らしながら、カビチーズマンがねばねばと足元を包み込んでくる。
「ふざけんな、くせぇんだよ!!」
プリティ・ストームのキックが炸裂し、魔物はチーズのようにびよんと伸びて地面に張りつく。
「ぐはっ! でもな、俺の必殺技はここからなんだなァァァァ!!」
魔物は口から巨大な“クラッカー”を飛ばしてきた。 「……何その地味な攻撃」
「いや、相性抜群だろうがァァァ!!」
ツッコミを受けながらも、魔物はなおもねばねばと胡桃に襲いかかる。
「胡桃っ! あぶなっ……!」
プリティ・ストームが飛び込み、胡桃をかばうように立つ。
「また、助けられてる……」
胡桃は震える拳を握った。
(シグマさん……私はまだ、向き合えてない……)
目を閉じたその時、どこかで風鈴のような音がした。
「このままじゃ……ダメなんだ!!」
ミルキーナイトの瞳が輝いた。 心の奥に眠る本当の意志──誰かに必要とされた、あの瞬間。
「私は、戦う!私が決めて、私の意志で!!」
白と茶の衣装が光に包まれ、再び変化を始める。
「真・ミルキーナイト──リスタート!!」
新たな輝きが、廃墟の空を照らした。
「おいおい、空気変わってんじゃん!? ちょっと待って!?俺まだ熟成されてな──ぐわぁぁぁぁぁぁ!!!」
ミルキーナイトの回し蹴りがカビチーズマンを粉砕。 魔物は空にチーズ臭を撒き散らしながら消滅した。
「……臭いは残ったな」
「まあ、町が守れたんなら……いいか」
ミルキーナイトとプリティ・ストームは微笑みを交わした。 そして胡桃の胸には、確かな力の鼓動が戻ってきていた。
(第15章へつづく)









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