ミルキーナイト~胡桃・21歳~☆第16章「裏切りの温もり、誓いの決闘」
──私は、ここでしか満たされない。
薄暗い客室。障子越しに湯けむりが揺れ、淡い月明かりが白い肌を撫でる。
「胡桃、もっとこっちに来なよ」
低く甘い声に誘われるまま、胡桃は浴衣の帯を緩めた。 その瞬間、胸の奥に灯る火が、身体の芯をじんわりと包んでいく。
レイジの指先が、そっと首筋に触れた。 その熱が、胡桃の呼吸を狂わせる。
「……レイジ……」
唇が触れるたび、胡桃は過去の傷や迷いを、すべて忘れようとしていた。
「わたし、あなたに……見ててほしいの。いまだけでもいいから……」
その言葉は、懇願のようでもあり、呪いのようでもあった。
彼の腕の中にいれば、ヒロインでなくてもよかった。 戦士でなくても、傷だらけでなくても。
──それが幻想だと、わかっていたのに。
* * *
翌朝。
「悪いね、朝から騒がしくしちゃって」
レイジは起き抜けにタバコをくわえ、笑っていた。
「……ううん、私も……楽しかった」
胡桃は布団の中で浴衣を胸元まで引き寄せ、虚ろな目で笑い返した。
「じゃ、俺、今日は客の接待でちょっと忙しくなるからさ」
「……うん。また、夜に……」
そのとき、レイジは少しだけ口元を歪めた。
「……あんま、重くならないでね? 俺、そういうの苦手だからさ」
時間が、止まった気がした。
「……え?」
「いやいや、冗談、冗談! じゃ、またな!」
レイジは肩をすくめると、軽く手を振って部屋を出ていった。
残された胡桃は、布団の中で膝を抱えた。 熱はすでに冷めていた。
「……うそ、でしょ……」
──また、捨てられた。
* * *
「立て、胡桃!!」
訓練場に響き渡る怒声。
「……カスミ……」
胡桃は下を向いたまま、動かなかった。
「何度裏切られたら気が済むんだよ!あいつがあんたを見てたのは、身体だけだ!!」
「やめて……やめてよ……!」
「目ぇ覚ませ!! 戦えないなら、あたしが叩き直してやる!!」
カスミの瞳は、烈火のように怒りと哀しみに揺れていた。
「決闘だ、胡桃! あたしと、本気でぶつかれ!!」
胡桃は拳を握った。 逃げ続けた現実。 愛されたかった。でも、それは幻想だった。
──もう、一度でもいい。誰かのために、立ちたい。
「……わかった。受けて立つよ、カスミ」
夜の鄙野。風の吹き抜ける高台に、二人の姿が向かい合った。
「変身、完了──プリティ・ストーム、行くぞ!」
「ミルキーナイト、再臨!」
拳と拳がぶつかる。衝撃が地を揺らし、草が舞い上がる。
「私には、戦う理由がある!」
「だったらその覚悟を見せてみろ、胡桃ッ!!」
技と技が交差し、息が乱れる。 だが、その中にあったのは、ぶつけ合う“怒り”ではなく、“信頼”だった。
最後の一撃、胡桃の拳がカスミの腹に吸い込まれる。 カスミは膝をつき、笑った。
「……やっと……戻ってきたな」
「カスミ……私……」
「言い訳なんか、いらねぇよ。次は、並んで戦うんだろ?」
胡桃は頷いた。 その頬には涙が、目には再び光があった。
──戦士ミルキーナイト、ここに復活。
(第17章へつづく)










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