DUGA

ミルキーナイト~胡桃・21歳~☆第26章「学び舎と作業着の午後」

 鄙比田温泉大学。

 山のふもとに広がるこの大学は、鄙野の町と温泉地を支える地域密着型の総合大学だ。

 そのキャンパスの一角、文学部の教室で胡桃はノートパソコンを開いていた。

 「うーん……“魔物災害におけるメディア報道と市民心理”……レポートにするには重いテーマだよね」

 コツコツとキーボードを叩きながら、彼女は窓の外に目をやる。  そこには学生たちののんびりした姿と、のどかな鄙野の風景が広がっていた。

 (この平和、守りたいな……)

 あのフンコロガシ・シェフとの激闘から数日。

 町にはかつての穏やかさが戻り、胡桃自身も大学の授業に久しぶりに出席できていた。

 「胡桃さーん、例のレポート、完成した?」

 声をかけてきたのは、同じゼミの真白い眼鏡の女子学生・桐山理央だった。

 「ううん、まだ途中。でも、ちょっといいアイデアが浮かんだかも」

 胡桃はそう言って微笑んだ。

 * * *

 一方その頃、町外れの工事現場。

 「カスミさーん、こっちの資材運んでくださーい!」

 作業用のヘルメットを被り、汚れても気にしない青い作業着姿のカスミが力強く応える。

 「了解!」

 腕まくりした二の腕に汗が光る。  大声を張り上げながらも、どこか目線は遠くの山を見ていた。

 (胡桃……ちゃんと学び直してるんだな。あたしはこっちで、地に足つけて頑張るだけさ)

 その腰には、変身アイテム“テンペストコア”がそっと収納されていた。

 * * *

 放課後。

 胡桃はカフェでプリンアラモードを前に座っていた。  そこに、泥だらけのカスミが息を切らせて現れる。

 「悪い、遅れた。現場が長引いてさ」

 「ううん、全然。ほら、プリン半分残しておいたよ」

 「……あんた、ほんと優しいな」

 ふたりは笑い合った。

 日常と戦場。

 大学と工事現場。

 別々の場所で生きながら、支え合うふたり。

 ──だからこそ、この平穏を守りたい。

 「ねぇ、胡桃。次の魔物が来ても、あたし、あんたの隣で戦うから」

 「……ありがとう。わたしも、あなたを信じてる」

 夕暮れのカフェの窓には、ふたりの影が仲良く並んで映っていた。

 ──その瞬間。

 バリィィンッ!!

 カフェのガラスが砕け、巨大な拳が窓を突き破ってきた。

 「なっ……!」

 床が揺れ、壁が崩れる。

 外に現れたのは、コンクリートの巨人──否、魔物。

 背中にはクレーンのような機構、両腕は鉄筋で補強された塊のような拳。

 「目標──ミルキーナイト。確保──開始」

 それだけを言い放ち、無表情のまま一歩、また一歩と進み出す。

 「まさか……!」

 胡桃は立ち上がり、変身アイテムに手を伸ばした。

 「ミルキィィィィ・アップッ!!」

 白と茶色の光がカフェを照らす。

 へそ出しの戦闘服に身を包んだミルキーナイトが、砕けた床に立ちはだかる。

 「あなた……誰!? 何のために──」

 「名──不要。目的──捕獲。理由──強者だから」

 「……ッ!」

 そこへ、現場着のままのカスミが駆け寄る。

 「胡桃、そいつ、本気だ……変身する、風を任せろ!」

 「テンペスト・アップ!!」

 プリティ・ストームが横に並び、戦闘体勢に入った。

 「行くよ、カスミ!」

 「来い、無言のデカブツ!」

 かくして、作戦も言葉も持たない、ただ強さだけを信奉するコンクリゴーレムとの激闘が始まった。

 * * *

 拳が振るわれるたびに空気が裂け、地面が揺れる。

 ミルキーナイトの蹴りも、プリティ・ストームの風刃も、厚い装甲には弾かれていく。

 「くそっ、硬すぎるっ!」

 「ただの物理……それだけでここまで!?」

 ミルキーナイトが後方に飛び、息を切らす。

 「──あたし、真正面からのパワー勝負は……正直、苦手……」

 「でも逃げないで! あたしが風で動きを鈍らせる、その間に──」

 プリティ・ストームが突風を起こし、砂埃が舞う。

 その隙にミルキーナイトが回り込み、コンクリゴーレムの背後から連続蹴りを叩き込んだ。

 「ミルキィィィ・ラッシュッ!!」

 しかし──

 「──ノーダメージ」

 その一言と共に、背中の機構が変形。  鉄球が伸びて、振り子のようにふたりを薙ぎ払う。

 「ぐっ──!」

 胡桃とカスミが吹き飛ばされ、がれきの中に倒れ込んだ。

 「まだ……まだだよ……こんなの、で……」

 ミルキーナイトが、ふらりと立ち上がる。

 彼女の瞳に、再び強い光が宿る──

 (第27話へつづく)