ミルキーナイト~胡桃・21歳~☆第18章「焚き火と約束と」
牛乳事件の夜が明けて、鄙野の空には久しぶりに爽やかな青が広がっていた。
戦いのあとは、いつも町が少し静かになる。
そして今夜は、胡桃とカスミがふたりきりで出かけることになった。
「なんでわざわざ山の中で焚き火なんて……」
カスミは文句を言いながらも、胡桃の後ろについて山道を歩いていた。
「たまには、ちゃんと話したかったから」
胡桃は、振り返ってふわっと笑った。その表情は、どこか柔らかくなっていた。
やがて、ふたりは見晴らしのいい高台に着いた。
胡桃が持参した小さな焚き火台に火を灯すと、ぽっ、と赤い光が浮かび上がった。
「……綺麗だな」
カスミが呟いた。
「ねぇ、カスミ。私……ずっと、自分が壊れるのが怖かったんだ」
「壊れるって?」
「誰かに依存して、裏切られて、自分の芯がなくなって。戦士でいられなくなるのが、すごく怖くて……でも、あのとき、あなたに殴られてよかった」
カスミは目をそらした。
「……別に。あたしも、あのときはカッとなってただけ」
「ううん。あなたの言葉で、目が覚めた。私、ちゃんと自分の足で立たなきゃって思った」
焚き火の火がパチンと弾ける。
カスミは、うつむきながら火を見つめた。
「……あたしさ、昔ね……家族が魔物にやられたの。あたしだけ逃げた。小さかったから、何もできなかった。悔しくて、怖くて……ずっと、強くなりたかった」
胡桃は静かに目を見開いた。
「だから、あんたがふらふらしてるの見てると、腹立ったんだ。でも、本当はあたしの方がずっと怖がってたのかも」
「カスミ……」
「だから、これからは……一緒にいてくれ」
カスミは、不器用にそう言った。
「……うん。私も、カスミがいてくれると、心強い」
ふたりは、焚き火の火に手をかざした。 冷たい夜風の中で、炎のぬくもりが、静かに心を溶かしていった。
「……ねぇ、胡桃。これ、あげる」
カスミがポケットから取り出したのは、小さな風鈴だった。
「水都神社でもらったやつ。音が好きでさ。あんたにも、ひとつぐらい、守るものがあった方がいいと思って」
「……ありがとう。大切にする」
鈴の音が、風に揺れて高く鳴った。
それはふたりの、戦士としてではなく、人としての約束の音だった。
(第19章へつづく)









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