DUGA

ミルキーナイト~胡桃・21歳~☆第19章「ナメクジロー将軍、粘着の美学」

 「ちょっとタンポポタイ。あのミルキーちゃん、最近ちょっと頑張ってない?」

 魔界の玉座にて、プリンセス・コマリシャスは長い足をぷらぷらと揺らしながら呟いた。

 「ええ、確かに。以前はパンチ一発で沈んだのに、いまはプリティ・ストームなんかとコンビ組んで、そこそこ粘ってますねえ」

 「ムカつくのよねぇ。あのへそ出し白コス、昔は泣かせるの簡単だったのに……」

 そこに、粘液のしたたる音とともに、ひときわねっとりとした足音が響いた。

 「──それは、私が確認せねばなりませんな」

 現れたのは、粘液に光る銀の軍服、異様にツヤツヤした皮膚。背に触手を蠢かせながら直立する紳士風のナメクジ型魔物。

 「ナメクジロー将軍、参上」

 「……なによ、その粘っこい登場」

 「お初にお目にかかりますプリンセス・コマリシャス。粘液陸軍第五戦術師団より参りました。私に、ぜひヒメチャン……いえ、ミルキーナイトの討伐をお任せください」

 「理由は?」

 「拝見しました、あの見事なへそ出しルック。あれはまさに、魔界芸術保護対象レベルの造形美。放置するなど粘液に対する冒涜です」

 タンポポタイが肩をすくめる。

 「相変わらず気持ち悪いですねぇ……。でも、強さは本物」

 「ふふふ……任せたわ、ナメクジロー」

 「はっ、へその尊厳にかけて──必ずや連れ帰り、ぬるぬるに包み込みます」

 * * *

 その日、鄙野市街地。

 「くっ……な、なんなのこの粘液!? 足が……!」

 ミルキーナイトは建物の屋上で、奇妙な音を聞いた次の瞬間、足元からぬるぬるの粘液に捕らわれていた。

 「ミルキーナイト、私は君の“成長”を誰よりも観察してきたのだよ」

 「はっ!? な、なにこの変態!!」

 「私は粘液の軍人、ナメクジロー将軍。君の動き、肌の色、へその露出角度──すべて記録済みだ!」

 「うわっ……きもっ!!」

 彼女の蹴りが炸裂するが、ナメクジローはヌルッと回避。

 「無駄です。私は滑ります。あらゆる物理攻撃を、粘液でいなす!」

 ミルキーナイトはさらに飛び込み、連撃を繰り出すが、すべてがぬるり、ぬるりとかわされる。

 「くっ……気持ち悪いくせに、強すぎる……!」

 ナメクジローの舌状触手が彼女の足元をすくい、バランスを崩させる。

 「へそに傷をつけるわけにはいかない……優しく抱き締めよう!」

 「ぎゃああああ!!」

 ミルキーナイトは叫びながら、辛うじて逃れるが、その瞬間背中に粘液弾が命中。

 「きゃっ!」

 変身がぐらりと揺らぐ。

 「な、なんで……全然動きが読めない……!」

 屋上の影から飛び出したのは、プリティ・ストーム。

 「胡桃、下がれ! あたしがやる!」

 「カスミ……!」

 だがプリティ・ストームの風も、粘膜で散らされてしまう。

 「ふふふ……この日を待っていた。へそ出し戦士が二人並ぶなんて、なんという僥倖……!」

 「やっぱこいつ、最悪な意味でヤベェ!!」

 ヒロインふたりは、互いに背中を預ける。

 「逃げる?」

 「……今だけね」

 かくして、ナメクジロー将軍との初戦は撤退となった。

 ぬるぬると光る高笑いが、夜の鄙野にこだました。

 「ふっふっふ……次に会うときは、君たちのへそに、私の粘液の印を刻む!」

第20章へつづく)