DUGA

ミルキーナイト~胡桃・21歳~☆第25章「味覚神グルマン様 降臨!」

 ──それは、空から降ってきた。

 金色の光を放ちながら、町の空にそびえ立つ巨大建造物。

 その形は、どこか見覚えのある……いや、忘れたくても忘れられない──フン。

 『味覚神殿・グルメヘヴン』

 地面が震え、光の柱が天を貫いた。

 町中の人々が、まるで神を崇めるように膝をつき、頭を垂れる。

 「これぞ、究極のグルメ信仰国家の完成形……!」

 天の玉座に降臨したのは、銀のフォークと黄金の泡立て器を腕に備えた巨大なシルエット。

 「本日より、私は“味覚神グルマン様”となられた!」

 あのフンコロガシ・シェフが、とうとうボス形態に進化したのだった。

 「町の味覚はすべて、我が舌の裁きを受けねばならん!!」

 その声が響いた瞬間、町全体に味覚フィールドが展開。

 給食は白湯に、家のご飯は石のように、レストランの料理も“無味”へと変貌した。

 「ごはんの味がしない……!」

 「水も、ただの液体にしか感じない……!」

 町民は次々と“美味しい味”を求めて、神殿へ詣で始めた。

 * * *

 「くっそ……あいつ、本気だ」

 カスミは苦い顔をしながら、神殿の入り口を見上げた。

 「町全体を味覚で支配するなんて……ふざけるにも程があるっ!」

 その隣で、胡桃は静かに鍋を抱えていた。

 「……カスミ。私、決めたよ。あいつに勝つのは、戦いじゃない。“私の味”だ」

 「味って、お前──」

 「“誰かのために作る味”。それだけは、あいつには真似できない」

 胡桃は大学生らしい落ち着いた私服姿で、スープを仕込みながら呟いた。

 「いこう。味覚の神様に、“本当のごはん”ってやつを教えてやる」

 * * *

 神殿内部──

 審判の間には、浮遊する巨大なフン製の審査テーブル。

 ミルキーナイトとプリティ・ストームはそこに料理を並べた。

 「これは……?」

 「山菜と牛乳のスープ、炊き立ての白米、それと、手作りの卵焼き」

 「質素だな。神の舌を満足させるとは到底──」

 しかし、ひとくち含んだ瞬間。

 グルマン様の巨大な瞳が揺れた。

 「な……なんだ、この温かさは……!」

 「それは、ヒロインの味だよ!」

 プリティ・ストームが突風を巻き起こす。

 プリティ・ストームの香りでスープの湯気が広がる。

 「この香り……この気配……胃袋が……胃袋が感動しているぅぅぅ!」

 「さあ、あんたに問うよ。味ってなんなのさ!!」

 「……う、うぅ……っ、味とは、ただの快楽では……っ」

 「違う!!」

 胡桃の叫びとともに、最後の一撃。  スープの鍋が、神殿の中心に打ち込まれた。

 ──ドォン!!

 白い湯気が神殿全体に満ち、町を覆っていた“味覚フィールド”が徐々に消えていく。

 「わ、私は……敗れたのか……この味に……」

 グルマン様の体が、静かに崩れていった。

 * * *

 町には、ほんのりとした出汁の香りが戻っていた。

 「……胡桃」

 「うん、ありがとう。あなたがいなかったら、私はきっとここに立てなかった」

 ふたりの手が、自然に重なった。

 「じゃ、帰ってまた練習するか。“次”の魔物のためにも」

 「うん。……今日は、うちでご飯、食べてって」

第26章へつづく)