DUGA

ミラクルナイト☆第91話

水都神社の石段に立つ寧々は、薄明かりの中、凜の姿を探していた。神社の隅からは清々しい空気が流れてきて、朝の静けさが心地よかった。

「寧々、学校はどうした?」

質問する声は、厳格な守護者、大谷のものだった。

「凜さんは大丈夫ですか?」

寧々の声には、少しの不安が潜んでいた。

大谷の表情からは何も読み取れなかったが、彼はゆっくりと話し始めた。

「凜は昨夜、酔っ払って帰ってきた。今は神殿で御供えをしている。」

寧々はその言葉に安堵した。凜はもうすぐ掃除で外に出るようだが、それを待っていたら学校に遅刻してしまう。無事ならそれでいいやと寧々は思い、学校に行こうとしたところ、大谷の真剣な声が再び響いた。

「寧々、凜は傷ついている。君には彼女を守ってほしい。」

寧々は驚きの表情を浮かべた。大谷はいつも厳格で、まるで無情なように見えることもあったが、今の彼の言葉は、凜への深い愛情と心配が伝わってきた。

「大谷さん、凜さんには優しいんですね」

と、寧々は真摯に大谷を見つめた。彼女は大谷から厳しく鍛えられたが、守られる存在として扱われたことはなかった。

大谷は寧々の顔をじっくりと観察し、

「凜は寧々ほど強くない。君には守られる存在として扱ってほしい」

と答えた。

寧々の心の中は複雑だった。彼女は大谷から常に厳しい指導を受けてきたが、今、凜を守るという新たな使命が与えられていた。少しの間を置き、寧々は力強く宣言した。

「私は凜さんが好きです。大谷さんに言われなくても、凜さんを傷つける者は私が倒します。」

その言葉を残し、寧々は小学校へと足早に向かって行った。大谷は寧々の背中を見送りながら、心の中で彼女に幸せを祈った。


清流大学の広々としたキャンパスには、9月の陽射しとともに、初秋の微かな風が吹いていた。学生たちは夏休みの名残を感じつつ、新たな学期の準備に追われていた。しかし、凜にはそれらの風景は目に入らなかった。

巫女のバイトが終わった後の静けさに、凜は心を落ち着けるため、この場所を選んだのだ。敵との接触、それも自らを取り巻く大きな戦いを予感させる。その戦いに寧々と奈理子を巻き込ませたくなかった。1人で片付けるには1人でいる方がいい。その接触を避ける場所として、彼女はこの大学を選んでいた。

しかし、凜の感じた圧迫感は、彼女が想像していた以上に重く、彼女の周りの学生たちのざわめきも、その重圧によって消え去ってしまったかのようだった。

木陰のベンチに座って、セイクリッドウインドとナメコ姫、2つの姿の選択について考えていた。防御力なら全身ヌルヌルにできるナメコ姫が上だが、攻撃力はセイクリッドウインドだ。セイクリッドウインドでもナメコ姫の能力であるヌルヌルを放つ事はできる。セイクリッドウインドで行こうと決めた凜の耳に、重い足音が入ってきた。彼女の直感が、それがただの学生たちの足音でないことを教えていた。

凜の両隣に突如として現れた、スキンヘッドの氷川と髭の大男、赤岩。勅使河原の手下の中の最強コンビだった。その目には、彼女を仕留めるという冷たい意志が宿っていた。

「アンタたちが来たってことは、勅使河原も私のことを少しは認めたのかな?」

と、凜は静かに語りかける。

「さあね、俺たちはお姫様の処分を任されただけだ」

と、赤岩の深い声が響いた。

そして、氷川の冷たい視線が凜の体を貫く。

「来てもらおか、ナメコ姫」

と、言葉とともに、その意味するところが、彼女の胸に突き刺さった。

挟まれる形となった凜は、立ち上がると、二人の男に向けて、その目には決意が宿っていた。次の一手をどう出すか、彼女の選択は、今、この瞬間にかかっていた。


キャンパスの光景は、一変した。ベンチから立ち上がった凜の動きは、妙に滑らかだった。彼女の瞳は冷静に、そして少し楽しげに二人の男を見据えていた。

赤岩の手が、凜の腕を掴む。その動きとは裏腹に、凜の声はあざやかに響いた。

「アンタたちバカ?ザリガニ男とカラクサ男の姿で来ればいいものの、人の姿で来ちゃって」

二人の男、氷川と赤岩は瞬時に彼女の意図を読み解けずに、困惑する。

「みなさ~ん!怖い人たちに絡まれています。助けてくださ〜い!!」

その隙を突いて、凜は清流大学の空に向かって、助けを求める声を上げた。その声は、金属的な美しさでありながらも、儚さも併せ持っていた。

「アンタたち目立つから、直ぐに警察に捕まっちゃうかもよ」

と凜。氷川と赤岩は怒って凜の腕を掴みこの場を早く立ち去ろうとする。

キャンパスは一瞬の静寂の後、ざわつき始めた。

「助けて〜」

と叫ぶ凜。学生たちが集まってきて、氷川と赤岩は圧倒される。しかし、その学生たちの勇気は、二人の力の前に、あっという間に散り散りになった。

しかし、凜の笑顔は消えなかった。

「こんな大騒ぎしてタダで済むと思ってんの?」

その挑発的な声に、氷川は怒りを露わにし、平手で彼女の頬を打つ。

その瞬間、場の雰囲気が再び変わった。影の中から、巨大な影が浮かび上がった。一歩、また一歩と進み出てきたその男は、凜の声に名前を呼ばれるまで、氷川も赤岩も彼の正体を知ることはできなかった。

「不知火君!」

凜の声が明るく響いた。清流大学の伝説、不知火。彼は学生横綱としての頂点を極めながらも、一つのスキャンダルでその名誉を失った過去を持つ男だった。

彼の姿が、氷川と赤岩を圧倒していた。今、キャンパスの中心に立つ三人の、その先に何が待っているのか。空気は、どこまでも緊張感に満ちていた。


「怪我したくなかっら退け、デブ」

と威嚇する赤岩。

「俺の学校で変な騒ぎ起こされちゃ見過す訳には行かなくてね」

と不敵に答える不知火。学生たちが集まり始める。氷川は、

「このまま騒ぎが大きくなるとまずい。文句があるなら付いて来い」

と不知火に言った。

「不知火君は関係ないでしょ。大人しく着いて行くから不知火君には手を出さないで」

と不知火を庇おうとするが、不知火は

「売られた喧嘩は買うぜ」

とこの状況を楽しんでいるように見えた。凜は自分の浅はかな行為で一般学生を巻き込んでしまったことを後悔していた。

氷川と赤岩に廃工場に連れて来られた凜と不知火。暗く沈黙した廃工場の中、足元の鉄片が凜と不知火の足音でガリガリと音を立てていた。高い天井からは細かな埃が舞い落ちる。赤岩の声が、その沈黙を切り裂いた。

「このデブどうすんだ?」

氷川の返答は冷たく響く。

「ナメコ姫と一緒に処分する」

不知火の大きな瞳が驚きで見開かれる。

「奈理子をコソコソ狙っていた姑息なナメコ姫はこんなに綺麗なお姉さんだったのか!」

不知火は、ナメコ姫の正体が目の前の凜でありことが信じられない。

赤岩は目を細め、

「調子狂う奴だな」

と呟いた。凜が

「不知火君に手出しはしないで!」

と叫ぶ。すると、凜の身体から緑色に輝く光が放たれる。その光が強くなり、彼女の姿が変わった。セイクリッドウインドがそこに立っていた。

「ナメコ姫がセイクリッドウインド?」

不知火の更なる驚き、その場にいるすべての調子を狂わす。

そんな中、氷川と赤岩も変わり始める。彼らの体はゆがみ、カラクサ男とザリガニ男へと変身していった。

「可愛そうだが、俺たちの正体を知ってしまったら生かしてはおけないな」

とカラクサ男が不知火に囁いた。

セイクリッドウインドの叫びが響く。

「不知火君、逃げて!」

だが、不知火は一歩も動かなかった。彼の顔には、不敵な笑みが浮かび上がっていた。

「売られた喧嘩は買うと言ったろ。助けてやるよナメコ姫」

重厚な空気が場を支配する。戦いの火蓋は、もう切って落とされた。


廃工場の響き渡る音と重厚な空気の中、不知火の声が鳴り響いた。

「勅使河原の手下には雑魚しかいないと聞いていたが、それがお前たちか?」

カラクサ男の眼差しを捉えたまま、不知火の体が徐々に変わり始める。

「我こそは柑橘の王、いや、横綱…」

「何だ?みかん男か?」

とザリガニ男が不敵に笑った。

「違う…デコポン男だ…」

カラクサ男が驚愕の色を見せる。

セイクリッドウインドも呆然とする。勅使河原から、クモ男、カブトムシ男、デコポン男の3人とは戦いを避けるように言われているのだ。

「不知火君がデコポン男?」

デコポン男は勇猛果敢に挑発した。

「オラ、雑魚ども、掛かって来い!」

ザリガニ男の巨大鋏が瞬時にデコポン男に向かって飛ぶ。

「ここまでコケにされて黙ってられるか!」

と巨大鋏を振るうザリガニ男。しかし、彼の位置は既に空だった。

「デブのクセにすばしっこい奴だな」

とザリガニ男が吐き捨てる。デコポン男は余裕の表情で返す。

「雑魚の割には良い動きだが、まだまだだな」

ザリガニ男の

「今のはまだ本気出しちゃいないぜ」

の言葉に、

「俺が本気出してりゃ、今のでお前は死んでたぞ」

とデコポン男が更に返す。

二人の間には予期せぬ緊張が張り詰める。勅使河原の配下として名高いザリガニ男に、一歩も引かないデコポン男を、セイクリッドウインドは驚きの目で見ていた。

カラクサ男は、一度も交戦せずにデコポン男の強さを察知。

「もういい。ザリガニ男、今日は引くぞ」

と言い、ザリガニ男もその言葉には従ったが、不服そうにデコポン男を睨みつけた。

「勝負はお預けだ。次に会ったときに決着を付けてやる」

デコポン男の返答は、嘲笑を含んでいた。

「漫画で見るような見事な逃げ台詞だ」

カラクサ男は最後にセイクリッドウインドを見つめ、

「ナメコ姫、命拾いしたな」

と告げると、ザリガニ男と共にその場を去った。


廃工場の冷たい空気が、ふたりの間に柔らかな暖かさを運び始める。セイクリッドウインドの魔法のような力が、風間凜の普通の学生の姿に戻った。同じくデコポン男の力も解け、不知火の日常の顔が現れた。

「不知火君、すご〜い!」

凜の目はキラキラと輝き、彼の方へと飛び込んだ。その胸板は、見た目通りの柔らかさを持っていた。彼女は思わず不知火に頬ずりしてしまった。

不知火は驚きの表情で言った。

「ナメコ姫はうちの学生なのか?」

「文学部4回生、風間凜です!」

彼女の明るい笑顔は変わらない。

「うげっ、先輩だったのか」

と驚く不知火。彼の驚きの理由は、彼自身が体育学部3回生だったからだ。

「勅使河原を裏切ってセイクリッドウインドになったから奴らに狙われているんですか?」

と口調を変えて先輩の凜に問うた。不知火は彼女を見つめて、少し考えた後に答えた。

「そうです!可愛い凜ちゃんが正義の味方になってしまったので、アイツらが嫉妬しているのです!」

この危機的状況を乗り越え、凜の笑顔はますます輝きを増していた。彼女のその天真爛漫な笑顔に、不知火はつい見惚れてしまった。

「お礼に昼ご飯奢るよ」

と、凜は不知火の腕を引っ張った。不知火は彼女の勢いに流されつつも、紳士として受け入れた。

しかし、彼が驚いたのは、彼女が彼を連れて行った場所だった。学食。

「昼ご飯ってここか…」

不知火が言った。

凜はキラキラした瞳で微笑んで言った。

「私、色々あって、お金あまり持ってないの」

その純真無垢な笑顔に、不知火は、

「変な人だけど、うちの大学にこんなに可愛い先輩がいたとは…」

と、ただただ見惚れてしまった。


廃工場の出口にて、氷川と赤岩が立っていた。赤岩は氷川の瞳を真っ直ぐに捉え、

「これからどうする?」

と問いかけた。氷川は片目を細めながら、

「奈理子と少し遊んで行くか」

とニヤリと微笑んだ。その微笑には何か計画があることを赤岩も知っているようで、同じような笑みを浮かべた。

一方、水都中学の校庭は異常な雰囲気に包まれていた。校庭の真ん中に堂々と立っているカラクサ男とザリガニ男。ザリガニ男の怒りに満ちた声が

「ミラクルナイト、遊んでやるから出て来い!」

と、学校中に響き渡った。この言葉に、教室内は一気に騒然とした。

奈理子は、教室の一番後ろの席に座っていた。彼女の過去、特にミラクルナイトとしての過去には、多くの傷があった。そしてその中でも、つらい出来事の一つがカラクサ男とザリガニ男との戦いだった。彼女の目には強さと、一抹の不安が交差していた。みんなの視線が彼女に集まる中、奈理子は勇敢にも立ち上がった。

「先生、行ってきます」

と彼女は数学の先生に宣言し、教室を飛び出した。みんなが彼女の背中を見送る中、彼女は手にしたアイマスクを顔に当て、変身の儀式を始めた。瞬く間に水色の光が彼女を包み、ミラクルナイトとして生まれ変わった。

彼女の胸には、過去の屈辱と痛みが鮮明に焼き付いていた。あの2人を相手に勝てる自信はミラクルナイトには無かった。しかし、彼女はその記憶を乗り越え、街の平和と未来のために戦い続けることを誓っていた。ミラクルウイングを展開し、学校の窓から大空へと飛び立ったミラクルナイト。彼女の背中には、多くの希望と期待が託されていた。


空高く舞い上がるミラクルナイト。彼女の勇ましくも美しい姿に、教師も生徒も校舎の窓から見入り、歓声を上げた。

「望み通り、出てきてやったわ!学校を襲うのはやめなさい!」

と、彼女の高らかな声が響く。

しかし、その歓声の中でカラクサ男が無数の蔓を放ってきた。空中での戦いは一筋縄ではいかない。ミラクルナイトは幾つかの蔓を華麗に避けるものの、すべてを躱し切れず、彼女の手足が束ねられてしまった。束縛された彼女を、カラクサ男は地へ叩きつける。

「うぁ…」

一瞬のうちに彼女の優美な姿は地に倒れ、息を切らせる。

続いて、ザリガニ男が躍進。ミラクルナイトは最後の力を振り絞り、水色の光弾を放つも、ザリガニ男の甲殻は強固で、その光弾を跳ね返す。そしてザリガニ男の

「うぉりゃー!」

の叫びとともに巨大な鋏が、ミラクルナイトのコスチュームを裂いてしまった。

「きゃぁ~!」

とミラクルナイトの悲鳴。

純白の下着が露わになったミラクルナイトは、恐怖と羞恥で震え、アイマスク越しの彼女の瞳には涙が滲む。そのとき、更に地から這い出てくる蔓が彼女を拘束。

「いやぁ~!」

蔓は器用に純白のブラショーツまでも剥ぎ取ってしまった。彼女の声には絶望がこもり、周りの生徒たちも見ることができないほどのショックを受けていた。

校舎の中からは、彼女を心配する声や、悪者たちへの怒りの声が響いていた。


5分後…。

「いやぁ~!やめてぇ〜!」

グラウンドの風は凪いでいたが、その静寂を打ち破るミラクルナイトの叫び声が耳を刺した。下着までも剥ぎ取られた彼女の姿は、グラウンドのバックネットに大の字に磔となり、無慈悲に晒されていた。カラクサ男とザリガニ男の仕業だった。

「奈理子とは遊んだし、帰るとするか」

とザリガニ男が舌なめずりしながら言った。カラクサ男も頷きながら、

「奈理子、その姿をみんなにたっぷりと見てもらうんだぞ」

と、冷徹な目をミラクルナイトに向けて言った。

やがて、その二人の怪物は何処かへ消えていった。すぐさま、グラウンドは教師や生徒たちで賑わった。彼らは心配する目をミラクルナイトに向けていた。しかし、同時に、彼女の惨めな姿に目を伏せる者も多かった。

「いゃ、見ないでぇ〜!」

と彼女はうめき、涙と共に、別の液体も彼女の大切な個所から流れ落ちていった。奈理子は、大切な個所に注がれる無慈悲な熱い視線に耐えられなかったのだ。

奈理子の純白の下着が蔦によって低い位置に干されているのを見つけた男子生徒たちは、興奮の色を浮かべてそれを手に取った。しかしそれを見た綾香が駆け寄り、彼らから下着を取り上げて、彼女をからかう生徒たちを怒鳴りつけた。

しかし、高所に磔にされたミラクルナイトを下ろすことは、教師や生徒たちには不可能だった。無念の顔をした彼らをよそに、時はじわじわと流れていった。

30分後、忍耐の限界を迎えたミラクルナイトのところへ、救命隊が到着。彼らは迅速に行動し、彼女を救出した。彼女を抱える救命隊員の瞳には、ミラクルナイトへの深い同情と、怪物たちへの激しい怒りが焼き付けられていた。

第92話へつづく)