DUGA

ミラクルナイト☆第78話

水都大学近くの時折風が吹き抜ける廃工場。ここは水都大学プロレス同好会の練習場となっていた。昼の日差しを受けながら、ブルマに身を包んだ奈理子の姿があった。股を開いたスクワットや足パカを繰り返し、そのたびに彼女の汗が地面に滴り落ちる。内腿の筋肉は、彼女の決意とともに、日々鍛えられていった。

その後、学生レスラーたちとのスパーリングが始まる。彼らは体格差を利して、奈理子に挑む。奈理子の華奢な身体が彼らの前ではほんの小さなものに見える。だが、奈理子の目は揺るぐことがない。彼女は持っている全てを繰り出す。

何度もマットと奈理子の身体が激しくぶつかり合い、何度も彼女の意識が遠くなる。しかし、その都度、鉄山が容赦なく彼女の頬を打ち叩き起こす。その頬を打つ音は、彼女の新たな意志の証となる。

特訓を通して、市民の前でのあの屈辱的な瞬間、クワガタ男によるあの恥ずかしい光景を、少しずつ彼女の心は忘れ始めていた。それを補って余りあるのは、奈理子の特訓を見守る成好ら水都大学奈理子私設ファンクラブの熱烈な声援だ。彼らの期待と希望の声が、彼女の背中を押し続ける。

水都大学のプロレス同好会の仲間たちと、彼女を熱心に支えるファンクラブのメンバーたち。その全ての期待を一身に受け止め、奈理子は自らの限界を超えようと挑戦を続ける。

そして、彼女の胸には、鉄山の言葉と、クワガタ男に対する熱い執念が燃えていた。


商店街にぽつりと佇む、グフグフハンバーガーの店内。夕暮れの光がゆったりと店内に差し込み、カジュアルな会話の背景になる。二つの席に、年の差を感じさせる二人の少女、小学生の寧々と大学生の凜が向き合っていた。

「大谷にこっ酷く叱られたよ」

と、フレンチフライを一本咥える凜の声が浮かぶ。彼女の視線は、あの戦い、カタツムリ男の存在に引き寄せられていた。カタツムリ男に気を取られていた間に、ウニ男の一撃を受けてしまったのだ。

寧々は無邪気な目で凜を見つめながら言った。

「私がウニ男を押さえていればよかったんですけど…」

と、彼女自身の失敗を悔やむように続ける。

凜は寧々の言葉に軽く頷いて、

「結果的には敵を撃退したんだから良かったと思うよ」

と明るく返す。

「カタツムリ男と何かあったんですか?」

寧々が興味津々に尋ねると、凜は一瞬だけ表情を硬くした。

「嫌な奴なのよ、アイツは。もっと嫌な奴はクラゲ男だけど」

と、彼女の声にはわずかな影が宿る。

寧々は、何か過去に隠された秘密を感じ取ったが、凜の言葉から詮索は避けることを選び、話題を変える。

「奈理子さん、どんな特訓してるんですかね?」

と、軽いトーンで質問する。

凜はクスリと笑って、奈理子の得意技、ハイキックを振り返りつつ、

「ミラクルナイトは私たちと違って武器を持ってないから、パンチラキックの他にプロレス技を身に付けるのはいいかもね」

とコメントする。

二人は奈理子のことを思いながら笑顔を交わす。彼女の戦闘スタイルやキャラクターには時折弱さもあるが、それが何故か心地よく感じさせることもある。

凜の言葉に、寧々が真剣な顔で応じる。

「奈理子さん、もの凄く強くなって帰ってくるかもしれませんね」

凜は考え込んだ後、

「悲しいくらいの打たれ弱さと実力を伴わない責任感が取柄の奈理子が強くなるって想像つかないね」

と、半分冗談のように言った。

夕日が店内に橙色の光を落とし始める中、二人は奈理子の帰りを静かに待っていた。


商店街の小さなハンバーガーショップ、グフグフハンバーガーで、寧々と凜は対面して夏の午後を楽しんでいた。ちょっとした休憩が、少しシリアスな話題へと変わる。

寧々は眉を寄せながら、

「ところで凜さん」

と改まって切り出した。

「名前が長いと、何かと負担が大きいみたいなんです。私たち、名前を省略しませんか?」

凜は、彼女の言葉に首を傾げる。

「何それ?」

と、素っ気なく返した。

寧々は少し困った顔をした。

「アルファベットは得意なんですけど、漢字とかカタカナとか、それにひらがながちょっと辛いみたいで、名前で字数を消費するのは勿体ないんですよ」

凜は一瞬言葉を失った。

「どこのバカよ、そいつは」

と半ば呆れたように言う。

「神様ですよ」

と、寧々はにっこりと笑った。

「じゃ、とりあえず、セイクリッドウインドは…セイウンとかどうでしょうか?」

凜はその提案に顔をしかめた。

「青雲って、あの線香の名前じゃない?」

と。

寧々は少し驚いた表情で、

「最近のテレビ、あまり見てないんですけど、まだそのCMやってるんですか?」

と尋ねる。凜は肩をすくめて、

「私もよくテレビは見ないな。つまらないバラエティ番組ばっかりだし」

と語った。

寧々は考え直して、

「セイウンがダメなら、セイクリッドウインドはセイグリにしましょうか」

凜はニヤリとした。

「それなら、ドリームキャンディはドリキャンになるわね」

寧々は続けて、

「それと、凜さんは技の名前もやたらと長いんです。それも短縮してください」

と迫った。

凜はふぅと大きなため息をついて考えた。

「技の名前は別として、今回はセイグリとドリキャンで行ってみようか」

そうして二人は、新しい名前を定め、夕暮れの店内で今後の戦略を練り直していた。


商店街の落ち着いた雰囲気が突如として乱れ始めた。遠くで人々の声が上がり、店先での喧騒が響いてくる。イチジク女とウニ男が、再び商店街に現れたのだ。

「またウニ男か…」

と、凜はため息をつきながら言った。寧々も追い討ちをかけるように、

「イチジク女もしつこいですね」

とぼやいた。

凜は窓際へと歩み寄り、外を覗く。

「アイツらの目当ての奈理子はいないのに…」

と不機嫌につぶやいた。

寧々はセイグリのプリーツスカートを思い浮かべ、ふざけて言った。

「凜さんは、奈理子さんの代わりにスカート脱がされるかもしれませんよ」

凜は顔を上げ、一瞬困ったような表情を見せたが、すぐに明るく返答した。

「セイグリはミラクルナイトと違って生パンじゃないから、脱がされても平気よ」

寧々は小さく笑った。

「奈理子さんのパンツが見れないのは残念ですね…」

凜も軽く笑い、

「そうね」

と短く返した。二人の表情には、同じ戦士としての奈理子への心配と、仲間としての愛情が浮かんでいた。

しかし、その安らぎも束の間。外からの騒ぎが一層大きくなり、商店街全体が動揺しているのが感じられるようになった。

寧々が凜の袖を引き、

「凜さん、早く隠れて変身しましょう!」

と急き立てた。凜も寧々の気迫に押されるように、立ち上がった。

二人は一瞬の迷いもなく、グフグフハンバーガーの店から飛び出し、待ち構える新たな戦いへと赴いた。


商店街の夏の暑さは、太陽の照りつける中に、熱気が立ち上るような重たさを持っていた。そんな中、イチジク女の皮肉めいた声が、金属的な響きを持って空間に響いた。

「夏休みだからこの辺りで暴れると直ぐに出てくると思ったんだけど…」

ウニ男はその隣で立ち、口を歪めて言う。

「前回もミラクルナイトは来なかった。クワガタ男に負けたショックから立ち直れないんじゃないのか?」

その言葉が終わった瞬間、黄色い閃光が空間を切り裂き、ドリキャンが降り立った。

「アンタたちなんか奈理子さんが出るまでもないわ!」

と彼女は堂々と宣言した。

ウニ男は目を細めてドリキャンを見た。

「チビっ子のドリキャンかよ」

と冷ややかな声で言い放つ。

その背後で、緑色の閃光と共にセイグリが姿を現す。

「私もいるわ!」

と彼女は力強く宣言した。セイグリを見つけるや否や、ウニ男の唇の端が上がり、一瞬の変貌を遂げる。

「ここは俺に任せて貰おう。前回はカタツムリ男に足を引っ張られたから、今日こそは俺の力を見せてやる」

とウニ男は自信満々に宣言し、イチジク女に向けた。

イチジク女は黙って一歩後ろに下がり、その場をウニ男に譲るような視線を送った。

周りの商店街の人々は、息を呑みながらこの一騎打ちを見守っていた。誰もがこの戦いの結果に注目していた。そして、この夏の商店街に、新たな伝説の戦いが始まろうとしていた。


商店街の中心、石畳の広場で、夏の日差しを背景にウニ男とセイグリが睨み合っていた。セイグリの手には扇子型の武器、ガストファングがきらりと光り、微風が乱舞する。

「勝負だ、セイグリ」

とウニ男が一歩踏み出しながら、いやらしい笑みとともに目を細める。彼の全身からは鋭いトゲが突き出ており、それが太陽の光を受けて鋭く輝いていた。

「望むところよ!」

セイグリの眼差しは堂々としており、ガストファングを持ち上げ、戦闘の姿勢を取る。その横でドリキャンが、

「私は…」

と言いかけるも、この緊張感の中での声は、なかなか届く場所がなかった。

イチジク女は遠くから見守っており、この戦いに介入する様子はなかった。

「行くぞ!」

ウニ男の声とともに、彼の体から鋭いトゲが飛び出してセイグリに向かってきた。セイグリはガストファングを振り下ろし、猛烈な風を起こしてそれを防ぐ。風とトゲが交差し、火花が散る。

セイグリはガストファングを振るいながら、ウニ男の隙を狙って攻撃する。しかし、ウニ男の動きは素早く、彼のトゲはセイグリのプリーツスカートに食い込んできた。一瞬のうちに、スカートが引き裂かれ、飛び散ってしまう。

ところが、セイグリのスカートの下には紺色のレオタードがしっかりと体を包んでおり、スカートがなくなったことで動きが軽快になった。

「へっちゃらよ」

とセイグリは自信に満ちた声で言い放つ。

ウニ男は驚きの色を浮かべるも、戦闘の構えを崩すことはなかった。両者の激しい戦いは、ますます熱を帯びていくのだった。


商店街の中心、夏の熱気に満ちた広場は、一瞬の静寂の後、セイグリの魅力的な生脚に目を奪われた男たちの歓声に溢れた。ストッキングの障壁を持たない、滑らかで健康的な彼女の脚は、まるでミラクルナイトとは異なる大人の女性の魅力を放っていた。

「セイグリ、頑張れ!」

「美しい脚だ!」

男たちの声援は、セイグリの胸に温かく響き、彼女の力を増幅させていた。手にしたガストファングが煌めくように光り、風の刃がウニ男の向かってくる棘を次々と叩き落とす。

「こんなもので…!」

とウニ男が吼える中、加勢しようとするイチジク女の動きがあった。だが、その加勢の一歩前に、キャンディチェーンを振り回すドリキャンの姿が現れる。

「イチジク女の相手は私よ!」

ドリキャンのキャンディチェーンが空気を切り裂く音とともにイチジク女に向かって飛んでいった。

その間隙を突いて、セイグリは最後の力を振り絞ってガストファングを振り下ろす。

「これで終わりよ!」

と叫ぶセイグリの声とともに、エアリアルダンスブレードの風の刃がウニ男の体に深く食い込んだ。

ウニ男は驚きの表情を浮かべながら後退し、セイグリの凄まじい力の前に立ち尽くすしかなかった。商店街の戦いは、新たな展開を迎えることとなった。


商店街の熱気が静まり返った瞬間、深手を負ったウニ男が倒れることなく、これ以上は無理と判断したイチジク女の手を振り払い、体を丸めてその場で旋回し始めた。彼の決死の表情が、再び戦いの火花を灯した。

「ウニ男、撤退するわよ!」

イチジク女の懸命な言葉にも関わらず、ウニ男は誇り高く反論した。

「このまま帰れるか!」

セイグリはウニ男の回転攻撃を予測できなかった。彼女が一瞬の隙を見せたその時、ウニ男は彼女に直撃する。セイグリはその衝撃で地面に打ち付けられ、息も絶え絶えとなった。

その後、ウニ男は足元が崩れるように膝をついた。彼の瞳には、執念と残念な思いが交差しているのが見て取れた。

「俺も…ミラクルナイトのスカートを脱がしたかった…」

その言葉を残して、彼は消えていった。

「セイグリ!」

と叫ぶドリキャンの声が商店街に響く。彼女は慌ててセイグリのもとへ駆け寄り、その姿を抱き寄せた。

背後から、イチジク女が悔しさを隠せない表情で去って行く姿が見えたが、その後の商店街は2人のヒロイン、セイグリとドリキャンへの感謝の拍手で埋め尽くされていた。


水都大学プロレス同好会の秘密の練習場である廃工場に足を踏み入れたカオリと香丸は、そこに気を失った奈理子と鉄山の姿を目にした。夕日の柔らかな光の中で、リング上で奈理子の細い体を鉄山がお姫様抱っこをしているのが見えた。

「何してんの?」

カオリが疑問の眼差しで鉄山に問い掛けた。

「奈理子を抱っこしてる」

鉄山は何気なく答える。

「そんなこと見たら分かるわよ」

とカオリは呆れたような顔をし、香丸は一歩前に出て、

「ブルマ姿の奈理子も魅力的ですね。私にも抱っこさせてください」

と、奈理子をやんわりと受け取った。彼の爽やかな表情とやさしい腕に包まれる奈理子の姿は、見ている者の心を和ませるものだった。

しかし、その安らぎは一瞬で、

「ッん…」

と奈理子が目を覚ます。目が覚めた奈理子が香丸の顔を見ると、その瞳に驚きと不安が浮かんだ。メロン男との出来事が頭の中でフラッシュバックする。

「あッ、ゃあ!」

と奈理子は驚き香丸から逃れようとする。

香丸はそんな奈理子の様子を楽しみながら

「安心していいよ。今日は奈理子をメロメロにはしないから」

と柔らかく言葉をかけた。

カオリが、

「怖がってるから降ろしてあげなさいよ」

と香丸に忠告すると、彼は奈理子をやさしく地面に降ろした。そして、

「で、特訓はどうなの?」

カオリが鉄山に特訓の様子を尋ねると、

「腹筋と背筋は少し物足りないが、可憐で華奢な美少女っぷりが魅力の奈理子はこれくらいの細さでいいだろう」

と彼は答えた。

鉄山の答えに、奈理子はちょっと照れ臭そうにしながらも

「鉄山さん、ありがとうございました」

感謝の言葉を述べた。すると、香丸が

「そういえば、私たち3人とも奈理子の唇を奪ったことありますね」

と言い出し、3人の間で少し軽妙な掛け合いが始まった。奈理子は、ライムの他にバラ女、カブトムシ男、メロン男とキスを経験している。

「俺は奪ったんじゃなくて奪われたんだ」

「私のときも奈理子の方から求めてきたから、奪ったのはカオリさんだけですね」

「香丸は奈理子にメロメロビームしたからでしょ」

奈理子は、敵だか味方だかよく分からない3人の会話を聞きながら、何とも言えない気持ちでその場の雰囲気を楽しんでいた。


勅使河原の豪奢な執務室の扉が開き、報告に来た一之木多実が緊張した面持ちで足を踏み入れた。空気は重く、静寂が部屋を包んでいた。勅使河原の傍に控える渦巻は怪我をした体を包帯で巻きつけていたが、その表情は静かで落ち着いていた。

多実は深々と頭を下げ、声も少し震えながら

「私の不注意で…申し訳ございません」

と謝罪した。彼女の正体がイチジク女であることを知る者は少ない。勅使河原は慎重に多実の言葉を受け止め、優しさを込めて言った。前には自分の不注意でフジツボ男に重傷を負わせ、今回は決死の攻撃をしようとするウニ男を止めることができなかった。多実は罰を受ける覚悟だった。

「ウニ男はその程度の男だったんだ。気にするな、一之木君。」

勅使河原のその言葉の裏には、多実への興味が隠されていた。見た目は凜より劣るが、多実の強い気質と仕事のできる実力に彼は目をつけていたのだ。多実は戦わせるよりも手元に置いておきたいと勅使河原は思っていた。

勅使河原はその気持ちを隠さずに多実に提案した。

「一之木君、私の私設秘書にならないか?給与は今の倍は払おう。」

多実の頭の中は一瞬で混乱した。多実は信用金庫に勤めている。地元の信用金庫に就職が決まったとき、両親が凄く喜んでくれた。多実は信用金庫を辞めるつもりはない。信用金庫での仕事、それに紐づく家族の期待、そして勅使河原の提案。彼女は返答に困り、言葉が出てこなかった。

勅使河原はその無言を察して、

「考えてくれればいい。給与とは別にマンションも用意する。」

と言ったが、彼の眼差しは多実を縛りつけていた。凜を追い出したマンションが空いているのだ。

執務室を後にした多実の背中は少し重かった。勅使河原の提案は、ただの仕事の話だけではないことを、彼女は痛いほど理解していた。

第79話へつづく)