DUGA

ミラクルナイト☆第96話

タコ男のアジト、その陰鬱な空間で教授とライムが重厚なテーブルを挟んで座っている。不穏な空気が部屋を支配し、白いパンツのブラックナイトたちがその緊張を肌で感じながら動きを封じていた。ピンクパンツのブラックナイトがお茶を差し出すという日常的な行為も、この場では何かの前兆のように映った。

「本庄のことじゃな」

と教授が口を開く前に、ライムは本題に入ろうとしていた。バッタ男、つまり本庄健の存在は奈理子にとって避けられない脅威であることをライムは痛感していた。

「バッタ男は強すぎる。本気でミラクルナイトと戦えば奈理子を殺しかねない…」

ライムの言葉に、教授は一瞬の沈黙をもって返した。冷酷なバッタ男が、すでに殺人を犯しているという事実は、誰にとっても重い。

教授は淡々と続ける。

「本庄は、糸井や鉄山と違って真面目な男じゃからな」。

しかし、その真面目さが彼を破滅へと駆り立てているのだとライムは知っていた。水都の街が恐怖に揺れる中で、彼らは次の一手を考えねばならなかった。

「バッタ男と相性が良いのはクモ男だ。糸井に本庄を止めるように指示を出して欲しい」

とライムは頼むが、教授の笑みは一層深くなる。

「糸井から聞いたぞ」。

ライムが糸井に頼み込んだことを教授は知っていたのだ。そして、糸井の答えも知っていた。

「お前よりも、糸井の方がミラクルナイトを高く買っているようだな。奈理子を信用出来ないのか?」。

教授のこの言葉に、ライムの心は一層の絶望を味わった。教授も、糸井も、奈理子の本当の弱さを理解していない。彼女は正義感が強いだけで、心は脆い。

「もうミラクルナイトは充分強くなった。ドリームキャンディとセイクリッドウインドという味方もできた。何とかなるじゃろ」

と教授が軽々しく言うと、ライムは無言で席を立った。アジトを後にする彼の心には、昼休みに感じた奈理子の体の温もりが残っていた。それが彼にとっての唯一の慰めであり、同時に奈理子を守るという決意を新たにする理由だった。


夕暮れ時の水都市。その街角には、高齢者を狙った連続殺人事件という暗い影が落ちていた。犯人は凶悪で無慈悲なバッタ男。警察の力では及ばず、恐怖が市民の間に蔓延していた。だが、一筋の希望があった。それは奈理子――水都の守護神ミラクルナイトだ。

放課後の街を、彼女はパトロールしていた。半袖セーラー服の姿は、その小さな肩に水都の平和を背負い、逡巡することなくバッタ男との対決を決意していた。路上で出会う市民は、彼女に励ましの言葉を掛ける。敗北を重ね、辱めを受けながらも、彼女の力を信じて疑わない。奈理子はその期待に応えるため、闘うしかないのだ。

10月の夕刻は肌寒く、合服に着替える時期を感じさせた。彼女が腕をさすりながら歩いていたとき、不意に悲鳴が夜の帳を突き裂いた。奈理子は即座に駆け出す。路上の人々が案内する声が、

「あっちだ!」

と彼女の耳に響いた。

「奈理子ちゃん、気を付けてね!」

という心配の声も背中を押す。

市民の声援を背に、奈理子は宣言する。

「私は水都の守護神ミラクルナイト。水都の平和は私が守る!」

決意を胸に、彼女は冷たい空気を切り裂きながら、事件の現場へと急いだ。その姿は、まさに平和を守るヒロインのそれだった。


狭い住宅街を駆ける奈理子の前に、バッタ男の飛躍する姿が屋根伝いに浮かび上がった。

「私、まだ変身していない!」

という事実に急いで気づき、奈理子は慌ててアイマスクを取り出した。逃げられてしまわないように急ぐ中、手際よくアイマスクを顔に装着する。彼女の周囲には水色の光が満ち、変身が始まった。

瞬く間に、普段のセーラー服は消え去り、純白のブラと水色のショーツが奈理子の戦闘服への移行を示した。校舎の屋上でライムと過ごした昼休みの甘くも刺激的な記憶とともに、白いショーツが汚れてしまった事情を振り払うように、彼女は今の使命に集中する。次いで、頭髪には白いリボンが現れ、グローブとブーツが腕と足を飾り、胸にブラウスとリボン、そして最後にプリーツスカートが水色のショーツを包み込んだ。

完全に変身した奈理子、すなわち水都の守護神ミラクルナイトは、大きなミラクルウイングを背中に広げ、内心でドリームキャンディへの援助を求めつつ、勇敢にも空へと跳び上がる。

「待ちなさい、バッタ男!」

と彼女は力強く叫んだ。ミラクルナイトは先回りして、バッタ男が着地した道路に立ちはだかった。

「またお前か。正義のヒロインを気取った世間知らずの中学生に、俺を止めることはできない」

とバッタ男は冷ややかに言い放つ。その言葉は、ミラクルナイトの心に痛みを刺す。

奈理子、いや、ミラクルナイトは脚を震わせながらも、逃げ出したいという衝動を必死に抑え込んでいた。しかし、彼女は知っている。逃げ場はない。ここで立ち向かわなければ、水都の街は再び恐怖に飲み込まれてしまうだろう。その覚悟が、彼女の震える足を固く地につけさせた。


対峙する二人、ミラクルナイトとバッタ男。彼女は彼に訴えかける。

「こんなことをしても、あなたの家族は返ってこない。何故、お年寄りに酷いことするの?」

と問うた。しかし、バッタ男の回答は彼の跳躍と共に去りぎわの言葉となった。

「前にも言ったように、街の平和のためだ」と。

ドリームキャンディたちが到着するまで会話で時間を稼ごうと思っていたが、奈理子はその内にある正義感から勇気を奮い起こした。

「私は、どんな理由があろうと、街の人を傷つける人は許さない!」

そう叫びながら、掌からは水色の光弾を放つが、バッタ男はそれを軽やかに避けた。そして反撃に転じ、民家の塀を蹴って飛び返り、迫り来る。

ホッパーチョップ!」との叫びと共に、一閃、ミラクルナイトのコスチュームが裂かれた。

「きゃあぁぁぁ〜!」

という悲鳴と共に、ミラクルナイトは崩れ落ち、コスチュームの破れから純白のブラが露わになる。恥じらいと痛みに震えながら、ミラクルナイトは胸を隠し、座り込む。しかしバッタ男は

「子供を殺めるつもりはない」

と言い、冷たい視線を投げかけた後、背を向ける。

「待って!」

とミラクルナイトは絶望の中で最後の力を振り絞り、水色の光弾をバッタ男に放つ。しかし、バッタ男は軽やかに避け、

「お前と話すことなど無い」

と冷たく断じる。空中で宙返りし

「これで最期だミラクルナイト。ホッパーキック!」

と降下が始まる。

ミラクルナイトはフェアリーシールドを展開するも、その防御は以前の戦いで効かないことが証明されていた。

「あぁぁ…」

という声はシールドの中で絶望の喘ぎに変わる。しかし、ホッパーキックがフェアリーシールドに激突する瞬間、キャンディチェーンが空から飛来し、バッタ男を捉えた。その意外な攻撃にホッパーキックは中断される。

地に着いたバッタ男。

「ドリームキャンディ!」

という、ミラクルナイトの歓喜に満ちた声が響いた。助けが来た。絶望の中に、再び希望の光が射し込むのだった。


混乱の只中で、ドリームキャンディは

「奈理子さん!」

と叫びながらミラクルナイトの元へと駆け寄る。破れたコスチュームから覗く白い肌を見て、間一髪で助けに来れたことに安堵の息をつく。

「怖かった…」

というミラクルナイトの声は震えており、涙をこぼしそうだったが、ドリームキャンディが力強く抱きしめる。

「バッタ男、奈理子さんをこんな目に遭わせて許さない!」

と、ドリームキャンディは怒りに満ちた声で宣言する。中学生のミラクルナイト、そして今は小学生のドリームキャンディに対峙するバッタ男は、やれやれといった様子で

「子供たちのヒーローごっこに付き合うつもりはない」

とため息をつく。

「ヒーローごっこですって!」

とドリームキャンディが反論しながらミラクルナイトを脇に投げ捨てると、キャンディチェーンを振り回し攻撃する。バッタ男は飛び跳ねて避けるが、予想に反して、ドリームキャンディに投げられたはずのミラクルナイトが翼を広げて待ち構えていた。

ミラクルハピネスシザーズ!」

と叫びながら、ミラクルナイトはバッタ男の顔面を太ももでがっしりと挟み込む。苦痛に顔を歪めるバッタ男の声が響き渡る。

「やった!奈理子さん!」

とドリームキャンディは勝利を確信する。

しかし、バッタ男は頭を挟まれながらもミラクルナイトの腰をがっちり掴み、回転を始めた。高速で振り回されるミラクルナイトの

「あぁぁぁ!」

という悲鳴が高まる。太ももの力が弱まり、

ホッパーきりもみュート!」

バッタ男の一撃を受けたミラクルナイトは、遠くへと投げ飛ばされていく。

「あああぁぁぁ…」

と遠ざかる彼女の声がだんだんと小さくなる。ドリームキャンディが

「奈理子さん!」

と叫ぶと、ミラクルナイトはもはや視界に入らないほど遠くへと飛ばされてしまった。勝利の確信が一転、恐怖に変わる。ドリームキャンディは一人、バッタ男と向き合うのだった。



「よくも奈理子さんを…」

というドリームキャンディの声は震えていたが、その震えは恐怖ではなく、怒りによるものだった。彼女の拳がきつく握られる。バッタ男は落ち着いた足取りで着地し、淡々と語りかける。

「ミラクルナイトにも言ったが、子供を殺めるつもりはない。手加減はしてある。しかし、邪魔をしようとするのであれば子供でも容赦はしない」

と。

ドリームキャンディの心は、その言葉に思わず怯んでしまう。ミラクルナイトは幾多の強敵に立ち向かってきたが、その多くは、ミラクルナイト、奈理子を辱めることに満足し、そこに付入る隙があった。だが、バッタ男は異なる。彼は奈理子、ミラクルナイトを辱めることなく、ただただその力をもって彼女を投げ飛ばした。

ドリームキャンディは緊張する。彼女には飛べる能力がない。バッタ男は高く跳躍し、上空からの攻撃を仕掛けてくる。彼が空中を支配すると、地上のドリームキャンディにとっては彼を捉えることが非常に困難になる。

しかし、ドリームキャンディはある確信を持っていた。バッタ男がジャンプするその一瞬、必ず隙が生まれるはずだ。それを見逃すわけにはいかない。彼女はキャンディチェーンを構え、静かにその瞬間を待つ。

ふたりの間には、静寂が流れる。睨み合うドリームキャンディとバッタ男の間には、言葉は不要だった。そして、バッタ男が動き出す。その瞬間、ドリームキャンディもまた動く。キャンディチェーンを力強く振るうと、その動きは命を懸けた戦いの序章を告げるものだった。


ホッパーきりもみシュートによる強烈な一撃を受けたミラクルナイトは、意識を失ったまま、夕陽が輝く空を舞っていた。その風圧で彼女のコスチュームはほぼ引き裂かれ、彼女の姿はもはや破れた布切れを身にまとったように見えた。終わりのない宙の旅は、突如として現れた巨大な蜘蛛の巣によって止められる。そこで待ち構えていたのはクモ男だった。

「奈理子!」

とライムは狼狽しながらミラクルナイトのもとへと駆け寄る。無残な姿の彼女に心を痛めながらも、クモ男は落ち着いて言った。

「安心しろ、バッタ男は元から奈理子を殺すつもりはない」

その言葉にもかかわらず、ミラクルナイトの肢体は無情にも傷ついていた。

ライムは彼女の上半身を慎重に抱き起こすと、クモ男はその場で変身を解除し、糸井へと戻る。平静を保つ糸井は、ミラクルナイトの布切れのように変わり果てたスカートを捲り、彼女の下着に視線を落とし、からかうように言った。

「今日はブラとパンツが揃ってないんだな」

ライムが答える。

「昼間では白の下着だった」

昼休みにライムが奈理子に潮を吹かせ彼女のショーツを汚してしまったのだ。奈理子はその後、着替えたのだろう。この事実を知り、糸井はニヤリとするが、彼はすぐさま奈理子の頬を平手で叩き、

「おい、奈理子!起きろ!」

と強い口調で呼びかける。

「やめろ、糸井!」

と、ライムは糸井の手を払いのけ、奈理子を庇う。

「ドリームキャンディが一人でバッタ男と戦ってんだろ。早く奈理子を助けに行かせろよ」

と糸井は言う。

「奈理子じゃバッタ男には勝てない」

とライムが返す。

「ドリームキャンディを助けに行かなかったと奈理子が知ったら、奈理子は後悔するぜ」

と糸井はさらに追い打ちをかける。

ライムは深いため息をつき、

「ならば、お前が行け。お前ならバッタ男に勝てるだろ」

と糸井に挑むように言う。彼は奈理子をこれ以上危険に晒したくなかったのだ。

「水都の守護神はミラクルナイト、奈理子だ。俺じゃない」

と糸井は笑う。彼はライムがこれほどまでに奈理子を庇う姿を予想していなかった。

「お前が思っている以上に奈理子は強い。バッタ男も本気じゃないし大丈夫だ」

と、糸井は再びライムに言い聞かせる。

ライムはミラクルナイトに視線を戻し、その無防備な寝顔を見つめながら考え込んだ。いつもは彼女のことで心を乱すことなどない冷静沈着な彼だが、奈理子という存在は彼の心の隅に深く根を下ろしていた。そのことを糸井は内心で嗜虐的な喜びを感じている。

一方、空の戦いは続いていた。ドリームキャンディは、高く跳ぶバッタ男の下に立ち、空中戦には弱い自分の不利を補うべく、じっとタイミングを計っていた。バッタ男が地に降り立つその瞬間を、彼女は狙っていた。

地上のライムと糸井の間に流れる時間は、空中での戦いとは違うかたちで緊張を孕んでいた。ライムは、奈理子を安全な場所へ移動させようと、彼女を抱き上げた。その時、奈理子の瞼がふわりと揺れた。息をのんだライムは、彼女が目を覚ますのを静かに待った。

糸井はその様子を眺めつつも、

「時間がない。ドリームキャンディが持つかどうか…」

と心配そうにつぶやいた。奈理子の覚醒、ドリームキャンディとバッタ男の行方、糸井とライムの信念。それらが交錯する中で、水都の守護神としての重い責任が、奈理子の肩に再びのしかかろうとしていた。


ドリームキャンディの瞳は決意に燃え、空中へと舞い上がる敵を捉えていた。だが、バッタ男の動きは彼女の予想を裏切り、彼は横へと跳躍した。彼女の得意技、キャンディチェーンは、虚空を切り裂いて無力に落ちていく。一瞬の油断。ドリームキャンディは己の過ちを悟り、迫り来る敗北を感じ取った。

ホッパーパンチ!」

地面すれすれを跳ぶバッタ男の渾身の一撃がドリームキャンディに直撃し、彼女は力なく塀に激突した。無慈悲にも、バッタ男は高い屋根へと飛び上がり、彼女を見下ろす。

「これで分かっただろう。お前たちでは俺を止めることはできない」

と、彼は勝利を確信していた。

それでもドリームキャンディは諦めない。

「待ちなさい…」

という声は弱々しくも、その目は未だ戦いを求めて輝いていた。塀に寄りかかりながらも、立ち上がる彼女。バッタ男はその姿を見て、一瞬の驚きを隠せない。

「ほう、ヒーローごっこと言ったのは言い過ぎだったな」

と認めるが、

「ならば、ミラクルナイトのように惨めな敗北を味わうがいい」

と、致命的な一撃を加える決意を固めた。

ドリームキャンディはキャンディチェーンを固く握り直し、集中を高めた。勝負は一瞬にして決する。息を整え、全てをこの一撃に懸ける覚悟で。

その時、駆けつけた男の声が空間に響いた。

「ドリームキャンディ!」

声には力強さがあった。バッタ男が振り返ると同時に、ドリームキャンディの視線も声の方向へと移る。

「あなたは…」

彼女の前には馴染み深いが、名は知らぬ救援の人影があった。彼女はその男の名を知らなかった。いや、もしかすると、彼女は彼の名前を決して知ることがなかったのかもしれない。しかし、その時は、彼が彼女にとって最も必要な援軍であったことは間違いなかったのだ。


水都大学のキャンパスを知る者ならば、彼の存在を知らぬ者はいないだろう。奈理子私設ファンクラブ(以下「NSFC」)会長である成好が、その気勢を削がれたドリームキャンディのもとへと駆けつけた。会員たちの手により「水都の守護神 闘う女子中学生 ミラクルナイト野宮奈理子」と書かれた横断幕が空に掲げられるなか、

「奈理子ちゃんはどうしたんだ!」

と、彼は声を張り上げた。

ドリームキャンディの返事は怒りに満ちていた。

「奈理子さんはとっくにやられて遠くに飛ばされましたよっ!」

成好とその仲間たちは、その言葉に顔を曇らせた。

「クッ、遅かったか!」

と悔しさをにじませる。

バッタ男はそのやりとりを嘲笑った。

「弱いくせに人気だけは本物のアイドル級だな」

と。しかし、ドリームキャンディはただでは済まさなかった。

「奈理子さんをバカにしないで!」

と彼女は叫ぶと、NSFCの会員たちも声を合わせ、

「そうだー!奈理子ちゃんをバカにするなー!」

とバッタ男を非難した。

「ドリームキャンディ、バッタ男なんかやっつけちまえ!」

NSFCの会員たちの声援は力強く、ドリームキャンディの心に火をつけた。

「奈理子ちゃんの仇をとってくれー!」

彼女の心は奈理子が常に受けていたであろうこの声援で満たされ、身体はまるで軽くなったように感じられた。

「バッタ男は私が倒します!」

ドリームキャンディが宣言すると、NSFCの声援はさらに激しさを増した。

その熱気の中、空から緑色の光が降り注ぎ、バッタ男へと襲い掛かる。巧みにそれを避けたバッタ男の下、屋根の上にはセイクリッドウインドの姿が現れた。

「キャンディ、お待たせ」

と彼女は冷静にドリームキャンディに呼びかけた。

「今日で連続殺人事件を終わらせるわよ」

と宣言するセイクリッドウインドの眼差しは、向いの屋根の上のバッタ男を冷たく射抜いた。


バッタ男が嘲笑を含んだ言葉でセイクリッドウインドを挑発する。

「中学生のミラクルナイト、小学生のドリームキャンディと違ってお前は大人だよな。そんな格好して恥ずかしくないのか?」

彼女は一瞬たじろぐ。セイクリッドウインドが自身の出で立ちを見つめ返す。確かに、彼女の衣装はシックながらも、魔法少女を想起させるコスプレに他ならなかった。22歳の女子大生が身に纏うには、少し…いや、かなり痛い。その真実に直面し、彼女の頬は僅かに紅潮する。

しかし、その瞬間、成好が心強い励ましを送る。

「そんなこと無いぞ。奈理子ちゃん程じゃないけど、可愛いぞ」

と。ドリームキャンディも加わり、

「そうですよ。惑わされないでください。奈理子さん程じゃないけど、似合ってますよ」

と声を強くする。

「どいつもこいつも奈理子ほどじゃないとばかり…」

とセイクリッドウインドの心の中で苛立ちがこみ上げる。それを振り払うかのように、

「行くわよ!」

と気合を入れ、扇型の武器ガストファングを手に取り、バッタ男の前へと躍り出る。住宅街では竜巻は起こせず、彼女はガストファングを閉じたまま力強く振り下ろす。しかし、バッタ男は軽やかに跳躍し、彼女の攻撃を避ける。二人の身体が交錯する瞬間、バッタ男の蹴りが彼女を地に叩きつける。

向いの屋根に跳ねるバッタ男を追いかけるようにドリームキャンディがキャンディチェーンを放つが、それも空を切る。

「ぴょんぴょん跳び跳ねて厄介ね…」

とセイクリッドウインドは苛立ちを隠せずに呟く。

「奈理子さんがいてくれたら、地上と空から挟み打ちできるんですけど…」

ドリームキャンディの言葉に、二人の間には力のなさが漂う。

しかし成好は諦めなかった。

「諦めるな!奈理子ちゃんは僕たちファンを裏切ったりしない。必ず奈理子ちゃんは助けに来てくれる!」

という彼の声が響く。ドリームキャンディは小さく

「奈理子さんはさっさとやられちゃったんですけど…」

とつぶやき、セイクリッドウインドも心の中で

「私は別に奈理子のファンじゃないけど…」

と思いを馳せる。それでも、彼女たちの胸の中には、ミラクルナイトに来てほしいという願いが燃え続けていた。


セイクリッドウインドの攻撃が空を切る。バッタ男は翔び横に移動し、ドリームキャンディのキャンディチェーンも彼を捉えきれない。空間を支配するかのように跳ねるバッタ男は、戦場を自らの遊び場に変えていた。攻撃は容赦なくセイクリッドウインドとドリームキャンディに降り注ぎ、彼女たちは次第に翻弄され、受けたダメージが体に蓄積されていく。

力尽きかけたドリームキャンディが膝をつきそうになる。その時、成好が絶叫する。

「ドリームキャンディ、頑張れ!奈理子ちゃんは必ず来る!」

と。その声に支えられて、ドリームキャンディは辛うじて立ち続けるが、彼女の心は暗かった。ホッパーきりもみシュートで遠くに呼ばされたたミラクルナイトが戻ってくるはずがない。

警察が到着し、成好とファンクラブの面々は後ろに誘導される。戦いの舞台は一変し、周囲を取り囲む野次馬が住宅街を埋め尽くす。緊張が空気を凝縮させ、一触即発の状況だ。

セイクリッドウインドが倒れる。バッタ男の連打は彼女にとってあまりにも重く、痛烈だった。ドリームキャンディは心の中で絶望する。

「これで終わりか…」

と。

その時、空から突如として水色の光弾が降り注ぐ。バッタ男が反射的に避ける。成好の叫びが空を突き抜ける。

「奈理子ちゃん!」

NSFCは狂喜し、野次馬たちも空を見上げて歓喜に沸く。

空中には、戦いの傷跡をそのコスチュームにまといながらも、不屈の意志を秘めたミラクルナイトがいた。

「会長さん、ファンクラブのみなさん、いつも応援ありがとうございます」

と、彼女は微笑みながら成好たちに感謝を示す。

NSFCはその言葉に一層熱狂し、そしてミラクルナイトは宣言する。

「バッタ男、今度こそ、あなたを倒して、街の平和を取り戻します!」

彼女の声は固く、意志は強かった。バッタ男を指さし、再び戦いの火蓋が切られた。


自信に満ち溢れたミラクルナイトが空から舞い降りる。その姿にバッタ男は愕然とした。

「手加減したとはいえ、きりもみシュートを受けてこうも早く復活するとは…」

と彼は呟く。一方、地に這いつくばるセイクリッドウインドは、上を仰ぎ見て感嘆の声を漏らす。

「凄い自信…さすが水都の守護神ミラクルナイト」

ドリームキャンディはその場の熱気に冷めた目を向けていた。彼女は知っていた。ミラクルナイトのこの自信満々の姿は、過去にも見せては敵に呆気なく倒されていた。彼女は内心で思う、彼氏のスライム男に助けられたか何かして、ただいい気分に浸っているだけかもしれない。それでも、ミラクルナイトが加勢に来たことは確かなチャンスだった。

「戦いはこれからです!」

と、ドリームキャンディは倒れそうになるセイクリッドウインドを鼓舞する。

その瞬間、成好が声を張り上げる。

「奈理子ちゃん、今度こそバッタ男を倒すんだ!」

と。NSFCの面々がこれに応じ、声援を送る。そして、その情熱が周りの野次馬たちにも伝わり、彼らも大きな奈理子コールを始める。

「煩い!もう手加減はしないぞ、ミラクルナイト」

と、バッタ男は高らかに宣言し、

ホッパージャンプ!」

と叫びながら跳び、ミラクルナイトに迫る。ミラクルナイトは水色の光弾を放ち、迎撃に出る。しかしバッタ男は翅を広げ、その水色の光弾を巧みに掻い潜り、ミラクルナイトに迫る。

「嘘でしょ!」

と、跳ねることしかできないと思っていたバッタ男が飛べることに驚愕するミラクルナイト。

続いてバッタ男は取り憑くように接近し、膝蹴りを喰らわせ、

「きゃぁぁぁぁ!」

というミラクルナイトの叫び声とともに、彼女を上空に吹き飛ばす。

バッタ男は降下を始めるが、ドリームキャンディがすぐに行動を起こす。

「敵は奈理子さんだけじゃないわ!」

と彼女は宣言し、バッタ男の着地点を見定めてキャンディチェーンを振るう。しかし、バッタ男は翅を羽ばたかせ、再び着地点を変更する。

だが、そこには別の戦士が待ち構えていた。セイクリッドウインドが立ち上がり、ガストファングを構え、バッタ男の新たな着地点で待ち受けていた。すべてがこの一瞬にかかっている—彼女たちの連携、市民たちの期待、そして、水都の平和を守るための戦いが、ここに集約されるのだった。


セイクリッドウインドが落ち着いた目でバッタ男を捉える。バッタ男はその姿勢から、狙いを定めたホッパーキックを繰り出す。突風のような蹴りが空を裂き、セイクリッドウインドを吹き飛ばす。しかし、予想に反して、翅の推力だけで放たれたそのキックは、力が足りなかった。バッタ男は再び地を蹴る。

その時、上空で、ミラクルナイトの右脚が水色の輝きを増していた。彼女は落下し、飛び上がるバッタ男を目掛けて勢い良く降下を始める。バッタ男もその意図をすぐに解し、身を反転させ上空へ足を向けた。

「キックで俺に勝てると思っているのか!」

と嘲笑う。

ミラクルナイトは、落下する自分の方が優位だと信じ、

「ミラクルキック!」

と叫ぶ。対するバッタ男も

「ホッパーキック!」

と叫びながら脚を振り上げる。二つのキックが空中で激しく交差し、その瞬間、眩い閃光が空を覆う。

キックの衝撃がミラクルナイトのコスチュームを引き裂き、純白のブラが空中に舞い上がる。驚愕の悲鳴を上げ、ミラクルナイトは地面に打ち付けられる。意識を失った彼女は、静かに倒れ込む。

しかし、バッタ男もその場で上昇が止まり、力尽きたかのように墜落を始める。その瞬間をドリームキャンディは見逃さなかった。

「キャンディシャワー!」

彼女が放つ七色の光線が落下するバッタ男を捉える。

セイクリッドウインドは倒れたミラクルナイトをそっと抱き上げる。奈理子の小さな胸がキャンディシャワーの光に照らされ、その姿が静かに輝いている。

「奈理子起きて」

とセイクリッドウインドが呼びかける。ミラクルナイトの瞳が徐々に開き、眩い光に目を細めながら意識を取り戻す。セイクリッドウインドは優しい声で伝える。

「やっとバッタ男に勝ったよ」

静かな安堵が二人を包むのだった。


ドリームキャンディの決め手、キャンディシャワーが輝く光の柱となり、彼女の全力が注がれた。その七色の煌めきに包まれるバッタ男。しかし、期待に反して、バッタ男は倒れずに立ち尽くす。ドリームキャンディはキャンディシャワーで倒せなかったことに落胆し、

「あぁ…」

と力なく声を漏らす。一方、バッタ男は淡々と呟いた。

「こんなもので俺の怒りと悲しみは消えない…」

彼の戦う力も尽きた様子だった。

セイクリッドウインドの支えを受けつつ、ミラクルナイトは躊躇いなく前へと進み出る。彼女の身に残っていたのは、頭の白いリボン、アイマスク、そしてブーツとグローブ、水色のショーツのみ。彼女の美しい白い肌が光を反射し、その場の全員の視線を奪う。

「あなたの怒りも悲しみも私には分からない。でも、人を殺しちゃダメだよ…」

ミラクルナイトの言葉が、静かながらも力強く響いた。

バッタ男は無言を守る。ミラクルナイトはさらに続ける。

「私はあなたのことは分からないけど、あなたは、生きて罪を償うべきだと思う」

そう言うと同時に、彼女の股間が水色に輝き始める。それはミラクルナイトの特別な力、ミラクルヒップストライクの兆しだった。ミラクルナイトがバッタ男の顔面にミラクルヒップストライクを放つ。水色の光がバッタ男を包み込むと、その中で彼の姿は変わり始めた。本庄健という、悲しみを抱えた男へと。

光が収まると同時に、警察官が突入し、本庄の身柄を確保した。露わになってしまったミラクルナイトの姿に、女性警察官が優しく毛布を掛ける。その時、NSFCの面々が声援を上げる。

「奈理子ちゃん、よくやった!」

彼らの声が一斉に響く。

ドリームキャンディとセイクリッドウインドが近づいてきて、安堵の表情を浮かべた。

「手強い敵でしたね」

とドリームキャンディは言い、

「三対一だったから勝った気しないよね」

とセイクリッドウインドが続ける。

「二人ともありがとう」

とミラクルナイトは微笑んだ。そして、市民たちからは三人のヒロインへの盛大な拍手が送られていた。こうして、激しい戦いの幕が閉じられたのだった。


「みんなにお礼を言ってくるね」

と宣言したミラクルナイトは、NSFCのメンバーたちの元へと足を運ぶ。彼女は毛布にくるまりながらも、感謝の意を込めて深々と頭を下げた。

「会長さん、みなさん、今日も声援ありがとうございました!」

その謙虚な姿勢に、成好は

「今日の奈理子ちゃんも素敵だったよ」

と微笑んだ。ミラクルナイトはそんな言葉に照れくさそうに笑いながら、ファンクラブの面々に囲まれ、勝利の余韻に浸っていた。

しかし、彼女の心の中には疑問が浮かんでいた。バッタ男はミラクルキックを躱すことができたはずだったのに、なぜ真正面から受け止めたのだろうか。もし避けられていたら、力を使い果たしたミラクルナイトは負けていただろう。それは紙一重の勝利だったのだ。

一方、ドリームキャンディはセイクリッドウインドに気遣いの言葉をかけた。

「今更だけど、凜さん、もう大丈夫なんですか?」

敵のアジトである別荘から救出された後、休養中だったセイクリッドウインドは、

「大谷がまだ休めってうるさかったからさ、今日は彼を振り切るのに手間取っちゃってね。来るのが遅くなってごめんね、寧々」

と答えながら、ドリームキャンディの頭を優しく撫でた。ドリームキャンディは自分も大谷に厳しく鍛えられてきたが、彼から休むよう言われたことはない。その事実に少しムッとして、

「大谷さん、凜さんには優しいんですね」

と言ってみたが、セイクリッドウインドは軽い調子で

「そうかな?」

と返した。

ドリームキャンディは少し思いを巡らせる。凜と大谷は違う大学の同級生だが、凜は大谷の実家に住んでいた。ひょっとすると、二人は親公認のカップルなのかもしれないと考えた。

その時、本庄を乗せたパトカーが出発し、周囲にはマスコミが溢れてきた。セイクリッドウインドは即座に

「寧々、面倒なことになるから帰ろ」

と提案し、ドリームキャンディもそれに同意する。

「そうですね。奈理子さん、帰りましょう!」

と彼女は、まだNSFCに囲まれているミラクルナイトに声を掛けた。

水都の街を襲った連続殺人事件の謎を解き明かし、市民たちの安堵のため息と共に、三人のヒロインは静かな住宅街の夜へと歩みを進めた。街灯が彼女たちの勇敢な背中を照らし出し、その光景はまるで彼女たち自身がこの街の平和を守る光であるかのようだった。市民たちの拍手が遠ざかるにつれ、彼女たちの足取りは自然と軽やかになり、夜風が彼女たちの汗ばんだ額を優しく冷ましていた。一連の事件が終息に向かい、彼女たちの心にも安堵が広がる。しかし、それは新たな始まりの予感でもあった。

ミラクルナイトは少し立ち止まり、夜空を見上げた。星々がきらめき、彼女の思いは彼方へと飛んでいく。今夜の戦いで彼女は多くを学んだ。力だけがすべてではなく、時には心で相手に接することの大切さを。彼女は胸の内で誓う。どんな困難が待ち受けようとも、この街と愛する人々を守り抜くと。

一方、ドリームキャンディとセイクリッドウインドもまた、それぞれの心に秘めた決意を新たにしていた。彼らはただのヒロインではない。水都の平和を守るために選ばれし戦士たちなのだ。

三人は言葉は交わさずとも、互いの心を深く理解していた。そして、その夜、彼女たちはただの学生ではなく、水都を守る勇敢な戦士として、再び夜の闇に溶けていった。明日もまた、平和な一日が訪れることを信じて。

第97話へつづく)