ミラクルナイト☆第97話
水都第一小学校六年三組の教室は、学級会の熱気で微かに温かい。
「それでは、学級会を終わります」
教壇に立つ学級委員長の寧々が、堂々とした声で学級会の終わりを告げた。修学旅行に向けた準備、それは子供たちにとって大きなイベントだ。部屋割り、自由行動の班分けは彼女の手腕でスムーズに進み、無事に決定した。
自席に戻る寧々の心は、しかし、そう簡単には晴れなかった。担任の先生からの褒め言葉も、彼女の耳には遠く感じられる。班分けのクジ引きの際、隆の巧みな言葉に乗せられて、細工をしてしまった自分に良心が痛むのだ。
隣の席の隆が、得意げな顔で寧々の背を突付き、小声で
「よくやった」
と囁く。寧々はその言葉に答えず、前を向いたままだ。クラス全体では不満の声は上がっておらず、外見上は問題のない班分けだったが、寧々の心は穏やかではなかった。
隆、慎治、章太郎という、所謂「三馬鹿トリオ」が一つの班に揃った。寧々は特に隆のことを「バカの隆」と内心で呼ぶが、その「バカ」が何をしでかすかわからないため、自分が監視しなくてはならないと自分に言い訳をしていた。
しかし、寧々の心は、隆と二人きりになれるかもしれないという期待で少しずつ晴れていく。隆のことだから、何かしら企んでいるに違いない。そんな思いにふけながら、寧々の顔には小さな笑みが浮かんでいた。
修学旅行までの日々は、そんな甘酸っぱい期待で満たされていく。寧々にとって、これからの旅行がどんな色に染まるのか、彼女自身もまだ知らない。しかし、一つ確かなことは、彼女の青春の一ページが、今、刻まれようとしていたことだ。
放課後、寧々は水都神社へと足を運んでいた。境内には巫女装束を纏った凜の姿があった。寧々は声を掛けようとしたが、凜が大谷と話し込んでいるのを見て、邪魔をするのを躊躇した。しかし、すぐに寧々の存在に気づいた大谷が挨拶を交わす。
「こんにちわ」
と大谷に返事する寧々に、凜は笑みを浮かべながら
「ランドセルだと小学生感がぐっと増すね」」
と軽くからかう。赤いランドセルを背負った寧々の姿は、たしかに小学生らしさを際立たせていた。
大谷は修学旅行の話題を振る。
「鄙野への修学旅行、いい経験になるだろう」
と寧々に語りかける。鄙野は水都の隣県にある風情ある町で、温泉も近くにあるという。
「修学旅行の間に敵が襲って来なければいいんですけど…」
寧々は、修学旅行中に何も事件が起こらないことを願いながら返答する。凜は、
「私がいるから大丈夫。安心して楽しんできなさい」
と優しい笑顔で励ます。大谷も
「寧々にとって鄙野に行くことはいい経験になる。水都の心配はいいから、しっかり鄙野の町を観て来るんだぞ」
と優しく言葉をかけた。
凜が意地悪く、
「自由行動は隆くんと二人きり?」
と訊ねると、寧々は焦る。大谷が
「隆くん?」
とけげんな表情をみせる。
「寧々が大好きな奈理子の弟の隆くん」
と凜が大谷に隆のことを教えた後、
「奈理子の弟だって?」
と大谷は興味深そうに反応する。
寧々は憤然として
「自由行動はグループでするんです!」
と主張する。凜がからかうように
「でも、寧々のことだから隆くんと同じ班になるように仕組んだでしょ?寧々ちゃんは悪い学級員長だ〜」
というと、寧々は
「そんなことありません!」
と慌てて否定する。
凜に茶化されながらも、寧々はこの三人での会話を楽しんでいた。初めてかもしれない三人でのひとときは、寧々にとって新鮮で心地よい時間だった。小学校の修学旅行の前夜に、こんなにも穏やかで楽しい時間が流れていくのは、寧々にとって貴重な体験だった。
奈理子は図書館前で綾香との別れを惜しんだ後、秋の訪れを感じながら家路に向かっていた。10月に入り、朝晩の冷え込みが増していたが、昼間はまだ夏服が快適なほどの暖かさが残っていた。そんな中、奈理子は初めての合服セーラー服を身にまとっていたが、日中は長袖で少し暑さを感じていた。
歩いている最中、背後から不快な視線を感じる。誰かにスカートの中を覗かれているような、不気味な感覚だ。振り返るが、誰もいない。ただの気のせいだろうか。しかし、その感覚は奈理子の直感を刺激していた。何か異常なことが起こっている。これはただの偶然ではないと感じた奈理子は、急いで足を早める。
街の中で奈理子を見つけた市民たちが、
「奈理子ちゃ~ん」
と親しげに声を掛けてくる。奈理子は表面上はにこやかに応えたが、内心では背後からの不気味な視線に怯えていた。誰かに狙われているような、そんな恐怖が奈理子を襲う。
安全を求めて、奈理子は水都公園の多目的トイレに駆け込んだ。ここはかつてライムとの思い出深い場所だったが、今は「目的外利用禁止」という張り紙が目を引く。周囲には誰もおらず、静寂が支配していた。
トイレの中でも、不快な感覚は消えない。奈理子は高ぶる感情を抑えきれず、
「誰!?」
と声を張り上げるが、反応はない。見えない敵に対する不安が奈理子を包み込む。
奈理子は決断を下す。何かが間違っていると感じたとき、ミラクルナイトへの変身は唯一の解決策だった。奈理子はアイマスクを取り出し、ミラクルナイトに変身するための儀式を始めた。水色の光に包まれ、ミラクルナイトへと変身する奈理子。変身が完了すると、彼女は身を守るため、そしてこの不気味な状況を解決するために準備を整えた。
多目的トイレの中で一人身構えるミラクルナイト。
「誰かいるのは分っているから出てきなさい!」
と叫ぶ。スカートの中に違和感を感じた。その瞬間、何かが、ショーツのクロッチを撫でた。
「きゃっ!」
と驚き跳び上がるミラクルナイト。その瞬間、手足が目に見えないものに掴まれた。何かが、太腿を這い回っている。目に見えない敵に
「やめて…」
と怯えるミラクルナイト。
「さっきまでの威勢はどうした?」
と背後から声がした。
「誰…」
とミラクルナイトの声は震えたこえで聞いたが、怖くて振り返ることができなかった。
「俺はイカ男。今日は俺がたっぷり奈理子を可愛がってやる」
と透明なイカ男の体に色がつきはじめる。
「イカ男…」
ミラクルナイトの絶望の呟き。白い触手が身動きができないミラクルナイトの身体を這い回る。
「見られることが好きな奈理子は、ここでは満足できないだろ?人が多いところに行こう。タワー前広場、噴水広場、どっちがいい、奈理子?」
とイカ男。ミラクルナイトは
「どっちも嫌…」
と悶えながら答えるが、イカ男は無視して拘束した奈理子を連れたまま多目的トイレを飛び出した。
多目的トイレから連れ出されるミラクルナイト。彼女の白いブラウスはイカ男の触手によって既に破られ、白いブラが露わになっている。彼女の恥ずかしい姿を見ようと、公園を訪れていた人々が彼女の周りに集まり始めた。
「こんなに恥ずかしい姿を見られるなんて…」
とミラクルナイトは思い、羞恥心で頬を染める。
「さあ、どこがいい?みんなの前で楽しいショーをやろうじゃないか」
とイカ男は嘲笑する。ミラクルナイトは答えられない。彼女の意思に関係なく、イカ男はミラクルナイトをタワー前広場に連れて行く。その間、彼女の身体は透明な触手に絡まれ、彼女は必死に耐える。
タワー前広場に着くと、更に多くの人々が集まり、その中にはスマートフォンを構えている者もいた。ミラクルナイトの屈辱的な姿は瞬く間にネット上に拡散されるだろう。彼女は
「やめてください、こんなこと…」
と訴えるが、イカ男の触手は容赦なく彼女の身体を這い回っていた。
その時、空から
「セイクリッドウインド、参上!」
という声が聞こえ、風を纏ったヒロインが現れる。彼女はガストファングを振り、イカ男に向かって突進する。イカ男は驚き、一時的に触手を緩めた隙に、ミラクルナイトは逃れることができた。
「イカ男、奈理子を苛める者は許さない!」
とセイクリッドウインドが宣言する。ミラクルナイトも立ち上がり、二人でイカ男に立ち向かう。イカ男は触手を伸ばし反撃するが、二人のヒロインは連携して彼を追い詰めていく。そして、最後にはドリームキャンディも駆けつけ、三人でイカ男を撃退する。
イカ男が消滅すると、ミラクルナイトは広場に集まった人々に向かって深く一礼し、
「みなさん、ご心配おかけしました。これからも水都の平和を守ります!」
と宣言する。市民からは拍手が湧き起こり、ミラクルナイトは心からの感謝を感じながら広場を後にした。
水都公園の多目的トイレの前に戻ってきたミラクルナイト。戦いの余波で荒れたその場所に、彼女は学校の荷物を取りに戻ってきた。セイクリッドウインドとドリームキャンディの支援のおかげで、イカ男を倒したと思っていたが、それは短い安堵に過ぎなかった。
「さっきは邪魔が入ったな」
という声と共に、彼女の安堵は消え失せた。恐る恐る振り返ると、そこには再びイカ男の姿があった。姿を消す能力を持つイカ男は、ただ一時的に退いただけだったのだ。
「嫌…」
と後ずさるミラクルナイト。触手を操るタコ男との戦いは彼女にとって悪夢だった。イカ男の触手はタコ男とは異なり、棘がある。イカ男は、タコ男のように触手を優しく奈理子を弄るのではなく、棘を持った攻撃的な触手を使う。ミラクルナイトは逃げることなく立ち向かおうとするが、イカ男の触手によって弄ばれることへの恐怖で、彼女は足が竦んでしまう。
イカ男はミラクルナイトの脚を見てニヤリとし、次の機会を約束するかのように
「奈理子の清純の証である純白パンティを汚すのは次の楽しみにとっておくか」
と言い残すと、再び姿を消した。
恐怖に震えながらもイカ男の去ったことを確認するミラクルナイト。彼女は安堵の息をつき、やっとのことで変身を解く。その瞬間、奈理子は力尽きたかのように膝から崩れ落ちた。
新たな敵、イカ男。彼の目的はただ奈理子を弄ぶことなのか、それとも背後には何か別の計画があるのか。タコ男やクラゲ男との繋がりは何なのか。彼女は不安と恐怖を抱えながらも、屈することなく立ち向かわなければならないと心に誓った。それは水都の守護神としての責務であり、奈理子の使命だった。
(第98話へつづく)
(あとがき)














ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません