DUGA

一花と紫☆①出会い

萬々亭の戦いの翌日…

水都女学院高校一年二組教室の教室は、テスト終了後の解放感と疲労感が入り混じった独特の空気に満ちていた。

「終わったー!」

「奈理子さん、国語どうだった?」

すみれと花音が、奈理子に駆け寄ってきた。

「ううん…まぁまぁかな」

奈理子はにっこりと笑顔を見せた。

「昨日も敵に襲われたんでしょ。大丈夫だったの?」

花音が心配そうに奈理子の顔を覗き込む。

「うん、菜々美さんが助けてくれたから」

「菜々美さん、外面はいいからね。菜々美さんがミラクルナイトを勝利に導いたってSNSで話題になってるよ」

「すみれちゃん、菜々美さんってそんな意地悪な人じゃないよ」

「そうかな…」

奈理子は遠くの席に座る菜々美を見る。菜々美は、取り巻きたちと話しながら笑っていた。
そのとき、一年二組の教室のドアが開いた。三年生の一花と紫だ。憧れの先輩たちの登場に生徒たちが色めき立つ。

「奈理子さん」

一花が奈理子を呼んだ。

「よろしければ放課後、私の家へ来てくださいませんか?」

「えっ!?」

奈理子は驚いてすみれと花音を見る。

「一花先輩の家って、凄いお金持ちでしょ?」

「奈理子さん、すごい!」

すみれと花音はお互い顔を見合わせ驚いていた。

「テストも終わりましたし、先日のお礼をと思いましたの。美味しいお茶もお出ししますわ」

「は、はい!」

奈理子は即答した。

「菜々美もだよ」

紫が菜々美に声を掛ける。

「いや…私は…」

「菜々美も来るってよ」

菜々美が言い終わる前に、紫は一花に言ってしまった。

「では、お二人とも、放課後、校門で待っていますわね。学校の許可を取って、お車を回しておきます」

一花はそう言って、紫と教室を去っていった。

「奈理子さん、一花先輩の家!」

「うん!でも…なんだか緊張するなぁ」

「菜々美さん、一花先輩と一緒にいいね」

「ああ、そうね…」

菜々美は少し面倒くさそうに答えた。


放課後、校門前。奈理子は、何度もスカートのしわを伸ばしていた。

「前髪、変じゃない?」

「バッチリだよ」

「奈理子さん、めっちゃ可愛い!」

すみれと花音が嬉しそうに言う。

「うん…でも、なんだか緊張する…」

「無理しなくていいのよ。一花さんだって、あなたのことは知ってるんだから」

菜々美が呆れたように言う。彼女はいつもとおりだ。

「菜々美さんも、おめかししなよ」

「私はいつもちゃんとしてるから。一花さんも気にしないわよ」

菜々美はそう言って、一花と紫が乗ってきた真っ黒な高級セダンに何の躊躇もなく乗り込んだ。

「お嬢様…」

奈理子は車のドアの前に立ちためらっていた。

「奈理子さん、何してるのよ!早く乗りなさい!」

菜々美が車の中から奈理子を促す。

「は、はい!」

奈理子はそう言って、一年二組の生徒たちが見守るなか、車に乗り込んだ。


車が止まったのは、見たこともないような豪華な門の前だった。門が開くと、その先には豪華な噴水が輝いていた。

「奈理子、こっち」

紫が降りた奈理子を玄関に案内した。紫は一花の家には何度も来たことがあるようだ。玄関は広く、天井は高かった。

「すごい…」

「大げさなのよ」

菜々美はそう言って、紫の後を歩いていく。

「お嬢様、お待ちしておりました」

メイドが一花に頭を下げた。

「奈理子さん、菜々美さん、こちらへ」

一花に案内され、奈理子と菜々美は広い廊下を歩いていく。廊下の両側には美しい絵画が飾られていた。

「お茶の間まで、もう少しだけですのよ」

一花は、笑顔で言う。

「奈理子さん、この絵、すごくない?」

菜々美が廊下の絵を指さす。

「えへへっ、よくわかんないけど、綺麗だね」

奈理子はそう答える。

「あたし、美術は得意だよ。この絵、いいよね」

「奈理子、菜々美、早く来なよ」

紫が急かすように手招きする。

一花が、待っている。お茶の間のドアが開かれたとき、奈理子は息をのんだ。

「すごい…」

お茶の間は、奈理子が想像していた以上に広かった。天井は高く、大きな窓からは美しい庭が見える。テーブルには美味しそうなケーキと紅茶が並べられていた。

「どうぞお掛けください」

一花が奈理子と菜々美をソファに案内した。

「一花先輩、本当にありがとうございます」

「いいえ、先日はありがとうございました。テストお疲れ様でしたこと、そして…ミラクルナイトとして、水都を守ってくださったことに、感謝しておりますわ」

一花はそう言って奈理子に微笑みかけた。

「私が来たときにはカエル男はもう逃げてたから、私は何もしてないんですけど…」

「一花は、奈理子が助けに来たことが嬉しいんだよ。一花は、奈理子みたいな美味しそうな女の子が好きだから」

紫が奈理子に微笑みかける。

「美味しそう??」

「可愛いってことよ」

首を傾げる奈理子に、紫が笑う。

「奈理子さんを呼んだのは、紫さんですけどね。一花さんは、奈理子さんじゃなくて紫さんに助けてもらいたかったんじゃないですか?」

菜々美が訝しげに一花を見た。

「ええ。でも、奈理子さんと菜々美が来てくれて本当に嬉しかったですわ」

一花はそう答えると紅茶を注いだ。

「奈理子さん、お好きなようにどうぞ。今日は戦いのことは忘れてリラックスしてくださいな。菜々美さんも、ここに来るのは何年ぶりかしら」

一花の言葉に、菜々美は少し顔を赤らめた。

「一花さん、その、どうして…私のことを色々と気にかけてくれるのですか?」

奈理子は勇気を出して一花に質問した。

「ええ、それは…」

一花は少し言葉を選ぶように答えた。

「実は…」

一花は、少し間を置いてから、静かに語り始めた。

「奈理子さん、あなたが中学生のときから、水都の守護神としてあなたの戦う姿は見ていました。しかし…」

一花は奈理子の顔を真剣に見つめる。

「最近のあなたの戦い方に、少し、心配しているのですわ。市民の願いを力に変える…。それは強力な力ではありますが、同時に危うい剣でもあります。力に頼りすぎると、本来のあなたの力を忘れてしまうかもしれません。だから、あなたの本来の力を、思い出してほしいのです。あなたは、もっと強いはずです」

「一花さん…」

奈理子は一花の言葉に圧倒されていた。

「水都の守護神である奈理子さんの中には、もっと尊く、美しい力が眠っているはずです」

「私の本来の力…」

奈理子は胸に手を当てて、そんな力があるのだろうかと考えてみた。

「もっともらしいことを言ってるけど、一花は可愛い女の子が好きなだけだよ」

紫がそんな奈理子を見て楽しそうに笑う。

「そのようなことはありませんわ」

一花はそう言って壁に飾られた絵に目を向けた。豪華な額縁だが、中の絵は幼い子供が描いたような女の子の絵だ。

「あの絵は…子供の頃の一花さんが描いたんですか?」

「これは幼稚園の頃、私の大好きな人が私を描いてくれた絵です。大切に飾らしてもらっていますわ」

「一花さんが好きな人?!男の子の幼名馴染みですか?」

「紫さんよ」

目を輝かせた奈理子に菜々美が即答した。

「恥ずかしいから、ジロジロ見るなよ」

紫は興味なさそうに紅茶を啜った。

「下手な絵だから飾るなってって、ずっと一花に言ってるだけど…」

「そんなことありません。紫さんが私のために一生懸命描いてくれた、私の宝物ですわ」

一花はそう言って紫に微笑みかけた。

「そう言われると、悪い気はしないけど…」

実は、幼稚園のお絵描きの時間に適当に描いた絵だった。

「幼稚園の頃から、一花さんと紫さんは仲が良かったんですね」

奈理子は全く性格も雰囲気も異なる二人が仲良しであることが不思議だといい言いたげな顔で一花と紫を見た。

「今の関係になったのは、一花さんと紫さんが小学校の五年生くらいのときからですよね。私が小学三年生のとき」

菜々美が意地悪そうな顔で一花と紫を見た。

「そうですね…菜々美さんは、その頃から女王様のように振る舞っていましたね」

一花は、遠くを見つめた。


水都女学院幼稚園、園庭。

私は水都女学院幼稚園に通う白銀一花。家訓は「常に美しくあれ」。お母様からは、おしゃべりは程々に、お行儀よく、お友達とも礼儀を忘れずに、と日々言われておりました。だから私の遊びは、ままごとやお絵描き、静かにお花畑を眺めること。そんな私の日常に、嵐がやってきました。
ある晴れた日の午後、砂場で綺麗なお城を築いていた私は、背後から不敵な声をかけられます。

「おーい、そこのお嬢様。その砂山、面白そう。貸して?」

振り返ると、隣のクラスの女の子が立っていました。髪をポニーテールにし、シャツの裾をスカートから出し、なんだか世間知らずの野良猫のような子。この幼稚園には似つかわしくない、自由な雰囲気を漂わせていたのです。

「えっ…これは、私のお城ですの」

「そーなんだ。面白そうなのに。ねえ、こっち見てくんない?」

その子は私の真横に腰を下ろし、私の作った城の塔をくいっと崩しました。私は、息をのみました。これまで誰も私の作品を崩すような子はいなかったのですから。

「あの…」

「なあ、なあ、お嬢様。”あたし”の名前は橘紫。名前の通り、パープルな人生送ってるつもりなんだ。お前さんは?」

「私は…白銀一花ですわ。紫さん、その…あたし…?」

「そ。お嬢様みたいに『私』なんて使ってたら、肩凝っちゃうよ。ねえ、一花。こっちで一緒に遊ぼうよ。面白いこと、たくさん知ってるから」

紫さんはそう言って、私の手を握りました。小さな手だったのに不思議な力があり、私は無条件で彼女に引きずられていきました。
その瞬間から、私は紫さんに惹かれていたことに、まだ、幼稚園児だった私は気づきませんでした。

②告白へつづく