DUGA

ミラクルナイト☆第57話

土曜日の午後、水都タワー前広場は人で溢れていた。人々が集まったのは、数量限定の抱き枕の販売イベント。その主役とも言える人物、奈理子がステージに立っていた。

奈理子バージョンとミラクルナイトバージョンの2種類の抱き枕、そのどちらも1個1万円という高価なものだったが、驚くべきことに予約受付の段階で完売。

“こんな枕を誰が使うんだろう"

と疑問を感じながらも、奈理子はその人気に戸惑いつつも感謝の気持ちでいっぱいだった。

抽選に当たったファンのために、彼女はサインと握手に忙しく動き回っていた。学校では勉強も恋愛も上手く行かず、戦っては負け続け。時々、

“私は一体何をしているんだろう"

と自問自答することもあった。しかし、ファンの前では、彼女の笑顔は一切絶えることがなかった。

次のファンに目を向けると、そこには奈理子バージョンの抱き枕を抱えた美少年ライムの姿が。彼の存在は、彼女の疲れた心に深い波紋を投げかける。"ライムが…?"彼女の心は、驚きと困惑、そして何とも言えない期待感で満ちていった。


クールなライムが、自分のイメージとは程遠い奈理子バージョンの抱き枕を抱えて立っている光景は、どこか滑稽でありながらも、奈理子の心には甘酸っぱい期待を掻き立てた。彼女の心の中でぽつんと浮かんだ願い、

“枕じゃなくて私を抱いてくれればいいのに"

それは彼女自身にも思わぬ感情であった。

ファンの目の前で、彼女は自分の写真がプリントされた抱き枕にサラサラとサインをする。筆先が滑る度に、心の中でぽつりぽつりと湧き出る思い。それを掻き消すように、ふと思いつきでライムにだけ"大好き"という言葉を小さく書き足した。

そして、ライムとの握手。彼の手の感触、柔らかでほのかに冷たいその感触は久しぶりだ。沢山の言葉が胸を突き、口をつぐむ。しかし、この場で言えるのは、ただのファンに対するありきたりな言葉だけだ。

それでも彼女は微笑みながら見送った。ライムは、冷めた目で奈理子バージョン抱き枕を受け取り、言葉も交わさずにその場を後にした。その背中を見送る奈理子の瞳には、ひとしずくの涙が滲んでいた。


ライムは帰ったがイベントは盛り上がりを見せ、歓声や笑い声が会場を満たしていた。そんな中、一人の奈理子ファンが異彩を放ち始めた。彼の体は極彩色に変貌し、触覚と鋭い爪を持つ生物、ハンミョウ男へと姿を変えていった。その異様な姿に、会場は一瞬で騒然となった。彼こそは勅使河原がミラクルナイトに送り込んだ刺客だった。

ハンミョウ男は驚異的な瞬発力で一直線に奈理子に飛び掛かると、そのまま彼女を地に倒し込んだ。彼女のワンピースは捲れ上がり、露になったピンクのパンツと白い太腿がファンの視線を奪った。会場は一瞬で盛り上がりを見せた。

「やめてー!」

奈理子の悲鳴が響く中、ハンミョウ男は優雅に彼女の脇を舐め、その味を満喫した。そして、カブトムシ男が以前にやったように、彼は奈理子の体を抱き上げM字に開脚させた。しかし、奈理子は

「いや!」

と慌てて丈の長いワンピースワンピースを押さえ、パンツを隠すことに成功した。

「いつもパンツ見せつけるくせに、ファンの俺たちにはパンツ見せてくれないのか!」

とハンミョウ男は怒りを露わにした。その後、ハンミョウ男は奈理子を下ろし、彼女にミラクルナイトへの変身を促した。ハンミョウ男が受けた指令は、奈理子ではなくミラクルナイトと戦うことなのだ。奈理子はアイマスそして、奈理子は彼の指示を受け入れ、アイマスクを取り出すと、その場で変身を開始した。

会場は一瞬で沸き立った。ミラクルナイトの変身を間近で見ることができるとあって、ファンたちは興奮を隠せなかった。水色の光に包まれると、奈理子のワンピースは消え、ピンクのブラとパンツだけの姿が現れた。その姿にファンからの歓声が会場を揺るがした。

次々と現れるリボン、グローブ、ブーツ、ブラウス、そしてスカート。奈理子は一瞬でミラクルナイトへと変身した。ボルテージの最高潮に達した会場は、その姿を見つめ、歓声と拍手で彼女を讃えた。


壮絶な奈理子コールが会場から湧き上がる中、奈理子はミラクルナイトとしてハンミョウ男への挑戦を開始した。その体の線は細く、しかし芯はしっかりと通っていた。だが、敵は容易に倒せる相手ではなかった。

ハンミョウ男は恐るべき特性を持つ生物で、その瞬発力と持続力、そして驚異的な視力を駆使して、ミラクルナイトを追い詰めた。彼女の動きを見切り、一瞬で間合いを詰めて攻撃を仕掛ける。ミラクルナイトは必死で防御し、反撃の機会を伺うが、ハンミョウ男の攻撃は容赦なく、彼女を圧倒した。

「くっ、やっぱり強い…」

ミラクルナイトは顔を歪めながらも、それでも前へ進む決意を胸に秘めていた。

しかし、その抵抗は無駄であった。ハンミョウ男は彼女の体を強く握りしめ、高く空へ持ち上げた。そして、彼の巨大な爪がミラクルナイトのスカートへと向かう。彼の手がスカートのホックを掴むと、ミラクルナイトは必死で抵抗した。しかし、その力はハンミョウ男の力には到底敵わなかった。

「待って、やめて…!」

彼女の懇願も空しく、スカートのホックが外れ、スカートが下へと落ちた。会場には歓声と悲鳴、そして驚きの声が溢れる。ミラクルナイトは恐怖と羞恥で顔を赤らめたが、それでもまだ戦いは終わらなかった。


スカートを剥ぎ取られ、ピンクのパンツを全ての視線にさらけ出されるミラクルナイト。多くの奈理子ファンが間近で”いつものお約束のスカート脱がし”を目の当たりにし、大興奮の渦が会場を覆う。

「奈理子はその格好が一番可愛いぞ」

と、ハンミョウ男の口から投げかけられる言葉。その声に、ミラクルナイトは羞恥と怒りで身体を震わせる。しかし、その中にも確かな決意が燃え上がっていた。

奈理子として、この姿でファンを前にすることに躊躇はあった。だが、このイベントを成功させるために、多くの人たちが尽力してくれている。そして、この舞台をぶち壊そうとするハンミョウ男に対する怒りは止まなかった。

彼女は呼吸を整えると、心の中で静かにつぶやいた。

「ファンが私のパンツで喜んでくれるのなら、好きなだけ見ればいいわ。」

その瞬間、恥ずかしさは熱い闘志に変わる。ミラクルナイトは全てを晒してでも立ち向かう覚悟を固めた。

彼女の目は炎を燃やし、まるで猛獣のような獰猛さを見せていた。その姿は、イベントに携わった多くの人たちのため、そして自身の誇りのために戦う戦士そのものだった。スカートのないピンクのパンツ姿のミラクルナイトは、パンツを晒しながらも、堂々とハンミョウ男に立ち向かっていった。


ピンクのパンツ姿で、果敢にハンミョウ男との闘いを繰り広げるミラクルナイト。その場に、彼女の戦友であるドリームキャンディが駆けつけた。

「あぁ、奈理子さん、今日もスカート脱がされちゃて…」

と、ドリームキャンディの心は苦笑いと共感に満ちていた。しかし、ミラクルナイトは決して彼女の目を逸らさなかった。

「これは私の戦いだから、ドリームキャンディは見ていて」

と、スカートを剥ぎ取られたにも関わらず、ミラクルナイトは堂々と告げた。その言葉は、あたかも全てを受け入れ、その中で戦う覚悟を見せていた。その姿にドリームキャンディは安堵し、じっくりと奈理子のパンツを楽しむことにした。

ハンミョウ男の特異な能力に、ミラクルナイトは一時劣勢を強いられる。しかし、奈理子の闘志は決して薄れることはなかった。ハンミョウ男の攻撃を避けつつ、彼女は反撃の瞬間を待っていた。

そして、その瞬間が訪れる。彼女は全力で蹴り上げる、それが彼女の得意技、ミラクルキックだ。その一撃はハンミョウ男の防御を無視して突き抜け、彼を遥か彼方へと吹き飛ばした。勝利の喜びとともに、会場には大歓声が上がる。

全てを晒してでも、堂々と戦ったミラクルナイトの姿に、奈理子ファン達は感動と歓喜の声を送った。そして、スカートを剥ぎ取られた彼女の勇敢な姿は、多くの心に深く刻まれることとなった。


勝利を収めたミラクルナイトは、溢れる声援に手を振りながら、水都タワー前広場に立っていた。下半身はピンクのパンツと水色のブーツという珍しい姿ながらも、彼女は誇らしげにその場に佇んでいた。

「皆さんの声援のお陰で今日は勝つことができました!」

と、ミラクルナイトはファンに向けて、自身の感謝の気持ちを込めて高らかに宣言した。その言葉を受け、

「奈理子には俺たちが付いてるぞー」

と、ファン達から熱い応援が送られた。

「最近は負けてばかりで、辛いことも多くて、何度も泣くことがあったけど、今日皆さんの励ましのお陰で吹っ切れました!」

と、ミラクルナイトはそのままの姿で勇敢に語り続けた。そして、いつまでも変身を解除せずに、ピンクのパンツ姿を堂々とファンに見せ続けた。

その様子を見て、ドリームキャンディは心の中で、

「奈理子さん、みんなに自分のパンツを見てもらいたいんじゃないの?」

と微笑んだ。

そして最後に、ミラクルナイトは恥ずかしそうに微笑みながら、

「恥ずかしいけど…私の抱き枕を、私だと思って大事に使って下さい!!」

と、一言を残すと、タワー前広場に彼女の声が響き渡った。

勝利の後の余韻が広場に広がる中、ミラクルナイトの素直な言葉は、ファン達の心に深く残ることとなった。奈理子コールが今宵も木霊し、6月の青空に太陽が輝き、そんな水都タワー前広場に、一つのエピソードが刻まれた。そして、その日のミラクルナイトと彼女の勇敢な戦いは、ファンに語り継がれる伝説となったのである。

第58話につづく)

あとがき