ミラクルナイト☆第61話
商店街の日常の喧騒の中、舞台裏で繰り広げられている戦いの様子を、細めの目をした渦巻からの報告を通して、勅使河原は知った。彼は深いため息をつきながら、眉間の皺を深めて呟いた。
「やはり、タコ男の実力は予想以上だ。」
隣にいた渦巻もうなずきながら続けた。
「我が組織の中に、彼のような強者を倒せる者は、正直言っていません。」
実は、タコ男だけでなく、クモ男やカブトムシ男、そしてデコポン男といった、強大な力を持った者たちとは、ある一人の女性、カオリという名の彼女を中心に繋がっていた。その彼女自体は大したことはない。だが、彼女の周りには常に彼ら強者が集まっていた。
特に気になるのはカブトムシ男、その正体は鉄山という名の大学生で、カオリとは同じキャンパスで過ごす仲だった。勅使河原は彼の動向を特に気にかけていた。
しかし、渦巻は自信を持って言い放った。
「我らの強みはその数です。彼らがいくら強くとも、我らの軍勢の前では無力でしょう。」
確かに、勅使河原の指揮する組織は圧倒的な数を誇っていた。しかし、数だけではなく、質も上げていきたいと思うのは当然のことだ。
「次はだれにする?」
勅使河原が次の策を尋ねると、渦巻の答えは即座に返ってきた。
「ベニテングタケ女に用意させています。」
この名を聞いた瞬間、勅使河原の目には鋭い輝きが宿った。ベニテングタケ女、その毒の力を試す機会はこれまでなかったが、今回のミラクルナイトの戦いは、まさにそのチャンスとして最適だと彼は考えたのだった。
夏の訪れを感じる6月。学校の屋上での昼休みは、奈理子とライムの秘密の時間となっていた。しかし、真夏日を迎えると、日差しが容赦なく照りつける屋上は二人には暑すぎた。その暑さを避けるための場所を探すも、3年生の彼女と1年生の彼が学校内で二人きりで過ごせる涼しい場所は見当たらなかった。その結果、二人の交際は純粋なものへと変わり、週に何度か下校を共にするだけとなっていた。
「ライム、私の抱き枕、ちゃんと使ってる?」
奈理子はそっと問いかけた。ライムは一瞬考え、彼の特有の冷たい口調で
「ああ」
と答えた。それだけのやり取りだったが、奈理子の心は小躍りしていた。彼とのシンプルな交流が、彼女の日常の中で特別な存在となっていたのだ。
ライムとの別れの後、奈理子の日常は忙しくなった。一学期はミラクルナイトとしての戦いに明け暮れ、敗戦も多かった。だが、戦いが終われば奈理子に戻り、図書館での勉強の時間が始まる。過去の戦いでの遅れを取り戻すため、友人の綾香たちが助けを差し伸べてくれる。彼女たちのノートのおかげで、奈理子は学業でも少しずつ成果を上げ始めた。
そんな日々の中、恋も勉強も充実している奈理子。彼女の日常は甘酸っぱい恋の中と、ミラクルナイトとしての勇敢な戦いの中で織り成されていた。
商店街の夕闇が迫る中、鈴は占いの仕事を終え、夕飯の買い物をしていた。しかし、人々の行き交う中で彼女の独特の感覚が何かを察知した。不審な雰囲気を放つ一人の女が目に入った。
猫のような動きで女に近づく鈴。女の背後から顔を近づけ、低い声で言った。
「薬の臭いがする。あんた誰?」
その声に、女はビクッとした。急に後ろを振り返ると、鈴の冷静な目が彼女を捉えていた。
「勅使河原の手下でしょ。奈理子を待ってるの?」
鈴の声は冷ややかだった。女はしばらく沈黙してから、
「誰だお前は?」
と反撃したが、鈴の目は動じない。
「聞いてんのは私でしょ。さあ、名前を言いなさい。」
鈴の圧倒的な気迫に圧され、女はついに名乗った。
「ベニテングタケ女…」
と小さな声で。
鈴はにっこりと微笑んで言った。
「ナメコ姫にしろあんたにしろ、勅使河原ってキノコが好きなのね。」
しかし、ベニテングタケ女は鈴の言葉に怒りを見せた。
「ローション要らずの凜なんかと一緒にするな!」
鈴の目がキラリと光った。
「ああ、ナメコ姫は凜ちゃんって名前だったのね。意外とあの子、可愛いよね。」
一瞬の沈黙があった後、ベニテングタケ女が鈴に向かって問い返した。
「お前は誰だ?」
「私は占師よ。この商店街で私を知らない人なんていないわ。」
鈴は得意げに言い、ベニテングタケ女の腕を引き寄せた。
「ちょうど、奈理子がこちらに来てるわ。あなた、彼女を狙っているのでしょ?早くしないとドーリーキャンディが来ちゃうよ」
と鈴は女の背を押し倒した。
鈴に気勢を削がれた女だが、セーラー服姿で歩いてくる奈理子が見えた。彼女は物陰に消え、ベニテングタケ女の姿に変わった。
商店街の通りは、夕暮れの陰影で染められていた。人々が夕食の支度のために買い物をしている中、奈理子の前に一人の赤いキノコの怪人が突如として姿を現した。
「キノコ女!」
奈理子は一歩後ずさりながら叫んだ。
怪人は髪を振り乱しながら
「ベニテングタケ女よ」
と名乗った。奈理子はその名前を聞いて首をかしげた。ベニテングタケというキノコの名前は、彼女にはまったく知らなかったのだ。
「毒キノコだよ、奈理子ちゃん!」
と、蕎麦屋の店主が声を上げて彼女に警告した。
奈理子は元気よく、ベニテングタケ女に向かって
「キノコには変わりがないじゃない!」
と反論した。
ベニテングタケ女は手を腰に当て、
「そんなことはどうでもいいわ!早くミラクルナイトに変身しなさい!」
と、なかなか変身しない奈理子にイライラしていた。
奈理子は慎重に考えて言った、
「そんなこと言って、私が変身中を襲うつもりでしょ?」
彼女の目は周囲に変身できる隠れ場所がないかと探していた。
ベニテングタケ女は顔を赤くして
「襲わないから早く変身しろ!」
と怒鳴った。
その時、蕎麦屋の店主が手を差し伸べ、
「奈理子ちゃん、うちの店で変身していいよ」
と誘った。
奈理子の目が輝いた。
「ありがとうございます!」
と感謝しながら蕎麦屋の店内に駆け込んだ。ベニテングタケ女はその場でじっと待っていた。
やがて、店のドアが開き、そこには奈理子ではなく、光を纏ったミラクルナイトの姿があった。商店街の人々はその姿に歓声を上げた。ついに、ミラクルナイトとベニテングタケ女の激しい戦いが始まる瞬間が来たのだ。
夕日に染まる商店街でミラクルナイトとベニテングタケ女の対立が始まった。
「毒キノコだから絶対に毒を出すぞ。奈理子ちゃん、気を付けろ!」
と、近くの屋台のおばちゃんや店の主人たちが心配そうに声をかける中、他の見物客もミラクルナイトの勝利を願って応援を送った。
ミラクルナイトは深い呼吸をして、背後の市民に向かって手を振った。
「毒なら危ないから、少し離れてて下さい」
と彼女は冷静に忠告した。
しかし、ベニテングタケ女はにっこりと笑って言った。
「人の心配より自分の心配をしたらどうだ!」
と、彼女の口から毒ガスが噴出した。
「フェアリーシールド!」
ミラクルナイトの掌から放たれた水色のバリアーが毒ガスをすぐさま無害に変えた。街の人々から歓声が上がった。
「何!」
とベニテングタケ女が驚きの表情を浮かべる中、ミラクルナイトは得意げに言った。
「毒キノコと最初から分かってればどうってことないわ!」
だが、その矢先、ベニテングタケ女の足元から突如として菌糸が伸び、ミラクルナイトに向かって這い寄ってきた。彼女は瞬時に空へ飛ぶことを試みるも、菌糸に足を絡められてしまった。
バランスを崩して地面に落ちるミラクルナイト。ミラクルナイトのスカートが捲れ、奈理子の白いパンツがチラリと見えた。すると、果物屋のおじさんがにっこりと笑って
「今日の奈理子ちゃんのパンツは白だねー」
と声を上げた。
その一言で、商店街の人々からは何とも言えない空気が漂い、一部からは笑いが溢れた。
「見ないで下さい!」
ミラクルナイトは赤くなりながらもスカートをしっかりと押さえ、慌てた様子で叫び、立ち上がろうとした。
商店街の賑わいの中、ミラクルナイトとベニテングタケ女の戦いがピークを迎えていた。ミラクルナイトと商店街の人たちのやり取りに調子を狂わされるベニテングタケ女よだが、気を取り直しミラクルナイトに近づく。
「逃げろ、奈理子ちゃん!」
商店街の人たちが叫ぶが、ミラクルナイトは両足を菌糸に拘束されたままだ。
「今度こそ毒を喰らいなさい!」
街の人々の声援や心配の声、そうした騒ぎをよそに、ベニテングタケ女は毒の攻撃を繰り出そうとしていた。だが、その一瞬前、
「いやよ!」
の一声と共に、水色の光弾が彼女に向けて放たれる。至近距離でのその直撃により、ベニテングタケ女の体は大きく後方へ飛ばされ、歓声が沸き起こった。
ミラクルナイトの両足を拘束する菌糸も切れた。解放されたミラクルナイトは、瞬時にベニテングタケ女の上にジャンプし、光る右脚で一閃の
「ミラクルキック!」
を放った。そのキックの衝撃でベニテングタケ女は再び吹き飛ばされたが、彼女の執念深い手が、ミラクルナイトのスカートを掴んでいた。
「せめてスカートだけは…」
の言葉とともに消えゆく彼女の姿と共に、ミラクルナイトのスカートも姿を消してしまった。
街の人々は戦いの終息を喜び、ミラクルナイトに拍手を送った。しかし、彼女自身は、スカートがなくなっていることにまだ気づいておらず、
「みなさん、ありがとうございます!」
と無邪気に頭を下げていた。
そこへ、ドリームキャンディという名の仲間が駆け寄ってきた。
「もう終わったんですか?」
彼女は鈴に尋ねた。鈴はにっこりと微笑み
「うん、今日はきっちり勝ったわよ」
と答えた。しかしその後、ドリームキャンディの目はミラクルナイトの白いパンツと太股に注がれ、
「奈理子さん、今日もスカート脱がされてますね。パンツ丸出しだと教えてあげなきゃ」
と言ってミラクルナイトのもとへと駆けて行こうとした。
だが、鈴が彼女を引き留めた。
「奈理子わざとやってるのかもよ」
と冗談めかして言った。二人は目を合わせ、ユーモラスな笑顔を浮かべた。
(第62話へつづく)














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