ミラクルナイト☆第66話
清流大学の近くの不動産屋のガラス戸を開けた凜の心は、賃料と敷金の高額さに重く沈んでいた。アイドルとしての夢と、続けるための現実のギャップに打ちのめされていた。
足元のコンクリートが冷たく感じる中、その視線の先に現れたのは、あの大谷だった。
「考えてくれたかい?ナメコ姫」
彼の声はどこか陽気で、凜の現状とは対照的に軽快だった。
「あんた誰?うちの学生?」
凜の返しは冷ややかだ。
「僕は水大の学生。君の学校とは違うよ」
大谷の答えに、凜は
「ふーん、頭いいのね」
と興味なさそうに、すぐに彼を通り過ぎようとした。
だが、大谷の手が彼女の腕を掴む。
「部屋を探しているのなら、僕の実家に住んでみたらどうだろう?」
彼の目は真剣だった。そして、
「まだ就職も決まってないのなら、僕の実家で働いてみたらどうだい?」
しかし、凜の心には他の事が先にあった。ミラクルナイトを倒すこと。
「離してよ!」
大谷に掴まれた腕を振り解く凜。
「一体何なの!」
怒りを露わにする凜。
「僕は大谷だ。君の力が必要なんだ。ドリームキャンディと一緒に敵と戦って欲しい」
と大谷は凜を真剣な眼差しで見る。気圧された凜は
「私にはやることがある。それが終わったら考えておくわ」と言いその場を離れた。彼女は大谷を振り払い、
と言って去った。
街のざわめきの中、凜の足取りは堅く、前を向いていた。ミラクルナイトを倒し、勅使河原を見返す。その思いだけが、彼女の背中を支えていた。
奈理子は学校からの帰宅後、息を切らせながら玄関を駆け抜け、リビングへと突入した。暑さにうんざりした彼女の予想どおり、そこには隆が快適な場所を占拠してクーラーの風を楽しんでいた。
「うぅ、暑い!」
と奈理子は言いながら、ソファーの上の隆を優しく押し退け、彼が座っていた場所へとすぐさま陣取る。セーラー服のファスナーをサッと下げると、ふわりとスカートを持ち上げ、その下の白いパンツに直接、冷たい風を当てた。
隆は目を丸くして、少し驚きの表情を浮かべる。そんな姿を見た母親がキッチンから顔を出し、怒った口調で
「奈理子!そんな格好でリビングにいない!冷房を浴びるのは分かるけど、もう少し様子を見なさい!」
と叱った。
「はーい、わかったよ~」
と、奈理子は渋々と言いながら立ち上がり、シャワーを浴びに向かう足取りでリビングを後にした。
シャワーから出て、爽やかなTシャツとショートパンツの姿になった奈理子は、リビングに足を運んだ。しかし、ソファーはすでに弟・隆の砦となっていた。
「ママ、今年の夏祭りに新しい浴衣を着たいな」
と、顔を上げながら瞳をキラキラさせてねだる奈理子。彼女は夏祭りの日、ライムと手をつないで、新しい浴衣姿で町を歩く光景を夢見ていた。
隆は、ちょっとからかうように
「何だ、デートか?パンツも新しいやつ買ってもらったほうがいいぞ」
とコメントを投げかけた。
奈理子は隆の言葉を無視し、ママの方に身体を向けて
「本当にちゃんと勉強するし、隆の面倒だってしっかり見るから、お願い!」
と、少し甘えた口調で頼む。
隆は、少し不満げに
「姉ちゃん、面倒を見られるのは、自分のことだろ?毎朝、姉ちゃん起こしてやったり、姉ちゃんのパンを焼いてやってるのは、俺だからな」
と、言葉に力を込めて反論した。
家族のやり取りを横目に、奈理子は一瞬だけ目を閉じた。水都の守護神、ミラクルナイトとしての彼女は、このような日常の中で何度も家族を守ってきた。その強さと、優しさ。どちらも奈理子の大切な部分であり、家族の前では普通の姉として、その笑顔を保っていた。
水都公園の緑豊かな木々の間に凜の姿があった。太陽はすでに西の空へと沈みかけており、夜の幕はじわじわと下り始めていた。公園のベンチに腰を下ろし、深く吸い込んだ空気は夕闇の冷たさと夏の名残りの温かさが混ざり合っていた。
奈理子は、この時間にはすでに自宅に戻っているだろうと、彼女の家の灯りを遠くから想像する。ミラクルナイトとの対決のためにこの公園に来たが、不動産屋を回るのに時間が過ぎてしまい遅くなったことに苛立ちを感じていた。
瞬時にナメコ姫に変身することで、ミラクルナイトを呼び寄せることもできるかもしれない。だが、それによってドリームキャンディが先に現れる可能性も否定できない。
「ドリームキャンディと共に戦う…」
大谷の言葉が頭をよぎる。果たして、自分がヒロインのように変身し、戦う未来が待っているのだろうか。凜の中には、それを信じられる気持ちはまだ芽生えていなかった。
凜は誰とも戦いたくないと心から思っていた。ステージの上でファンに向けて歌うこと、それだけが彼女の望みだった。しかし、ミラクルナイトとの因縁だけは避けられない。明日、奈理子が一人になるその瞬間を見逃さないため、凜は今日の夜を迎えることに決めた。
翌日、夏の太陽が街を照らす中、凜は水都中学の門の近くの物陰で待機していた。放課後の賑わいの中、彼女の目的はただ一人、奈理子を探し出すことだった。
スライム男がいないかと警戒しながらも、やがて目当ての奈理子の姿を見つける。セーラー服姿の彼女は友達と腕を組み、楽しげに笑いながら歩いていた。その姿には、ミラクルナイトとしての闘志や強さは感じられず、ただの14歳の少女としての日常を楽しんでいるようだった。
その無邪気な笑顔を目の当たりにし、凜の中で何かが鳴動する。襲うべき敵とは思えない。しかし、目的を達成するためには奈理子を追わざるを得ない。友達との会話に夢中になる彼女を遠くからじっと見つめる凜は、彼女がどこに向かうのかを確かめるべく距離をとりながら尾行を始めた。
奈理子たちは図書館の扉を開けて中へ。一瞬、凜は動揺するが、屋外の日差しを避けるために彼女も図書館の冷房の効いた空間へと入った。本棚の陰から覗くと、奈理子は友達と熱心に何かを勉強している様子。試験勉強か、と凜は考える。確か、奈理子は3年生。受験を控えているのだろう。
長く感じる時間が過ぎ、ようやく奈理子たちは図書館を後にした。凜は再び彼女の後ろ姿を追いかける。数ブロック先、奈理子は友達と手を振り別れた。この瞬間を待っていた凜は、緊張と決意が入り混じった心境で、一歩を踏み出した。
綾香との笑顔での別れから、夏の炎天下を歩く奈理子。照り返すアスファルトからの熱に身を焼かれ、家の冷房を夢見る中、突然の出来事に彼女の足を止めさせる。
「あっ、ナメコ姫」
驚きの中、一際大きな声を上げたのは奈理子だった。ユムシ男の一件で敵とは思えなくなった彼女の目には、ナメコ姫はただの「ナメコ姫」として映っていた。
だが、ナメコ姫の方はどうだったのか。彼女の瞳は困惑と焦りが入り混じっていた。
「奈理子、ミラクルナイトに変身して私と勝負しなさい!」
という声は、ひどく断固としていた。
奈理子は驚きながらも、彼女の意図を探るように言った。
「何で私がナメコ姫と勝負しなきゃならないの?」
そんな奈理子の言葉に、ナメコ姫の瞳には更なる焦りが浮かぶ。そして、意を決したように、手からヌルヌルとした液体を放つ。その液体に触れた市民は次々と倒れ、苦しむ姿に街中が悲鳴と騒ぎに包まれた。
「私と勝負しなければ市民を攻撃するぞ」
とナメコ姫。
「何するの!」
奈理子の怒りが爆発する中、彼女はアイマスクを高く掲げる。水色の閃光とともに、その姿はミラクルナイトに変わった。
町内放送のスピーカーから流れる「ナメコ女出現」のアナウンス。しかし、それを訂正するかのように
「ナメコ姫だ!」
とナメコ姫が反論する声。
ミラクルナイトとナメコ姫。二人の視線が交差し、その間に張り詰めた空気が流れる。運命の戦いの幕が、今、切って落とされるのだった。
変身後のミラクルナイトの姿には、戦意よりも迷いが漂っていた。
「本当にナメコ姫は私の敵なの?」
と彼女が疑問を投げると、その返答はナメコ姫の激しいアタックとして彼女に届けられた。
「うるさい!」
と叫ぶナメコ姫。その手から飛び出すヌルヌル液は、意図的にミラクルナイトに向けられていた。しかし、ミラクルナイトはこれを予期していたのか、一瞬でフェアリーシールドを形成、液体の攻撃を跳ね返した。
ナメコ姫の技はミラクルナイトにとって未知の領域ではなかった。ヌルヌル液を防がれたナメコ姫はミラクルナイトに襲い掛かる。ミラクルナイトも応戦しキックやチョップを繰り出すが、その度にナメコ姫のヌルヌルとした身体に吸収され、ダメージを与えられない。そして、奇妙な光景が展開される。
ナメコ姫の目線がミラクルナイトのミニスカートからチラチラと覗く白地に水玉のパンツと太腿を捉えた。ミラクルナイトと戦うときはまずスカートを脱がさなければならない不文律があることをナメコ姫は思い出した。スカートを狙って、一気に襲い掛かる彼女。
「いや!ナメコ姫まで、何で…」
スカートを掴まれ戸惑うミラクルナイト。しかし、その隙を突かれ、ナメコ姫の頭突きを直撃。瞬間、彼女の手がスカートから離れ、ナメコ姫の意図通り、スカートが取られてしまう。
奈理子の下着が露わになり、驚きと羞恥で赤く染まった彼女の顔が、周りの人々にも明確に映し出されていた。
街の中心、どこか神秘的でありながらも危うい雰囲気が漂う広場で、突如として異常な出来事が起こった。市民たちの目の前に、ナメコ女として知られるナメコ姫が現れた。彼女の周りには、驚きや恐怖の色を帯びた顔が並ぶ。
そんな中、一人の戦士が広場に駆けつけた。彼女の名はドリームキャンディ。彼女の瞳に映ったのは、スカートが脱がされた奈理子の姿だった。
「また奈理子さんスカート脱がされちゃってる。今日も白。ダニ男のときと同じ水玉のパンツね」
と、彼女は状況をすぐに把握する。
自身の特別な武器、キャンディチェーンを構えるドリームキャンディ。
「奈理子さん、ここは私に任せて下さい!」
と、彼女はその場の緊張を断ち切るような勇気を見せた。
しかし、彼女の行動を止める声が飛ぶ。
「ドリームキャンディ、不用意にナメコ姫に近づいちゃダメ!
それは、ミラクルナイトの警告だった。だが、その叫びと同時に、ナメコ姫の手から奇怪なヌルヌル液が放たれる。
「わっ!何これ?」
驚愕のドリームキャンディ。そのヌルヌル液は彼女を捉え、動きを封じてしまった。
ナメコ姫は一歩踏み出し、ドリームキャンディを見下ろす。
「子供はそこで大人しくしておきなさい」
と、彼女の口から優越感溢れる言葉がこぼれた。
そして、その瞳には新たな炎が宿った。群衆の中から、勅使河原の姿を見つけると、彼に向けて凍るような視線を送る。
「私を捨てたことを後悔させてやるわ」
と、ナメコ姫の呟きは冷たく、その場の空気を一層濃厚にした。
広場の中心、戦いが繰り広げられているその場所で、ミラクルナイトは決意の表情を浮かべ、白い水玉パンツを露わにして立ち上がった。彼女の顔には恥じらいの色はなく、ただひたすらに前を見つめる瞳だけが存在していた。彼女が目指す先には、もう一度戦うこととなるナメコ姫の姿があった。二人の間には、熱く激しい闘志の火花が散りばめられていた。
一方、広場の片隅で、ヌルヌルの罠に囚われたドリームキャンディのもとへ、意外な訪問者が現れた。彼の名は大谷。彼の現れた瞬間、ドリームキャンディの心臓は高鳴った。彼女の中で、久しぶりの再会に胸がときめいていた。
しかし、大谷の言葉は彼女の予想を裏切るものだった。
「ナメコ姫を助けて欲しい」
と彼は言った。彼女はその言葉に驚き、そして少しガッカリした表情を浮かべた。彼女が久しぶりに再会した人物の最初の言葉が、敵であるナメコ姫のためのものだったからだ。
そして、大谷は更に計画を明かしていった。
「ミラクルナイトがミラクルヒップストライクをナメコ姫に放った瞬間、ナメコ姫の変身が溶ける前にナメコ姫を連れ去って欲しい」
と。
「連れ去るって、どこに?」
と不安げな声でドリームキャンディが問うと、大谷は神秘的な場所を指定した。
「水都神社の杜の奥の祠」
だが、ドリームキャンディは動けない。しかし、大谷は彼女に励ます言葉を送った。
「君はミラクルナイトが水色の光に包まれて復活する姿を何度も見てるだろう。それを君がやるんだ。ドリームキャンディ、君にはできる」
彼の言葉を信じ、敵であるナメコ姫を助けるために、ドリームキャンディは深く意識の中へと沈んでいった。そして、彼女の体全体が淡い黄色の光に包まれる現象が起こった。
暗い空に差す午後の光の中、戦いの舞台となっている広場で、ミラクルナイトは自らの信念を胸にナメコ姫との決戦に挑んでいた。ヌルヌルの罠さえ避ければ、ナメコ姫はさほどの脅威ではないと、彼女は勝手に思い込んでいた。
だが、彼女の予測は甘かった。
「このヌルヌルさえ…!」
と思いながらミラクルナイトは闘っていたが、ナメコ姫の鬼気迫るオーラとその猛攻に次第に圧倒されていく。彼女の手から放たれる技やキックは、次第にナメコ姫のヌルヌルに吸収され、滑ってしまい効果を持たなかった。本来の力を発揮できないミラクルナイトは、ナメコ姫の前で次第に窮地に立たされていった。
そして、その決定的な瞬間が訪れた。
ナメコ姫の得意技、ヌルヌルタックル。その全力を込めた突進をミラクルナイトは直撃で受けた。強烈な一撃の後、彼女は痛みと共に地面に叩きつけられた。意識の中に青白い光が舞い、彼女の視界が次第にぼやけていった。
その姿を見守る市民たちの間には驚愕の声が広がった。勇敢に戦っていたミラクルナイトが、スカートを脱がされ、その下の水玉のパンツを世界に晒しながら、ついにナメコ姫に敗れてしまったのだ。
広場にはミラクルナイトの息絶えたような姿と、その上で勝利を宣言するナメコ姫の影が重なり、戦いの終焉を迎えているかに見えた。
広場の中央に、水玉のパンツを露にしたうつ伏せの姿で、ミラクルナイトが横たわっていた。彼女の敗北の瞬間、一瞬の静寂が広場を包み、その後、観衆のささやき声が響き始める。しかし、そのざわつきの中、ナメコ姫の心は不完全な勝利感でいっぱいだった。
彼女は勝ち誇るべき瞬間に、群衆の中で勅使河原の顔を探し続けたが、その姿を見つけることができなかった。彼に見せるため、力を尽くして戦った彼女の努力は空しく、その事実が彼女の心を苛んだ。
白いリボンで飾られたミラクルナイトの髪と、水玉のパンツ。その光景を目の前に、ナメコ姫は思わずつぶやいた。
「勅使河原が見てないなら、わたし…負けてもよかったのに…」
その後の彼女の言葉は、広場の中央でのみ聞こえた。
「立ちなさい!ミラクルナイト!」
彼女の声には、かすかな期待と切なさがこもっていた。
しかし、反応はない。しかし、ナメコ姫は諦めなかった。彼女はそっとミラクルナイトの体を抱き起こし、力強く彼女の頬を叩いた。
「ん…」
と、その瞬間、ミラクルナイトは意識を取り戻したようだった。
「パンツ丸出しで寝るな!立ってこのナメコ姫を倒してみなさい!」
ナメコ姫の言葉に、ミラクルナイトは驚きの表情を見せた。
「ナメコ姫…」
ナメコ姫の瞳には、矛盾した情熱と絶望が混ざっていた。
「今、私を倒さないと、市民にもっと酷い悪さをするわよ!」
ミラクルナイトはゆっくりと立ち上がった。
「私もナメコ姫が嫌いではない。だけど、もう一度、戦うしかないのね。」
二人の瞳が交差する。再び、運命の戦いが幕を開けようとしていた。
風が静かに広場を舐め回していた。ミラクルナイトとナメコ姫、二人の戦士が再び対峙した。ミラクルナイトの瞳は疲労で乾き、体力の限界を既に超えていたのが明らかだった。彼女の吸い取るような息遣いが広場に響いていた。
と、その時、広場の隅で煌びやかな黄色い輝きが闪いた。その中心からキャンディチェーンが勢いよく飛び出し、瞬く間にナメコ姫の体をぐるぐると巻き取った。光の中から現れたのは、ヌルヌルの牢獄から脱出したとは思えない、ドリームキャンディだった。
「お前は…ヌルヌルに飲み込まれていたはず…」
ナメコ姫の声は驚きに満ちていた。
「奈理子さん、今です!」
ドリームキャンディはキャンディチェーンを振り回しながらミラクルナイトに声をかけた。
「ミラクルヒップストライクで彼女を解放してください!」
ミラクルナイトは迷っていた。彼女はナメコ姫との戦いを一人で終わらせたかった。しかし、ドリームキャンディの言葉に心が動かされる。
「ナメコ姫を助けるためです!」
と彼女の確固たる決意の声が響く。
それを信じるミラクルナイトは力を振り絞り、ナメコ姫に向かって大きくジャンプした。そして、彼女の特技、ミラクルヒップストライクが炸裂。彼女の水玉模様のパンツが、ナメコ姫の顔面にピッタリと食い込んだ。その瞬間、ドリームキャンディはキャンディチェーンを引き寄せ、ナメコ姫を密着させたまま、黄色い光に包まれて天へと昇っていった。
風に吹かれながら、ミラクルナイトはその後姿をただ見送るばかりだった。夕陽の赤みが彼女の水玉のパンツを照らし、太腿を撫でる風が心地よかった。ナメコ姫の最後の表情、あの優しい微笑みが、彼女の心に深く刻まれることとなった。広場には群衆の視線と彼女の名を称える声が溢れていた。
水都神社の古木たちが時の流れを静かに見守る中、杜の一角で二つの少女の姿があった。ドリームキャンディとして戦っていた寧々は、その魔法のヴェールを解き、普通の小学生の姿に戻っていた。そして、彼女の隣には、ナメコ姫の強烈なオーラから一転、繊細な美しさを放つ凜が横たわっていた。
寧々の瞳には、驚きと興味が混ざり合っていた。彼女が想像していたナメコ姫の正体とは、まるで違う、テレビで見るアイドルのような可愛らしい女性だった。寧々は、凜の無防備な寝顔をぼんやりと眺めていたが、その静寂は大谷の登場で破られた。
「ナメコ姫を連れて来てくれてありがとう」
と、大谷は寧々に感謝の言葉を掛けた。
寧々の目が疑問に満ちて大谷を見つめる。
「この人、誰なんですか?」
大谷はゆっくりと息を吸い込み、
「凜。清流大の学生だ。アイドルをしている」
と説明した。彼の言葉に、寧々の目には驚きの光が輝いた。
「やっぱり…」
と彼女は心の中でつぶやいた。しかし、大谷の次の言葉
「売れない地下のアイドルさ。歌はうまい」
に、寧々は再び驚きを隠せなかった。彼女は、売れない地下のアイドルでこれだけ可愛いのならテレビに出るアイドルはテレビで見る以上に可愛いんだろうなと思いを馳せる。
大谷は少し遠くを見つめながら、
「しばらく僕は、凜の傍にいる」
と告げた。彼の言葉に、寧々の心はひどく寂しさで締め付けられた。大谷は寧々のその心境を察知すると、
「もう、僕が何も教えなくても、寧々は立派に戦える」
と優しく言葉を続けた。
寧々はうつむき、ゆっくりと頷いた。
「凜はこれから君の心強い仲間になってもらうために、僕は凜を戦士として育てなければならない」
大谷が凜を訓練し、新たな仲間として育て上げることの意義を理解していたが、寧々心の中で小さな波紋が広がっていった。
大谷は寧々の両肩を掴み、
「寧々は強い」
と力強く言った。その言葉に、寧々の目には一筋の涙が浮かんだ。寂しさと誇り、それらの感情が入り混じった瞳で、彼女は大谷を見つめていた。
(第67話につづく)














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