DUGA

ミラクルナイト☆第51話

水都大学のキャンパス内に特設されたリングでは、大歓声が響き渡っていた。水都学生プロレス連合(SGPR)の王者として、10度目の防衛を勝ち取った鉄山は、その栄光に浸りながら、誇らしげに花道を後にした。その顔は疲労とともに、紛れもない勝者の表情を浮かべていた。

彼の目は観客の中に混ざる一人の美女、カオリを捉えた。その視線は明確なメッセージを含んでおり、彼女に対し、もし何か頼みがあるのなら控室へ来るように伝えていた。カオリはそれを理解し、静かに頷いた。

控室で二人が向き合った時、カオリはそっと口を開いた。

「頼みがあるの」

と。彼女はクモ男、カブトムシ男、デコポン男の三人を薬を売った者たちの中で最もその力を評価していた。しかし、近頃ではクラゲ男である勅使河原の手下たちの動きが目立っており、それが何か大きな事を企んでいることを示していた。その動きを牽制するため、カオリもミラクルナイトへのアプローチを強化すべきだと考えていた。

クモ男である糸井はスライム男であるライムと親しすぎて、真剣にミラクルナイトと戦うことはないかもしれない。デコポン男である不知火は頼んだが、ミラクルナイトを少し苛めただけでその場を去ってしまった。結局、カオリが一番頼りにしていたのは、自分と同じ大学の学生である鉄山だった。

彼女は鉄山に訴えかけた。

「屈指のパワーファイター、カブトムシ男の健在ぶりを見せてよ」

と。過去に鉄山はミラクルナイトを破ったが、ドリームキャンディには敗北た過去がある。

鉄山は顔をしかめた。あれは、たまたまドリームキャンディのラッキーパンチが当たったので引き下がっただけだ。戦い自体はドリームキャンディを圧倒していた。

「あれは油断しただけだ。やるとしたら、弱すぎるミラクルナイトよりドリームキャンディだな」

と彼は言った。カオリはすぐに反論した。

「正体不明の小学生よりも、水都の絶対アイドル奈理子の方が美味しいでしょ」

と。

「ミス水大のカオリ様の頼みじゃ、仕方がない。またミラクルナイトに赤っ恥かかせてやるか」

と、鉄山は思い切ってその任務を引き受けた。カオリの顔には満足そうな微笑みが浮かんだ。

「前回以上に奈理子を目茶苦茶にしてやって」

と、バラ女であるカオリはささやいた。それは、これから始まる新たな戦いへの前奏曲であった。


「気持ちいい…」

その言葉が奈理子の唇から、ゆっくりと、まるで時間が止まったかのように漏れてきた。

初夏の陽射しは、昼休みの水都中学の屋上を温めていた。塔屋の上に座った奈理子は、スカートを脱がされ、白いパンツと肌色の太腿を、空から降り注ぐ暖かな光と、ライムの眼差しに晒していた。皮膚を守るための日焼け止めはきちんと塗られており、風に飛ばされないように脱がされたスカートの上にはリュックが置かれていた。

ミラクルナイトとしての活動を通じて、敵からスカートを剥ぎ取られることに、そして普通の女子中学生としてライムに脱がされることに、奈理子は慣れてしまっていた。そんな奈理子を、ライムは背後から抱きしめ、その暖かさを全身で感じていた。

初めてスライム男としてのライムに出会ってから、もう一年以上経った。最初はただの敵だった彼が、徐々に奈理子の心を揺さぶる存在に変わっていった。ライムの中に感じる優しさは、次第に奈理子の心を癒していった。

今、ライムの前で恥ずかしい姿をさらけ出すことが、奈理子にとっては何よりも嬉しい瞬間となっていた。だが、その幸せな時間は昼休みの屋上だけ。校舎の中に戻れば、3年生の奈理子が1年生のライムに恋心を抱く姿を、他の生徒に見せるわけにはいかなかった。

その胸に秘めた想いと、昼休みの終わりを告げるチャイムの刻一刻と迫る時間への切なさが混ざり合い、奈理子の心情は甘酸っぱさに包まれていた。


水都のランドマークである水都タワーの周囲には商業施設が集まり、夏の陽光が広場を美しく照らしていた。6月の足音が近づく頃、奈理子は友人の綾香と共に放課後の時間を使い、新しい夏のファッションを見に行っていた。

広場の中心には、水都テレビの夕方の情報番組が流れる大型ビジョンが設置されていた。視線をそこに移すと、突如として画面にはカブトムシ男の姿が現れた。生放送のスタジオに乗り込み、彼はアナウンサーからマイクを強引に取り上げた。

「ミラクルナイト、よく聞け!明日土曜日10時、タワー前広場で勝負だ!」

彼の声は広場に響き渡り、周囲の人々を驚愕させた。カブトムシ男は更に命令を続ける。

「水都学生プロレス連合、明日10時までにタワー前広場にリングを設置しろ!ミラクルナイトが簡単に怪我しないように分厚くマットを張れよ!」

そして、

「水都テレビ、お前らを興行の主催者に主催者にしてやる。収益から水都学生プロレス連合に会場設営費用を払ってやれ!」

カブトムシ男は水都学生プロレス連合への配慮も忘れなかった。彼の大声は、まるで戦闘を宣言するように響き渡り、マイクを投げ捨てるとスタジオからは一方的に退場した。

そのカブトムシ男の言葉に、奈理子は昨年秋に彼と戦った記憶を思い出した。水都公園で行われたトークショーに乱入され、ミラクルナイトは完全に打ちのめされてしまった。その時の恐怖が蘇り、彼女の膝は震え始めた。

「私がカブトムシに勝てるはずがない」

と、そんな思いが頭をよぎった瞬間、彼女の体がよろけ始めた。それを支えるように綾香が傍にいて、奈理子の体をしっかりと抱きしめた。

タワー前広場にいた人々が、その状況を察知すると、まるで波が押し寄せるように、

「奈理子!奈理子!」

と名前を呼ぶ声が次第に大きくなっていった。それはまるで、彼女を励ますかのような、暖かい奈理子コールだった。


突然の対決宣言に水都タワー前広場は大きな波紋を呼んでいた。そこに立っている奈理子の体は、綾香に支えられ、街の人々からの声援に背中を押されていた。水都の守護神、ミラクルナイトとして、市民の期待を裏切るわけにはいかない。それでも、現実的にはミラクルナイトがカブトムシ男に敗北するのは必至だった。まともな勝負であれば、敵の一撃で瞬殺される可能性すらある。しかし、奈理子の中には一抹の期待感があり、自身の力がどこまでカブトムシ男に通用するのか試したいという思いがあった。

昨秋の対決の映像は、未だに動画投稿サイトで再生回数のトップを独走していた。カブトムシ男に無様に敗北したとしても、市民は彼女の挑戦を喜んでくれるだろうと思った。そして、奈理子は自身の心に誓った。カブトムシ男に再挑戦しようと。

その奈理子がタワー前広場にいるという情報を受け、マスコミ各社が瞬く間に現場に駆けつけた。彩香に体を支えられていた奈理子はカメラとマイクを向けられると、人が変わったように堂々とした表情で言った。

「ミラクルナイトの力ではカブトムシ男には勝てないかもしれません。でも、水都の人々の期待に応えられるように、私は全力を尽くします。その結果が皆様の期待を裏切ることになるかもしれませんが、私の精一杯の戦いを、ぜひご覧ください。よろしくお願いします!」

彼女のその言葉は、市民から絶大な人気を誇るヒロイン奈理子の強い意志を示していた。奈理子の隣で、驚きの表情を浮かべる綾香。それを見て、一斉にカメラのフラッシュが彼女に向けられた。地鳴りのように響き渡る

「奈理子!」

のコール。その雰囲気はまさに最高潮で、水都タワー前広場は一体感に包まれ、期待の空気が高まり続けていた。


翌朝、奈理子は鏡に映る自分の顔をじっくりと見つめた。微かに色をのせたナチュラルメイク。完全にナチュラルな顔とどこが違うのか分からない程度だが、これが自分を少しだけ自信を持てるようにさせてくれる。

パンツは、以前にライムが可愛いと言ってくれた白い木綿のパンツを選んだ。そのパンツには前に可愛らしいフリルとリボンがついていた。スカートはいずれ脱がされるだろうから、大切なのはパンツ。チェックを入れてみる。汚れは一つもない。真っ白、純白だ。

制服にするか、それとも自分の気持ちを盛り上げるために、おしゃれをして出かけるか。そんな思考の末に、彼女はガーリーなチェックのワンピースを選んだ。ミラクルナイトへ変身するのだから、服は制服でも良かったのだが、奈理子自身が自分を可愛く見せることで心の準備をしていた。

鏡の前に立つと、

「うん、可愛い」

と自己確認を行った。この自己肯定が、これからの戦いへの一歩を踏み出す力になる。

部屋を出ると、弟の隆が立っていた。

「何?」

と奈理子。隆の目に映る姉の姿は、決闘の場に向かう人間には見えなかったはずだ。実際、隆は戸惑っているように見えた。

「姉ちゃんってさぁ…」

と話を切り出すが、何だか言葉が詰まってしまったようだ。それでも隆は勇気を振り絞ったように、

「可愛いよな…」

と言った。他に言いたいことがありそうな感じだったが、その言葉が、奈理子の心を更に強くした。

リビングに行くと、父母がいた。

「行ってくるね」

と軽く奈理子が告げると、父は

「怪我だけはするなよ」

と心配そうに言った。母も黙って頷いた。彼らの気持ちが痛いほどわかった。娘がお洒落して辱めを受けに行くのを見送る親心とは、一体どんなものなのだろう。

このような感じは、去年の夏、ライムと初めてのデートの時も同じだった。恥ずかしい目に遭わされると知りつつも、自分を可愛く見せようと思い、おしゃれに身を包んで出かけた。今日もそうだ。ミラクルナイトはカブトムシ男に必ず負けるだろう。そして、その後で、街の人たちの前で辱めを受ける。それでも、どんな辱めを受けようと、ミラクルナイトとしての誇りは決して失わない。そう決意した奈理子は、静かに玄関のドアを開けた。

そのとき、玄関先には寧々が立っていた。

“今日は待ち伏せが多いな"

と心の中でつぶやいた。しかし、それは心の奥底で微かに湧き上がる緊張感を和らげるためのささやかな自己弁護でもあった。


寧々はその日、心を固めて奈理子の家の前に立っていた。彼女がそこにいる理由は一つだけ、ミラクルナイトをカブトムシ男と戦わせないため。ドリームキャンディでさえ、以前、カブトムシ男を撃退したのはただの偶然だと思っているのだ。ミラクルナイトがカブトムシ男に勝つことはありえない。そして今日、その戦いは水都テレビの全国生中継で放送されることになっていた。戦いが終われば、奈理子は、大勢の視線の中で、避けられない辱めを受けることになる。

しかし、玄関から出てきた奈理子は、まるでこれからデートにでも行くかのような可愛らしさをまとっていた。その姿に一瞬、寧々は驚いた。それでも、心の中で彼女は納得した。やはり奈理子は可愛い。

「どうしたの寧々ちゃん」

と奈理子が尋ねると、寧々は思い切って、

「奈理子さん、行かないでください」

と言った。奈理子の顔が一瞬、困ったようになった。

「カブトムシ男はドリームキャンディに任せてください。奈理子さんが辛い思いをして戦う必要はありません」

と、彼女は訴えた。

しかし、奈理子はただ優しく笑って、

「寧々ちゃん、心配してくれてありがとう。でもね、私はミラクルナイトなの。ミラクルナイトはこの街の人たちの希望だから、私は街の人たちが期待してくれるのなら、負けると分かっていても戦わなきゃいけないの」

と言った。

寧々はただただ黙って、奈理子の言葉を受け入れた。何も言い返すことができなかった。奈理子の覚悟がそこには感じられた。

「寧々ちゃんも私の戦う姿をしっかり見てね」

と、奈理子は優しく微笑みながら、決闘の舞台へと歩き始めた。前回の戦いの記憶が、寧々の心を引き裂く。ミラクルナイトが倒れ、失禁してしまい、アイマスクを剥がされ、大勢の人々の前で逆さ吊りにされたあの日。カブトムシ男が今日、それ以上の辱めを奈理子に与えると思うと、寧々の心は絞り取られるようだった。

それでも彼女は、奈理子の戦いを見守ることを決心した。奈理子がその決意を果たす姿を、目に焼き付けることが、自分にできる唯一の支えだと思ったのだ。

第52話へつづく)