DUGA

ミラクルナイト☆第181話

「奈理子さん、また映ってるよ。ほら、今日の“ミラナイまとめ”」

「う、うう……ありがとうすみれさん……でも、もうそのページ見ない……」

休み時間、スマホを見せてくるのはクラスメイトのすみれ。
画面には、SNSでバズっている動画の一覧――
そのサムネイルのほとんどが、**「ミラクルナイトVSトケイソウ女」**の名場面。

「パンツ脱がされる直前の奈理子ちゃん、目がマジすぎてヤバい」
「泣いてるのに立ち上がるって……あれ、令和のジャンヌだろ」
「“それでも守る”っていうスピリットに感動して10回リピートした」

など、コメント欄は異様な盛り上がりを見せていた。

「……全部、恥ずかしいのばっかりなのに……」

奈理子は真っ赤になりながら、こっそり机に突っ伏した。

「でも……うん、みんなが応援してくれるのは、ちょっと……嬉しい、かも」

窓の外、澄んだ空が広がっている。

「ねえ奈理子さん。今日、放課後どうするの?」

「んー……寄り道しないでまっすぐ帰ろうかな。
隆が、最近“家に姉がいる時間少ない”って寧々ちゃんに言ってたみたいだし……」

そのとき。奈理子のスマホにメッセージが入った。

”パンツ脱がされたって聞いてないぞ”

ライムからだ。

”脱がされたパンツは回収したのか?”

奈理子が顔を真っ赤にして飛び上がる。

周囲の女子たちがヒューヒューと冷やかす中、
すみれがぼそっと言った。

「……なんだかんだで、奈理子ちゃんって、ヒロインだね」

奈理子は一瞬目を丸くし――

「う、うんっ……そう、だね。ちょっとずつ、だけど……頑張ってるよ」

そう言って、小さく笑った。


ザーッ……

夏の名残を引きずった重たい雲が、水都の空を急速に覆っていった。
放課後の帰路を急ぐ制服姿の少女――野宮奈理子は、水色のセーラー服を濡らしながら、公園へと足を踏み入れていた。

「……突然の雨……傘、持ってこなかったのに……」

水都公園の遊具広場。
雨に濡れた滑り台やブランコの向こう、灰色の空に、一筋の稲妻が走る。

──ドオォォン!

雷鳴が轟いたその瞬間だった。

山型遊具の頂上に、異形の影が立っていた。

そのシルエットは細長く、うねり、肌は灰紫に濡れたような光沢。
その両脇には、にゅるりと蠢く2体のウズムシ男が従うように佇んでいる。

「なっ……!?」

奈理子は一歩後ずさった。

その影は、ゆっくりと首を傾け、奈理子を“見下ろす”。

「我が名は、ナメクジウオ男。
水都の進化に抗う“白き退化”――その象徴、貴様に告げよう。
今日より、この地の摂理は我が軟体にて塗り替わる」

声はくぐもり、震えていた。
だが、その響きには確かな威厳と、なにより“迷いのなさ”があった。

奈理子はすぐさま、制服の胸元に手をやり、アイマスクを取り出す。

「私は……負けない。
どんな相手でも、水都を傷つけるなら……っ!」

アイマスク装着――!

水色の光が弾け、スカートが翻り、白く清らかなコスチュームが彼女を包む!

「水都の平和を乱す者は、ミラクルナイトが許しませんっ!!」

雨の中、雷鳴を背に、ミラクルナイトが華麗に舞い、
すかさず右手を前に突き出す!

「ミラクル・シャインブラスト!」

手のひらから放たれた水色の光弾が一直線に飛ぶ――!

「……ふ。」

ナメクジウオ男が小さく笑った。

次の瞬間、山型遊具から飛び上がる三つの影!

ナメクジウオ男と、左右のウズムシ男が、跳躍と共に光弾を軽々と回避!
鉄製の山型遊具が彼らの推進力を増幅させたかのように、風と共に舞い降りる。

「なっ……は、速いっ!」

ミラクルナイトが防御の構えを取ろうとした刹那――

スルリッ

「きゃあっ!?」

ナメクジウオ男が擦れ違いざまに伸ばした触手が、
ミラクルナイトのアイマスクとスカートを同時に剥ぎ取っていた!!

スカートが宙を舞い、雨に打たれながら落ちていく。
地面に落ちたスカートとアイマスクを、ウズムシ男がまるで宝物のように拾い上げる。

「う、うそ……変身直後なのに……っ!!」

奈理子の顔が露わに、
そして白いショーツが雨に濡れて透け始める――

ナメクジウオ男は、すっと降り立ち、粘液のような指先を空に翳した。

「白き偶像よ。
貴様の羞恥、無力、それがこの地の“新しい始まり”だ」

雷鳴とともに、
ミラクルナイトが初手でアイデンティティを失った“異常な戦場”が、始まった。


ザー……ザー……

滝のような雨がミラクルナイトの肩を叩く。
頭上の雲は黒く、稲光が不規則に空を引き裂いていた。

ミラクルナイトの姿は、すでに戦う者のそれには見えなかった。
スカートは奪われ、ブラウスの裾も雨に濡れて透けかけている。
木綿のショーツは雨を吸って脚にまとわりつき、歩くだけで重さに引っ張られるようだ。

その身体を揺らしながら、ミラクルナイトは叫ぶ。

「この街は……わたしが……守るんだからぁッ!!」

アイマスクも剥ぎ取られ、素顔をさらしたまま、
彼女は全身の力を込めて跳び上がる!

「渾身のハイキックッ!!」

スパーン!

ナメクジウオ男の顔面めがけて振り抜かれる、雨と共にしなる上段蹴り
スレンダーな脚が宙を切り裂いた――

だが、

「――見事な脚技。だが、浅い」

ぬるり。

ミラクルナイトの足が、粘液のように“沈む”。
蹴った手応えが全くない――まるで**“液体に触れた”だけ**のような錯覚。

「なっ……何で……あたってるのに……!」

焦りながらも、パンチ、チョップ、回転キック――
だが全てが、ねっとりとした身体に吸われ、意味をなさない。

ナメクジウオ男は一歩も動かず、その場で構えもしない。

「貴様の攻撃、全て拝見した。
そして理解した――“その程度”で貴様は、この都市の象徴なのか?」

「や、やめて……っ!」

ナメクジウオ男の触手が、突然舞い、ミラクルナイトの腰へと伸びる。
濡れたコットン生地に巻き付き、雨で緩んだショーツを、するりと剥ぎ取った。

「ひっ……あっ……!」

空中に白が舞う。
奈理子の顔が青ざめ、膝が崩れる。

打ち捨てられたショーツが水たまりに落ち、泥に染まる音が響いた。

「貴様の白。
それが、この都市の“象徴”だというのならば、
この手で潰す価値がある」

戦意を喪失し、ただ地面に膝をつくミラクルナイト。
その彼女に、ぬめる影が滲むように迫っていく――

2体のウズムシ男。

「ひ……やだ……誰か……誰か、助けて……っ」

誰もいない。
市民の声援も、ファンの応援もない。
ただ、雨が降る音と、足音が近づく音――

その時だった。

「――奈理子さんをいじめる者は、中学生戦士ドリームキャンディが許しませんっ!!!」

ズガァァン!!!

虹色の光線が、横から閃くように飛び込み――
2体のウズムシ男を光と共に一瞬で消し飛ばした!

ミラクルナイトの頬を撫でた風の先に、
橙のドレスをなびかせた凜々しい少女が、
キャンディチェーンを構えて立っていた。

「寧々……ちゃん……!」

ドリームキャンディ。

「奈理子さん、遅れてすみません。でももう、大丈夫です。私が来ましたから」

静かに、しかし確かに宿る闘志――。
雨の中、ふたりのヒロインが再び並び立つ。

ナメクジウオ男は、初めてその目をわずかに細めた。

「……貴様が、“第二の刃”か。
ならば、今宵は――貴様の性能も、試させてもらおう」

雷鳴が、ふたりの影を浮かび上がらせる。


「くっ……」

ドリームキャンディが構えるキャンディチェーンの先に、
ナメクジウオ男の粘液に濡れた長い体が、静かに影を落とす。

「お前……ここで引くつもりなの?」

橙のドレスは雨を弾く。雨の中の戦いはあまり経験が無い。それでも、ドリームキャンディは一歩も引かない。

だが、ナメクジウオ男はその場に立ち止まり、
濡れた白い布を指先で摘まみ上げた。

「……戦力、推定完了。次回以降の変化に期待しよう。
そして――これは、“我が同胞”への献上品として預かっていく」

それは、奈理子=ミラクルナイトの――
失われた白。

ミラクルナイトが顔を伏せ、唇を震わせた。

ナメクジウオ男は、蔓延る粘液のような足音を残して背を向ける。

「白き偶像よ。
お前の“純”が崩れる音を、我らは待ち望んでいる」

ぬるり、と雨粒が滑るように、闇の中へと溶けて消えていった。

残されたのは、破れた土と水たまり、そして膝をついたままのミラクルナイト

ドリームキャンディが静かに寄り添う。

「……奈理子さん、パンツは、私が……あっ、が……いえ、なんでもないです……」

「うぅ……見ないで……恥ずかしいよぉ……」

そのとき。

雲が、割れた。

真上から、雨を切るように陽の光が差し込む。
土と水と涙を照らすように、優しく、あたたかく――

「でも……ありがとう、寧々ちゃん。助けに来てくれて……」

「……当然です。だって、あなたは私の――大切な“ミラクルナイト”ですから」

ふたりの少女が並んで立ち上がる。
びしょ濡れで、泥だらけで、少し泣いて、――それでも。

その瞳には、確かな強さが戻っていた。

「新しい敵……“あれ”は、手強い。
でも……水都を守るためなら、私――何度でも立ち上がるよ」

「はい。私たちなら、きっと守れます」

雨上がりの遊具広場に、光と決意の影が並ぶ。

第182話へつづく)

あとがき