ミラクルナイト☆第85話
ある隠れた建物の地下。暗い空間に紫色のネオンが光る中、タコ男のアジトが広がっている。中央のソファーにタコ男。その周りを3人のブラックナイトが取り囲んでいた。3人のブラックナイトのうち、白いパンツの2人は中学2年の奈理子から、残るピンクのパンツの1人は中学3年生の奈理子から作られたスライムクローンである。
「九頭君、よく来てくれた。」
タコ男の澄んだ声が空間に響く。彼の後ろに立つブラックナイトたち、特にピンクのパンツのクローンは九頭をじっと見つめていた。
理学部助教の九頭はしばしの沈黙の後、深く一礼した。九頭は水都製薬に招聘され、今年度一杯で大学を辞めることになったことの報告に来たのである。
「教授、来年度より水都製薬での活動に専念することとなりました。」
「ワシと同じ学部であったならば、君をもっと出世させてやったのだがな。しかし、大学で学生の相手をするよりも、勅使河原の元が変身薬に関しては研究に専念できるだろう。」
九頭は学部は違うがタコ男の研究に共鳴し、タコ男とともに変身薬の研究の中心を担ってきた。九頭には自分がいなけれ変身薬を生み出すことはできなかったという自負がある。しかし、このまま大学にいても理学部の准教授のポストに空きはなかなかできない。そこに、水都製薬から新工場に併設される研究所の責任者として声が掛かったのだ。大学教員では手にすることができない巨額の報酬も約束されていた。
タコ男の目には冷徹な光が宿っていた。
「しかし、その前にひとつ、質問させてもらう。最高に進化した生物とは何だと思うか?」
九頭は思わず
「人間では。」
と口にしたが、タコ男の続く言葉に興味津々となる。
「そう、一つは人。もう一つ、昆虫だ。」
そして、タコ男は問う。
「最強の昆虫は何だと思う?」
「カブトムシにクワガタ、スズメバチ…いや、アリ…」
九頭が次々と昆虫の名前を挙げる中、タコ男の顔には得意の笑みが広がる。
「虻じゃよ。」
「虻?」
九頭は驚きの声を上げた。
タコ男は手を広げ、語りだした。
「昆虫界の中でも虻は特異な存在。水都製薬に行く前に、虻の薬、最強の変身薬をワシと君とで作るのだ。」
九頭の瞳が輝いた。
「それならば、私も全力で協力させていただきます。」
タコ男は満足げに微笑みながら、ブラックナイトたちに触手を伸ばした。
「九頭先生、変身薬の研究はもちろん、女の楽しみ方にも精を出してくれ。」
彼の声には、冗談と真剣さが入り混じっていた。
「女の体を楽しむのには人より虫より、蛸が一番じゃ。」
アジトの中には、ブラックナイトたちの息遣いだけが響いていた。
霞んだ空気の中、タコ男のアジトを後にした九頭は疲れきった足取りで夜の街を歩いていた。彼の心は不安と期待でいっぱいだった。学内での立場、研究、そしてタコ男との合間に織り交ぜられる特別な計画。全てが九頭の頭を回り続けていた。
ブラックナイトと楽しげに遊ぶタコ男の姿が、何度も彼の脳裏を過ぎった。
「俺も、奈理子と少し楽しんでみようかな」
と、淡い期待とともに一筋の欲望が心をよぎる。
奈理子をどうやって自分の元へと呼び出すか、と考えるうち、彼はある名前を思い出した。
「そうだ、カオリ君に相談してみよう」
彼女は医学部の有望な学生で、タコ男の一番弟子だ。しかし、カオリは4年生になるとタコ男のアジトにあまり顔を出さなくなった。彼女は医者を目指している。九頭は、彼女が大変な時期に邪魔をしてはいけないと思い直した。
「ラブレターでも出してみるか…」
九頭は一人笑った。奈理子の大切な人を人質に取る、街を破壊すると脅す。こういった陳腐な手法に頼る自分に、九頭は若干の嫌悪感を覚えた。
しばらく考えた後、彼は一つの結論に達した。
「挑戦状にするか」
素直に、正々堂々と。
九頭は手帳を取り出し、ペンを手に取った。その瞬間、彼の頭には言葉が溢れてきた。挑戦状の文言、そして彼と奈理子との未来のビジョン。
夜の街が、静かに九頭の運命を見守っていた。
太陽が照りつける朝、学校の門の前でライムは歩を進めると、突如として現れた一人の男に足を止められた。
「久しぶりだね、ライム」
と、その男、九頭が微笑む。
「九頭先生か。珍しいな」
ライムは眉をひそめ、九頭の真意を探った。九頭は優雅に封筒を取り出すと、ライムに差し出した。
「これを奈理子に渡して欲しいんだ」
と。
「果し状」と筆書きされたその封筒に、ライムは疑問を感じる。
「なぜ直接渡さない?」
と彼は問いかける。九頭の答えは、少し非現実的だった。
「ライムが渡してくれる方が、奈理子は警戒しないだろうからさ」。
果し状を渡されて警戒しない人はいるのだろうか。ライムの心の中は混乱し、不信感が広がっていった。しかし、九頭の態度は何も隠していないかのようだった。
「ブラックナイトで遊びたいなら、先生にも出してやるよ」
とライムは冷静に答えるが、九頭の要望は異なっていた。
「いや、僕はミラクルナイトと直接会ったことがないんだ。春には大学から離れることにしたし、その前に一度は彼女と手合わせをしてみたいんだよ」
と九頭が言うと、ライムは一瞬考え込んだ。
九頭は続ける。
「ライム、君が奈理子のメロメロビームにかかっていることは知ってるよ。でも、奈理子に怪我はさせないから安心してほしい」
と微笑む。
何がメロメロビームだ、とライムは少しむっとしたが驚いて、果し状を受け取ることにした。
「ありがとう。たっぷり奈理子を可愛がってあげるね」
と言いながら、
「これ、お礼」
九頭はライムに「水都ファミリーランド」のペアチケットを手渡した。
「奈理子と2人で楽しんできなよ」
と微笑む彼の背中を見ながら、ライムは果し状を握りしめて学校の門をくぐった。
昼休み、校舎の屋上はそよ風とともに平和な時間が流れていた。その中、ライムは奈理子に一枚の果し状を手渡した。
「これ、何?」
不審そうに果し状を見つめる奈理子。
「ライムが私と、決闘?」
と疑問に思う彼女の顔を見て、ライムが説明する。
「違う、これはヒドラ男からだ。」
「ヒドラ男って、誰?」
と奈理子。
「タコ男と一緒に研究してる奴だよ。」
と答えるライム。
奈理子の瞳に驚きの色が浮かぶ。
「まさか、あの怪人たち、タコ男とヒドラ男が作ってるの?」
と、彼女の声には信じられないという気持ちが溢れていた。
ライムは言っていいのか少し迷った後、語った。
「怪人になる薬を作っているんだ。」
「それなら、タコ男とヒドラ男を倒せば、怪人たちも出てこなくなるのね」
奈理子は終わりの見えなかった戦いに光が見えてきたような気がした。希望に満ちた瞳でライムを見つめる奈理子。しかし、ライムの言葉は彼女の希望を打ち砕くものだった。
「ヒドラ男は…強い。タコ男と同等の力を持っていると思った方がいい。」
「そんな相手に私が勝てるわけないじゃない!」
と打ちひしがれる奈理子。彼女はライムの手を取った。
「ライムも一緒に来て。」
ライムは果し状を指差し、冷たく言った。
「ここには、一人で来いと書いてある。」
しかし、次の瞬間、彼は彼女を優しく抱きしめた。
「ヒドラ男との戦いが終わったら、遊園地に行こう。」
と、ライムは水都ファミリーランドのチケットを奈理子に見せた。
奈理子は彼の目を真っ直ぐに見つめた。
「ライムは私のこと、心配じゃないの?」
彼の答えは、一つだけだった。
「奈理子は可愛いから、大丈夫さ。」
ライムはそう言って、奈理子に軽くキスをした。
“可愛いだけでは敵の玩具にされるだけですよ。"
ライムのキスを受け入れながら、奈理子はアゲハ女の言葉が思い浮かんだ。
水都郊外の採石場には、夜の帳が降りており、月明かりの下で荒涼とした風景が広がっていた。そこがヒドラ男が選んだ戦場だった。
近くに電車もバスも走っていない採石場。ミラクルウイングを広げ、空を舞う奈理子。彼女の胸中は不安と戦意、そして疑問で満ちていた。タコ男と同等の力を持つと言う強大な敵、ヒドラ男。彼の強さは、奈理子の心を揺さぶるもので、空の中で何度も引き返そうとする自分自身の気持ちと戦っていた。しかし、彼女には背けることができなかった。水都の人々、街の平和、すべてを背負った彼女は逃げることなどできなかった。
また、仲間のアゲハ女の言葉も奈理子の心に深く刻まれていた。「自分は可愛いだけの弱いヒロインじゃない」と。奈理子は自分の力を信じ、たとえ敗北して玩具のように遊ばれても、最後まで戦う覚悟を決めていた。
遠くの採石場に、触手を伸ばすヒドラ男の姿が浮かび上がる。彼の姿は、闇の中でひときわ目立ち、異様な存在感を放っていた。この場所には、奈理子を応援する水都の市民の姿はなかった。彼女を待つのは、静寂と孤独だけ。
風が冷たく、彼女の頬をつんと刺す。しかし、その風に乗せて、奈理子は深く息を吸い込み、覚悟を新たにした。そして、勇敢にも、ヒドラ男の前に、ミラクルナイトとして降り立った。
採石場の中心には、青白く輝く月が二人の存在を照らし出していた。風が吹き抜け、ミラクルナイトのスカートが乱れ、その下の白いショーツが一瞬、見えることがあった。だが彼女は、そんなことに一切気を取られていなかった。彼女の目は、真剣であり、すべての感情が熱く燃え上がっていた。
「会うのは初めてだね、ミラクルナイト」
と、ヒドラ男は微笑むように言った。
ミラクルナイトは直接的に疑問をぶつける。
「どうして、人々を怪人に変える薬なんかを作って、街を混乱させるの?」
ヒドラ男の返答は冷静だった。
「私はただの研究者だ。人が異なる生物の特性を持てるようにする薬。それ自体は素晴らしい発明だ。だが、その使い方は人それぞれ。私には関係ないことだよ。」
ミラクルナイトは怒りを隠せなかった。
「そんなの、無責任すぎる!」
ヒドラ男は少し考えた後、
「少なくとも私は他人に迷惑をかけないように、こんな場所を選んだ」
とゆっくりと答える。
「研究者のあなたが、何故、私に果たし状を送ったの?」
彼女の疑問に、彼は続けた。
「薬の使用者とミラクルナイトの戦いの報告は全て受けている。私もちょっとミラクルナイトで遊んでみたくなっただけさ」
彼の視線が、一瞬、ミラクルナイトの太腿に向けられると、彼女の眼には怒りの火が灯った。空気は一気に緊張感に満ち、夜空を裂くような閃光が走った。ミラクルナイトは掌から放った水色の光弾で、彼の挑発に答えたのだ。
「私はあなたたちの玩具じゃない!」
と彼女は力強く叫んだ。
採石場に舞う砂塵の中、ミラクルナイトは渾身のミラクルシャインブラストを放った。それは、その場にいる全てを飲み込むかのような輝きを持っていた。しかし、砂塵が収まるとヒドラ男の姿は消えていた。
「不思議な力だな。だが、その威力は大したことないね。」
と、背後からの声に、ミラクルナイトは驚愕した。
彼女が反射的に振り返ると、すぐ目の前にヒドラ男が立っていた。彼の顔は冷静で、その眼はミラクルナイトを貫いていた。
「アイマスクで目元を隠したその瞳…それと鼻と口。それでも奈理子の美しさは隠せないね。鼻と口を隠して目だけで美人に見せかけるマスク美人は多いけど、君はその逆だ。可愛いよ、奈理子。」
と、彼はまるで詩人のような語り口で言った。
ヒドラ男の触手が、緩やかに、しかし確実にミラクルナイトの身体に触れ始める。彼女はその触手から逃れようと身をよじったが、次第に動きを封じられていった。
「離して!」
彼女の声は悲痛だった。
彼女の涙ぐんだ瞳を見つめながら、ヒドラ男はほくそ笑んだ。
「多くの者が君との戦いを望む理由、今、よくわかるよ。」
ミラクルナイトの心の中には、悔しさや絶望が渦巻いていた。アゲハ女の言葉が、再び彼女の頭の中をよぎった。「私は、本当にただの可愛さだけを武器にした、弱いヒロインなの…」彼女の心は、その思いに打ちのめされていた。
採石場の深夜、ヒドラ男の触手はミラクルナイトの華奢な体を這い回り、その隙間を通り抜けてコスチュームの中へと潜り込む。
「奈理子、君はヒドラという生き物を知っているかい?」
ヒドラ男の問いかけに、ミラクルナイトの脳裏には彼の特徴や能力に関する情報が蘇る。彼女はヒドラ男の対戦に備えて、ヒドラという生き物ついて予習していた。再生、毒針、そしてもちろん触手…だが、奈理子の敏感な個所を刺激するヒドラ男の触手によって彼女の思考は分断される。
「ヒドラは小さな生き物だけど、触手だけではなく、数多くの特異な能力を持っているのだよ」
と、ヒドラ男はまるで教師が生徒に教えるような口調で語った。
「だけど、今の私は触手しか使っていない…」
奈理子のショーツの中に入り込んだヒドラ男の細い触手は、更に奈理子の中にまで潜り込んでいた。ミラクルナイトの身体が痙攣を起こし、声にならい声で鳴く。彼女にはすでに彼の言葉に耳を傾ける余裕はなかった。
「ミラクルナイトが相手では、使いたかった能力も使えないな」
とヒドラ男が言ったとき、彼女の意識は遠くへと飛び去ってしまった。同時に奈理子大切な個所から透明な液体が飛び散る。
その時、暗闇から新たな影が現れる。それはスライム男だった。
「もういいだろ」
と彼はヒドラ男に言った。
「ああ、たっぷり奈理子で楽しんだよ。もう満足した」
と、ヒドラ男はミラクルナイトの身体をスライム男に渡す。
「大学を辞めてどこに行く?」
とスライム男がヒドラ男に聞いた。
「民間企業で研究を続ける。変身薬はもっと進化するよ。可愛いだけのミラクルナイトでは、これからの戦いにはついていけなくなるかもしれないな」
二人の間には、学業や研究、そして未来への野望についての会話が交わされる。
「奈理子は可愛いだけじゃない。ミラクルナイトの力を使いこなせてないだけだ。たまには強いときもある」
とスライム男が言うと、ヒドラ男は笑って去って行った。
スライム男に抱きかかえられるミラクルナイト。スライム男はその彼女の静かに眠る顔を優しく撫でた。月明かりがその場面を照らし、その美しい風景は採石場の静寂と共に刻まれていった。
(第86話へつづく)













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