ミラクルナイト☆第173話
二学期初日の朝、夏の名残を残した日差しが水都女学院高校の優美な校舎を照らしていた。
校門前では既にカメラを構えた奈理子ファンたちが陣取り、「純白の天使」ことミラクルナイトの登校を今か今かと待ちわびていた。
「奈理子ちゃん!こっち向いてー!」
「今日のパンツも白ですかー?」
奈理子が姿を現すと、一斉にファンたちが声を上げる。そのとき、風がふわりと奈理子のプリーツスカートを舞い上げた。
「いやぁ~!」
奈理子は慌ててスートを押さえるが、ファンは大喜びだ。
「パンチラはNGですかー!」
「もー、やめてくださいっ!」
小走りに校門をくぐる奈理子は、顔を赤らめながらファンの声援に手を振る。制服のスカートが風に揺れるたびに、カメラのシャッター音が鳴った。
そう、彼女・野宮奈理子は、誰もが知る水都の守護神――ミラクルナイト。
怪人たちと日々戦いながらも、彼女はごく普通の女子高生として、この名門・水都女学院高校、通称「水女」での学園生活を送っていた。
「奈理子さん、おっはよー!」
教室に入ると、友人のすみれが駆け寄ってくる。
「今朝もすごかったね、登校だけでニュースになるとか!」
「もぉ、ほんとやめて欲しい……普通に通学させてってば」
照れ笑いしながらバッグを降ろす奈理子の笑顔は、まるで何もなかったかのように穏やかだった。
そこへ、すっと冷たい声が差し込む。
「水都の守護神サマは、今日も元気そうで何よりね」
菜々美だ。政治家の娘で気が強く、奈理子にはなぜかいつも棘のある態度を取ってくる。
「おはよう、菜々美さん。新学期、またよろしくね」
「……ふん」
菜々美は踵を返すが、その背中には複雑な感情が揺れていた。
始業式。講堂に生徒が集う中、壇上には生徒会長の一花が立っていた。
「皆さん、夏を終え、また新しい学期が始まりました。水都の平和は、奈理子さんのおかげで守られていますが……それに甘えることなく、私たちも誇りを持って日々を過ごしましょう」
その言葉に、会場中から大きな拍手が起こった。
憧れの一花先輩にそう言われて、奈理子は胸の奥が熱くなるのを感じた。
(私、ちゃんと守れてるのかな……)
そう心の中で自問しながらも、彼女の目には確かな覚悟が宿っていた。
だがその頃――。
水都郊外の鄙野。かつて一度は水都侵攻に失敗した魔界のプリンセス・コマリシャスが、再び魔物たちを集結させていた。
「また負けるもんかぁぁ〜! 今度こそ、あのミラクルナイトとかいう守護神をボッコボコにしてやる!」
「落ち着いて、コマリシャス。すべては計画通りに……ふふ」
そばに付き従う御祖紗理奈は、冷たい微笑を浮かべていた。
タンポポタイをはじめとする新たな魔物たちが、着々と水都への侵攻準備を整えている。
水都の平穏な学園生活の裏で、静かに、しかし確かに、新たなる戦いの幕が上がろうとしていた――。
水都の空が夕焼け色に染まる頃、制服姿の野宮奈理子は、友達と別れてひとり水都公園を歩いていた。静かな芝生広場、キラキラと光る噴水、運河を渡る風。──そんな平和な景色を、奈理子はふとした違和感で遮られた。
「……誰か、いる?」
その瞬間、ベンチの影から現れたのは、カサカサと這う黒い奇妙な生物──カサカサスリッパーだった。
「ミラクルナイトのおパンツ、丸見えだ〜」
とスリッパーはニヤリと笑いながら奈理子のスカートの下を覗き込む。
「きゃあああッ! な、何なのよもぉお!」
顔を真っ赤にしながら、奈理子は慌てて水都公園の多目的トイレへと駆け込む。スカートを押さえながらドアを閉め、アイマスクを手に取った。
「ミラクルチェンジ──!」
水色の光に包まれ、奈理子はミラクルナイトへと変身した。白と水色のコスチュームが輝きを放つ。
そしてトイレの扉が開かれた瞬間、ミラクルナイトが飛び出す!
水都公園の青空に、白くきらめく光が走った。
「ミラクルナイト、推参!」
多目的トイレの扉が勢いよく開かれ、変身を終えたミラクルナイトが姿を現した。白いブラウスに水色のリボン、ひらりと揺れるプリーツスカート。その美しい姿に、公園に集まっていた市民たちは
「わぁっ!」
と歓声を上げた。
「ミラクルナイトが来たぞ!」
「頑張れ奈理子ちゃん!」
「スカート、短っ…!」
だが、ミラクルナイトの目の前に待ち構えていたのは、あろうことか7体もの魔物たちだった。
「ひとりで来たとは大胆だねぇ、ミラクルナイトちゃん」
ギラリと赤い目を光らせるのは、ハサミとバリカンが融合した禍々しい姿のバリカンイーター。
「うたうぞうたうぞ〜ッ!」
甲高い声を響かせたのは、ギターを抱えたカエルギター。
チャックルブーツが
「捕まえたらスカートごとひゅーんだぜ!」
とスキップで回り出し、トゲタケボウシはニヤリと笑って毒胞子をまき散らした。
フウセンナメクジはゆらゆらと風船のように空に浮かび、サカナホースは運河の水面からにゅっとホースの頭をのぞかせている。
「ひ、ひとりで7体って、ちょっと多すぎじゃない……?」
怯むミラクルナイトの足元に、なにかが忍び寄る。
「ひゃっ!?」
スカートの裾をスススッと持ち上げたのは、足音を立てずに近づいてきたカサカサスリッパーだった。
「パンツしっかり確認〜! 染み付きの白、いただきました〜!」
スリッパの舌足らずな声に、ミラクルナイトの顔が一瞬で真っ赤に染まる。
「な、なにすんのよこのヘンタイーーーッ!!」
くるりと回転し、スカートを押さえながら怒りのハイキック。
カサカサスリッパーが
「おおっとっと!」
と後退したところを、ミラクルパンチが炸裂!
「消えなさいッ!」
水色の拳がまばゆく光り、カサカサスリッパーは悲鳴を上げて消滅した。
「やったぁー! 奈理子ちゃん、カッコいい!」
市民の拍手が起きる。が――
「ひとり倒したくらいで調子に乗るなよ!」
バリカンイーターが跳ねた。
「体の毛、ぜーんぶ刈り取ってやるッ!」
チャックルブーツの残像が弾け、カエルギターの音波が響く。
次々と攻撃が押し寄せ、ミラクルナイトは翻弄された。
(ダメ…数が多すぎる……!)
次第に押し込まれていくミラクルナイト。水色のリボンが揺れ、スカートが翻り、膝をつく。
「うふふ……やっぱり、ミラクルナイトって弱っちいわね〜」
どこからともなく、幼い少女のような高い声が響いた。
空中に現れたのは、魔界のプリンセス・コマリシャス。小さな手で目元を拭うふりをしながら、ニタニタと笑っていた。
「また泣いちゃうのかな? ミラクルナイト〜?」
「く……! まだ、負けない……!」
そう言ったものの、囲まれたミラクルナイトの周囲には次々と魔物の影が迫ってくる。
スカートがはためき、ひらりと太腿が露わになるたび、市民から心配と応援の声が飛ぶ。
「奈理子ちゃん、逃げてー!」
「負けるなーっ!」
「パンツ見えてるけど頑張れ!」
だが、ミラクルナイトは――一瞬、膝をついた。
魔物たちに押し倒され、身動きの取れなくなったミラクルナイト。光を放つリボンは引きちぎられ、ブーツは泥に塗れ、立つことすらままならない。市民の声援も、遠く霞んでいくようだった。
「もう…ダメかも…」
コマリシャスの高笑いが響く。
「やっぱり、ミラクルナイトなんて弱っちい守護神なのね!さあ、あとはミラクルナイトを捕まえるだけよっ!」
魔物たちがその手を伸ばそうとした、その瞬間——
「風の裁きを受けなさい!」
鋭い声とともに、突風が魔物たちを吹き飛ばした。街路樹が揺れ、水面が波立つほどの強風。その風の中心に立つのは、扇型の風刃を構えたセイクリッドウインドだった。
「奈理子を守るためなら、私はいくらでも風を吹かせてあげるわよ」
風の中からもう一人、鮮やかなオレンジ色の衣装を揺らして飛び込んできたのは、ドリームキャンディだった。
「奈理子さん、今助けます!」
ドリームキャンディのキャンディチェーンが魔物たちの手を弾き、素早くミラクルナイトを引き寄せるように救い出す。
「ん…キャンディ…?セイクリッドウインドも……!」
倒れかけていたミラクルナイトの目に、ふたつの希望の光が映った。
「来てくれて…ありがとう……!」
「まったく、奈理子ったらまたピンチになってるし。でも今回は、私たちがついてるからね」
「はい、ここからは三人で戦いましょう!」
三人のヒロインが、並んで魔物たちに向き直る。その姿に、市民たちの声援が一斉に巻き起こった。
「がんばれミラクルナイトー!」
「ドリームキャンディー!セイクリッドウインドー!」
「水都のヒロインたちがそろったぞー!」
魔物たちは警戒の色を強める。そして、空間が再び揺れ、魔法陣が現れる。
「コマリシャス様の命令だ…次は俺の出番だ!」
そこから現れたのは、黒く巨大な扇風機を背負った、風の魔物・ユムシセンプウキだった。
「うふふっ、さあ、もう一度楽しませてもらうわよ、ミラクルナイト!」
風と光と勇気が交錯する、第二ラウンドの幕が、静かに、そして激しく切って落とされた。
ミラクルナイト、ドリームキャンディ、セイクリッドウインドの三人が市民の声援を背に並び立つ。対するは、残った魔物たち――バリカンイーター、チャックルブーツ、フウセンナメクジ、カエルギター、トゲタケボウシ、そして新たに現れたユムシセンプウキ。
「さあ、行くよ、ミラクルナイト!」
「はいっ!」
ミラクルナイトがミラクルウイングを展開し、軽やかに宙を舞う。ふわりと舞い上がるスカートが、空に白く映える。
その瞬間――!
「ミラクルナイトの髪…いただくぞ!」
バリカンイーターが奇声をあげながら、高速回転する刃をミラクルナイトの黒髪へと突きつけてきた!
「うわっ!?」
ミラクルナイトは咄嗟に後方へ宙返り。バリカンの刃先はかすりもせず、空を裂いた。
「うふふ…キラキラした髪、切り落としたらどんな音がするかなぁ?」
下ではセイクリッドウインドが、トゲタケボウシの放つ毒胞子をガストファングの風で吹き飛ばしていた。
「毒なんて通じないわよ!」
風の刃がトゲタケボウシのキノコ傘を切り裂く。
「ギギギギ…!」
「キャンディシャワーッ!!」
その隙にドリームキャンディが虹色の光を放つ。切断されたギターの弦を押さえてうろたえるカエルギターと、フラフラになったトゲタケボウシが、虹の光に包まれて消えていった。
「ナイスコンビネーションです、凜さん!」
「あなたもね、キャンディ!」
一方、上空ではミラクルナイトが、フウセンナメクジと対峙していた。
「逃がさないよぉ~ぷしゅ~~」
ぬるりと膨らんだ体から、フウセンナメクジが粘液を空中に吹き付ける!
「わっ…うそ、体が……!」
水色の光弾で風船を割ったミラクルナイトだったが、空中で粘液に包まれ、動きが鈍る。そこへ狙いすましたようにサカナホースのホースが伸びる!
「ミラクルナイト、危ない!!」
下からドリームキャンディが叫ぶが、遅かった。
サカナホースのホースがミラクルナイトの足首を絡め取り、運河へと引きずり込んでいった。
「ミラクルナイトーッ!!」
水の都・水都の運河に、ミラクルナイトの姿が沈んでいく。だが――。
「……ふふっ。水の中なら、たぶん私の方が――強い!」
運河の底で、ミラクルナイトの瞳が輝いた。白く可憐なコスチュームが水の中で舞い、彼女の決意とともに、水色のオーラが広がっていく――!
水の中に引きずり込まれたミラクルナイト。身体にまとわりつくフウセンナメクジの粘液で動きが鈍る中、サカナホースが鋭いヒレで襲いかかる。しかし、運河の水が粘液を洗い流してくれた。
「私は水都の守護神……水の中なら、負けない!」
ミラクルナイトは静かに目を閉じ、水を操る力を高めていく。青白い光が両手に宿り――
「ミラクル・アクアティック・ラプチャー!」
水の渦がサカナホースの動きを封じる。続けざまに放たれた光弾、ミラクルシャインブラストが命中し、サカナホースは泡とともに水底へ沈んでいった。
水面を割って舞い上がるミラクルナイト。再び空へ――!
濡れた髪を風に揺らしながら、ミラクルナイトは運河の水面から跳ねるように飛び出した。眩い朝日に濡れた白いブラウスが微かに透け、スカートの裾からしたたる水がきらめく。
「奈理子さん!」
芝生広場で戦うドリームキャンディが、その姿を見て叫ぶ。
「サカナホースは倒したよ!」
水都の守護神、ミラクルナイトが高らかに叫ぶと、公園に集まった市民たちが一斉に拍手を送る。
「ミラクルナイトが帰ってきたぞ!」
「やった!」
「さすが水都の守護神だ!」
一方そのころ、地上ではセイクリッドウインドとドリームキャンディが、チャックルブーツとバリカンイーターに苦戦していた。
「止まれ、この足音スリッパァー!」
チャックルブーツがカカトを鳴らして地面を滑るように動き回り、追撃の手を許さない。
「切り刻んでやる!」
バリカンイーターの刃が高速で回転し、セイクリッドウインドのスカートにまで迫る。
「くっ、足が止まらない!」
ドリームキャンディが足に絡みつくキャンディチェーンを振り払おうとするが、バリカンイーターがその隙を狙って突進してくる。
「このままじゃ…!」
そのときだった。
セイクリッドウインドが、扇型の武器・ガストファングを大きく広げた。
「風よ、巻け!」
発生した風が竜巻となって渦を巻き、チャックルブーツとバリカンイーターを飲み込んだ。バリカンの刃は竜巻の中で逆に暴走し、チャックルブーツのブーツを切り裂く。
「うわああああ!」
「なんでこんな目に!」
2体の魔物が断末魔の声を上げながら風の中に吸い込まれ、やがて爆発音と共に消滅していった。
ミラクルナイトは水面から上昇しながら、その光景を見届ける。すでに彼女の瞳には次の標的が映っていた。
「コマリシャス…!」
その名を呼んだ瞬間、魔法陣が再び光を放ち、最後の魔物――ユムシセンプウキが姿を現す。扇風機のスイッチが入ると、突如強烈な上昇気流がミラクルナイトの足元から吹き上げた。
「うわっ!」
スカートが激しく翻り、白いショーツがあらわになる。
「またスカートが!」
ミラクルナイトはスカートを押さえようとするが、風の勢いに抗いきれず、バランスを崩しながら空中に翻弄されてしまう。
「わははは!ひらひらスカートで戦うからこうなるのだ!!」
ユムシセンプウキの高笑いが噴水広場に響き渡る。しかし、
「やめなさい!」
セイクリッドウインドがガストファングでユムシセンプウキを殴りつけた。
扇風機の風が止み、墜落するミラクルナイトを、ドリームキャンディがしっかりと受け止める。
「奈理子さん、大丈夫ですか?」
「ありがとうキャンデイ。恥ずかしかたっけど、大丈夫」
ミラクルナイトは再び立ち上がる。
水都公園の噴水広場――。美しい石畳と運河が光に照らされるその場所に、三人のヒロインが立ち並んでいた。
風が吹き抜け、リボンとスカートがはためく。
真ん中に立つのは、水都の守護神――ミラクルナイト。
その右には、風の戦士――セイクリッドウインド。
そして左には、明るく勇敢な仲間――ドリームキャンディ。
「水都の平和を乱す者は、このミラクルナイトが許しませんッ!」
「セイクリッドウインド、風を断ち切る!」
「ドリームキャンディ、助太刀します!」
それぞれが名乗りを上げたその瞬間、ユムシセンプウキが扇風機の風力を最大にして風を起こす!
「きゃあっ! また風がっ……!」
ミラクルナイトのスカートがふわりと舞い上がり、市民からどよめきが起こる。だがそれは一瞬――
「奈理子さん、今です!」
ドリームキャンディの呼びかけに、ミラクルナイトが両手を広げる。
水色の魔力がほとばしり、水のオーラが渦を巻く。
「ミラクルアクアティックラプチャー!」
放たれた水流が、ユムシセンプウキの足元をすくい、その動きを鈍らせる。その隙を狙い、セイクリッドウインドが風の刃を放つ。
「ウインドスライサー!」
鋭い風の刃が風を切り裂き、ユムシセンプウキの羽根に直撃。機動力を封じたその一瞬――
「キャンディシャワー!」
ドリームキャンディが虹色の光を広げる。
ユムシセンプウキが歯ぎしりをして叫ぶ。
「こしゃくなガキどもがあぁぁッ!」
だが、ヒロインたちの連携は止まらない。ミラクルナイトが空へと舞い上がり、スカートを押さえながらも風を切って叫ぶ。
「私たちは、もう誰にも負けない!凜さん、援護を!」
「いくわよ!」
セイクリッドウインドが巨大な風の竜巻を生み出し、ドリームキャンディがキャンディチェーンをロリホップハンマーへと変形。
「いっけー! ロリポップスターバーストッ!!」
その一撃が、竜巻に巻き込まれたユムシセンプウキに炸裂する。虹色の光が夜空に広がり、魔物は眩い光の中で絶叫しながら消滅した。
しんと静まり返る広場。
そこに、ひとりの少年が呟く。
「やっぱり…ミラクルナイトって、すげえ……」
「ありがとう、ミラクルナイト!」
「ドリームキャンディ、最高!」
「セイクリッドウインドさまぁ〜!」
歓声が弾け、拍手が公園に満ちていく。
ミラクルナイトは仲間たちと手を取り合い、笑顔を浮かべた。
「これが…私たちの力です!」
――水都の夜に、希望の光が舞い降りた。
雨上がりの夕暮れ、鄙野の町はひんやりとした風に包まれていた。住宅街の外れにひっそり佇む1Kの古びたアパート。その一室、ドアがギィと小さく軋んだ音を立てて開いた。
「ただいま…」
玄関に顔を覗かせたのは、魔界のプリンセス・コマリシャス。服の裾は少し泥で汚れ、肩を落として足取りも重い。それでも、彼女の瞳にはまだ消えていない火が宿っていた。
「おかえりなさいませ、お嬢様」
エプロン姿の爺やがすぐに出迎える。彼は手に持っていた温かいココアのマグカップを、そっとコマリシャスに差し出した。
「ふん…また失敗しちゃった。今度こそミラクルナイトを倒せると思ったのに…」
コマリシャスは畳の上にちょこんと座り込み、マグカップを両手で包むようにして口をつける。その横に、ふわふわしたネクタイの形をした魔物・タンポポタイがぴょこんと飛び跳ねて寄ってきた。
「でもでも、あれだけ強い三人をここまで追い詰めたのは、すごい作戦だったと思いますよっ!」
「そうですわ。コマリシャスの発想力と指揮力は、誰にも負けてないわ。きっと次こそは…」
紗理奈が優しく微笑みながら言葉をかける。その声に、コマリシャスはぷいっと顔を背けながらも、頬をふくらませてうなずいた。
「ふん…次はもっとすごい魔物を用意するもんね。あいつらなんか、ぜーったい泣かせてやるんだから!」
その小さな拳をぎゅっと握ると、コマリシャスは立ち上がった。畳の上に、未来へ向かう少女の決意がポツリと落ちたようだった。
「さあ、タンポポタイ、紗理奈。また明日から、水都攻略の作戦会議よ!」
「了解であります、コマリシャス様!」
「ふふ、それでこそコマリシャス…」
こうして、魔界のプリンセスは今日もめげずに、またひとつ新たな作戦を考えるのだった――。
(第174話へつづく)
(あとがき)












ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません