DUGA

ミラクルナイト☆第235話

穢川研究所、九頭の研究室。
モニターには複雑な波形が流れ続けていた。無菌的な空気の中に、二人の声が響く。

「柚月くんの復帰はいつ頃になるんだい?」

九頭が、大きなモニターから目を離さずに尋ねた。彼の声は低く落ち着いていたが、その底には苛立ちが潜んでいた。

「鄙比田温泉の先生曰く、今月中には現場復帰ができそうだ、とのことです。負った傷は想像以上に深かったようで…」

応えたのは彼の傍らに立つ蛯名絹枝だった。彼女はタブレットのデータを指でスライドさせながら報告していた。彼女の声は静かで正確だった。

「柚月くんがいないのは痛手だな。彼女は優秀な現場指揮官だ。それに、彼女がいると、この研究室も華やぐ」

「はい。しかし、無理をさせては元も子もありません」

タブレットには、鄙野で休暇を満喫する白峰柚月の姿が映し出されていた。とっくに傷は癒えて温泉を満喫しているとは、研究一筋の九頭には言えなかった。柚月は溜まった有給を消化しているだけなのだ。その事実を知るのは、人事部の他は絹枝と鄙野勤務の御祖紗理奈だけだった。

「ああ、そうか。わかった。また、連絡があるまで」

九頭は再びモニターに視線を向けた。絹枝は静かに部屋を出ていった。
その時、研究室の前のドアで、その会話を聞いていた男がいた。

篠宮=ブナシメジ男。

彼は地味で目立たない研究者だった。彼はいつも誰にも気づかれずに働いていた。
しかし、柚月の負傷休養のため、彼は現在の地位に抜擢されたのだ。対ミラクルナイトの現場指揮を担うという重要な役割を。
それは、彼にとって夢のような出世だった。
だが、その夢は終わるかもしれない。柚月が復帰すれば、彼の立場はなくなる。彼は再び陰に戻る。誰にも気づかれずに働く地味な研究者に。
彼はそう思った。

「…ダメだ」

篠宮はこみ上げる感情を押し殺した。

「ここで、私の価値を証明しなければ」

彼の目が狂気を帯び始めた。

「柚月さんが水都に帰る前に…」

彼は静かに決意を固めた。

「ミラクルナイトを、倒す」

その言葉は、彼の野心が生んだ呪いだった。

夜の、奈理子の部屋。
窓から空を見上げると、星がきらきらと光っていた。
その光を浴びながら、奈理子は固く決意を固めていた。

「私が、この街の人々を守る」

それは、彼女の揺るぎない誓いだった。


篠宮の足音は、研究所の廊下に虚しく響いた。彼は自分の研究室に戻ったが、落ち着いて椅子に座ることはできなかった。

「失敗…失敗…失敗…」

過去のデータが彼の脳内で再生される。彼が現場指揮官に任命されて以来、送り出した怪人は悉く敗れ去っている。組織からの信頼は、すでに地に落ちていると彼は感じた。それでも、九頭がまだ彼を追い出さないのは、柚月が戻るのを待っているからではないのか?

「もう失敗は許されない…」

柚月が水都に戻ってくるまで、時間は残されていない。このままでは、彼は全てを失う。彼が夢見た地位も、名誉もすべてが。

「ともに戦うパートナーが欲しい…」

彼は考えた。単独でミラクルナイトを倒すのは容易い。しかし、ドリームキャンディは強敵だ。セイクリッドウインドも侮れない。協力者が必要だ。
まず、彼の脳裏に浮かんだのは、同じキノコの能力を持つ武闘派、ホンシメジ男だった。彼の圧倒的な破壊力は誰もが認めるものだ。
しかし、篠宮の顔を歪ませた。ホンシメジ男は、ブナシメジを紛い物と見下している。彼にとって、自分は格下の存在だ。彼との間に友情も信頼も生まれるはずがない。

「それに、研究所直属の者を使うには九頭先生の了解が必要だ…」

篠宮は牙を食いしばった。九頭には知らせずに結果を出したい。それが、彼の唯一の道だ。自分の実力を九頭に見せつけ、柚月に取って代わるためには。

「外様か…」

次に彼が思い出したのは、カマドウマ男だった。彼は、現在は研究所の庇護下にあるが、研究所の出身ではない。外様だ。ミラクルナイトに強い恨みを持っている。彼もホンシメジ男と同様に嫌な男だが、仕方がない。

「迫水…」

彼の実名を、篠宮は吐き捨てるように言った。

「あの男に共闘を求めるしかない」

篠宮は決意を固めた。彼は研究所を出ると、薄暗い路地へと消えていった。

迫水の隠れ家は、水都の外れにある廃棄された工場の地下だった。薄汚い空気、カビの臭い、そして絶え間なく響くカマドウマのような足音。
その中心に、迫水は座っていた。彼は、薄汚いモニターに映し出されたミラクルナイトの戦闘記録を見ていた。

「…うぬぬ、奈理子…」

彼の声は、怨恨に満ちていた。

「お前がいる限り、俺が輝くことはない…いつか必ず、お前をこの俺が踏み潰してやる!」

篠宮は、薄暗い階段を、静かに、下りていった。彼の足音は、カマドウマの足音に、かき消された。彼は、迫水の、背後に立った。

「迫水さん」

彼の声は、冷たかった。

「…誰だ」

迫水は振り返らなかった。彼の視線はモニターから離れていなかった。

「篠宮=ブナシメジ男です。穢川研究所の現場指揮官」

「…穢川研究所だと?九頭先生の使いか?」

迫水はやっと振り返った。彼の顔は憎しみに歪んでいた。

「いえ、私の意思でここに来ました」

「お前のような地味な奴が何の用だ」

「共闘を申し入れに来ました」

「ふざけるな」

迫水は立ち上がった。彼の体は不気味に動いていた。

「奈理子を倒すのは、この俺だ。お前のような、姑息な策を弄する者と組むつもりはない」

迫水は、再びモニターに視線を向けた。彼はミラクルナイトの姿を、呪うように見つめていた。

「失礼しました。では、帰ります」

篠宮は、静かに、言った。彼は、その場を立ち去ろうとした。

「…待て」
迫水の声が、彼を、呼び止めた。

「…お前、本気でミラクルナイトを倒したいと思っているのか?」

「…はい」

篠宮は、答えた。

「私は、奈理子に全てを奪われようとしている。私は、奈理子に負けたくない。今は、奈理子を倒すことだけが私の生きる道です」

彼の声は、熱を帯びていた。彼の瞳は、狂気を燃やしていた。
迫水は、彼を、見つめていた。彼の目には、篠宮の狂気が映っていた。

「…わかった」

迫水は、言った。

「組もう。だが、俺に策はいらない。俺が奈理子を倒す。邪魔はするなよ」

「…承知いたしました。ですが、一つだけ頼みがあります」

「何だ?」

「奈理子にトドメは刺さないでください」

篠宮は、静かに、頭を下げた。

「奈理子を倒したいんじゃないのか?」

「私にとって、奈理子は研究対象です。捕らえた奈理子を、じっくりと、ねっとりと、観察します」

迫水は、篠宮の言葉に、興味を抱いた。

「…どういうことだ?」

「私が、開発しました」

篠宮は、胸ポケットから、小さな便を取り出した。それは、紫色の、不気味な、液体が、入っていた。

「野宮奈理子に最適化された、媚薬」

彼の顔が、歪んだ。

「これを、彼女の敏感な箇所にたっぷりと擦り込む。そうすれば、彼女は、どのような反応を見せるか、観察したい」

「…ほう」

迫水は小瓶を受け取った。

「これは、面白い。九頭先生も喜びそうだな」

彼の目が、欲望で、輝いた。

「では、早速、実行しようじゃないか。学校帰りの奈理子を襲うか?」

「…」

篠宮は、考えた。放課後の奈理子襲撃はこれまで幾度も実行してきたが、必ずと言っていいほど邪魔が入る。

「ドリームキャンディとセイクリッドウインドが厄介です」

彼は、答えた。

「あいつらは空を飛べない。地を這うことしかできない奴らは、俺の敵じゃない」

迫水は、笑った。

「わかりました。お任せいたします」

「今日こそ、奈理子を汚してやる。ああ、楽しみだ!」

彼の体は、興奮して、震えていた。
篠宮は、その様子を、冷たく、見ていた。

「…期待しています」

彼は、静かに迫水の部屋を出て行った。


街の人々の話題は、ミラクルナイトに移っていた。女子高生連続拉致事件の犯人が、ミラクルナイトによって倒されたという噂。だが、誰も真相を知る者はいない。犯人が消え、被害者たちも何も語らなかった。ただ、水都の女子高生たちの間に平穏な日々が戻っただけだった。

水都女学院高校の生徒会本部は、まるで高級ホテルのロビーのようだった。柔らかなソファに深く身を沈めた一年生の副会長、春宮菜々美は銀のティーカップを優雅に傾けていた。彼女の指先は細く、白く、まるで精巧な人形のようだった。
彼女の対面には二年生の会長、福永和香が座っていた。和香は真面目で押しが弱く、どこか影の薄い少女だった。

「それで、卒業式の送別行事ですが、私の案では、前会長一花さんのお言葉をいただくというのは、いかがでしょうか?」

和香が静かに提案した。彼女の声は小さくか細かった。

「それは、素晴らしい考えですが……卒業生に何かをしてもらうことよりも、送り出す私たちが何をするのかを考えた方がよくありませんか?」

菜々美はティーカップをソーサーに静かに置いた。その音は澄んでいた。

「もっと、我が校の個性が光るような企画を考えませんこと?」

和香は俯いてしまった。彼女は、菜々美の厳しい言葉に縮こまっていた。
その時、菜々美の視線が部屋の隅にいた少女に向けられた。

「…ねえ、奈理子さん」

野宮奈理子は一人だけ少し離れた場所に座っていた。彼女は生徒会役員ではなかった。だが、三年生の前会長、白銀一花に目をかけられていた。そのため、菜々美に半ば強制的にここに連れてこられたのだ。

「な、なんでしょうか?」

「一花さんは、ミラクルナイトである奈理子さんのことを気にかけていたわ。何か良い案があるんじゃないの?」

菜々美の声は、まだ冷たく突き放すようだったが、その底には奈理子を試すような意図があった。
奈理子は考える。一花さん。彼女の美しい横顔を思い出す。彼女の高貴で優雅な立ち居振る舞い。彼女が言った言葉。

「…みんなのために動くことが、私たちの誇り…一花さんのような、素敵な卒業式にしたいなら…」

奈理子は、静かに、言った。

「三年生を、一人ひとり、手紙で称えてはいかがでしょうか?」

「手紙?」

菜々美の、眉が、上がった。

「生徒会全員で三年生一人ひとりに宛てた手紙を渡します。そこに、私たちの感謝と尊敬を綴ります。それを、卒業証書と一緒に渡すのです」

奈理子の瞳が輝いていた。

「それは、お金も時間もかからない。けれど、三年生の心に残る。一生の思い出になると思います」

「…面白いかもしれないわね。でも、三年生は何人いると思っているの?」

菜々美は、まだ、納得しきっていないようだった。

「大丈夫。菜々美さん、私も手伝うよ」

奈理子は、そう言って、立ち上がった。

「私のお礼です。一花さんに、三年生の皆さんに、可愛がっていただいたお礼に」

「…」

菜々美は奈理子を見つめていた。彼女の目には驚きと、そして、少しだけ、認めの色が浮かんでいた。

「…わかったわ。奈理子さん、お願いするわ」

「満々亭で抹茶善哉、奢ってね♪」

奈理子はニコリと頷いた。
彼女の心には、再び、守るべき、日常が、戻ってきた。そして、その日常を守るための、彼女の、決意は、さらに、強くなっていた。


放課後の水都公園は黄金色の陽光を浴びていた。満々亭のテラス席では、二人の女子高生が甘いものを、食べていた。

「…美味しい」

奈理子は大きなスプーンで抹茶善哉の白玉を頬張った。甘じょっぱい餡と、滑らかな白玉が、口の中で溶けていく。彼女は幸せな気持ちになった。

「美味しそうに食べるわね…」

菜々美は、少し、不満そうに、言った。彼女の前には、焙じ茶の、パフェが、置かれていた。見た目は、エレガントだったが、彼女のお嬢様としての矜持が、奈理子のようにがっつくことを許さない。菜々美は上品にパフェに乗るわらび餅をスプーンで掬った。

「でも、菜々美さん、真面目に副会長やってるんだね。会長の和香さんにも、ビシッと意見を言ったし」

「あたりまえでしょ。面倒臭いことはしたくないけど、一花さんに副会長を指名されたんだから、仕方ないでしょ」

菜々美はドヤ顔をした。彼女のその顔はどこか愛らしかった。学校ではいつも冷たく当たっているが、こんな風に話すと意外と仲は良い。

「一花さんが、認めてるもんね」

奈理子は、そう言って、ニコリと、笑った。

「…うるさいわね。もう、食べ終わったんでしょ?帰りましょう。三年生全員に手紙を書かなきゃいけないんだから」

菜々美はスプーンを置き立ち上がった。

満々亭を出て、二人は公園の遊歩道を歩いていた。穏やかな時間が流れていた。
その時、彼女たちの前に影が落ちた。

「…奈理子!」

それは、見慣れた憎らしい声だった。
影の主は、カマドウマ男だった。彼は憎悪に満ちた目で奈理子を見つめていた。

「お前がいる限り、俺はいつまでたっても輝けない!今日こそ、この俺が踏み潰してやる!」

「面倒臭い相手に付き纏われて、奈理子さんも大変ね」

菜々美はカマドウマ男の前でも全く動じていなかった。彼女の声は呆れていた。

「菜々美さん、危ない!早く逃げて!」

奈理子は菜々美の手を引いて逃げようとした。彼女が振り返った先には、誰もいなかったはずだった。
だが、そこにもう一人の怪人が立っていた。ブナシメジ男。

「奈理子さん相手に二人がかりとは、情けない奴らね」

菜々美の言葉が、二人の怪人を刺した。

「奈理子の相手はカマドウマ男だけ。最弱ヒロイン奈理子に二人も怪人は不要。私は見ているだけだ」

ブナシメジ男は、そう言って腕を組んだ。

「その通り。糞雑魚ヒロイン奈理子の相手は一人で十分。いつものように、身包み剝いで晒し者にしてやるぜ。自慢の白いパンツも脱がしてやるぜ」

カマドウマ男は、ブナシメジ男に同意した。

「―――」

奈理子の眉がぎくりと上がった。彼女の怒りが沸点に達した。

「…もう、いい加減にして!」

彼女はスカートのポケットからアイマスクを取り出した。

「菜々美お嬢様に危害を加えるつもりはありません。お下がりください」

ブナシメジ男が、菜々美に、言った。

「え?あたし?」

菜々美は意外そうに自分の胸を指さした。

「私はここで見ているわ」

彼女は近くのベンチに腰掛けた。そして、彼女は奈理子に向かって言った。

「こんな奴ら、ちゃっちゃとやっちゃいなさい!」

「…分かってる!」

奈理子は、頷いた。彼女は、アイマスクを、目に、当てた。

「ミラクル・チェンジ!」

水色の光が彼女の体を包んだ。水都女学院高校の制服が消え、白いブラとショーツのみの姿になる。そして、髪に白いリボン、白いブラウス、胸に水色のリボン、手足にグローブとブーツが次々と現れる。最後に、コットン100パーセントの純白ショーツを白いスカートが優しく覆う。光が消え、そこに立っていたのは、水都の守護神、ミラクルナイトだった。



夕暮れの水都公園。
空はオレンジ色と紫色に染まっていた。ミラクルナイトとカマドウマ男が対峙していた。冷たい冬の空気の中、ミラクルナイトの脚は長く美しく、夕陽を反射して輝いていた。風に舞い上がるミニスカートの下から見える白いショーツは、純潔の証のようだった。

「…今度こそ、お前を、俺のものにする!」

カマドウマ男が吼えた。
静寂を破ったのは、ミラクルナイトのハイキックだった。

「えいッ!」

彼女の体が軽やかに舞い上がり、脚が美しい弧を描いた。純白のショーツ越しに、一瞬、彼女の恥骨が露わになる。渾身のハイキックだ。しかし、カマドウマ男は余裕でその蹴り足を掴んだ。

「…!」

ミラクルナイトの顔がこわばる。

「お約束のスカート脱がしだ!」

カマドウマ男は掴んだ足を支点に、彼女のスカートを無慈悲に剥ぎ取った。白いスカートが風に舞い、落ちていく。

「きゃっ…!」

スカートを脱がされ、パンツ丸出しのいつもの姿にされた。ミラクルナイトの顔が赤く染まった。

「…もう、許せない…!」

彼女の怒りが頂点に達した。彼女の背中から白い翼、ミラクルウイングが現れた。

「空から、攻めれば、きっと…!」

彼女は空へと舞い上がった。

しかし、カマドウマ男は彼女より遥か上空まで跳躍した。

「ええぇッ?!」

あまりもの速さに、ミラクルナイトは、一瞬、カマドウマ男を見失った。彼は、九頭の手により筋力を更に強化されているのだ。

「どこへ逃げるつもりだ!」

カマドウマ男は、空を舞うミラクルナイトを捕らえた。そして、彼女の細い体を強く抱きしめた。

「きゃあっ!放して!」

ミラクルナイトはもがいたが、カマドウマ男の腕は鉄のように固かった。
カマドウマ男は、ミラクルナイトを抱いたまま着地した。そして、再び跳躍した。彼の目標は、多くの市民が憩う噴水広場だった。彼女の恥ずかしい姿を多くの市民に見せてあげようと、彼は狂気の跳躍を、続けた。

「…!」

ブナシメジ男は焦った。戦闘が目立てば、ドリームキャンディとセイクリッドウインドが救援に来てしまう。彼はカマドウマ男を追った。

「まったく、不甲斐ないわね…」

菜々美も呆れながらミラクルナイトを見つめていた。だが、彼女も静かにその後を追った。


水都公園の噴水広場。
夕闇がせまってきていた。買い物帰りの主婦たちが楽しげに語らい、学校から帰ってきた生徒たちが笑い声をあげていた。その穏やかな日常が、音を立てて砕け散る。
石畳に、ミラクルナイトが投げ出された。彼女のスカートはなく、白いブラウスと純白のショーツが目立つ。夕日の中、彼女の肌は透き通るように白く、長く伸びた脚はまるで彫像のようだった。そのあまりの美しさに、一瞬、広場は静まり返った。

「…ミラクルナイト…!」

誰かがささやいた。それが合図だった。

「おおっ、奈理子が、またスカートを脱がされてる!」
「やっぱり、奈理子は白いパンツが一番可愛い!」

市民たちが、一斉にスマートフォンを取り出した。シャッターの音が静寂に響き渡った。
だが、その次の瞬間。ドシン、という重い音が広場を揺らした。カマドウマ男が、ミラクルナイトの隣に着地した。彼の禍々しい姿に、歓声は悲鳴に変わった。

「きゃああっ!」
「怪人だ!」
「早く逃げろ!」

広場は大混乱に陥った。

「…何だ、その目は!」

カマドウマ男は、怯える市民たちを見て激怒した。

「俺を、嫌うのか!この、俺を!」

彼は、大きな腕を振り上げた。市民を襲おうとした。

「…やめなさい!」

その時、ミラクルナイトの声が響いた。彼女は立ち上がり、右手を突き出した。

「市民を傷つけちゃダメッ!」

ミラクルナイトの掌から放たれた水色の光の弾が、カマドウマ男の胸に炸裂した。

「ぐはっ!」

カマドウマ男の動きが一瞬止まる。

その時、広場の至る所でアラームが鳴り響いた。怪人出現の警報だ。

「…くそっ!」

ブナシメジ男は歯噛みした。ドリームキャンディとセイクリッドウインドが来てしまう。

「カマドウマ男!早くしろ!ドリームキャンディたちが来る前に、ミラクルナイトを、仕留めろ!」

しかし、カマドウマ男の耳には、彼の声は届かなかった。彼の頭は、市民への怒りとミラクルナイトへの憎しみで満たされていた。

「…お前が、俺の邪魔をした!」

彼は、ミラクルナイトに向かって突進した。
スカートを穿いていないミラクルナイトは、恥ずかしさと覚悟を胸に抱き、カマドウマ男に立ち向かった。


カマドウマ男の猛攻が始まった。彼の腕は鉄槌のように振り下ろされ、ミラクルナイトは必死にそれを避け続けた。スカートを脱がされたままの姿で戦う彼女は、あまりに無防備だった。市民たちのスマートフォンのフラッシュが絶えず彼女を捉え、そのたびに彼女の肌は赤く染まる。

「なあ、ミラクルナイト!なぜ、お前は、こんなに輝けるんだ!」

カマドウマ男が吼えた。
彼は、もとは普通の人間だった。迫水。ブサイクで、気弱で、誰からも嫌われ、蔑まれていた。そんな彼が、薬の力でカマドウママ男に変えられた。悪の道に踏み込んだ。だが、ミラクルナイトの優しさに触れ、彼は改心した。刑に服し出所した。だが、世間は彼に冷たかった。あらゆる門が閉ざされ、人々の目は彼を拒絶した。彼の努力は報われなかった。

「お前みたいな、綺麗な、奴にだけが、幸せになる権利があるのか!」

カマドウマ男の一撃が、ミラクルナイトの肩をかすめた。

「きゃっ!」

彼女はよろめき、石畳に膝をついた。その瞬間、彼女の白いショーツが股間に食い込みその形がはっきりと浮かび上がった。

「奈理子ちゃんのパンツが食い込んでる!」
ハミ出てるぞ!」
「奈理子いいぞー!もっと見せてくれー!」

奈理子ファンはその姿に熱狂し、さらに激しくシャッターを切った。

「…やめて…」

ミラクルナイトの声は震えていた。彼女は、カマドウマ男の怒りの裏にある、深い悲しみを感じていた。それは、彼女が抱えているものと同じだった。誰かに、認められたい。誰かの、役に立ちたい。だけど、どうしようもなく、憎まれてしまう。

「…もう、無理…」

彼女の体が、力を失っていく。白い翼も、光を失っていった。彼女は、石畳に倒れ込んだ。

「…奈理子…さん…」

菜々美が、その名をささやいた。ブナシメジ男は、拳を握りしめていた。


カマドウマ男が、倒れたミラクルナイトにゆっくりと近づいた。彼の影が、彼女の体を覆い隠す。

「…終わりだ、奈理子」

彼は、大きな手を上げた。最後の仕上げをしようとした。
その時、ブナシメジ男が割って入った。

「カマドウマ男、やめろ!時間切れだ。彼女はこのまま連れて帰る!」

彼の視線は、空に向かっていた。オレンジ色の光が、一直線に噴水広場へと飛んでくるのを見ていた。

「…チッ」

光は、ドリームキャンディだった。


「奈理子さん、また、スカート脱がされちゃってるよ…」

光の中で、ドリームキャンディは苦笑していた。
光は、ミラクルナイトの隣に着地した。

「奈理子さんのスカートを脱がした者は、中学生戦士ドリームキャンディが許しませんッ!」

光の中から、ドリームキャンディが現れた。

「子供は引っ込んでろ!」

カマドウマ男は、ドリームキャンディを罵倒した。

「奈理子を連れて退却するんだ。ドリームキャンディは相手にしなくていい」

ブナシメジ男は、そう言って菌糸をミラクルナイトに伸ばした。

「奈理子さんは渡しませんッ!」

ドリームキャンディが、キャンディチェーンを振るった。キャンディの鎖が、ブナシメジ男の菌糸を弾き飛ばした。

「…くっ!」

ブナシメジ男は、悔しそうに唇を噛んだ。

その時、失神したミラクルナイトを見つめる菜々美に向かって、もう一人の男が駆けつけてきた。

「菜々美さん、大丈夫ですか?!」

彼は、菜々美に駆け寄った。隆だった。

「あら、隆くん。貴方、いつも寧々さんとセットで出てくるのね」

「怪我はありませんか?」

彼は、菜々美の身を案じていた。

「私は大丈夫だけど、奈理子さんが……また負けてしまったわ」

菜々美はミラクルナイトに目を向けた。

「俺の姉ちゃんが負けるのはいつものことです。パンツを脱がされていだけ、今日はマシですよ」

隆は呆れたように言った。


ドリームキャンディvsカマドウマ男、ブナシメジ男。三つ巴の戦いが始まった。

「仕方が無い、行くぞ、ドリームキャンディ!」

ブナシメジ男が、ドリームキャンディに襲いかかった。彼の腕から無数の菌糸が伸び、鋭い棘のようになった。

「ふんッ、こんなもの!」

ドリームキャンディは、キャンディチェーンを振るった。キャンディの鎖が、ブナシメジ男の攻撃を次々と弾く。菌糸は、キャンディチェーンに次々と切断されいく。

「邪魔だ、引っ込んでろ!」

カマドウマ男は、我慢の限界に達していた。彼は、ブナシメジ男を強く押しのけると、ドリームキャンディに向かって跳躍した。

「きゃっ!」

ドリームキャンディは、驚いた。カマドウマ男の跳躍力は圧倒的だった。彼は、まるで空を飛ぶ鳥のようだった。

飛び跳ねるカマドウマ男に、ドリームキャンディはついていけない。彼女が捕らえたと思った瞬間、カマドウマ男は、キャンディチェーンの射程外に飛び去ってしまう。カマドウマ男の攻撃は、的確にドリームキャンディを捕らえていた。

「きゃあっ!うっ…」

ドリームキャンディの体に、次々と衝撃が走る。彼女は、徐々に消耗していく。

「まったく…奈理子が負けるのはいつものことだけど、キャンディまで負けるとヤバいよ…」
「キャンディ、頑張れ!」
「負けないで、中学生戦士!」

市民たちは、必死の声援を送った。
戦況を見守る菜々美と隆。

「空を飛べないドリームキャンディでは、カマドウマ男の相手は厳しわね」

「クソッ、ぴょんぴょん跳びやがって!」

隆が、悔しそうに叫んだ。

「お前、奈理子が雑魚すぎるせいで評価されるだけのくせに、なあ。俺みたいに、努力しても誰からも相手にされない悔しさが、分かるか!」

カマドウマ男は、ドリームキャンディに怒りをぶつけた。

「奈理子さんは奈理子さん。私は私。貴方みたいに、他人と比べて妬んで愚痴ってるだけじゃ、何も始まらない!」

ドリームキャンディも応えた。だが、彼女の息は乱れ、明らかに劣勢だった。
ブナシメジ男は、その隙を見逃さなかった。
ブナシメジ男は、再び菌糸をミラクルナイトに伸ばす。ミラクルナイトを捕らえるためだ。菌糸がミラクルナイトの白い四肢に絡みつき、その美しい身体を持ち上げた。
スカートを脱がされ、失神し、敗北したミラクルナイトの姿が夕闇に浮かび上がった。白いブラウス、純白のショーツ、そして、無防備に広げられた脚。そのあまりの美しさに、市民たちは釘付けになった。


ブナシメジ男が、ミラクルナイトを持ち上げた。彼女の無防備な姿が、夕闇の中で浮かび上がる。市民たちは、再びスマートフォンのカメラを向けた。シャッター音が絶え間なく鳴り響く。
防戦一方のドリームキャンディには、彼女を助ける余裕はなかった。
周りを飛び交うテレビ局の撮影ドローン。水都公園から離れた水都タワー前広場の大型ビジョン。そして、各家庭のテレビには、ミラクルナイトの姿が映し出されていた。白いショーツが股間に食い込み、その端から柔らかな毛がハミ出ていた。画面にはモザイクがかけられていたが、それでもその姿は十分に美しかった。

「ああ…奈理子ちゃんのパンツ、また見れちゃう…」
「テレビで、拝めるなんて、幸せ…」

市民たちは、ミラクルナイトの美しい姿をもっと眺めていたい。だが、彼女はピンチだ。彼らはジレンマに陥りながらも、ミラクルナイトに声援を送った。

「奈理子、頑張れ!」
「起きろ、ミラクルナイト!」

市民の盛り上がりに気を良くしたブナシメジ男は、ニヤリと、笑った。

「フフフ…サービスだ」

彼は、奈理子の白いショーツに菌糸を巻き付けた。

「おっとっとっと…」

奈理子のショーツが、ゆっくりと引き下げられていく

「うおおおお!パンツが脱がれる!」
「奈理子のが見られるぞ!」

奈理子ファンは、さらに熱狂した。
その、騒々しさと、腰に感じる違和感で、ミラクルナイトが目を覚ました。

「…ん…?」

彼女は、ゆっくりと目を開ける。自分が、空中に浮かんでいること。スカートが、ないこと。そして、自分の最も大切な場所を守る、ショーツが脱がされようとしていること。

「きゃあああああああッ!」

彼女は、悲鳴を上げた。脱がされまいと、必死にショーツを掴んだ。

「いやぁぁぁぁ〜!やめて〜!」

涙を流しながら、ショーツを脱がされまいとするミラクルナイト。その哀れな姿に、市民たちはさらに興奮した。


その時。

「奈理子さん、しっかりしなさいッ!」

菜々美の怒鳴り声が響き渡った。


「…ハッ!」

その声に、我に返った、ミラクルナイト。
ミラクルナイトは、目の前に広がる絶望的な状況を見た。ドリームキャンディは、膝から崩れ落ちる。ブナシメジ男は、ニヤリと笑みを浮かべ、自分を支配する。そして、カマドウマ男は、憎悪に満ちた目で自分を見つめている。
だが、菜々美の一言が、彼女の心に火を灯した。

「うわぁぁぁぁぁッ!ミラクルパワーーッ!!」

ミラクルナイトは、全身から水色の光を放出した。それは、彼女の内なる力だった。

「なっ!」

ブナシメジ男は、驚いた。彼女の体を縛っていた菌糸が、光の中で溶解し消滅した。
ミラクルナイトは、自由になった。だが、彼女は、まだ、スカートを脱がされたままだった。

「…くっ…」

彼女は、恥ずかしさに顔を赤く染めながらも、地面に着地した。

一方、ドリームキャンディは、

「ぴょんぴょん跳ねる相手はイヤ……」

と呟き、力尽きて倒れた。彼女の体から、オレンジ色の光が消えていった。
市民の大歓声が、広場を包み込む。

「ミラクルナイト、起き上がった!」
「やった、まだ戦えるぞ!」
「パンティ姿だけど、格好いい!」

再び、対峙するミラクルナイトとカマドウマ男。

「…お前を、俺のものにする、と言ったはずだ」

カマドウマ男が、吼えた。
ミラクルナイトは、彼の目を見つめた。その目に宿る、怒りと、悲しみを彼女は感じていた。

「…あなたの、その怒り、全部、私が受け止める」

ミラクルナイトは、そう告げた。彼女は、カマドウマ男の怒りを全て受け止める覚悟を決めた。

「何を、言ってるんだ!」

カマドウマ男は、彼女に向かって突進した。
ミラクルナイトは、そのまま彼を受け止めようとした。

「…!」

彼の拳が、彼女のお腹に叩き込まれた

「ぐはっ!」

痛みが、彼女の全身を駆け巡った。だが、彼女は倒れなかった。

「まだ、だ…」

彼女は、立ち上がった。彼女の白い翼が、再び輝きを増した。

「あなたを許す、なんて、言わないよ。でも、あなたが抱えている、痛みを、知っているよ」

「うるさい!」

カマドウマ男は、さらに激しい拳を浴びせた

「ぐっ…はっ…」

ミラクルナイトは、必死に耐えていた。彼女の白いショーツは、汗と泥で汚れていた。だが、彼女の瞳は、決して揺るがなかった。そして、水色の光の粒子が、キラキラと彼女の周りを漂っていた。

「奈理子さん…」

菜々美は、その姿を見て呟いた。


「強化された俺の拳を受けて、なぜ、倒れない…」

カマドウマ男の声は震えていた。

「あなたは、悪くない。あなたは、ただ、誰かに愛されたくて、誰かに認められたくて、叫んでいるだけ。それは、私も、同じ…」

ミラクルナイトは、彼の、目を、見つめた。

「…嘘だ…」

カマドウマ男は、言った。

「そんな綺麗事で、俺の苦しみが消えるわけがない!」

「ええ。消えない。でも、あなたの心に光はある。私が見た」

「見えるわけが、ない!」

カマドウマ男は、最後の一撃を放とうとした。
だが、その直前、彼の動きが止まった。
彼の心に、ある光が灯った。

「…!」

ブナシメジ男は、その変化を察知した。

「クソッ、カマドウマ男、何をしている!打たれ弱い奈理子をなぜ倒せない?!」

彼は憤った。

「…なぜ、そこまで俺を信じられるんだ…」

カマドウマ男の声は、震えていた。


「…信じる、って、言うな」

カマドウマ男は、言った。

「世間は、醜い者を受け入れない。社会は、犯罪者を受け入れない。俺は、もう、普通の人間には戻れない。俺は、カマドウマ男として生きていくしかない」

彼は、そう言うと、再び驚異的な跳躍力で飛んだ。彼の体は、夕闇に吸い込まれていくようだった。
ミラクルナイトは、覚悟を決めた。彼女は、ミラクルウイングを広げた。水色の光が、彼女の体を包み込む。特に、彼女の股間が、強く輝き始めた。

「…これが、私の最後の、力…」

カマクドウマ男は、ミラクルナイトに向かって急降下した。彼の拳は、神の鉄槌のように輝いていた。
ミラクルナイトも飛び上がった。

ミラクル・ヒップ・ストライク!」

彼女の体が、光る彗星のようになった。彼女は、カマドウマ男の長い手足を掻い潜った。
カマドウマ男に、奈理子の股間が迫る
そして、カマドウマ男の顔面が、奈理子の股間に埋まった。

「…!」

カマドウマ男は、息をのんだ。
奈理子の"女の子の香り“が、彼を優しく包み込んだ。それは、彼がずっと求めていたものだった。否定せず、拒絶せず、ただ、ありのままの彼を受け入れる温かさだった。

「…ああ…」

幸福に包まれながら、カマドウマ男は消滅した。彼の体は、光の粒子になり、夕闇に溶けていった。
着地したミラクルナイトは、膝をついた。彼女の純白だったショーツは、完全に汚れていた。

「さよなら、迫水さん…」

彼女は、呟いた。

「…姉ちゃん…」

隆が、駆け寄った。

「…隆、いたの…」

「菜々美さんも一緒だせ」

隆は、菜々美を振り返る。

「見ていられないシーンもあったけど、奈理子さんにしては上出来ね」

菜々美は、自分のコートを脱いでミラクルナイトに渡した。

「ありがと、菜々美さん」

ミラクルナイトは、菜々美のコートを羽織り、微笑んだ。


静寂が戻った噴水広場。
ミラクルナイトと菜々美を取り囲むように、報道陣が集まってきた。ミラクルナイトの羽織ったコートはボタンを留めておらず、白いショーツは依然として丸見えだった。

「奈理子さん、今回の勝因をお聞かせください!」
「最後の技、ミラクルヒップストライクについて…!」
「スカートを脱がされても戦い続けるその精神力は…?」
「菜々美さんの激励の言葉を聞いたとき…」
「新学期が始まり、"純白の天使"復活ですね!」

マイクが、次々と彼女の口元に突きつけられる。足元にもローアングルのカメラが迫り、菜々美はスカートを押さえていたが、奈理子のショーツはシッカリと捉えられていた

隆は、そっとその場を抜けた。彼は、倒れているドリームキャンディのそばに行った。

「…寧々、大丈夫か?」

彼は、彼女を起こそうとした。

「…うん…」

ドリームキャンディは、ゆっくりと目を開けた。

「…奈理子さん、勝った…?」

「ああ、勝ったよ。ケツパンチで、見事に勝ったぜ」

隆は、呆れたように言った。
広場の片隅で、奈理子ファンが興奮して語り合っていた。

「ミラクルヒップストライク!俺も、食らってみたい!」
「奈理子ちゃんの匂い、あの香り、満喫したい!」
「次は、俺が怪人になってやる!」

そんな彼らを見下ろすように、ブナシメジ男がいた。彼は、カマドウマ男を失った。だが、彼の戦いは、まだ終わらない。彼は、静かに闇に姿を消した。

菜々美は、ミラクルナイトの肩を抱き、彼女を支えていた。

「奈理子さんと一緒にいると疲れるわ…」

「…うん…でも、ありがとう、菜々美さん」

ミラクルナイトは、小さく頷いた。彼女の瞳は疲れていたが、どこか穏やかな光を宿していた。

第236話へつづく)