寧々と隆の修学旅行
修学旅行二日目の朝、寧々は期待と不安を胸に秘めながら、鄙野の探索に臨んだ。重要伝統的建造物群保存地区に選定された古い町並みを歩きながら、彼女の心は隆のことでいっぱいだった。一日目は何事もなく無事終わった。鄙比田温泉の旅館に宿泊した昨夜も、隆はただのクラスメイトとして寧々に接していたが、今日はきっと何かが起こるはずだと、寧々は期待していた。
班は男女各三人ずつ。男子は隆、慎治、章太郎のいわゆる三馬鹿トリオだった。寧々は隆が好きそうだと思しきワンピースを身に着け、下にはパンツだけ。下半身がスース―して生脚を出していることが恥ずかしく、隆にどう思われているのか気になっていた。
寧々以外の五人が楽しそうに町を巡る中、寧々は隆が気になって仕方がない。隆が寧々を無視して他の女子二人と親しげに話をするのが憎らしかった。いつになく大人しい寧々に気付いたカメラ係の章太郎が
「寧々、どうしたんだ?」
寧々に声を掛ける。慎治は
「服がいつもと違う感じだし、何だか寧々らしくないな」
と寧々に興味津々に視線を浴びせる。章太郎と慎治がいつもと雰囲気が違う寧々の服装について話していると、隆が寧々に近づいてきた。寧々の心臓は高鳴る。他の女子二人が寧々の服が可愛いと言っている中、隆の表情には何かを企んでいるようなニヤリとした笑みが浮かんでいた。
「寧々、俺はその服、嫌いじゃないぞ」
と隆が言うと、寧々の心は一瞬で満たされた。隆が自分の服装を褒めてくれたことが嬉しくて、寧々は思わず頬を赤らめた。
「じゃあ、記念に写真を撮ろうか」
と慎治が提案する。章太郎がカメラを構え、隆は寧々のそばに寄り添う。この瞬間を待っていた寧々は、隆との距離の近さに心を躍らせた。
「皆、チーズ!」
と章太郎がシャッターを切る。フラッシュとともに、寧々の心は完全に隆に捕らわれていた。修学旅行の最後の日、寧々にとっては忘れられない一日になることは間違いなかった。
「俺、さっきあった神社が気になるから見てくるわ。先に行っといてくれ」
と隆は突然言うと、寧々に不敵な視線を送り、来た道を踵を返し駆け出した。寧々は誘われたことを察したが、直ぐにあとを追いかけるとみんなに怪しまれてしまう。しばらく歩いたあと、
「隆はバカだから集合時間に送れないように、私見てくる」
と駆け出したが、一度立ち止まり振り返ると
「集合時間までには隆を連れてくるから!」
と叫び、再び駆け出す。これで集合時間ギリギリまで隆と二人きりになれる。寧々は胸をときめかせ走る。 鄙辺神社は山裾にある鄙びた神社だった。社務所はあるが、誰もいないようだ。鳥居を潜った寧々は隆を探す。拝殿の前に隆は立っていた。
「隆」
と隆の横に来た寧々。隆はじっと拝殿の中を見ている。隆が何も喋らないので寧々も拝殿の中を見た。小さく古い神社だが、手入れは行き届いてる。鄙野の人たちに長年大切にされた字なんだろうと寧々は思った。
「野宮家は…」
と隆が話し始めた。
「女系の家系なんだ。姉ちゃんが婿をとって、俺は大人になったら家を出される」
と拝殿から目を離さずに話す隆。寧々は何と応えていいか分からず、
「そうなんだ…」
と隆を見る。隆の姉、奈理子がミラクルナイトであることと関係あるのかな?と寧々は考えた。沈黙の寧々と隆。しかし、
「きゃぁぁぁぁ〜!」
という女の悲鳴が沈黙を破る。顔を見合わせる寧々と隆。寧々が
「あっちの方だよね」
と神殿の更に奥の森を指す。
「行ってみよう」
と歩き出す出す隆。
「危ないよ」
と寧々が止めようとするが、隆は止まらない。
「待ってよ。一人にしないでよ」
と寧々は隆の後を追いかける。彼女の心は、不安と好奇心で揺れ動いていた。鄙野の古い神社の静寂を破った女性の悲鳴は、何を意味しているのだろうか。
森の奥へと続く小道に沿って、寧々は隆の後を追った。隆は一切の言葉を発せず、ただ黙々と森の中を進んでいく。その様子は、何かを決意したかのようにも見えた。寧々は隆の背中を見ながら、彼の考えていることを推し量ろうとしたが、さっぱり分からない。
しばらく歩くと、二人は森の中にある開けた場所に到着した。そこは、いくつかの古びた石碑が立ち並ぶ、何とも言えない雰囲気の場所だった。隆は石碑の一つに手を触れ、静かに何かをつぶやいた。
寧々は隆のそばに寄り、彼の顔を覗き込んだ。隆の表情は、どこか遠くを見つめるようで、考え込んでいるようだった。寧々は、隆の心の中に何があるのか、その答えを知りたくて仕方がなかった。
その時、再び女性の悲鳴が聞こえた。今度はもっと近くで、そしてより切実な響きを帯びていた。
「急ごう!」
と隆が言い、寧々は彼に続いて悲鳴の方向へと走り始めた。森の中に広がる不気味な静けさと、遠くから聞こえる鳥の声が、二人の緊張を高めていった。
悲鳴が聞こえた方向に進むにつれて、二人は何か大きな存在がいることを感じ始めた。寧々の心は恐怖でいっぱいになっていた。
森の中で、寧々と隆は息をのむような光景に遭遇した。目の前には、巨大なミミズのような怪人が、中学生くらいの女の子を捕えている。その怪人の背には、ヘリコプターのような羽根が二つ。水都で見慣れた怪人とは全く異なる姿だった。
隆は驚きつつも、冷静に状況を分析する。
「機械合成怪人だ…」
彼の口から漏れた一言に、寧々も頷くしかなかった。
「あの人、ミラクルナイトっぽい…」
と寧々も呟く。怪人に捕えられた女の子は、ミラクルナイトに似た装いをしていたが、色やデザインが異なっていた。ブラウス、ミニスカート、グローブ、ブーツといったミラクルナイトと同じような弱々しいコスチューム。違いはミラクルナイトが白と水色なのに対して、女の子はベージュと茶色のコスチューム。そして、ミラクルナイトのブラウスはノースリーブだが、女の子のブラウスは半袖で丈が胸の下までしかない。隆はその異色のヒロインに目を輝かせながら、
「ヘソ出しだ。可愛いぞ!」
と評した。寧々は隆のその言葉に、呆れながら戦う女の子の境遇を忘れてはいけないと、内心で呟く。
怪人は得意満々に、
「今日も弱っちいミルキーナイトの精気をたっぷりいただくぞ!」
と高らかに宣言した。しかし、ミルキーナイトと呼ばれた女の子は
「ミミズドローン…あなたの…思い…通りには、させませ…ん…」
と弱々しく抵抗を試みたが、続くことなくガックリと頭を垂れ、意識を失った。
隆は
「おい、やられちまったよ…ミルキーナイトって名前も弱そうだしな」
とコメントする。寧々は恐怖を感じ、隆の腕にしがみつく。彼女は小学生戦士ドリームキャンディであるが、この未知の敵に対する恐れが募っていた。隆は寧々の恐怖を取り除くようにギュッと彼女を抱きしめる。
「あの人、雰囲気が奈理子さんに似てる」
と寧々に話す。隆は
「姉ちゃんもすぐ失神するしな」
と答えた。
ミズドローンが
「いただきまーす!」
と気を失ったミルキーナイトの下半身に絡みつく。
敵に翻弄されるヒロインを見て、寧々はもはや見過ごせないと決意した。勇気を振り絞り、
「キャンディスイーツ、ドリームキャンディ」
と唱えると、彼女の身体は黄色い光に包まれ、ドリームキャンディに変身した。
その瞬間、森は神秘的な光に満たされ、寧々の勇敢な決意が、静かだが力強く響き渡った。ドリームキャンディに変身した寧々は、新たな力に満ち溢れ、戦いに挑むのだ。
森の中で突然の戦いが繰り広げられていた。眼前にはミミズドローンが、意識を失ったミルキーナイトを弄んでいる。そこに、勇気を振り絞ったドリームキャンディが現れた。
「その人を離しなさいっ!」
とキャンディチェーンを構える彼女。しかし、ミミズドローンは彼女の存在を軽んじる。
「なんだ、ガキか。俺はミルキーナイトの精気をいただくんだ。子供は引っ込んでろ」
確かに寧々は小学生だが、子供扱いされたことに頭にきた。
「これでも喰らいなさい!」
ドリームキャンディは怒りに震えながらキャンディチェーンを振るい、ミミズドローンに一撃を加えた。
「ギャー!」
と悲鳴を上げるミミズドローンは、驚いてミルキーナイトを放り投げた。そこには隆がいて、彼は素早くミルキーナイトを受け止めた。意識を取り戻したミルキーナイトは、隆を見上げて困惑し、
「あなたは…?」
と呟く。隆は
「通りすがりの小学生さ」
と凜々しく答えるが、ミルキーナイトの関心はすでにドリームキャンディに移っていた。
「あれは…ドリームキャンディ?!」
と驚く彼女に、隆は
「ドリームキャンディを知ってるの?」
と尋ねたが、ミルキーナイトは彼女に見入っていた。
ドリームキャンディは、ミミズドローンが予想以上に苦しんでいることに驚き、自信を取り戻す。最近はキャンディチェーンが通用しない敵との戦いが多かったため、
「もしかして、ミミズドローンって弱い?」
と思う彼女。しかし、ミミズドローンが空を飛べるという優位性に気づく前に、ドリームキャンディは決着をつけることに決めた。
彼女の身体が黄色に輝き、
「キャンディシャワー!」
と叫ぶと、虹色の光線がミミズドローンに向けて放たれた。光線を浴びたミミズドローンは、
「この俺様がこんな子供に…」
と言い残し、消滅してしまった。
ドリームキャンディは、意外なほどの容易さに呆然としていた。
「本当に弱い敵だったんだ…」
とつぶやく彼女の表情は、驚きと共に少しの寂しさを含んでいた。
森の奥、戦いが収まった静寂の中、ミルキーナイトはドリームキャンディの圧勝劇に呆然とする。
「あれが、キャンディシャワー…。実際に見ると凄い威力」
と、ドリームキャンディの強さに目を輝かせた。
「大丈夫ですか?」
と声をかけるドリームキャンディに対し、ミルキーナイトは
「大丈夫です。ミラクルナイトに仕えるドリームキャンディに出会えて光栄です!」
と敬意を込めて答える。
ドリームキャンディは、「ミラクルナイトに仕えているわけじゃないけど…」とその言葉に少し戸惑いつつも、それは口に出さずに
「私のことを知っているんですか?」
と尋ねる。ミルキーナイトはにっこりと笑い、
「毎日ネットの動画でミラクルナイトとドリームキャンディの活躍は拝見させてもらっています」
と答える。
ミルキーナイトはその後、自身の変身を解き、一般の女子中学生の姿に戻る。
「私は鄙野を守護するミルキーナイトの佐笠胡桃です」
と名乗る彼女は、清楚な雰囲気を漂わせる美少女だった。ドリームキャンディは変身を解くべきか迷ったが、初対面のミルキーナイトが変身を解いたので自分も変身を解かなきゃ失礼かなと思い、変身を解いて寧々の姿になり
「こっちが隆です」
と隆を紹介する。
隆は喜留美に微笑みかけ、
「胡桃さんもミルキーナイトも可愛い名前ですね。名前だけでなくコスチュームも」
とミルキーナイトのパンチラを思い出しながら褒めるが、寧々は彼の心の中を知っているようで、心の中で
「さっきはミルキーナイトって弱そうな名前だと言ってたくせに…」
とつぶやき、隆を睨んだ。
胡桃は、ドリームキャンディの戦いぶりに感心しながら、
「私が何度挑んでも返り討ちにされたミミズドローンを簡単に倒すなんて…。さすが水都の戦士は、私みたいな田舎戦士とは全然強さが違いますね」
と語る。寧々は内心で「あんなに弱かったミミズドローンに何度も負けたの?」とミルキーナイトの弱さに驚きながらも、
「胡桃さん、あの怪人は一体何ですか?」
と自身が最も知りたいことを尋ねた。
鄙野の静かな神社の奥で、胡桃は自らの運命を語り始めた。彼女の言葉に、寧々と隆は驚きを隠せない。
胡桃によると、彼女は魔界からの侵攻者、魔族との戦いに命を捧げる鄙野の守護神、ミルキーナイトだった。魔族は生物と機械を融合させた怪人を生み出し、地上に送り込んでくる。今回、ドリームキャンディが倒したミミズドローンはその尖兵だった。
「ミミズドローンはミルキーナイトから奪おうとした精気って何ですか?」
と隆が冷静に問う。胡桃は
「精気は人間が持つ生命エネルギーです。怪人たちはそれを糧にし、特にミルキーナイトの精気は普通の人よりも美味しいらしいです」
と頬を赤らめ恥ずかしそうに顔を背けた。
「怪人を退治するミルキーナイトの精気が怪人の大好物なんですか?」
と驚く寧々に、胡桃は
「はい、でもそのおかげでミミズドローンは私だけしか襲ってきませんでしたし、町の人たちもミミズドローンの存在を知らずに、私の正体も隠せました」
と答える。彼女は続けて
「私にはミラクルナイトのように正体を明かして公然と戦う勇気がありません。彼女は本当に素晴らしいです」
と敬意を表した。
寧々は胡桃の言葉に共感を覚えるが、隆は
「姉ちゃんも最初は正体を隠していた。敵に負けてバレた後は、開き直っただけさ」
と言う。胡桃は
「姉ちゃん?」
と首をかしげる。寧々が
「隆はミラクルナイト、奈理子さんの弟です」
と説明すると、胡桃の表情は驚きで満たされた。ミラクルナイトの弟が目の前にいるとは、想像もしていなかったのだ。
この出会いは、寧々にとっても、胡桃にとっても、そして隆にとっても、予期せぬ驚きと新たな絆の始まりを意味していた。
山裾にひっそりと佇む鄙辺神社の前で、胡桃は
「ミラクルナイトの弟ということは、隆さんは野宮家の方ですか?」
と隆に尋ねる。
「ああ、俺は野宮隆で、姉ちゃんは野宮奈理子」
胡桃は佐笠家と野宮家の繋がりについて語った。その話に、隆と寧々は興味津々で耳を傾ける。
「昔は、私の佐笠家は代々、野宮家から婿を迎えていたんですよ。」
と胡桃は言った。それを聞いた隆は目を輝かせ、
「じゃあ、僕と胡桃さんって親戚同士なのかな?」
と驚く。しかし、胡桃は
「古い時代のことです。最近は、そういうこともなくなりました」
と微笑む。
「へー、胡桃さんの家も女系なんだ」
と隆。胡桃は笑いながら、
「時代が違っていたら、隆さんは私のお婿さんになっていたかもしれませんね」
と応じる。その言葉に、隆はそうだったら良かったのにと思いながら、ちょっとがっかりした様子で、
「それは面白かったかもしれないな」
と言う。そんな会話の中で、胡桃は寧々と隆の関係に興味を示し、
「隆さんと寧々さんの方がずっとお似合いですよ。隆さんと寧々さんは付合っているんですか?」
と尋ねる。寧々は照れくさい気持ちを抑えつつ、
「そういうわけでは…」
と言葉を濁すが、隆がさらっと、
「せっかく鄙野に来たから一人で神社を見に来たら、寧々が追いかけて来たんだ」
と言い出す。寧々はムッとして、
「学級委員長として、隆が迷子にならないように来てやったのよ!」
と反論する。隆はそれに対して笑いながら、
「何ムキになってんだよ?」
と寧々をからかう。そのやりとりを見ていた胡桃は、
「二人とも仲が良いですね」
と微笑むが、すぐに表情を曇らせ、
「ミラクルナイトのようにたくさんの仲間がいるのが羨ましいです。私のような田舎の戦士は、いつも一人で戦わなければならないから…」
と少し寂しげに言う。隆と寧々は、胡桃の言葉に思いを馳せる。戦いには仲間の存在がいかに大切か、再びそのことを実感していた。
修学旅行の最後の時間、寧々と隆は集合場所に向かいながら、さっきの出来事について話し合った。
「私たちって、カップルに見えるのかな?」
と寧々が尋ねた。隆は少し驚いた様子で、
「違うのか?」と返す。寧々は少し慌てて、
「違うでしょ。私たち付き合ってるわけじゃないし」
と答えたが、隆は意地悪く、
「寧々は俺が好きなんだろ?」
と言い放つ。それに寧々は戸惑いながらも、
「隆はどうなのよ?」
と聞き返す。その問いに、隆はじっと寧々を見つめる。寧々の肩を掴む彼の手が、少しずつ彼女の顔に近づいていく。寧々は、これがファーストキスになるのかと、心臓がドキドキする。しかし、思い返せば、まだ小学六年生。こんなに早くファーストキスをするのは早すぎるかもしれない。そう思った寧々は、驚いて隆を突き飛ばしてしまった。そして、混乱の中で逃げ出してしまったのだ。寧々は、既にファーストキスを奪われていることは知らない…。
集合時間になり、集合場所で待つ寧々。隆が一人で現れると、彼女は
「さっきはごめん」
と謝罪した。隆は素っ気なく、
「気にするな、寧々が俺を好きなことは分かってるから」
と答えた。
「何でそんなに自信があるの?」
と驚く寧々に、隆は
「寧々は生パンだろ」
と言い放つ。寧々は驚いて、
「何で知ってるの…?」
と尋ねる。隆は
「朝、集合のときに体育座りしてたろ。そのとき、パンツ見えてたぞ。」
と言う。寧々は焦り、
「どうして、そのときに教えてくれなかったのよ!」
と怒る。隆は冷静に、
「せっかく俺のために生パンにしてくれたのに、教えたらスパッツ穿くだろ」
と答える。寧々はさらに怒り、
「だったら最後まで言わなきゃいいのに、何でわざわざ言うのよ、バカ!」
と隆を叩く。
「今どき生パン小学生って滅多にいないから、男子はみんな喜んでたぜ」
と言い放つ隆。寧々の怒りは頂点に達し、隆を更に叩き続ける。周りのクラスメイトたちは、二人のやり取りを面白がって見ていた。そんな中で、寧々と隆の修学旅行は終わりを迎えた。














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