DUGA

ミラクルナイト☆第166話

夜の帳が下りた穢川研究所の社長室。薄暗い部屋の中で、勅使河原は重厚なデスクの前に立ち、窓の外を眺めていた。その表情はどこか苛立ちを帯びている。

「トンボカマキリが敗れるとはな…予想外だ。」

静かに呟いたその声には、怒りを抑えた冷徹さが滲んでいた。

「トケイソウ女が風間凜を抑えてさえいれば、トンボカマキリが奈理子如きに敗れることはありませんでした。」

部屋の隅に控えていた渦巻が一歩進み出て進言する。

「トケイソウ女には厳罰を与えるべきです。」

だが、勅使河原は渦巻の言葉を聞き流し、代わりに壁際に立つ白衣の男に目を向けた。

「九頭先生、次の薬の準備はできているのか?」

九頭と呼ばれたその男は、薄い笑みを浮かべながら懐から小瓶を取り出した。

「これが次の一手です。海老と蚕を素材にした『エビカイコ』用の薬です。」

「蚕?」

渦巻が訝しげに眉を潜める。

「確かに海老は分かりますが、蚕は人間に育てられなければ生きられない、ただの弱い生き物ではありませんか?」

九頭はその言葉を聞いても笑顔を崩さず、小瓶を光にかざしてみせた。

「蚕は繊細で弱く見えますが、優雅で美しい糸を紡ぎ出す特別な生き物です。そして、その糸を武器に変えることができるとしたら?」

そう言って、彼は意味深に微笑む。

モフモフで可愛いですよ。それに、この薬は使用者が女性であることを前提にしています。」

「九頭先生の判断なら、間違いないだろう。」

勅使河原は静かに頷いた。その信頼の深さは、この場にいる誰もが認めるところだった。

「エビカイコの能力には絶対の自信があります。しかし、万全を期すため、彼女をサポートする強者を同行させるべきです。」

九頭は慎重に付け加えた。

「トケイソウ女では不足だというのか?」

勅使河原の鋭い声が響く。

「はい。エビカイコは空を飛ぶことができません。サポートには、空戦能力に優れたガ男が適任でしょう。」

九頭が提案した名前に、勅使河原は考え込む素振りを見せた。

「蛾の能力を持つガ男…。スピードではトンボカマキリに劣るが、空戦の巧みさでは奴を超えると聞きます。」

渦巻が静かに口を挟む。

「そうです。さらに、蚕と蛾は元来近い存在。エビカイコとの相性も抜群です。」

九頭が自信を持って答えると、勅使河原は小さく頷いた。

「よかろう。ガ男をエビカイコのサポートにつける。これでミラクルナイトを打ち負かす準備は整った。」

重々しい声とともに、勅使河原の視線は夜の闇を切り裂くように鋭く光った。

「水都の守護神とやらが、どこまで持ちこたえられるか見ものだな。」

社長室には、次なる陰謀の胎動を告げるような、不気味な静寂が訪れていた。


夏休み補習最終日の水都女学院高校1年2組の教室。明日から始まる本当の夏休みを前に、生徒たちは浮き足立ち、教室中が賑やかな声で溢れていた。その中心には、ミラクルナイトとして街の平和を守り続ける野宮奈理子の姿があった。

「両腕が鎌の恐ろしい怪人をやっつけるなんて、凄いわ、奈理子さん!」

生徒たちは先週末、奈理子が倒した強敵トンボカマキリの話題で持ち切りだった。

「私だけの力で勝ったわけじゃないから」

奈理子は謙虚に笑顔を見せた。事実、セイクリッドウインドやドリームキャンディの協力がなければ、トンボカマキリに勝利することはできなかった。あの戦いを思い出すたび、奈理子は背筋がゾクっとする。

「私一人じゃトンボカマキリには勝てなかった。仲間の協力があったからだよ」

その笑顔に、生徒たちは一層盛り上がった。

そのとき、教室の空気が少し張り詰めた。菜々美とその取り巻きたちがやって来たからだ。

「何よ、また奈理子さんにケチつける気?」

すみれが奈理子を庇うように前に出た。しかし、菜々美はすみれを一瞥しただけで無視し、奈理子の前に立った。

「菜々美さん、ごきげんよう」

奈理子はいつもの柔らかな笑顔で挨拶する。

「ごきげんよう。土曜日の戦いは見事だったわ」

菜々美は笑顔を見せないまま言った。その言葉に教室中がどよめく。菜々美が奈理子を褒めるとは珍しいことだった。

「ありがとう。菜々美さんが褒めてくれると嬉しいよ」

奈理子の自然な返事に、周囲の視線が集まる。

「もう、トンボの怪人は怖くないでしょ。空中戦には自信を持ちなさい」

菜々美は真っ直ぐな目で奈理子を見つめた。その言葉に奈理子は少し驚きながらも微笑みを浮かべた。

「トンボのスピードにはまだ付いていけなかったけど、自信はちょっと付いたかな」

奈理子は正直に答えた。しかし、すぐに表情を曇らせる。

「でも、アゲハ女には今でも勝てる気がしない…モンシロ女なら勝つ自信があるけど……」

「なんですって!!」

「どうして、菜々美さんが怒るの?」

突然声を荒げた菜々美に首を傾げる奈理子。

昨年の夏、アゲハ女との戦いで大敗して以来、奈理子の前に彼女は現れていない。それでも、あの戦いの記憶は奈理子の心に深く刻まれていた。

「アゲハ女のことは忘れなさい。トンボを倒したんだから、空中戦ではそう簡単にミラクルナイトは負けないはずよ」

菜々美は厳しい口調で告げると、そのまま教室を出て行った。

奈理子は俯いたまま、菜々美の背中を見送る。周囲の生徒たちはその様子を見て何かを言いたげだったが、結局誰も口を開かないままだった。

「菜々美さん、優しいね」

すみれがそっと奈理子に言った。その言葉に奈理子は顔を上げ、小さく微笑む。

「そうだね」

奈理子はそう答えたが、その胸には新たな決意が芽生えつつあった。


九頭の研究室。
机の上には、一冊のファイルが広げられていた。

「野宮奈理子、誕生日7月5日、16歳、水都女学院高校1年生、身長154cm、体重41kg、スリーサイズB72(Aカップ)W54H81…」

資料に目を通していた青年は、淡々と記された情報を目で追いながら、口元に不敵な笑みを浮かべた。

「スリーサイズは公表されたものだから、実際のところは分からないよ」

机の向こう側から、九頭が軽く口を挟む。

青年は資料から顔を上げ、冷笑を浮かべた。

「ようやく俺の番が回ってきたんだ。この手で直接、確認させてもらいますよ」

「エビカイコの護衛という名目だが、彼女は自分の身は自分で守れる力を持っている。好きなだけ、奈理子と遊んでくれ」

九頭の許可を得た青年の目が、ギラリと妖しく光る。

「先生から授かった蛾の力で、ミラクルナイトをたっぷりと可愛がってやりますよ」

「油断は禁物だ」

九頭は軽く指を立て、青年を制した。

「奈理子は実戦経験だけは豊富だ。特にトンボカマキリを倒した今、空中戦に対して、それなりの自信を持っているはず」

青年は鼻で笑う。

「トンボが空を支配する虫だと思っているなら、それは誤解ですよ。夜の空を支配するのは蛾。俺が奈理子にそれを教えてやる」

九頭は軽く肩をすくめると、話題を変えた。

「そういえば、ミラクルナイトのフィギュアが発売されるらしいね」

「は?」

青年が怪訝な顔をする。

「これが、スカートの中まで精密に再現された見事な出来でね、僕も予約したんだ。発売イベントに行きたいんだけど、残念ながら仕事を抜け出していくと社長に怒られそうでね」

九頭は満足そうに言う。

「ほう…面白い」

青年はファイルを閉じ、椅子から立ち上がった。

「その発売イベントとやらで、大勢の奈理子ファンの前で、直接奈理子を辱めることができるというわけですね」

九頭は静かに微笑み、青年の背を見送った。

「今回も、可愛い奈理子の姿を存分に楽しませてもらうよ」

水都の守護神、ミラクルナイト・野宮奈理子に新たな刺客が迫ろうとしていた——。


学校帰りの遊歩道。
夏休みで賑わう水都公園を、奈理子は菜々美と並んで歩いていた。菜々美とは家の方向は違うが、帰り際に菜々美に呼び止められ、繁華街に買い物に行く菜々美と途中まで一緒に帰ることになったのだ。

「アンタ、いつも市民にジロジロ見られながら歩いてるの?」

菜々美がうんざりした表情で問いかける。

水都の守護神ミラクルナイトとして戦い続ける奈理子は、市民の注目を浴びることが日常だった。それも、ヒロインとしての宿命。期待を裏切らないため、彼女はいつも可憐な笑顔を絶やさないように心掛けている。

「今日は菜々美さんと一緒だから特別だよ。菜々美さん、口は悪いけど、見た目は綺麗だもん」

奈理子が悪戯っぽく笑った、その瞬間——。

ズルッ!

「きゃっ!」

奈理子の足元が滑り、華奢な体が地面に崩れるように倒れた。

「おおっ!?」

「奈理子の制服パンチラ!」

「今日も奈理子のパンツはだ!」

ミラクルナイトの姿でのパンチラは見慣れている市民たちも、制服姿でのそれは滅多に拝めるものではない。歓喜の声が弾ける。

「こんなところにバナナの皮が…?」

しゃがみ込んでスカートを押さえながら、奈理子の視線が足元に落ちたバナナの皮を捉えた。

「ボーっとしてるから、バナナの皮なんかで滑るのよ」

菜々美が腕を組み、奈理子を見下ろして——

ズルッ!

「わっ!」

そのまま自分も足を滑らせ、派手に尻餅をついた。

「もう一人の女の子のパンツも白だ!」

「やっぱり水女には『パンツは白』の校則があるのか?!」

二度目の歓声が沸き起こる。

「な、なんで私がこんな目に……」

赤面する菜々美。
奈理子と違い、彼女はこういった“お約束”に耐性がない。

「お嬢さんたち、大丈夫ですか?」

低い声が響いた。

奈理子が見上げると、そこにはスーツ姿の男が立っていた。

「貴方は……」

奈理子は彼の顔を見て、記憶を手繰る。
先日のテレビ特番で司会を務めたお笑い芸人だ。

「アンタの仕業ね!」

菜々美が即座に男を睨みつける。菜々美はこの男の正体を知っていた。

「えっ?」

奈理子はキョトンとした。
菜々美の敵意とは裏腹に、彼女はこの男をただの芸人だと思っている。

「奈理子ちゃんだけじゃなく、菜々美お嬢様のパンツまで拝めるとは……今日はついてるなぁ」

男はニヤニヤと笑いながら、二人の太腿に視線を這わせる。

「私が誰だか分かってんの!パパに言いつけてやる!!」

菜々美が忌々しげに言い放つ。
彼女の父親は市会議員だ。その威光を使えば、この男を社会的に抹殺することも容易い。

だが、男はまるで動じる様子もなく、余裕たっぷりに言った。

「僕は何もしてませんよ。それより奈理子さん、フィギュアの発売イベント、楽しみですね。僕も予約しましたよ」

「えっ?あ、ありがとうございます……」

奈理子が戸惑いながら礼を述べると、男は満足げに頷き、その場を後にした。

「……あの男、怪しすぎるわ」

菜々美が深いため息をつく。

奈理子は、ただただ困惑するばかりだった。


水都タワー近くの家電量販店は、多くのファンでごった返していた。

ミラクルナイトフィギュアの完成を記念して、奈理子の握手会が行われるのだ。

「奈理子ちゃん、今日もよろしく!」

控室に入った奈理子に、馴染みのある声がかけられた。

「え?」

振り向いた奈理子の目の前には、あの司会者——先日のテレビ特番で彼女を散々弄んだお笑い芸人が立っていた。

「このイベントの司会は僕なんですよ!」

無邪気な笑顔で言われ、奈理子の胸に不安がよぎる。

「よ、よろしくお願いします……」

しかし、今さら逃げることもできない。
この場の奈理子は、まるで俎板の鯉。

イベントが始まった。

奈理子がステージに姿を現すと、ファンたちは歓喜の声を上げる。

「奈理子ちゃーん!」

「今日も可愛い!」

ステージ上でファンの熱気を感じ、緊張が走る奈理子。

だが、その中に見知った顔を見つけた。
水都大学奈理子私設ファンクラブ会長・成好の姿があったのだ。

目立たないように小さく手を振ると、成好も小さく頷いてくれる。

(少しホッとした……)

しかし、安堵も束の間だった。

イベントの目玉、ミラクルナイトフィギュアの紹介が始まる。

司会者のお笑い芸人が、ミラクルナイトのフィギュアを手に取る。

「皆さん、ご覧ください!このフィギュア、実に素晴らしい出来ですよ!」

凜々しい表情で右掌を突き出し、ミラクルシャインブラストを放とうとしているミラクルナイトの姿。

「そして、奈理子ちゃんといえば——」

そこで、司会者の声色が変わった。

「穢れのない清純な 純白のパンツ!!」

「!?」

奈理子の心臓が跳ねた。

「スカートの中をご覧ください!」

クルッ

司会者は、小型カメラでフィギュアを下から撮影を始めた。

大型スクリーンにフィギュアのスカートの中が映し出される。

「おおおおおおおお!!」

会場は興奮の渦に包まれた。

クロッチの縫い目はもちろん!お尻の食い込みから、はみ出たお尻、よじれたシワまで!!」

「奈理子ちゃんの 白いパンツ を完全に再現しております!!!」

ファンたちはさらに熱狂する。

「すげえ……」

「これは完璧だ……」

「神造形!!」

奈理子の頬が熱くなる。

(こんなの……恥ずかしい……)

ステージの上で、奈理子は俯くしかなかった。

「実物のミラクルナイトは、すぐにスカート脱がされてしまいますが……」

司会者が続ける。

フィギュアのスカートは脱げません!存分に奈理子ちゃんのパンチラをお楽しみください!!

「わあああああああ!!!」

割れんばかりの歓声が響く。

「さあ、奈理子ちゃんからもファンへ一言!」

奈理子は、震えるような小さな声で、しかし必死に笑顔を作りながら言った。

「……あの……フィギュアを……私だと思って……大事にしてください……」

ファンたちの熱狂は最高潮に達した。

(やっと終わる…あとはファンと握手をして気持ちよく帰ってもらうだけ……)

そう思った奈理子だったが——

彼女を辱めようとする魔の手が、確実に迫っていた。


家電量販店の特設ステージ。

ミラクルナイトのフィギュア発売イベントは、奈理子ファンで溢れ返っていた。

熱気に包まれる中、握手会が始まる。

今日の奈理子の衣装は、肩と背中を大きく露出したベアトップタイプのドレス。

輝く星々を織り込んだような光沢のある布地が、奈理子の清楚な美しさを際立たせていた。

「奈理子ちゃん、今日もよろしく!」

順番が回ってきたのは、ファンクラブ会長の成好だった。

「成好さん、ありがとうございます!」

奈理子は満面の笑みで、成好の手をギュッと握る。

「奈理子ちゃん、今日の衣装も最高に可愛いよ」

成好は、目の前の奈理子の胸元に視線を落とす。

(……やけに盛ってるな)

奈理子のスリーサイズは公表されているが、バスト72cmのAカップ のはずだった。

だが、今の彼女の胸元は……明らかに、ふっくらとしている。

(まぁ、奈理子ちゃんはをしても可愛いからいいか)

内心で苦笑しながら、

「また大学のイベントにも来てね」

と成好は言った。

奈理子は

「もちろん!」

と微笑むと、次のファンへと向かう。

——しかし、穏やかな時間は突然、打ち破られた。

「俺はガ男。このイベントを盛り上げるために来てやったぜ!」

突如、店内の天井から巨大な翅を持つ怪人 が舞い降りた。

「わああ!何だ?!」

ファンたちは一瞬、騒然となる。

しかし、すぐに——

「おぉぉ!?演出か!?」

「奈理子ちゃん、変身だ!」

「ミラクルナイトになってやっつけろ!」

敵であろうが、イベントの演出であろうが関係ない。

ファンにとっては “ミラクルナイトの生変身” が見られるまたとないチャンスだったのだ。

「皆さん、これは演出ではありません!早く逃げてください!!

奈理子が必死に叫ぶ。

しかし、ファンたちは逃げるどころか、興奮してカメラを構えている。

「奈理子は バスト72センチのAカップ ……と資料にはあったが」

ガ男が、ニヤリと奈理子の胸に目をやる。

「——ッ!」

触れてほしくない話題を突かれ、奈理子は慌てて腕で胸を隠した。

「変身だ!!」

ファンの誰かが叫ぶ。

奈理子は躊躇した。

変身途中の奈理子は、最も無防備になる——。

この怪人は、大人しく変身をさせてくれるのだろうか?

「安心しろ。変身中は攻撃しない。

ガ男がニヤリと笑いながら告げた。

「……信じていいのね?」

恐る恐る奈理子は、アイマスク を取り出す。

「おぉぉぉーーー!!ミラクルナイト変身だーーー!!!」

ファンたちは歓声を上げた。

奈理子がアイマスクを装着すると、水色の光 に包まれる。

——しかし、奈理子は思わぬ事態に直面する。

光の中で、ベアトップのフリフリドレスが消滅 する。

いつものように 下着姿 になるはずの奈理子。

しかし、今日は**“いつもと違った”**。

ドレスと一緒に、胸を盛っていたパッドも消えたのだ。

「……あぁぁ……」

奈理子の顔が一気に赤くなる。

(どうしよう……胸が……)

しかし、どうすることもできない。

光の中で、奈理子の髪を可愛らしく飾る白いリボン、そして白いブラウス が出現し、奈理子の小さな胸を優しく覆う。

続いて 水色のリボン が胸元に、グローブとブーツが手足に装着される。

そして最後に、白いショーツ をプリーツスカートが優しく包み込む。

——変身完了。

水都の平和を乱す者は、ミラクルナイトが許しません!!

ミラクルナイトが高らかに宣言する。

「奈理子!!いいものを見せてもらったぞーー!!」

胸が小さいほうが奈理子らしくて可愛いぞーー!!」

ファンたちの歓声が飛び交う。

思わず 両腕で胸を隠すミラクルナイト

そのとき——

奈理子ちゃん!僕たちは、ありのままの奈理子ちゃんが好きなんだ!!

ファンの中央から 成好の声 が響いた。

自分の小さい胸に自信を持つんだ!!

奈理子は ハッ とする。

ファンたちは——

自分の “ありのまま” を応援してくれている。

(……ありがとう、みんな……)

奈理子は落ち着きを取り戻し、ゆっくりと両腕を下ろした。

——しかし、戦いはこれからだ。

ミラクルナイトは周囲を見渡した。

ここは家電量販店。

このまま戦えば、ファンだけでなく、高価な家電製品も被害を受けてしまう。

損害賠償なんて請求されたら、たまったものじゃない……!

なんとかして——

ガ男を外に連れ出さなければならない。

「おいおい、どうした?さっきまでの威勢は」

ニヤつきながら、ガ男がミラクルナイトを見下ろす。

「ファンの前で負けたりはしない!私の本気の戦いは、これからよ!」

ミラクルナイトはガ男を睨みつけた——。

ミラクルナイトの苦難の戦いが、今始まる——。


店内は異様な空気に包まれていた。

ミラクルナイトとガ男の対峙。

ここは、大型家電量販店の7階。

奈理子の握手会が開かれていた特設イベントスペースは、今や戦場と化していた。

周囲には戦いを見守る 奈理子ファン が詰めかけ、壁際には商品が整然と並んでいる。

(ここで戦えば……大惨事になってしまう)

ミラクルナイトは慎重に周囲を見渡した。

窓はない。

エスカレーターや階段を使って外に誘導できれば……。

そう考えた瞬間——

「どうした、奈理子?偽乳がバレたことがそんなにショックだったのか?

ガ男の 嘲笑 が響く。

ミラクルナイトは ピクリ と反応するも、挑発には乗らなかった。

(冷静にならないと……)

そのときだった。

——ふわり。

周囲に、霧のような粉 が立ち込めていることに気付く。

「これは……!」

咄嗟に口元を手で覆うミラクルナイト。

やっと気付いたか。俺の鱗粉には、麻痺効果がある。

ガ男が ニヤリ と笑った。

「身体が痺れてきただろ?」

「……そんなこと……ああっ!!

突然、全身に電流が走るような 痺れ を感じた。

——力が、入らない。

奈理子は気付かない間に、たっぷりと俺の鱗粉を吸い込んでいたのさ。

ガ男がゆっくりと歩み寄る。

負けないわ……!

ミラクルナイトは必死に、痺れた身体を動かし 拳を突き出す。

しかし、パンチは ヘロヘロ とした力のないものだった。

「そんな攻撃、俺に当たるとでも?」

ガ男は余裕で 身をかわす。

そして——

「甘いな、奈理子!!」

ドガッ!!

ガ男の 強烈なボディブロー が、ミラクルナイトの腹部にめり込んだ。

「……あぅ……ッ!!」

ミラクルナイトの 呼吸が止まる。

視界が揺らぎ、足元がふわふわとした感覚に包まれ——

ガクリ。

気を失ったミラクルナイトは、そのまま崩れ落ちるかにみえたが、ガ男は彼女の身体を支えた。

「ふふ……たっぷりと ファンサービス させてやるよ。」

気絶したミラクルナイトの身体を抱き支えながら、ガ男はゆっくりと アイマスクを剥ぎ取る。

——ミラクルナイト、素顔を晒され完全敗北

大型テレビ売り場のモニターに、ミラクルナイトフィギュア完成イベントの映像が映し出される。

——そこに映るのは、ガ男に捕らえられた”敗北ヒロイン”ミラクルナイトの 無力な姿。

「うわぁ……これは……」

「やっぱりミラクルナイト、今日もやられちゃったか……」

店内にいた人々の間から ざわめき が広がる。

しかし、その映像を 冷静な表情 で見つめる 二人の姿 があった。

奈理子の 弟・隆 と、その幼馴染・寧々 だった。

「やはり……姉ちゃんのイベントを狙ってきたな。

隆が低く呟く。

「……やっぱりね。こうなるんじゃないかって思ってた。」

寧々も静かに応じた。

奈理子のイベントは、これまで何度も 怪人に狙われてきた。

だから——

今回も何か起こるのではないか。

そう思い、二人は 様子を伺っていたのだ。

「戦いに負けた奈理子さんの撮影会……いつもの光景ね」

寧々の視線が、モニターに映るミラクルナイトの姿に向く。

ガ男の腕の中で ぐったりとするミラクルナイト。アイマスクを外されているため奈理子の素顔がそのまま映し出されている。

しかし、姉ちゃんがやられることは想定内。

隆が 寧々に向き直る。

「……そうだな、寧々?」

「……うん。」

寧々は 静かに頷く。

——だが、彼女の心は 静かではなかった。

(奈理子さん……もっと戦えなかったの……?)

あまりにも あっけない敗北。

(……弱すぎる……!

だからこそ、今——

私が奈理子さんを助けなくちゃいけない。

寧々の 瞳に決意が宿る。

隆は、そんな寧々の表情を見て 満足そうに頷いた。

「寧々、今こそ ドリームキャンディの出番だ。

「……うん!」

寧々は 力強く 頷くと、駆け出した。

向かう先は 女子トイレ。

変身するためだ。

寧々が ドリームキャンディであることは、公にされていない。

——だから、誰にも見られないようにしなければならない。

寧々の 小さな背中 を見送りながら、隆は小さく呟いた。

「……防犯カメラに気をつけろよ。

そして——

今、新たな戦いが幕を開けようとしていた。


水都タワー近くの 家電量販店 7階

ここで行われていた ミラクルナイトフィギュア発売イベント は、いつしか 異様な光景 へと変貌していた。

ミラクルナイト——野宮奈理子は、ガ男 に敗北し、気を失ったまま 雛壇に立たされていた。

彼女の 手足はガ男によって自由に動かされ、 まるで 人形のように扱われている。

その 足元には、無数の奈理子ファンが群がり、カメラを構えていた。

「ガ男さん、フィギュアと同じポーズをお願いします!」

「おう、脚の角度はこれくらいか?

ガ男は、まるで 舞台裏のスタッフ かのように、奈理子の手足を調整する。

ファンたちは、すっかり 敵であるはずのガ男と打ち解けてしまっていた。

「……あれ?

遅れて駆けつけた ドリームキャンディ は、その 異様な光景 に目を疑った。

「今日の奈理子さん……スカートを脱がされていない……?

敗北後とは思えないほど、ミラクルナイトのコスチュームは乱れていない。

それどころか、彼女は まるで綺麗な人形のように、微動だにせず立ち尽くしていた。

(よかった……)

ドリームキャンディは一瞬、ホッとした。

——しかし、次の瞬間、異変に気付く。

貴方たち、奈理子さんのファンでしょ!? ガ男は奈理子さんの敵なのよ!!

怒りを露わにしたドリームキャンディが 奈理子ファンを睨みつける。

あっ、キャンディ!

ようやく 彼女の登場 に気づくファンたち。

しかし、ガ男は 嘲笑 を浮かべながら、のんびりと問いかける。

「やけに早い登場だな。お前はこの店内にいたのか?」

「そうよ!奈理子さんが腹パン一発で失神 するところまで、2階のテレビのモニターでしっかり見ていたわ!!

ドリームキャンディが 強く言い放つ。

その瞬間——

キャンディ、君は奈理子ちゃんが敗北する姿をただ黙って見ていたのか?

奈理子ファンクラブ会長 成好の声が響いた。

「……え?」

思わぬ言葉に 戸惑うドリームキャンディ。

キャンディが早く助けに来てくれれば、奈理子ちゃんは痛い目に遭わずに済んだんだ!

別の奈理子ファンが 厳しい口調 で責める。

「それは……奈理子さんのイベントだから、みんなは奈理子さんの活躍する姿を見たいと思って……

一息つくドリームキャンディ。

「……様子を見ていたのよ!」

言い切ると、無様に敗北したミラクルナイトへ対する怒りも込み上がってきた。

まさか腹パン一発で沈むとは思わなかったし!!

ドリームキャンディは ムキになって反論する。

——なぜ?

なぜ私は奈理子さんを助けに来たのに、奈理子ファンに責められなければならないの!?

「……どうでもいいわ!ガ男!今すぐ奈理子さんを離しなさい!!

ドリームキャンディは 開き直り、キャンディチェーンを構える。

しかし——

やめろ!奈理子ちゃんに当たる!

奈理子ちゃん、危ない!!

ファンたちの 制止の声。

その 一瞬の迷い が命取りだった。

「……えっ?」

次の瞬間——

ドリームキャンディの 足元が滑る。

——ズルッ!

「きゃあっ!!」

ドサッ!!

豪快に 尻餅をつくドリームキャンディ。

——バナナの皮。

「こんなところにバナナの皮が……!? まさか、バナナ男も……?

ドリームキャンディは 慌てて辺りを見回す。

だが——

「……いない。

バナナ男の 姿はどこにもなかった。

それでも、ドリームキャンディは 疑念を拭えない。

フフフ……奈理子ファンは俺の味方のようだな。

ガ男が低く笑う。

ドリームキャンディは、周囲の 空気の異変 に気付いた。

何か……おかしい……?

この 異様な空気 が、奈理子ファンたちの 神経を狂わせているのかもしれない。

「……私は、貴方に惑わされない。

ポケットから 小さなハッカ飴 を取り出し、口に入れる。

特製のハッカ飴——神経を冴えさせるためのアイテムだ。

ピリッとした 刺激 が、彼女の意識を覚醒させる。

ドリームキャンディは ゆっくりと立ち上がった。

「……奈理子さんは、私が必ず助け出す!

——パキンッ!

キャンディチェーンが 七色の光を放つ。

それは 次第に大きく膨らみ、 巨大なチュッパチャプスへと変化していく。

「ロリポップハンマー!!」

ドリームキャンディは ガ男を睨みつけ、 戦闘態勢 に入った。

「——さあ、ここからが本番よ!!」

ミラクルナイトを救うための 戦いが、いよいよ始まる——!


家電量販店 7階 ——。

奈理子フィギュア発売イベントが、突如として 戦場へと変貌 した。

「貴方が奈理子さんを 一撃で倒した ように……私も一撃で倒してやる!

ドリームキャンディは ロリポップハンマーを構える。

「ロリホップ凄い突き!!」

閃光のような速度で ガ男に肉薄。

ミラクルナイトを 盾にすれば攻撃できない と思っていたガ男にとっては 意外な一撃 だった。

「うわっ!」

ガ男は 咄嗟にミラクルナイトを放し、 天井へ跳躍する。

「奈理子さん!」

ドリームキャンディは素早く ミラクルナイトを確保した。

彼女の ミニスカートから覗く白い太腿が、会場の照明を受けて輝く。

それは、奈理子ファンを虜にする、完璧な美脚だった。

まさか……

ドリームキャンディは そっとミラクルナイトのスカートを捲った。

ちらりと見えたのは、 奈理子の純白ショーツ。

—— 無事だ。

(よかった……パンツも脱がされてない!

安心したのも束の間、ミラクルナイトの頬を往復ビンタ

「奈理子さん、しっかりして!!」

「んッ……キャンディ……?」

微かに 瞳を開くミラクルナイト。

「よかった!……これ、舐めていてください!」

ドリームキャンディは、特製のハッカ飴 を口に押し込んだ。

「んんッ!?……ふぁッ……」

口内を突き抜ける強烈なミントの刺激。

ミラクルナイトの意識が 鮮明になる。

「……私、また負けた……

ゆっくりと 状況を把握したミラクルナイトは、悲しげに目を伏せる。

ファンを守れなかった……

しかし、ドリームキャンディは 励ますように微笑んだ。

「奈理子さんのファンはね……失神しても 可愛い奈理子さん に喜んでましたよ?」

—— 勝っても負けても、ファンは喜んでくれる。

ミラクルナイトは、ファンの愛を噛みしめた。

「……ガ男は奈理子さんには荷が重い相手です。

「ここは 中学生戦士・ドリームキャンディ に任せてください!」

ドリームキャンディは 力強く立ち上がる。

「ガ男は 飛べるのよ? キャンディには……」

床に撓垂れるミラクルナイトが ドリームキャンディを見上げる。

ここは屋内です。 ガ男は天井付近で浮いていることしかできませんよ!」

ドリームキャンディは ガ男を指差した。

「なるほど……確かに、ここでは俺の能力は十分に発揮できないな……

ガ男が呟いた、その時だった。

「わぁ!!モフモフだー!」

「可愛いー!!!」

奈理子ファンの 歓声が響く。

「……?」

ミラクルナイトとドリームキャンディが 声の方へと振り向く。

そこにいたのは 白い毛並みと純白の翼を持つ、愛くるしい怪人。

「遅かったな。」

ガ男が 軽く呼びかける。

しかし、白い毛並みの怪人は 無視。

静かに、ゆっくりとミラクルナイトへ歩み寄る。

「また、新しい怪人……?」

ミラクルナイトが 警戒を強める。

しかし、その怪人は 静かに目を伏せ、口を開いた。

「私は エビカイコ。

「ミラクルナイト……玩具のように弄ばれた貴方には同情します。

エビカイコは、儚げに瞳を伏せた。

—— しかし、次の瞬間、彼女の声は冷徹な響きを帯びる。

だけど……私はエビカイコの能力を試すために来た。ミラクルナイト……私の挑戦を受けてください。

「能力を試すなら、奈理子さんよりも……

—— ドリームキャンディが、エビカイコの前へと立ち塞がる。

中学生戦士・ドリームキャンディが適任よ!!

戦いの火蓋が、再び切って落とされる——!


家電量販店 7階・イベント会場 ——。

「中学生戦士 ドリームキャンディ ……中学生でありながら、高校生のミラクルナイトよりも攻撃力は高いと資料には書かれていたわ。」

白い毛並みのエビカイコが、冷静に告げる。

「その通り!私は 中学生だけど、高校生の奈理子さんより 遥かに強い!

自信たっぷりにエビカイコを指差すドリームキャンディ。

—— しかし、彼女は 奈理子ファンの怒りを買ってしまった。

「中学生のクセに生意気だぞ!」

「今まで 何度も奈理子ちゃんに助けられてきた じゃないか!」

「キャンディに勝った パイナップル男クモゲンゴロウを倒したのは奈理子ちゃん だぞ!」

奈理子ファンが一斉に ドリームキャンディへ非難の声を浴びせる。

あぅ……

怯むドリームキャンディ。その肩に、ミラクルナイトが優しく手を添えた。

「……私は まだ戦える。

静かに、しかし力強く告げる。

「今日は 私のファンイベント。 負けたままでは、せっかく来てくれた 私のファンに申し訳ないわ。

ミラクルナイトは ドリームキャンディの前に出る。

「奈理子さん……」

改めてミラクルナイトを見たドリームキャンディ。

ノースリーブのブラウスと短いプリーツスカート。

二の腕と太腿を露出したそのコスチュームは、戦士としては弱々しく見える。

「私は、キャンディよりも弱い。だけど、正義のヒロインにとって一番大切なことは……

ミラクルナイトは一息つく。そして…

守るべき人たちに愛される可愛らしさ。

ミラクルナイトは、微笑みながら言った。

「私は、可愛らしさでは誰にも負けない。

ミラクルナイトが エビカイコを見据える。

彼女は 可愛らしさと強さを兼ね備えた強敵。

だが、ファンの前で負けるわけにはいかない!

「そうだ!可愛らしさでは奈理子ちゃんは誰にも負けない!」

「強敵に挑む決意の表情も 可愛いぞ、奈理子ちゃん!

「俺たちは もっと奈理子ちゃんの活躍が見たいんだ!

—— 盛り上がる奈理子ファン。

(……正義のヒロインにとって、一番大切なのは悪を打ち倒す力じゃないの??

ミラクルナイトの言葉に 疑問を感じながらも、会場の雰囲気を否定することはできない。

「そこまで言うなら……奈理子さん、頑張って……

ドリームキャンディが ミラクルナイトに譲る。

ミラクルナイト vs エビカイコ——。二人の戦いの幕が切って落とされた。

「えいっ!」

鋭いハイキック

スカートが捲れ、奈理子の白いショーツが露わになる。

「おおー!!」

「いいぞ、奈理子ちゃん!」

歓喜の奈理子ファン。

—— だが。

「えッ?なに?!」

ミラクルナイトの身体が 宙に浮く。

エビカイコの糸——《シルクバインド》に絡め取られたのだ!

「ミラクルナイトと戦うときは……約束事があるそうね。

エビカイコは 躊躇いながらも、スカートに手を伸ばす。

「……あぁ……」

—— 絶望の声。

抵抗する間もなく——。

ミラクルナイトのスカートが 剥ぎ取られる。

白いショーツのフロントに施された、可憐な花の刺繍が露わになった。

奈理子さん、今日もスカートを脱がされちゃった……

溜息をつくドリームキャンディ。

「今日のパンツも可愛いよ!」

歓喜する奈理子ファン。

「でかしたぞ、エビカイコ。これで ノルマ は果たしたな!」

ガ男が 労うように言った。

「……スカートを脱がすって、厳しい課題 だと思ったけど……」

エビカイコは 拍子抜けしたように呟く。

「こんなに簡単に達成できるとは……」

ガシッ!

「くっ……!」

ミラクルナイトは必死に シルクバインドから逃れようとする。

しかし、糸は強靭。

彼女の力では びくともしない!

「エビカイコ、トドメだ。

ガ男が 促す。

「……弱すぎる貴女が悪いのよ。

エビカイコは 冷たく言い放つと——。

ミラクルナイトをそのまま床に叩きつけた。

「ッ……!」

鈍い衝撃。

そして、ミラクルナイトの 意識は遠のいていく——。

—— ミラクルナイト、失神。

愛するファンの前で、本日2度目の敗北——。

(……本当に弱すぎる……。

—— 冷めた目で、ドリームキャンディは失神したミラクルナイトを一瞥する。

「……」

そして、次に 厳しい目でガ男とエビカイコを睨みつけた。

「奈理子さんの分も……私が戦う!

今度こそ、中学生戦士・ドリームキャンディの戦いが始まる——!!


ミラクルナイトは スカートを脱がされ、白いショーツ姿のまま床に横たわっていた。

意識を失い、無防備な奈理子の 太腿と白いショーツが、店内の照明を受けて淡く輝いている——。

それを撮影しようと、奈理子ファンたちは歓喜の声を上げながら群がっていた。

「奈理子ちゃん、今日も可愛いぞ!」

「寝顔まで天使……!」

「白いパンツが神々しい……!!」

ミラクルナイトの可憐な敗北姿に魅了されたファンたち——。

しかし、戦いはまだ終わらない。

奈理子ファンがミラクルナイトに夢中なことは、 ドリームキャンディにとっては好都合だった。

(これで 誰にも邪魔されずに 戦いに集中できる……!)

ガ男は 低い天井近くでホバリング。

エビカイコは ミラクルナイトの敗北をじっと見つめたまま。

この戦場は屋内——ガ男の飛翔能力は発揮できない。

エビカイコに至っては、脅威とは感じていなかった。

(蚕の糸を操るくらいでしょ。海老の能力を活かした水中戦が得意な怪人かもしれないけど、ここは水のない店内よ!

ドリームキャンディは ロリポップハンマーを握る手に力を込めた。

「ここで 2人まとめて倒す!

戦闘開始——!

「派手な大技、期待してるぜ?」

ガ男が 余裕の笑みを浮かべる。

「遠慮しないわよ!ロリホップ三弾突き!!

—— ギュン!!

ドリームキャンディが 超速の踏み込みとともに 拘束の三弾突きを繰り出す!

「くっ!」

ガ男は 跳躍しながら回避。

「遅い!」

ドリームキャンディは素早く反転し 横薙ぎに振り抜く!

「ぐぅッ!」

ガ男の身体が 吹き飛ばされ、天井に激突!

「ふ~ん……確かに、攻撃力はミラクルナイトより上のようね。

エビカイコが、 静かにドリームキャンディを見据える。

「でも……これで終わりと思わないことね!」

—— パシッ!パシッ!パシッ!!

エビカイコの白い毛皮が 銀色の輝きを放つと、無数の糸が宙を舞った。

「また シルクバインド !? そんな攻撃、奈理子さんには通用しても、私は食らわないわよ!」

ドリームキャンディは ロリポップハンマーで糸を叩き落とす!

「甘いわ。」

エビカイコの 糸は瞬時に絡みつき、ハンマーを拘束した!

「何!?」

—— ギュン!

さらに 糸が足に絡まり、ドリームキャンディは宙吊りに!

「しまった……!」

天井から吊るされ、身動きが取れない。

「キャンディ、君もやられちゃったのか!?」

ようやくミラクルナイトの撮影を終えた奈理子ファンが、ドリームキャンディのピンチに気づく。

「まあ……可愛い中学生さんも、ミラクルナイトと同じ運命ってわけね。」

エビカイコが、冷たく微笑む。

「ならば、ミラクルナイトのお約束を果たさなきゃね。

—— ガシッ!

エビカイコの手が ドリームキャンディのドレスの裾を掴む。

「きゃっ!? やめなさい!」

ドリームキャンディは 必死にもがくが、逆さ吊り状態では抵抗できない!

「ほら……綺麗に脱げるわよ?」

エビカイコが ドレスを引き下ろす。

「おぉー!!」

「キャンディのパンツは黄色だったか!」

「パンツじゃありませんっ!黄色いブルマです!!

「やっぱり、ミラクルナイトとお揃いじゃないのね!」

興奮する奈理子ファン——!

「エビカイコ……!」

ガ男が、 わずかに戸惑いの表情を浮かべた。

「そんな戦い方、お前の流儀じゃなかったんじゃないのか?」

「……!!」

エビカイコの瞳が、一瞬揺れた。

(私は……こんなことをするために、ここに来たんじゃない……)

エビカイコは、そっと ドレスを床に落とし、顔を伏せる。

「……ガ男、ここは退却しましょう。」

「は……? まさか、お前がこんなにあっさり引くとはな。」

ガ男は苦笑しながらも、エビカイコの判断を尊重した。

「ま、しょうがねえか。」

「ミラクルナイトを倒した時点で、目的は果たしてるもの。」

エビカイコは、ドリームキャンディに背を向ける。

「次は 水辺で戦いましょう。 その時こそ、本当の力を見せるわ。」

エビカイコの毛並みが ふわりと輝くと、彼女の姿はすうっと消えていった。

「へへ……この借りは、また次回ってことでな!」

ガ男も 天井から飛び去っていった。

「ふぅ……助かった……」

ドリームキャンディは 解けた糸から落下し、見事に着地!

「……んっ……?」

—— カメラのフラッシュが光る!

「今の着地、かっこよかったぞキャンディ!」

「ドレスが脱げてる姿も可愛いぞ!」

「え……?」

ドリームキャンディは 自分がドレスを履いていないことをようやく自覚した。タンクトップブルマーだけの姿だ。

「きゃっ!?」

顔を真っ赤にして、慌ててドレスを拾い履くドリームキャンディ。

「でもまあ……ミラクルナイトの撮影会を邪魔されずに済んでよかったな。

そんな奈理子ファンの呟きに、ドリームキャンディは心の中で 溜息をついた。

(……奈理子さんも大変ね。)

こうして、家電量販店 7階での戦いは幕を閉じた——。

第167話へつづく)

あとがき